神奈川県の「山の仲間 浮雲」の記録です


山行記録

足尾山塊・栗原川の沢旅(ケヤキ沢/十林班沢)

2016年10月8日〜9日



"ケヤキ沢大滝の整った美しさに、これを見るだけでもケヤキ沢遡行の価値があるように思えた”



 足尾山塊・栗原川流域は不思議な場所だ。広大な山域の周囲がぐるりと林道に囲まれている。 たいていの沢登りは入渓点までは林道を使い、ゴールは山稜である。 ここでは林道から沢に下り、沢の終わりは林道である。もちろん林道を通り越して山稜まで行ってよいのだが、 沢として興味ある箇所だけ歩くと、このようなスタイルになる。

 またこの山域は古くは足尾鉱山の用木供給の場所として、栗原川沿いには集落の址が残っている。 これは高桑信一著「古道巡礼」の中の「足尾根利山の索道」で紹介されている。 この流域を歩くものにとっては必読となっている。

 林道に囲まれ、古くから人が入っていたとなると、流域の自然度は低いと思ってしまう。 しかし足を踏み入れれば、この考えの間違いに気づく。 栗原川は広い河原の続く明るく開け、所々に幅広のナメ滝をかけている。 ただ栗原川が砥沢と不動沢とに分かれる前後は沢は複雑な湾曲を描き深いゴルジュの中にはいくつかの滝が連続する。 この箇所を迂回すればどちらかと言うといわゆる「癒し系」の沢である。 また本流だけでなく支流の沢の中にも遡行価値の高いものがある。 このような特徴は好みによっていろいろな計画が可能で、 この流域を知るには一度足を踏み入れただけでは不十分であるようだ。

 沢登りとして魅力ある流域でありながら、不思議と登山としての記録は少ない。 その中で2012年の治田さん(山岳会・山登魂)の記録「足尾/栗原川と支沢の継続の沢旅」以後、 記録が増えているように思える。アクセスも比較的よいので、今後は入渓者が一段と増えそうな気がする。

 今回は4人での山行だが、私を除く3名は昨年秋に入渓した経験があり、栗原川の魅力を知っていた。 彼らが再訪すると聞き、私も参加させてもらった。計画はケヤキ沢遡行〜ツバメ沢右俣下降〜ツバメ沢出合(泊) 〜ツバメ沢左俣遡行〜十林班沢下降〜本流下降で前回歩かなかった支流のトレースが主目的だった。

概念図

 今年は秋になっても夏のように暑い日が続いた。前夜は道の駅「白沢」に泊ったが、 やっと秋らしい涼しさを感じた夜だった。明るくなってから車を走らせた。 道は百名山・皇海山の登山口を示す案内板を追って行けば問題ない。狭いが路面は悪くない。 山の中の雰囲気になってすぐに車が3台停まっていた。そのすぐ先でゲートがあり閉ざされていた。 目的地はまだまだ先なので一瞬敗退の二文字が頭に浮かんだ。 落ち着いて現在地を確認すると、本流への下降点と考えている松ゾリ沢まで直線で2キロくらいの場所だった。 歩くしかないと覚悟を決めた。ただゲート前は駐車スペースがなく、 3台が停まっている場所より5分ほど下の路肩に無理やり駐車した。ちょうど送電線が横切っているあたりである。

 林道をしばらく歩くと後ろから車が来た。運転手に話を聞くと、ゲートが開けられたという。 ちょつとがっかりした。林道歩きは30分強程度と思ったが、40分ほど歩くと尾根の突端に赤テープがあり、 踏み跡があった。この尾根は松ゾリ沢の右岸尾根らしい。急だが林の中なので難なく下れる。 川が近づくと崖の上に出た。右手の草付きをトラバースすると傾斜が緩まり河原に降り立つことができた。 目の前には目指すケヤキ沢がナメとなって合流している。松ゾリ沢はすぐ上流の岩壁の裾で合流している。 穏かに流れる栗原川を渡渉してケヤキ沢出合で入渓の準備をした。 なお今回は終始沢を歩く計画なので、私はアプローチシューズを持って来ていないので駐車地点から沢靴だった。

 ケヤキ沢はいきなり3mほどの幅広のナメ滝で始まる。岩は褐色となっているので、 ヌメリの有無を確認すべく慎重に足を置いた。やや滑りはあるものの、岩の凹凸を利用して歩けば問題ないようだ。 その上で同じようなナメ滝があり、なおナメが続く。拾い物をしたような得した気分だった。 ナメが終わり、ゴーロを歩くとスリットゴルジュとなる。中にある傾斜の緩い滝を簡単に越えると、 その先はまたゴーロとなる。そして水量が目に見えて減った。 伏流しているのだが、ナメになっても水量が回復しなかったので、本流をはずしたのかと心配した。 二俣はなかったはずだ。しばらく歩くと水量が回復したので安心した。このゴーロは長かった。 そろそろ大滝に出会うはずが、谷は開けて滝なんてありそうもない地形が続く。飽きるころに前方に大滝が見えた。


 大滝は5段となっている。下部の4段は同じようなナメ状で高さも同じくらいで、 幅が上に行くに従って狭くなっている。そして最上段は板を立てかけたような直瀑。 高さはゆうに30mを越えるが50はないように見えた。 整った美しさに、これを見るだけでもケヤキ沢遡行の価値があるように思えた。 もちろん巻きで右岸にルートをとった。岩壁となっているが、 岩の真ん中にガレとなった凹角があり、最後がどうなっているかが解らないが、ここを試した。 一人Uさんが登り、上の状況聞くと行けそうとの返事だった。 上手い具合に右側にバンドがあり、これを辿ると落ち口を見下ろす位置に出た。 大滝の少し先で10mほどの直瀑があり、これも右岸を巻いた。

 やがて雨が落ちてきて雨具を着た。この2日間は前線の通過で雨が確実に降る予報だった。 それがここまで雨なしの予想外の天気に喜んでいた。雨はたいしたことはなく、林道に出る前に止んだ。 沢はまた開け歩き易いゴーロが続き、時々ナメが現れた。単調だが樹林が素直に延びて美しい。 何本かの支流を分けて水流は徐々に減ってきた。1070mの顕著な二俣は左右とも同じ姿のナメで合流している。 この二俣を左に入ると、同じような渓相が続いた。1290mの二俣は林道に早く出れる支流の右俣に入った。 すぐに水は涸れ、緩い尾根を辿ると林道だった。

 林道を30分も歩かないうちに、林道・ツバメ沢支線の分岐点に至った。 当初の計画ではここからツバメ沢右俣下降の予定だった。 しかし天気や予定外の林道歩きなどがあったことを理由に、 時間短縮ができそうなツバメ沢右俣左岸尾根を下ることにした。 この尾根は地形図からは下部は尾根の形が明瞭そうだが、出始めが高原状で方向が定めにくそうだった。 予想通りスタートは右往左往した。正しい尾根に乗ると踏み跡のような獣道のようなものがある下り易い尾根となった。 ツバメ沢に降り立つ少し前で、最後は急になるのを心配して左側の支沢に下りた。 この支沢は滝もなく、少し下ってツバメ沢本流に合流し、さらに200mから300mほどで砥沢本流に降り立った。 広々とした本流の下手右岸によいキャンプ適地があった。

 沢の泊まり場に対しての各自の好みは様々だと思う。 私の要求は、流木豊富な適度な広さの河原があり、目の前は瀬ではなく淵があり、 少々の雨でも心配ないテントの張れる台地かあり、その背後は大木もある樹林となっている地だ。 今回の場所は難を言えば背後の樹林がやや美しさに欠けるがほぼ要求を満たしている。 数分河原を下ると大膳ノ滝から続く悪場の最後の滝・2段10メートルの落ち口である。

 河原は誰かが焚火をして片付けが中途半端な状態になっていた。 燃え残した流木がたくさんあり、マキ集めは不要だった。 しかしマキは雨に濡れ、水分をたくさん含んでいた。こんなことを予想して、 ケヤキ沢出合で入渓の準備をした時間を利用して、乾いた焚きつけとなる小枝を一掴み集めてザックに入れておいた。 さほど時間もかからずに焚火は燃え上がった。大きな枝にそろそろ火が回るころに雨が落ちてきた。 急いでタープを焚火の上に張った。幸い雨はすぐに上がった。 夕食までの時間がたっぷりとあったので、余裕のある食事づくりができた。 5時半になると暗くなり、日帰りの山が続いているので、日暮れの早さに驚いた。 寝不足もあって6時には全員が寝てしまった。テントは4人用だが、 ひとり(Is)タープの下で寝たいというので、広々としたテントが快適だった。

 明るくなる直前にテントを出ると、なんと雨が降っている。タープに行くとまだ火がおきていない。 今朝用に昨日焚火で乾かした小枝をキープしていたので簡単に火は大きくなった。 雨は次第に強くなった。これでは出発する気になれない。すぐに小降りになるだろうと勝手な予想をして、 おきをつくり、ゆっくりと朝食の餅を焼いた。食事が終わるころには思惑通り雨は小降りとなり出発の準備をした。 昨夜の作戦より1時間遅れだった。計画を少し縮小して、テントを残して十林班沢遡行、昨日の尾根を下降。 テントを撤収して砥沢越から不動沢を横断して円覚址経由で栗原川右岸で林道に上がることにした。

 水量豊富で明るく広い砥沢本流を歩くのは気分がよい。すぐに3mほどの幅広のナメ滝だ。 その後も間をあけずに同じようなナメ滝が続いた。 両側ともスラブとなっていて、ヌメリでフリクションに自信が持てずに恐い。それに皆釜を持っている。 「昨年はどこを越えた」とルート経験者に問うと、「昨年は水が少なく簡単で記憶にまったく残っていない」と言う。 1箇所ヌメリが非常に強い傾斜の緩い滝があった。ここは釜からの中央突破しかない。 腰までの釜を越えて滝に取り付くがヌルヌルで上がれない。なんとか上がった先行者にお助けロープをもらう。 私はロープ操作が上手く行かずに泳がされてしまった。 壊れた堰堤を左岸の不安定なトラバースで堰堤の上に出ると広々とした河原になり、右手から十林班沢が合流していた。


 十林班沢は短く、標高差も300mもない沢である。この沢も出だしはナメ主体である。 特に顕著な滝はないが、堰堤のすぐ下が滝となっている箇所があり、不思議とそこだけが印象に残っている。 小滝をいくつか越えると1230mあたりで二俣になる。左の方が流程は長いが水量は右の方が多い。 ここは林道に近く、かつ下山ルートに近い右に入った。出合から1時間半もかからずに林道に出た。

 林道を歩いていると前方からの2台の車があった。少し会話したが、どちらも皇海山への登山者だった。 下山は昨日と同じケヤキ沢右俣左岸尾根にとった。昨日の経験でスムーズかと思ったが、 また尾根に入るまで右往左往してしまった。スタートで尾根をはずすと後が大変なので慎重さが必要だ。 今日は末端まで尾根を忠実に下りるつもりだった。 しかし最後で尾根をはずし、末端の少し手前のツバメ沢本流に下りてしまった。 私はすっかり末端に降り立ったと信じていたが、あたりを見渡すと二俣になっていないことに気づいた。 しかしわずかに下ると左から昨日下降した支沢が合流した。ここからキャンプまではわずかな距離である。

 キャンプ地では暖かい飲み物をとり、テントを撤収した。キャンプ地からは背後の尾根状を登った。 少し小枝がうるさい尾根だった。ヤブを抜けると疎林となり、やがて尾根を横切る踏み跡があった。 踏み跡は山腹をトラバースでP1105東のコルに出た。再び山を右に見るようにトラバースを続け、 尾根を砥沢側から不動沢側に廻りこむと、不動沢へ下りるジグザグ道となった。 最後は崖をフィクスロープに頼って河原に降り立った。円覚ノ滝の上だった。 不動沢を渡渉するのだが、水量は多くないが沢床がヌメっているので慎重に歩を進めた。 転倒して流されれば大滝をジャンプだ。

 不動沢を対岸に渡ると、崖にフィクスロープがかかっている。 ここから急な斜面を登ると円覚址の一角をなす索道中継点址に出る。足尾鉱山時代のなごりである。 林道までの標高差150mを最後の力を振り絞って登ると林道のカーブミラーを安堵の気持ちでとらえた。 しかしまだ終わりでない。長い林道歩き、それもゲート通過の時間の不運もあっての追加も歩かなければならない。
(記事:S)

8日 天気:くもり一時雨
ゲート7:15〜7:55下降点〜8:10ケヤキ沢出合〜9:55大滝下〜12:05林道〜12:30ツバメ沢支線〜ツバメ沢左岸尾根 〜13:40ツバメ沢〜14:00BC(ツバメ沢出合)

9日 天気:雨のちくもり
BC7:50〜9:00十林班沢出合〜10:30林道〜ツバメ沢左岸尾根〜12:00ツバメ沢〜12:10BC12:50〜 円覚址〜14:00林道〜15:35ゲート

メンバー:U、F、Is、S