9.ワゼクトミー

 男性の輸精管を切断して生殖能力をなくす、断種手術。1940年に公布された「国民優生法」で、遺伝性とみなされた病者・障害者に対し実施され、人間差別の優生主義の趣旨は1948年に公布された「優生保護法」に受け継がれました。ハンセン病は感染症であり、遺伝ではありません。しかし、「国民優生法」ができる以前より、患者への断種手術が非合法に実施されていました。

 東京の全生病院で1915年に行われたのを皮切りに、全国の療養所で当たり前のように断種は続けられました。絶対隔離・絶滅政策のもとで、患者を根絶して子孫を残さないための措置でした。手術は希望者だけでなく、強制的なものであったことや、独身の男性も対象だったこと、医師以外の看護士が手術したこともありました。手術の失敗で女性を妊娠させ、園が強制的に堕胎させた例もあります。手術を行った理由の一つに、断種を条件に通い婚(男性入所者が別棟で生活している女性入所者の雑居 部屋に通う形をとる結婚。長い間、夫婦部屋などはありませんでした。)を許して逃走をふせいで管理を行いやすくするという療養所の一方的な都合がありました。

 「手術台に足を開いて乗せられ、終わって帰る時、自分が人間ではなく、去勢された牛馬になったようで涙がとまらなかった」と、結婚と引き換えに断種を強制された人はいいます。断種は、人間の誇りと子孫という未来を奪う行為でした。
 「国民優生法」でも対象は遺伝病とみなされた患者に限定していましたが、法律の拡大解釈という違法のままでの手術は続けられ、驚くことに、「優生保護法」は、断種の対象にハンセン病患者を明記しました。断種は、その後1996年に「らい予防法」が廃止されるまで「合法」でした。