ジンギスカン


フランス生活で日本の食事情に疎いままでいると、どうも最近ジンギスカンが北海道以外でも結構市民権を得ているような話を見聞きしたりします。生来の北海道民であったおっとにとってジンギスカンはじつに身近な豪華料理で、すき焼きなんかよりずっと格上のつもりでいましたが、それはかの地ですき焼きには豚肉が入るからでしょうか。休日の野外でのバーベキューも、焼肉屋もすべからくジンギスカンだったので韓国系の焼肉というのはずいぶん後になってからでした。

ジンギスカンの肉は羊の肉である。そして羊の肉はフランスでは実に容易に手に入ります。ジンギスカンの起源の詳細は別のページに譲るのでGoogleなどで検索していただくとして、北海道開拓使時代以降、羊毛もままならぬ年老いた羊が食用に供され、獣肉臭の厳しいいわゆるマトン肉のにおい消しにあの味付けができたのだとか。ジンギスカン用のマトン肉薄切りというとどうも寄せ集め肉を円筒形に成型しうす切りした100g38円の自炊学生時代を思い出してしまう。これを見た関東首都圏からの留学生の友人は「生ハム?」と首をかしげたそうな。

*星ひとつ、だれでも簡単お手軽に

フランスならちょっとリッチに子羊肉が使えます。いわゆるラムチョップのCôte d'agneauが肉質的には最高でですがさすがに高価ですし、骨を取り除いたりする手間を考えるともも肉/gigotのほうがよい。肉を一口サイズで鮮魚のお造りといった感覚で薄切りにしていくとよい。

味付けは日本には市販のたれがあるのだが、さすがにフランスまで輸入されたのを見たことがありません。が、おっとが子供のころ北海道の家庭のジンギスカンはたれも自家製だったはずです。以下分量は目安で

酒(100ml)、しょうゆ(100ml)にたまねぎ(1/2個)、りんご(1/2個)、にんにく(4かけ)、しょうが(にんにくと等量)をすりおろして加え塩、コショウで味を調え、そこに適当に切った肉を漬け込むだけ。すりおろしりんごが肉を柔らかくするようです。香り付けにはお好みで刻みねぎを漬けたれに入れるとよいのですが、ポアローは絶対に使ってはいけない。1-3時間もつければ十分であるが漬け時間としょうゆ加減には注意。

理想的には食卓の中央で焼きながら食べる。カセットコンロに中央がドーム状に盛り上がり、ふちのあるジンギスカン用なべというと「そんなものをフランスで調達するなんて無理」と思われるのですが、実はどちらもパリ中華街で手に入ります。厳密にはなべは北海道のジンギスカン用のなべとは同一では無いかもしれませんが、きわめて酷似するものが中華街のスーパーマーケットに並んでいます。良く似たものををパリの韓国レストランで見かけることがありました。もちろんホットプレートでも良い。キッチンであらかじめフライパンで焼いたものでもよい。一緒に焼く野菜はたまねぎ、ピーマン、もやし、キャベツなどお好みで。ただしたまねぎは輪切りに限る。肉は十分味が使っているのでいわゆる焼肉のような付けだれは不要。しかし、野菜には味がついていないのでこれはお好みで。

おまけ話

ジンギスカンの味付けは確かにある時代まで家庭の仕事であり家庭のレシピであったのだろうが、既製品が幅を利かせるようになって来た。北海道民御用達なら地元の老舗、ベル食品のたれが一番です。このベル食品、ラーメンのたれも絶品。しかし、妻によると一般家庭でラーメンの麺とたれを別々に購入して調理するという習慣は北海道以外では稀のようである。

味つき肉はやはり老舗である松尾ジンギスカンから出ている。市販品だけでなく業務用のもあるようでビールさながら同社名の看板を掲げたレストランもあった。ライバルに義経というメーカーもあった。

ビール園は当然ジンギスカン。テレビのコマーシャルでは「さあ行こう!アサヒビール園、生ビールもXXXX(忘れた)ジンギスカンも〜なんてったってアサヒビール園」という歌が流れていた。ジンギスカン1本ではということで次に来たのがラムしゃぶ。アサヒビールは今でこそ本部を浅草に構えているが(あのオブジェは実に景観を害している、汚ブジェとはよく言ったものである)大阪出身でありながらサッポロよりも北海道らしいビール園が札幌にあり、サッポロはどうも恵比寿が発祥のビールにサッポロのブランドをかぶせたようなものでかつ銀座ライオン的な悪い印象があり、このあたり北海道らしさのイメージが逆である。

牛肉オレンジ輸入自由化がささやかれるころからか、家でジンギスカンを食べることが少なくなったのは。日本食研の「晩餐館」の広告をよく見かけるようになったのも。

ジンギスカンに似た義経焼きというのが山形の方にあるそうだが、名前のインパクトではやはりジンギスカンに軍配である。アジアから東ヨーロッパまでという人類史上最大の領土を獲得した大帝国の首領と源氏の落武者ではやはり格が違う。


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