IBDの原因は何か?

猫の炎症性腸疾患IBDの原因はまだわかっていません(特発性という表現がこの病気につくことがありますが、それは普通の言葉で言えば原因不明という意味です)。

何らかの病原体の存在や (何物かに対する)感受性・なんらかの素因の遺伝が疑われたり、食物、栄養(質・過剰・不足)化学物質の関与、腸内細菌叢の質的あるいは量的変化、あるいは腸内常在細菌叢への腸粘膜の異常反応などなど、きわめて色々な要素がIBDにおける腸管粘膜の働きを乱す原因としてその可能性を研究されています。ことに食物については、猫に於いては充分に究明されていない分野である「食物有害反応」とIBDが関わっているのではないか、あるいは一部重複している疾患なのではないかという疑いが持たれています。しかし、決定的なものはなく、いづれも未だ推測の域を出るものではありません。

これ等のいくつか、あるいは全てが何らかの形でIBDにかかわっているのかも知れないのですが、いずれにしろ、現在、IBDはそれ(ら)に対しての粘膜免疫の調節不全、免疫反応の異常として認知されます。 免疫反応の異常自体が病因(のひとつ)であるのか、あるいは病気の結果であるのかも、未だわかっていないことではあるのですが、一般的には一口に自己免疫疾患という表現が選ばれたり、あるいは胃腸の免疫機能に刺激を与えてしまう何らかの物質の存在を探る努力がなされているというわけです。 

原因不明とはいえ腸管における広い意味でのアレルギー疾患、免疫介在性の疾患として捉えるのは可能だという事でしょう。

(原因は何か?というより、そもそも原因不明の猫の胃腸炎をくくったのが猫のIBDであり、IBDを特殊な疾患、病気と考えるよりは、むしろ様々な要素によって引き起こされた条件の下、猫の身体が見せる非特異的(決まりきったターゲットやパターンを持たない)反応と説明するのが適当だとする獣医もいます)


猫が現在最も多く食べさせられている、人工的な食餌つまりキャットフードそのもの(特にドライ。療法食も含めて)が原因だと信じている人々もいます。→生肉食療法、  参考; ペットフードに関する獣医師の考え1998年API(アメリカ動物保護協会)

猫が受ける予防接種(ワクチンは、猫のIBD発症原因あるいはその病状の急性化と何らかの形で関係があるのではないか?と怪しむ人々がいます。

心的ストレスの関与   ヒトの場合、IBDは過敏性大腸症候群 IBSとは違って、直接的な関与(脳腸相関)があるとは考えられていません。しかし、最近ではストレスと腸管免疫過亢進の関係についての研究も出てきています。 猫の場合はどうでしょうか。YahooAmericaの猫IBDグループで行われた投票を見る限りでは、猫においてもストレスとIBD発症の間に関係があるのではないかと推察している家族は少なくありません。つまり、すでに潜在しているIBDが症状として表出するきっかけとなったり、症状の増悪に関係しているように感じる、という人々です。引越し、愛する家族との離別(猫、人間)、家族の離婚、テリトリーである我が家へ突然現れた新しい動物などが列挙されています。

腸の粘膜透過性亢進  猫のIBDの場合、炎症によって腸管の上皮細胞間がゆるみ、粘膜の透過性が高まってしまっていることは、よくある続発症状です。これによって本来の腸も持つ免疫機構、ふるい分けが充分に機能せず、食中たんぱく質が小さく分解されないまま血流に入り込めば異物・敵として体が認識し、これと戦うための反応(炎症)が起こって戦火が広がるもの不思議ありません。

人間のIBDのひとつであるクローン病でも腸壁で粘膜透過性Permeabilityが増大しており、それには遺伝的要素が絡んでいることを示唆した実験的報告があります。PMID: 16000642  しかし腸における粘膜透過性亢進はこの病気に限った現象ではなく、その素因がクローン病気の原因であるなどという決め付けはなされていません。が、アメリカでは代替医療に関心のある人達を中心に、これを重視、展開した考え方が広まってきています。総じてリーキーガットシンドローム LGS 腸漏れ症候群、腸管壁浸漏症候群 という名前を与えています。 ふつう漏れるという日本語は何かが「出て行ってしまう」意であるように感じますが、LGSの説明で描かれているのは、食物に直接せっする腸内壁の細胞という、言わばレンガの隙間から家の中へ(血流中へ)望ましくない物、本来入るべきでない物が浸入してしまう、というイメージです。  では腸粘膜透過性亢進がIBDの病状と一致するのかといえば、 イヌの場合ですが、腸粘膜透過性の程度がIBDの病態の活動性や細胞浸潤の有用な指標とはならないようです。PMID: 16506911  

家畜のかかるヨーネ病は MAP(Mycobacterium avium subspecies paratuberculosis) という細菌の感染が原因ですが、これとヒトのクローン病や猫のIBDが関係があるのではないかと興味をもっている学者もいます。

IBDと関係がある病気  必ず合併するという意味ではありません

肝リピドーシス    併発(続発)する可能性があります

食物アレルギー  ←食物アレルギーによって胃腸症状を呈している猫の組織所見は異常が認められても通常非特異的であるが時として好酸球性IBDとよく似ていることがある。

蛋白質喪失性腸症(腸炎) protein-losing enteropathy (PLE)   ただしに蛋白喪失性腸症を引き起こすようなIBDは非常に重症。   猫における有病率についての研究     参考

以下は、リンパ球性形質細胞性のIBDと関係する病気です

消化管型リンパ腫 IBDは悪性化(癌化)する可能性もあるといわれています。また、特に分化型リンパ腫とIBDは非常に鑑別しにくいことがあるといわれます。日本の猫のガンの中でも消化管型リンパ腫は目立って増加してきているようです。  IBDが癌化した猫の

   消化管型リンパ腫は高分化型、かつFeLV陰性であることが多く陽性率は30%以下に過ぎない (←非消化管型のリンパ腫の猫の大方がFeLV陽性であることとは対照的 )

   特殊なリンパ腫であるLGLリンパ腫の猫でも ある報告では21匹のうち、1/3にIBDの病歴があった。 PMID: 16407483 

猫の三重炎 feline triaditis (合併症)

以下の3つの疾患をあわせ持った状態は猫の三重炎と呼ばれます。解剖的位置関係、機能的関係が深く、併発することが稀ではありません。 

ある報告によれば、胆管肝炎の猫の80%が IBDであり、さらにその内の50%が膵炎であったということです。

IBD

慢性膵炎/軽度膵炎   Pancreatitis

胆管炎/胆管肝炎症候群 あるいは胆管肝炎  Cholangitis /Cholangiohepatitis  ←  Chol + angio + hepat + itis      写真

               IBDと関係があるとされているのは 慢性で 病理組織的にリンパ球・形質細胞主体である非化膿性と呼ばれる胆管肝炎です。

            ただし、好中球主体である化膿性や、繊維化を認める胆汁性肝硬変についても病態自体が全く異なるのか、あるいはステージが異なるだけであるのかは実のところよくわかっていません

             十二指腸からの細菌感染が原因・誘引となって免疫反応として炎症がおきた場合、細菌が無くなったあとも、炎症の形だけが存続してしまうのではないか、という可能性が示唆されています。          

        胆嚢炎Cholecystitisも関係してくることがありますが、胆のうの炎症は免疫介在性疾患であるよりは化膿性であることのほうが多い   胆のう炎で非化膿性であった

   ネコにおいてこれら3つの病気が同時におこりやすい理由として考えられているのは

      1.猫においてはそもそもIBDの罹患率が高い

      2.猫のIBDの場合、嘔吐が重要な症状であり、慢性的嘔吐により 「十二指腸の内圧上昇→ 膵管胆管逆流現象」 をおこしやすい

      3.(犬と違って)オディ括約筋が生理学的かつ解剖学的意味において膵液と胆汁の共通排出経路として十二指腸乳頭に開口するため、十二指腸の内容物が逆流すると膵系と胆管系の両方を灌流する

             4.犬に比べると近位小腸における細菌の数が極めて多い (猫は108^9 、犬は104 organisms/ml、つまり文字通りケタが違う)。 従って十二指腸内容物の逆流が病理的意味を持っても不思議でない

 

ヒトの場合では膵炎、胆管肝炎のみでなく、免疫学的関与が示唆される様々な疾患が腸管外合併症、関連疾患としてとりあげられています。

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