神奈川県の山の仲間 浮雲の記録です


山行記録

奥利根・楢俣川ヘイズル沢

2011年8月6日〜7日



”3段30m滝の幅広くゆったりと流れ落ちる様は見る者を飽きさせない”


 沢を志す者にとって奧利根の沢は特別な存在ではないだろうか。 私にとっても以前からの憧れの的であり、懸案であった。しかしながら、渓は深く、険しい。ツメた山には登山道のない山も多い。 従って遡行には相応の日数と技術と覚悟を要する。

 そんな中で楢俣川流域は比較的短い行程で行けるエリアであろう。 その本流は長いが、いくつもの支流をかけ、中には短い行程で行けるものもある。

 今回、このエリア初挑戦ということで手始めに選んだ沢がヘイズル沢である。 特に予備知識はなかったが、その変わった名称と稜線にスッキリと出れそうな感じがお手頃に感じられた。 沢は途中いくつかに分岐していくが、今回はあまり記録をみなかった左俣右沢とした。 2日間の行程であれば余裕を持って遡行できそうだ。 メンバーは当グループからFさん、雪童の山の会からSさんという強力な助っ人を得ての実現となった。



8月6日 天気:くもり
林道ゲート7:25 〜 9:30ヘイズル沢出合9:50 〜 二俣12:20 〜 2つ目堰堤上(幕場)15:30

 前夜、横浜をたち、水上の道の駅で仮眠。夜半に雨がぱらついたが、朝起きるとやや曇りがちであったが、天気はよさそうだ。 このところ午後になると天候が不安定となり、急な雨が多い。 少なくとも午前中は大丈夫だろうとの判断のもと、登山口となるならまた湖畔の林道ゲートまで車を走らせる。 以前は奧にあるゲートまで車で入れたようだが、今はその手前にあるゲートまで。 ゲート前の開けた道路には数台の車が止まっていた。

 装備を確認し、ゲートを越えいざ出発。歩き出すといきなり林道に流れ出た土砂が道いっぱいに広がっている。ぬかるみの中を進むとアスファルト一枚を残し、その下が大きくえぐられているではないか。ここは路肩を迂回する。土砂崩れがひどいなと思いながら進むが、これはまだ序の口であった。 2つ目のゲートを越えると林道は分岐する。我々はバックウォーターを目指し左に入る。

 この先、林道は随所に土砂崩れがあって、道が土砂に埋もれている箇所が続く。この様子では当分の間、この道は車での通過は不可能であろう。自然の力は恐ろしいものである。バックウォーター沿いの道に入ると、幾分涼しく感じられる。やがてバックウォーターも徐々に狭まり、沢の様相となってきた。本流はやはり水量が多い。本流沿いの林道を歩いていると突然、目の前の道路が崩れ落ちていた。 ここは一旦斜面をおりて崩れたガレ場を横切り、また斜面を這い上がって通過。

  林道歩きに飽きてきた頃、ようやく大きな支流に出合った。ヘイズル沢である。歩き始めてから約2時間。暑い時期はこれぐらいが限界であろう。 橋の手前の左から一旦本流に下り、沢支度する。釣り師であろうか。目の前にタープが張ってあった。

 ヘイズル沢に入ってもなかなか水量である。荒れているのではという心配もあったが、そんなこともなく、水もきれいだ。日差しが水面に反射し眩しい。歩き始めてすぐにゴルジュが出迎えてくれる。ここは水線際にあるバンドを利用しながら突破する。このヘツリ(へずる)が、ヘイズル沢の語源になっているらしい。ゴルジュの先にある3mほどの滝を、シャワーを浴びながら越す。そこから小滝や釜、ナメが次々と現れる。ゴルジュもあるが、暗い感じはなく、全体的に開けた明るい渓相である。へつったり、深い釜からシャワーで滝を登ったりと思い思いの楽しみ方で遡行する。やがて、目の前に3段の滝が姿を現す。段になってゆったり流れ落ちる様は見る者を飽きさせない。ここは右から簡単に登れる。中段の平らなところで小休止。滝を真横から眺められ、とても気持ちのよい場所である。さらにスケール感のある3段の滝が後に続く。メンバーの1人が1段目の直登を試みるも、傾斜がきつく、滑り落ちて敢え無く敗退。ここは右から登れる。その後は、また小滝とナメが続く。深い釜をもつ滝は際どいバランスでヘツれるが、ここは泳いでシャワーで登った方が楽しいところだ。続く滝は、直登は難しそうだ。ここは巻き道をたどる。再び小滝と釜が続く。ゴルジュを超えると、今度は15mの滝が行く手をふさぐ。直登は諦め、少し戻って巻き道を使う。このあとも幅の広い美しいナメ状の滝が続き、やがて二俣に到着する。 二俣まで2時間半。美しい渓に魅了されながらの遡行であった。


 二俣から左俣に入る。右俣は5mくらいの滝をかけ、やや暗い感じするが、左俣は、明るいナメ滝が出迎えてくれる。すぐにまた二俣になる。一見すると左は大きな滝をかけており、魅力的であったが、ここは計画通り右沢に入る。記録によると、ヘイズル沢がいいのは二俣まででその先は平凡との記述が多い。確かにこれまでと渓相は違ってくる。倒木も増え、やや荒れた感じがする。とはいえ、感じのいい釜やミニゴルジュ、快適に直登できる滝が適度に現れ、結構楽しめる。 このあたりから稜線がちらちら見え始めるが、まだ遠そうだ。

 明日の行動を考え、今日の幕場は最低でも1500m以上と決めていた。地形図上では分からないが、この先3つの堰堤があるらしい。1つ目の堰堤を超えた時点で、幕場を探しながら遡行することにした。しかしながら適地はなかなかない。疲れが出てきたが、前に進むことにする。2つ目の堰堤辺りでと思いながら進む。幸いにも堰堤上に平坦なところがあった。石が多く、快適とは言い難いが、この先も期待できないので、ここを幕場とした。見落としたかもしれないが、後にも先にも、これといった幕場はなかったように思う。沢床からそんなに高くないため急な増水には不安があったが、両側はそんなに立ってないので、いざという時は逃げられると判断。 時折稜線上にガスがかかることはあっても、朝まで雨に降られずに済んだ。

 幕場が決まればあと焚き火である。この付近には薪があまりなかったが、3人が一晩楽しむのに必要な薪はなんとか確保できた。当グループの焚き火マスターから直伝を受けたFさんが一発で火をおこし、火を囲んでのささやか宴会が始まる。今シーズンなかなか泊まりの沢にいけなかった私にとっては久しぶりの焚き火である。 山々に囲まれ、沢のせせらぎを聞きながらの焚き火はやはりいいものである。


8月7日 天気:くもり
幕場6:20 〜 奥の二俣7:00 〜8:30稜線(登山道)9:00 〜林道ゲート13:20

 朝、ちょっと寝過ごして予定より若干遅れての出発となった。やや雲が多いが、天気はまずまずである。 ここから傾斜がきつくなるが、悪いところもなく、順調に高度を上げていく。3つ目の堰堤を越え、奧の二俣に到着。 ここは計画通り右にルートをとる。水量がぐっと減り、いよいよ源頭の様相となる。徐々に灌木帯に入っていく。 途中、Sさんから左側にももう一本枝沢があるとの指摘を受けるが、このまま水量を多い方を忠実にいく方針とした。

 水流がなくなると、ブッシュが濃くなり、背丈ほどのヤブコギとなった。たまらず、辺りを見回して進路を検討することに。よく見ると、左側はガレ場になっていて、ブッシュは少ないようだ。左にトラバースしながら進路を修正する。所々に現れる岩場をうまく拾いながら進むとブッシュの少ないハイマツ帯に入る。この辺りは高山植物が多いので、できるだけ踏まないように気を使う。やがて、登山道にあるロープが目に入り、登山道が近いことが分かる。最後は岩場の間を縫うようにトラバースして、登山道に出る。 Sさんから指摘を受けた時点から左の枝沢に入っていたら、もう少し楽に早く稜線まで出ることができたかもしれない。いずれにしても、まずは一安心。

 沢道具を片付け、ハイカーとなり下山を開始する。小至仏山の肩あたりであろうか。 先はまだ長い。しばらくは稜線歩き。途中、燧ケ岳や尾瀬ヶ原がきれいに見える。 鳩待峠から登ってくる登山者も多い。湯ノ小屋への登山道に入ると登山者はぐっと減り、静かな稜線歩きとなる。 笠ヶ岳分岐あたりまでは花も多く気持ちのいい尾根が続く。 分岐あたりでガスがかかり、雨になるかなと思ったが、少しパラついた程度で降られずに済んだ。 この付近には湿地帯もあり尾瀬らしさを感じさせる。

 避難小屋から先、高度を大きく下げていくことになるが、下るにつれて気温が上がってきて暑くなる。 一旦林道に入るが途中からまた登山道に入る。このあたりアップダウンが多く疲れた体にはしんどかった。 登山道から再度林道に出たところが、行きに通った奧のゲートがあるところである。 暑い中林道を歩き、ようやく車のあるゲートにたどり着いた。


 ヘイズル沢はとても易しい沢である。優しいといった方が合っているかもしれない。 とにかく純粋に水と戯れる渓である。従って、遡行において困難な滝の登攀やゴルジュの突破のようなものはない。 その意味では物足りなさを感じなくもないが、それでも面白いと感じられるのは、これもまた沢の魅力の一つであるからに違いない。 この沢の奧には本流を始め、数多く支流がある。中には困難な沢もあるようで期待は大きい。 いつかまた来てみたいエリアである。
(U記)

メンバー:U、F(浮雲)、S(雪童山の会)



注意とお詫び
 この記録は雑誌・岳人782号(2012年8月号)の『登れいい山』で紹介しました。 この記事に添付した遡行図において一部誤りがございました。 2箇所の二股の標高を1280m及び1300mとしてありますが、正しくはそれぞれ1180m、1200mが正しい標高です。 岳人掲載の溯行図を見られて溯行された方で、現在地確認に無用の混乱を与えてしまった方がおられましたら、 ここに深くお詫び申し上げます。また、今後、ヘイズル沢への入渓を予定される方で、この溯行図等を参考にされる場合は、呉々もご留意いただきますようお願いいたします。このような誤った情報発信は、本来あってはならないことです。 今後このようなことが起きない万全の注意を払うよう心掛けます。