1974年前半



三四郎  1974年1月7日〜2月1日


胸が躍った。とうとうNHKに出演することになったのだ。しかも主演ではないか。

原作は言わずと知れた夏目漱石。文芸作品の主演でNHKデビューを飾るとは、
今まで沖雅也という俳優を信じて応援して来た甲斐があったというものだ。
第一回の放映日には新聞にコメントが載っている。
『三四郎と同じ九州育ちのぼくには
初めて見る大東京の何もかもが驚きである主人公の気持は、すごくわかります』

東大生と家出少年とでは上京した時の気持にかなり差があるだろうが、
戸惑う気持は共通する。ただし、沖さんは三四郎を『素朴で幼い感じ』と表現し、
『ぼくの中学生時代とよく似ています』とあっさり子供として片づけてしまっている。
東京の真の闇をさまよった沖さんには、三四郎の悩みは幼いものとして映ったのかもしれない。


物語はほぼ原作に沿って進む。
真面目で無口な役柄は、これまでと全く違う沖雅也を見せてくれた。
本当に沖さんはいい意味でファンを裏切る七変化を見せてくれた役者だと思う。
篠ヒロコさんとのツーショットを見て、「太陽にほえろ!」の
『すれ違った女』と同じコンビだと思い出す人がいるだろうか。

沖さんは同じインタビューの中で
『ぼく自身はアクションに向いていると思っています』
と語っており、この「三四郎」がうまく演じられていないと内省している。
『2〜3年後にはきっとうまくできるようになりますよ』
『アクション俳優ではなく、アクションも出来る俳優だということです』

沖雅也氏、生意気盛りの時期の発言。
素人考えかもしれないが、この作品は個人の内面を抉ったものだから、
映像化すること自体が難しく、原作通りに運ぶより、
映像ならではの工夫があれば、もっと生き生きとしたのではないかと思った。
沖さん自身が反省していたように、沖三四郎はカツラでさらに背が高くなった
無口な若者としてしか、当時の私には映らなかった。
今観れば、また違った感想があるかも知れないが、NHKには映像が残っていないそうだ。残念。

青葉繁れる  1974年4月5日〜5月30日(全9回)



またまた高校生に逆戻りした!
いくら何でもこれはないだろう。
沖さんの役は東京から転校してきたキザな優等生だが、
劣等生役の面々を見ても、誰一人高校生には見えない。
沖さんの出世作「クラスメート」で同級生役を演じた近藤正臣氏は
当時30歳だったというのは有名な話だが、
ただでさえ年より老けて見えた沖さんを筆頭に、
何年高校生をやれば済むんだという人達ばかりでキャスティングされている。

森田健作さん、野村真樹さん、三ツ木清隆さん、そして「小さな恋のものがたり」で
いいコンビだった赤塚真人さん。
この5人のマドンナには竹下景子さん。
他にも沖さん出演の番組ではおなじみの津坂まさあき(現・秋野太作)さん、
藤岡琢也さんも出演されていた。
竹下景子さんとはとても共演が多いが、
この時は彼女はまだ「お嫁さんにした女優No.1」という肩書きもなく、3択の女王でもなかった。
劇中劇で沖さんは「小さな恋のものがたり」に続いてロミオを演じている。
「何故にあなたはロミオなの?」白いタイツもお似合いだった。

ひとつ特筆すべきことがある。
この番組の主題歌を沖さんが歌っているらしいのだ。しかも東北弁で。
上記の5人で歌っているということだが、赤塚氏のダミ声がよく響いて(笑)
沖さんの声が判別できない。
まさか口パクしていたわけでもないだろうが、本当に沖さんも参加していたかどうか、知りたいところだ。

♪300人中 280番
だけど尻から数えてけさい
逆立ちすれば 逆立ちすれば
東大確実だっちゃ!

友人は言った。
「上から20番じゃ東大は無理だよ」
それもそうだ・・・・。

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おんな家族  1974年4月2日〜9月24日


これも「未婚・結婚・未再婚」「おやじの嫁さん」「泣きべそ・ほほえみ・六本木」などと同じく、
家族を中心とした小さな騒動を描いた典型的なホームドラマだ。
出演者も北林谷栄さん、山岡久乃さん、沢田雅美さん、市原悦子さん、
淡島千景さんなど当時のホームドラマの常連で固められている。
男性陣では「1・2・3と4・5・ロク!」で共演済みの山内明さん、
のちに「ふりむくな鶴吉」で共演することになる西田敏行さん、ハナ肇さんなど。
沢田雅美さんと岸部シローさんが夫婦になるという「太陽にほえろ!」ファンなら
ニヤリとしてしまうであろう組み合わせもある。


沖さんの相手役は大川栄子さん。「キイハンター」で共演した頃は沖さん演じる『滝裕二』は
“坊や”と呼ばれていたが、今度は立派な相手役になっている。
年齢より老けて見える沖さんは、実年齢では年上の女優さんが恋人または妻に
キャスティングされることが多かったように思う。
それにしても大人っぽくなって大川栄子さんの前に登場した沖さんは何と言われたのだろうか。

「まあ、すっかり立派になって」
「もう坊やなんて呼べないわね」

こんな台詞を勝手に想像してフフフ・・と笑う私は、まるで美少年の息子を溺愛する母親である。

沖さんのホームドラマでの役どころは、そんな母親達にも好感度1位に選ばれそうな誠実な若者が多い。
実際、沖さんのファンには高齢の女性も多かったようだ。
対談番組で森山良子さんに、彼女の90歳のお祖母様も憧れていると言われて
「それは嬉しいですね」と感激していた沖さんだが、
高齢層にもウケが良かったことがNHKの主役に抜擢された理由かも知れない。
ご出演は17回、19〜25回。

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幡随院長兵衛 お待ちなせえ  1974年4月5日〜10月4日


この作品は最近も何度か再放送されたから、ご覧になられた方も多いと思う。
原作は浪曲か何かで、美青年白井権八との対決がヤマ場ときいていたので、
もしやその美青年かと期待していたが、沖さんの役はモミアゲ男、唐犬権兵衛だった。
ちなみに美青年の方は当時本当に美青年だった志垣太郎さんが演じていた。


主演は平幹二朗さん。子分には沖さんの他、田中邦衛さん、江守徹さん、
沖さんとは共演の多い小松政夫さん、と豪華メンバーだ。
女優陣も沖さんとはのちに「蒲田行進曲」では相手役となる大原麗子さん、
大阪での舞台の相手役・土田早苗さん、
「気になる嫁さん」の水野久美さんなど多彩だ。

リアルタイムで記憶にあったのは放映初期に流れた主題歌。
富田勲作曲ではあるが、『チェイ光星』なる歌手のクセの強い歌い方に
「下品だからボリュームを下げてちょうだい」
と母からクレームがついた。
15話からメロディーはそのままだが軽快なBGM曲に仕上げた別バージョンに切り替えられたのは、全国のお母さんからクレームがついたからだろうか?!
タイトルも「幡随院長兵衛」と短くなり、勧善懲悪の爽快時代劇という色合いが濃くなる。
「はぐれ刑事」を彷彿とさせるジャジーなBGMとなり、
サブタイトルは"女シリーズ”が増える。色気で視聴率アップを狙ったのだろうか。

もうひとつ、最終回に斬られてチョンマゲがほどけたザンバラ髪の長兵衛が
スローモーションで倒れる姿は鬼気迫り、瞼に残る映像だった。

これも準レギュラーで、沖さんは勢い余る若手という立ち位置をうまく押さえているが、
殺陣はその後の江戸シリーズなどで見せる素晴らしさと比べれば、
まだまだ発展途上という感じ。
殺陣の林邦史朗氏によれば、
この番組はサブの岡本氏に任せることが多かったとのこと。(しかし第一話にはご出演)

その頃の後援会報で沖さんの22歳の誕生日についてが書かれている。
今の22歳の俳優と比べるとあまりに老成しているので驚く。
「朝4時半か5時頃にロケに出かけることが多い」
「味噌汁を作れるようになりたい」
などの発言も興味深い。
この頃より髪型もオールバックが定着してきた。ヅラをかぶるためだったのだろうか?

ご出演は1〜7、9〜10、12、14、17、20〜22、24〜26(終)話。
※◎=主役回 ○=出番多し ×欠席回

1『長兵衛誕生』
2『男度胸の花が咲く』
3『刀に賭けた男意気』
4『大江戸暴れ馬』
◎5『吠えろ唐犬』
6『父娘を結ぶ琴の糸』
7『俎の上の鯉』
×8『帰って来た伊達男』
9『めぐり逢いの日』
10『男一匹心で勝負』
×11「乙女は体を張った』
○12『甦った恋』
×13『江戸娘は情で走る』
14『女が燃える!』
×15『怪談・呪いの古井戸』
×16『情死』
17『大江戸無責任男』
×18『熟れた貢物』
×19『怪談・鬼火ヶ淵』
○20『鉄火場の女』
21『命果つる日』
22『狙われた祝言』
×23『拐された女』
◎24『哀しい女』
25『非業の死』
26『男伊達一代』(終)


バーディ大作戦  1974年5月11日〜1975年5月17日


一時は50%を超える視聴率を誇り、その威光が少し陰りはじめた頃には沖さんも
何作か準レギュラーとして出演した長寿番組「キイハンター」。
その後に一年間「アイフル大作戦」が放映され、
そのまた後番組として登場したのが「バーディ大作戦」だ。
出演者も「アイフル大作戦」と少しダブり、三作連続出演の丹波哲郎氏の他、
「おいで、追出」といつもからかわれていた追出刑事(藤木悠)に行内刑事(小林稔侍)
が加わるというシャレがついていた。
沖さんの役名は「韋駄典介」で、読んで字のごとく足がとても速いという設定だったが、
疾走するシーンはあまりなく、沖さん自らファンだと公言していた
和田アキ子さんにいじめられている方が多かった。

内容は「キイハンター」からの伝統を受け継いだ奇想天外なアクションストーリーで、
『フーセンの寅』に扮した典介が寅さんよろしく口上を切る回は楽しいのだが、
沖さんは「ふりむくな鶴吉」への出演が決まり、降板。
当時は東映のお偉方に随分と怒られたらしいが、
本格派俳優として大きなステップとなるNHKの時代劇出演となれば仕方なかったのであろう。沖さんのご出演は22話まで。

1『連続ピストル強盗団』
2『現金輸送大追跡!』
5『キッスは殺しのパスポート』
6『殺し屋収容所』
7『スター連続殺人事件』
9『怪談 死を招く超能力の女』
10『吸血ワラ人形の大予言』
11『真夏の海 殺しの請負業』
12『縛り首の木のある悲しい町』
13『俺たちダーディハリー3』
14『危機一髪!フーセンの寅』
15『北極に向かって大追跡!(前編)』
16『大雪渓殺人ドライブ(後編)』
18『キャーッ!死体が訪ねて来た』
19『幽霊と同棲する女』
22『真夜中の美女強盗団』


この写真のGジャンはバーディーのユニフォームで、よく見えないだろうが、左胸にロゴがついている。
(ちなみに、後ろに写っている赤い車は、沖さんの当時の愛車ポンティアック。)

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