納豆


日本の朝の食卓には欠かせない納豆もフランスでは高級食材です。ウチでは渡仏後しばらくのあいだ納豆は晩御飯の豪華おかずでしたし、一時帰国の際には無理やり朝から納豆飯をおかわりしました。納豆はまさに日本からの生鮮直輸入ものでばっちり高い値段がついています。

*直輸入冷凍納豆

フランスで市販されている納豆で、日本のもののように発泡スチロール容器に入っていたり、一食分カップに入っているようなメーカー品のものはすべて日本からの輸入品であり、店頭では冷凍食品として売られています。いかに日本食がポピュラーになろうともおよそ市場は日本人のみに限られるでしょうし、しかも商品はすべからく直輸入となると価格も必然的に高価になり、朝食に何にもないから仕方がなく納豆なんて贅沢は許されません。一方、パリの日本食材店の店舗オリジナル自家製納豆もあるらしい。

ということで納豆はとりあえず日本食品の店、韓国系の店で冷凍ものが入手可能です。

***自家製納豆

それでも納豆を腹いっぱい食べたいという方には、自家製納豆の道が残されています。おかげさまでウチでは日曜日の早朝に納豆を仕込むとその一週間納豆三昧となります。以下納豆製作はウチで日常的行われていることではあっても、その内容およびそれによるいかなる結果も当ページはその責任を担保しません。

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納豆菌は大豆を納豆菌/Bacillus nattoで発酵させただけのもので実に単純なものです。加工食品としての納豆は近代的な施設、設備で衛生面に最大限の注意が払われていますが、かつて納豆がわらに包まれた包装形態をしていたように、納豆は煮豆をわらに包むことでわらに元からいる細菌によって発酵されたものに過ぎないのです。細菌が大量増殖するときそこにはいろいろな種の菌が仲良く揃って増えるということよりも、ある特定の種が支配的に増殖する場合が多いのです。もちろん雑菌繁殖対策を怠ってはいけません。 まず原料の大豆はsoja jauneという名前で売られています。これは普通のスーパーマーケットでは見つからず、写真のようなものは無農薬、健康食品を扱う専門店で売られていることがあります。無農薬、健康食品としての値段がついてはいますが、出来上がった納豆の末端価格を想像すれば破格であることがわかります。パリ中華街なら無農薬ではありませんがずっと安く手に入りますが、小さな中華系食材店ではまだお目にかかったことがありません。これを水で洗い、一晩以上水につけておきしっかり膨潤させておく必要があるのは一般的な煮豆といっしょです。このとき豆と水との相性の良し悪しがあるようで、洗っているうちにいやな泡立ちが起こることがあります。浸す水は硬度の低い水を使うと良いようでですが、そのためにボトル入りミネラルウオーターを使うのもはばかられる。ブリタのポットがあればその水で十分です。

納豆の発酵には納豆菌が必要です。日本では菌そのものの入手ができるようですが、フランスでそんなものは望めません。手っ取り早いのは既製納豆を菌種とすることです。ウチでは大豆200グラム(乾重量)に対してスープスプーンで2杯程度の納豆を菌種として加えています。さてこの菌種納豆ですが、当然フランスでは冷凍物しか手に入りません。冷凍納豆は自然解凍が好ましく、豆を水に浸すときに納豆を冷凍庫から冷蔵庫に移しておけばちょうどよいです。電子レンジでの解凍はうっかりミスで過熱して菌を殺してしまう可能性があるのでお勧めしません。


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一晩たち豆が充分水分を吸い込んで膨潤したならば圧力釜で小一時間ほど蒸すとちょうどよいやわらかさになります。ちょうど一時間ではなく小一時間ほどなのは蒸し上がりの出来に結構むらがあるからでそれは前晩の膨潤の具合に起因するのかもしれません。圧力釜で蒸し物をするにはなべにちょうど入る底上げのざるが必要になりますが、フランスで圧力釜を買うと標準で蒸しざるがついてくるものが多いのでありがたいです。豆の雑菌対策としてはここまで特に必要ありません。圧力釜で1時間も蒸すと中はほぼ無菌と考えて間違いありません。一部、納豆菌と同属の物のなかにはこの程度の熱に耐えるものがあります。


natto4蒸しあがった豆は速やかにふたつき容器にあけそこに菌種納豆を加えてよく混ぜ合わせます。容器はそこの広いもので、豆が余り深く入らないものが好ましいです。市販の納豆容器がまるで深くないように。容器はよく洗浄され乾燥しているものを使用します。ぬれているものは厳禁です。清潔で乾燥していればそれで充分であり、アルコール等を使って消毒する必要はありません。菌種となる納豆の表面にあるねばねばに納豆菌がいるのでこれが新しい豆に満遍なく付着するようによく混ぜます。この作業から納豆菌の増殖による発酵が始まります。このときうっかり別の細菌が豆に入ってしまうとこの別の菌で発酵が始まったり腐敗が始まったりするの要注意。なべから豆を出す作業前には手をよく洗いましょう。手洗いに自信がない方は消毒用アルコールを薬局で入手し、少量を手に付けもみ手をして消毒しましょう。アルコールは揮発性が高いのですぐ蒸発してなくなります。

そのアルコールですが消毒用としてスーパーの衛生用品売場で2種類見つけることができます。ひとつは70%のもので黄色い液体になっているものです。これにはアルコールと水以外に添加物が含まれています。アルコールが蒸発してもその他の成分が残るので直接豆が触れるかどうかにかかわらず向きません。もうひとつは無色透明で90%のものですが、今度は飲用防止のためメタノール、イソプロパノール、アセトンが添加されていますように、これはもはや消毒用ではありませんが豆が触れない部分の消毒には有効です。薬局では上記の黄色い添加物入り70%のほかに無添加70%および90%があります。これらは医薬品グレードなので不純物や添加物の心配はありません。


natto2豆の入った容器に密閉ふたをして発酵させるとふたに結露水がついてこれが納豆に落ちてしまいます。そうなると納豆が水っぽくなる上に衛生上よくありません。ふたの代わりにはきれいなふきんあるいはキッチンペーパーをかぶせて輪ゴムなどでとめておきます。これを発酵のために40℃前後で保つのですが、写真のようなクーラーボックスで代用できます。中にはミネラルウオーターのボトルなどの容器に熱湯を入れたものを仕込みます。ウチのクーラーボックスにはちょうどヴォルヴィック1.5Lのボトルが2本入りました。クーラーボックスがいかに高性能のものであっても温度は下がる一方でありまた当初はクーラーボックスそのものを暖めるのに熱が要りますので、はじめは手で触れないくらいの湯を使用したほうがよいでしょう。水温が40℃では庫内40℃の目標は達成できません。外気の暖かい夏場はともかく冬は温度管理を充分にしましょう。目安としては1日2ないし3回もお湯を交換すれば充分です。これで24時間から48時間ほどで充分発酵します。 なおクーラーボックスですがくれぐれもきれいで清潔なものを使うことをお勧めします。アウトドア派でよく外で使われるものや魚釣りに使われるものは汚染対策上好ましくありません。また、使用前後にはよくお手入れをし、発酵作業前には中をアルコール消毒する念入りさが必要です。


うまくいけばただの煮豆が納豆に変身して表面には白いあの納豆独特の風合いが出ているでしょう。発酵具合の確認のためにスプーンでかき混ぜたり、味見をするのは汚染のもとです。出来上がった納豆はすぐ食べることができますが、発酵中の生ぬるい納豆というのは味覚上うれしくありません。冷蔵庫で少し寝かせたほうがよいようです。発酵が終わったらまずできたての納豆から次回以降のための菌種を小分けして冷凍しておきます。このときの小分け容器は発酵容器に準じる清潔さが必要です。基本的にここで次回の発酵に受け継がれるのはいくらかの豆とそこに住む菌であり、分取、保存が理想的に行われて次回に使用されるならば菌は無限に継代使用できるはずです。ウチでは4代目までに雑菌が混入した経験があるので3代以上の継代発酵はご法度になっています。

ところでこのような納豆継代培養でははじめに使う納豆にいる菌が無限増殖していきます。そして菌は各納豆メーカーの秘中の秘でもあります。よくコマーシャルで匂いが少ない粘りが云々とありますが、その秘密は菌にあるのです。菌の起源が「おかめ納豆」ならおかめ納豆の菌、「金のつぶ」なら金のつぶの菌。日本から家族、友人、知人が来る際には納豆のひとパックでもお願いすると、新しい菌種がライブラリーに加わります。

***ひきわり納豆

natto5 natto6大豆を見ずに浸す前に軽くから煎りし、写真のように突いておくとひきわり納豆になります。

****市販納豆菌を使用した自家製納豆

納豆菌は日本では市販されています。身近な小売店では東急ハンズにありますし、いまではネット通販もあります。日本ではきわめて容易に手に入るのですが、ここは例外的に星四つにしています。その訳は・・・

納豆菌をフランスに輸入するの結構微妙だからです。市販の納豆菌は粉末になっています。実はこの菌を粉末にするという技術が曲者で、病原菌を爆弾でばら撒く細菌兵器に通じる技術なのです。そして納豆菌の属するところのBacillus属には炭疽菌Bacillus anthracisがいるのです。まあかなりのこじつけではありますが。微妙ではあります。ちなみにウチでは日本で仕入れた納豆菌でほぼ隔週に大豆250gを納豆に加工しています。一家三人が一週間、一日一食できる量です。実際には一部を冷凍保存にまわしていますが。

前述の納豆を菌種とした方法に較べ、菌のイキがまるで違います。発酵速度の違いが実感できます。


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