流転恐怖 第三十七話 『八尺様』

―昭和初期 とある山村

強い日差しとうるさいほどの蝉の鳴き声にうんざりしながらも、俺と友達の神社の息子はお盆の祭りで使う飾りやキュウリの馬、ナスの牛とか細々としたものを作っていた。

( ・ω・)「めんどくせぇなぁ。こんなの投げ出して、とっとと川に身投げしに行こうぜ?」

神社の息子「身投げじゃ意味違うだろ? それにこれを作りきらないと祭りにいくとき小遣い貰えないし、お盆は先祖を迎えるもんなんだからお前みたいな奴は特に感謝をこめて作ったほうがいいだろうよ。それでもお前が身投げしたいっていうなら止めはしないけどさ」

( ・ω・)「人の弱みを逆手にとりやがって…… 全く、大人という奴はいつも卑怯でずるく、汚く、げれつ、ひきょう、卑劣、下劣、おまけに汚くてゲレツでズルくて卑怯すぎだぜ!」

神社の息子「いいたいことはわかるが、同じ言葉を何度も使い回してるなよ。頭良さそうにみせようとして返って馬鹿なのバラしてるだけだからさ」

( ・ω・)「同じこと言ってねぇよぉ。ちゃんと微妙に言い方変えてんだからな」

神社の息子「いや、言い方変えたって意味は同じだろうよ」

( ・ω・)「まったく、そんなんだからお前は感受性がないんだよ。俺なんかな、木のコブを見ておっぱいと思ったり、茶碗をみたらおっぱいと思うし、饅頭なんておっぱいと勘違いするくらい感受性豊かなんだぜ? あ、でも桃だけは尻に見えちまうけどな」

神社の息子「今のどこに感受性があるんだよ!! 欠片も見つからねぇよ!! つーか、お前の頭の中はそんなものしかないのかよ?!」

( ・ω・)「てめぇ、俺のおっぱいへの愛を甘くみるんじゃねぇ! 俺はな、例えじじいになろうともこのおっぱいへの思いをなくしたりはしねぇぞ!!」

神社の息子「感受性はどこにいったんだよ!!」

などとおっぱい論争をしているときのことだった。ふと「ぽっぽぽっぽ……」だかという空気の抜けるような笑い声が通りから聞こえてきた。

( ・ω・)「ん? 何だ?」

誰が笑っているのかと庭から通りに目をやれば、見慣れぬ人影が庭の塀に立掛けた板材の隙間から垣間見えた。

白い着物の…… 女なのだろうか?板材は大人の男でも頭がでないほどの大きさがあるというのに、女は頭が見え隠れしているのだ。荷台か何かに乗って移動しているかとも思ったけれど、それならガラガラと車輪の大きな音が響くだろうし、乗っている女の体はもっと不安定に揺れていいはずだ。けど、車輪の音もなければ、不安定に揺れることもない。聞こえるのは女の足音と「ぽっぽぽっぽ……」だかという笑い声らしきものだけ。

( ・ω・)「なんなんだ、あいつ? ずいぶんとでかい…… 女か? 変な笑い方しやがって。いくら感受性がないからって、笑ってやるなっての! なあ、笑われた奴」

笑われた奴「変な呼び方するなよ! 第一なんで俺が笑われるんだよ! 今の状況、どう考えてもお前だろ!!」

( ・ω・)「お前の感受性のなさ以外に何か笑うことがあるのかよ?!」

神主「何を騒いでおるか」

仕事の監視にきた神主さんが、騒いでる俺たちにむけて怒鳴り声をあげる。

( ・ω・)「なんでもねぇよ、おっちゃん。ただ、あんたんところのバカ息子が感受性の欠片もないためにあそこのでかい女に笑われたってだけさ」

神社の息子「誰がバカ息子だ! つーか、笑われたのはお前だろうが! あれ見ておっぱいだ、これ見ておっぱいだなんて言って恥ずかしくねぇのかよ!」

( ・ω・)「そんなに人前でおっぱいおっぱい連呼するなよ。恥ずかしくねぇのかよ?」

神社の息子「お前が言ったことだろうが!」

神主「静かにせぬか、馬鹿者どもが! 第一、誰に笑われたというんだ? 誰もおらぬぞ」

そう言われてあたりを見渡せば、既に女の姿はなかった。

( ・ω・)「おかしいなぁ、さっきまであの板材の向こうから顔を出してたのに」

神主「はぁ? 何をいってるんだ。あそこの板材より大きいなどと……。そんなの台座を使おうとも無理だぞ」

神社の息子「まあ、俺達もそう思うけどさ。でも実際に白い着物の女が見えたんだから仕方ないだろ?」

( ・ω・)「そして、こいつは笑われたんだ。ぽっぽぽっぽ……だっけか? 妙に気の抜ける笑い方が哀れみすら感じさせるぜ」

神社の息子「だから、笑われたのは俺じゃなくてお前の方だろうが!!」

再び騒ぎ立てる俺たちであったが、神主さんは今回は止めることもせずに、じっと怖い顔で俺たちを見据えていた。

神主「……お、お前たちが見たのは…… あの板材よりも大きな白い着物の女…… というのか?」

( ・ω・)「おう、そうだぜ。ただ本当に女なのかどうかはこの俺でも判別できなかったけどな」

神主さんは苦い顔でふるふると首を振る。我が子が変な女に笑われたことを気にしてる…… とも思ったが違うようだ。真剣な眼差しで俺たちを見てぶつぶつと呟く。

神主「……まさか……。いや、だが、お前たちに絡む邪気……」

神主さんの急な変化には俺達でもさすがに心配になる。何か変なことを言ってしまったのだろうか?

神主「……おそらく、お前達が見たのは八尺様という妖怪だ」

神社の息子「八尺様?」

神主「十数年に一度くらいの頻度で気に入った者の前に姿を現しては、その者を…… 連れ去るらしい」

( ・ω・)「マジかよ? 俺、初めて女に気に入られたぜ!」

神社の息子「良かったな。お前、村中の女に嫌われてるもんな。妖怪でもなんでも気に入って貰えて」

神主「いや、よくはないだろう。しかし、なぜ村にでたというんだ。隣の村…… といっても既に廃れているが、そこから出られないようになっていると伝わっているのだが……」

うーんとうなる神主さん。だけど、でられないようになっていたものがでた、そんなことはもう出会ってしまった俺達にはどうでもいいことだった。大事なのはその八尺様と出会ってしまった後のことだ。

神社の息子「な、なあ、父ちゃん。八尺様に連れ去られた奴は…… どうなるんだ?」

神主「……帰ってきたものはいない」

そういう神主さんは沈痛な面持ちで、それ以上は何も言おうとはしない。それが不要な想像力をかきたてて、むしろ事実をはっきりと言い切るよりもずっと恐ろしく残酷ですらあると幼心に思えた。

(;・ω・)「で、でもさ! なんか助かる方法とかあるんだろ?」

神主「八尺様は狙った相手を執拗に追い続けるというからな。助かる方法を探してみるが、根本的な解決が出来なければ、十年、二十年、いや死ぬまで追われることになるやもしれん」

(;・ω・)「おいおい……」

神社の息子「そ、そんな……」

( ・ω・)「……とんでもなく執念ぶか…… いや情熱的な女だな。お前がちょっと羨ましいぜ」

神社の息子「嬉しくねぇよ! つーか、さらりと俺になすりつけるなよ! お前も狙われてるだろうが!!」

( ・ω・)「ちげーよ! 俺が女に好かれるなんて思ってるのかよ!?」

神社の息子「これっぽっちも思えるわけないだろ!? むしろ ……いや、でも、なんか、ごめん。気にして…… ないよな?」

( ・ω・)「謝られると無性にむかつくぜ! お前が八尺様の生贄になるんじゃなかったら、今頃、ぶちのめしていたところだぜ」

神社の息子「勝手に生贄にするんじゃねぇ!」




その夜、俺達は神社の奥にある二階の部屋へ入れられた。八尺様を元の村に返す妙案があるらしく、それを実行するのに明日まで準備が必要だということだ。それでその準備が整うまでの間、つまりは今夜を乗り切るために安全地帯としてここにいるというわけだ。

一階には神主さんに近所の寺の住職さん、駐在さん、通りがかりの山伏、四国八十八箇所参りを経験したとか言ってたおっちゃん、ついでに俺の父ちゃんと最強の布陣で詰め込んでいるそうだ。

正直、不安でならない。

そんな俺の不安はどこ吹く風で、神主さんは部屋の四隅に盛り塩とかお札とか藁人形とか、とにかく思いついたものを思いつくままに設置していた。そのうち俺達の全身にお経でも書くんじゃないかとひやひやものである。

俺達はといえば、手伝うこともせずにぼんやりとしていた。いまいち実感のない恐怖、だけどその存在を強く意識させる悪意を前に何をする気力もでなかった。

ほどなくして設置が終わったのか、神主さんは一束の線香を差し出して俺達の前に座った。

神主「いいか、特に恐ろしいのは異界の者の力が強くなる夜だ。だから、夜が明けるまでは全ての戸を閉じて、部屋の中でじっとしているんだぞ」

神社の息子「うん、わかった……」

( ・ω・)「わかったよ。心も閉ざして、いざとなったらこいつを裏切るくらいの心構えでいるよ」

神主「別に心は閉ざさんでいい……。戸を全て閉めきると朝が来たかもわからんだろうからな、この線香を使え。この線香は1時間で燃え尽きるから、燃え尽きたら次を燃やすを繰り返して12本全てが燃え尽きれば12時間だ。いいか、この線香が燃え尽きるまで、この部屋から決してでるんじゃないぞ」

神社の息子「わかったよ……」

( ・ω・)「わかったよ、おっちゃん。たとえ、こいつが血反吐を吐こうと、発狂しようとこいつの命が燃え尽きるまで部屋から出たりしないよ」

神社の息子「燃え尽きるのを待つのは俺の命じゃねぇ! 線香だ!! そもそも、なんで俺が血反吐を吐いたり、発狂したりすることになるんだよ!!」

( ・ω・)「気にするなよ。ただのものの例えだろ?」

神社の息子「お前はいちいち物の喩えが物騒なんだよ! つーか、本気で俺を亡き者にしようとしてるようにしか思えねぇんだよ!」

(( ・ω・))「そそそそそんんななななこここたあぁ、ななないでごんすよ?」

神社の息子「なぜ、そこでどもるんだよぉー!」

空気も読めない自分の息子に業を煮やしたか、神主さんは俺達の頭をむんずと掴んで一括。

神主「いいから、とっとと部屋の中に入っとれ!!」

そんなこんなで俺達は一緒の部屋に閉じ込められたのだった。

( ・ω・)「暑苦しい奴と一緒の部屋かよ。まったく、やってられねぇぜ!」

神社の息子「その言葉、そのまま返してやるよ!!」

( ・ω・)「仕方ねぇな。ここは喧嘩しても暑苦しいから、窓でも開けて涼しい風をいれようぜ」

神社の息子「あぁ、そうだなって! 窓開けたら八尺様に連れさらわれるって言われてるだろうが!!」

( ・ω・)「じゃあ、仕方ねぇな。この千枚通しで雨戸に風穴を開けようぜ。こんな雨戸、あっという間に網戸にしてやるぜ!!」

神社の息子「違う意味でやめろー! あとで怒られるだろ!!」

必死の妨害をしてくる友達を振り払いながら、俺は必死に雨戸へ向かい、そこに手をかけたときだった。

かりかりと雨戸をひっかく音とともに、か細い女の声が扉の向こうから聞こえてくる。

???『あ〜け〜て〜……』

夜中に今にも消え入りそうな女の声、それだけでも十分気味が悪いものだ。だけど、それ以上に恐ろしいことがある。それは、ここが二階だということ……。

普通の人間が、扉の向こうから話しかけることも、雨戸を引っかくことも出来るわけない。俺達は思わず息をするのすらも忘れるほどに、雨戸の向こう側に集中してしまった。

???『あ〜け〜て〜……』

再びの呼び声。聞き間違いなどではない。明らかに雨戸の向こうから、その声は聞こえてきた。圧倒的な存在感が扉の向こうに感じ取れた。

神社の息子「や、やべぇよ…… 本当にすぐそこまできてるよ……」

((;・ω・))「こここここういうととととききぃーーは、れれれれいせせいいいぃになななるるでごわごわすよ!」

神社の息子「まずはお前が冷静になれ!」

( ・ω・)「そうだな。よし! ここはきっぱりと断りをいれてやるぜ!」

神社の息子「いや、だからって冷静になるの早すぎだろ」

俺はこのまま怯えていたら声に負けてしまうと、心を震わせて必死に反撃にでることにした。息をのみ、奴がくるのを待つ。ほんの数秒、その時間すらも気の遠くなるほどに長い時間のようであった。

やがて待っていたものは無機質に訪れる。カリッ…… カリ…… と雨戸に爪を立てる音。そして、奴の声……

???『あ〜け〜て〜……』

( ・ω・)「や〜だ〜よ〜……」

神社の息子「なんで、同じ感じで返してるんだよ!? 怖いじゃねぇか!!」

( ・ω・)「これでいいんだよ! 俺たちがこれだけ怖がらされたんだ。今ので向こうも怖がってるはずだぜ!」

???『あ〜け〜て〜……』

しかし、奴は俺の策略など意に返さないといわんばかりに単調に切り替えしてくるだけだった。

( ・ω・)煤uお、俺の反撃が効いてないだと!? じょ、冗談だろ? 奴は…… 奴は化物か!?」

神社の息子「まあ、そうだろうよ」

……結局、追い返すことの出来なかった俺達は朝になるまで部屋の隅でじっとしていることにしたのだった。

神社の息子「線香を全部燃やすまで出るなって言ってたけど、一向になくなる気配がないな……」

友達はぐちぐちと新しい線香に火をつける。手にはまだたくさんの火のついてない線香があった。

( ・ω・)「まったく、そんなちまちまやってたら、いつになっても終わらないだろ」

俺はそう言って、友達の手から線香をくすね、一斉に火をつける。

( ・ω・)「燃え尽きろーーー!」

十本くらいはあった線香は一斉にもくもくと煙を出す。

神社の息子「あぁーーー!! なにやってんだよ!?」

( ・ω・)「喜べ、これであと一時間もすれば線香は全て燃え尽きて、俺達はこの忌々しい部屋から出られるぜ!」

神社の息子「違うだろ!! 線香が全部燃え尽きるのが前提じゃないだろ! 線香は朝になるまでの時間を計るためのもので! あー、もう!」

( ・ω・)「なに、いざとなったらお前が外にでて朝か夜かを確認すればいいさ。お前が帰ってきたら朝、帰ってこなかったら夜だ」

神社の息子「だから、いちいち俺を危ない目に遭わせるんじゃねぇ!! ……つーか、本当にどうすんだよ」

( ・ω・)「なに、一番鳥が鳴いたら朝だろ」

神社の息子「いや、でもな。八尺様が一番鳥の鳴き声を真似てくる可能性だってさ……」

そんなときだった……。

???『コケコッコ〜……』

( ・ω・)「……」

神社の息子「……え?」

やたらとか細い一番鳥の鳴き声が聞こえた。

神社の息子「……いや、いくらなんでもさ」

( ・ω・)「まあ、お前の言いたいことはわかるさ。でも、意外にこういうもんだと思うぜ、俺は」

疲れた様子の友達の肩を叩いてから、俺は腰をあげて戸に向かう。

( ・ω・)「長いようで早かったな、一番鳥が鳴くの」

神社の息子「違うだろ?! そうじゃないだろ!! なに、本気で扉を開けようとしてるんだよ!!」

(;・ω・)煤uな、なんだと!? い、今のが罠だっていうのか!? 言われてみれば、一番鳥にしては元気がなかったような……」

神社の息子「お前がどうなろうといいが、俺まで巻き込むなよな。いいか、誰が何をいってこようと絶対に開けるんじゃないぞ」

( ・ω・)「……誰が何を言ってこようともか。それじゃあ、隣村の佐藤のじいさんが我慢に我慢を重ねたうんこを出したいから厠を貸してくれと切に助けを求めてもか?」

神社の息子「あ、あぁ……」

なんとも非情な悪友であった。

隣村の佐藤のじいさん『す、すまぬ!! 後生じゃぁー! 我慢に我慢を重ねたうんこが今にもでそうなんじゃ!! 厠を! 厠を貸してくれんかぁーーー!!』

言ってる側から隣村の佐藤のじいさんが厠を借りにやってきたようだ。だが、俺達は涙をのんで無視を決め込んだ。

( ・ω・)「すまねぇ、隣街の佐藤のじいさま、そこらへんにぶちまけておいてくれ。あと恨むなら俺じゃなく、こいつを恨んでくれ!」

神社の息子「ちょっと待て! 今のあからさまに嘘くさいだろうが! こんな丁度よく隣村の佐藤のじいさんだかがやってくるわけないだろ!!」

(;・ω・)煤uな、なんだと?! い、今のも罠だっていうのか!? まあ、最初から助けるつもりなかったからいいけど」

神社の息子「助ける気ないのかよ!! まあ、どっちでもいいさ。いいか、同じように来ても、今みたいに無視を決め込むんだぞ」

( ・ω・)「隣村の佐藤のじいさんが秘蔵のビニ本を息子の嫁に見つかる前に隠させてくれと血の涙を流してまで頼んできてもか
?」

神社の息子「う、うん……」

隣村の佐藤のじいさん『一生の願いじゃぁー!! わしの…… わしの生涯をかけて集めた秘蔵のビニ本が息子の嫁に見つかりそうなんじゃ!! 頼む、頼むから、これをおまえたちのところにかくさせてくれぇーーー!!』

またもや佐藤のじいさんが咽び泣きながら、頼みにやってきた。正直なところ、佐藤のじいさまなぞどうでもいいが、秘蔵のビニ本が気になって気になって仕方ない。だが、ここは血の涙を流して諦める。

( TωT)「くっ…… すまねぇ、ビニ本…… じゃなかった、隣村のビニ本の佐藤! 明日になれば、明日こそはきっとお前を迎え入れるからな!!」

神社の息子「お前、本当は佐藤のじいさんなんてどうでもいいんだろ?! 誰だよ、ビニ本の佐藤って! つーか、あんなわけのわからないじいさんなんて、最初から無視すりゃいいだろ!!」

( ・ω・)「……」

神社の息子「……なんだよ?」

( ・ω・)「お前って、本当に血も涙も義理も人情も金も甲斐性もない男だな……」

神社の息子「お前、状況が分かってないだろ!? 今、外から聞こえてくるのは奴の嘘なんだっての!! つーか、隣村の佐藤のじいさんって誰だよ!?」

( ・ω・)「やれやれ、人の言葉を信じられなくなるようになっちまうなんて、悪友として情けないぜ」

神社の息子「俺もお前が幼馴染ってことが物凄い情けないぜ」




……あれからどれだけの時間が経っただろう。暑さと恐怖との戦いでぼんやりとしてると、突然、廊下側の戸が開け放たれた。

いきなりのガタガタという音に、戸口から溢れる眩しい光。意識は無理やりに覚醒状態へと置き換えられる。

( ・ω・)煤uな、なんだ?!」

神社の息子「え? だ、誰だよ!?」

若者「おっと、驚かしてしまったか? すまないな。お前たちを呼びにきただけだけなんだ」

ゴツイ体のイガ栗頭のあんちゃんは、ばつのわるそうに苦笑いをする。なんか村の若い衆にいたような気がしないでもない。女以外は興味ないから憶えてないけど。

神社の息子「呼びに来たってどういうことだ?」

若者「いや、俺は詳しい話は聞いてないよ。神主様がなんかの準備ができたから、お前たちを呼んでこいって言われただけだし」

( ・ω・)「ただの使い走りかよ」

神社の息子「バカ! お前、わざわざ来てくれてるっていうのに……」

若者「……」

俺の言ったことであんちゃんの機嫌を損ねると思ったのだろう、友達はすぐに止めに入った。けれど、当のあんちゃんはといえば、まるで気にした様子もない。鈍感なのか、大人の余裕というやつか。

若者「とリあえず、ついてきテくれるか?」

神社の息子「すぐそこじゃないのか?」

若者「……あァ、少し遠イ所だからな」

なにか変な感じがしたが、このまま暑さと恐怖に苛まれ続けるのも嫌だった俺達は大人しくついていくことにした。

既に夜は明けていて、日は随分と昇っていた。普段なら、畑仕事にでてるおっちゃんやおばちゃんがたくさんいるのだが、今は人っ子一人見当たらない。俺たちの巻き添えでもくらうのが嫌で隠れているのだろうか。

あんちゃんは俺達の歩く速さなんて無視してどんどんと進むから、こっちは早歩きで必死に追いすがらないとならなくなる。そのせいでだんだんと周りがどうとか考える余裕すらなくなってきた。

歩みは小走りに、小走りは駆け足に、駆け足は全力疾走に変わってゆく。それでもあんちゃんとの距離はどんどんと離れるばかり。

( ・ω・)「って、おいおいおい! どこまで行けばいいんだよ!」

さすがに追いつくのに走らないとならないようになったところで俺が愚痴ると、あんちゃんは急に歩みを止めた。

若者「ついタ……」

神社の息子「ついたって…… ここは……」

そこは既に廃れてからずいぶんと経ったらしき村。八尺様が閉じ込められていたという廃村だろうか。

( ・ω・)「ここに…… 八尺様を閉じ込めるのか?」

若者「いイや……」

ぐらぐらと不安定に体を震わせながら、あんちゃんは振り返る。俺達を見る目は既に白目をむいており、口から泡をふいていた。すでに意識がある状態でないのは一目で分かった。

あんちゃんは口をぱくぱくと動かす。けれど、聞こえる声は既にあんちゃんのものではなく、低い女の声……

若者「今度ハ、オまエ達が…… 閉じコめラレる……」

それだけ言うとあんちゃんは糸が切れた人形のようにその場に倒れこんでしまった。

そして、廃村の奥からは「ぽっぽぽっぽ……」という笑い声と共に白い着物を着た細長い女が姿を現す。あのとき聞いた笑い声、そしてやたらと背の高い姿、顔がはっきりと見えないこの世ならざる存在……

神社の息子「八尺様……」

山の中で獣に会ってしまったときは相当に怖い。けれど、なんらかの対処方法はあるから、絶望というのはあまり感じたことはなかった。だけど、これは違う。どうしようもない、逃れる術のない、そんな恐怖が目の前にいた。

絶望が滑るように迫ってくる。

俺達は考えるよりも先に逃げ出していた。

(;・ω・)「うおぉーーー!」

神社の息子「うわぁーーー!」

お互いに情けない声を出していたと思う。けれど、お互いに声が聞こえるから、正気を保てていた気もした。もし一人だったら、逃げることすら出来なかったかも知れない。

(;・ω・)「お前、神社の息子だろ?! 奴を足止めできるようなものはなんかないのかよ!? お札とか、ビニ本とか、清めの塩とかよぉ!」

神社の息子「あるわけないだろ! どうにかできるようなものがあるなら、とっくに持ってきてるよ!」

(;・ω・)「この役立たずの穀潰しの…… ちくしょう、お前と友達で楽しかったぜー!」

神社の息子「バカ野郎! そんな最後の言葉みたいこというんじゃねぇ…… 俺も楽しかったっていいたくなるじゃねぇかよぉー!」

涙ながらに叫ぶ俺達は、一緒に盛大に転んだ。道が悪いというのはあった。雑草が生えたり、石ころが散乱して道の面影を残す程度の道を全力疾走したのだ。転んだっておかしくないだろう。

けれど今転んだのは違う。

俺達は別に合わせたわけでもないのに、同じように自分の足元をみる。そこにはか細く生気のない真っ白な手が俺達の足首をしっかりと掴んでいた。

その手の先は、あの白い影。間近まであの女が迫っていた。

(;・ω・)「もう…… 駄目だ……」

近くに迫っているのに、その女の顔はよくわからなかった。もしかしたら顔なんてものはないのかもしれない。ただ、耳まで裂けているかのような口で笑っているらしいことだけは、なんとなく感じた。

俺は……

死んだ……

そう思った。そのときだった。

誰かが俺の体を逆方向へと引っ張った。それも相当の力だ。もう逃げられないと感じた八尺様の力を振りほどこうとするほどの強い力が逆方向に引っ張ってゆく。

最初は一人、それがいつの間にか二人、三人とどんどんと増えてゆく。そのたびに八尺様が強く引きずり込もうとするが、それ以上の力で反対方向に引っ張ってくれる。

村の衆が助けにきてくれたのだろうか? そう思って、俺は恐る恐る顔をあげ…… そして後悔した。

俺達を引っ張るのは無数の手。ただし、手だけ。その手の先は何も無い。本当に手だけであった……。

(;・ω・)「全然助かってねぇー! つーか、むしろどっちにしても助かる気がしねー!」

神社の息子「この廃村で何があったんだー!?」

八尺様と無数の手の引き合い。俺達はそれに為す術も無かった。

(;・ω・)「つーか痛ぇ! 足が、足がもげる! お、大岡裁きを! 大岡裁きをー!!」

神社の息子「いや、どっちに転んでもよくねぇよー!!」

どちらも強烈な力で引きあうものだから、あまりの痛みで結局のところ、途中で意識が飛んでしまった。





あれから数日後……

気持ちも整理がついた俺達は釣りをしながら、あのときのことを話し合っていた。

( ・ω・)「結局、あの手は何だったんだろうな」

あのあと、俺達は廃村の外で見つけられた。足元には赤い手形の痣が残っていたが、それ以外は特に傷らしいものもなかった。

どうでもいい奴「まあ、おまえらを助けてくれたみたいだけどな」

助けてくれた。まあ、そう思うのが自然だろう。手形は八尺様のものこそあったが、それ以外の手形は一つも残ってなかったし、なによりも俺たちが倒れていた近くの道には、八尺様を封じるように地蔵が置かれていたそうだ。

神社の息子「父ちゃんの話だとさ、ご先祖様が助けてくれたんじゃないかってさ。お盆でご先祖様が帰ってきてるからって、ちょっと出来すぎな気もするな」

誰だっけ?「ちょっと突拍子もない気もするけど、まったくそんなことないってわけじゃないだろうよ」

こんなのいたっけ?「先祖というのはどんなに出来が悪かろうとも子孫を思うものだろう。まだ親でもない俺達にはわからないものかも知れないがな」

目を合わしたくない奴「クネクネー(゚∀゚)」

印象薄い奴「なんであれ、きちんとご先祖の供養しとけよな。助けてもらったってのもあるけど、やっぱりそこまで思ってくれてるんだからさ」

神社の息子「あぁ、そうするよ。まっ、俺もいつかは親になり、じいさんになりで、子供や孫の面倒見る側にまわるだろうけどさ。ははっ!」

( ・ω・)「お前、結婚できると思ってるのか? 血も涙も人情も金もない癖して」

神社の息子「お前よりはできると思ってるよ!」

印象薄い奴「喧嘩するなっての」

まあ、口では邪険に言っちまったけど、まあ俺もいずれは守る側にまわるんだろうな。そのときは……

( ・ω・)「それにしてもお前……」

印象薄い奴「なんだ?」

( ・ω・)「薄っぺらい顔だな。目と鼻はどこだよ?」




(´・ω・`)「……と、いうことが昔あっての。最近、その地蔵が倒れてたらしいんじゃよ。というわけで都会に帰るときにわしも一緒に行って、めいど喫茶に…… じゃなかった、お前の家にいっても良いかの?」

( ´∀`)「だが断る!」

こうして田舎での一日が過ぎるのであった。


――ぽっぽぽっぽっ……



本当にあったら怖い都市伝説解説

GORO:それでは諸君、これより心霊研究を始める

子供:GOROさん、この話にでてくるのは『八尺様』と呼ばれてますが、何者なのでしょう?

GORO:八尺様……。「ぽぽぽ」と声らしきものを出す、身長が八尺(約2m40cm)もある女の姿をした妖怪だ。魅入ったものを執念深く追い続け、取り殺してしまうといわれている。元々は地方伝説の一つだったが、ネットを通じて似たような体験談の報告が相次いだことで一気にその知名度を増したネットロアの一つに数えられるものだ。

子供:なんで今までは知られていなかったんですか?

GORO:八尺様の被害というのが10年に1度ということや、その無差別性から逃れられない天災のようなものとされてたいんじゃないかと推測するよ。村としても必要がなければ語らない禁忌としていたなら、あまり噂が広がらなかったのも不思議じゃない。
だけど、今までは村の中に封印されていて外にでることがなかった八尺様が、封印していた地蔵が倒れてしまうことで村から出てしまった。その村だけのことだったのが、どこにでるかわからない、いつ自分が巻き込まれるかわからないという恐怖となったのも、広がりやすくなった一因かもね。
似たような存在に悪皿というものがいるけど、これは次の機会にとっておこうか。それまで、みんな八尺様に連れさらわれることなく元気でね

子供:はい、GOROさん!