
婦好
紀元前13世紀のお話。中国は「商」王朝の時代。
その商国に一人の王子が生まれました。
名前は「昭(しょう)」といいます。
昭は聡明でたくましい青年に育ちましたが、
「言葉」を喋ることが出来ませんでした。
耳は聞こえるのですが、うまく言葉が出ません。
獣のうなり声の様になってしまうのです。
当時、まだ「文字」と云うものはありませんでした。
言葉が喋れない人は・・・存在しないのと同じ。
そんな風に思われていた時代でした。
ましてや、次に王になる人間が言葉を話せないなど、
決してあってはならない事です。
なぜなら、神様からのお告げの言葉を人々に伝える事も、
大切な命令を家臣に伝える事も出来ないからです。
悩んだ父王は昭を旅に出す事にしました。
「世界には賢者がいる。お前の言葉を取り戻してくれる人がいるはずだ。
その人に教えを受けて、言葉を得たら戻ってきなさい」
力強くうなずいた昭は急いで身支度をととのえました。
そして「言葉」を探す孤独な旅へ出発したのです。
その旅の中で昭は、二つの出会いを得ました。
一人目は「説(えつ)」と云う名前の男です。
説は不思議な力を持っていました。
例えば、昭が心の中で「良い天気だなぁ」とつぶやくと、
隣の説は「本当に。気持ちの良い青空ですね」と答えます。
昭が心の中で「お腹がすいたなぁ」とつぶやくと、
説は「そうですね、私もお腹がすきました」と答えました。
なんと説は、昭が心の中で思った言葉を
一字もたがえる事無く理解する事が出来たのです。
昭は涙を流しながら、説との出会いを感謝しました。
昭は「言葉」を得たのです。
目的を果たし、いざ国へ帰ろうとした時。
商国の伝令が訃報をもたらしました。
父王が亡くなったと言うのです。
昭は悲しみをこらえながら、説と共に帰途を急ぎました。
・・・が、突然、
目の前に武器を持った一団が現われ、
二人の行く手をさえぎりました。
言葉を得た昭が都(みやこ)に帰ると、次の王になります。
それを嫌がる人達が差し向けた兵隊達です。
さらにその後ろには「蟲術(こじゅつ)」と云う呪文を使って
昭を呪い殺そうとする一団もひかえていました。
敵は大勢で一度におそってきます。
昭は追い詰められました。
そして、もうだめだ、と思ったその時です。
『イッツショーターイム!!』
ビューン!
ガシン!ガシン!ガシン!ガシン!ガシン!ガシン!
『紐育華撃団・・・レディーゴー!!』
・・・あ、全然違う。
これ、無しで。
『イエッサー!!』
近くの林から一斉に声があがり、
見なれない異国の兵隊達が現われました。
その後ろには巫女(みこ)の一団が並んでいます。
そして先頭の戦車(※戦争用の馬車)の上には
一匹の猿の妖怪が乗っていました。
その戦車は矢の様に飛び出すと、
敵を蹴散らしながら昭の側に止まり、
「さぁ、こちらへ」
と、昭の手をとり車上に迎えました。
「・・・私をお忘れですか?」
ふいに妖怪の毛むくじゃらの頭が動きます。
そしてその下から、綺麗な女性の顔が現われました。
猿の妖怪の正体は、
妖怪の毛皮で作った甲冑(よろい)を着た、
美しい女性だったのです。
再び驚いた昭でしたが、
その顔には確かに見覚えがありました。
昭が旅に出て間も無いころ、
一人の少女の命を救った事があります。
それは「好(こう)」と云う小さな部族の少女で、
部族の長(おさ)の娘でした。
今、昭の目の前の女性は、まさしくあの時の少女です。
「お迎えにあがりました。都までお供いたします」
好族の助けを得た昭は、青銅の剣をふるって、
一気に敵の兵隊達を追い払いました。
敵の蟲術も好族の巫女達が浄(きよ)めてくれました。
こうして昭は、無事に商の都に帰る事が出来たのです。
・・・めでたしめでたし、って感じです〜(^▽^)
どこまで史実かは、まぁ、追求するのも野暮ってもんでしょ。
ちなみにこのあと昭とこの女性は結婚しました。
当時に結婚って概念があったかど〜かわかんないけど、
とにかく夫婦になったのは間違いない。
それでこの女性は「婦好(好族の婦人)」と呼ばれるんですナ。
この婦好さんは実在が確認されている方でして、
1970年代に婦好さんのお墓が発掘されて、
2000点もの副葬品が発見されたそうです。
夫の昭はのちに「高宗武丁(こうそう・ぶてい)」と呼ばれます。
中国に初めて「文字」をもたらした人です。
いわゆる「甲骨文字」ですね。
ま、王と言う立場の人間に言語障害があったので、
必然的に「目にも見える言葉」が必要になったんでしょう。
偶然と必然によって生まれた甲骨文字。
いや〜歴史ってやっぱりおもしろいなぁ〜(@^▽^@)
2005.8.26up
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