英語版『宇宙戦艦ヤマト』(Star Blazers)鑑賞記


『ヤマト』英語版シリーズ
登場人物などの英語名
その他の英語表現
「ワープ」という英語
ビデオの構成
テーマ曲
英語の発音
相違ポイント1:人の死を見せない
相違ポイント2:特攻は厳禁
相違ポイント3:禁酒
相違ポイント4:セクハラはNG
相違ポイント5:デスラーについて2点
相違ポイント:その他

『ヤマト』英語版シリーズ
『宇宙戦艦ヤマト』がアメリカで『Star Blazers(スター・ブレイザーズ)』のタイトルで放映され,人気を博したことはよく知られている.その昔,日本でもLPレコードで発売されていたけれど,金欠の子供には手が出なかった.このたび,英語版のビデオを入手して英語で『ヤマト』を鑑賞しなおす機会があったので,周辺事情も含めて報告したい.
アメリカで英語吹き替えとして放映されたのは次の3シリーズがある.
Star Blazers Series 1: The Quest for Iscandar
Star Blazers Series 2: The Comet Empire
Star Blazers Series 3: The Bolar Wars
それぞれ日本でいう「パート1」「パート2」「パート3」であるが,かっこいい副題がつけられてTrilogy(三部作)としてビデオで発売されている.もちろん,当初「パート1」だけだった時代にはQuest for Iscandar (イスカンダルを求めて) なんて副題はなかったはずで,おそらく『スターウォーズ』などを意識して構成されたのだろう.
なお,ビデオのパッケージによると,Series 3 はアメリカでも一部の地域でしか放映されなかったとのことで,"Lost Episodes" (失われたエピソード)とされている.
ここで『ヤマト』ファンなら当然の疑問がわいてくる.「パート2」と「パート3」の間には『新たなる旅立ち』『ヤマトよ永遠に』があったはずなのに,それはどうなってしまったのか?「パート3」の次に来るべき『完結編』は?結論からいうと,それらは英語では吹き替えられていない.日本語に英語字幕をつけたビデオは発売されているが,Star Blazersとしては上記の三部作だけなのである.
考えてみれば「パート3」は『新た』『永遠』のエピソードをほとんどふまえていないのでテレビシリーズだけでもそれなりに形になるわけである.(ただし,デスラーの位置づけの変容を見る上で『新た』は重要だとは思う.)
字幕だろうが英語になっているなら同じでは,という声もあるかもしれないけれど,Star Blazersは日本語の『ヤマト』を単に英語に吹き替えただけのものではない.登場人物の名前を英語風に変更していることをはじめ,ところどころシーンをカットしたり,せりふの内容を全く違うものにしてしまっていることも多々あるのである.
そこで,以下ではStar Blazersにおけるこうした変更点について紹介していきたい.なお,個人的な好みの関係で「パート2」の話題が中心になる(「パート2」は名作だと思うのだけど,『さらば』の商業本位の焼き直しという評判が先に立って日本での評価が低いのが残念!).さらに,肝心の日本語版ビデオが手元にないので,日本語オリジナルについての言及は一部あやふやな部分があることをお断わりしておく.


登場人物などの英語名
まず,肝心のヤマトであるが,英語版での艦名はthe Argoである.ギリシャ神話で,「金の羊毛」を求める勇士たちが乗り込んだ大船の名だというから,イスカンダルに向かう艦の名としてもふさわしいネーミングに思われる.(実はこれは今回辞書で確認して初めて知った.なんとなく「ノアの箱船」を想像していたのだけれど,こちらは英語ではNoah's Ark.うろおぼえはこわい…)
そしてStar Blazersではthe Star Forceという表現がしばしば出てくる.これはヤマトに乗り込んでいるチーム(task force)の名称で,日本語では「ヤマトが出撃してきたか」「今度こそヤマトを撃滅してやる」などというところに英語ではthe Star Forceを使っており,艦名のthe Argoと使い分けている.
これだけとっても,おざなりな翻訳ではなく,独立した英語の作品として完成させようとしたStar Blazers制作スタッフの意気込みの一端がうかがえる.
で,タイトルの"Star Blazers"はどうなったのか,ということになるが,「パート2」ではユキが一年前の旅を振り返っていうせりふにstar blazers (宇宙を切り拓く人たち) という表現が出てきたが,そのほかには使われていなかったと思う.そのせりふを引用しておこう(ヒアリングにいまいち自身がないけれど…^^;)
"It was hard. but it was wonderful, too. We were doing something really important. All of those funny adventurous star blazers."

登場人物は以下の通り.
沖田艦長 Captain Avatar
古代進 Derek Wildstar
島大介 Mark Venture
森雪 Nova
真田 Sandor
佐渡 Dr Sane
相原 Homer
加藤 Conroy
山本 Hardy
南部 Dash
太田 Eager
徳川 Orion
土方 Captain Gideon
斉藤 Sergeant Knox
新米 Royster
アナライザー IQ-9
古代守 Alex Wildstar
スターシャ Queen Starsha
サーシャ Astra
デスラー Desslok
タラン Talan?
ドメル Lysis
ズウォーダー Prince Zordar
サーベラー Princess Invidia
テレサ Trelaina
ゲーニッツ Dire
ナスカ Nasca
バルゼー Goss
ゴードン Torbak
ミル Martar?
(戦車隊長) Scorch
ミーくん Mimi
長官 (chief) commander
参謀長 General Stone

デスラーの肩書きは日本語版では全シリーズを通じて「総統」だったが,Series 3ではthe Emperorと言及されている部分があった.やっぱりあれだけのガルマン帝国を作り上げたからには「皇帝」と呼ばれてしかるべきなのである.Series 2ではLeader Desslok が多かったように思う.
そのほかの重要語として「ガミラス」はGamilonとなる.惑星ガミラスをPlanet Gamilonというほか,「ガミラス星人」はthe Gamilons(一人ならもちろんa Gamilon),「ガミラス艦隊」はa Gamilon fleetというようにも使われる.
なお,イスカンダルはIscandarとそのままだが,アクセントは頭の「イ」にある.(真田はdarにアクセントをおく癖がある.)
彗星帝国はComet Empire,テレザードはそのままTelezartである.空間騎兵隊はSpace Marinesとなっており,日本語よりもふさわしいネーミングに思われる.
ちなみに,詳しい人はサーベラーがPrincessとなっているのにおやと思ったかもしれない.そう,英語版ではInvidiaはズウォーダーのめかけではなく,娘ということになっているのだ.一事が万事,英語版では子供に害がないようにという配慮からかなりの編集が行なわれている.
ミーくんがMimiとなっており,そのため"she"と呼ばれているのはご愛敬.


その他の英語表現
艦長代理 deputy captain
航海長 chief navigator
技師長 chief technician
宇宙戦士訓練学校 space fighter training school; space academy
地球防衛軍 Earth Defence Force
地球防衛艦隊 Earth Defence Fleet
地球防衛本部 Earth Defence Headquarters
遊星爆弾 planet bomb
地下都市 underground city
十一番惑星 Planet Bloomers→【訂正】インターネットで検索してみたら,どうやらPlanet Brumas らしい.語源不詳.
波動エンジン wave motion engine
波動砲 wave motion gun
艦首ミサイル (nose) torpedo; bow? missile
コスモクリーナーD Cosmo-DNA
ブラックタイガー black tiger
コスモタイガー astrofighter※フェーベ(Phoebusと発音していた)会戦以後はblack tigerと呼ばれていた.
デスバテータ space scorpion
デスラー砲 Desslok gun
戦闘空母 fighter carrier
戦闘衛星 battle satellite
火炎直撃砲 magnet flame gun
ガントリーロック,オープン. Release the gantry lock.
エネルギー充填90% Energy charge, 90 per cent.
波動エンジン点火. Wave motion engine, contact now. | Ignite the wave motion engine.
主砲発射. Fire main guns.
左舷[右舷]に敵艦隊. There's an enemy fleet on the port [starboard] side.
総員,戦闘配備. All hands, to your combat stations.
第一砲塔,第二砲塔,発射準備. Open gun turrets No. 1 and No. 2.
着艦ハッチを開く open the deck; open (the) landing hatch
時に西暦2201年 In the year twenty-two oh-one | In two hundred and one
こんなこともあろうかと思ってね. I just used the past experience to save us.


「ワープ」という英語
英和辞典でwarpを調べると,「曲がらせる」などの訳語が出ている.ヤマトファンには周知の通り,「ワープ」とは時空を曲がらせることで離れた2点間を瞬時に移動する技術である.大きな英語辞典にはspace warpなどの形で「ワープ」を収録しているものもあるが,説明は「時空のゆがみ」に力点をおいていて「超光速移動」の語義の収録に踏み切れていないようだ.
しかし,あるアメリカ人に尋ねたところ,『スタートレック』のおかげでこの意味のwarpはすでに市民権を得ているとの答えだった.
ここでは「パート2」後半のエピソードでのwarpという単語の使用例を報告したい.
(テレザードからの帰途)
Warp completed. ワープ完了.
That's a new warp record. ワープの新記録だ.
Another warp like that one, and we could ruin the computers. もう一度あんなワープをやったら,コンピューターがだめになるぞ.
We're going up to make at least two more warp(s) like the last one. さっきみたいなワープを最低あと2回はする必要があるだろう.(※いくら聞いてもwarpsのsは聞き取れなかったが,-sがつくのが正しいのではないか.two cannonのような英語が存在することは確かだが.)
We have to take another warp. もう一度ワープをする必要がある.
If we take another warp, .... もう一度ワープしたら…
OK, let's warp. よし,ワープしよう.
All hands, prepare for a space warp. 総員,ワープ準備.
the warp mechanism ワープ機構
We've got to make those space warps. 〔今説明した〕ワープをしなければならない.
We have to warp again. またワープしなくては.
We can't do a large warp. 大きなワープは無理だ.
(十一番惑星から土星へ)
As soon as we're ready, we warp. 準備でき次第,ワープする.
Watch out, something's just warped into this air space. 気をつけろ.この宙域に何かワープアウトしてきたぞ.
[The White Comet] must have done a space warp. ワープしてきたに違いない.
(最後の決戦)
Can we warp soon? すぐワープできるか.
Let's do a space warp. ワープしよう.
We'll warp at 0700 [oh-seven hundred], space time. 宇宙時間0700にワープする. We warp to the Comet Empire. 彗星帝国までワープする.
As soon as the warp is completed, we attack. ワープ完了次第,攻撃する.
A small warp will bring us next to Desslok ship for a hand-to-hand fight. 小ワープでデスラー艦に接舷し,白兵戦を挑む.

もちろん『ヤマト』の用例だけから結論は出せないが,そろそろ英和辞典にも次のような記述を加えてもいいのではないか.
warp
━[動](自) ワープする.
━[名][C] ワープ.

【追記】
遅まきながら映画『スター・トレック』(79米)を見たところ,(完全に聞き取れたわけではないが)上記のような用法は主ではなかった.最も多かったのは,次のように warp を形容詞的に用いた例.
warp drive ワープドライブ
we need warp speed now 今,ワープ・スピードが必要だ
had the engine to full warp capacity エンジンをフル・ワープ出力にした
また,上記で「ワープ・スピード」という『ヤマト』では使われない語が使われていることからもうかがえるように,スター・トレックではワープというのは速度の概念らしい.そのことを反映して,warp 0.7, warp 1, warp 7 など,速度の単位として warp の語を用いていた.言うまでもなく「マッハ1」「マッハ2」などの Mach に準じた用法である.


ビデオの構成
内容にはいる前に形式的なことを.
日本では30分弱単位のエピソードが26話という構成になっているが,ビデオ(Collector's Edition)は6巻構成になっている.ばらで買うと2話で1巻なので13巻にもなってしまう.ちょこまか買わずにCollector's Editionを買うのがおすすめだ.
ちなみに,現在売られているビデオは「パート1」から「パート3」まで通しの巻数がつけられており,ばらの場合,
パート1 Volume 1〜13
パート2 Volume 14〜26
パート3 Volume 27〜39
となる.これがCollector's Editionだと
パート1 Part I-VI
パート2 Part VII-XII
パート3 Part XIII-XVIII
となる.ややこしいものだ.
ビデオの構成において,一つ日本の慣行と大きく違う点がある.日本ではビデオに収める場合,各エピソードごとにオープニング,エンディングをつけるのが普通だと思う(クレジットも毎回変わっているはず).ところが英語版のビデオを見てみると,最初にオープニングがあって,最後にもう一度オープニング(!)が出るだけで,エピソードごとの切れ目というものがない.あくまでもそのテープ単位で一つのつながりとみなしているようだ.
さらに,日本語版の各エピソードの冒頭の「これまでのあらすじ」が大幅にカットされている.「パート2」ではこの部分がかなり長く,まとめて鑑賞する際には目障りになっていた.その意味でこのカットは全体を引き締める方向に役立っている.
ただし,一部次回予告がまぎれこんでいるのはいただけない.エンディング,オープニングのような切れ目もなしにエピソードとエピソードの間に次回予告がまぎれこんでいるので,初めて見る人はかなりとまどいを覚えるのではないだろうか.今回購入したビデオにおいてこれが最大の(そしてほとんど唯一の)不満だった.


テーマ曲
名曲「真っ赤なスカーフ」がエンディングに使われていないというのも残念だったけれど(あと,個人的には「パート3」の「別離」も好きなのだけど…),それについては言わないことにしよう.英語ではあくまでも子供向けの冒険活劇,という位置づけのようだ.
オープニングのあの『宇宙戦艦ヤマト』のテーマも英語で歌われている.しかも男声合唱でオリジナルの雰囲気をよく出している.歌詞は全部は聞き取れないが(^^;),「パート2」ではZorder, Comet Empireなどを織り込んで新たな歌詞になっている.言われてみれば,日本語の歌詞には「イスカンダル」が出てくるのに,その同じ歌詞が「パート2」「パート3」で使われることに違和感を覚えたことは一度もなかった.
「パート3」は予算の制約か何か知らないが,「パート2」のオープニングを使っているだけだった.
冒頭の部分を紹介すると,次のようになる.
さらば ちきゅうよ
たびだつ ふねは
うちゅう せんかん
ヤマト
We're off to outer space
We're leaving Mother Earth
To save the human race
Our Star Blazers

オリジナルに慣れた耳には「ヤーマートー」の力強い3拍の部分が「Our Star Bla-zers」と4拍になってしまっているところが間延びして聞こえるけれども,これが英語のリズムなのだろう.しかたがない.それにしても,「夕日に眠るヤマト」みたいなBGMが流れるとき,つい頭の中で歌ってしまうものだと思うが,この歌詞で覚えている人は戸惑うのではないだろうか.
さて,ビデオではエンディングに同じ主題歌の歌詞を変えたもの(「イスカンダル」も「彗星帝国」も出てこない,一般的な歌詞)が収録されている.驚いたことにschems/dreams, brave/save, cease/peace, smoke/hope, survive/alive と歌詞がほぼ完全に韻を踏んでいる.(老婆心ながら,「韻を踏む」というのは英語で詩を作る際の基本で,2行ずつ末尾の音を同じようにすること.上の例では発音を近似的なカタカナで表わすとスキームズ/ドリームズ,ブレイヴ/セイヴ,シース/ピース,スモーク/ホープ,サヴァイヴ/アライヴ となっている.)大したものだ.

ついでにBGMについて触れておくと,Series 2を見ていてサントラCDに収録されていない曲が幾分使われていたことに気がついた(彗星帝国やデスラーのテーマのシンセサイザー版など).でも,日本語版を見たのは大昔なので,この点はもしかしたら英語版特有ではないのかもしれない.ただ,ボックスセットに次のような表記があったのが妙に気になった.いつか比べてみたい.
"The original multi themed music score composed and conducted by Hiroshi Miyagawa was remixed into the anglicized version."
まさか選曲までオリジナルなはずはないか…とは思うけど.


英語の発音
『スターウォーズ』もそうだけれども,アメリカ人がつくると,正義の味方はアメリカ英語をしゃべり,悪の帝国の人間はイギリス英語をしゃべることになっているらしい.少なくともデスラーはイギリス風のアクセントでしゃべっている.おそらくそのこととも関係あると思うのだけれども,日本語版になじんだ視聴者には,デスラーの声だけ特別異様に聞こえるはずだ.あの,重みのある声ではなく,うわずった,いかにも「尊大な貴公子」といった感じの声になっているのだ.(タラン以下,他のガミラス星人の発音は特にイギリス風という印象は受けなかったが.)
「パート2」の発音で顕著なのは,彗星帝国の人間がみな強烈ななまりをもって発音していること.『007』映画でもロシア人,中東人などはそれなりのなまりがある英語をしゃべり,特にRをはっきり「ル」と発音しているが,彗星帝国の人間はそんなものではない.冗談かと思えるほど毎回几帳面にRを強調している.ズウォーダー(英語ではZordar)などほとんど「ゾルダル」としか聞こえない.
ズウォーダー本人もこのなまりだが,中盤で一部なまるのを忘れていた部分があったように思う.もっとも彗星帝国の人が全員なまっていたわけでもなく,ゴードン,ナスカについてはこのRが目立たない.サーベラーは当初きれいな発音だったが中盤からRを目立たせるようになった.単に声優が慣れてきただけなのかもしれない.
なお,「パート3」では声優が変わったそうなので,もしかしたら一部上記とは事情が異なるかもしれないが,特に違和感なかった.唯一,「パート3」の佐渡先生の声だけは無理して裏声をつくっている感じで最悪だと思った.


相違ポイント1:人の死を見せない
英語版を見ていて一番目につく変更点は,「人の死を見せない」ことである.十一番惑星でもテレザードでも,敵の戦車は"robot tank"として言及されているように,やっつけているのはロボットだという建て前になっているのである.テレザード星では,敵の戦車乗員を投げ飛ばすときも,洞窟内で手榴弾で敵兵をしとめるときにもいちいちrobotと呼んでいる.
戦艦・戦闘機が爆発するシーンではいちいち断わらないけれども,戦車だとあまりに生々しいということなのだろうか.
テレザード星の洞窟内で斉藤が戦車隊長をしとめるシーンも省かれている.
アンドロメダが彗星帝国のミサイルベルトに突っ込んで爆発するカットもなかった.
デスラーがミルを射殺するシーン(確か『さらば』だけでなく「パート2」にもあったと思う)もなかったし,ナスカが「死して大帝におわびを」というシーンも日本語版にはあったような気がする.うろおぼえが続くが,宇宙ホタル作戦に失敗した戦闘空母の艦長は「指揮権剥奪」となっていたけれども,日本語版では死ぬまで戦わせたのではなかったか.フェーベ会戦で活躍した航空戦艦の最期も日本語版にはあったと思う.
そして最後,彗星帝国が動力炉を爆破されて大帝が巨大戦艦に乗り込むシーン.日本語版ではサーベラー,ゲーニッツらはおいてきぼりなのだが,よい子も見られる英語版はそんな冷たいことはしない.サーベラーのことは「もう信用しない」,他の二人も「下働きとして使ってやる」となんとも温かい言葉をかけているのである.

死だけでなく拷問のような非人道的なことも許されない.捕虜を尋問する際に電気ショックによる拷問が加えられるが,英語版では捕虜が苦しむカットは一切なく,装置も"lie detector"(嘘発見器)ということになっている.この辺はオリジナルの制作者の見識を疑いたくなる点で,英語版のほうが安心して見ていられる.

そういえば日本版では,戦闘シーンでヤマトが被弾するとお決まりのように「うわぁ」と言って人が吹き飛ばされるカットがあったが,それがみななくなっていたように思う.

同様の配慮は「パート1」「パート3」でも一貫して行なわれており,たとえばタイタンで遭遇したガミラス戦車の乗員(パート1),ヤマトに乗り込んできたガルマン兵(パート3)もロボットだったということになっている.

「パート2」に話を戻すと,人が死ぬシーンをできるだけ出さないということが終盤の筋運びをかなり苦しくしているように思う.徳川機関長の死も描かれなかったし,加藤がコスモタイガーの操縦席でこときれているカットもなかった.彗星帝国の動力炉爆破に斉藤が残って起爆ボタンを押すシーンはあったけれども,その直前,次々と銃弾が斉藤の体に突き刺さる部分はカット.山本機が被弾して墜落するシーンもなかった.
ドラマを盛り上げるために人を死なせるのがよくないと言われれば反論できないけれども,世の中に悲劇というものはあるわけだし,このあたりの一連の削除は非常に大きな変更だと思う.
もっとも,日本で『ヤマト』が死んだ人間を生き返らせたりすることが嘲笑と批判を呼んでいたことも事実で,無理な筋運びで生き返らせるくらいなら初めから死なせないほうがいいという考え方は説得力がある.日本版では『永遠』「パート3」に出てくる加藤は加藤三郎の弟四郎ということになっているが,英語版では余計な説明なしに同一人物であるかのように描かれている.(さすがに徳川が「パート2」「パート3」で同じ名前でも同一人物だと思う人はいないだろうが,いついなくなったのだろうとの疑問は当然わくはずだ.)


相違ポイント2:特攻は厳禁
上述の点と深く関連するが,自爆,体当たりなどのシーンが大幅に変更されていることは特記しておきたい.
斉藤の動力炉爆破,土方の死についての変更点はすでに述べた.
彗星帝国の捕虜がヤマトに突っ込んだとき,英語版の真田は"What was he trying to do, land or attack?"(どういうつもりだったのだろう.着艦か,それとも攻撃か.)と言っている.日本語のオリジナルのせりふは,体当たりしたということを当然のようにふまえたせりふだったはずだ.
そして特攻と言えばラストシーン.万策尽きてヤマトごと巨大戦艦に突っ込む決意の古代とその気持ちを見透かして残ったユキ.「星になって結婚しよう」という感涙を誘うシーンだが,英語版でのやりとりは「十分近づいたら自動操縦にして脱出する」「それを全部一人でやる気?」「これが済んだら一生離れない」…という調子.あくまでも二人は脱出を前提に残ったことになっているので,いまいち盛り上がらない.
昔,Star Blazers(パート1)のアニメコミックを読んだことがあるが,その時も古代守の「男だったら,戦って,戦って,戦い抜いて,それでもだめなら死ぬべきではありませんか」というせりふが「しんがりを務めます」という程度のあたりさわりのないせりふに変更されていたのに唖然とした覚えがある.日本では古代守は人気の高いキャラクターで,上記の(うろ覚えだが)引用は名せりふの一つに数えられているが,こういうのもアメリカの子供向け番組では許されないのだ.
そして自爆と言えばドメルの最期がある.自爆装置に手をかけるドメルを見て,沖田艦長が艦底から退避せよと命令を発するが,英語版ではこの部分も「艦底に機雷がしかけられた」という説明になっている.
こうしてアメリカ版で変更されているのを見ると,改めて日本のアニメには自爆,特攻を美化するような描き方が多いことに気づく.「現実では許されないけれどドラマだから」という考え方は許されないのだろうか.いろいろな意見があるとは思うけれど,そうしたアニメを見て育った私が,決して軍国主義者にもならなかったし,カミカゼ攻撃を是認したこともないことだけは述べておきたい.他のヤマトファンもみな同じだと思う.
ところで,ちょうど同じころハリウッド映画『パール・ハーバー』を見た.この中で東京爆撃を敢行したドゥーリトルが,捕虜になるよりは適当な目標を見つけて突っ込む,という発言をしていてアメリカでもこういう考えはあるのかと思った.要は子供には見せたくないということか.


相違ポイント3:禁酒
潜宙艦との戦闘中,佐渡先生がミーくん相手に酒を飲んでいるシーン.英語ではなんと"soybean milk"(豆乳)ということになっている.あの赤ら顔で豆乳とは…
同様に,彗星帝国の捕虜に佐渡先生が勧めていたもの"milk"だった.
ヤマトが太陽系に戻ってきたとき,十一番惑星に向かう斉藤に佐渡先生は一升瓶をCaptain Avatar's springwater (沖田艦長の泉水)だと言って渡した.


相違ポイント4:セクハラはNG
「パート3」の最初のほうで,アナライザーがここでスカートめくり…と思ったら何もなくいきなり次のカットになった部分があった.おそらくオリジナルではそこにあったはず.似たようなシーンは他にもいろいろあったと思うが,英語版では見あたらない.当然の配慮だろう.
「パート1」の最初のワープシーンではユキの制服が消えるカットがあるが,このカットも英語版にはないという.

直接関係ないが,加藤がトイレの窓から追撃してくるアンドロメダを発見するシーンがあるが,英語版ではトイレであることはわからないようなカットになっている.こんなところまで気にするとは…(それにしても,肉眼で視認できるまで発見できないとはレーダーは何をやっているんだか…)


相違ポイント5:デスラーについて2点
この英語版では概して声優の選択がうまく,日本語版の声の感じをうまく再現しているが,唯一デスラーだけ大きくイメージが違っていることは「英語の発音」の項ですでに述べた.ここではそれ以外のことを2点.

「パート1」でデスラー砲をヤマトに反射されて死んだはずのデスラーが生きていた理由として,英語版のナレーションは命中する瞬間に「4次元にワープ」して難を逃れたと説明していたが,日本語版ではそういう苦しまぎれの説明はしていなかったと思う.(ワープしなかったらどうして生き延びたのか,もっと苦しいかもしれないけれど…)

デスラーが古代&ユキに彗星帝国の弱点を教えるせりふ,「真上と真下,もろいものよのう」が大幅に変えられていた.日本語では,ヤマトを天井ミサイルと硫酸の海ではさみうちにした,という文脈だったと思うのだけれども(勘違いか?),英語ではヤマトがガミラスを破ったやり方を思い出せ,という(より納得のいく)論法になっていた.
具体的にはこうなっている.
You sent missiles to our weakest spot ― the bottom of the volcanos. Underneath ― try it … on the Comet Empire.
このため「真上と真下」と言うことはできず,「真下」だけの言及になっている.
もちろん,ヤマトが海中からミサイル攻撃をすると同時にコスモタイガーが真上から突っ込むシーンはちゃんと残っているのであるが,このコスモタイガーの作戦は英語では"as a diversion"(陽動作戦として)と明言されている.
なお,言うまでもなく『さらば』ではこのせりふは「渦の中心核をねらえ」である.そう,『さらば』では地球防衛艦隊の拡散波動砲は白色彗星にかすり傷ひとつ負わせることができず,全滅してしまう.一般に「パート2」は『さらば』の焼き直しとして評価が低いけれども,よく見ると地球防衛艦隊とか白色彗星の艦隊とか,『さらば』では単なるやられ役でしかない艦船が活躍するシーンもよく盛り込まれており,非常に完成度の高い作品になっていると常々思っている.


相違ポイント:その他
ミサイルとレーザー
上記のデスラーのせりふを紹介した際,鋭いヤマトファンなら,撃ったのはミサイルではなく波動砲なんだけど…と思ったはず.概してこの英語版では光線とミサイルが混同されている.
まあ確かに,ヤマトではレーザー光線の速度が遅すぎるのがいけないといえばそうなのだが….光は一秒間に地球を七回り半する速さをもっているので,レーダーで検知できたとしても「接近!」なんて言ったときにはもう着弾しているはず.翻訳者が変更したがった気持ちもわかる.

宇宙キロとメガメートル
オリジナルでは距離をいうのに「宇宙キロ」という単位をつかっているが,英語版はmegameter.これはメガメートル(記号Mm)という実際にある単位で,100万メートル,すなわち1000キロにあたる.例を示すと次のようになる.
地球の直径……12 Mm
地球から月まで……380 Mm
太陽から地球まで……150,000 Mm
なお,ヤマトの主砲の射程は7.5 Mmから10 Mm に伸びた由である.また,彗星艦隊の火炎直撃砲の射程は800 Mmもあり,これは地球防衛艦隊の拡散波動砲の二倍の射程とのこと.
宇宙気流からテレザードまでが7000Mmと言っていたので,あの時点ではテレザード星系にはいっていたことになりそう.
なお,速度の単位「宇宙ノット」は単にspace knotを使っていた.

イントロ
冒頭,オリジナルだと大宇宙が映って,少し間があって「無限に広がる大宇宙…」というナレーションがはいり,平和なパトロール任務についているヤマト…と始まっていたと思う.これが,英語版はいきなり悪の帝国彗星帝国の紹介から始まる.そしてデスラーまでが登場している.おそらく少し後ろのところからコピーしてきて頭につけたのだろう.このため内容的にも,音声の編集的にも,いかにも唐突な感じを受けた.
オリジナルでは,やっと平和になった地球に不気味な事件が次々と起こり…と展開してころあいを見て彗星帝国,そしてあのデスラーまでもが生きていた,となっていたはず.

たとえば防衛本部の制止を聞かずに地球を飛び立つ際,古代がのんきに「乗り組み完了」と報告するアナライザーに「ではなぜ俺が操縦しなければならないんだ」と言うせりふが単に「ちゃんとチェックしろ」となっていて,日本語のおかしみのある感じが消えてしまっている.
このほか,あれっ…と思ったせりふは多いのだが,日本語版の記憶が曖昧で対照できない.
しかし,全体としてはよくできた英語版だという印象を受けた.そして何よりも,日本で評価の低い「パート2」がアメリカで『さらば』に代わって受け入れられていることが,「パート2」がお気に入りの私としては特にうれしい.


私の『宇宙戦艦ヤマト』