神奈川県の「山の仲間 浮雲」の記録です


山行記録

信越トレイル(牧峠から鍋倉山)

2014年5月3日〜4日



”ここを歩いてください、と言わんばかりのブナの回廊が続く”



 10年以上前のことだが、山の友人に鍋倉山のブナについて聞かれたことがある。 私はこの時まで鍋倉山という山を知らなかった。 友人は誰かに鍋倉山のブナを見る山行に誘われて、行く価値があるのか迷っての質問だったらしい。 その時はネットで概略を調べたが、低い山なので行くことはないだろうと思っていた。

 最近、ロングトレイルが静かな人気になっているようだ。 鍋倉山を中心とした関田山脈は信越トレイルという名でロングトレイルの中でも知られたルートとなった。 ネットでも鍋倉山のブナの美しさを発信した記事をよく目にするようになった。 そして一昨年の春に山スキーを誘われ、温井集落から鍋倉山を往復した。 小さな山だったが、ブナの疎林を行く尾根は登りも滑降も快適だった。 よい山域だが、なにしろ遠い。 しかし遠い故に旅の雰囲気を味わえる山域である。 まとまった日数がとれるGWには適した山域なのかもしれない。

 当初は稜線を3日間使って歩くつもりだった。 それが車の回収のことや、縦走もスキーも観光もとなって、またブナの巨木・森太郎にも会いたいで、 縦走は2日間で牧峠から鍋倉山、あとの1日をスキーと観光にあてた計画となった。


 牧峠へと登る車道の分岐付近に車を置いて畑の中の舗装道路を歩き始めた。 気温は高いが雲もあり、歩きやすい天候だった。 左手にはすぐにそれと解かる鍋倉山が見え、車道の先は亡羊とした山並みでどこが牧峠かは見当がつかない。 30分も歩くと車道は雪に消え、また30分歩くと畑は終わりブナ林の中を行くようになった。 車道だが人工物は雪に埋まり、歩き易い自然の道と化している。 新緑には少し早いが雪の中にコブシの白い花が咲いていたりする。 歩き始めは少し汗ばんだが、やや風が出て涼しく感じるようになったと思ったら牧峠だった。 峠の新潟県側は舗装面で出ていて、峠からは5mほどの雪壁となっていた。

 峠から稜線歩きとなる。 少しアイゼン無しで登ったが、この先の急斜面を考えて斜面の途中でアイゼンを出した。 すぐに所々割れ目のできた急な雪壁となり、早目にアイゼンをつけてよかったと思った。 急斜面を登りきると、ちょっとした雪稜を歩くようになった。 雪稜が終わると稜線は広々とした尾根と言うより雪原のようになる。 このあたりが1120mのピークで景色がよいので荷を置いた。 すると遠くからエンジン音が聞こえ、数台のスノーモービルが現れた。 音とガソリン臭を置いて、すぐに消えた。 ちょっと場違いに感じたが、ここは里山に毛が生えたような山なので受け入れるしかない。

 梨平峠は峠らしくない峠だった。 峠を示す標識がなければ気がつかずに通り過ぎるような場所だった。 計画ではこのあたりでテント泊のつもりだったが、時間が早いので関田峠まで行くことにした。 距離はあるがアップダウンは少なく、雪も踏み抜きなどまったくないほど締まっているので歩き易い。 地図での計画では尾根の続き具合の見極めが難しいかとも思ったが、 視界もよく歩行中に地図での確認の必要性が低い稜線歩きが続いた。 しかし関田峠の直前は少し判断に迷い、磁石で方向を定めて歩いた。

 関田峠はいかにも峠らしい峠で風がややあった。 長野県側は峠の下が雪庇のある雪壁となっていて、この斜面を下ると平地が広がっている。 ここは地図では湿地となっているが、 今は木のまったくない稜線に沿った東西200mほどの細長い雪原となっていて、 周囲は形の整ったブナ林が並んでいて美しい景観を作っている。 風を避けて林を背後にした場所にテントを張った。 今までは晴れていたが、薄い霧がたちこめるようになり、時々小雨が降る天気となった。 しかし時間はまだ早いので、時間つぶしにイグルーを作ることにした。 今回はこんなこともあるかと、ノコギリを用意していた。 泊まるつもりはないイグルーなので小さめにした。 二人で休まずに作業して1時間10分で完成。隙間がありすぎだが、なんとか形はできた。

 昨夜は暖かかったが、未明に天候が回復し気温が急激に下がった。 雪は凍り、溶けて隙間が開いたイグルーに乗ってもびくともしなかった。 朝日が進行方向のブナ林を照らして美しかった。 適当に西に向かうと、すぐに顕著な雪稜になった。 黒倉山の右手には妙高と火打が望める。 細い雪稜は登るに従って幅を増し、雪原状になると黒倉山の山頂だった。 ここで鍋倉方面から降りてくる単独の人とすれ違った。 そしてわずかな時間で鍋倉山山頂に立った。 2年前に来た時は丸い無流木の山頂は眺めが素晴らしかったが、今は低い木が現れて眺望を妨げている。 それでも歩いてきた牧峠方面の亡羊とした山並みがなつかしい。眼下の千曲川の眺めもよい。


 山頂で会ったスキーヤーの滑りを追うように温井集落への尾根を下った。 この尾根はブナが素晴らしい。 緩やかな尾根の両側に並木のように大きなブナが並んでいる。 まさにここを歩いて、と言うようなブナの回廊だ。 森太郎を見るために、少し早めに尾根を離れて巨木の谷に呼ばれる谷へと下った。 足場が崩れて歩きにくい急な斜面を下ると周囲の木より数段大きな木が見えた。 近づくと瘤だらけの幹が年代を感じさせる。古武士然とした姿はまさに森太郎である。 実は前回もこの木を見たが、雪で埋まって瘤の部分が隠れて、森太郎かどうか半信半疑だった。 今回はブナの根明けで根元まで雪が消えていたので、鑑賞にはよい時期だった。

 森太郎は林野庁が定めた「森の巨人・100選」に選ばれている巨木である。 林野庁のサイトでは幹周は534cm、樹高は25mとなっている。 樹齢は書いていないが、一説では400年とされているが、これは怪しい。 一般にブナは300年も経つと腐り出すようだ。 そのために正確な樹齢は測れず、測定された最高齢は346年と書かれた資料もあった。 この近くにある森姫と呼ばれたブナの巨木は少し前に枯れてしまったし、 森太郎も人が入れるような大きな洞がある。

 Nさんはここに来るまではブナの巨木にさほどの興味はなかったらしい。 ところがこの巨木には感動したらしい。不思議な魅力を持つ巨木である。 去りがたい様子のNさんを促して左手の尾根へとトラバースぎみに下った。 尾根に出ると除雪された車道が見えた。 尾根はまだ雪に覆われているが、ところどころにコブシが咲いているし、弱々しい新緑の木も現れてきた。 乾いた車道を歩いて温井の集落に降りると桜があちこちで咲いていた。
(記事:S)


3日 天気:はれのちくもり
農道入口8:50〜10:45牧峠〜11:45小ピーク1120m〜12:30梨平峠〜13:40関田峠TS

4日 天気:はれ
TS6:50〜7:45黒倉山〜8:05鍋倉山8:30〜8:55森太郎〜9:40池〜10:25温井

メンバー:S、N