沖さんが遺した詩


(小学校の文集から)

夜中にミシンかける母のすがた
ぼおっとうつる ぼくのひとみに


『プロフィール沖雅也』より 1972年 秋

いま ぼくはトライしている
すべての可能性を
むだなものは切りすてて
まっしぐらに進みたい
造花のバラが ぼくの熱いまなざしで
つよい芳香をはなちはじめるほどに
じっと見つめたい
ぼくをまちうける未来を


「風のことば」1978年 晩夏 ロケ先の海辺にて

あゝ 秋です

風が遠くなり
風が冷めた砂に
かげを落してゆきます。

貝は窓を閉して
風の言葉をきいています。


「少年」1977年発売LP 『孤独』より

烈風が すさまじく
通りを吹きぬけて行った朝
少年は住みなれた町を捨てた
手荷物一つなく ただひたすらに走った
サビ色をして ムカデのような橋を渡ると
少年は山を見た
朝焼けに ただれた山肌に
なぜか知らない 父の胸を感じた
少年はそれを 不思議とも思わず
ただ もうこの町には
二度と帰って来ることはないと思った


「SHIKABANE」1977年発売LP 『孤独』より

もう怪しまないで下さい
降り続く雨の中
幾日も横たわっている 僕の死体のことを
それに骨をひろってくれる人が
あまりに沢山の事件の為に
僕の死体の事も忘れているに違いないのです
僕を踏みつけて過ぎ行く人々は
それが花売りの娘でも 教会の牧師様でも
皆 僕の死体のことに気付かずに行きます
そんな事より人は皆
自分の生きる証を 見つけることで一生懸命です
風が吹き 嵐が来て
季節は僕の皮膚をはぎとり
今に 骨ばかりにしてしまうでしょうが
それでもいいのです
僕は 僕を踏みつぶす人間の重みを感じていたい
そうすれば僕の死が はるかな未来に旅立って
生きていた確かさを 知ることが出来るから
もう怪しまないで下さい
降り続く雨の中
僕の死体が ころがっている事を


「何を‥‥‥」1977年発売LP 『沖雅也 IN DOOR』より

俺は 何をすればいい
 人を 愛する
 人を いとおしむ
 人を 助ける
 いや
 人を 憎む
 人をいたぶる
 人を 殺す
俺は 何をすればいい
 父は 母と子を愛す
 母は 父と子を愛す
 子は 父と母を愛す
俺は 何をすればいい
 男は 女をいたわり かばい
 女は 男をたより 助ける
俺は 何をすればいい
 鳥は 飛び
 魚は 泳ぐ
 人は 考える
俺は 何をすればいい
 愛してみるか
 憎んでみるか
 助けてみるか
 殺してみるか
だが‥‥‥ 俺は一人
 誰に
 どこで
 いつ‥‥
俺は 何をすればいい


「うさぎ」

薄い肉体の奥で
かたかたと骨のふるえる音がしました
すると
青い野原に雪が降って来ました

一人の子供が 雪に埋もれたうさぎを
みつけ
あんまり白いので うさぎの顔がわか
らないと云って 泣きました

わたしも こんなに白くなるのだと云
って泣きました

すると天は
一本の骨を灰にして まきちらし
子供を真白な姿にしました

薄い肉体の奥で かたかたと
骨の笑う声がします
そして
いつまでもいつまでも
雪は降り続けるのでした


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