神奈川県の「山の仲間 浮雲」の記録です


山行記録

谷川連峰・コマノカミノ頭

2015年3月7日



”ブナの疎林となった広い尾根を抜けると鋭く尖ったピークが行く手にそびえる”



 谷川連峰・蓬峠の少し北にある小ピークから西へ足拍子岳へと延びる尾根がある。 1400m前後のいくつかのピーク、すなわちシシゴヤノ頭、コマノカミノ頭、クロガネノ頭などがあるが、 荒沢山や足拍子岳を知っている登山者でもこれらのピークは知らない人が多いと思う。 そのうちのコマノカミノ頭への山行をHさんから誘われた。 実は前年に計画したが天候を理由に中止したことがあった。 そのために彼の思いを聞かないで二つ返事で行きましょうとなった。 このような山に興味を持ちそうな人に声をかけたところ、OさんとFさんが参加することになった。

 Hさんがこの山を知ったのはたまたま古い雑誌・岳人(2011年3月号)を買ったところ、 コマノカミノ頭の紹介記事があったという。 実はこの号の第1特集が「雪山技術特集」で私も雪洞利用の山行を書いていた。 第2特集が「3月のいいやま」でクロガネ沢左岸尾根からのコマノカミノ頭が紹介されている。 副題が「変化に富み展望もよい静寂尾根ルート」である。 山行後にHさんに興味を持った理由を聞くと、『静寂の尾根』という単語を挙げた。


 直前まで天気予報が悪く延期を検討していた。 新潟あたりは東西に長い高気圧に覆われるが、高気圧の山は東西に二つあり、 その間が弱い気圧の谷になるために雨という予報だった。 それが前日になって悪天候は北に偏った高気圧の縁にあたる南関東だけの予報に変わった。 一時は中止や延期も考えたが十分歩ける予報を信じて決行とした。

 前夜は赤城高原に泊まったが、赤木高原は弱い雨だった。 翌朝には雨も上がり、トンネルを抜けると暗い空に山も見える天気だった。 湯沢で高速を下りるころには明るくなり、道の両脇の雪の壁はやや高いという感じだった。

 土樽駅を通り過ぎ、JRの線路を通り越した広場に車をとめた。 暗いうちから運転したので時間が早いのか他に登山者の車はなかった。 気温はおそらく0度くらいで暖かいが雪は締まっている。 うっすらとしたスキーとスノーシューのトレースが残っていた。 ツボで歩き始めたが時々の踏み抜きが嫌でワカンにした。 正解だった。 思ったより早く檜又谷の出合に着いた。 かって今回のメンバーのFさんやOさんと登った武能岳西尾根の末端である。 あの時は蓬沢が開いていて渡渉に苦心したが、今ならどこでも渡れる雪量だ。 この少し先で開けた場所になり、右岸からクロガネ沢が合流する。 目指すクロガネ沢左岸尾根の末端である。 沢の奥には足拍子岳あたりと思われるピークが青空に浮かんでいた。 予想外の好天に皆喜んだ。

 クロガネ沢左岸尾根は末端から取り付くと、やや急な斜面が見えた。 沢は広く歩き易そうなので、標高で50mくらい沢をつめてから尾根に出た。 尾根は固い箇所もあるが、ワカンの爪で登れる。 最初は植林があるものの、すぐに自然林となり、次第にブナの疎林になる。 幅広い尾根にはブナの大木もあり気持ちよい斜面だ。 しかし雪に隠れた割目があり、落ち込むと頭が隠れるほどで自力での脱出は難しかった。


 標高を順調に稼ぎ、雪は次第に固くなったので早目にアイゼンに替えた。 すぐに尾根は細くなり、その先に鋭く尖ったピークが見えた。 このピークはコマノカミノ頭(1464m)の西側にある1430mのピークで、 このピークから南に派生している尾根を登っている。 あれを登るのかと思うと不安も浮かぶ。しかしたいてい近づくと問題は解決することが多い。 そう信じて高度を獲得して行った。

 ピークが近づくと風が強くなった。 ただ雪は斜面が急になると緩んで、足場が楽に刻める状態になった。 そのために高度感はあるが、安心感のある斜面だった。 Oさんがトップで足場を刻むが最後の登りで躊躇している。 もうほとんど登りきったと見える場所である。 私は一番後を登っていたので、状態を聞くために大声で叫ぶが風で声が届かない。 どうやらトップは最後のところで斜面の裏側に雪庇があるのではとの心配から踏み出せなかったようだ。 また登っても、風が強く狭い稜線に立つことや、その先の下りに自信がなかったようだ。 やっと声が通り状況を理解した。 ロープを出すにも確実な支点もとれないので、残念ながらここで引き返すことにした。 本当にあと1歩だった。 Oさんはこの尖ったピークを「キユーピーの頭の髪の毛をもっと尖らせた感じ」と表現した。


 少し下ると風は収まった。 しかし上越国境稜線は密雲に覆われている。 その反面苗場等の国境の北のに位置する山々はよく見えていた。 上から見るブナ林を抜けた尾根は美しく、ミニ白馬主稜を思わせる。 写真を撮りながら尾根を下り、ブナが出てきた斜面で雪上訓練をした。 私たちは訓練を目的としない山行でも時間があると雪上訓練をすることにしている。 今回は雪の支点をテーマにした。 まずスノー・ボラードでの懸垂下降。スノーバー、ピッケル、土嚢袋を使った支点の作り方や強度を確認した。 Oさんが先日救助のプロに教わった最新の氷河クレバスからの救出法も紹介してもらった。

 雪が重くなった尾根を雪に足をとられながら蓬沢に下ると、 行きにはなかったスキーやスノーシューやワカンの跡があった。 この山域には今日も何組かのパーティーがそれぞれの山を楽しんでいたのだろう。 しかし私たちは出発から終始誰にも会わなかった。 Hさんがこの山を選んだ理由『静寂』は裏切られなかった。 いつものように岩の湯に汗を流し、トンネルを抜けるとどんよりとした空が広がっていた。 残念な結果ながら、いろいろと恵まれた山だった。
(記事:S)


天気:はれのちくもり
土樽6:30〜7:30尾根取付〜10:15ピーク直下〜雪上訓練〜12:40尾根末端〜13:10土樽

メンバー:S、H、F、O