石臼の目立て


目立て ドイツ臼の目立て方法は、日本のそれに比べてだいぶ違う。

 まず日本のそれは、簡単に言うと、石臼を通常6ないし8つに分割してから、さらに副の溝をその分割線から平行に何本か刻んでいるが、ドイツのそれは、いきなり中央の穴の接線上にそって切ってある。つまりこの切込みから製粉が始まるのだという意思が、その目立てから短刀直入に表現されているのだ。

 ドイツでは、臼が回転する際、原料と石臼間で擦られる距離、つまりわだち距離石臼の性能だと考えているのが、その目立て図によって解かる。臼の直径はもとより、この臼の中でどれだけ原料が臼表面に擦られるかが石臼の性能を決定付けていると考える。だからドイツ石臼は将来的にも、ほとんどの日本石臼に見られるような、臼の中心から遠く外れた所に原料供給を、その穴を掘ることはないだろう。

 目立て方法は、この図に示したもの以外にもいくつか考えられているが、これがドイツ臼に刻まれる典型的な目立てパターンである。ヨーロッパの臼には、フランスはフランスの、ドイツはドイツ好みのドローイングがあり、それぞれ国の特徴が出ている。目立てを施した臼面を見て、慣れた人はヨーロッパのどこら辺で作られたかが、ある程度見当できるだろう。

 この図では3重の新円となっている。中心円は供給口としてまず間違いは無いだろうが、問題はこの円から2つめの円、写真では何も書かれていない部分だ。それは何を意味しているのだろう。原料は、臼の回転によって作られる遠心力で外側へ行こうとする。しかし、中心に近ければ近いほどその力は小さく、石重によって塞がれ、原料が噛み込まないのだ。
 これを解決しているのが、この白地の部分だと考える。目立て作業では、この遊びが重要な部分だ。横から見ると角度があり、その鋭角で楔(くさび)のように、臼回転による遠心力で、どんどんと食い込んでいくように彫られている。


 これを作図したマイザックさん。代々続けてきた水車小屋を経営していたが、今では装置だけは残して水車羽根は取り払い小屋の上でひっそりとおばあさんと暮らしている。図を見ても判るように繊細な方で、壁に自分で描いた製粉機の説明書きが一つ一つ貼ってある。ドイツ職人は図学をちゃんと学習しているのでこの図は真に適正である。

 このポイント写真、実は2枚目で、最初の一枚は、彼が余りにもはしゃぎ過ぎたのでぶれてしまった。この上で目立て作業の手まねきをしてくださいと注文したところ、工具をすぐさま持ってきては、こちらはたいそう真面目なのに何故か大笑いとなってしまった。節度ある人なのに何故だろう、今でもその深層のところはわからない。手馴れたその手つきを見た時、臼を心底愛しているのがこちらに伝わってきた。ドイツ連邦国から与えられた親方の中でもその数少ない製粉オーバーマイスター(上級親方)のりっぱな免状が自慢である。帰り際、ドイツ製粉記念日の小雑誌を上から持ってきて気持ちよく手渡してくれた。