ホルモンの基礎

Part 2 - ホルモン補充療法

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エストロゲン過多
ホルモン補充療法 - ERT と HRT
ホルモン製剤
副作用
がん経験者にとってのホルモン補充療法

エストロゲン過多
Part 1 では、エストロゲンの働きと減少するとどんな問題が生じるのかについて説明しました。エストロゲンがなくなるといろんな弊害が生じるわけですが、逆にエストロゲンが多すぎでも大変なのです。何がいけないのかを知るために、まずエストロゲンとプロゲステロンの関係、つまりホルモンバランスをみていきましょう。
正常で健康な女性はエストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンを、以下のグラフのような周期で分泌しています。

つまり、生理後からエストロゲンが徐々に増加しピークを迎え、その後減少しつつあるとき排卵が起こります。排卵前から少しずつ増加していたプロゲステロンは、排卵後エストロゲンと共にぐーんと増えていき、生理前にはその両方が減少します。約28日間でこの性周期が起こります。このように、月経周期に伴って2種類のホルモンが変化していくことがホルモンバランスなのです。
生理から排卵までの2週間ではエストロゲンが優位に分泌され、排卵から次の生理までは、エストロゲンと伴にプロゲステロンが分泌されるわけですが、ストレスなどが原因でこの適切なホルモンバランスが乱れ、プロゲステロンが十分分泌されず、エストロゲン過多の状態が起こることがあります。やっかいなことに、女性ホルモンの分泌システムは外的要因の影響を受けやすく、それにより正常なホルモンバランスの乱れ、ひいてはエストロゲン過多を引き起こしやすいといわれています。

エストロゲンは乳腺や子宮など女性器官への作用を強く持つホルモンです。そのため、エストロゲン過多が持続すると、乳腺や子宮内膜へ過剰に働きかけることになり、それらの正常な状態を維持できなくなります。ホルモンバランスが正常な場合は、抗エストロゲン作用のあるプロゲステロンが、暴走しようとするエストロゲンを鎮めます。しかし、手綱を締める役割のプロゲステロンが不足したとき、次のような弊害が生じるのです。

  • 乳腺を刺激し、良性乳腺疾患、乳がんの発症率を高める
  • 子宮内膜増殖症を起こし、子宮内膜症や、子宮内膜がんの発症率を高める
  • 子宮筋腫の発育を促進する

特にエストロゲン依存のがんにとって、エストロゲン過多は大変危険です。エストロゲン依存とは、がん細胞にエストロゲン受容体が存在する、あるいはホルモン受容体の対エストロゲン感受性が陽性であるともいい、つまりは、エストロゲンががんの栄養になり、その発生・増殖を促進してしまうことを指すことは、「強い味方 イソフラボン」でも説明しましたね。

みなさんはご自分のがん細胞にエストロゲン受容体があるか否かご存知ですか? 知らなければ、主治医に確認してください。そのとき、プロゲステロン受容体の有無を知ることも大切です。ほとんどの場合、エストロゲン受容体があれば、プロゲステロン受容体もあるそうです。これは、ある意味吉報だと私は思うのです。というのも、上で述べたように、プロゲステロンにはエストロゲンに拮抗する作用があります。ですので、ホルモン補充療法を受ける際、エストロゲンと併せてプロゲステロンを摂取することで、エストロゲンががんの栄養となるのをある程度抑止することができるからです。
このプロゲステロンの役割をしっかり理解した上で、いよいよ本題のホルモン補充療法の話へ進みましょう。

ホルモン補充療法 - ERT と HRT
卵巣摘出により自然な女性ホルモンの分泌が不可能となった、あるいはなんらかの理由で卵巣が正常に機能していない女性の救世主、ホルモン補充療法について詳しく勉強いたしましょう。

ここで、お断りというか、単語の定義でよくわからない点についてひと言。ホルモン補充療法に用いられる製剤で、エストロゲンについては「エストロゲン製剤」と統一して呼ばれているようで、ここはOKなのですが、問題なのはプロゲステロンの方。体内でプロゲステロンと同様の作用を持つホルモン製剤のことは、「プロゲストゲン/プロゲストーゲン」とか「プロゲスチン」と呼ばれ統一されておらず、この違いがよくわからない。『ステッドマン医学大辞典』によると、

ってことらしいのですが、よくわからんでしょ。要は同じもの? 海外のHRT研究では主に2番目のprogestinが用いられているようですが、日本の文献ではプロゲストゲンとプロゲスチンが混在してるんだな、これが。だから、正確な使い分けを知らずに適当なこと言っちゃだめでしょうということで、プロゲステロン様作用物質の総称として、ここでは「黄体ホルモン製剤」を使っていきます。どうもこの言い方だと丸くおさまるようなのです。すいませんねぇ、些細なことでつまずいて。でもこういう定義ってしっかりしといた方がいいと思うのです。どなたか、プロゲストゲンとプロゲスチンの違いをご存知の方、教えて。

話を戻しまして、まず一般的にホルモン補充療法と呼ばれるものには、2種類あります。

  • エストロゲン補充療法(ERT - Estrogen Replacement Therapy) - エストロゲン製剤のみ摂取
  • ホルモン補充療法(HRT - Hormone Replacement Therapy) - エストロゲン製剤に併せて黄体ホルモン製剤を摂取

[注:たまに、エストロゲンのみの補充もホルモン補充療法と呼ばれたりしますが、ERTとHRTの違いは大切ですので、しっかり使い分け、ホルモン補充療法といえば、エストロゲン+黄体ホルモンを指すということで、共通理解のほどお願いいたします]

まず、ERTの服用パターンについて。エストロゲンのみの補充では、長期服用により、子宮体がんの発症が、補充を行わない場合に比べて6〜8倍になるという統一した研究結果がでて久しく、基本的には子宮のある女性には行われません。

エストロゲン単独連続服用
エストロゲン
エストロゲン
←28日間→
←28日間→

エストロゲンのみ毎日服用

一方、HRTにはさまざまな服用パターンがあります。

1. 連続併用服用
エストロゲン
エストロゲン
黄体ホルモン
黄体ホルモン
←28日間→
←28日間→

エストロゲンと黄体ホルモンを毎日服用


2. 周期的併用服用
エストロゲン
エストロゲン
黄体ホルモン
黄体ホルモン
←10日間→
←18日間→
←10日間→
←18日間→

エストロゲンは連続服用。黄体ホルモンは10日間の服用後、18日間休薬


3. 逐次的併用服用
エストロゲン
エストロゲン
黄体ホルモン
黄体ホルモン
←11日間→
←10日間→
7日間
←11日間→
←10日間→
7日間

エストロゲンを21日間服用し、後半の10日間黄体ホルモンも併用して服用。そして、7日間休薬

1〜3の違いは、子宮がある場合出血を伴うかどうかです。「3. 逐次的併用」が、自然なホルモン分泌に最も近いパターンの服用であり、休薬中に出血が起こることがあります。次に自然な形に近い「2. 周期的併用」にも生理が起こりやすいですが、「1. 連続併用」だと、ほとんど出血は起きません。もっとも、子宮を摘出した者にとっては、出血するかどうかは関係ありませんが。

ホルモン製剤
次に、ERTやHRTで用いられるホルモン製剤について説明します。

まず、卵胞ホルモン製剤、つまりエストロゲン製剤について。ここで理解しておくべきは、エストロゲンの成分です。Part 1 で述べたように、エストロゲンには主に、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3つがあり、自然に分泌されるエストロゲンには、エストリオールが80%、エストロン、エストラジオールがそれぞれ10%ずつ含まれています。
このうち、エストラジオール(E2)が最も強い生理活性を持っているため、これを含むホルモン製剤の薬理作用(薬品によって起こる生理的変化)は、3つの中で一番強いのです。つまり、卵巣欠落症状緩和のためには、この成分が最も効果的といえます。その分、子宮内膜症や子宮体がん発症の危険率も高く、エストロゲン過多にならないよう、黄体ホルモンの併用が勧められるのです。
次に強いのがエストロン(E1)です。最も作用の弱いエストリオール(E3)は、子宮内膜や乳腺に対する作用もほとんどないといわれています。しかし、その分、卵巣欠落症状緩和の効果が十分でないケースがあります。
ですので、ホルモン補充療法の副作用を避けるため、まずエストリオール(E3)を処方し、それでも効果がない場合は、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)への処方に切り替える場合があります。逆に、急激な卵巣欠落症状を和らげるため、まずエストロン(E1)やエストラジオール(E2)から始め、しばらくしてより作用の弱いエストリオール(E3)へと移行することもあります。

では、実際どのホルモン製剤にどの成分が含まれているのか、下の表を参照ください。

エストロゲンの種類
主な商品名
摂取方法
結合型エストロゲン
(主にエストロン)
プレマリン
経口
エストラジオール
エストラダームM、エストラーナ、フェミエスト
貼付
エストリオール
エストリオール、エストリール、ホーリン
経口

注:結合型プレマリンは、消化管粘膜でエストラジオールからエストロンへ変換された後吸収される


経口剤と貼付剤の2種類があります。経口剤と異なり、肝臓で代謝されず直接血液中に入る貼付剤を利用すると、肝臓への負荷が軽減されます。但し、貼付剤だと、摂取量を調節できない、肌の弱い人の場合かぶれるといった欠点もあります。

次に黄体ホルモン製剤の種類を表にまとめました。

黄体ホルモンの種類
主な商品名
摂取方法
酢酸メドロキシ・プロゲステロン
プロベラ、プロゲストン、ヒスロン
経口
酢酸クロルマジノン
ルトラール
経口
ノルエチステロン
プリモルトN、ノアルテン
経口

副作用
では、ホルモン補充療法にはどんな副作用があるのでしょう。

  1. エストロゲン依存の強い、子宮体がん・乳がんや子宮内膜症・乳腺症発病の可能性
  2. 血栓症・塞栓症のおそれ
  3. 肝機能障害
  4. 不正出血・乳房の痛みやはり・頭痛・胸部の不快感・吐き気・腹部の膨満感・むくみなど

1の子宮内膜症・子宮体がん発生率の増加については、エストロゲン単独だと長期服用でその発生率が8倍近く上昇します。けれど、黄体ホルモンとの併用でその危険性を抑止する、あるいは、ホルモン補充療法を全く受けなかった場合よりもむしろその可能性は低いという多数の報告があり、この問題は解決されました。

4の副作用は薬理作用ですので、頻度も少なく、使い続けるうちに3〜6ヶ月で治まります。私の感じた副作用は、寝返りを打って胸が揺れるだけで感じるほどの乳房の痛みでした。けれど、HRTを始めて半年くらいでその痛みはなくなりました。

がん経験者にとってのホルモン補充療法
子宮体がん(子宮内膜がん)や乳がんの経験者は、ホルモン補充療法を絶対に受けるべきではないといわれています。けれど、現実には、患者の年齢やがんの状態次第でホルモン補充療法を実施するケースもあります。

まず、子宮体がん経験者のケース。基本的には、初期の子宮体がんで手術により完治したと考えられる場合や、臨床的に完治したとみなされる術後5年を経過した場合は、黄体ホルモン併用の形で療法を受けることが可能です。
逆に、手術時腹水にがん細胞が見つかった、リンパ節転移が認められた、または子宮筋層への浸潤が強いなど子宮外への進展が見られる場合は、再発の可能性がないことが確実になるまで治療を行わない医師が多いようです。

エストロゲン単独療法では子宮体がんを増長するが、黄体ホルモン併用によりその可能性が抑えられることがはっきりしている一方、乳がんについては確実な研究結果がまだでていないのが現状です。HRTやERTにより乳がんの発病率が増えるという報告と増えないという報告が混在しているのです。
さらに、乳がんの場合、初期と思われたものでも転移があるケース、また術後5年以上経過してからの再発が、子宮体がんに比べて多いといわれ、そのため、乳がんの既往がある者には、基本的にはERT/HRTを行わない医師が大半のようです。

がんつながりでいえば、その発症にエストロゲンの影響があるといわれる卵巣がんについては、HRT/ERTの影響が、子宮体がんや乳がんほど大きく取り沙汰されないのはなぜなんでしょう。ホルモン補充療法によりその発症率が上昇するとの報告もあるようですが、あまりはっきりしたことはわかっていないのが実状です。
HRTかERTかという点では、私の主治医は卵巣がんで子宮摘出している場合ERTでよいと言っていましたが、個人的な素人考えでは、エストロゲン依存のがんならHRTでいきたい気がします。私の場合は、子宮体がんと卵巣がんの重複がんだった可能性もあるので、私の強い希望でHRTを受けています。卵巣がん経験者のみなさまの主治医は、HRTとERTについてなんとおっしゃっているのでしょう。大変興味があります。ご経験のほど教えていただければ嬉しいです。

いずれにしても、医師の許可が得られない場合は治療を受けることはできませんが、患者側に選択の余地がある場合、ホルモン補充療法の功罪をしっかり理解し、自己のQOL(生活の質)と既往のがんに対する影響とのバランスを考えて納得した上で決定することが大切です。
そして治療を受けると決めた場合、きちんと定期検診を受けることが重要です。既往のがん検診はもとより、血液検査による肝機能の監視、乳がん検診(触診・超音波検査・マンモグラフィ)、骨密度検査など半年〜1年ごとに受け、異変があった場合は迅速に対応できるよう努めましょう。

Copyright © Freya 7/15/2003
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Part 1 - 女性ホルモンの働き