蕎麦アレルギー

 食べ物によるアレルギー疾患はだいぶ昔から知られていたようである。ギリシャ時代の医者ヒポクラテスは、「山羊のチーズによって下痢や吐き気をもよおす人がいる」と言っている。古代ローマの哲学者も、「食べ物は人によって毒にもなる」といっている。このことは、アレルギーの特徴を表した症状が、その頃から広く知られていたことを語る。一般的にアレルギーは特殊タンパクが、ある人の身体に入ると拒否反応を起こすのだと考えられている。あるタンパク質を消化できない状態で、身体にそのまま残ってしまうとアレルギー症状を示すらしい。ですからお子さんなどの、比較的に消化器官の敏感な方が主な患者である。ついに、その特殊タンパクが解明されたようだ。

蕎麦アレルギーの原因物質を特定 国立成育医療センター研究所・免疫アレルギー研究部

 そばを食べたり、ソバ粉が混じった食品を口にしたりすると、呼吸困難やショック症状などを引き起こす人がいる。そんなソバアレルギーの原因物質を、国立成育医療センターの田中和子研究員が突き止めた。重症になる人の診断や、アレルギーを起こさないソバの開発に役立ちそうだ。東京で開かれる「アレルギー・免疫に関する合同国際会議」で発表する。
 旧厚生省の調査では、食べて1時間以内に症状が現れる即時型食物アレルギーは、6歳以下の12・6%にある。ソバは、卵、牛乳、小麦に次いで多い原因食物で、少量でも重い症状を引き起こすのが特徴だ。
 田中さんは、ソバを食べるとアレルギー症状を起こす5〜44歳の男女10人の血液と、消化酵素や熱で処理したソバの各種たんぱく質との反応を調べた。その結果、分子量1万6千のたんぱく質が重いアレルギーの原因になることがわかった。
 ソバアレルギー診断では、血清から調べる方法はあったが、検査で陽性になっても症状が現れない人がいるのが欠点だった。今回見つけたたんぱく質をもとにすれば、正確な診断法の開発が期待できる。
 田中さんは「原因たんぱく質を酵素などで処理し、安全なソバを作ることも可能だ」という。
                              朝日新聞ニュースより(2002年09月22日)

田中さんから返信をいただきました。
白鳥さま
製粉をしていらっしゃる方が患者さんのためを考えてくださることは、たいへん嬉しく思います。・・・・・以下簡略・・・・・・・・・・・・・・・・・先日患者さんの団体より研究についての質問をうけ、その概略を書いたものがありますので、よろしければお読みください。今後のますますのご発展をお祈りいたします。ありがとうございました。

以下概略
そばアレルギーにおける抗原解析について
1) なぜこの研究をしようと思われたのですか?
 食物アレルギーの血液検査をされた方は「RASTスコアー3」という説明をお聞きになったことがあることでしょう。そばのRASTは陽性(一般には2以上を陽性としています)であっても、そばを食べることができる人たちが存在します。これはなぜ?ということから研究を始めました。

2) その結果わかったことは
 食物は多くの場合、加熱などの調理や消化管で酵素の作用をうけます。
 そばから抽出した抗原液(そばタンパク質を含む液)を加熱や酵素処理してみました。
するとそばタンパクは熱には安定ですが、ペプシンという消化酵素の作用をうけ易く、分解されることがわかりました。
 次に@そばRASTは陽性で食べると症状がでる10人、AそばRASTは陽性でもそばを食べて症状が出ない10人の合計20人の血清を、生のそば抗原液とペプシンで消化させたそば抗原液に加えてみました。コントロール*にはBそばRAST陰性でそばを食べても症状がない10人の血清を用いました。するとそばRAST陽性の20人のほとんどがそば抗原液中のペプシンで消化をうける分子量24,000のタンパク質に反応していました。そばを食べても症状の出ない人はこの他にペプシン消化をうけ易いタンパクに反応していました。
しかしそばを食べて症状がでるほとんどの人は分子量24,000のペプシン消化をうけるタンパクの他に、ペプシン消化をうけにくいタンパクにも反応していました。特に分子量16,000のタンパク質にアナフィラキシーを起こす8人が反応していました。
このことから、そばRASTが陽性であっても、消化されてしまうタンパクに反応している人はそばが食べられることが判りましたし,アナフィラキシーをおこす可能性のあるタンパクの見当がつきました。
また分子量24,000のそばタンパクと分子量16,000のそばタンパクのアミノ酸をしらべたところ、両者は違うもので、分子量24,000のタンパクがペプシンで消化され、分子量16,000のタンパクではぺクシンによって分解されていないことがわかりました。

3) 患者にとってどんな意味があるのでしょうか。
 アナフィラキシーをおこすタンパクを変性させれば、そばアレルギーの人の多くが食べられるそばを作ることが可能かもしれません。ご飯ではすでにこのような食品があります。
しかし、ご飯は多くの人が毎日摂取しますが、そばは毎日主食として食べるわけではありませんので、企業の採算という観点からすると開発は難しいかもしれません。
 食物アレルギーの診断においては、そばに限らず、症状を起こすタンパクが決定され、それが検査に用いられるようになれば、症状との一致率が高くなり、余計な食物除去をする必要もなくなると思われます。そばは皮膚テストや食物負荷テストを行うことに危険がともないますので、血清学的診断できちんした診断がつくようになるといいと思います。
* コントロール:行っている実験が正しいことを証明するため、患者さんでない人の血清をも用いましたが、このように患者さんの血液を用いた実験結果と比較するために置かれた対照のことをいいます。

考察:
要するにペクシン酵素で蕎麦タンパクが消化される。そこで分子量24000のタンパクはアレルゲンを示さないが分子量16000のタンパクでアナフィラキシーを示すことが解かった。ということ。
今後のアレルギー研究がより具体的に進む可能性のある発見だと思う。
                                                以上
厚生労働省  (アレルギー物質を含む食品に関する表示について)
食物の摂取による「アレルギー」とはどのようなものか?アレルギー物質を含む食品に関する表示について。原材料「そば」の範囲…など

アレルギー血液検査、IgERASTについて
体に侵入してくる異物を抗原と呼び、抗原はアレルゲンとも呼ばれている。この場合ソバがアレルゲンである。それと認識するものを抗体と呼び、抗体があるかどうかは血液検査をする。通常アレルギーの血液検査はIgERASTを指すようだ。

 蕎麦の成長を見、蕎麦粉を見つめ、蕎麦を高く評価する者にとって、その蕎麦によって苦しまざるを得ない方がいらっしゃるという現実に、強く哲学的な矛盾を感じざるを得ません。しかし、どうしても蕎麦を避けて生活する人達を、避けて通るわけには行きません。アレルギーは卵、牛乳、小麦の方が蕎麦よりも多く症状が出ています。一般の方が蕎麦アレルギーという言葉に拒否反応をしめすことはよくないと思っています。蕎麦と共に生活する人々と、その世界をどうしても避けなければならない方々、両者とも納得するには、これからも現実を直視し、常に謙虚にかつ冷静に対処しなければならないのです。
 タンパク質の質量解析の手法を開発した、島津製作所の田中耕一さんがノーベル化学賞に輝きました。現在の分析技術がこのような高度技術に支えられていることに感動し、奥深さを改めて認識させられました。いずれ近いうちに、蕎麦にかぎったことでなく広い範囲で「粉」、もこの解析器にかけられ、粉タンパクの仕組みや立体構造解析がなされ、すばらしい成果を上げることになるでしょう。物質の科学といわれる量子化学など、視点を変えた分野から抗原抗体反応の探求がなされ、アレルギーの全体像が解明される日がくるかも知れません。