「愛と憎しみの宴」 1976年10月6日〜77年3月30日

スコッチ刑事が「太陽にほえろ!」にデビューするのに遅れることひと月で始まったこのドラマだが、出番は悲しくなるほど少ない。
お情け程度に顔を出しているだけだ。
台本からの情報だと、沖さんのご出演は第1、2、8、10、11、12、18、19回となっているが、私の記憶では『そんなに出てたっけ?!』という印象なので、出演した回でもせいぜい数シーンのみだったのだろう。
だいたい76年は「太陽〜」の他に大阪で舞台があったし、77年2月から放映の「幻花」にも主人公の恋人役で出演していた沖さんには、無理なスケジュールだったのだ。

出演者は豪華な顔ぶれだ。美紗子(新珠三千代)が自己の復讐のために夫の洋之(二谷英明)を出世させようとして手を尽くす、というのが大きな流れ。
乗っ取りをくわだてる相手は大河内建設で、頭取の木下(丹波哲郎)、その娘・秋子(音無美紀子)、大河内直系の亮(津川雅彦)などが、それぞれコワーイ大人の世界を繰り広げて行く。

美紗子と洋之、そして木下の三角関係の他、秋子と剛一郎(清水章吾)、洋二(大門正明)の三角関係、剛一郎と愛人弓子(田口久美)の心中、通子(丘みつ子)と洋之、神谷(柳生博)の三角関係もあった。そんなドロドロ〜ンな物語の展開の中では、政略結婚とはいえ明るいカップルだったのが武史(沖さん)と姿子(岡江久美子)。抱き合う二人の表情も明るい。




<<当時の記事から>>
「愛と憎しみの宴」に出演中の岡江久美子が、恋人役の沖雅也との身長差に泣かされている。「私が157センチ、彼が182センチ、25センチも違うでしょう、キスしようと思っても、顔と顔が完全にすれ違った位置にあるんですもの・・・」男たるもの、必ずしも背が高けりゃいいってもんじゃないんだネ。

「幻花」 1977年2月14日〜5月23日

スコッチ刑事が転勤して行く少し前に始まったこのドラマは、夜10時からの放映ということもあって大人向け。
「太陽〜」は現代劇であり、実際にある刑事という仕事を物語にしていながら、現実的には全く有り得ないような人物設定であるのに対し、こちらは時代劇で、歴史上は存在しない人物を主人公にしているにもかかわらず、人間の心理をよく抉っていたと思う。この枠で放映された「ポーラ名作劇場」は佳作揃いでどれも楽しめたが、「幻花」は室町時代というちょっと馴染みの薄い時代を、入り組んだ人間関係やハラハラするストーリーで一気に見せてくれた。ちなみに、原作は瀬戸内晴美(現・寂聴)。

千草(中野良子)は、実は将軍・足利義政(山口崇)の妻・富子(夏純子)と双子であったが、当時は位の高い者に双子は「畜生腹」といって忌み嫌われたので、密かに貧しい庭師・善阿弥(下元勉)の孫娘として育てられた。血が繋がらないとは知らない兄の又四郎(沖さん)は、美しい娘に成長した千草に次第に心惹かれて行き、また千草も同じ思いを抱くのだが、千草は村で評判の賢い娘となったことから、義政の母(三益愛子)に取りたてられる。彼女の仕事は義政の愛人・お今(藤村志保)のスパイをすることだった。お今は年上の愛人ではあったが、義政の寵愛を一心に受けていたことから、義政の母は彼女を抹殺しようとしたのだ。
他に、千草が幼い頃から姉のように慕っていた盲目の琵琶弾き・おしん(佐藤友美)と、彼女と愛し合う生臭坊主・一休(金子信雄)、義政の母と千草の間者・悦阿弥(金田龍之介)などがそれぞれ役者としての個性を発揮、それぞれのキャラクターが面白いように絡み合う。
沖さんの演じる又四郎は、原作では学問を受けていない素朴な庭師だが、TV版では千草が実の妹でないことを感じ取ったり、密命を受けて仕事をしたりもする賢い青年として描かれている。千草がお今の元に奉公することになった時も、危険を感じて反対している。だが、又四郎は千草が関白から「命に背けば、父と兄の命はない」と脅迫されていることを知らなかった。

夏純子さんの気の強い富子は正にはまり役で、ドラマを観てから原作を読んで「富子が強い視線でにらみ」などという個所が出てくると、あの大きなお目々が浮かんだ。考えれば富子は可哀想な女だった。十六歳で義政の元に嫁いだものの、夫は年上の愛人に骨抜きにされて、自分にも政治にも感心がない。それできついことを言えば言うほど夫から疎まれてしまうのだ。一方、お今を演じた藤村志保さんは、古風な顔立ちとおっとりとした雰囲気が、お今の純粋で人を疑うことを知らない性格をよく現していた。原作では義政とのベッドシーンがかなり細かく描写されていたが、そこはテレビなので綺麗にまとめてある。お今は千草がスパイとも知らずに信頼する優しい女を見事に演じていたので、千草が裏切るのが辛くなるシーンも生きて来たし、彼女が義政の誤解を受けて割腹死を遂げるシーンは、涙がとまらなかったのを覚えている。佐藤友美さんと金子信雄さんも、大人の悲しい愛をしっとりと見せてくれた。
室町時代という高校生にはまことにわかりにくい時代の物語であるにも拘らず、内容が濃かった。沖さんの出演作品の中では、私のベスト3に入る名作である。

物語とは別に、もうひとつみどころがある。それは沖さん自身が手塩にかけて育てた盆栽が、セットとして“出演”していることだ。盆栽展で入賞した「真柏」も登場する。そういえば、この年の盆栽協会のカレンダーの表紙も、この真柏だった。堂々とした美しい流線形を描いた松だ。そんな意味でももう一度観たい作品のひとつ。再放送を熱望する。

「悪魔が来りて笛を吹く」 1977年6月25日〜7月23日

平成の世になっても金田一耕助を演じ続ける古谷一行氏の「横溝正史シリーズ」のうちのひとつ。推理ドラマなので詳しくは書けないが、横溝作品に共通する旧家の「血」をめぐる殺人事件だ。
名探偵・金田一耕助が介入してから、なんと六名もの人間が命を落とす。それで名探偵なのかという疑問も湧くが、それでも飄々としているところが古谷金田一の魅力でもある。

戦後すぐに実際に起った帝銀事件を真似て、「天銀堂事件」が起ったことから惨劇は始まる。
犯人の似顔絵が、元華族の子爵・椿英輔(江原真二郎)によく似ており、彼は事件後しばらくして失踪、自殺する。だが、英輔の妻・あきこ(漢字変換が出ないので失礼。「火」へんに「禾」)(草笛光子)、乳母の信乃(原泉)、女中の種(白石幸子)らは度々英輔を目撃する。果たして英輔は生きているのか?

英輔の娘・美禰子(壇ふみ)から真相究明を依頼された金田一は、音楽学校に通う美禰子の従兄・新宮一彦(星正人)の友人ということにして、椿家で開かれた砂占いに参加するが、砂に現れたのは不気味な「悪魔の紋章」、そして誰もいないはずの二階から、英輔が作曲した「悪魔が来りて笛を吹く」のフルートの音。
その夜第一の殺人が起る。アキコの伯父である伯爵の玉虫公丸(加藤嘉)が殺されているのを、玉虫の愛人・菊江(中山麻里)が発見する。

子爵・新宮利彦(長門裕之)はアキコの兄であり、妻の華子(岩崎加根子)と息子の一彦と共に、アキコの家に同居していたが、彼は第二の犠牲者となる。

第三の犠牲者は淡路に住む尼・妙海尼(東郷晴子)。彼女は犯人の出生の秘密を握る人物であった。さらに、アキコと公然の同居を続けていた主治医の目賀博士(観世栄夫)も庭で殺されているのが発見され、天銀堂事件の容疑者である飯尾豊三郎も顔面をメチャクチャに壊された姿で発見された。

沖さんの役は椿家の下男・三島東太郎で、戦後の混乱の中で食料の調達や庭の手入れなどをしている。いつも手袋をしていて、金田一が右手の中指と薬指がない、と推察しているが、下男にしては髪型が決まりすぎていることなどには気がつかない(当たり前)。
この東太郎はなかなかのインテリで、復員した後は闇物資のブローカーをしていたというが、英文タイプやフルートもこなすことが最終回でわかる。金田一に「どおりで上方訛りがあると思いました」と言われているが、全くの標準語に聞こえるのだが、どうだろう。
アキコがこの物語の中核を握る人物なのだが、残念ながら草笛光子さんはこの役には合わないような気がする。個人的には大好きな女優さんであるし、名優であることも十分承知しているが、このアキコはお嬢様中のお嬢様であり、成人した娘がいる身でありながら、少女のような天真爛漫さと男を夢中にさせる妖気を合わせ持った女でなければならない。だが、草笛さん演じるアキコは、乳母に花のリボンを差し出して「今日はこれつける」などと言っているシーンや、間男の存在を疑う目賀博士に「ゆるして・・」と微笑んでごまかしてしまうシーンなどがかなり不自然に見えるのが残念であり、犯人が犯行を告白し、哀しみを表現する時点で妨げになっている気がする。アキコが犯人が誰かを気づいた時、犯人がアキコをみつめるシーン。この時の目が絶品なだけに、尚更惜しまれるのだ。

個人的にちょっと辛いのは、新宮利彦の棺を運ぶ沖さんの姿だが、浴衣から透けて見えるパンツが辛いとも言える。そして最終回では鍛え上げた肉体も堂々披露して下さる悲喜こもごものこのドラマ。(そんなくくりをしていいのか?)は推理ドラマとしても面白いので、是非一見をお薦めする。DVD化して発売されたので、入手しやすい作品。

「情炎・遥かなる愛」 1977年7月7日〜9月29日

スコッチ刑事の後、沖雅也の名は全国の老若男女に広まったかに思えたが、たった半年で転勤という形で「太陽にほえろ!」を去った後は、華々しい仕事はなかった。「太陽〜」は俳優に見せ場を作ってくれるから、普通のドラマが物足りなく感じることもあったが、そうではない。主役がとれないのだ。
この「情炎」もそうだ。主役は島田陽子(現・楊子)さんで、相手役は中尾彬さん。沖さんの役は島田陽子さん演じる妙子のお見合いの相手で、いわば「当て馬」の役割である。
哲也(中尾彬)と妙子(島田陽子)はガス爆発事故で閉じ込められた喫茶店で出逢い、哲也の冷静な事故処理を見た妙子は、彼に恋をしてしまう。だが、当時のヒロインは積極的な女性は敬遠され、しとやかでつつましく、しかし芯はしっかりしているという大和撫子が多かったし、当時の島田陽子さんはその代表ともいえる女優さんだった。
お互い恋心を抱きながらなかなか思いを打ち明けられない二人、という設定は今もドラマの常套手段であり、それぞれ他の人から思いを寄せられてしまうというのもよくあるパターンだ。要するに良く言えば恋愛ドラマで、はっきり言ってしまえば昼の帯の方が似合うメロドラマだった。主題歌に「女の細道」という歌詞があったが、この時代にあっても既に時代遅れな響きだった。
妙子は17年振りに母親・ふさ(淡島千景)と再会し、ふさの友人の実業家・服部(三橋達也)の弟・宏(沖さん)と見合いをさせる。だが、妙子は既に哲也に惹かれているので、宏に気に入られてもはっきりとした返事をしない。哲也の前恋人・由美子(赤座美代子)に食ってかかられた妙子は、やけくそで宏と出かけたりもする。宏は気のいい青年で、妙子と譲(清水章吾)の噂が流れた時は、噂を信じて捨て鉢になった譲の恋人・マリ子(伊藤めぐみ)と飲みに出かけたりもする。だが、そのデートを目撃した年上の女性・たまき(磯野洋子)にナイフで刺されてしまう。たまきは宏が好きだったのだ。
・・・と、ここまで書けばおわかりであろう。要するに、主役の二人をめぐって誤解やすれ違いが繰り返されるのだ。こういうドラマは自分が共感できるキャラクターが出来ればのめりこめるのだが、残念ながら私にはこのドラマの中に感情移入できる人がみつからなかった。妙子がなぜ沖さんでなく中尾彬さんを選んだのか不可解に思えたのは、ファンの身びいきであろうか?

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