蕎麦から見える紅葉


 新蕎麦時の粉を眺めてみると、わずかながら緑色を呈している。これは胚芽や、蕎麦種子表面をコーティングしている、テスタといわれる甘皮にある。葉緑素を多く含んだ部分の発色である。葉緑素は色の3原色である赤と青を吸収する性質を持っている。残された緑の色が目に飛び込んできた結果である。薄暗い室内では、その色は識別できないほどである。

 広く自然に目を移していくと、葉緑素は時間とともに破壊されていくのが判る。その仕組みは秋の紅葉と同じで、緑の葉っぱが赤や黄色に色づく姿である。ただ紅葉は、葉と枝間の細胞が葉を落とす命令をしてしまうところが違う。その姿を見て、美しいと感じたり、また切ないとも感じるのは、自然の摂理を反射的に心で感じてしまうからであろう。蕎麦を見て同じような感じ方をする人も、必ずやいらっしゃるはずである。

 蕎麦粉の中にもともとあった、蕎麦ポリフェノールやルチン、アントシアンといった黄色い色素や、わずかな褐色が浮き出されると、ご存知の蕎麦粉色となる。色の好き嫌いは芸術の評価と同じで、人それぞれである。しかし、ごくわずかな時間しか現れない葉緑素の出現を、あまりにも強く望むが故に、人為的にクロロフィルやその他の天然色素を、調合として加えてしまうというのは、新蕎麦にたいして失礼だと感じる。

 抹茶や蓬など、葉緑色素を多く含んだ粉末をも一緒に練り込んだ「変わり蕎麦」は、伝統的な流派として高く評価されている。追求すればするほど、気品に富んだ蕎麦になる筈である。多くのそれは、逆に蕎麦粉の色を避け、蕎麦種子の中心部に近い、胚乳部の真っ白い蕎麦粉を使っている。それは白地蕎麦粉に、練りこんだ粉の色を浮き立たせる為である。若草に限らず季節にあった色合いと、食感とほのかな甘味の調和が抜群にいいのは言うに及ばない。