日本の水車


 これはご存知、葛飾北斎の富嶽三十六景です。江戸から見た水車と富士の図である。このような浮世絵を後世に残してくれて真にありがたく思います。改めて礼を言いたくなる一品だ。人の身長から察して、遠近法を差し引いても水車羽根の直径は15尺前後はあろうと思う。その名を「穏田の水車」という。この絵はもうすでに、日本の水車を世界に認めてもらう糸口にきっとなっているに違いない。

 この水車は、図の手前から見て反時計回り。回転の速さを、掻き上げる水のしぶきでこの浮世絵は表現してくれている。水車のかなり上まで水がほとばしっているので、もしかしたら垂らしているかと思われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、富嶽三十六景の中で赤富士と並んで高く評価されている「神奈川沖浪裏」を思い出してもらいたい。ご存知であろうか。沖の大波がおしよせ、まさにくずれ割けるその瞬間を、写真の一こまのように巧みに描いたあの図である。その描写に似た小波が小川を流れていく。流れは右方向だ。 

 多分この小屋の中には、米に用いる搗き臼がある。それも一台ではなさそうだ。田んぼから荷運が直接持ってきては水車で脱穀、そして一部は精白をしているのであろう。豊作である。

 場所は現在の、渋谷区は神宮前交番周辺といわれている。かつてこの地区を流れていた川の名を穏田川といい、今の渋谷川だ。東京オリンピックの開発で、この川は暗渠となってしまった。しかしなお、明治通りから20mほど入ったそこには遊歩道があり、当時の雰囲気をある程度知ることができる。