天使さん
天界の介護保険法に基づ
いて、死にゆく人と契約を
交わしそのタマシイをゲット
するのがお仕事のエヴィル
サーバント。
でも仕事のためなら自分が
形而上的な存在たることを
なげうって、唯物論もどんと
来いな肝っ玉ねえさん♡
現在、植木不等式の臨終
を担当中。
根は腐女史らしい。
植木不等式
死にぞこないの会社員(次
長待遇)。体重0.1トン。
根は科学オタクなのだが、
「スピリチュアルな世界なん
てウソや〜!」というツッコ
ミ心に秋風が吹くお年頃♪
そんなココロを天使につけこ
まれて、タマシイを持ってか
れそう。自慢はヒューマン
離れした中性脂肪値。
ドミトリ爺さん
お伽の国ロシアの夢のお
橇が断りもなしに運んで
きた偉いお爺さん。
「ウオッカの品格」を定めた
り元素の周期性を見いだし
たり、ついでに心霊ブーム
をとっちめようとして自分が
“超常現象”を演じて大騒ぎ
になったりしたスピリチュア
ル界のドリフターズ、という
か荒井注。
詳しくは本編をどうぞ。
前回の「余聞」へ。
テーマは「欧州と米
国を電信線で結んだ
スピリチュアリスト」
トップページへ。
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天使●「というわけでもう7月ね。本編で書ききれなかったスピリチュアル話をあれこれ拾うこの『余談』も第2回……って、何バタバタしてんのよ、でぶちんが鬱陶しい」
植木●「いや夏場はあれこれ忙しくてですね」
天使●「どうせコミケの準備か何かでしょ」
植木●「本業も出張が多かったりして、ぶー」
天使●「せいぜい働いてるフリでもしないとクビになるわよ」
植木●「へいへい。でも天使さん、何となく羽がツヤツヤしてるしメークも心なしか気合い入ってる感じ……お、ひょっとしてデート?」
天使●「何言ってんのよ、あなたそれでもサイエンスライター?」
植木●「と申しますと」
天使●「今日2008年7月1日は大事な記念日じゃないの」
植木●「んー、タスポがないと自販機で煙草が買えなくなった日。ガソリンの値段がまたまた上がった日。ついでに私の場合、閉店時刻間際のスーパーに駆け込んで鰹の刺身用サクを何とひとつ230円で買えてちょっとハッピーな日、もぐもぐ」
天使●「人間の暮らしも大変ね、あなたも早くクタバって、私にタマシイ明け渡せばいいのに。永遠の無とは永遠の無憂よ、うふ♪」
植木●「何がうふ♪なんだか。ところで記念日とおっしゃいますと?」
天使●「今をさかのぼる丁度150年前の1858年7月1日、はるか泰西ロンドンはピカデリーに、リンネ協会というのがありました」
植木●「今でもありますって、分類学の父カール・リンネの名を戴いた生物学系の学術団体でしょ。去年は天皇陛下がそこで記念講演なさってました」
天使●「でね、150年前のこの日、そこで地味だけどスゴい事があったの」
植木●「鰹の特売?」
天使●「リンネ協会が閉店間際のお刺身半額セールなんてしないわよ!」
植木●「あの国だと魚はすべてジャガイモと一緒にフライにしちゃいそうですしねえ」
天使●「採集した生物標本を揚げ物にしたら面白いけどね、フィッシュ&チップス先生さようなら……じゃなくて、その日に開かれた集会で、当時をそして今をときめく2人の学者の原稿と手紙が読み上げられたの。それは、科学史上の超ビッグなアイデアが初めて世間に公表された日だった。その後の世界を変えるレベルのね♡」
植木●「萌え声で言われても困りますが、その2人って、ひょっとして……」
天使●「チャールズ・ダーウィン(1809〜1882)とアルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823〜1913)。今日は彼らの着想した『進化論』が世に現れて150年目のハタ日なのよ」
***
植木●「ダーウィンはガラパゴス諸島をはじめとする南米の探検航海で、ウォレスはアマゾンや現在のインドネシアなどでの研究旅行で、それぞれ同じアイデアにたどり着いた。すなわち、生物はホンの少しでも生存と繁殖に適したものが生き残り、子孫を残し、そしてそうした有利な個体が『選択』されることを通じて変化していく」
天使●「生物が選択を通じて変化していく存在だ、というこの『進化論』の基本的な考え方は、自然科学の世界だけでなく社会的なインパクトを発揮していく。何しろ生物は神様が造ったオリジナルな被造物のままではなく、要するにヒトの“製造元”も神様じゃなくて自然法則じゃないか、という事を含意しているのだから」
植木●「アメリカのようにキリスト教の聖書に忠実な敬虔な人々が多い国では、今もいろいろモメてますねえ。ルイジアナ州ではこのほど、進化論とは違う説を学校で教える事を認めた法案が州上院・下院で可決されて、6月25日に州知事が同意のサインをして成立しました。ルイジアナの『反進化論法』などと呼ばれてます」
天使●「思うんだけど、学校で“正しい”事を教えたらみんなが“正しい”考えで育って、それで世の中オッケーってのは、いわば優等生の考え方よね。先生の言う事を疑って、乗り越えて、人間は新しい考えを、ひいては新しい『自分』を勝ち得ていく。そうしたダイナミズムがなくちゃ人間に進歩はないわよねえ……あ、とすると『反進化論法』は、神様が科学的なマインドをもつ子供たちにお与えになった乗り越えるべき艱難辛苦なのかしら」
植木●「おっしゃっていることが旧約聖書に登場するヨブさんも困るほど矛盾してる気もしますが、ところで進化論記念日とスピリチュアルとは、何か関係あるの? ウォレスが死後にも霊魂は存続するとする近代心霊主義(モダン・スピリチュアリズム)の信奉者だったことは有名ですが」
Alfred Russel Wallace (left) and Charles Darwin.
From Wikipedia, the free encyclopedia
天使●「ここからの話は、まあ天使の余談として聞いてちょうだいね。少し悲しい話でもあるから……ウォレスが結婚したのは、彼が調査旅行から帰ってのちの1866年。当時もう彼は43歳だったけど、知り合った薬剤師で植物学者の人の娘さんにホレたの。彼女はウォレスとゴールインした時、まだ20歳だったそうよ」
植木●「犯罪的な年の差じゃん! ウォレスへのナチュラルな好意がかなり淘汰されました」
天使●「ひがむなよ爺さん、ちなみにノーベル物理学賞を取った楊振寧が82歳の時に再婚した相手は28歳よ」
植木●「ひえ〜、犯罪的を超えて対称性の破れかぶれというか」
天使●「理系がモテないなんて決めつけはウソね。すべては努力と幸運次第。それはともかく、ウォレス夫妻の間には翌1867年、男の子が生まれました。ハーバート・スペンサー・ウォレス、愛称バーティ。年がいってからの初めての子だったから、パパ・ウォレスは溺愛したそうなの。すでに写真術が普及していた時代よ。親子の睦まじい、と言うか親バカな顔が丸出しのツーショットも残っているわ。これは、しかし束の間の安らぎの日々だった」
植木●「やだよう、天使さんの言葉に無茶苦茶不吉なフラグが立ってるよう」
天使●「1874年、バーティちゃんは病気でこの世を去る。まだ6歳で、あどけない子供のままで。ウォレスさんは芯の強い男性だったけど、ひどく打ちのめされた。そして……」
バーティの死を嘆き悲しんでいるウォレスは、霊魂が生きつづけると信じることによって
慰められた。それは彼の心に強さと平穏をあたえ、それは終生失われなかった。
(ピーター・レイビー『博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスの生涯』長澤純夫・大曾
根静香訳、新思索社、2007)
植木●「え、とすると、ウォレスのスピリチュアリズムへの傾倒は、幼い息子さんの死が原動力だった……」
天使●「正確には、彼はさらに以前から、当時ブームだった降霊会などを通じて、死後霊魂の存続とそうした存在とのコミュニケーションが可能であることを信じていた。愛息の死が、彼をスピリチュアルな世界に引き寄せた原因ではないわ。でも、それは彼の確信を深めたかもしれない……ウォレス夫妻は知り合いの霊媒を通じて、バーティの“あの世”での消息を訊ねたりしている」
植木●「本編で天使さんは、ウォレスが死後の霊魂存続を信じながら、しかし輪廻転生は信じていなかった、という話に触れてましたよね。それは、彼のバーティに対する思いのなせるわざなんでしょうか。バーティはバーティ、かけがえのない、他者になど換えることも甦ることもできない、無二の息子……」
天使●「同時に彼は、死後生存説が社会に倫理的な規範をもたらす原動力にもなると信じてたわね。現世だけが人生なら、後は野となれ山となれ。この世で好き放題に生きるぜ、という投げやりな人生観を助長するかもしれない、と」
植木●「そう信ずるだけでなくて、土地制度改革など社会問題にも熱心に取り組んだんですよね。だけれども……」
天使●「彼のスピリチュアリズムへの傾倒は、科学者としての名声にマイナスとなった。彼の主張は困惑を呼び、さらには嘲笑を招いた。ダーウィンのように有名でないのはそのせいだ、という人もいる。私はね、でもこういう人が好きよ。たとえ愚直に見えても、信念を曲げない人はね」
植木●「けれど、もしもバーティの死がなかったら、ひょっとして彼はダーウィンと同じくらいの名声を」
天使●「ホッホッホー。『もしも』をつければ、どんなストーリーでも語れるわ。それは単なる可能性の話。ウォレスは自分の進化論を心霊主義によってねじ曲げただけでなく、理論をさらに深め補強する継続的な仕事にダーウィンほど取り組まなかったという指摘もある。加えて言うけど、それだけじゃないわ」
植木●「何でしょう」
天使●「ダーウィンも同じような経験をしている」
植木●「え?」
天使●「150年前のリンネ協会の集会に、彼は招かれていた。だけど行く事が出来なかった。まだ赤ん坊だった息子のチャールズが、猩紅熱で死んだ悲しみのさなかだったのよ。さらにその7年前の1851年、彼は10歳になったばかりの長女アン・エリザベス、愛称アニーを同じ病で失っている」
植木●「昔は逆縁が多かったとは言え……しかし同じような経験をしながら、ダーウィンは心霊主義に懐疑的だったと伝えられてますね。むしろ非常に批判的だった。降霊会に誘われても行かなかった」
天使●「そうね」
植木●「ウォレスのようには死んだ子供を追い求めなかった」
天使●「傍目ではそうね、でも……たぶん違うわ。言うなればダーウィンは病弱だったけどウォレスとは別の意味で芯の強い人だった。悲しみを、彼は別のかたちで乗り越えていった。ダーウィンの玄孫(やしゃご)にあたるランドル・ケインズさんという人は、こんなことを言ってる。『自然淘汰』というアイデアは、ある意味で情け容赦ない無慈悲なものでしょ? その無慈悲さがこの世の生物界にリアルに存在する、という考えは、愛娘のアニーが自然の摂理によって無慈悲に奪われた経験に根ざすものだ、と」
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植木●「つまりダーウィンは、かけがえのない子供の死を目の当たりにして、ある意味で情け容赦のないメカニズムでもある進化論の理論的根幹を築いていった」
天使●「と言うか、そうしたメカニズムを考えついても、ココロの問題として、本当に追求してよい考えなのかどうかフツーはきっと踏み切れない。そんな彼の迷いを、アニーの死は吹っ切らせた。そんなことなのかもしれない」
植木●「アニーの骨は拾われた」
天使●「バーティの骨が拾われたようにね」
植木●「アニーという存在は、姿を変えて、現代では分子生物学と合体した先端的な進化学の中に生きている」
天使●「スピリチュアリストが言う死後生存とは全く違うかたちで、アニーのタマシイは今も科学の中に生きている」
植木●「そしてバーティのタマシイも、ウォレスの社会改革の精神に共感する人がいる限り……」
ドミトリ爺さん●「オイオイオイ、泣けるハナシじゃのう、オーイオーイ」
天使●「うわあ、まだいたんだ爺さん」
ドミトリ爺さん●「ワシは近代心霊主義など大ッ嫌いなんじゃが、子供は大好きなんじゃあ、最近は良寛のココロにあこがれておるんじゃあ」
天使●「『がんばれみどりちゃん』に出てくるサガハタみたいなキャラになってるわよ」
植木●「というわけで、ウォレスの心霊社会主義、みたいなつもる話は、本編をぜひお読み下さい」
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