「北都物語 −絵梨子のとき」1975年1月9日〜5月1日放送 全17話

出演:二谷英明 渡辺美佐子 佐藤友美 浅丘雪路 木村功 永井秀和 五十嵐じゅん 他
沖さんの役名:樋口良

真冬の札幌と天北原野を舞台に繰り広げられる渡辺淳一の世界。
「小さな恋のものがたり」と同じ市川森一の脚本だが、ここではうって変わって大人の男女の恋模様が複雑に絡み合う。


布部絵梨子(金沢碧)は、札幌の女子大に通う女子大生。
大学教授の父親(木村功)は、バー・クラビクラのママ(朝岡雪路)と愛人関係にある。

ススキノでヤクザにからまれた時助けてくれた男・樋口良(沖さん)と交際していたが、別れを切り出すと猟銃で撃たれそうになる。銃は暴発して樋口は怪我をするが、その銃は東畑商事の札幌支店長・塔野(二谷英明)の社宅から盗み出されたものだった。
事件をきっかけに塔野と知り合い、愛し合うようになる絵梨子だが、塔野には東京に妻子があり、秘書の葛原晶子(佐藤友美)も彼に想いを寄せている。
葛原は乳がんの手術の前の体を記憶に留めるため、当時東畑商事でトラックの運転手をしていた樋口と関係を持った過去がある。
絵梨子を想うあまりに狂気に走る樋口・・・。

とまあ、こんな始まり方なのだが、本放送当時はオーディションで選ばれた新人だった金沢碧さんの慣れない演技や、あくまで沖さん演じる樋口を拒否する役柄が許せず、物語の世界に入れなかった。
大学生がバーでホステスをしたり、妻子ある中年男性にどんどん自分から近づいて行ってしまう大胆さも、当時の私には馴染めなかったのだろう。渡辺淳一の描く「男にとって都合の良い女」というのも、何だか違和感があった。

二十一世紀になって再放送された樋口良くんに再会したが、これがなかなかいい奴だったことに驚いた。奔放な主人公に比べたらずっと純情で、一途で不器用な男を、沖さんは見事に演じていたのだ。しまった、子供にはわからない世界だったのかと、今になってまた沖雅也の俳優としての力を再認識した次第。

ラストで良が「雪が燃えた!」というシーンがあるが、この時の柔らかな笑顔が印象的。


〜〜 各話のエコヒイキ付きみどころ 〜〜 
(注:未見の方へ。ネタバレしている部分がありますので、楽しみにとっておきたい方はご覧にならないで下さい)

第1章
冒頭、雪の原野にアーミーコート姿で佇む樋口良。拳銃でなく猟銃を構える姿も美しい。涙を浮かべて
「誰にも渡したくねえんだ。お前を撃って俺も死ぬ」
「俺と一緒に死んでくれるか」
はいはい!と手を挙げたくなる台詞だが、絵梨子は冷やかに「死ねばいいわ、一人で」と答える。
葛原晶子とのベッドシーンが濃厚!

第2章
病院に絵梨子が見舞いに来た時の良の表情が良い。
「だったら何であんなこと許したんだ。初めてだったんじゃないか」
「どっちかに決めとけよ。死ぬか、俺のもんになるか」
沖ファンには一も二もない質問だが、あくまで良に冷たい絵梨子がニクイ。

病院を抜け出した良は妹のジュンコ(五十嵐じゅん)から絵梨子のアパートを聞き出して待ち伏せる。現れた絵梨子をナイフで脅すが、「入れてくれよ。頼む」という声は弱々しく、女性ならすぐ部屋に入れたくなると思われる。
部屋に入った瞬間に絵梨子を抱きしめて激しく口づけする良に「卑怯者」と蔑む絵梨子だが、いつしか良の体を受け入れている。これこそ卑怯者だ。
しかも、コトが終わった後、良は雪の降る中、傷口から出血したまま部屋から出て行くのだ。紳士ではないか。悪い奴ならそのまま居座る。

第3章
良が帰った後、一人で車を天北原野に走らせる絵梨子に、ナレーション(日下武史)が響く。
「望まぬ愛が追いかけて来る。樋口良という死神の愛が」
沖さんを死神呼ばわりするとは、何という番組だ。

病院に戻された良は、葛原の訪問を受ける。はすっぱに「座ったら」と言っておきながら、口調はすぐに優しくなる。癌が再発した晶子に向ける目に、労りが満ちているのだ。
良の絵梨子への一途な愛を知った葛原が、良の妹・ジュンコに「私があの人に惹かれたのは、似ているところがあったから」と言うシーンがあるが、正に私もそんな気分になって来る。
良は天北の開発者の子供で、母親は栄養失調、父親は首をつったという。そんな良にとって、天北を酪農地にしたいという塔野の夢すら、憎たらしく思えるのだった。
緑魔子が経営するサロベツのバー「雪割草」が、何故かずっと胸に残っている。壁にかけてある郷ひろみの写真のせい・・・ではない。あれは前にいる二谷英明に「お宅のお嬢さんをいつかいただきますよ」という予兆が・・・あるわけない。


第4章
毎回ナレーションが気に入らない。
「元の恋人・樋口良の狂気じみた求愛の前にその身を弄ばれた絵梨子は・・・」
強姦のような言い方だが、映像では仕方なく受け入れた絵梨子が、恍惚の表情で身を任せているのだから、良だけを悪者にされては困る。
確かに夜中にアパートに押しかけてドアを激しく叩いたり、電話をするのは困ることかも知れないし、人によってはストーカー行為にもなるが、沖さんが演じると「女が悪い!」となる。
ディスコでもはしゃぐことなく一人で思いつめた表情でいる良は、真剣に恋をしている青年だ。
孤独を抱えて店にやって来た晶子も、何故か良には心を開いて、癌の再発について打ち明けている。
「私には最期の冬」と告白する晶子に一瞬言葉を失った良だが、その後ポツリとつぶやく。
「代わってやりてえなあ」
その時の晶子には、何よりの言葉だったに違いない。だが、晶子は良が絵梨子を愛していることを知っていた。自分にに出来ることがあったら、やってもいいと申し出る良に、晶子は冗談とも真面目ともとれない表情で「もう一度、私を抱く?」と尋ねる。だが、良は「断るよ、ごめんな」と優しく言い、猟銃を盗んだ理由や彼女に夢中であることを告げる。
絵梨子と塔野をめぐって、激しく巡る片思いの輪が、さらにもつれて行く。

第5章
刑事(草薙幸二郎)は良が誰かを殺そうとしたとみて、追求を始める。
あくまで鳥を撃ちに行っての暴発だと言い張る良だが、刑事は絵梨子の存在を突き止め、彼女を署まで呼び出す。
「大追跡」や「俺たちは天使だ!」では、沖さんに逮捕されている草薙幸二郎氏が、今回は刑事として沖さんに迫る。

第6章
行きつけのクラブ(当時はディスコ?)で絵梨子とばったり会った時の、良の台詞からも、良が悪い男ではないことが分かる。
「死ぬほど惚れた奴を忘れろってのか。そんなこと出来るかよ。殺すより難しいんだよ。人を忘れるってのは」

晶子には「いつまでこの世にいるんだ」などと憎まれ口を叩くが、晶子にとっては変に同情されるよりかえって話しやすい様子だ。
そんな晶子と話していた良は、自分に言い聞かせるようにこうつぶやく。
「誰でも一つは持ってるよな。他人に渡せるもんと、死んでも渡せないもんと」

第7章
良がバーで働く妹・ジュンコにたかって、そのツケで酒を飲んだりしているので、沖さんが演じていなければ、容易にただのチンピラになってしまう樋口良だが、配役のテロップでは二谷英明氏の次。悪役ではない。

第8章
別れた女にしつこくつきまとうのは男としてかなり情けないことだが、絵梨子の大学のノートをぺらぺらとめくって「さっぱりわかんねえな」と微笑んだりしているわりには、口から出る言葉はことごとく哲学的だ。
絵梨子は当時の正統派ヒロインとはひと味違った女性で、父親ほど年齢の違う妻子ある男性を自分から誘惑したり、男の自宅へ電話したり、妻のいるところへ知らん顔をして乗り込んだりするので、沖さん演じる良の方がまともな男に見えてしまうのだ。

絵梨子がいる前で晶子と関係を持ったことをばらされても、どちらへもいい顔をしたりせずに、ひたすら絵梨子に「俺が愛したのは絵梨子一人だ」と言う。
塔野の部下・高村(永井秀和)が「何故、こんな男に・・・」と、良に軽蔑の目を向けるが、良に
「お前、命がけで女に惚れたことがあるか。一度でもいいから、命がけで。お前にそんな間抜けは出来ねえよな」
といわれている。
絵梨子には
「教えてくれ。どうやったらお前を忘れることが出来るんだ。お前を忘れることが出来たら・・・。俺だって無様な自分を見たくないよ」
「だけど俺は諦めないよ。お前は俺のもんだからね。俺のものにしてみせるからね」
あなたのものになるというのはどういうことなのかと絵梨子が訊ねると、一瞬すがるような目になってからふっと投げやりな表情になって
「俺の持ってる不幸を残らずお前に背負い込ませるってこと。俺と一緒に地獄へ堕ちて、俺と一緒に不幸になるってこと。色々考えると、そういうことになるらしいな。俺はお前を不幸にしたいんだよ。お前を不幸にするまで、安心できないんだ。」と答えるが、これは絵梨子を幸せに出来ない自分への自虐的な思いが、「不幸」という言葉を「幸せ」と言い換えたいのに、わざとそう言わせてしまうのだろう。
よくわからないのは、塔野が上京中に、良、絵梨子、晶子、高村の四人が塔野の社宅にあがりこんで酒などを飲んでいることだ。挙句の果てには塔野のベッドで晶子は横になり、そこへ良がやって来る。「もしここにいるのが絵梨子さんだったら、あなたどうするの?」などと誘惑されて、みつめる良。この後一体どうなったんだ?と心配していると勝手に翌朝になってしまい、ナレーターの「昨夜の悪夢が晶子の体に残っていた。それは熱く、忌まわしい疼きだった。」という声が続く。え〜っ、階下には愛する絵梨子がいたのに、何かしちゃったの?という疑惑が残るが、何が起こったかは第11話まで明かされることはない。

第9章
絵梨子のアパートで待ち伏せる良だが、彼女は塔野を追って天北に行っていた。家に帰らぬ絵梨子に、ようやく良は塔野と彼女の関係に気付く。
「俺と同じ目に合わせてやる。これはもう、恋でも何でもない」などとうそぶく良は、どうやら物語の中では悪役に仕立てられようとしているのだが、沖さんが演じているせいか、それほど悪い奴には見えない。
高村に連れられて塔野の社宅へ一緒に行くが、塔野は風邪をひいて寝込んだ絵梨子の看病に行き、家に帰って来ない。
まあ、絵梨子が風邪をひいたのは、良が絵梨子のアパートの石油を全部使い切ってしまったのが原因なのだが、それでも絵梨子は塔野の妻が東京から来ていることを知っていながら、塔野を呼び出しているので、良が悪い風に見せようとしても、どうも主役の二人の恋愛の方が分が悪い。

第10章
塔野が一晩中帰って来ないのだから、絵梨子のアパートにいると疑えば良いものを、良は塔野の妻を狙って復讐を図る。だが、妻の寝室は鍵がかけられており、良は自虐的な笑いだけを残してその場を去る。
翌朝、自宅に戻らず会社へ直行した塔野を、カタギとは思えない背広姿の良が来る。全くすごい。明るい茶のスーツに、中は石原裕次郎氏も真っ青のオレンジのハイカラーのYシャツ。ネクタイも太い!
絵梨子と良の関係を知らない塔野が、良に天北プロジェクトの仕事に就けるよう、世話をしたため、お礼に訪れたのだが、実はそれは口実で、良は塔野に「絵梨子と結婚を考えている」と、さりげなく告げて宣戦布告する。
ここまで来て、なぜ本放送から私は絵梨子に好感を持てないのかがわかった。
彼女はなかなか好戦的なのだ。
良心の呵責からか、妻を登別に伴った塔野を追った絵梨子は、夫婦で食事をしているところへ平然と割り込んで同席するし、ラウンジでは「おじさまが好き」と涙を見せ、部屋に入ると抱きついて彼を自室に帰さない。妻に電話した塔野が「ラウンジにいる」とウソをつくと、ラジオのスイッチを入れる。
これでは、「私は何も望まない」といっても、かなり無理がある。妻から夫を奪うヒロインは、この時代にはまだなじまなかったし、もしそうだったとしても、ヒロインは悩み苦しみ、身を引こうとすることで視聴者は納得していた。このヒロインは、渡辺淳一の描く夢を実現させてくれるが、男性を震え上がらせ、女性に反感を抱かせるのに十分だった。だから、良がいくら絵梨子に固執しても、それがかえって一途に見えるのだ。

第11章
塔野が妻と一緒に札幌に帰ってしまったことを、良が絵梨子に知らせに来る。身を引く絵梨子だが、良はただ優しい目で彼女をながめて去る。

あと数ヶ月の命とわかった晶子は絵梨子を訪ねるが、晶子は絵梨子が妊娠していることを知り、敗北感に打ちのめされる。そして沖ファンは、晶子の「彼は私があなただと思って抱いたわ」という台詞に打ちのめされる。一途な男だと思っていたのに、良くん、やっぱりあなたもただの男だったのね。階下に愛する人がいるのに、他の女性を抱くとは。
そんな良だが、妹思いの男ではある。
家に帰った時、妹・ジュンコの様子がおかしいことに気づき問いただすが、ジュンコは高村に抱かれたことを隠す。
バッシーン!平手打ちは七十年代ドラマのお約束。
「痛かったか。なあ、男が来ちゃいけないって言ってるわけじゃない。」と、優しい目でみつめる。こんな兄がいたら、血がつながっていようとメロメロになりそうだ。
「お前、不幸になってどうする」という良は、どんなことがあっても妹だけは幸せにしたいという思いで溢れている。
沖さんも妹をかわいがっていたようなので、妹を労わる仕草がとても自然だ。五十嵐じゅん(現・淳子)さんも、とても愛らしい。

第12章
これまでのあらすじがナレーション入りで紹介される。
良は「狂気の情熱で愛を迫る男」と呼ばれているが、塔野と一緒にスキーに行った絵梨子が帰って来た時にアパートへ訪ね、
「支店長はもうすぐ会社をクビになる。支店長とは別れるんだよ。それだけ言いたくて来た」と言っただけで去る。どこも狂気ではない。妻や絵梨子の父親にばれていると知りながら、会社を休んで絵梨子とスキーに行った塔野の方が、よほど危ない。
去り際に良は晶子が行方不明になったことを絵梨子に告げる。
「バカで、可哀想で・・・まあ、俺も人のことは言えないけど」と、寂しく微笑む。私も、沖さんに狂ってどうしようもなくなっている自分を、こんな風に見てもらえれば救われるように思える菩薩の笑顔だった。

第13章
元運転手だった良が、天北開発プロジェクトチームの一員として迎えられ、三つ揃いで会議に参加している。天北出身の彼は確かに現地の事情に詳しいのだが、商社の常識では考えにくい人事だ。
晶子が塔野に遺書を遺してサロベツの原野に消えた。
塔野は良を伴い天北へ向かうが、車中で良に絵梨子から手を引くように頼む。だが、良は、もし塔野が絵梨子を自分に返すと言って来たら、その場で塔野を殺したと告げる。
「俺が本気で惚れた女ですよ。ただのオモチャで遊ばれちゃかないませんからね」
相手の気持ちを考えずに自分の愛を押し付けようとするし、支店長に運転させている良ではあるが、素直でない大人たちの物語の中では、彼のまっすぐな想いが気持ち良い。
天北のバー「雪割草」では良と塔野、そして同じく晶子を探しに来た絵梨子が並ぶ。
黒いベルベットの上下に、大きな牙の形の銀のネックレス。その姿で晶子の死を哀しむ良。
「絵梨子、俺何でお前みたいな女に惚れちゃったんだろうな。晶子さんは見栄っ張りでバカな女だったよ。でも、男の辛い気持ちがわかる女だったよ」
しかし、自分の愛はひとつしかないと言う絵梨子に、「そのひとつを必ず俺が奪い取ってやるからな」と宣言しながら、塔野と絵梨子を置いて一人で札幌に帰ってしまうとは、何たる失策。

第14章
ライバル・神山部長の策略で塔野のスキャンダルに関する怪文書がまかれるが、ジュンコにそれをほのめかされた絵梨子は、ジュンコを訪ねて良のアパートへ行く。
ドアを開けた時の嬉しそうな表情もいいが、塔野を救うためなら良の言いなりになると言う絵梨子の言葉に、一分の喜びと、彼女の愛の深さをを知ってしまった涙。沖雅也は一流の役者だと、この微妙な表情からよくわかる。

第15章
酔って帰宅したジュンコを迎え入れた良は、なんとレザーの上下。家に帰ったばかりなのかも知れないが、畳の部屋であぐらをかくにもレザーは膝が曲げにくい・・・などと考えていると、そのままお茶漬けをすすり始める。う〜ん、美しい。美しい男はお茶漬けを食べていても美しい。この頃の沖さんは、とにかく美しいのだ。美男子という言葉は、彼のためにあるものと言っても過言ではないと思わせる。
天北開発が中止になり、良は絵梨子を訪れて別れを告げるのだが、絵梨子が塔野と別れたことを知った途端、絵梨子の肩をつかんで、「俺と一緒に行ってくれないか。絶対に後悔はさせない。どうやったらお前の気に入るんだ」と夢中でアピールする。
絵梨子が塔野の子を妊娠していることを告げると、それは自分の子だと言い張るが、黙って首を振る絵梨子を見て、負けを悟る。



第16章
サロベツに行った良はバー「雪割草」でママ(緑魔子)に手相を観てもらい、「あんた、長生きするよ。雪でも燃えない限り、あんたは死なない」と言われる。
蝋燭の火をみつめる良の瞳が潤み、ママに「今夜私を暖めてもらえないかな」という誘いにも、
「いいんだけどさ、思い出すんだよな、想い出したくない女の顔を。嫌じゃない?」
切ない表情でママをみつめる良は、店の外に出ても宿とは反対の崖の方向へ行きかける。
サロベツから帰って再び塔野を訪れた良は、これまた目のくらむようなブルーのYシャツに同色のネクタイ、変わった形のダブルのスーツ。どうやらこれらは沖さんの自前の衣装のようだ。
絵梨子が子供を産んだら自分達が引き取るつもりだと言う塔野に、「絵梨子それで承知しましたか」と、彼女を気遣う。
「幸せにしてやって下さい。絵梨子を幸せにしてやって下さい」
雪解けや天北開発の中止とともに、彼女への愛も消えていることを実感している塔野に比べて、何と純情なことであろう。
その夜、酔ってタバコを吸ったまま寝てしまった良が目覚めたとき、周りは火の海だった。
「雪が燃えた!」
良は優しく微笑みながら炎に包まれる・・・。

第17章(終章)
良の死を知った絵梨子は、ジュンコ、高村、そして塔野夫妻の目の前で、流産したお腹の子が良の子だったと告げる。
「私の赤ちゃん、良さんが一緒に連れてっちゃった・・・」

炎の中で微笑む良は、いつまでも私の心の中に残った。良の死だけでなく、言い争う大事なシーンで台詞を噛む金沢碧さんや、「やさしいおじさまが好き。やさしくして」という唐突な台詞など、細かいところまでが記憶に残ったのは、衝撃的な展開だったからかも知れない。
「北都物語」のオーディションに合格して芸能界にデビューした彼女は、この作品デビュー作なのだが、女子大生にしては大人っぽく、和服で髪をアップにしていたりすると、父親役の木村功氏と夫婦といっても違和感がなく、むしろ二谷英明氏を「おじさま」とコケティッシュに誘惑する方に違和感があった。画面を通すとなんだか顔が大きいようにすら思えた。
だが、エキストラのアルバイトで実際に垣間見た彼女は、ちゃんと周りの人間とは違ったオーラを出していた。顔も小さかった。失礼なことをした。
移動のバスの中でじっとうつむいていた彼女は憂いがあり、スタッフがどうしたのかと中をのぞいたのだが、彼女はただ爪を切っていただけだった。爪を切っていても様になるのだから羨ましい。
私はといえば、そのドラマで成人式の着物姿で歩いたのだが、オンエアで観たその姿は、立派な土俵入りだった。

晶子と良の想いの激しさは、結局この世には向かないものだったのだろうか。
生き残った人間はそれぞれ妥協し、絵梨子と塔野にも劇的な別れはないまま物語は終わる。
塔野の「悲しいことに、人生は一度っきりなんだ」という台詞は、若い自分には後悔とも弁明とも思えたが、今になればその意味がよくわかる。

以下は、樋口良くん、ファッション・ショー!

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