耐震強度偽装問題(姉歯事件)と耐震相談

ホームへ 目次の分離 更新情報 (最終更新日:2012/03/26 )


 姉歯秀次元一級建築士の耐震構造計算偽造(姉歯事件)は2005年に発覚し大問題となった。私もマスコミから連日の取材を受けたが、国会やマスコミの姿勢に疑問を感じた。
 この事件のどこに問題があり誰が悪いのか解き明かす。
  1. 下層無 ゼネコン・建設業の実態
    姉歯事件と直接関係ありませんが、事件の土壌となった業界や行政の驚くべき体質が暴露されていますので興味が御座いましたら是非読んで下さい。
  2. 開閉 耐震偽装の何が悪いのか
    1. 下層無 コストダウンの圧力
    2. 下層無 鉄筋削減の圧力
    3. 下層無 部材削減の影響
    4. 下層無 耐震強度不足
  3. 開閉 耐震偽装の責任の所在
    1. 開閉 明らかに黒
    2. 開閉 もしかすると白
  4. 開閉 耐震偽装 誤ったイメージの定着
    1. 下層無 単独犯行の可能性
    2. 下層無 マスコミの姿勢
    3. 下層無 「知らない筈はない」のか
    4. 下層無 拙劣な証人喚問
    5. 下層無 なぜ間違ったか
    6. 下層無 嵌められた面々
    7. 下層無 正直者の話は詰まらない
  5. 開閉 耐震偽装 浮かび上がった事実
    1. 下層無 氷山の一角
    2. 下層無 新旧計算方法の違いと耐震偽装
    3. 下層無 人による計算の差
  6. 開閉 結論
    当ページでは事件が解明される以前から断片的な情報を基に独自の推理を進めてきました。
    警察の取り調べや裁判などによって、やはり私の推理が正しかったことが明らかになりました。
    1. 下層無 姉歯秀次の個人犯行
    2. 下層無 必要鉄筋量の嘘
    3. 下層無 マスコミの嘘
    4. 下層無 無責任な自己責任論
    5. 下層無 きっこの日記
    6. 下層無 大手ゼネコンをなぜ責めない
  7. 開閉 耐震相談
    住宅などの耐震性の関心が高まっているが、危険性(安全性)に関する常識や通説が正しいのかどうか検証する。
    1. 下層無 木造とコンクリート造の比較
    2. 開閉 階別の比較
    3. 開閉 造られた年代と安全性
    4. 開閉 構造と耐震性
      1. 下層無 耐震・制震・免震構造の違い
      2. 下層無 タワーマンションの是非


ゼネコン・建設業の実態(他ページ)

 姉歯事件と直接関係ありませんが、事件の土壌となった業界や行政の驚くべき体質が暴露されていますので興味が御座いましたら覗いてみて下さい。
(上記タイトルをクリックすると当サイト内にある「建設業の実態」のページに飛びます)

姉歯事件(耐震強度偽装)の何が悪いのか

コストダウンの圧力

 姉歯事件(耐震強度偽造)について販売主のヒューザーなどから姉歯秀次に対してコストダウンの圧力があったかどうかが大きな問題とされている。私もマスコミ数社からそういう質問を受けた。
 これは私からするとどうしようもない愚問だ。私は木村建設にもヒューザーにも黒幕と噂された総合経営研究所にも所属していないし、今回初めて知った会社ばかりだが、答えは「あるに決まっている」だ。そんな事は内部の人間でなくても分かりきっている。
 そもそもコストダウンを要求しない会社などあるだろうか。「金と時間が幾らかかっても気にしなくていいからね」などという社長がいる訳が無い。
 現に日産自動車のゴーン社長は徹底的なコストダウンを断行して高く評価されている。なぜ建設業界だけがコストダウンを否定されるのか。もちろん構造部材の質を落として耐久性を不十分にするなどの不正があってはいけないが、なぜ建設に関するコストダウンについては材料費を値切る事しかイメージが沸かないのだろうか。一つには誰がやっても大差のない仕事だから新しい工法の開発によるコストダウンには限界があるという事は考えられる。しかし他の業界ほど合理化が容易でないにせよ、例えばゼネコンを通さないCM方式などの導入によりまだまだかなりのコストダウンは十分可能だ。
 例えば、これは全く芸の無い方法ではあるが凝った形の建物より単なる四角い建物を建てる方がコストや施工の手間や工期などについてはずっと楽になる。無論これは違法でも何でもない。合法的にコストダウンを図ろうとすれば幾らでも方法は考えられる。
 むしろコストダウンは建設業者にとって義務ですらある。

鉄筋削減の圧力

 鉄筋量の削減圧力についても話題になったが、これもそれ自体は不正でも何でもない。鉄筋量自体については平米何キロ必要という規定は無い。
 耐震強度ぎりぎりで設計した建物について考える。極端な話をすると例えば鉄筋量を一般の三分の一に減らすのは理論的には可能だ。その分を柱の幅や梁せいなどを増すなどして対応できる。幾らでも減らせると言うと語弊があるが、例えば十分の一までなら減らせるといった明確な限界点が特にある訳ではない。
 そもそも建物の強度は鉄筋量で決まる訳ではない。構造設計者には必要鉄筋量という発想は無い。
 まず建物の諸条件によって柱や梁などにかかる応力はばらばらで大きな差がある。建物の形状(ピロティー形式、高さの高低、平べったいか上下に細長いかなど)、地盤の強度、地形、平面の縦横比などによって地震時に加わる力や部材が必要とする強度は大きく違ってくる可能性がある。
 また鉄筋量が同じ場合でも柱や梁の寸法や形状、耐震壁があるかどうかによっても強度は異なってくる。
 例えば柱の幅や梁せいを2倍にすれば理論的には主筋と呼ばれる鉄筋量は約半分ですむ。その場合はコンクリート量を増やさなければならない事になるが、鉄筋やコンクリート量を殆ど増やさずに強度をかなり上げる事は細密な設計をする事により可能である。木造建造物の場合だと筋交いによって水平力に対する強度が著しく向上する事は素人でもご存知だろう。鉄筋コンクリート構造物で筋交いに相当するのが耐震壁だ。耐震壁は柱や梁と比べてかなり細くて、鉄筋の量や太さは柱や梁と比べてかなり細くて疎らであっても十分に機能する。
 一階部分の壁の無いピロティーという形式の建物があるが、ピロティー形式の場合は相当強力な柱が必要になる。
 また、鉄筋は多ければば強度が高くなる訳ではない。鉄筋は引っ張り強度が弱いコンクリートを補うために入れるのであり、圧縮力が働く部位に多く入れてもあまり意味が無い。それだけでなく鉄筋を入れると重くなるので荷重が増えて逆にマイナスになる場合すらあり得る。余分な箇所に極力鉄筋は入れない方がよいのだ。
 産経新聞(YAHOO!news−1月7日2時40分更新)によると、木村建設に関し姉歯物件並みに鉄筋量が少ないと指摘されたホテル十三件については、調査が終わった八件が白で、一平方メートル当たりの鉄筋量が最少だった福岡県のホテルも問題がなかった事が確認された。これでお分かりと思うが鉄筋が少ないからといって危険な物件という訳では決して無い。
 こんな話はちょっと建築の知識を持った人であれば常識であり、わざわざ言うのも馬鹿馬鹿しいほどだ。恐らく単に分かり易さを追求したマスコミの勢いに押されて言い出せない人も多いのではないか。言わば裸の王様状態だ。
「全部のマンションの計算をやり直すのは効率的ではないから、とりあえず計算し直す物件を絞り込むための指標としては有効じゃないか」という意見を2chという掲示板で見たが、これも全く意味がない。なぜなら平米辺りの鉄筋を計算したところで多かろうと少なかろうと結局は別個に耐震強度を計算し直さなければならないので二度手間になるだけである。計算するのは自由だが無駄になるだけだ。
「姉歯物件よりも平米辺りの鉄筋量が少ない物件があった」などと大騒ぎするのは営業妨害と言ってもよい位の乱暴過ぎる行為だ。
 専門的な話で分かり難い人がいるかもしれないが、トラックの積荷について考える。何トン以上が積み過ぎかと言われてもトラックの積載能力を指定しないと答えようがない。トラックの積載能力を指定しない状態で「2tなら大丈夫で3tなら積み過ぎ」とは言えない。鉄筋量についても同様に考えられる。

部材削減の影響

 このような説明を聞いて素朴な疑問を持つ方がおられるかもしれない。「そんなに鉄筋量を減らせるのなら、熾烈な価格競争が行われている建設業界で他社がなぜやらないのか」と。
 鉄筋量自体はかなりの量を削減する事は可能だ。既に説明した通り鉄筋量を半減したとしても柱幅や梁せいを二倍にすれば構造的にもたせる事はできる。ただ、その場合は生コンの費用が増えるし柱幅や梁せいが増すと床面積の減少など意匠設計に影響する。
 鉄筋やコンクリート量を共に大幅に減らして尚且つ耐震強度を保つ事は理論的には可能だ。既に触れた耐震壁の導入でかなり耐震性は向上する。また、梁にハンチを付けるなど細密な設計をする事で対応できる。但し、それらの方法では面倒も生ずる。例えば耐震壁の場合は窓などの開口部の設置に制約を受ける。細密な設計をした場合には施工の手間がかかる事になり必ずしも全体としてのコストが下がるとは限らない。

耐震強度不足

 結局何が問題だったのかと言うと「鉄筋量を減らした」という事では全く無い。耐震強度が基準値よりも低かった事、それも意図的にそうした事が問題なのだ。
 プロであれば勿論、構造設計の図面を精査すれば分かるだろう。しかし、ちょっと図面を見ただけで判定できるという代物ではない。現実問題として電卓を叩いて計算するのでは年月がかかってとても間に合わない。コンピューターを使わなければ判定はまず無理だ。
 プロでも十分な装備と時間がなければ容易には計算できない。その事が耐震強度に対するよりコスト削減や鉄筋量削減に関心を向かわせた要因だろう。
 しかし、あくまで悪いのは「コスト削減」や「鉄筋量削減」ではなく「耐震強度不足」だという事を肝に銘ずるべきだ。但し耐震強度を削減したとしても基準値を上回っているのであれば一向に構わない。

姉歯事件(耐震強度偽装)の責任の所在

 誰が悪くて誰に責任があるのか具体的に検討する。

明らかに黒

姉歯秀次元一級建築士

 姉歯秀次が悪い事は誰の目にも明らかだ。何と言っても構造計算書を偽装した張本人だ。「鉄筋量削減の圧力があった」とか「家族の生活のため」というのは言い訳にならない。
 そもそも鉄筋量削減の圧力という言い訳についてもプロから見るとナンセンスだ。この指示を「不正をしてもいいんだ」とか「耐震強度が基準値を下回っていても構わない」と解釈する事自体が不自然だ。通常なら「鉄価格が高騰しているから出来るだけ鉄筋量を抑えよう」とか「もっと細密で合理的なうまい設計をする事により所定の強度を保ちつつ鉄筋を減らす」と解釈するだろう。
 素人の無知に付け込み、如何にも木村建設東京支店長の篠塚氏が不正な要求を強要したかのように装う、或いは「私個人で出来る事ではない」などと組織犯罪を匂わせ、同情を得ようとする手口は悪質だ。
 しかし手口については自分でも述べている通り本人が考案して単独でやった事だ。一人でやろうと思えば出来る事なのだ。
 事実が明らかになったが、姉歯秀次は木村建設やヒューザー以外の物件についても偽装しているし、篠塚氏から鉄筋量削減圧力をかけられた事が不正のきっかけとされているが、実はそれ以前から偽装していたし、自分を守るために木村建設などを生贄にしてきたに過ぎない。

イーホームズ 藤田東吾社長

 弁舌爽やかな青年実業家にあそこまで開き直られてしまうと見ている方は「この人は悪くないのかな」と思ってしまうかもしれない。インチキをした姉歯秀次が悪いのは勿論だが、検査機関が見落とした事にも大きな問題がある。明らかに重大な過失である。「巧妙で悪質な偽装があったから見落としたのは仕方ない」などという言い訳は通らない。自分の責任を全く認めない態度には呆れ返る。
 一体何のために検査機関があるのか。書類の体裁を見るためだけなら全く意味が無い。
 天下り社員を多数抱え込み、社長には責任感のかけらも無い。今回の事件を引き起こした元凶と言っても過言ではない。

偽装については白

木村建設元東京支店長 篠塚明

 耐震計算書偽造問題に関して姉歯秀次が単なる末端の実行犯に過ぎず篠塚明氏が不正を教唆したと考えた人が多いが、国会などにおける姉歯秀次の発言が全て真実だとしても篠塚明氏が耐震強度偽装の共犯者という証拠はないし結局違う事が明らかになった。
 篠塚明氏がしたとされる言動に特に違法性や不自然な部分は見当たらない。既に述べた通り鉄筋を減らす事自体は犯罪でも何でもなく必要最小限の鉄筋量という概念や規定もない。
 篠塚明氏と姉歯は上司と部下という関係ではないが、私の経験から設計者と上司の関係について述べる。
 私は株式会社鴻池組東京本店建築技術部で仮設構造物の設計を担当していた。仮設では本設ほど細かい計算はしないなど多少の差はあるが基本的な考え方は同じだ。設計者としては過剰な設計をしたがるものだ。私の場合は規定の強度の3倍でも足りない気分だった。不正が全くなくても施工時に誤差が生じる可能性はあるし悪い条件が重なれば計算値より大きく安全性が下回る可能性もある。また、部材を節約しようとしまいと給料は変わらないので、あまりぎりぎりの仕様にしたがらないものだ。
 それに対してチェックする上司の側としてはコスト削減のため少しでも部材の重量などを小さくしたい。「工夫と細密な計算によってギリギリの線まで削れ」と部下に厳しく命じる。所定の強度を満たしていればギリギリでも構わないのだ。
 恐らく篠塚氏もそういう意図で言ったのだろう。違法行為を強要されたと考える方が余程不自然だ。後で詳しく述べるが、むしろ利用されたのは篠塚氏の方であり、姉歯にうまくはめられたのだ。
 偽装に気付かなかった事についてもさほど違和感はない。そんなものだからだ。また私の職場の例をあげるが建築技術部部長と言っても一応一級建築士の資格を保有していたようだが、日常的に業務として構造計算に取り組んでいないとちょっと計算書を見ただけでは簡単には分からないものだ。チェックと言っても体裁について言われる事はあっても自ら再計算をする事はなく形式的に判を押しているように見えた。実際に3人以上の上司による形式的なチェックが済んだ後で計算間違いに気付いた事もある。まして篠塚氏は姉歯の上司ではなく別の会社の社員だし、騙そうとして故意にやられた事に対して気付かなかったとしても何の不思議もなく、むしろ気付かない方が自然に感じる。
 ついでに木村建設社員が不正に気付かなかった点について述べる。「木村建設社員は本当に気付かなかったのか。施工会社にも責任があるのではないか」と疑問の声が多くあがっているがこれも愚問だ。構造計算のチェックは構造設計者と検査機関が行うのであり、施工会社としては構造チェックは本来自分の仕事ではないし気付かなかったからと言って責められる言われはない。「鉄筋が妙に少ない気がするが何らかの間違いがあるのではないか」位の問い合わせはするかもしれないが、専門家による二重のチェックが行われている筈だし建築確認が降りているのだから偽装があるなどと普通は思わない。第一、施工者が図面をちらっと見ただけで分かるのなら構造設計事務所も検査機関も必要ない。もし建設に着工しなければ、それこそ契約違反として訴えられてしまう可能性もある。
 施工会社を責めるのは筋違いだ。

ヒューザー 小嶋進社長

 この人は前歴の如何わしさと怖い顔が極悪な印象を与えているのかもしれないが、耐震強度偽装については指示を出しておらず後で事実を知った事が明らかになった。
 ヒューザーに関しては木村建設より更に偽装工作から遠い気がしていた。姉歯秀次は小嶋進氏については不当な圧力をかけたとは証言しなかった。そもそも販売会社の社員は建築の素人であり、手抜き工事や設計の偽装は分からない。何も知らない素人なら「偽装などすれば検査に引っかかるだろう」と考えるのが普通だ。
 コストダウンを要求するのは販売会社の立場からして当然だ。欠陥マンションを売った事で法的には責任を負わなければならないのかもしれないが、耐震偽装についてこの人を責めるのは全くの筋違いだ。現実問題として建築主に設計や施工の不正を見抜けと言われても不可能だ。
 マスコミによって面白半分に耐震偽装の中心人物のような印象を与えられてしまったが、むしろ欠陥商品を買わされた被害者だった事が明らかになった。

総合経営研究所 内河健

 この人こそが耐震偽装の黒幕という事にされてしまったが、彼にとって災難だった。
 鉄筋削減の支持を出した事にされているが、既に述べた通り鉄筋削減は犯罪でも何でもない。
 新しい工法を導入する事などによって積極的にコストダウンを要求するのはむしろ高く評価できる。
 彼は構造偽装に関しては知らなかった事が明らかになった。例え図面を見たところで素人に簡単に見抜けるものではない。
 彼の部下で一級建築士の四ヶ所氏はあるテレビ番組では構造計算の専門家のように言われていたが、一級建築士と言っても事務員でも持っている人もおり必ずしも実務に詳しいわけではない。また構造計算はある程度の経験を積み日常的に業務をこなしていないとなかなか分かるものではない。とても偽装が分かるようなレベルとは思えない。

マンション住民

 責任を問う意見のうちで最も勘違いが甚だしいのがマンション住民に対する非難だろう。
 仕上げなど表面的な手抜きを見抜くと言うならともかく、耐震強度が不足しているという欠陥は建築後であればプロが見たって分かる代物ではない。どうやって素人に見抜けと言うのか。
「通常の相場より遥かに安い価格を見れば何か手抜きがあると考えるのが当たり前だろう」などという意見はよく聞くが、これも実に馬鹿げた素人臭い発想だ。それでは高ければ安全だとでも言うのだろうか。或いは高い価格のマンションを買わされたのであれば公的資金の投入もやむを得ないというのだろうか。もちろん高いから安全だと言う保証など何もない。
 安いから粗悪品という考え方はおかしい。私の感覚からするとそもそも日本の建造物は不当に高い物が多い。一般的な価格こそが不当に高く設定されているだけの事であり、ヒューザーのマンションが相対的に安かっただけでありまだまだ安く出来る可能性もある。外国と価格を比べた場合その差は歴然としている。
 建物の条件や技術の革新や業者の使い方などによって不正がなくても大幅なコストダウンは可能だ。例えば芸のない方法であるが単なる箱型で全ての部屋を同じような形状にすれば凝った建築よりは遥かに施工の手間や建設費は少なくて済む。また大型重機や資材置き場を確保できる十分な場所があるかどうかによっても施工の期間や費用に大きな影響が出る。工場で予め鉄筋コンクリートの壁や床を製作しておくPC工法などによって工期やコストは著しい変貌を遂げている。また、近年注目されているCM方式はゼネコンを通さない手法だが従来の重層下請けと比べて中間の無駄がなくなるのでかなりのコストダウンに繋がる有効な方法である。
 安いのは粗悪品だからという人は判断力が何もないからそんな貧困な発想になるのだろう。そんな判断しか出来ないのではそれこそ業者の食い物になってしまう。「安く売れば疑われるから、質の悪い建物に高い値段をつけて安全だと言って売り出してやれ」という事になるだろう。
 マンション住民に対する公的資金の投入には激しい反対の声が上がっているが勘違いも甚だしい。仮にマンション住民に責任があったとしよう。その場合でもマンション住民に対する公的資金の投入はある程度必要だ。なぜなら、建物にそのまま住み着いてよいというのならともかく多くのマンションの解体が決定している。中には新しい住居と引越し費用が直ちに工面できない人もいるだろう。そういう人たちを中に残したまま解体するのだろうか。或いは機動隊を導入して強制的に排除して隅田川の川原にでも放り出せというのだろうか。
 また公的資金の投入は単に住民がかわいそうというだけの話ではない。もし住民を救済しなければ新規にマンションを買おうとしている人たちにまで動揺を与えてしまう。そうすると日本経済が急速に冷え込む可能性もある。単に住民を守るのではなく国を守るという事でもある。
 住民に対する公的資金の投入に反対している人たちは思いやりだけでなく想像力が欠如しているから間違った発想が沸くのだろう。

姉歯事件(耐震強度偽装)に対する誤ったイメージの定着

姉歯秀次による単独犯行の可能性

「強い上下関係のある複数の組織や人物による組織犯罪」というイメージがあるが実際には姉歯秀次の単独犯行だった。
 手抜き工事など建築関係のこの手の不正は通常は末端の人間が勝手にやる事が多い。この手の不正は組織に頼らなくても個人で簡単に出来る事が多い。むしろ組織でやる事の方が不自然である。なぜなら、「個人で簡単に出来る」、「組織で上から指示を出せば証拠が残ってしまい。逆に恐喝の口実すら与えてしまう」など大規模な組織や多くの人が関係するのは大してメリットが無いだけでなく逆にやり難いからだ。
 以下に姉歯秀次の単独犯行と考えた代表的な理由をあげる。
  1. 姉歯秀次は偽装が露見した初期の段階に「設計の業務を楽にするためにやった」などと専門家からすると明らかに見え透いた嘘の言い訳をしている。
  2. 手口については金も力も人手も特別な機材も要らない単純な方法であり本人も自分で考案したと証言している。
  3. 姉歯秀次が関係者の誰かに偽装を報告したと証言した人物は姉歯秀次本人を含めて誰もいない。(姉歯秀次は「鉄筋量をこれ以上減らせばもたないと篠塚氏に伝えた。それで分かる筈だ」としか言っていない)
  4. 木村建設以外の物件でも姉歯秀次による耐震偽装が行われている。
  5. 共同通信の報道によると耐震偽装を始めたのは木村建設の物件が最初ではない可能性が高いようだ(実際そうだった)。
  6. 木村建設やヒューザーなどの物件で耐震強度の調査が行われた物件は百件以上あるが、姉歯秀次以外の設計による耐震偽装は当時一件も発見されていなかった。
  7. 木村建設の篠塚明氏が耐震強度を偽装するつもりなら何故自分の会社の設計部を使わなかったのか。わざわざ危険を冒してまで偽装を外注する必要がない。
  8. 姉歯秀次は偽装しようとしまいと報酬に差はなかったと証言している。

姉歯事件に対するマスコミの姿勢

 耐震強度偽装問題で強度不足が判明した神奈川県藤沢市と横浜市のマンション計2棟の設計を元請けした森田設計事務所の森田信秀社長が2005年11月26日に同県鎌倉市稲村ガ崎の海岸の岩場で死亡しているのが見つかった。微妙なタイミングで自殺した事に対してある雑誌に「警察内部に自殺説に疑問を持っている人がいる」かのような記述があった。また姉歯秀次は「あの人は自殺するような人ではない」と証言した。それらが多くの人に他殺を連想させた。当然と言えば当然かもしれないが、このようにミステリアスな展開をマスコミは好む。
 私も複数のマスコミから取材を受けたが、質問もシナリオも大体似通っていた。質問は「コストダウンの圧力や鉄筋削減の圧力はどうか」などというものが多かった。闇社会の元締めによる組織的な犯罪行為で姉歯秀次を末端の実行犯と決め付けていた。私に対する質問も何か新しい事を知りたいというより、自分にとって好ましいシナリオを肯定してくれる証人として利用したいという意図があるように感じた。
 不正の背景に関する質問に対して「検査体制のお粗末さに尽きる」という点を最重要課題として述べると、「そんなことを聞いているんじゃない」とがっかりした感じの対応をする人もいた。黒幕探しに終始している様子だった。
 なぜ間違った報道がなされたのかというと、恐らくマスコミとしては頂点にいる人物や関わった組織が大きい或いは多い方がニュースとしては面白いから、そういう方向にもって行きたかったのだろう。
 複数の報道機関に対して「鉄筋の削減は不正でもなんでもない」とか「篠塚氏の証言は筋が通っているように見える」など説明したがあまり興味を示していない様子だった。
「姉歯秀次が個人で勝手に偽装工作を行った。原因は検査機関によるチェックが甘いからだった」。これでは話が地味で関連の話題がすぐに尽きてしまうから受け入れ難いという事ではないのだろうか。より大きなスキャンダルを好むマスコミの性質。そこに記者たちの無知も相まって見当外れの報道が大々的になされた。
 事件というのは時間が経つとすぐに飽きられてしまう事もあるのだろう。事実が確実になってから報道したのでは他社に出し抜かれてしまうから、十分確かめないうちに情報を流してしまう。全てがインチキだとは言わないが全体としてみると慎重さに欠ける報道姿勢が目立った。

姉歯事件に対する拙劣な証人喚問

 国会での証人喚問も実にお粗末だった。質問した議員たちは事実を明らかにするという目的から外れて謝罪を求めたり説教をするなど無駄な行為が目立った。しかも、議員たちは似たような質問ばかり繰り返し要領を得なかった。
 どの政党も「なぜあんな素人に質問させたのか」と思われるようなお粗末で大して意味のない質問ばかりを繰り返した。強いて成果があったとすれば、「明確な偽装強要は誰もしていない」、「偽装工作は個人で簡単に出来る」、「検査会社がザルだ」という事が明らかになった程度だ。
 繰り返しになるが「コストダウン圧力」や「鉄筋削減圧力」を詮索しても無意味だ。鉄筋削減に関する総合経営研究所の内河健氏の発言には多少の矛盾はあった。あれだけ鉄筋削減で大騒ぎされたので、鉄筋削減の指示を認めるのに躊躇したのだろう。
 殆ど得る所のない茶番劇の証人喚問だった。

耐震偽装について「知らない筈はない」のか

 木村建設やヒューザーや総合経営研究所などについては「偽装の事実を知っていた筈だ」という事にされてしまった。その根拠は一体何なのか。実際には客観的な証拠があったわけではなく感覚的な理由に過ぎなかった。
 現実問題として分業化の進んだ社会で他の分野の仕事はそう簡単に分かるものではない。同じ設計でも意匠設計の人は「構造計算は構造屋さんに任せる。極論すれば構造計算は意匠屋には分からなくてもよい」と言っている。この人が特に無責任な訳ではない。
 まして発注者や施工者に構造計算をチェックせよと言うのは無理だし、要求すべきでもない。マンションなど構造計算は現実問題としてコンピューターを使わなければ出来ないから、かなりの経験を積んだ専門家でもなければ図面を一目見て正しいかどうか分かるものではない。
 見抜いた人は日常的にそういう計算の仕事に接して実務経験を積んでいたからこそ出来たのだ。チェックを専門としている検査会社ですら見抜けなかったものを施工担当者が見抜けなかったからといっておかしいという方がよほどおかしい。
 まして建築主やコンサルタント会社にそんな事が分かる訳がない。報告でもあったというなら話は別だが、そういう事も無かった様だ。

なぜ間違ったか

 狡猾な専門家である姉歯秀次にはマスコミを騙す事など赤子の手を捻る様なものだったろう。コスト削減圧力や鉄筋量削減圧力など一見専門用語に見えるが偽装を始めた理由とは恐らく全く関係ない言葉を使う事で無知な記者たちを信じ込ませた。
 また、「あの人は自殺するような人ではない」とか「私一人で出来る事ではない」という、よく考えると根拠が乏しかったり矛盾するような言葉を効果的に使うことでうまく大衆に組織犯罪と思い込ませる事に成功した。
 先に述べた通りマスコミが出来るだけ面白い話を作りたかった事が無意識や思い込みも含めて組織犯罪というデマの創造に繋がった。
 マスコミは分かり易い話を好む。例えばテレビの場合だと梁の模型を作って見せて「梁の寸法と鉄筋の数がこれだけ必要だ」などと視覚に訴えた局もあった。確かに分かり易いが、「鉄筋量不足」という的外れなキーワードを視聴者に印象付ける結果に繋がった。
 更に取材を受けた側の態度にも問題があった。正しい答えをしてもマスコミは必ずしも喜ばないので受けを狙ってマスコミ受けをする答えをする人が多かったように見えた。自分たちの想像を裏打ちするような答えを見てマスコミ関係者は「ああ確かに我々の考えが正しかった」と更に思い込みによる確信を深めていった。

姉歯秀次に嵌められた面々

 姉歯秀次としては当然の事ながら、事が露見した場合やしそうになった場合などを想定して言い訳を考えていただろう。自らが首謀者ではなく教唆され仕方なくやったのであれば罪は軽くなるし世間の同情も集まる。
 姉歯秀次が構造計算書偽装をしたのは木村建設やヒューザーや総合経営研究所などの仕事だけではないが、これらのグループが首謀者として選ばれた理由を考えよう。
 まずコスト削減要求はどこでも当然のようにやっているが木村建設や総合経営研究所が鉄筋削減要求を強く要求していた。
 それから、これら三社は耐震構造計算書偽装自体には全く関与していないにせよ、それ以外に関してはかなりの悪をやっていそうな雰囲気がある。
 恐らく姉歯は不正の実態を何となく知っていたのではないだろうか。それらの理由で彼らを首謀者とするのが好都合と考えたのだろう。

正直者の話は詰まらない

 しつこいようだがマスコミは面白くて派手で衝撃的で分かり易い話を好む。しかし、現実問題として関係者に取材をしてもそんなに面白いネタがある訳ではない。私はどこに問題があるかと聞かれると「検査体制のお粗末さに尽きる」と答えるし、欠陥マンションを買わなくてすむ方法は何かという問いに対しては「構造的な欠陥に関してはそんなものはない。ある位なら誰も欠陥マンションなど買わない」と答える。
 良心的な技術者の答えというのは往々にして詰まらないものだ。かなりの経験と知識がある人でも、常に気の利いた面白い答えが出来るものではない。欠陥マンションを買わずに済む方法は多くの人が興味を持っているので具体的な方法を適当に教えてやれば受けるだろう。例えば「一級建築士に見てもらえばいい」などという意見もよく雑誌に紹介される。しかし現実問題として建ててしまった後ではプロだって容易には見抜けないし、信用できる一級建築士が見つかる保証は何もない。
 マスコミとしては詰まらない正直者を敬遠し、より面白い話を提供してくれる人に注目するようになる。しかし、煽るような話はすぐに飽きられてしまい、問題の解決とはなり得ない。

姉歯事件(耐震強度偽装)について浮かび上がった事実

 2005年末に大騒ぎとなった姉歯秀次による耐震偽装問題はすぐに世間から飽きられ、暫く進展が無かった。
 しかし、札幌でも全く関連の無い人物と物件による耐震偽装が発覚した事と姉歯が関与した物件の再計算や破壊検査などの詳しい調査の発表により更に鮮明な事実が明らかになった。
 このことにより耐震強度偽装の原因がより明確化され、姉歯秀次による単独犯行説がより確実になった。

姉歯事件は氷山の一角

 姉歯秀次による単独犯行説はマスコミには詰まらないかもしれない。しかし、実はヒューザーや木村建設などによるピラミッド型の組織犯罪である場合より遥かに厄介だ。
 と言うのは、特に天才的な技量の持ち主でない普通の頭脳を持った末端の設計者でも簡単にごまかせるという事は他にも不正がある可能性が十分あるからだ。例えば、故意ではないがついうっかり間違った書類を提出して簡単に検査を通ってしまった人物が味をしめて意図的に改竄する場合が考えられる。或いは検査のスピードがやたら早い事に疑問を抱き「もしかすると詳細な検査をしていないのではないか」と思い付く人がいるかもしれない。
 それらをはじめとする様々な状況から姉歯秀次以外の人でも検査がザルだと気付いた人が何らかの偽装工作をしていた可能性は十分あり得る。
 また今回の事件で検査体制がザルだと気付いて、「これから偽装工作をしよう」と考える人がいるかもしれない。「こんなに騒がれていて、これから検査体制が強化されようという時にそんな事を考える馬鹿がいるのか」と思われるかもしれないが、ザルである検査体制がそう簡単に変わるものではない。検査体制のお粗末さについては関係者によって何十年も前から指摘されてきたにもかかわらず殆ど省みられる事はなかった。だから今回もポーズだけで何もしない可能性は決して低くない。
 施工に関する検査体制の甘さは何十年も前から指摘されていた。私は最近建設関係者と名乗る人物から「検査体制は最近かなり強化された」という話を聞いた。姉歯事件を見るとそうではなかった。表向きは強化された事になっていても実際には殆ど改善されていない或いはむしろ悪くなった事は少なくない。「これだけ騒がれたのだから行政も考えるだろう。検査体制は当然強化されている筈だ。これからは不正は起きない」という思い込みの裏をかいてこれからも偽装工作は密かに続けられる或いはこれから偽装を始める人が現れる可能性はある。
 姉歯秀次の場合、あまりにも極端な耐震強度不足であったから気付かれたが、2割程度耐震強度不足が不足している程度なら気付かれなかった可能性が高い。もっと巧みに偽装していれば気付かれない可能性も高い。
 2006年3月に公表された札幌市の浅沼良一2級建築士(47)による耐震偽装事件は耐震偽装が氷山の一角である可能性を高めてしまった。耐震偽装が姉歯秀次による物件だけしか発見されないのであれば、それだけという可能性もあったのだが、全く関連の無い別人の不正が発覚したという事は他にもかなりある可能性が出てしまった。後で詳しく説明するが姉歯秀次と浅沼は年齢や動機など耐震強度偽装に至った状況がよく似ている。似たような状況にある人たちの中で耐震偽装をした人がかなりいる懸念がある。

新旧計算法の違いと耐震偽装

 Yahoo!ニュース-読売新聞の2006年3月7日に下記の記事があった。
 耐震強度偽装事件で、姉歯秀次・元1級建築士が構造計算書を改ざんしていた東京都新宿区の投資型の分譲マンションについて、同区の調査でいったんは耐震強度が基準の85%しかないとされながら、別の計算方法で再計算したところ、基準を満たし、安全と判断されていたことが分かった。
 二つの計算方法はいずれも建築基準法で認められたもので、採用する計算法によって安全か否かの判断が分かれたことになる。区では「地盤が固いなどの固有の要因があったため、計算方法で結果に開きが出たが、まれなケースではないか」(建築課)としている。
 2度目の計算に使われた「限界耐力計算」は、法改正に伴って2000年から構造計算に使われるようになった。同区は今年1月、姉歯元建築士が使ったのと同じ、従来の計算法「許容応力度等計算」で構造計算書を調べたところ、85%との結果を得ていた。
 その後建築主と協議したうえ、民間の設計事務所に依頼、限界耐力計算で計算をやり直したところ、120%以上という結果が出たという。耐震診断でも安全が確認されマンションは改修されないことになった。
 比較的新しい計算法である限界耐力計算と従来からの計算方法である許容応力度法の違いが新聞やテレビなどで説明されているが非常に分かり難い。
 素人には理解し難いだろうが、何の説明もしない訳にもいかないので、そういう計算法が出てきた背景を簡単に説明する。
 阪神大震災のように建造物に極めて大きな打撃を与える地震はそうしょっちゅうあるものではないから、全ての建物を大地震が来てもびくともしない構造にするのは不経済だ。むろん地震はいつどこで起こるか分からないので全ての建物について大地震に備える必要はあるが、建物全体で衝撃を吸収して人命に致命的な打撃を与えない範囲で部分的な破壊に留まるのであればよいという考え方もある。
 実際にどんな差が出るかというと上記の説明や姉歯物件の例からも何となく想像できると思うが、限界耐力計算の方がかなり甘い結果が出る。つまり限界耐力計算の方が低コスト化し易い。
 限界耐力計算の導入後も許容応力度法の使用は認められている。許容応力度法を使うと高コストになるが、それは売主側の利益に皺寄せが行くだけの事であり耐震の安全上は何ら問題ないので2つの方式が混在する事自体は間違っていない。
 ただ、古い方式で学んだ人が新しい方式を覚えるのは大変だ。既に説明した通り従来の方法である許容応力度法を使い続けても構わないが、許応力度法しか知らない人は競争で不利だ。
 チェックする側は否応なしに両方の方式を覚えなければならないから、もっと大変だろう。
 姉歯以外にも耐震偽装の報告があるが、明確になった例としては2006年3月にニュースになった札幌市の浅沼良一2級建築士(47)の耐震偽装がある。これについては技術不足が指摘された。
 但し姉歯秀次についてもやはり浅沼と同じく技量不足が原因で偽装を目論んだと考えられる。その根拠としては上記の新宿区のマンションの事例では限界耐力計算を使えば十分基準値をクリアできるにもかかわらず旧式の許容応力度等計算を使用している。限界耐力計算を使えなかったから耐震偽装をしなければならなかったのだ。
 姉歯秀次と浅沼の年齢が近い事もこの推測を裏打ちしている。2006年3月時点で姉歯は48歳で浅沼は47歳である。古いタイプの構造計算者であったため新しい方式に対処するのが難しかったのだろう。
 この事を念頭におけば耐震偽装が起き易い物件がおのずと明らかになるので、それらを重点的にチェックするのが効果的だ。

人による計算の差

 計算方法によって結果がこんなに大きく違う事に違和感を覚える人がいるかもしれないが、上記2通りの計算方法の違いだけでなく、個人の設定差などでも計算結果は異なってくる。
 本来構造計算の結果は同じになる筈ではないのか。なぜ、その様な違いが出てくるかと言うと、そもそも建築の構造計算は現実にはかなりの誤差を含むもので、ある程度大雑把な計算しか出来ないからだ。
 現在の最新の学問をもってしても、殆ど誤差なく計算するのは難しい。コンピュータにポンポン数値を入力すれば自然に同じ値が出てくる訳ではない。現実のモデルを構造計算者が頭の中で簡略化して計算し得る形状をイメージしなければならないのだ。その過程でかなりの差が出てくる可能性はある。
 特に土に関する数値の設定は設計者の考え方でかなり差が出てくる。ボーリングデータによる土質柱状図というのは同じ敷地の中でも必ずしも同じような分布になっている訳ではない。かなり差がある場合に例えば慎重な人なら最も弱い部分のデータを使うという考え方もあるが、別の人は平均的なデータを使うかもしれない。どちらが正しいと一概に言えない。
 例えば、「耐震偽装も無く計算も間違っていない設計者の建物より計算者の技量が低く耐震偽装してある建物の方が数値的には丈夫だ」という可能性もある。
 客観的計算の代表とも思える構造計算だが、実際には計算者の主観を多分に含んでいる。それはある程度仕方の無い事だが、考え方によってかなりの誤差が生じる可能性がある事はよく理解しておく必要がある。 

姉歯事件(耐震強度偽装問題)の結論

姉歯秀次の個人犯行

 マスコミは当初この姉歯事件が姉歯秀次の個人犯行とは考えず、ゼネコンやディベロッパーなどが絡んだ闇の黒幕による大規模な組織犯罪と決め付けていた。
 しかし、裁判によって姉歯秀次の個人犯行である事が明らかにされると大騒ぎしていたマスコミは事件に対する興味を急速に失った。

 私は当初から組織犯罪説に疑いを持ち姉歯秀次の個人犯行である事を見抜いていた。
 理由は実に簡単だ。ゼネコンなど工事の頂点に立つ者がこの手の不正(手抜き工事を含む)を下部組織や個人に強要する事はコスト的にメリットが殆どないからだ。
 よく素人が連想する手抜き工事に材料を指定されたものではなく安い物にすり替えて費用を浮かすという手口がある。個々の監督や作業員が勝手にやる事はあり得るが、大手ゼネコンなどの上層部がそういう不正を下請けに指示する事はまずない。
 発展途上国なら話は別だが、日本では人件費の方が大きな問題であり、そんな所で材料費をケチっても大して費用の節約にはならない。
 そもそも上からそんな指示を出す事は下請けに対して恐喝のネタを与えるようなものでリスクを冒してまでやる価値のある不正ではない。
 良い例えかどうか分からないが、「総理大臣がコンビニエンスストアで万引きする」ようなものなのだ。

 一部の人は妙な誤解をしているようだが、私はゼネコンやディベロッパーを擁護するためにそのような話をしたわけではない。「大手ゼネコン経営者は頭脳明晰で清く正しいから不正を働く筈がない」という事ではない。
 例えば談合については恐らく今でも存在すると私は思っている。大型工事であれば場合によっては談合で数百億円という利益が見込めるし工作は一部のゼネコン社員だけで完結する事も出来るからだ。
 また残業代カットなどは多くのゼネコンで当たり前のように行われている。

「上の者にとって、どう考えても殆どメリットのない不正を敢えてやる意味がない」という当事者の損得勘定に基づいた客観的な判断は、「大手による弱い者苛めはよくない」という感情的で的外れな叫び声にかき消されていった。
(そもそも、木村建設もヒューザーも闇の黒幕とされた総合経営研究所も、大手と呼ぶには程遠い存在なのだが)

必要鉄筋量の嘘

 マスコミが耐震強度偽装で騒いでいた頃「(平米辺りの)必要鉄筋量」なる妙な言葉を何度も耳にした。(少し考えれば建築構造力学の素人でも変だと分かりそうなものだが)

 例えば「トラックの必要馬力は幾らですか?」という質問について考える。
 これだけでは答えようがない。なぜなら、1t未満のトラックと百tトラックでは当然状況が違うし積載荷重などの条件も不明だから。

 つまり荷重などの条件が分からなければ必要な鉄筋量も答えようがない。
「平米辺りの鉄筋量が姉歯物件より少ないものを発見した」と大騒ぎしていたが、少ないものがあっても何ら不思議はない。1階建てだろうと百階建てだろうと平米辺り必要とする鉄筋量が常に同じだとでも言うのか? そんな筈がない事は小学生でも容易に分かりそうなものだ。

 ここで詰まらない突込みが来る可能性があるので予防線を張っておく。
いや単なる思い付きではない。姉歯物件と同じ程度の高さのマンションと比較しても、やはり平米辺りの鉄筋量に著しい差があった
と言われたらどうするかだが、これも答えは簡単だ。
 通常は高い建物ほど鉄筋を多く使うが、荷重は鉛直方向だけではないので平米辺りの鉄筋量は高さだけで決まる訳ではない。
 同じ高さでも上下方向に細長い物と平べったい物では一般に前者の方がより多くの鉄筋を使う。平面が長方形の場合と正方形の場合も同様だ。

 建築構造力学の技術者にとっては(荷重などの条件抜きでの)「平米辺りの必要鉄筋量」という概念はない。
「鉄筋を幾らでも減らせる」と言ったら語弊があるが、例えば鉄筋を通常の1割程度に減らす事も理論的には可能だ。ただ、その場合、設計に著しい制約を受ける(例えば柱や梁が異様に太くなる)ので使い勝手が酷く悪い物ができる可能性が高く逆に人件費やコンクリートなどにかかる費用が高くなるのでコスト面でも非現実的だ。
 半分程度に減らすのであれば決して不可能ではないし、何かの理由で鉄筋が著しく不足している場合(例:鉄鉱石の主要輸出国が戦争中で輸出停止にした)にそういう設計をする場合はあり得る。

 ビジュアルで分かり易いというだけの理由で「平米辺りの必要鉄筋量」なる訳の分からない概念を振り回し、罪のない人まで責め立てるマスコミの姿勢には猛省を促したい。

マスコミの嘘

 嘘なのか勘違いなのか分からないが、とにかくマスコミというのは酷いと思った。
 姉歯秀次を発端とする耐震強度偽装事件に関して私にもマスコミから問い合わせが相次いだ。
 彼等の特徴としては職業柄なのか最初に明確に質問が決められて、箇条書きにしたメモを読み上げるように次々と質問してくる。この話だけだとプロ意識に徹した態度のように思われるかもしれないが、それ以外の事については一切興味を示さなかった。
 代表的な質問に「鉄筋削減圧力は業界では日常的に行われているのか」というのがあった。他の項目でも述べた通り、私にはこの質問自体が建築を全く知らない素人くさい的外れな質問と感じたので「勘違いしているのではないか。マスコミの見方は見当違いではないか」と指摘したのだが、一人を除いてまるで興味を示さなかった。
 要するに最初から彼らの頭の中で決めた既成事実があり私には単にその証人になってほしいだけのようだった。特ダネにならない詰まらない事実が明らかになると彼らにとってまずいのだろう。
 いきなり「総合経営研究所について知らないか」と尋ねた人がいて「それが黒幕らしい」と言っていたが、私はそんな会社を初めて聞いたし黒幕ではないような気がした。そう言うと「ふうん、知らないんだ」みたいな感じですぐに話が終わってしまった。
 中でも酷いのはAERA(アエラ)だった。最初に電話してきた男性に「木村建設ではなく姉歯の単独犯行の様な気がする」と言ったが、全く興味なさそうだった。そしてアエラの専属かフリーか忘れたが、ある女性ライターが紹介された。
 この人もまた他のマスコミ関係者同様に素人くさい的外れな質問を矢継ぎ早にしてくるため対応に苦慮していたところ彼女の方も私の事を「実は大して知識のない素人だ」と思ったのか、PC板(工場で作る既成のコンクリート板)について講釈を始める始末だった。
 彼女が一体何のために私に電話をかけてきたのか分からないが、私の話がアエラに載ることはなかった。

 どの週刊誌か確かな記憶はないが、耐震偽装の現場にいた鉄筋工の証言とされる妙な記事があった。
 鉄筋の量が通常の現場より妙に少ない事に不審を感じた鉄筋工の親方が「これではまずい」と思い「おい鉄筋を(余分に)持って来い」と部下に命じて自主的に鉄筋量を増やした、というのだ。
 ゼネコンにとってはともかく鉄筋屋にとって鉄筋は極めて貴重な財産であり誤魔化して鉄筋を節約したという話は聞いた事があっても、余分に使ったなどという太っ腹な話を聞いた事がない。
 仮にこの鉄筋屋が非常に強い正義感の持ち主で自らの損失を顧みず良い品質を確保する事を優先したとしよう。
 それにしてもやはりおかしい。鉄筋は引っ張り応力を担当するので引っ張り力の働かない所に配筋しても意味がないだけでなく、重量が増えたり生コンの打設がしづらくなったりして逆に強度が低下する可能性がある。
 配筋は素人が勘で勝手に決められるようなものではない。職人の勘で決められるのなら構造設計事務所など必要ないし設計士に金を払うのはそれこそ無駄なコストだろう。
 設計がおかしいと思ったのなら作業を中断するか、然るべき所に訴えるかすべきで、自分の判断で勝手に設計図を無視したのであれば犯罪行為と言っても過言ではない。

無責任な自己責任論

 耐震強度偽装マンションの住民など被害者を救済するかどうかについて吹き荒れた意見の代表が「自己責任論」だ。
「よく調べないでそんな物を買った方にも責任はある」と言うのだが、よく見かけた主な根拠は下記の2つだ。
  1. 「安ければよい」という安易な態度で選んだ住民が悪い。相場より極端に安ければ何かありそうだと分かるだろう
  2. 安値で(例:50万円程度)調べてくれる建築士や団体などの専門家がいるのだから事前に調査してもらうのが普通だろう
 まず1.だが、高ければ安全と言うのか? その根拠は一体何だ? そもそも適正価格が分かっているのか? 売る方としてはそういう消費者の心理を見越して低品質なのに「安全のコスト」として高く売りつける者がいるとは考えないのか?
 1.の理論(と言えるような代物ではないが)は訳の分からない理屈だが、仮に受け入れるとしよう。それで姉歯物件は一体どの位安かったのか?
 実は安いと叫んでいる人たちが明確にどの位安いのか示した資料が殆どない。
 発見した殆ど唯一の数字は某匿名掲示板で「姉歯物件は相場より3割安かった」という書き込みだ。そもそもマンションは車や家電と違って全く同じスペックという事が殆どあり得ないので比較は難しい。匿名であるという点を割り引いても「3割安かった 」という話は極めて怪しいが、これも3割が事実だと仮定しよう。
 3割程度の差はインチキが無くても内外装のレベルとか施工の段取りなどによって十分につき得る値だ。例えば同じような棟をずらっと並べて建設した場合と周囲を既に建物に囲まれた狭小な工事現場で施工する場合では当然コストに大きな差がある。
 そもそも鉄筋を半分に減らしたところで施工コストを3割減には出来ない。鉄筋を半分にした場合に何%コストを削減できるか計算していないので正確な数字は出せないが恐らく数%にもならないだろう。もともと構造体の材料を手抜きした所で大して節約にはならない。
 仮に手抜きがあったとしても内外装である可能性もある。勿論それも許せる行為ではないが少なくとも命に係わる耐震強度偽装とは根本的に意味が違う。その程度の価格差で耐震強度偽装があったかどうかを見抜くのはプロでも無理だ。

 次に2.だが、これも実に馬鹿馬鹿しい。
 施工後に建築士に部屋を見てもらっても建具や建付けなどの内外装に関する手抜き・欠陥は分かるかもしれないが、構造体に関する不正はまず分からない。
 通常は構造体の大部分が壁紙やタイルなどに覆われるから、それを剥がして検査しなければならなくなるが凄いコストになる。スイカではないから木槌などでポンポン叩いた所で分からない。赤外線やレーダーを使った所で中の鉄筋が全て探査できる訳ではない。
 もし、完成後に構造体の検査をするならすべての部屋の壁紙などを剥がして所々コア抜きをしなければならないから億単位の金がかかるだろう。と言うより販売業者がそんな事をさせてくれる訳がない。
 だから完成後に個人として建築士に部屋を見てもらうにしても耐震偽装を含めるのはどう考えても非現実的だ。(但し一戸建ての場合は話が別だ)

 耐震強度偽装事件の被害者には建築の専門家も存在した。素人が騙されるのは無理もない。

 また、この事件に関して国などの責任を訴えている被害者はマンションの住民だけでなくマンションやホテルの施工主も含まれる。
 当然そういう人たちは事前に入念な調査をしている筈であって、価格の高低でしか価値を決められない或いは「一級建築士にちょっと見てもらったから安心だ」などと思い込んでいる素人とは訳が違う。
 管理のプロが見抜けなかったのに素人が偉そうに被害者を責めるべきではない。

きっこの日記

 耐震強度偽装事件で大きな話題になったのが「きっこの日記」だ。「きっこ」はヘアメイクと称する女性で「きっこのブログ」も「きっこの日記」と共にアクセスの多い人気サイトだ。
 彼女が姉歯事件で注目されたのはイーホームズの藤田社長からのメールをサイト上で公表したり、黒幕の元締めとされた総合経営研究所の内河健氏の名前をいち早く掲載するなど、マスコミをリードしているかの様に見えたからだ。ブログの存在はマスコミでも大きく取り上げられた
「きっこの日記」2005/11/19 (土) から「建築界のゴールデントライアングル」と題する連載が始まっている。最初の姉歯批判、次の藤田批判までは比較的まともだが、それに続くヒューザー、木村建設、総合経営研究所(内河健氏)に対する批判は全く的外れな素人くさい決め付けだ。既に述べた通り結論は姉歯の単独犯行であり総合経営研究所の内河健氏は関与していなかった。

 勘違いの内容がマスコミと全く同じであり、どちらが真似たか知らないが、卵が先だろうと鶏が先だろうと中身が間違っているのであれば先行していようと自慢にはならない。
 文士・事物起源探究家と称する松永英明氏の下記の解説が最もよく実態を言い表していると思う。

「きっこ」は誰かから聞いた情報の内容をそのまま鵜呑みにして、自分の言葉に置き換えて語る傾向がある。

 私は、きっこ氏自体を批判する気はない。この人がいなければマスコミは似たような内容を発する別の情報源を利用しただろう。
 彼女がいけないのであれば全くと言ってよい位同じ主張をしてきたマスコミの方が社会に対する影響力が大きい分、罪が大きい事になる。
 事実関係を客観的に判断できるとは思えない彼女の意見を面白半分に取り上げておきながら専門家のまっとうな意見を意図的に無視するマスコミの態度に病理を感じる。

大手ゼネコンをなぜ責めない

 さて、「背後に巨悪がいる筈だ」、「トカゲのしっぽ切りで終わらせるな」として姉歯秀次に耐震強度偽装を指示した巨大組織があると決め付けてきたマスコミ、一般大衆、政治家たちであるが、結局、槍玉に挙げられたのは木村建設、ヒューザー、総合経営研究所という聞いた事もないような小さな存在ばかりだった。
 そんな中で「鹿島建設など大手ゼネコンの物件にも耐震強度偽装が発見された」という情報に対するマスコミの反応は極めて鈍かった。
 私は鹿島建設が悪意を持って会社ぐるみで耐震強度偽装に関与したとは全く思っていない。恐らくたまたま耐震強度偽装があっただけだろう。
 しかしマスコミが今まで唱えてきた理屈からするとそれでは済まない筈だ。「現場を管理するゼネコンが耐震強度偽装に気付かない筈がない」のではなかったのか。その理屈がなぜ弱小ゼネコンにだけ適用されるのか。
 マスコミが耐震強度偽装に対する興味を完全に失ったのは裁判で姉歯秀次の単独犯行である事が明らかになった事が最大の理由だが、それ以前の状況としては大手ゼネコンの物件にも耐震強度偽装があった事が発覚した頃から微妙にトーンが落ち始めたように思う。
 木村建設、ヒューザー、総合経営研究所はたまたま早くから注目されただけの話であり必ずしもこれらの会社の立場に耐震強度偽装物件が発覚した大手ゼネコンや大手販売会社と大きな違いがある訳ではない。特に総合経営研究所は全くの無罪であることが後の裁判で判明している。

 マスコミに多額の広告費を提供している大手ゼネコンが広告を引込めたり巨大な財力を活かして訴訟に持ち込まれる事を恐れたのだろうか。
 全く持って筋の通らない話だ。


耐震相談

木造とコンクリート造の比較

 阪神大震災では古い木造住宅が大きな被害を受けた印象がある。
 木造がRC(鉄筋コンクリート造)やSRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)より脆いという考えは必ずしも正しくない。

 それでは阪神大震災で木造住宅が比較的脆く感じたのは勘違いか偶然なのかというと必ずしもそうとは思わない。
 高温多湿な関西方面では伝統的な木造住宅とマンションでは開口部の構造にかなり違いがある。
「日本は地震国だから建物の耐震性が高い」と言っても実際には建物の性能は耐震性だけを考慮している訳ではなく、高温多湿な環境を考慮した伝統的な木造住宅は開口部が多く北海道などの寒冷地と比べて壁の面積が少ない。
 また関西の木造住宅には瓦屋根が多いので頭の重量が重いが、これも耐震上の大きなハンディとなっている。

 木造住宅に開口部が多く柱だけで支える構造や頭の重い構造になっている物が多かった事が阪神大震災での惨状の理由であり、実際、鉄骨や鉄筋コンクリート造でも1階が柱だけのいわゆるピロティー形式の建物ではやはり大きな被害を受けている。

 北海道の様に開口部の少ない木造住宅は比較的耐震性は高いと思われる。
 実際、大地震を受けても人口が少ないせいもあるが、被害は比較的軽微な場合が多い。

 工法や構造などを調べないと一概に木造というだけで耐震性が劣っているとは言えない

階別の比較

危険とされる階

 マンションのどの階が危険かよく話題になる。
 私は全ての階で危険性が同じ筈がないと思っているが、世間一般に言われる危険性について疑問がある。
 一般的には下記の3つの階が最も危険と言われる事が多い。

・1階
・最上階
・中間辺りの階

 恐らくこの中のどれかが最も危険な階である可能性が高い事は私も認めるが、実はマンションが大破した例は少ないのでまだ十分な資料が集まっておらず明確な結論は出ていない。
 また、地震やマンションのタイプによって同じ階(例えば1階)が最も危険だったり最も安全である可能性もある。

 次の項では上記3つの階について具体的に検証を進める。

1階

 私は「1階危険説」に疑問を持っているが、その説にはそれなりの根拠があるようだ。
 まず1階は最も重量の掛かる部分だから上階が乗っかってきて、ぺちゃんこに潰されるのではないかと思われがちだ。
 また、1階が潰れた例は少なくないし、それが結果論とは思わない。
「1階が潰れた例が多く単なる偶然だけでないとすれば1階がやはり危険という事になるじゃないか」と突込みがありそうだが、一つ大きな条件がある。

 それは1階がピロティーの様な開口部の多い形式になっている場合だ。
 例えば電機店やマンションなどで1階が駐車場形式になっている建物は多い。
 ある程度の規模が無ければ立体駐車場の導入は難しいので中小規模の建物では1階を駐車場にした建物は多い。便利な反面、壁が少ないために耐震性が低くなり易い。
 ピロティー以外の建物で1階だけが原形をとどめない程押し潰されたという話はあまり聞かない。1階は重量がかかる反面、柱なども太いので一概に1階が潰れやすいとは言えない。

最上階

 最上階危険説については明確な証拠はないが、可能性としてはあり得ると私は考えるし全く根拠がない訳でもなさそうだ。
 素人が考えても1階よりは最上階の方が揺れるであろうことは想像がつく。
 垂直に落下するにせよ横倒しになるにせよ最も落差が大きいのは最上階だ。特に横倒しになった時の衝撃は最も大きい。

 また、建物だけでなく人体の破壊についても最上階では大きくなる可能性もある。
 揺れによって人が転倒や衝突したり家具が人にぶつかったりする可能性が低層階よりは高いだろう。
 具体的なデータが存在しないものの、そういった要素で怪我し易い可能性が高まる可能性はある。

 更に逃げ易さという点では最上階は最も難がある。
 もっとも、命にかかわるような激震が発生した際には実際には殆ど動けないという声もよく聞くので実際には1階と大差ないのかもしれないが、程度の差はあれ少なくとも最上階が不利である事は間違いない。 

中間階(後日記載予定)

造られた年代と安全性

経年劣化

 建造された年代については多くの人が「新しい方が良い」と思うだろうが、その代表として経年劣化が挙げられる。
 素人でも何となく想像は付くだろうが、通常は時間が経つに従い建物は劣化していく。
 例えば鉄筋コンクリートの場合だとコンクリートは最初はアルカリ性だが、表面から徐々に中性化して鉄筋に達すると錆び始める。
 こんな事についてはプロとしてわざわざ述べる程の事でもないような気もするが、経年劣化は建物の年代を考える上で重要な要素なので一応書いておいた。

 但し、個々の建材については必ずしも時間が経つにつれて質が落ちる訳ではない。
 例えば古い木造住宅の構造材は時間が経ってむしろ質が高まっていると見る向きもあり、貴重な資源として再利用される場合も少なくない。

建築法規・検査体制など

 年代が新しいほど建築基準が強化されて管理体制も整備されていると考える人が多いが、必ずしもそうではない。

 建築基準が強化されているといっても実際に何がどう強化されたのか具体的に示した例は殆どない。
「どうせ素人に何を言っても分からない」と作る側が勝手に言っている場合も少なくない。
 現実には「技術が進歩したのだから」という理由でむしろ規制はどんどん緩和されている。
 その典型がタワーマンションで、かつては絶対に許可が出なかったような不安定な形状でも建築が認められるようになっている。

 また、検査体制についても当ページで書かれた耐震強度偽装問題は2005年頃に騒がれだしたものであり比較的最近の事件だ。
 これは自民党政権時代の規制緩和によって発生した事件であり、最近の検査体制だから安全という訳では決してない。

 法律や検査などの体制については「新しいほど良くなっていく」とは限らないのが実情なのだ。

建築技術

 近代に入ってから工業技術は常に進歩してきた事もあり少しでも年代の新しい建築の方が耐震性が高いと考える人が多い。
 しかし、建築に関して言うとIT産業の様に日進月歩という程の進歩は遂げておらず、品質的には半世紀前の鉄筋コンクリート建築は基本的に現代の物と大差ない。
 最近になって耐震工法や制震工法などが導入される様になったとはいえ、通常の個人住宅でそれらが装備される事は殆どないし、鉄筋コンクリート建造物についても現時点では超高層建築など一部の建造物に限られている。  また、そういう特殊な機構がなくても従来の工法でもしっかり造ってあれば地震に十分耐えうる性能を持つ事は可能だ。

 という訳で電子製品や自動車などと違い数十年前の建造物であろうと技術や品質的には大差ない場合も少なくない。

構造と耐震性

耐震・制震・免震構造の違い

免震構造 制震構造  耐震性を強く意識した構造として耐震構造・制震構造・免震構造がよく挙げられるが、この違いは素人にはなかなか分かり難いだろう。

 耐震構造だが、これは従来構造と同じと考えてよい。
 柱を太くするとか鉄筋を多くするなど従来の概念で耐震性を高めた構造だ。従って構造自体は従来建築と特に違いはない。
 それに対して制震構造と免震構造は建物に対する外力の負担を軽減する事によって耐震性の向上を図っている。
 それぞれについて代表的な2つの例を描いてみた。
 右側の左の方の図が制震構造の模式図で上の緑が錘と考えてほしい。
 右側の右の方の図が免震構造の模式図で下の方の赤い2か所が積層ゴムの様な緩衝材のつもりで書いた。

 この場合の制震構造では建物が揺れると逆方向に緑の錘が動いて揺れの力を軽減する。
 それに対して免震構造は上部構造と下部構造を完全に切り離してしまって揺れの力を軽減しようとする点に特徴がある。

 制震構造と称する物の中には地震力軽減用のブレースを付けただけの物に見える物もあり、どこからが制震構造なのかという境界は分かり難い。
(恐らく明確な定義はないのだと思う)

 という訳で、既に述べた様に比較的最近出てきた制震構造と免震構造が概念的には共通するのだが、構造的に見ると耐震構造と制震構造は必ずしも根本的に違う訳でもない。
 従来の耐震構造でも制震構造や免震構造を上回る耐震性を持つ建物を造る事は可能ではあるが、強いて耐震に関する先進性を述べるなら、一般に免震構造・耐震構造・制震構造の順になるかと思う。

タワーマンションの是非

 最近激増しているタワーマンションについては「しっかりした地震対策が練られているから却って安全」という意見をよく見かける。

 しかし安全性については過信しない方がよいと思う。
 タワーマンションの歴史自体が浅いのでまだ激震地での被災例はまだ殆どないのでデータが乏しい。
 安全性は業者が勝手に言っているだけの事だ。

 長周期震動など特定の波長の地震に弱い可能性も盛んに指摘されている。
 また、地震対策は主に水平力を重視しているので縦方向の揺れに対してどの程度の効果があるかはっきりしていない。
 地震時においては常に想定外の事態が発生するのが常なので制震構造や免震構造になっているからといって絶対に安全とは言い切れない。

 また、そもそも超高層建築という縦に細長い形状は素人でも想像が付くだろうが、元々地震に弱い構造である。
 それが規制緩和によって今まで考えられなかった危険な形状でも許されるようになった。
 つまり建てに細長い超高層建築という危険な要素と「制震装置や免震装置などの導入」という安全の要素、そのどちらが上回るかの綱引きという事になる。
 これは現実問題としてプロでも判断は難しい。

「タワーマンションだから危険だ」とも「タワーマンションは買うな」とまでは言わないが、「タワーマンションだから耐震性は絶対的だ」と思うのであれば上記の理由で本末転倒だ。
 但し、私はタワーマンションに否定的な見解をしていない。
 危険な形状は他にもファミリーレストランや電機店などにあるピロティー形式の建物はよく見かける。
 建物は耐震性だけでなく利便性も当然必要なので、耐震性の不安と利便性を考えた上で決めればよいと思う。
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