「猫 好酸球性胃腸炎」検索からお越し頂いた方へ  ここは原因不明の猫の胃腸炎である猫のIBDという病気に関するのHPの一部です。好酸球性胃腸炎も猫のIBDの一型です。

ネコのIBDとは…

炎症性腸疾患は文字通り腸に炎症がおきている状態です。そこでIBDは腸炎一般の総称(←広義の炎症性腸疾患)にすぎないという捉え方もありますが、通常、あえてIBDまたは炎症性腸疾患という言葉を用いる場合には、感染症(原虫、細菌、ウィルス)、薬剤性、血管性、などとして明確に原因が断定できる腸炎や代謝性の問題から来る二次的な問題としての胃炎は含めません。

近年受診して来る看猫が目立つようになっているが、しかし、現在の猫医療ではどうにも原因を絞りきれない胃・腸の炎症、つかみ所のない慢性的嘔吐あるいは下痢、血便あるいは食欲不振、その状態が欧米では猫のIBDと呼ばれていますので、この「猫のIBDのページ」でも、「小腸あるいは大腸の粘膜固有層への炎症性細胞の浸潤によって特徴付けられるが、原因がハッキリとは特定できない猫の胃腸病の病態名、あるいはグループ名」 として使用しています。

人間のIBDと猫のIBDは同意語ではありません。  獣医療においてヒトのIBDであるクローン病や潰瘍性大腸炎の治療を参考にすることはなされていますが、決して同じものとは考えられていません。あえその差異に焦点をあてている研究者もいます。免疫応答の司令官であるる2つのヘルパーT細胞、Th1とTh2のバランスが崩れると病的事態がおこるのですが、クローン病ではTh1が優勢になっていることが知られています。このアンバランスを是正することはクローン病の治療のターゲットともなっているのですが、猫や犬のIBDではTh1、Th2いずれへの偏向も認められず、また、病変が小腸の胃に近い方に存在することが多く、びまん性、表在性である、という研究が発表されています。 犬での研究ですが、炎症が小腸にある場合はTh1/Th2のミックス、炎症が大腸型の場合では Th1優位という発表もあります。PMID: 12007886 PMID: 10695606 PMID: 16231708 日本のある検査会社はネコのIBDのひとつであるリンパ球プラズマ細胞性胃腸炎(下記参照)は人間のクローン病同様にTh1優位である疾患だと断定してその検査が病気のスクリーニングや治療効果の評価に役立つとしています。猫におけるサイトカインの研究が進展することを切に望んでいますが、上記を参照するかぎりにおいては、現状、猫や犬におけるヘルパーT細胞とサイトカインの検査が臨床上どれだけ意義があるのかは未だ不明な部分がきわめて大きいのではないでしょうか。

獣医療域では犬と猫のIBDは同時に論議されることも多く、概念としては今のところ同じカテゴリにあると考えられていると思われます。しかし、犬の場合IBDによりなりやすい犬種というものがありますし、猫は小さな犬ではないのですから当然とはいえ全く同じとは言えないでしょう。また、イタチ科の動物であるフェレットにおいてもIBDは注目されている疾患です。

IBDまたは「炎症性腸疾患」が一般的名称ですが、獣医によってこれにさらに形容詞的に「慢性」や「特発性」「非特異的」という言葉を付けたり、腸疾患の部分を腸症、腸炎、あるいは胃腸炎とか消化管疾患とかに置き換えることもあります。

ニワトリのIBDというのは、伝染性ファブリキウス嚢病(Infectious Bursal Disease)という異なる病気です。 また、ヘビの病気のひとつである封入体病(Inclusion Body Disease)とも関係ありません。

IBS (Irritable Bowel Syndrome 過敏性腸症候群 );IBSは炎症を伴わない、腸の運動機能の異常ですが、IBDとは症状が似ているところもあるため、混同されることがあるようです。ただしIBSが Inflammatory Bowel Syndromeの頭文字である場合はIBDと同義語です。

個人的には猫の「炎症性腸疾患」ではなく、あえて猫のIBDという表現が知られて欲しいと願っています。腸疾患、腸炎という響きにどうしても下痢という症状を連想してしまうのは私だけではないと思います。英語の語感でもそのように感じられるそうです。症状の項で説明しますが、嘔吐こそは猫の炎症性腸疾患の重要なサインです。慢性胃炎とか慢性腸炎ではあまりに危機感がありません。IBDという何やら意味不明な略称は日常化しているかもしれない猫の嘔吐あるいは下痢への見直しを促してくれるかもしれないと期待するのです。

慢性的に炎症性細胞の浸潤を受けると、栄養や水分の吸収、正常な蠕動運動という生命にとってまさに重要な腸の機能が次第に損なわれていきます。そして、この過程において、猫は実に多様な症状を呈するようになるのです。極めて重症となれば胃や腸の正常な組織は異常な組織形態に取って代わられてしまっていることが観察できるでしょう。


腸は栄養分、水分を吸収する最前線であり、体内でありながら常に外界とのミクロのやりとりが行われている所です。栄養だけでなく細菌等の微生物、食事や細菌由来の毒素なども存在し、しかもそれが毎日大量に通過していくわけですが、そのなかから体に都合の良いものだけを選択的に取り入れるという働きをしています。絶妙な生体防御機構といえますが、IBDというのは、現在、原因を特定することはできないものの、この防衛機構が何らかの機能不全をおこし、本来なら問題のない(はずの)腸管内容物や腸の成分に対してまで防衛反応=炎症反応が起き、そのような異常な免疫亢進の結果として自らの腸管が傷害されている状態だと考えられています。また、その傷害によって腸壁の防御機構そのものに破れが生じ、本来侵入してこないはずの異物が入り込む結果さらに免疫の亢進に拍車をかかっているとも推測されています。

IBDに罹患した猫の胃腸壁で一体何が起きているのか?

   病理標本例)  リンパ球性形質細胞性腸炎の確定診断   好酸球性腸炎の確定診断  内視鏡生検の一例 

            好酸球肉芽腫・胃腸炎の慢性病変が疑われながらも確定診断不能であった例

具体的には

・粘膜固有層、絨毛部先端における明らかな炎症性細胞の増加

粘膜透過性増大 (+ Bacterial Translocation ?)

充血や出血、顆粒状形態、糜爛・潰瘍等の発現

粘膜固有層の線維化

などです。

炎症性細胞とは、猫がその身に受けた傷や何らかの悪い刺激に対し身体が防衛的に反応した結果として出る反応、すなわち炎症に関わる細胞のことです。

炎症性細胞としてまず挙げられるのが、身体の免疫反応に直接働いているリンパ球と形質細胞です。好酸球も炎症部位には一般的に認められます。また、好中球と呼ばれる細胞には、バクテリアなどの外来侵略者を破壊したり、ダメージを受けた組織をきれいに掃除する役目があります。これらは、一般に白血球またはその仲間として知られている細胞グループのメンバーです。


浸潤をおこしている炎症性細胞の種類によって、猫のIBDは現在4つのタイプに分けられています。

浸潤する細胞 IBDの名前 (診断名) 特徴
リンパ球 形質細胞

Lymphocytic-plasmacytic IBD

リンパ球性ー形質細胞性腸炎、LPE

 

最も一般的で多いタイプです。英語そのまま、リンパ球性プラズマ細胞性腸炎とも呼ばれます。

腸管のあらゆる部位が罹患の可能性を持ちつつも、と同時に病変は非常に限局的になりうるので、

これが症状の多様性に繋がっていると考えられている

好酸球

Eosinophilic IBD

好酸球性腸炎

2番目に多いとされる

猫に於いてはリンパ球性形質細胞性腸炎より重症化します。

猫の場合、さらに2つのタイプ分けがなされています。
繊維組織 好酸球

Regional Granulomatous

(肉芽腫性腸炎
人間のクローン病に似ているタイプで、ごく稀に発生。( EUE )
好中球

Suppurative 又は Neutrophilic

化膿性 又は 好中球性腸炎
浸潤の原因が細菌感染である場合を排除する必要があります。

       

        リンパ球性プラズマ細胞性腸炎の解説

        好酸球性の腸炎の解説  また 人の症例ですが参考になると思われる解説

※ 猫の好酸球性胃腸炎には2つのタイプ  好酸球性胃腸炎にはこの他、寄生虫性や薬剤副作用性など原因をハッキリと特定できる(すなわちIBDではない)好酸球性の胃腸炎もあります。 

 病変が胃・腸に限局 つまり臓器特異性が高い 

好酸球増多症候群(HES, HyperEosinophilic syndrome)の一つの症状として胃や腸に臓器障害を来たしている場合。

好酸球増多症候群とは、@末梢血液検査での好酸球の顕著な増多、 骨髄での好酸球前駆細胞の過形成 A成熟した好酸球の浸潤による複数の臓器障害 B寄生虫症など、他の好酸球増多をきたす疾患が除外できる(つまり、はっきりとした原因が特定できない)、このの条件に当てはまる病態の総称です。

好酸球は本来体の中の異物(寄生虫など)をやっつけるもっとも強力な細胞です。その強力な細胞がコントロールを失って増加し、自分の身体自体のいろいろな場所、、腸、皮膚、心臓、、腎臓、関節、骨髄などを攻撃・傷害するために、種々の臓器で障害をきたします。猫において、中でも胃腸症状は必発といってもよいようです。臓器特異性が高いケースより薬が効きにくいといわれています。

これと混同しがちですが、好酸球増多症というのは血液検査の好酸球値が高いという症状を一般的に表す用語で、疾患を特定するものではありません。

  

発現頻度はリンパ球性形質細胞性腸炎が最も高いとされていますが、日本では確定診断まで進むことは実際のところ極めて稀であるためか、むしろ、症候群性を有する(血液検査や視診によってある程度の推測が可能)好酸球性腸炎のほうが目立つ印象があります。

猫と犬ではどうやらリンパ球性形質細胞性IBDと好酸球性IBDの発現頻度が異なるようですが、では実際どっちがどうかというと学者によって全く正反対のことが書いてあったりでそこに統計的な根拠はないようです。

(猫のIBDについて今後どのような分類が主流になるのかわかりませんが、症状や診断法、治療法の共通性からみれば、少なくとも猫の家族の理解としては現在上記で不都合はないかと思います。)

予後が思わしくないとされているのは、粘膜の繊維化や変形の著しい場合や、好酸球性腸炎/好酸球増加症候群および 肉芽腫性腸炎です。

リンパ球形質細胞性IBDとリンパ腫(癌)は鑑別が難しいので、リンパ球形質細胞性IBDだと病理診断された場合でも、残念ながらリンパ腫であった場合には予後不良です。現在、細胞の癌化に伴う遺伝子レベルでの変化の特徴を研究することで両者を鑑別診断する方法が研究されています。 PMID: 15963816


病理組織学的な重症度による分類

軽症 粘膜構造の崩壊・腺の壊死・粘膜固有層の未成熟や繊維化、がない。
重症 広範囲にわたる潰瘍、壊死、絨毛の萎縮、腺の消失または過形成、粘膜固有層の繊維化などが認められ、粘膜に構造的変形(ひずみ)が生じている。


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