網景夢華録
 インターネット逍遙しながらの随筆です。



西部戦線異状な尻

1990年代半ば、西アフリカ・リベリアは内戦によって混乱の極みにあった。
対立する党派が、それぞれ自前の軍隊を繰り出し、首都モンロビアは無政府状態となり、多くの血が流された。

私兵集団を構成するのは、しばしば年端も行かない少年たちで、彼らを率いるリーダーは「将軍」を自称するものの、いわば暴走族のヘッドみたいな若者だった。
そして暴走族が、コワモテでカッコイイ単語や、やたらと読みにくい漢字を用いて自らを誇示することがあるように、リベリアの戦士たちも、それぞれ独創的な名前を名乗り、武勇にさらなる光彩を添えていた。

曰く、「押し込み強盗将軍」「母無し父無し将軍」「ファック・ミー・クイック将軍」などなど。
中でも徹底したテロで人々を震え上がらせていたのが、「お尻丸出し将軍」とその部隊である。

テイラー大統領派に与して戦ったこの「将軍」は、本名をジョシュア・ブライという。
血なまぐさいオカルティズムを奉じ、一説では1万人の殺害に責任があるとされる彼は、当時まだ二〇代半ばの青年だった。

その奇天烈な通り名を名乗ったのは、単なるウケ狙いだった訳ではない。
実際に彼は、名前通りの"勇姿"で、戦場を駆けめぐったのだ。
戦闘が始まると、「将軍」はやおら服を脱ぐ。
身に着けている物は武器とクツだけという姿で、前線へと突き進む。
彼の麾下の「お尻丸出し部隊」も同様に、この極めつけの軍装で敵に立ち向かった。

裸になるのは、理由がある。
そうする事によって、魔術的な力が与えられ、銃弾が当たらなくなると彼らは信じていた。
思いこみの力は、人を変えるのだろう。はたから見れば集団ストリーキングとしか言えないこの武装集団は、その精強さでモンロビア中に名を轟かせた。

「お尻丸出し将軍」は、しかし内戦の最中に突如、姿を消してしまった。
リベリア史の奇妙なエピソードとなって、「お尻丸出し部隊」は闇の中に沈んでいった。
だが、その印象はあまりに強烈だったのだろう。
「将軍」とその部隊の名は、やがて好事家たちの間で語り継がれるようになる。

何と言っても、インパクトの源は、尻である。
人間は、尻を出してみせるという行為に、闇雲な感慨を抱くものであるらしい。
綺麗に言えば、秩序への挑戦、ということか。
どんな風景もシステムも、そこに尻があるだけで、途端にどうしようもない変容を迫られる。
銃弾や刃物以上に、尻は破壊者、紊乱者なのだ。

ここでみだりに紊乱的な尻にリンクを張っては、多分お尻ペンペンされると思うので、ひとつだけ、お馬鹿なお尻サイトを紹介しておきたい。
「全米尻横断」である。

サイト内のアメリカ地図の星印をクリックすると、様々な名所の解説とともに、そこで人が生尻を剥きだしにしている写真が出てくる。
自由の女神のそばで、グランド・キャニオンで、あるいはハリウッドで。
フツーの人々が、淡々と、フツーの尻をぺろんと出している、ただそれだけのサイトである。
はっきり言って、どういうコンセプトなのか皆目見当がつかない。
平和と言えば平和、バカと言えばこの上なくバカ。理屈が何もないところが、かえって清々しい。

ちなみに、しばらく行方知れずだった「お尻丸出し将軍」ことジョシュア・ブライは、その後メディアの取材網にひっかかり、消息が知れた。
何と神学校に通って、現在はモンロビアで説教師をしているのだという。
「あのころはサタンに支配されていたのです」
そんな話をブライ師はしているそうだが、銃弾を撃ち込まれる寸前、人生最後に見た物が丸出しのむさ苦しい尻だったりした内戦犠牲者が、その弁明に満足するかは分からない。

余談だが、ジョシュア・ブライの事を思い出したのは、このところの暑さのせいだ。
あまりに暑いので、水風呂を浴びては、お尻丸出しのままパソコンに向かっている。
そうする事によって、魔術的な力が与えられ、書く物が素晴らしくなるだろうか。
もしもつまんなかったら、それはサタンの仕業ということにしよう。



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