早春物語 1

このドラマは「木下恵介シリーズ」枠で放映されたごくごく真面目な人々による純愛物語だ。

今まで娯楽色の強いドラマ出演が多かった沖氏にとっては、「北都物語」に次ぐ本格現代劇だ。役柄も等身大の若者であり、喧嘩は殴られっぱなし、目上の人には怒られっぱなし、女にはなじられっぱなし。気は優しいのだが、悪くいえば優柔不断なところもある男。
こういう役はかえって演じるのが難しいかと思われたが、沖氏は自ら「沖雅也はアクション俳優ではなく、アクションも出来る俳優」と語るだけあって、この情けない男をうまく演じていたと思う。
いつもの猫背はより丸まって、目は伏し目がち、声は震えるような、力の入らない話し方で通している。それでいてドラマ全体を流れる清潔感はきちんと守っている。今改めて見ても、沖氏は優れた役者だったと見直させる作品だ。


脚本も大変よくできているので、もし沖氏が出演していなくても、多分夢中になって見ただろうと思える内容だ。毎週続きが待ち遠しかったのをよくおぼえている。

相手役は当時清純派女優の第一線にいた仁科明子(現・亜季子)、そのライバルに、これまたお美しい五十嵐淳子、田村正和、近藤正臣と共にキザ路線まっしぐらだった細川俊之、その妻に「俺たちは天使だ!」で藤波弁護士の元恋人を演じた松本留美、細川の元恋人に倍賞美津子、そのパトロンに小沢栄太郎、沖氏の同級生に高岡健二、マニアなところでは荒木茂や伊佐山ひろ子も準レギュラーで出演しているし、ナレーションはジェットストリ〜〜ム城達也だ。

数年前「白線流し」というドラマがあったようだが、白線流しをドラマの題材にしたのは「早春物語」が先だった。
元々岐阜県のある高校で伝統的に行われている行事だというが、「早春物語」では舞台を白馬に移し、雪景色をうまくドラマに織り込んでいる。
さて、肝心のドラマの内容だが、これがかなり入り組んでいる。
私の文章力ではとても簡潔に説明できそうにないし、「役者・沖雅也」を語るためには個人的にはイチ押しの作品なので、内容については次回の日記でもう少し書いてみたいと思う。

早春物語 2

村井千恵(仁科明子)と平野信一は高校の同級生。白馬の小谷で「白線流し」の儀式を一緒にし、将来を誓い合った仲だった。千恵は地元に残って保健婦をし、今は村の診療所となった亡父の医院で働いている。大地主の息子である信一はその診療所を継ぐと千恵に誓い、東京の大学の医学部に進むが、3年ぶりに同窓会で小谷に戻った信一は、何故か千恵に冷たい。実は彼は単位を落として休学し、医師への道をあきらめていた上に、相川世津子(五十嵐淳子)という女性と付き合っていたのだ。


彼を追って東京に出て来た千恵は、
「私、やっぱり信一さんがいないとだめなの」
と彼の胸に飛び込む。やはり千恵を忘れられなかった信一は、一旦は
「帰った方がいい」
と突き放したものの、やがてしがみつく彼女をしっかりと抱きしめてしまう。そして結ばれる二人・・・。

こうして書くとハーレクィン・ロマンスもどきになってしまうが、沖氏も仁科さんも独特の清潔感で若い二人の純粋な気持ちを表現することに成功している。
信一は親からの学費の仕送りを使い込んで学校にも行っていない上、他に女まで作っていたくせに、千恵には嘘の手紙を書き続けていたプータローなのだが、“一生懸命やったのだが、結局だめだった”ように見えるのは、沖氏の演技力の賜物かも知れない。
この段階では単なるオジャマ虫の位置にある五十嵐淳子さんも、意地っ張りで孤独な女性を好演している。

しかし、この世津子が事件を起こして物語は急展開する。

信一の将来を心配する世津子は、ホテルに泊まった時、信一の財布にそっとお金を忍ばせておいたり、就職口を熱心に探してくるのだが、千恵と歩んで行く決心を固めた信一には、かえってその彼女が『うざったい』存在になってしまう。
白木里子(倍賞美津子)は昔千恵の兄に捨てられた過去があるので、若い二人の愛が無事に育つことを望んでいる。だが勿論世津子の置かれた立場にも同情してもいる。
その里子が経営する店で千恵と信一は待ち合わせをするが、そこに世津子が現れて、自分の紹介した就職先に行くよう薦める。

「私が紹介したところだから嫌だっていうのね?」
言えば言うほど損な立場に自分を追い込んでしまう世津子。
「信ちゃん!」とすがる世津子を強く突き放し、
「だめなものはだめなんだ」と背を向けて取り付く島もない信一に、世津子は思わず目の前にあった果物ナイフで信一を刺そうとする。
それに気がついた千恵が飛び出し、一瞬のうちにナイフは千恵を・・・。


早春物語 3

千恵を刺してしまった世津子は警察に自首するが、面会に訪れた信一に意地を張り、
「後悔なんかしていないから」
「あなたたちはいいわよね、邪魔者がいなくなって」
と口走るが、最後には泣き出してしまう。彼女の気持ちが痛いほどわかる信一は、黙り込む他はなかった。
責任を感じた信一は千恵の兄の病院を訪れ、示談を申し出る。だが兄の出した交換条件は治療費と慰謝料、そして千恵と別れることだった。
世津子を救うためにその条件をのむ信一。
何も知らない千恵は信一を訪ねて、もぬけの殻になったアパートで呆然とする。

事件を知って駆けつけた信一の父と妹から彼の移転先を聞き出した千恵は、そのアパートで白木里子と鉢合わせをする。信一は彼女と同じアパートを世話してもらっていたのだ。
里子にも裏切られたと思った千恵は、その晩東京に出てきた同級生の古山周吉(高岡健二)と夜の街に出る。やけになって「もうどなってもいい」と言う千恵を、周吉は彼女への思いがこらえきれなくなってホテルへ連れて行く。だが、どこまでも信一を思う千恵は泣き出すばかりだった。

兄も信じられなくなった千恵は兄との同居も拒否して看護婦寮へ入るが、千恵が刃傷事件を起こしたことがきっかけで、兄は教授に昇進できなくなる。千恵をなじる妻に「かばうも何も、俺たちは兄妹なんだ!」と宣言する兄。

一方、信一は里子のパトロンの息子が経営する家具メーカーに職人見習として就職したが、示談が成立して釈放された世津子を迎えに行く。だが、彼女は翌日姿をくらましてしまう。
少しして千恵は、自分が働く病院に世津子が現れて示談金の一部を払ったことから、初めて兄の策略を知る。
世津子にお金を返してもらうために信一を訪れた千恵だが、その時里子が心臓の発作を起こして倒れてしまう。あわてて兄に電話して往診してもらうが、信一と千恵が一緒にいたことに腹を立てた兄は、約束を破った信一をなじる。 「君にはその資格がない。」
今度こそ心を入れ替えて千恵を幸せにする、と懇願する信一だが、兄は千恵の腕を引いて連れ帰ろうとする。その時、
「いけないわ」
と前に立ちはだかる里子。
この人たちには自分たちのような思いはさせたくない、と訴える里子に言葉を失った兄・文彦は、黙って一人で去る。続いて帰ろうとした千恵だったが、 「まって・・・」
しぼりだすような声で信一が引き止めた。
しっかりと千恵を抱きしめた信一は
「俺、資格を取るよ・・。そして兄さんから君を・・」
信一のの腕の中で力をこめてうなずく千恵。

だが、世津子は示談金を作るために、バーに勤めながら体で借金を返していた。

さて、ここまで来ると、信一という男の人格に少しばかり?マークがつく。
示談の条件に千恵と別れることを提案された時、何故先に千恵に相談しなかったのか。
それで出直すために引越しをするのに、今度は里子に借金をしている。しかも、
「なんだか今日は行く気がしなくて」
とバイトを休んだりもしている。
もう愛してもいない世津子を責任感から引き取ろうとするが、彼女が姿をくらまして千恵が目の前に現れると、また彼女に愛を告白してしまう。
二人の愛が実ることを願いながら観ていた私だが、このあたりから世津子が気の毒になって来る。なまじ優しくしてしまうのは、結局彼女のためにならなかったのではないか。
そして、その世津子の借金のために物語はまた急展開することになる。


早春物語 4

ある日、千恵は電車の中で偶然世津子をみつけ、逃げ出した世津子が落としていった名詞から彼女の勤めるバーがわかる。
相談された信一は世津子をを訪ねてそのバーへ行くが、店のボーイに彼女にはまだ用があると言われる。店に前借りをした世津子は、客に体を売ることを強制されていたのだった。
信一は世津子を連れ帰ろうとするが、逆にボーイに殴り倒されてしまう。
世津子は失踪し、訪ねて行った信一と千恵だが、信一は世津子の借金の保証人として署名させられてしまう。

そんなある日、世津子がふらりと信一のアパートを訪れる。
「泊めてくれない」と言いながら、入るように促されると少し迷う世津子。慣れない手つきで煙草に火をつける。
「どこ行ってたんだ」
「あっちこっち、旅してたわ」
「全く俺のせいだな・・」

夢でうなされる世津子を目撃した信一は仕事に出る前に、何処へも行くな、これからのことを相談しよう、と言い置いておくが、世津子は
「お世話になりました。ありがとう。お幸せに」と書き置きをして出て行こうとする。
だが、その時ちょうど部屋を掃除しようと入って来た千恵と鉢合わせをしてしまう。
せっかく書いた「お幸せに」という書き置きを握り潰し、 「昨日、泊めてもらったの」
と意地悪をする世津子。
「そう・・」とだけ言った千恵だが動揺は隠せない。出て行こうとする世津子を一応は引き止めるが、 「あなた、私がここにいて平気なの!?」
と言われると言葉がなかった。
信一を訪ね、いきさつを話すと、信一の横顔は曇った。
「あいつ、行くとこなんかないはずなんだが」
横顔を覗き込んでも振り向きもしない。
帰りの電車の中でも不安になった千恵が
「信一さん、私たち大丈夫よね」ときいても、
一応うなずくのだが目は遠くを見ているようで、千恵は不安に駆られる。

バーに戻った世津子だが、借金のことでもめて信一が呼び出される。借金は25万円に膨らんでいた。
そして数日後、千恵の病院に信一が現れ、世津子と暮らすことにした、と告げる。
「私、自分の幸せは誰にも渡さない!」
と叫ぶ千恵だが、信一は 「君は大丈夫だ。だが世津子はもう一人ではだめなんだ」と言う。
「もう世津子とは生活を始めてしまったんだ」
「ひどい・・・」
その光景を千恵の兄が偶然目撃するが、千恵は兄にもすがらずに走り去る。

泣いて眠れぬ夜を過ごした千恵は、患者が鼻血を出したことを報告し忘れ、翌日その患者が亡くなったことを知らされて、完全に自信を失う。退職届を出した千恵に婦長(中原ひとみ)は、「少しお休みしなさい」とだけ言い、傷心の千恵は故郷・白馬へ戻る。だが、信一と世津子も借金の工面に父親を訪ねて白馬へ戻っていた。そして・・。

25万8千円。それがバーのマネージャーが書き出した借金の総額だった。これが時代を感じさせるが、当時の25万は大金だったのだ。
その頃やっと発売された初めての家庭用ビデオデッキは37万円だった。
これこそが私に必要なもの!そう思っても高校生に作り出せる金額でもなく、涙を飲むしかなかった。あの時ビデオがあれば、と今でも悔やまれる。

早春物語 5

傷心のまま白馬に戻った千恵だが、自分がいなくても診療所は十分機能しているのを見て、淋しい思いにとらわれる。だが、幼ななじみの周吉は千恵の孤独を察して時間を作り、千恵をスキーに誘う。
一方、信一は父親をたずねて借金を申し込むが、父は意外にもすんなり承知する。だが、力を得た信一が
「実は会ってもらいたい人がいるんです」
というと、それが千恵でなく事件の発端となった世津子と知った父は激怒。借金の話も断られてしまう。
「私が何故お前に金を貸すといったかわかるか。それは千恵さんがお前を許すと言ったからだ」
それを言われては信一としてはもう言葉がない。

周吉のホテルへ行って休ませてくれるよう頼むが、千恵のことを知っている周吉は彼らに冷たい。自分のせいで親にも故郷にも冷たくされている信一を見て
「死んじゃおうかな」
とつぶやく世津子に、信一はもう一度父親に頼んで見る、と言って出かける。
世津子は夜行列車で立ちづめで少し熱があったが、彼のあとを追って行き、橋の上でみつめ合う千恵と信一をみつけてしまう。


「いつ来たの」
「今朝」
そんな言葉を交わしながら、二人ともその場から動こうとしない。雪を流している川面をみつめながら白線流しの光景を思い出す二人。

「あの頃が遠くなったわね・・」

二人は同じ光景を胸に抱き、同じ表情で川を見下ろしていた。それを見た世津子は反対方向に走り出す。気がついた信一は一瞬振り返るが、そのまま世津子を追って行ってしまう。

信一につかまえらえれた世津子は叫ぶ。
「だってあなたはあの人を愛してる!」
それだけはどんなに努力しても変えられない事実だった。

雪の中を走り去った世津子を追って来た信一は、坂を転げ落ちて足を骨折。その場から動けなくなってしまう。炭焼き小屋のようなところに避難したが、屋根があるだけで、おりからの吹雪で世津子も信一も雪まみれだ。

ふと信一が声に気づく。歩ける世津子が声の方を探しに行き、いったんは「おーい!」と叫んでみるが、捜索隊の灯かりを目にした世津子の顔が凍り付く。彼女の目には、その灯りが自分とはとても遠い、「世間」という暖かい灯り、自分からは遥かに遠い灯りであることに気がついてしまう。

信一のところへ戻ろうとして、途中で気を失った世津子。這って来て世津子を助けようとした信一だが、世津子は


「信一さん、一緒に死んで!」

と覆い被さる。そのまま気を失う二人・・・。

翌朝、吹雪は嘘のように去り、千恵は周吉と捜索隊に加わって歩いていた。
「いたぞー」
はっとする千恵。
「だめだー、死んでるぞー」
千恵は「嘘よ!」と叫んで走り出す。
雪の中を転びながら、呪文のように
「うそよ、うそようそよ・・」と繰り返して全速力で走るが、雪の中に折り重なるようにして倒れている二人の姿を見た途端、足が止まってしまう。

世津子の遺体が運ばれる。だが、周吉は信一の心音を聞き取る。
「大丈夫だ!」
信一は上に被さっていた世津子のぬくもりで助かったのだった。

今私は持っているテープは沖氏の死後に地方局で再放送されたものだ。死んでるぞという声をきいて狂ったように走り出した千恵を見た時、あの日の自分を見るようで思わず目を逸らしてしまった。

本放送で見た時には世津子が意地悪な邪魔者にみえたものだったが、大人になって改めて見ると、純情潔白な千恵より、汚れても踏まれても必死な世津子の方に同情が行く。私のような人間でも、少しは成長したのかも知れない。


早春物語 最終回

診療所で目をさました信一は、千恵の口から世津子が死んだことをきいて呆然とする。彼女のぬくもりが信一の命を救ったときき、
「世津子のぬくもりが・・・」
と遠い目をする信一。千恵は何も言えなかった。 凍傷で足の指を切断した信一は、自宅に戻って世津子のことばかりを考えていた。一緒に死んでやれば良かった、と千恵の前でも言ってしまう。

千恵は東京に戻り、結局看護婦として復職するが、病院では白木里子の心臓弁膜症が悪化し、手術のために入院していた。危険だという周囲の反対を押し切って、手術をすることにする千恵の兄・文彦は、すべての責任をとると病院側に宣言。
他の女性と死にかけた信一を甲斐甲斐しく看病する千恵を見て、文彦は自分が里子にした仕打ちを恥ずかしく思ったのだ。

手術前に一晩だけアパートに帰ることになった里子だが、パトロン・小宮は文彦に「里子はあなたに来て欲しいはずです」と文彦に付き添いを頼む。
手術は安全とはいえない、ときいた里子は
「今まで何のために生きてきたのか」
と激しく動揺していたから、せめて彼女の夢をかなえてやりたい、と小宮は願ったのだった。
一晩中里子の頭を撫ぜて添い寝をする文彦。
父親に「この町ではお前は心中のかたわれだ」と言われた信一は、歩けるようになって東京に出てきたが、家具メーカーの社長はけんもほろろに信一を追い返す。仕事もみつからず、千恵の励ましにもこたえられない信一。

「結局俺がしたことは、世津子を死なせただけだった」

里子の手術が成功したことがきっかけに、文彦は千恵に
「彼が一人で歩けないんだったら、一緒に歩いてやればいいじゃないか」
と言う。喜んで信一に報告に行く千恵だが、仕事がみつからない信一には素直に喜べない。もう自分のことは構わずにいて欲しい、とつぶやくのがやっとだ。

そんな時、家具メーカーでいつも一人で手彫りの家具を作っていた老人が、職人だけはじめた手作り家具の工場を紹介してくれる。だが、それは東京ではない。
そこで何年かかっても一人前の家具職人になるから、それまではやっぱり一人でいなくちゃいけないと思う、と病院を訪ねて千恵に告げる信一。

すでに春の光が溢れ始めた東京。さて、二人の結末は???

最後の最後はこれから観る方々のために、やはり書かないでおこう。

この頃の沖氏は実はかなり私生活を制限されていた節がある。具体的なことは書かないが、何人かの俳優を抱えた個人事務所の経営は、沖氏の仕事にかかっていた。その頃所属していた俳優は、みな沖氏の出演するドラマで役をもらっていたのだ。そんなこともあり、スタッフから過保護とも言える状態で隔離されていた様子を当時何人かのファンの方からきいた。沖氏自身も家で盆栽の世話をしている方が心が安らぐ、と当時の週刊誌のインタビューに答えている。

だが、ファンのために何か吹き込んでくれ、と頼まれた沖氏は、いま一番楽しい時だから、大いに青春を謳歌して、勉強も大切だけど、それより友達とおしゃべりしたりして大いに青春を謳歌してくれ、とメッセージを送っている。本当は沖氏も「大いに青春を謳歌」したかったかも知れない。


「沖雅也よ 永遠に」トップへ