日本の電信暗号

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http://cryptiana.web.fc2.com/code/jtelegraph.htm

電信と電信コード

電信は明治維新ともに日本に導入され,1869年(明治2年)には東京・横浜間で電信が開通した.西洋文明の導入の当初から電信が導入されたため,欧米式の「暗号」と電信用のコードの導入が並行して進んだ.電信用のコードは電信員に送信内容を知られないという意味では「秘密の暗号」という側面もあるが,しばしばコードブックは公刊され,同じコードブックを持っていれば誰でも解読できるので秘匿性は弱い.むしろ,文字単位で課金される電信料金の節約のために,語句を短いコードで表わすものという側面が強かった.

政府ではたとえば1874〜1879年にいくつかの「暗号」を導入しているが,これらは主として平文のカナを別のカナで表わす換字暗号であり,電信料金節約のためのものではなかった.だがその後は西洋式のコード暗号も導入されている.(別稿参照.)

本稿では主として民間用の電信コードを紹介する.

目次

コードのいろいろ

最初期の電信コード

『いろは引電信暗号』/『電信イロハ暗号』(丸善)

商社・企業の電信略号・電信略語・電信略語表(1886-1940)

日清戦争まで(1888-1895)

日露戦争まで(1896-1904)

明治末・大正(1908-1921)

大正末・昭和初期(1922-1936)

陸軍電信符号表

第二次大戦前後(1938-1952)

欧米式のコード

銀行の暗号

上記以外の参考文献

コードのいろいろ

用語

電信コードは「電信暗号」「電信符号」「電信略語」などと呼ばれたが,どの語もその指す内容は必ずしも一定しないので注意が必要である.

電信符号」はモールス符号のことを指すことも多かった.

電信略語」は,「返事を待つ」を「ヘンマ」「ヘマ」「ヘン」,「至急に返事せよ」を「スクヘン」「スクヘ」とするたぐいの,電信で一般に慣用される略語を指すこともある(たとえば商用文研究会(編)『其まゝ実地に活用せらるゝ商用文指鍼』(1917)(近代デジタルライブラリー)p.348).以下で「略語」を書名にもつもののなかにはこの部類に属するものもある.日本旅行協会『電報略号集』(1935)はそのような「略号」をコード(「符字」)と区別しつつ併用している.

電信暗号」もよく使われるが,「暗号」は秘匿用のものに限定したり(司法省総務局『電信符号』(1891),水野淳二「電信暗号考」(1954)),あるいは電信用の秘語と隠語の総称として使われたりすることもあった.(「秘辞」「秘語」は英語でいうサイファー(cipher)のことであり,普通の単語を本来とは異なる意味に使う「隠語」(コード,code)と区別して使われる.当時の電信規則では意味のないカナの連続は「隠語」ではなく「秘辞」として扱われたが,現代の暗号論では語句を置き換えるものはサイファーではなくコードと称するので,本稿では用語「コード」を使う.)

符牒」は電信コードとは別の,価格などを秘密にするため数字をカナで置き換える簡単な暗号法を指して使われることが多かった.下記では土屋『電信暗号』(名古屋絨合資会社)(1899)の巻末付録の符牒や王子製紙のもの(1904〜 )を挙げてある.そのほか,飯田『新案暗号法』(1896)p.17も同様の物品の代価の符牒を「数字暗号法」と称して紹介している.米穀商なら「アキナイタカラフネ」の9字など,同業者間で適当な句の各文字を数字に割り当てていたのだという.中川静『現代商業文指鍼』(1907)p.377でも「商品価格符牒」として0-9を置き換える「ツルカメイノチヒサシ」などの句を紹介している.中村幹治『誤謬速断 和文電報暗号』も「商家の符牒」に言及しており(p.19),ごく一般的なものであったといえる.

カナ・コード

和文の電信コードで使われるコード語はカタカナ2字〜3字のものが多い.ただし,ヰオヱの3字は用いず,イヲエのみを用い,「ン」を加えてイロハ45文字とすることも多い.発音上の区別がないため,誤りやすいという配慮だったようだ.あえてヰ・オ・ヱ(特に前二者)を特別な記号として用いたものも散見される.

濁点・半濁点

語数をかせぐために,濁音・半濁音のみならず,普通は濁点・半濁点が付かない文字にまで濁点・半濁点を付した文字(「イ゛」「イ゜」など)を使うコードもあった.ただし,濁音・半濁音は料金上は2字に数えられるので,コード語の字数を増やしたのと同じ料金がかかる.(電信取扱規則によれば「和文中濁点半濁点を付したる文字及和文中に用いたる括弧小括弧はこれを片仮名二字に計算すべし」とある.また,規則上は,濁点・半濁点を数字に付けることは許されないが,カナであれば何につけてもよかった.)

濁点・半濁点をやめてカナだけの3字コードを初めて本格的に採用したのは浅野杉松『電信符号』(1899)ではないかと思われる(海軍では別稿で紹介したように遅くとも1890年9月にはカナ3字コードを使っていたが,これはおそらく軍事機密で,民間の電信暗号には影響を与えなかったものと思われる).辻籌夫『電信符号録』(1891)では第2字を(他のコード語に使わない)「ヰ」「オ」に限定した3字コードを採用し,『岐阜県用電信符号録』(1894),依田貫一『商用電信暗号』(1898),土肥克馬ら『帝国組合電信符号』(1898),里見乙吉『電信暗号字書』(1899)でも同様の試みがあった.第2字を特定の文字に限定しているのは,2字コードと併用したときにコード語の区切りがわかるようにするためである.一方,渡辺三作『実業電信暗語 : 略称・実業暗語』(1901)も濁点・半濁点を使わずに2字コードと3字コードを共存させるが,そのため2字コードに使われる2字の組み合わせで始まる3字コードは使わないようにしている.こうした試みはあったものの,2字コードときっぱり決別して3字コードのみとしたのは浅野が初めてだったと思われる.(小林啓之『日本電信暗号字引』(1896)はすでにカナ3文字からなる473=103823語の「正語」を羅列したコードを採用しているが,これは平文とコード語を対応付けるという意味でのコードではなく,番号を付けたコード語を羅列しただけのものである.)

浅野はそのような3字コードの採用は,従来最大のものの3倍もの収録語数を(濁点・半濁点を使わずに)カバーするためとしている.たしかに大雑把に見積もると,依田(1898)は14語×3欄×344ページ=14448語であるのに対し,朝野(1899)は20×4欄×528ページ=42420語となっている.

ただ,このあと一気に濁音なしのカナ3字コードに移行したわけではなく,その後も濁音・半濁音交じりのコードが使われ続ける.本稿で紹介する限りでは,1918年にはまだ濁音が使われていたが,1920年以降は濁点なしのカナ・コードが主流となる(その後も一柳靖三『電信暗号』(1929)など濁点を使ったものもあるが).『新編 電信イロハ暗号』(1906)などは早期に濁音なしに切り換えたほうだといえる.

もっとも,カナ3字コードで可能になる10万までの語数が必要ない場合には,完全な3字コードよりは一部濁音を含む2字コードのほうが,平均的には字数の節約になる.この点は中川静『現代商業文指鍼』(1907)などでも指摘されている(p.371-373).

数字を含むコード語

濁点・半濁点以外の語数をかせぐ手段として,カナのほか数字も含めてコードを構成する動きもあった.数字をコードに使うのは,電信取扱規則では民間では許されていなかった(辻ら『電信暗号』(1895)に引用されているように「秘辞を用いたる私報には文字と数字とを混用すべからず」とされていた)が,その後「電報には文字と数字とを混用することを得.ただし,欧文の秘辞には一連集中文字と数字とを混用すべからず.」と規制が緩和された.『訂正増補 いろは引電信暗号』(1898)は早速,数字一三四五六七九〇の8字を増補のコード語に使った.その後も里見乙吉『電信暗号字書』(1899),小松啓吾『自由通信 電信暗号』(1904)など数字を使ったコードは一つの流れとなる.

なお,手書きの頼信紙で片仮名と誤読されるのを防ぐため,数字を入れたコードでも「二」「八」「三」は使わないことが多かった.(たとえば『いろは』は二,八を,里見は二三八を使っていない.小松はそのような制限はしていない.)

イロハ順とアイウエオ順(五十音順)

初期の電信コードの配列はイロハ順が主流だったが,濁音についてはイロハ順のほかアイウエオ順もあった.濁音以外でも,飯田幸之助『新案 暗号法』(1896),小林啓之『日本電信暗号字引』(1896)のような特殊な例に続いて,土屋芳郎『混用電信暗号』(1909)のようにアイウエオ順を採用するものもあった.また,日本電信暗号協会『電信暗号』(1908),寺田茂照『〒式 電信暗号』(1918)のようにコード語のみアイウエオ順として,平文(原語)はイロハ順とするものもあった.池田忠五郎『電信略字林』(1889)は2字コードの第1字はアイウエオ順,第2字はイロハ順(平文もイロハ順)という特異な配列を採用している.(ちなみに,国語辞典では大槻文彦『言海』(1889-1891)(近代デジタルライブラリー),三省堂の『辞林』(1907)(近代デジタルライブラリー)はすでにアイウエオ順.)

大日本麦酒株式会社『電信略語』(1938),中山久美『和欧商事電報暗号』(1938),『日本窒素電報暗号帳』(1941),『日本電信略語書』(1943),林篤信『安全電信暗号』(1944)のころになるとアイウエオ順が主流になっている.ちょうど欧文用の英字コードを併記しはじめた時期に当たる.

いずれにせよ,平文の配列は,漢字表記の際の第1字の画数なども考慮し,完全な読み順ではないことが多い.

変わった例として,日本旅行協会『電報略号集』(1935),市田昇三郎『商和電信暗号 改訂版』(1941)は平文の配列にローマ字順を採用している.日本語のローマ字順の配列は英語学関係などで日本語・英語が混じった索引などでもしばしば見られるものでコードブックに限られたものではない.

(ちなみに,この時代の書籍を見ていると,カタカナの使用,イロハ順,句読点,「訛り」・俗音の扱い,変体仮名,横書きの読み方向など,日本語の正書法が確立していく過程をかいま見るような点でも興味深い.)

二部式コード

初期のコードでは発信用と受信用の「二部式」を採用するものが目につく.秘匿のための「暗号」コードでは,解読されにくくするようコード語の配列をランダムにするため,暗号化用のコード表とは別に復号用の表を設ける「二部式」はめずらしくなかった.だが,電信コードはそのような性質のものではない.

二部式を採用した理由の一つは,上記のように発信用は漢字表記を考慮するなどして発音順になっていないことだったらしいが,それならその発信の部にコード語をイロハ順に割り当てればよかったはずだ.コード語の第1字を平文の第1字と同じにしようとするコードブックもあり,その場合,語数の多い字母ではコード語が足りなくなって他の字母のコード語も借りてくるので,発信用のコード語をイロハ順にできない理由になる.だがこれに該当しないものでも二部式は使われている.

結局,二部式にはそれほど意義がないことが認識されたらしく,いまだ二部式であった『いろは引電信暗号』(1888)よりあとに刊行されたコードブックは,発信用の検索順に配列された平文にイロハ順(またはアイウエオ順)にコード語を割り当てて,発信時も受信時も同じものを使う一部式がもっぱらである.

ただ,発信用の平文の配列は必ずしも完全にイロハ順・アイウエオ順に則ったものではなく,語数が多いと検索にはかなりの習熟を必要としたのではないかと思われる.(なお,今日国語辞典で当たり前のように使われている仮名見出しなら表記によらず合理的な配列ができそうなもので,現に初期の近代的な国語辞書,たとえば『辞林』(1907)(近代デジタルライブラリー)では,見出し語は仮名に統一しているのだが,当時は歴史的仮名遣いが主流だったので,別に表音索引を設けている.)

二字差

欧米で1880年代から普及した二字差(どの2つのコード語を取っても少なくとも2字は異なるようにする)の概念はなかなか採用されなかった.本稿で扱う限りでは,二字差を実践したコードは『日本電信略語書』(1943)と林篤信『安全電信暗号』(1944)のみである.中山久美『和欧商事電報暗号』(1938)は和文コードには二字差は取り入れていないが,英字5字コードを併記し,こちらには二字差を採用している.土屋芳郎『特別私用暗号 : 混用電信暗号併用』(1910)は二字差とまではいかないが,3字コードの2字が決まれば残り1字の候補は5字程度に絞られるよう配慮している.(中村幹治『誤謬速断 和文電報暗号』(1916)は電信の誤り防止に配慮したコードの構想を記載している.)

最初期の電信コード

明治維新とともに日本に導入された電信は,西南戦争(1877)でも活用されて政府軍の勝利に貢献したという (竹山恭二『報道電報検閲秘史』p.56-57).電信は1880年(明治13年)ごろには大都市間,1890年(明治23年)ごろには全国の県庁所在地がつながった(Wikipedia, NTT東日本「黒船とともに"電信"は日本へとやってきた」).一方,日本銀行が一般取引先との間で使う電信コードを定めたのが1885年(明治18年)9月であり,同年設立された日本郵船もその前身会社からコードを受け継いだというから(いずれも後述),このころには大企業の間では電信コードが普及していたのだろう.明治20年代初頭の時点で,暗号電報は私報全体の8%あまりを占めており,その多くは商業取引と証券取引用の電報だったという (竹山恭二『報道電報検閲秘史』p.106; 典拠は藤井信幸『テレコムの経済史 近代日本の電信・電話』)

電信線がようやく「全国を網羅」したころの1880年にはマニュアル本『日本帝国電信頼送必要』(近代デジタルライブラリー)も出されている.

1882年の朝鮮での政変(壬午の変)にあたり,8月22日から9月4日まで暗号の私報電報が禁止された.(有事における検閲との関係での同様のコード禁止は第一次大戦・第二次大戦時の欧米でも例がある.)この際,商業に不便が生じたとの報道も,電信コードの普及の一端をうかがわせる.長田順行『西南の役と暗号』(p.90)は次のような新聞記事(『日の出新聞』8月27日付)を引用している.「今ど暗號電信を差止められしに付き,商業向に一方ならぬ不便を生じ,諸銀行向は電信為替を組むに赤裸の電信にては金銀やりくり等他人に知れる故迷惑おびただしく,その外一般の商業と掛引の洩るを嫌ふより,右布達取消歎願をなさんと昨今相談最中のよし」(藤井信幸『テレコムの経済史』p.46-47にも同趣旨の記述あり;典拠は日本電信電話公社関東電気通信局編(1968)『関東電信電話百年史』p.123-125;背景は大野哲弥『国際通信史でみる明治日本』p.120付近に詳しい)

三菱の暗号(1876- )

コードブックが公刊されるようになる前から大企業でコードブックが内製されて使われていたことは想像にかたくない.藤井信幸『テレコムの経済史』(p.209-210)によれば,『三菱社史』(第3巻)で確認できる三菱の最初の暗号電報に関する規定は,1876年10月10日の全面改訂時のものだという.385語のコードで,乗客数,運賃,貨物重量,日時,船名,各種指令などをカバーしていたという(「イト 上等客35人」「エイ 11日」「ユロ 広島丸」「セヌ 何日ニ出ルカ知ラセヨ」).次の全面改訂は1883年11月10日で,その間に数次にわたって計300語ほどが増補されている.

なお,郵便汽船三菱会社は1885年にライバル会社と合併して日本郵船 (Wikipedia)になり,コードブックも引き継がれる.日本郵船のコードブックについては後述する.

三井の暗号(1876- )

平井岳哉「三井物産における電信利用」(情報学研究,Jan. 2014)(JAIRO)によれば,三井物産 (Wikipedia) の国内用のコードブックで最も古いものは,1876年(明治9年)の『電信秘語』で,カナ2字または3字によるコード1600語余りの手帳型の小冊子で,明治20年代ごろまで使用されたという (典拠は『稿本三井物産株式会社100年史 上官』p.76-77)

また,藤井前掲書p.245によれば,三井物産のコードブックで現存する最も古いものは1895年の『電信秘字索引 明治二十八年』(三井文庫蔵)で,「ヌサ 取引高電信ニテ通知スベシ」といった項目があるという.そして1940年には第7版になったという (平井(2014))

平井(2014)によれば,外国用では英文のコードブックPrivate Code Mitsui Bussan Kaishaが1881年に,改訂第2版が1891年に作成され,約9000語,558ページの大冊だったという.最終的には1960年の第8版で33万語になったという.また,秘密にされることが前提とされていたらしく,1934年の第6版の改訂に関して刷り損じの持ち出し禁止などの対策も紹介されている.(WorldCatでは1938年の第7版(Mitsui Bussan Kaisha, Ltd. private code : general)のほか,同年のM.B.K. 100,000 special cyphersが挙げられている.)

これらの基本に加えて,営業部ごとに作成した特殊用途のコードブックも各種あり,総数は数百種にもなるという.その一つと思われる『電信暗号帖 No.14』(1字暗号約150,2字暗号約3700)の一部が平井(2014)に掲載されている.

住友の暗号

住友財閥の暗号についてはまだ調査中.Google, WorldCatでは住友銀行のPrvate Telegraphic Code, 第1号(1934, 890 pp.), Terminal Index of Cyphers: Private Telegraphic Code, 第1号(1924),Sumitomo Bank Cypher Words (1900)などが挙げられている.

高橋荘昴『電信暗号』(明治12年,日本電信暗号協会)(1879)

平井(2014)で言及されている.詳細不詳.1908年版について後述する.

青木真吉『軽便必用電信符牒語』(明治14年)(1881)

近代デジタルライブラリー

最初期のコードブックは「返事を待つ」を「ヘンマ」とするような庶民の知恵から発したものかと思いそうだが,本書(和綴じ本)は外国のコードブックに倣い,内務卿・電信局の許可も得ての出版だった.

……世人のため海外各国ともに普く用ゆる暗号(即ち符牒語)電信の法に倣い字数を減縮して音信料を省略しもって通信の意を充分ならしめば大いに世に益するところあらんと今回内務卿閣下及び電信局の許可を得て電信往復上に必用の語を抜粋蒐集し,梓行もって世に公にす

また,通信上の利便のみならず,小学生徒等習字の余暇に生徒に通信文の作成をさせてもよいと述べている.

コード語(「符牒語」)はカナ2字からなる.凡例の末尾に「イヰ,オヲ,エヱのごときを区別するは紛らわしきのみならず電信文字に区別なければヰはイ,オはヲ,ヱはエの部に索(もと)むべし」とある.(1879年の時点の和文モールスにはヰ,オ,ヱはなくイ,ヲ,エを使うこととされていたが,1885年の和文モールスではそれらも定義されている.(安岡孝一・安岡素子(2006)『文字符号の歴史 欧米と日本編』p.27,28)

配列はイロハ順が基本だが後年の『いろは引電信暗号』同様,その配列はよくわからない.

索引法は電報に用うべき辞あるいは諸品名目ともその呼声の頭字をもってイロハ分けになしたるものなれば,たとえばその辞「至急云々」なるはシに索むるは勿論なれども,イウ/ユフ,トウ/タフ,ハウ/ホウ,ヘウ/ヒヤウ,リヤウ/レウ,クワウ/コウ/カウ,ソウ/サウ,マウ/モウ,カン/クワン,ヨウ/ヤウ,キヤウ/ケフのごとく呼声紛らわしきときはイの部に得ざればユの部に索むべし.かつ字音に索めて得ざるときは訓読に索むべし.たとえば田畑(デンパタ)をテの部に得ざれば田畑(タハタ)と訓読してタの部に索むべし.すべてこの例に倣え.

「凡例」では漢語にフリガナを振っているが,「需要者」に「モチユルヒト」と付記するなど説明的なものも多い.


上記のようにコード語がイロハ順になっていないので,復号時のために,巻末に全コード語を一覧する「符牒語表」が掲載されている.


符牒語表索引法
一.この表の上下右左にあるイロハをもって符牒語を見出すものにして上下のイロハは上へ下へのみ直線に通い左右の分は横線にのみ通わせ,而して上下のほうを符牒の頭字と心得べし.
一.符牒の電文到達したるとき受信人はこの表に照らしてその全文を翻訳して送達紙中に書入すべし.たとえば電報 符牒に(イホ)とあれば表の上部にあるイと右の横にあるホを見合わせ,イは直線に下へ,右のホの線のところまで下がれるその画内にある言辞即ち「景気宜し」ということ,また(ヤス)とあれば「只今買時」という電報と知るべし.その他この例に倣え.

山林局『頭韻分類電信符語表』(明治15年)(1882)

近代デジタルライブラリー

イロハ順のカナ2字コードを掲載した一枚のシート.


農商務省工務局『工務局電信約字表』(明治16年)(1883)

近代デジタルライブラリー

イロハ順のカナ2字コードを掲載した一枚のシート.凡例は上記の山林局のものとほぼ同文.


司法省総務局(編)『電信符号 明治二十四年三月再版』(明治24年)(1891)

近代デジタルライブラリー

前書きが明治21年(1888年)6月付けなのでここに配列した.司法省と各地裁判所の間,また裁判所間の通信の費用節減のために編纂されたもので,「機密の暗号を用ゆべき事件を除き」すべてこの符号を使って通信するものとしている.

前編が発信用(p.1〜31;平文のイロハ順),後編が受信用(p.33〜61;コード語のイロハ順)の二部構成となっている.

コード語はカナ二字(ヰオヱを除きンを加えた45字).2025語収録だが,補足として「例外」「注意」「特別」の三符号を追加している.

「例外」は「一」「〇」を頭字として年月日を表わす表現.

「注意」は「ヰ」「オ」を使って,裁判所・地名を表わす.ヰオはイヲと「莫爾斯(モールス)字号」では明確に異なるものの,誤写の可能性があるので「注意」と命名したという.

「特別」は四五六七九の五字(二三八はカタカナとまぎらわしいので不使用)を頭字として官職や国名を表わす.「隠語を用いたる信報中数字を混用するは独り官報に限り私報はこれを許さず」(p.63第十二条)との理由で「特別」と命名したという.


上記は表紙に鉛筆書きで「明治四十二年十一月三十日廃止」とあるが,その際の改訂版と思われるのが司法大臣官房文書課『電信略符 明治四十二年十一月改正』(1909)近代デジタルライブラリー).やはりカナ2字コードだが,「例外」「注意」「特別」といった分類はなくなり,内容により「司法省の部」(「一」+カナ1字),「裁判所および検事局の部」(「〇」+カナ1字またはカナ1字+「〇」,その後「イロ」「イハ」…など),「監獄および分監の部」(「ツイ」「ツロ」…),「各官衙の部」(「ムイ」「ムロ」…),「法規要目の部」(「クイ」「クロ」…),「各局課番号の部」(「マイ 法務局民第」「マロ 法務局統第」…),「法務局の部」(「ケイ 一件記録回送ありたし」「ケロ 一部免訴その他は有罪の決定あり」…)などと分類されている.

同じ司法省のものとして司法大臣官房文書課(編)『電信符号 発信人略符 明治四十年六月改正(文往甲第三六六号)』(1907)近代デジタルライブラリー)がある.

松下回漕店『為換用壱字遣 電信暗号』(明治21年改正)(1888)

本体5ページの小冊子.イロハ…ンおよび濁点付きのバ…ン゛の各1字を使って数字や為換関係の用語を表現する.他に「弐字遣暗号」というものもあったらしく,混用するときは「イ 以下壱字遣ひ」「ロ 以下弐字遣ひ」で切り換えることになっている.

イ(以下壱字遣ヒ) ハ(一) ニ(二) ツ(番) ト(五) レ(円) 子(為替切ル如何 電信ニテ返事)
イ(以下壱字遣ヒ) ホ(三) ヘ(四) ツ(番) ロ(以下弐字遣ヒ) メヤ(金高) マレ(間違無カ念ノ為問合ス直返事) イ(以下壱字遣ヒ) ト(五) チ(六) ツ(番) ロ(以下弐字遣ヒ) ソハ(皆金受払済)

松岡楢造 (青濤)『商家必用自由暗語』(明治21年12月)(1888.12)

近代デジタルライブラリー

下記の『いろは引電信暗号』と同じ月に出版された小規模な冊子.コードブックではなく,カナを別のカナで表わす換字を扱っている.すでにある「暗号電報」や「暗号書信」とは違って,「いかなる微細の事柄といえどもいかなる繁雑の事といえども自由に暗語をもって綴」ることができる「自由暗語」を発明したという触れ込みだが,その内容は,歴史上何度も再発明された暗号円盤でしかない.

具体的には,外・内二つの円上にイロハ45文字(オヰヱがなく,ンがある)が並んでいて,内側のイ〜ンには「一」〜「四十五」の番号が振ってある.外側には「甲」「乙」「丙」「丁」の4文字があり,これと数字を合わせて「甲ノニ」「乙ノ一」などとして原語の文字(外側)と暗号文字(内側)の対応を決める.

なお,濁点は暗号文にもそのまま付けるほか,濁音をカタカナでなくひらがなで表わしてもよいとするあたり,電信よりも「郵便葉書」(p.4)等での用途を主に想定しているらしい.



上記で挙げた書の書名では「暗号」「符牒語」「符語」「約字」「符号」「暗語」と用語がばらばらで,電信コードを「暗号」と称することはまだ定着していなかったことがうかがえる.

『いろは引電信暗号』/『電信イロハ暗号』(丸善)

1888年末に初版が刊行された『いろは引電信暗号』は何度も版を重ねるロングセラーとなり,1915年版によれば,26年間で数万部を頒布したという.中川静『現代商業文指鍼』(1907)では,邦文の暗号書が少ないなか,比較的普及しているのが『イロハ』だとしており(p.382),一般向け和文用電信コードの代表格と言っていいだろう.

発行者としてクレジットされている早矢仕民治(はやし たみじ)は丸善創業者である早矢仕有的(はやし ゆうてき)の年齢的には甥に近いまたいとこに当たり,15歳の1872年に横浜に出てきて丸善の仕事を手伝うようになっていた.1880年には洋書目録の編纂に従事し『丸善百年史』第一編第11章,『英和語学独案内』(1887, 4版)のような著書(共編)もある近代デジタルライブラリー.後年の1915年版の奥付では早矢仕民治が「編集者」としてクレジットされる.民治が洋書事情に通じていたことを考えると,「いろは」のネーミングは欧米でよく使われていたコードブックABC Codeを意識してのものだったかもしれない.

初版では「売捌所」として丸善書店,叢書閣,博聞社などが挙げられている.

『伊呂波引電信暗号』(伊呂波引電信暗號)(明治21年12月)(1888.12)

近代デジタルライブラリー

「電信往復の頻繁なる家」で電信の字数を節約するために編纂されたもの.「この書収むるところ一般普通の用語を採択するを目的とす」として一般向けのコードブックであることを示している.

平文をカナ2字(濁音もあり)のコード語(「暗号」)で表わす.発信の部と受信の部の二部式となっている.発信の部は「語音の頭字をもって」検索するとされており,イとヰ,ヲとオ,エとヱの区別をせず,受信の部ではヰ,ヱ,オを省くものとしている.平文とコード語の頭音を一致させようとしている傾向はあるが,必ずしもそうでもない.

月日・時刻,数および割合,県名・地名,銀行・会社・商家についてはそれぞれ別にまとめて検索しやすくしてある.

なお,発信の部と受信の部を分けたわかりにくい二部式の構成について,1915年版によれば,発信の部ではイロハ順にとらわれない配列(次の例でいうと連語を後回しにするなど)が便利と考えたようである.また,平文とコード語の頭音を一致させようとしたため語数の多い字母では他の字母からコード語を借りてくる必要があり,その点でも発信の部のコード語はイロハ順から外れてしまうということらしい.だが,『いろは』以後のコードブックでは,発信部と受信部を別にしない一部構成がもっぱらである.

なお,『いろは』は海軍でも1890年1月11日からの半年間使われたという.その通達によれば,「長文に渉る電報を発送するには今より経費節減のため東京叢書閣発兌伊呂波引電信暗号を使用す」とのことである(長田順行『ながた暗号塾入門』p.224-225,長田順行「暗号辞書」(大修館『月刊言語』第13巻(1984)第1〜4号〈特集・辞書のたのしみ〉p.136-137)実際に『いろは』を使って組んだ電文例を別稿で紹介しておいた.

発信の部

一時……イロ
一年……イイ
一応……イニ
一切……イヘ
一般……イチ
一見……イシ
一度……イホ
一様……バタ
一同……バレ
一式……バム
一行……バク
一目……バア
一覧……リギ
一層……リゼ
一時動揺……イハ
一切関係ナシ……イト
一大事……バラ
委員……イダ
委細……イリ
(中略)
依託……バメ
依頼セヨ……イタ
依頼スル(又ハ)シタ……イヨ
意味……イレ
意見……イガ
(中略)
レリ……ソト
連……レイ
連合……レロ
(中略)
数及割合
一……ルワ
ニ……ルカ
三……ルヨ
(中略)
月日時刻
一月……ロキ
二月……ロユ
(中略)
銀行会社及有名商家
第一国立銀行……グイ
第二同……グロ
(中略)
県名国名地名
東京府……ドボ
京都府……ケゴ
  受信の部
イイ 一年
イロ 一時
イハ 一時動揺
イニ 一応
イホ 一度
イヘ 一切
イト 一切関係ナシ
イチ 一般
イリ 委細
イヌ 委細承知
(中略)
イザ 石川県
イギ 岩手県
イジ 茨城県
イビ 英吉利
イゼ 伊太利
イズ 磐城国〔濁音もイロハ順になっているのがわかる〕
ロイ 龍動為換
ロロ 龍動相場
ロハ 魯西亜
ロニ 龍動
ロホ 一日
ロヘ ニ日
ロト 三日
(中略)
ハイ 販売約定
ハロ 販売代金
ハハ 販売
(中略)
ハズ 発行
バイ 場合
バロ 端舟
バハ 半年
(中略)
バヨ 違変
バタ 一様
バレ 一同
バソ 勢ヒ
バツ 愈
バネ 印鑑
バナ 意外
バラ 一大事
バム 一式
バウ 家出




『増補再版 いろは引電信暗号』(明治28年7月)(1895)

近代デジタルライブラリー

『いろは』は日清戦争(1894年7月〜1895年3月)後まもなく,増補再版された.

この書,再版において充分なる訂正を加え,もって電信略語の完全なる書となし通信上の便を計らんことを期したりしが,いまだその業を果たさざるに偶々清韓事件起こり通信愈々頻繁を極め,本書の必要益々急なり.よってここに初版に用いざる暗号文字「オヰパポペプピヴコ゜」を綴合して一千語以上の用語及暗号を増補して再版を発行することとはなせり.

初版に登録されていたコードは変更せず,増補しただけなので,増補分を使わなければ初版と併用できる.増補分は,発信の部では「……」の代わりに「――」としてあるので区別できるようになっている.

また,発信の部のカテゴリー別のところに「株券」の分類が加わった.「石川島造船株――ヴイ」「盤城炭礦株 ヴロ」「大日本製薬株 コ゜イ」など(普通には使われない半濁点の付いた「コ゜」を使っていることに注目)など.

『訂正増補 いろは引電信暗号』(明治31年)(1898)

近代デジタルライブラリー

さらに数字一三四五六七九〇の8字もコード語に使って1000語余りを増補した.二,八を使わないのは,手書きの頼信紙で片仮名と誤読されるのを防ぐためだろう.「株券」の部では「ヴ」「コ゜」に加えて「ウ゜」も使われている.

初版・再版のコード語は改訂した部分もあるが,大体は旧版のままとしてある.「これ一に本書を使用せらるる多くの諸君が各自専門用語を記入してその用を弁ぜらるるを空しく不用に属せしむることを恐るると,二つに暗号のごときは尤も習慣を要すること多きものなれば,やむを得ざるものにあらざれば改正変更をなさざるこそ却って便利多しと信ぜしをもってなり」としている.

主たる変更は船名,会社,銀行,株券の部に多く,変更したものには*を付してある.

増補語には変数を入れられるものもある.たとえば「一ツ」というコード語は「配当金―へ渡せ」を表わし,この直後に「ジセ」(「東京貯蔵銀行」)を続けることで,「配当金東京貯蔵銀行へ渡せ」と読む.


『新編 電信イロハ暗号』(明治39年)(1906)

近代デジタルライブラリー, Google

2字コードから3字コードへと全面刷新するに伴って改題した版.また,三版までの中途半端な二部式を改め,イロハ順の一部式になった(ただし,他のコードでもあるように,第1字の文字ごとにまとめて画数順にしている).コード語では「ヰ」「オ」「ヱ」の3字は使わず,「イ」「ヲ」「エ」に編入している.

月日・時刻,数および割合,県名・地名,会社名・銀行名・金額などは従来は別にまとめられていたが,なるべく仮名音に従ってその箇所に編入した.たとえば「ホ」の末尾には「保険会社」および「封量数」(「…グレイン」,「…ポンド」)をまとめてある.商品は暗号「ン」の部にまとめてある.


早矢仕民治(編)『増補新編 電信イロハ暗号』(大正4年)(1915)

近代デジタルライブラリー

旧版を反故にするような全面改訂はユーザーのためにならないという『いろは』の立場は一貫していて,三版のときなどと同様,今回も増補にとどめている.

一万有余の増補をして語数は三万有余となった.このため「原語文」と「暗号」の頭音をそろえるのが難しくなることを予期し,次回の改版では初版のような受信部と発信部を分ける構成が必要になるだろうと述べている.巻末の類語索引(イロハ順の配列にとらわれずに関連語をまとめて検索できるよう設けたもので,「アイウエオ順」)も,次の改版で二部式を採用した場合に「発信部における編纂を大体をかくのごとくせんとする方式を示すため」とのことである.つまり,原語のイロハ順にコードを割り振った場合,原語を意味内容も加味して配列しなおしたものを発信部とするというのである.

ちなみに,凡例末尾に「本書及増補ともに暗号にはすべて「子」字を採用せしに最近において電信用字には「ネ」を用ゆることに一定せられたるゆえに「子」字はすべて「ネ」と見なされたし」とあるのも興味深い.



1935年末ごろになって丸善は新暗号書の編纂を新たな編者に委嘱する.その結果が後述する林篤信『安全電信暗号』(1944)である.

商社・企業の電信略号・電信略語・電信略語表(1886-1940)

ここでは1枚のシートまたは小冊子の形の小規模な電信略語表を紹介する.

『電信略語』(明治19年1月更生,東京廻米問屋組合,47×35.8cm,1枚)

カナ1〜2字で「商況用語」「雑語」「廻漕用語」などを表わす1枚の表である.濁点・半濁点は含まないがヰやヱも使っており,イロハ順のカナの「フ」〜「ン」は2字コードの第1字に使われている.


急報社の電信略語表

松下松之助『商海之指針』(明治29年)(1896)(近代デジタルライブラリー)は,1886年に設立され商業通信社の嚆矢となった急報社(p.2; Wikipedia)が顧客に備忘録として提供した(緒言)小冊子であるが,p.10の次の綴じ込みに明治27年11月改正の「米商部 急報社電信略語」を掲載している.「カナ1字」「ン+カナ1字」「ノ+カナ1字」「半濁点付きカナ」「濁点付きカナ」を使ったカナ1〜2字コードである.p.16の次の綴じ込みには「株式部略語」がある.これも「カナ1字」「半濁音付きカナ」「ノ+カナ1字」「ン+カナ1字」「ス+カナ1字」「数字+カナ1字」などの1〜2字コード.p.30の次の綴じ込みには「金銀貨外国為替銀行日歩及諸商品部電信略語」があり,「カナ1字」「数字+カナ1字」「カナ2字」の2字コードとなっている.




『電信略語表』(明治29年改正,福島蚕糸米穀株式取引所,32×48cm,1枚)

カナ1字(濁点・半濁点付きを含む)またはカナ2字(1字目は「キ」)で数字・電信・取引等の用語を表わす1枚の表である.


その他の電信略語表

このような1枚の表にした電信コード表は「電信略語表」「電信略語」「電信略号」などと称されて時代を通じて商社・企業などによって各種作成されており,古書店検索では他に次のようなものが見られる

『電信暗号』(明治20年,金沢十間町米商中八郎,1枚)

『電信略語表』(明治32年,東京米穀取引所仲買平井増蔵,30×52cm,1枚)

『電信略語』(明治39年1月1日改正,有価証券仲買業今林儀平商店,390×505,1枚,2色刷)

『電信略語表』(明治43年,大阪市高木両替店,44×61cm,1枚)

『電信略語』(大正5年7月改正,山村商店,1枚)

『電信略語表』(大正7年1月改訂,山崎孝次郎商店,1枚)

『電信略号 東京米穀商品取引 第一部(米)第二部(棉糸)取引員 澤商店』(大正拾弐年拾壱月改正,30×48cm,1枚,受信用 発信用)

『電信略語』(大正14年1月改正,三重商事株式会社,1枚)

『電信略語表』(大正14年1月,岡山証券株式会社,1枚)

『電信略語表』(大正14年1月改定,吉田金太郎商店,1枚)

『電信専用略語表』(大正14年4月改正,高井治兵衛商店,1枚)

『電信略語表』(昭和5年12月,佐藤貞吾商店,1枚)

『電信略語表』(昭和9年1月,久保田商店,1枚)

『電信略語』(昭和10年12月改訂,佐藤貞吾商店,1枚)

『電信略号 第一集』(明治32年,扶桑新聞社,32pp.)

これは冊子体のもので,1〜6字で会社名・個人名などを表わす.原語の音を留めたものが多いが必ずしもそうでもない.「ハマ 浜松商業新聞」「ハ 林藤兵衛」「ハツトリ 服部兵助商店」など.


その他の冊子体の電信略語集

冊子体のものとしては次のような書名が見られる.

『電信略語』(明治35年, 北海道鉄道KK)

『電信略語』(大正14年1月改正,加藤専蔵商店,B6版,10pp.)

『電信略号 使用期限昭和6年12月31日限』(山一證券株式会社,10pp.)

『電信略語』(昭和8年5月改正,渡辺豊商店,新書版,25pp.)

『電信略語』(昭和12年7月改訂,越ヶ谷伊太郎商店,新書版,27pp.)

『電信略語 現物用』(昭和15年1月改正,高木商店(大阪),15pp.)

日清戦争まで(1888-1895)

日清戦争(1894年7月〜1895年3月)のころまでのコードブックでは,官公庁のものやジャーナリスト用のものが目につく.そもそも中川(1907)でも,邦文の暗号書は少なく,比較的普及している『いろは』のほかは,各新聞通信社用のものや各官庁用のものがあるが,前者はなぜか広く使われておらず,後者は一般に発売されていないと述べている.

池田忠五郎『電信略字林』(朝野新聞社)(明治22年)(1889)

近代デジタルライブラリー

カナ2字コード.コード語(「略字」)の第1字はアイウエオ順(「五十音の順」),第2字はイロハ順(濁音あり),平文(「原語」)はイロハ順.巻末には数字を含む表現を「半濁音+カナ1字」で表わすコードがまとめられている.


辻籌夫『電信符号録』(明治24年)(1891)

近代デジタルライブラリー

時事通信用の用語を集めたコードブック.同じ著者は後年に『日清事変電信符号』(1894),『電信暗号』(1895,共著)も発表している.

配列はイロハ順.コード(「符号」)はカナ2字または3字からなり,3字の場合,第2字は必ず「ヰ」または「オ」となっている.(2字コードではイロハ47文字のうち「オ」「ヰ」「ヱ」は使われていない.)コードの数をかせぐため,普通は濁点や半濁点が付かない文字にも付けている.末尾には「ン×」の形の2字コードとして数字に関する表現を集めている.


五十嵐光彰『電信符号字書 東京通信社専用』(非売品)(明治25年)(1892)

近代デジタルライブラリー

コード語は2字カナ(イロハ順).

語数を増やすため濁点・半濁点を付したものもあり,清音のコード語のあとに1字目が濁音・半濁音もの,2字目が濁音・半濁音もの,「イ゜」「イ゛」のような本来でない半濁音・濁音ものの順に続く.

平文もイロハ順だが,数字で始まる語(「一」「一週間」「一同辞職」など),照会語(「一両日の内必ず送金するゆえ発電頼む」など),連語(「朕衆議院の深厚なる敬礼を嘉す」など),両院議員姓名は末尾にまとめて収録している.


この改訂版と思われるのが黒石藤太『電信符号字書 東京通信社専用』(非売品)(明治29年)(1896)近代デジタルライブラリー).

凡例はほぼ同文だが,著者名が変わっており,一般語に混ざって収録されていた人名などをごっそり削除したほか,新たに編集しなおしたように思われる.(また,後述の里見乙吉『電信暗号字書』も書名・体裁が似ているが,凡例は同文ではない.)


愛媛県警察部(編)『警察電信符号』(明治27年)(1894)

近代デジタルライブラリー

コード語はカナ2字かカナ3字.

巻頭の前書きが辻籌夫『電信符号録』(1891)に酷似しており,「警察上の用語」という収録範囲のほかは,コードとしての構成はこれと同じと言っていいだろう.

岐阜県『岐阜県用電信符号録』(明治27年)(1894)(非売品)

近代デジタルライブラリー

コード語は〇とカナ2字からなる3字コード語(「カナ」は「ネ゜」のようなものも含む).ただし二字符号の中間に「ヰ」を入れた4字コード語もある.イロハ順(ヰオヱを用いずイヲエを用いる).

〇の使用により,括弧を使わずに平文と混在できるが,〇を省いて( )内にコード語を連記してもよい.つまり,〇を暗号の識別符としてコード語から除外して考えれば,実質的には2〜3字コードといえる.


辻籌夫『日清事変電信符号』(明治27年9月)(1894)

国会図書館所蔵.

「日清韓事件に関する出来事を電報」するために編纂したもの.「大本営を広島に進めらるるの前日」付けの「例言」によれば,「時運の必要に迫られて僅々数日の間になれり」とのこと.職員録・地図・軍艦一覧表などの資料から語彙を収録したらしい.特に中国・朝鮮の多数の地名を収録している.

2字コード(イロハ順).各字母内で「官衙及官名」「人名」「地名」「船舶」「軍事」「雑事及働詞」に分かれている.その後「数量之部」「清韓地名」(イロハ順)がある.

コード語(「符号」)は通常のイロハでは足りないので,カナ清音の2字コード語のあとに「ン+カナ」「カナ+ン」「半濁音+カナ」「カナ+半濁音」「濁音+カナ」「カナ+濁音」の形のものが続く.


『書林便覧』(博文館)(明治28年3月)(1895.3)

近代デジタルライブラリー

博文館発行の書籍販売に関する便覧だが,注文に関する用語30余りをカナ1字で表わす電信暗号(明治28年3月改正)を収録している(p.78-79).


大阪測候所『大阪府気象報告. 大阪測候所気象雑報』(明治28年8月)(1895.8)

近代デジタルライブラリー

小冊子の巻末3ページに「大阪測候所気象電報符号」として,1字コード「中央気象台暴風警戒電報符号」(「イ 海上不穏ノ虞アリ沿海ヲ警戒ス(球ヲ掲ルヘシ)」など),2字コード「大阪地方天気予報符号」(「オイ 北ノ風」「サワ 晴レ」など),3字コード「天気尋問・応答電報符号」(「キイイ 今日」「ンヘロ 電話ニテ返答ヲ乞フ」など)が収録されている.

辻籌夫, 片切勝彦(編)『電信暗号』(内外通信社)(明治28年12月)(1895.12)

近代デジタルライブラリー

上記の辻籌夫『電信符号録』(1891)と同様の時事通信用の用語を集めたコードブック.配列はイロハ順.コード(「暗号」)はカナ2字または3字からなり,3字の場合,第2字は必ず「ヰ」または「オ」となっている.(イロハ47文字のうち「オ」「ヰ」「ヱ」は使われていない.)コードの数をかせぐため,普通は濁点や半濁点が付かない文字にも付けている.末尾には「ン×」「ン゛×」の形の2字コードとして数字に関する表現を集めている.

普通暗号のほか,「地方に関する叙任辞令」のための「叙任暗号」,「議会事項通信」のための「議会暗号」として2字コードが設けられており,それぞれ電文の冒頭に「イ」「ロ」を付して区別するものとしている.


日露戦争まで(1896-1904)

この時期には数字を含めたコードやカナ3字コードなどが登場した.

柏木吉三郎『実用電信暗語早引』(明治29年)(1896)

近代デジタルライブラリー

カナ2字からなる簡単なコード(イロハ順).第1字は濁音も(アイウエオ順).

数字は平文のまま送るとしているが,濁音から始まるコード語には数字を含む表現・地名などがある.


飯田幸之助『新案 暗号法』(明治29年)(1896)

近代デジタルライブラリー

郵便電信が発達したが,普通文では機密漏洩のおそれがあるので,「秘密中の秘密事件に至りては百数十里の離隔せし地といえども行きて面語せざるを得ず」と前置きして,秘匿のための暗号を考案したとして解説している.その内容はイロハとアイウエオを並べてカナを別のカナに変換したり,イロハを「一」〜「四七」の数字で表したり,座標式にカナを二数字で表したり,幾何学的な記号で文字を表わしたりといった,初歩的な暗号の域を出ない.

その中で「略語暗号法」としているのが電信コードに当たる(p.21〜).世間で行なわれている方法は「暗号法」を「アゴホ」「アウ」などと略したり,4578を「ヨイナヤ」と略したりするものだが,これでは多数の略語を設定すると混乱のもとになるとして,「予が案出せし」方法ならそのような問題がないとして紹介しているのが次の表である.この「ア之部」は「ア」で始まる語を「ア」+カナ1〜2字のコードで表わすというもので,たとえば「嵐」は「アタ」,「アイランド」は「アアロ」となる.同じようにして「イ之部」「ウの部」などを作っていけば,カナ3字なら12万5千余り,カナ2字なら2200余りの語数ができると述べている.


森一兵『商家書翰文』(明治31年7月)(1898.7)

近代デジタルライブラリー

第三章が「暗号電信」であるが,第四章「電信秘辞帳」(p.95〜111)はコードブックの「雛形」を示されている.基本的にはカナ2字コードである.

依田貫一『商用電信暗号』(明治31年3月)(1898.3)

近代デジタルライブラリー

欧米の電信符号に倣ってイロハで作成した2〜3字コード.全冊を甲乙に分け,熟語,章句,接続詞,物品名,地名,船名等を甲に,銀行会社名,公債株式名,時間,歩合等を乙に収録.「編入語字の発音は都で俗に従い,正訛を論ぜず.」

3字コードは第2または第3字がヰ,オ,ル,ヌとしている.これらの文字は第1字や2字コードには使用せず,後続のコード語との切れ目がわかるようになっている.

イロハ順のコード語にイロハ順の語句を割り当て,原則としてコード語の先頭文字と平文の先頭文字が同じになるようにしている.ただし,平文の「る」「ぬ」で始まるものは(イロハ順で少し前にある)「ロ」に組み入れ,「れ」で始まるものは同様に「ヲ」に組み入れてある.一方,「し」で始まる語句は多いので,濁音「じ」で始まるものは(「ぢ」が同音なので)「チ」に組み込んである.

また,「レ」の部には一年間の月日がある.「レイ 1月」「レロ 1月1日」「レスヌ 12月31日」など.これにより,あらゆる日付けが3文字の料金で送信できる.

末尾の「ン」の部には「ンイ 1円」「ンロ 2円」…「ンソヰ 100円」「ンツヰ 110円」「ンルル 20万円」など円単位の数字が配されている.他の単位の場合はこれらのコード語のあとに所用単位称呼を続けるか,または(コードでなく)普通数字を用いてその前後を括弧で囲むものとして,「数字は暗号を用うるも字数を省略するの効少なければなり」と説明している.当時,欧米ではすでに,数字は送信ミスが致命的になるので数字をコード語で表わすことが一般的になっていたが,その点は認識されていないようである.

イロハ…ンのあとに濁音を第1字とする2字コードで銀行会社名,公債株式名,時間,歩合等を表わす乙の部がくる.濁音は「ガギグゲゴザジズゼゾ…」というアイウエオ順だが,第2字はイロハ順の清音となっている.



土肥克馬,百崎鹿之助,大野又吉『帝国組合電信符号』(明治31年)(1898)

近代デジタルライブラリー(1898.10, 増補2版)初刷(前付けなし)(1898.9)

カナ2〜3字コード(イロハ順).

イイ〜ヲフが「各自適宜記入之欄」,ワイ〜ラスが「取引所用語」,ムイ〜ススが第一類商況売買用語.

イイ゛〜イン゛(2字目が濁音)イイ゜〜イン゜(2字目が半濁音)イ゛イ〜イ゛ン(1字目が濁音)イ゜イ〜イ゜ン(1字目が半濁音)……ン゜ン イハイ イハロ…フハス(2字目がハ)が「第一類諸雑語」,コハイ〜アハス「準備余地」(「この余地には本書の通告に基づき記入すること.ゆえに各自適宜の記入をなすべからず」)

その後が「第二類」

「月日時間」サハイ〜ヒハス

「第二類金位乃至法及び金位」モハイ〜スハス イニイ〜ヨニス(2字目がニ)

「度量衡法」タニイ〜ヤニス

「艦船名」マニイ〜スニス イミイ〜チミス(2字目がミ)

「銀行諸会社工場名」リミイ〜ユミス

「地名 内国/外国」メミチ〜スミス インイ〜エンス(2字目がン)

「品名」テンイ〜スンス イヽイ〜スヽス イーイ〜アース

「各自適宜記入之欄」サーイ〜イース


『帝国組合電信符号組合員名簿』(1901)も国会図書館のデータベースにある.

日本電信符号同盟会(編)『日本電信符号』(明治32年8月)(1899.8)

近代デジタルライブラリー

「凡例」は前年刊行された依田貫一『商用電信暗号』(1898)の凡例と酷似しており,巻頭・巻末の余白や本符号の使用を通知するために電文のはじめに「ヽ」を付けるといったことが追加されているほかは同文である.

英文のPrefaceが付されているが,本書の英文名称を"The commercial telegraphic code"(「商用」)としている.PrefaceではMr. Yoshidaへの謝辞があるが,「商用」で校閲者としてうたわれている逓信省電務局長吉田正秀を指すと思われる.

巻頭に「イ゜」〜「ワ゜」で始まる追加用の余白がある.

「会社」の欄でいくつかが空欄になったり(p.333),「商会」が追加されたりした(p.336)部分はあるが,ほぼ変更なしのようである.

増訂二版(明治34年)(1901)近代デジタルライブラリー)も出されている.

里見乙吉『電信暗号字書』(明治32年5月)(1899.5)

近代デジタルライブラリー

本体はイ〜メで始まるコードが収められている.コードはカナ2字コードと中間に「〇一四五六七九ヽ」をはさんだ3字コードがある(二三八はおそらく誤読防止のため使っていない).

数字を含むコードの使用について,かつての電信取扱規則では民間では許されていなかったが,この時点では「電報には文字と数字とを混用することを得.ただし,欧文の秘辞には一連集中文字と数字とを混用すべからず.」と規制が緩和されていた.

巻末ではページ番号が改まってp.1からミ〜スで始まるコードが数字関係の表現を表わし,ンで始まるコードが「照会語部」とされている.「ミイ 一」「ミロ 一二」「ミハ 一二年」〜「ス九ト 万本」「ンイ 一両日ノ内必ス送金スル故発電頼ム」〜「ン六ヨ ヲ以テ衆議院議員ノ撰挙ヲ行フコトヲ命ス」

p.25からは「氏姓人名之部」として「清音(イロハ順)+濁音(アイウエオ順)」の2字コードでさまざまな人名を登録している.「イガ 伊藤」「イギ 伊藤侯」「イグ 伊藤博文」「イゲ 伊藤雋吉」「イゴ 伊藤大八」など.



浅野杉松『電信符号』(明治32年7月)(1899.7)

近代デジタルライブラリー

従来のコードブックではコード語(「暗号」「符号」)の数をかせぐために「イ」「ロ」などにも濁点・半濁点を付けているため,誤りやすいばかりか復号(「訳出」)も繁雑になるという問題があったと指摘し,濁点・半濁点を使わないカナ3字コード(「イイイ」〜「ナウケ」)を採用した.コードも平文もイロハ順.

これは初めての本格的な3字コードではないかと思われる.そのような3字コードの採用は,従来最大のものの3倍もの収録語数を(濁点・半濁点を使わずに)カバーするためとしている.たしかに大雑把に見積もると,上記の依田貫一『商用電信暗号』(1898)は14語×3欄×344ページ=14448語であるのに対し,本書は20×4欄×528ページ=42420語となっている.


改訂版(1903)も国会図書館にある.もはや3字コード導入の理由を説明する必要は感じなかったらしく,単に「符号はすべて三字仮名を用い」たとしている.一方,初版でも実践していた「同字の連続を避け誤謬落字等の予防を計」ったことをこのたびは明記している.たとえば,「イナ子」の次のコード語はイロハ順では「イナナ」となるはずだが,これを飛ばして「イナラ」となっている.

改訂版では,平文とコード語の頭音を合わせることを新たに導入した.ただ,語数の多い字母では他のカナも援用し,「カ」の部では「オ」を,「シ」の部では「ヰ」を転用している.

土屋建次郎『電信暗号』(名古屋絨合資会社)(明治32年8月)(1899.8)

近代デジタルライブラリー

営業関係の表現を集めた44ページの比較的小規模なカナ2字のコードブック.配列はイロハ順だが第1字が変化するようにまとめられている.第2字は次のような分類ごとにまとめられている.

(各分類のコード語に使われる第2字)
見本 イロ
注文 ホヘ
郵便電信 トチ
運送 リヌ
品切 ル
金銭 ヲカ
時日 ヨタレ
品数 ソ
名称 ツネ
金高 ネナラムウノ
碼数 クヤマケフ
品名 コエテ
服装 ア
釦  サ
色質 キ
単語(イロハ順) メミシヒモセスン

「ハ」「ニ」など誤読のおそれのある文字を避けている模様.


巻末に「符牒直段」として値段の各数字を符牒(カナ)で表わす表が掲載されている.小売価格より安い(1円掛けなど)仕入れ値を客に見られないようにするという意味での暗号といえる.


渡辺三作『実業電信暗語 : 略称・実業暗語』(明治34年)(1901)

近代デジタルライブラリー

カナ2字(「二字符」),カナ3字(「三字符」)のコードで,頻度の高い語を2字で表わす.「ヱ」は「エ」と誤記しやすいのでコードに用いず,「ン」を含めてカナ47字を使う(濁音・半濁音なし).原語では「ヰ,オ,ヱ」に属する語は便宜上「イ,ヲ,エ」の部に編入しているので44字.各部の中でさらに「普通語」「品名」(会社名含む)「地名」「船名」「銀行名」に分けており,それぞれのセクションの冒頭で頻度の高い語を2字コードにしている.2字コードに使った2字の組み合わせは3字コードの冒頭に使わないようになっているので,受信時にまぎれる心配はない.

最後に1〜3桁の数字(「〇」「〇〇」「〇一」…「〇〇〇」「〇〇一」…「一」…「九九九」)に対するコード語があるが,これはもとの数字の頭字+カナ1〜2字になっている.

収録範囲は「所載の普通語は商業上一切の用件ならびに各専門の雑語より銀行業・諸製造業・海陸送業・農業・漁業・鉱業その他処世上必要なる普通用語を掲載せり.」

なお,各字母の末尾に原語を空欄にしたコード語だけのリストがあるが,これは発行所による後日の追加用のものなので,ユーザーによる追加は「数字暗語の余白」に挿入するよう注意している.

「用語の発音は必ずしもこれを正さず,便宜世俗に従えり.(ジ,ヂ)(ヅ,ズ)(カ,クヮ)(ヤウ,ヨウ)等のごとき正訛多きものは各部を索引すべし.」「土地の方言に仮名遣い異なる地方あり.本書はこれらに拘泥せざるをもって平素熟覧しおかば電文作成の際索引の速やかなる便利あるのみならず,用語を縦横に編纂せし本書なるをもって自然字数削減の法を発現すべし.」


『蚕糸電信暗号』(明治36年)(1903)

国会図書館所蔵.

欧米では特定業界用のコードがいろいろ出版されており,中でも綿花取引に関するコットン・コードは主要なジャンルとなっていた.日本では養蚕・製糸が当時の重要産業で,本書は生糸に関する専門コードブックとなっている.

コード語の構成はカナ2字,2字目に〇を含む3字,3字目に〇を含む3字,2字目が濁音・半濁音の3字のものがある.イロハ順.「イ」「ロ」など普通は濁点・半濁点が付かないものにも付けている.

普通の用語に続く「糸価」「定規糸直段」「高安」「繭値」などは,主題を表わす数字(または数字+カナ)に数値を表わすカナ(または濁点・半濁点を付けたカナ)を付して表わすようになっている.たとえば,「高安」の部で「六二ニ゛」は,「六二」が「生糸器械太」を表わし,「ニ゛」が「二円五十銭高」を表わす.「六七フ」なら定期糸(六七)一円五十銭安(フ)を表わす.「繭集散高」の部で「一トニ゛」とあれば走り繭(一ト)三十万貫(ニ゛),「一チロ゛シフ」とあれば繭出回り高(一チ)十三万二千貫を表わす(ロ゛=十万貫,シ=三万貫,フ=二千貫).この例からわかるように,数値パラメータを表わすイロハ(上例の「フ」など)は主題によって異なる意味が割り当てられているので,必ず主題を表わす「六七」「一チ」などに続ける必要がある.

なお,最も重要な糸価は,数字一字に濁点付きカナを付して表わせるようになっている(カナに濁点を付けるのは上記の「一ト」「一チ」などと区別できるようにするため).たとえば「五ド」なら1117円半を表わす(五=千百円,ド=十七円半).(コード語を併記してその和の数を表わす方式は欧米のコードブックにも見られる.)


信濃毎日新聞(2014年9月5日)は,長野県のカネイ横内製糸所の電信暗号(1908)の発見を報じている.カナ2字からなる約2000語のコードで,蚕や繭の状況,生糸相場,国名・地名・接続詞などを収録しているという.「イロ 例年より上作」「ニナ にわかに好人気」「トケ 品質の悪い繭がある.注意せよ」など.また,岡谷市立岡谷蚕糸博物館には他の業者の暗号冊子もあるという.

また,カネ二小松史料 解題によれば,やはり長野県の製糸業者カネニ小松の史料(ほとんどが1913〜1919年のもの)を東京大学経済学部が所蔵していて,その分類4.1.10が繭買入関係・工女募集関係を中心とした電報関係で,「暗号帳訂正」に触れたものもあるというから,おそらく電報本文・訳文の中には暗号電報もかなりあると思う.

『大蔵省電信用語符号表』(明治34/38年)(1901/1905)

アジア歴史資料センター:レファレンスコード A06040086000(1901年版) A06040085800(1905年版))

一 本表は当省ト所属官衙,台湾総督府,道庁府県及出張官吏の間又は所属官衙及出張官吏相互の間に行うものにして普通辞にて片仮名十五字を超ゆる電報には必ず之を用うるものとす〔1901年版では「台湾総督府」がないが,ほぼ同文〕
一 本表は煙草専売局及臨時煙草製造準備局に於て別に用うる電信用語符号表と混合して用うることを許さず〔1901年版にはなし〕

数字+カナ2字の構成の3字コードを基本とするが,「ニ,三,八」はカタカナとまぎらわしいので不使用.第2字(最初のカナ)は平文の頭字と一致するようになっている.「シ」など語数の多い箇所では,1901年版では濁点・半濁点を使って補っていたが,1905年版では濁点・半濁点は使わずにカナを3字とする4字構成を採用している.



なお,「文部省電信用語符号表」の改訂が1925年に言及されている(C02031241400).

浅野杉松『征露役 戦時電信符号』(明治37年5月)(1904.5)

近代デジタルライブラリー

日露戦争(「征露の役」)に際して戦時通信の用に供するために特に編纂したもの.

コード語はイロハ順で,コード語の頭文字は平文の頭文字に合わせてある.

平文もイロハ順とあるが,各字母ごとに「官衙及官職」「人名」「船艦」「地名」「雑」に分けて掲載している.

このコードブックの使用を示すために,電文の冒頭に〇を付すとしている.

同じ著者の『電信符号』(1899)と同じく,濁音などを用いない3字コード.


小松啓吾『自由通信 電信暗号』(明治37年9月)(1904)

近代デジタルライブラリー

本書は主として自由通信社と各地方新聞社との間に特約したる電報通信のために編製したるものなりといえども,時勢の進運に伴い各個人の間においても電報の利用日にその頻繁を来たし,随てことの秘密を尊ぶとともにその電文の簡にしてその意を悉すの詳ならんことを望むは自然の勢なるをもって,書中登載するところの原語字句は必ずしも普通新聞の用語のみに限らずして広く一般的にわたり,もって世間あらゆる事実の報道に応用し得べきを期してその材料の採択に苦心したり.

3字コードで,コード語の頭文字と原語発音の頭文字が同じになるようにしている.原則はカナと数字からなるが,足りない字母についてはカナのみのものも含めた.「し」の部はそれでも足りないのでコード語の頭に〇を用いた(「〇一イ 賞品授与式(ヲ行)」「〇一ロ 賞状」など).配列は一〜九,次いで→イロハ順.


上塚於兎熊『電報符号』(明治37年10月)(1904)

近代デジタルライブラリー

2字コード.軍事符号(44ページ),普通符号(156ページ),官報符号(88ページ)の3通りがあり,それぞれ電文冒頭に「ヽ」「〇」を付けて区別する.後日議事符号を作るときは「ー」を使うとのことである.普通符号内に軍事符号や官報符号を用いる場合には平文を混ぜる場合と同様括弧を使い,(ヽ……)(〇……)のようにする.逆に軍事符号,官報符号内に普通符号を用いる場合は「……」で区別する.

普通符号については1符号に二語または三語を割り当てているが,前後関係から判断すれば誤解のおそれはないとしている.普通符号・官報符号ではカナのほか数字も使っている.頭字の「一」と「イ」,「八」と「ハ」を続けて配列するのはともかく,カタカナの「ニ」を使った「ニロ 二三月/二三ケ月(中)/二等軍医正/二時」と漢字の「二」を使った「二ロ にも」を区別するのは無理があるのではないだろうか.

横組みだが巻頭の「例言」は縦組みで行を左から右に読む.



日露戦争と暗号電報

竹山恭二『報道電報検閲秘史』(p.106-107, p.47以下)によれば,日露戦争(1904年2月8日〜1905年9月5日)中は報道合戦が過熱し,開戦後,大阪毎日新聞社が他社への漏洩防止のために暗号を多用するなど,新聞各社による暗号使用が増加したという (典拠は『関東電信電話百年史』).また,電報取り扱い数自体も激増し,増加分の大半は軍関係と,新聞社の送稿などであったという (竹山 p.54)

同書によれば,開戦に先立つ1904年1月に電報取り締まりが開始され,暗号電報を送信するには翻訳文を提出することが要求された.2月5日には,私用の外国電報について,暗号電報の受け付けは東京・横浜・神戸の郵便局のみに制限し(のちに大阪・長崎・門司を追加),発信の際には日本語,英語またはフランス語の訳文を添えて暗号帳とともに発信局に提出するものとされた.

なお,この規制の根拠とされた電信法第16条と似たものは国際電信規則にもある.

電信法第16条
電信官署において必要と認むるときは発信人に対しその電報に用いたる秘辞隠語の説明を求むることを得.発信人もしその説明を拒みたるときはその電報の取り扱いを拒絶す.

International Service Regulations (1985年版)
VIII 5. The original sending office can demand the production of the vocabulary, for the purpose of controlling the execution of the preceding regulations, and verifying the authenticity of the words employed.

ただし,上記の引用で明らかなように,国際電信規則でのコードブックの提出に関する規定は,あくまでも電文でコードとして使用されている単語が本物の単語であることを確認するためだった.当時,勝手な英字の並びを「1語です」と言って送信できないよう,コードとして使用できる語は英語・フランス語など8言語のいずれかに属する本物の単語であることが必要とされていたのである(詳しいいきさつは別稿(英文)参照).現に,発音可能であれば単語と認めるよう規制が緩和された1903年版では上記に対応する規定は削除されている.

(言うまでもなく,日本の現行憲法では21条で「検閲は,これをしてはならない」と明記されている.)

本願寺の暗号(1904)

竹山恭二『報道電報検閲秘史』のp.88以下では日露戦争中に第十一師団の司令部に近い丸亀郵便局から京都の(西)本願寺に宛てられた暗号電報(頼信時に提出された翻訳文付き)が,当時の検閲記録からいくつか紹介されている.日露戦争では仏教各派も含めて全国的な後援活動が展開されていたが,本願寺の活動は特にめざましかったという

1904年7月28日の電報の暗号部分は次のとおり(以下,暗号の区切りおよび平文との対応付けは筆者の推測).

コ八四九 シダン(師団)
コ二九〇 シユツシ(出師)
オ二九二 五ゲツ二一ニチ(五月二十一日)
六一六六 ヨリハジム(より始む)

ここでは他に類を見ない四字コードを使っているように思える.(第2〜4字は数字になっており,岐阜県『岐阜県用電信符号録』(1894),土屋芳郎『混用電信暗号』(1909),林篤信『安全電信暗号』(1944)の4字コードとは趣が異なる.)

同年6月4日の同じ小林という人物からの電報は異なる暗号を使っている.

シユヤ シダン(師団)
モニヘ ミヨウニチ(明日)
タラウ ダイニ(第二)
タリル ダイブブン(大部分)
シオエ シツシ(出師)

浅野杉松『電信符号』(1899)などに似た濁音などを含まないカナ3字によるコードらしい.「明日」以外は平文の頭文字とコード語の頭文字も一致している.次も同じ発信人による7月28日のもの.当然ながら「出師」の部分のコード語は共通だが,「明日」の部分が微妙に違う.

ミニヘ メウニチ(明日)
コハノ ゴゼン七ジ(午前七時)
ラチヘ タトツ(多都津)
ヨイイ ヨリ(より)
シミテ リヨダンシレイブ(旅団司令部)
シオエ シユツシ(出師)

発信人名の異なる6月8日の次の電報も同様のカナ3字コードに見えるが,平文とうまく対応しない.

コヨナ コウビヘイ(後備兵)
コヨム シヨウシユウ(召集)
トワヌ アリタリ(ありたり)
ヘニテ 
ミハレ 

明治末・大正(1908-1921)

高橋壮昂, 川西庸也『電信暗号』(明治41年,日本電信暗号協会)(1908)

近代デジタルライブラリー

カナ2字コードまたはカナ2字+数字の3字コード.

誤りやすい文字「二ニ三ミ八ハ」および「ユヰケヌ」などは使っていない.その一方,「ア゛〜ン゛」「ア゜〜ン゜」のように濁点・半濁点はあらゆる文字につけている.

コード語はアイウエオ順(「片仮名順」)に,対応する平文はイロハ順に配列されている(巻末のほうに「会社銀行商店及旅館新聞社の部」「船名の部」がありそれぞれイロハ順).

幅広い分野の用語を網羅的に収録しようとしている.凡例の冒頭には「本協会の電信暗号は農商工業家用語はもとより法律家政治家諸官衙新聞社諸受負業者用語より吾人の日用語等に至るまで普通一般に使用せらるるものは悉く網羅せり」とある.

また,電信暗号協会を設立して加入者には電信暗号のほかに会員名簿を配布することで,共通の電信暗号を会員間で広く使えるようにしようとしている.


土屋芳郎『混用電信暗号』(明治42年)(1909)

近代デジタルライブラリー)電信の沿革(p.14〜16)や規則を含む「電信実務」あり(p.14).

「混用」というのは括弧を用いなくても平文や他のコードブックの語と区別できるようにコード語(「符号」「暗号」;p.10で「コート(ママ)語」も使っている)を作成してあることを言っている.著者は従来式の10数万語の「大暗号書」を著したが,そのような混用のために本書を編纂したのだという(p.1).そして「混用」にするためにコード語の制約があるので,3字コードと4字コードを使うことにしたという(p.5).

平文との区別のため,普通の日本語で使わない「ア゜」「ア゛」のようなもの(「発音なき濁音/半濁音」;下記では単に「濁音」「半濁音」とする)や数字を利用している.また,3字コードと4字コードの区別のために,「カ」「ソ」「ワ」「ー」「ロ」「ツ」を特別扱いしている.

具体的には,次のようなコード語から構成されている.3字コードも4字コードも,数字を含むものは第1部(日付・時間・月日等その他地方に関する語句),それ以外は第2部(一般語句)である.なお,濁音・半濁音は電信では二字に数えられるので,本書では「ア゜ア」「ア〇ウ」などを「三字符号」「三字暗号」,「イ゜カア」「ウ〇ロウ」などを「四字符号」「四字暗号」と称している(p.3, 13).

第1部

半濁音/濁音+数字1〜2字

カナ+数字+「ン」

第2部

半濁音/濁音+カナ

半濁音/濁音+「カ」/「ソ」/「ワ」/「ー」+カナ

カナ+○+カナ

カナ+○+「ロ」/「ツ」+カナ

第1字が「半濁音/濁音」,第2字が「〇」,第2〜3字が「数字+ン」の3パターンに加えて4字コードを示す「カ」「ソ」「ワ」「ー」「ロ」「ツ」を手がかりにコード語の切れ目を特定することになるが,かなり習熟が必要だったのではないかと思われる(下記の例参照).

配列は主に「片仮名順」(アイウエオ順)だが,ラリルレロワヰヱヲンは「諸所に分布」していて受信時には巻末の索引を使うようになっている.

なお,値段・数量・商品等は平文にするか,特別暗号を使うものとし,収録していない(p.7,8等).

たとえば次のような例文は,「発音なき半濁音」や〇を手がかりにコード語と平文の単語に分割できて,下のようになる.

シ゜カコオクリシ〇ゼコノチン〇ロ子ン゜ワフヰ゜五ヨ〇ト
シ゜カコ品非常ニ少イ(p.107)
オクリ送リ(平文)
シ〇ゼシタカセヌナラ早クセヨ(p.110)
コノチコノチ(平文)
ン〇ロ子降霜ノタメ(p.98)
ン゜ワフ作物被害多イ(p.100)
ヰ゜五明後日午前五時(第一部p.2)
ヨ〇ト我コノ地立ツ(p.319)

応用として,コード語をローマ字表記して外国に送信することもできる.その場合,濁点はb,半濁点はpとすることを提案している.(「ア゜ト」はaptoとなり,「マ゛キ」はmabkiとなる.そもそも「発音なき」濁音・半濁音なのでそのままではローマ字にしようがない.)(p.10)

ローマ字表記より「一層正確なるコード語を得んと欲せば」,カナの代わりにページ数の3桁数字と行数の2桁数字を組み合わせて5桁数字をつくり,それを二つ組み合わせて10桁数字とし,さらにチェック文字1〜2字を付加することも提案している.(p.10)

また,4字コードの濁点・半濁点を省略して3字コードとしてもよいようになっている.(ただし,その場合は「混用」ではなくなるので,平文や他のコードブックと併用するときには括弧が必要になる.)(p.13)

さらに,「一層正確なる暗号となさんとするときは」4字コードの濁点・半濁点は省略し,3字コードは頭字の濁点・半濁点を除いた上で,濁点を除いた箇所では頭字を繰り返し,半濁点を除いた箇所ではアイウエオ順で頭字の次のカナを加え,〇は頭字の次の次のカナで置き換える(たとえば「ア〇ア」は頭字「ア」の次の次が「ウ」なので「アウア」となる),という込み入った「符号変換法」も提案している.(p.13)



同じ著者による『特別私用暗号 : 混用電信暗号併用』(1910)(国会図書館所蔵)が翌年に出版されている.上記の『混用暗号』は平文と区別できるよう特別な形のコード語を用いていたため,そのような特別な形をしていない別のコードと併用することもできる(平文との併用はできなくなるが).本書はそのような,『混用暗号』と併用するためのコードブックである.

カナ3字コード.コード語は原則としてアイウエオ順だが,平文は「定期株又は会社」「公債債権」などに分類して収録.

カナのあらゆる組み合わせを機械的に割り当てていくコードブックが多いなか,本書は「誤字発見」のために一定の配慮をしている.たとえば3字のうちの2字が決まれば残りの1字は5字程度に限定されるようになっており,「正誤表」や文脈から候補を絞ることができるようになっている.また,片仮名配列についても「相互に誤り難きモールス記号」に配慮しているというが,その効果のほどはよくわからない.

たとえば冒頭の項目は「東京鉄道」であるが,株なら「アエラ」,現物なら「アエア」,当期なら「アエサ」,中期なら「アエニ」,先期なら「アエマ」と五段でコードが示されている.「アエ」で始まるコード語はこのほかにはないようであるが,「直段相場」の欄の直段にはこれらとバッティングするコードがある.

また,外国電報に関し,「本書符号は混用電信暗号の符号とともにこれを五位の数字になしニ符号を併せ十位の数字となしサイファー一語をもって外国電報に利用するを得」と述べている.たとえば上記の「東京鉄道」の場合,そのページには50...という数字があり,株,現物,当期,中期,先期の各段に0, 1, 2, 3, 4の数字が振ってあり,「東京鉄道」の行は01なので,「東京鉄道新株先期」なら50402という数字で表わせるのである.


鉄道講習会編輯部(編)『鉄道現業員必携』(明治45年)(1912)

近代デジタルライブラリー

「院用電報略号」と称して「一等乗客 イカク」「一等乗車切符 イフダ」などをイロハ順に列記している(p.312-324).コードというよりは原語の音または意味を残した「略号」である.

佐藤総之助『電報略符案内集』(大正6年)(1917)

近代デジタルライブラリー

「電報暗号は相互の手数を要すること多く却って時間を浪費するのみならずその料金も比較的低廉ならざるの憾みあり」として符号と番号を併用する簡単な方式を考案したとしている.

具体的には,4000余りの短文を旅行,出産,学生,商取引等の項目に分けてカナ3字(濁点・半濁点なし)と数字の両方で表わすようにしてあり(「電報見タ直ク帰途ニ着ク……リイウ 二四」など),一方に誤りがあっても他方で用を足せるようにしてある.字数は増えてしまうが,完全な文の形で登録されているので,収録されている範囲内であれば最低料金で送信できる.


寺田茂照『〒式 電信暗号』(大正7年)(1918)

近代デジタルライブラリー

3字コードで,数字または濁音・半濁音からなる「冠符」+カタカナ(「五十音順」)の「音符」からなる.冠符が数字一〜〇の場合は音符はカタカナ2字,冠符が数字一〇〜九九の場合は音符はカタカナ1字,冠符が濁音・半濁音(ガ〜ボ)(電信では2字扱い)の場合は音符はカタカナ1字となっている.

対応する平文はイロハ順に割り当てられており,一般語に続いて「官衙道府県庁市区」「銀行会社,新聞紙」「国名」「地名」「洋海」「軍艦」「船名」「商品」「欧字」「年月日」「時刻」「金額」「重量」「斗量容積」「距離面積」「雑数」「計数」「整数」「小数」「整数と小数」「分数」「人名」の区分がある.「欧字」の部ではA,B,C…を「九九ア」「九九イ」「九九ウ」などと表わすようになっている.

なお,「同一冠符に属する暗号を連記する場合には初語のみ冠符を付し次語以下はこれを略す」ことができるとしている.だから「午後八時四○分」は「午後(ギミ)」「八時(ギク)」「四○(ギヘ)」なので,冠符を共通にして「ギミクヘ」の4字で表わせる.


『王暗』(王子製紙暗号符)(大正8年)(1919)

『王子製紙社史 第四巻』p.380-385によれば,小規模の暗号簿を使っていた王子製紙 (Wikipedia) は,1915年に買収した樺太三井紙料会社から来た文書課員・工藤隼人を中心として1918年から改訂編纂に取りかかり,1919年に「王暗」が完成した.カナ3字からなるもので(「テテチ 電信を見た」),p.382にページ写真が掲載されている(小さくて見にくいが,縦組み・4段で,下記の日本郵船株式会社(編)『電信暗号』(1922)に似ている).

なお,同書によると工藤はこの仕事が終わると同時に会社を辞めて外務省電信課の電信官となったという.一方,1922年には下記の『日本電信暗号』を刊行しており,この道の専門家となっていたようだ.JACAR B13091484900等によれば1925年には叙勲されている.

社史では,「三字で出来ているので,その内一字が間違って着電しても大体の意味は判読することができた」ということだが,『日本電信暗号』でも特に二字差のような配慮はされていないので,おそらく1字誤りがあってもコード語の2/3はわかるという程度の意味だろう.

「王暗」は,その後も何度もの追補を経て戦後の三社分割(1949)まで使用された.(p.385でいう1911年8月の第一回改訂は小規模な暗号簿の時代のものであろう.1918年11月の第二回の改訂が上記の「王暗」編纂に当たるのだろう.さらに1932年12月に第三回改訂が行なわれたとある.)

「王暗」では数字などを暗号化するための1904年5月以来の符牒(「特別数字暗号」)が採用されていた.これは括弧内に入れて使うものと規定されていた.

一二三四五六七八九十百千万円銭厘毛听号石本
セイシノハンロヲチキユウニアマネクスルカミ(製紙の販路を地球にあまねくする紙)

「王暗」は単に電報料金節約のためではなく,秘密にすべきものであったらしく,朝鮮で紛失があったときには朝鮮と本社間の電報では三字暗号を逆さにして使うことにしたという.

なお,本社‐工場・出張所間一般用の「王暗」のほか,王子製紙では次の暗号も使われていたという.

二字暗号(本社販売課‐工場間の製品積出し専用)

外務省‐満州支部森林関係特別暗号(森恪 (Wikipedia) ‐飯田邦彦間)

ウラジオストック‐東京間のロシア語暗号([磐城セメントの]高木百行専用)

三井物産暗号(主に三井物産海外支店と王子本社販売課間専用)

他にABCやベントレーといった英米で一般的なコードブックも使われた.

小泉澄『鉄材要覧』(大正9年)(1920)

近代デジタルライブラリー

技術ハンドブック(英文名称Koizumi's Handbook for Iron Dealers)であるが,電信暗号も載せ,「書中載するところの電信暗号は一家一商店の専用にあらずして本書を携帯さるる各商家の間に相互に適用さるるを得」とある.

物品名称はカタカナ3字コード,通用語は濁音(電信では2字扱い)+1字の2字コード.

物品名称用のコードはハンドブック全体のデータ表に記載されており,イロハ順が基準になっているようだが,詳細な配列順は不詳.これで解読できたのかどうか心もとない.

一般語については巻末に「TELEGRAPHIC CODE 電信暗号」p.119-137,「TELEGRAPHIC CODE FOR NUMBERS 数字暗号」(p.138-139)としてまとめられている.濁音は五十音順,他のカタカナはイロハ順.「数字暗号」は2字コードを使って「ビイ 1」「ビロ 2」「ビハ 3」などを割り当てている.対応する平文もイロハ順.


塚原隆『帝国電信略語』(大正10年)(1921)

近代デジタルライブラリー

「月日符号」はカナ2字(「イイ 一月」「イロ 一月一日」「イハ 一月二日」…「ニイ 二月」「ニロ 二月一日」…)

本体の「電文略語」はカナ3字.イロハ順.1字目が平文の1字目と一致するようになっている.


大正末・昭和初期(1922-1936)

1922年ごろから濁点を使わないカナ・コードが主流となり,近代的な体裁のコードブックが増えていくように思われる.

日本郵船株式会社(編)『電信暗号』(大正11年)(1922)

近代デジタルライブラリー

明治18年に会社創立当時に郵便汽船三菱会社より引き継いだものが初版で,明治23年再版,明治30年三版,明治44年四版と版を重ね,増補改訂を加えて本書(5版)となった

カナ3字コード(イロハ順)だが,コード語の第1字と平文の第1字を一致させるようにしているので,語数の多い字母では数字を使ったり,語数の少ない「ル」の部のコードを使ったりしている.「ン」の部は日,月,時,分,数位,数量,金額を表わすなどしている.平文の配列は「比較的頻繁に使用せらるる語を先とし以下順次これに従い,同一頭字の訳語多き箇所は大体イロハ順に従いたれども,これに拠らざる方索語に便なる場合には適宜これを排列せり」という.


上記のカナ・コードは国内用の料金節減用のものだろうが,ロンドン支店との間で暗号通信も行なわれていた.アジア歴史資料センターのレファレンスコードB13080287200では,日露戦争勃発直前の1904年1月に本店からロンドン支店に発した暗号電信が上海支店に持ち込まれ,解読を依頼されたという事件が報告されている.

工藤隼人『日本電信暗号』(日本電信暗号社発行)(大正11年)(1922)

近代デジタルライブラリー

著者は欧米ではABC Code, Bentley's Code, Lieber's Code, Western Union Codeといったコードブックが広く使われているが,日本ではこの種の書で広く使われていることがないことを指摘している.

「著者は実業界にありて通信事務を司掌せるのみならず公私のために電信暗号作成を主宰すること前後八年有余」としてその間の経験を生かして本書の編纂に臨んだという.

3字コードで,カタカナ(イロハ順,「ヱ」を除く)と数字・記号(一〜〇ヽ;「ニ」を除く)を使っている.コードの第1字と平文の第1字を一致させている.このため「シ」の部ではコード語が足りなくなって,「シイイ〜シーヽ」のほか「四イイ〜四六ハ」も割り当てている.後半では「特殊用語」として「地名」「会社名」「銀行名」「人名」「船名」「艦名」(以上第1字はラ行)「商品名」(第1字は普通の用語の冠字に使用しない「ヰ」「オ」)「数字類」「秒」「分」「時間」「度」「月日」「年」「予名数」「貨幣」(以上第1字は一三五六七〇)がある.第1字が九のものは空欄.

当時欧米で使われていた英字5字からなる「欧文暗号」も併記されている.当時国際電信規則が一語の文字数を10文字までとしていたため,2語つなげて10字のコード語として送信することで費用を節約することができる.

ただし,せっかく欧米のコードブックを模範にしたようなのに,どの二つのコード語を取っても少なくとも2文字は異なっているという「二字差」の原則は取り入れられておらず,「abaab」「abaac」「abaaf」など1字しか違わないコード語が多数ある.


一柳靖三『電信暗号』(昭和4年)(1929)

国会図書館所蔵.

自家用のものとして作ったところ漸次友人らに求められて公開していき出版に至ったという.

カナおよび数字の2字コード(イロハ順).ただし,ヱ・ニ・三・八・十はコード語(「暗号」)には使っていない(「十」は和文モールスにないのだから言わずもがなだが).「イ」「ロ」などに濁音を付したものも使っている.

数量・時令・銀行会社名・商品・新聞・地名は巻末にまとめてある.


中山久美『実用電報略号』(昭和5年)(1930)

国会図書館所蔵.

1921年の時点で逓信次官に序文まで書いてもらっていたが,1923年に製版中,関東大震災でほとんど全部を失い,再作成するはめになったといういわくつきのコードブック.電報は便利ながらも,「電報料の嵩むこと」「秘密の隠せぬこと」を「苦痛」として挙げ,秘密の電報を郵便局員が商売敵に漏洩した事件の報道(大阪朝日新聞・昭和5.6.20)などを引用している.

カナ・数字の3字コード(イロハ順).コード語(「符字」)の第1字の「ヰ・オ」は地名,「ン」は品名,「〇」は船名,「一」は姓氏,「ニ」は会社名,「三」は金額,「四・八」は数量,「九」は雑となっている.「ヱ」は不使用.

平文もイロハ順で,コードの第1字と平文の頭音を一致させるようにしている.ただし,「四」「七」で始まる語句はその読みによらず「ヨ」「ナ」の部に配列するなどの例外はある.各段に第1字・第2字が同じコード語(「イニロ」「イニハ」…「イニン」など)を配列して検索の便を図っている.

外国への電報では,カナのコード語(「和文符字」)を英字に直して10字を1語として発信するものとしている.テ(ME)ク(CA)カ(IF) 三(SU)ン(YO)ア(PE)のように和文1字をローマ字2字の音節に変換するものである.


著者はその後もコードの編纂に携わり,『和欧商事電報暗号』(1938),『日本通商暗号』(1950),『商事電報略号 : 自査式二字制』(1952)も出している.1952年の略歴によれば,「三井物産,大連汽船在勤中電報通信につき実地に研究数十年,その後商社経営の傍ら通信関係に次の著書あり」として上記の暗号書を紹介している.

日本旅行協会(編)『電報略号集』(昭和10年)(1935)(非売品)

近代デジタルライブラリー

日本旅行協会の本部・支部・出張所・案内所・出張員相互の間の通信用.「略号」と「符字」を併用しており,単語は音や意味の連想に基づく略号(横浜「ハマ」,氷川丸「ヒカ〇」など)で,短句・短文は純粋なコードといえる符字で表わす.

「鉄道電報用略号集」の駅名・鉄道用語を採録したほか,朝鮮鉄道・台湾鉄道・満鉄ならびに本会大連支部の略号集を参照したという.(鉄道関係の電報略号についてはWikipediaに詳しい.)

符字は「数字の五または六」+「平文の頭字のカナ」+「カナ1字(イロハ順)」の3字コード.平文の配列はイロハ順でもアイウエオ順でもなくローマ字順.そのためたとえばカ行ならカ・ケ・キ・コ・ク・拗音の順になる.(ローマ字順の配列は英語学関係などで日本語・英語が混じった索引などでもしばしば見られる.)それに関連してか,括弧類の用法などが英和辞典を思わせる.

略号は「テホア 帝国ホテル内案内所」のような三文字のものばかりでなく,「シクコシア 東京新宿三越内案内所」のように長いものもある.略号の先頭字母が変わってしまうものに限って「受信用一般用語」にまとめて検索できるようにしている.

略号・符字・平文が入り乱れた電文の例として,「作例」を転載しておく.「五ギハ 業務観察ノ為メ…ヘ出張サス」「五キソ 期間…日ヨリ…日迄」など変数(パラメータ)を取れるコード語にも着目.└について,「符字の終わりには当分の間段落を記入すること」と注記されている.(「セキヱ,サキヱ,カコヱ,トウヱカン」の箇所の構文は不詳.)

当方トホ
准職員シクイ
(山田太郎)(ヤマダタロウ)
業務観察ノ為メ五ギハ
九州,キウ,
東京トウ
ヘ出張サス
無賃乗車証三等左ノ通手配乞フ.五ムハ└
下関・長崎,セキヱ,サキヱ
下関・鹿児島,カコヱ
下関・東京トウヱ
間.カン
期間五キソ└
二十三二三,
日ヨリ
日迄
下関鮮満案内所内出張所宛五シル└
発送乞フ.ハソコ└
大連支部長.レンシチ

『塩野義電信略号帳』(塩野義商店)(昭和11年)(1936)

国会図書館所蔵.英文名称Shiono's Private Code.

塩野義商店(現塩野義製薬)のコードブック.

カナ・数字の3字コード.「一般薬品名」,「文言・辞句」「各種必要語」(運輸・外国貨幣・分数・地名・度量衡・アルハベット・年月日などに細分),「月・日・時間」「金額・数量」などに分かれている.なお,「塩野義商店専売ならびに特約新薬」「塩野義商店特約北里研究所・血清・ワクチン類」は「塩野義商店新薬価格表」に含められている.

数字はコード語(「略号」)の第1字のみに使用し(下記の〇は例外らしい),それぞれ時間(〇),月日(一・三),数量(四・五・六・七・九)に使う.(カナとまぎらわしいニ・八は使用せず.)これ以外では,第2字が分類によって振り分けている:塩野義商店専売・特約・新薬(イ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・ト・チ・リ・ヌ・ル),北里研究所・血清・ワクチン類(ン),一般薬品名(ヱ・ヒ・モ・セ・ス),文言・要語(オ・ワ・カ・ヨ),金額(〇).

時間の部は第2字がイ・オ・エ・ヰ・ヲ・ヱとなっているが,イ・オ・エは午前,ヰ・ヲ・ヱは午後を示すというように同音字を利用している.たとえば○イイなら午前1時5分,○ヰイなら午後1時5分となる.


扶桑教ひとのみち教団(編)『電報略符号』(昭和11年)(1936)

近代デジタルライブラリー

PL教団(Wikipedia)の前身のコード.

「数字+カナ2字」の3字コード(イロハ順).数字は「長文」「雑」「会計」「職名・組織」「支部」といった分類ごとに「一」「ニ」「三」「四」「五」と区別されている.後半は分類に関わりなく平文の順に並べなおしたもの(「長文」は除く).


カナによる漢字符号化の試み

コードに登録されていない語句を送信するときはもちろんカナを使うのだが,中国の地名・人名となるとそうはいかず,中国で使われている「電碼」(別稿参照)というものを使って漢字を4桁数字に直して送ることになる.

1932年に満州で日本の傀儡政権が成立すると,漢字の送信の必要はそれまで以上となった.4桁数字より効率のいい方法を研究してカナ2字で漢字1字を表わす方式が考案され(1939),電信機も試作された(1940)が,実用には至らなかった.なお,中国事情とは別に,カナ2字で漢字1字を表わすという符号化方式そのものはたとえば大阪鉄道局が実用化していた(1934).(安岡孝一・安岡素子(2006)『文字符号の歴史 欧米と日本編』p.62-66)

陸軍電信符号表

陸軍電信符号表の一連のバージョンに関する記録が防衛省防衛研究所にあり,国立公文書館のアジア歴史資料センターで閲覧できる.

本節で扱う「電信符号表」はあくまでも電報料金節約のためのもので,秘密漏洩を防ぐための暗号電信符号表ではないことは凡例でも明記されているとおりである.だが,なかなかその点が理解されなかったことをうかがわせる資料もある(C04120589300他).

1891年(明治24年)の陸軍電信用語符号表

レファレンスコード:C08070318200,C08070342500

レファレンスコード:草案(1)C06081377500(2)C06081377600

会計局と各監督部間でカナ2字による簡単な「陸軍会計部電信符号表」(C06081377500のp.6)(カナ2字で語句を表わす;アイウエオ順;約120語)が使われていたが,広く用語を集めた改訂版の作成に向けて1890年11月に草案を付して照会が行なわれた(同p.3).

冒頭で「本表符号は通常電信に用ゆるものなるを以て曽て定めある暗号符号表と混同する勿れ」と断っている.

カナ2字コードでイロハ順.コード語(「符号」)の頭字が原語の頭字と一致するようにしているが,語数の多い字母では他の文字も借用している.二字目では「ラ゛」など本来でないものも含め濁点も使っている.濁点を含むカナ2字コードという構成は,『いろは引電信暗号』をはじめ当時よく見られた形式である.

下記はこの符号と思われるものを使った電文の実例である(コード表では「イモ」がなく「イミ 如何取計居哉」があるので,若干バージョンが違いがあるかもしれない).

充員ノ際    現在 六週間現役兵 ハ 如何取計可候也
ジウインノサイ(ケヤ ロチ)    ハ (イモ)
明治27年6月(C06021839300)
第一号暗号電信ノ意味ハ左ノ如シ
トニ゛(当地)トチ(到着)以後テホ(電信)タヘ(多数)アホ(不明)アリトニ゛(当地)テア(電信局)ノ技手一名ニ付キ無理ナラン ユハ(故ニ)コキ(今朝)ヨリ リヘ(陸軍)技手一名トニ゛(当地)テア(電信局)ニ ハセ(派遣セリ)
明治27年7月28日(C06060811900)

他にもC05121502700,C05121504300(いずれも明治27年7月), C06061068800, C06061068900(明治28年2月),C03023066600(明治29年8月)に使用例がある.

なお,日清戦争勃発後の1894年11月に「電信用語符号表之儀は今より内地に限り使用し外征各部隊に於ては使用せしめざる」ことが通達された(C05121601100他).

1897年(明治30年)の陸軍電信符号表改正

レファレンスコード:C06082619000

言及あるが詳細不詳.

時期的にC10061517900にある1898年5月の電文がこれを使っていると思われるが,「チロ゛ 中」「ゴユ 御照会」「ノイ ノ」「イコ゜ 異存ナシ」となっている.

1901年(明治34年)の陸軍電信符号表改正

レファレンスコード:(1)C06083432300(2)C06083432400(3)C06083432500(4)C06083432600

レファレンスコード:(1)C10071478600(2)C10071478700(3)C10071478800

編纂の綱領によれば,数字を混用しないカナ2字コードを採用するが,(1)清音2字からなるもの,(2)一方が濁音または半濁音であるもの,(3)2字とも濁音または半濁音であるものを区別し,カ,シのように語数の多い部は(1)(2)(3)の3段を使い,イ,ハ,ニ,ホ,ヘ,ト,チ,リ,オ,ヨ,ク,ヤ,ケ,フ,コ,テ,サ,キ,ヒ,セには(1)(2)の2段のみ,その他は(1)のみを使うものとしている.こうして「シ゜ノ゜」のような組み合わせも新たに用いることで,収録語彙を増やしつつ符号の頭字と原語の頭字の一致を保っている.

配列はイロハ順.

1891年版と同様,冒頭で,あくまでも電報字数節減用であって,秘密のための暗号電信符号表ではないことを念を押している.

一.本表は陸軍部内に用する通常電信符号にして其の目的は電信語の数を減じ兼て費用を節減するにあり.故に暗号電信符号表とはその性質異なるものとす.

このバージョンは少なくとも1904年3月6日までの使用例が残っている(C06040572500 p.37-, C06040572600).

1904年(明治37年)の陸軍電信符号表改正

レファレンスコード:C06083915800

前年秋に各部署から寄せられた意見の中に,単純な追加・削除のほかに,「頭字の同一なるものは散在せしめず連掲して索引に便ならしむること」(p.14, p.35, p.58, p.66),改正前は最初の文字のイロハ順で区分けされているだけなので,求める語を探すために頭文字が同じ部分を全部見なければならないので,2字目以降もイロハ順にすべき(p.39, cf. p.66),「用語の列次を字数(たとえば二字の部あるいは三字の部等)により集むること」(p.49)など,コード構成に関するの意見も見えたが,採用されなかったようだ.

この改正は3月ごろ(印刷は2月)行なわれた.たとえばC07071997200にある次の電文(1904年5月5日)で使われている.それに対する返電ではアソ(暗号),トロ(共ニ),ケレ(現行),ヘミ(返電)といったコードを使っている.なお,言及されている「特号暗号」については別稿参照.

ホル(本年) コミ(五月) イヲ(一日) ヨリ(より)  ジゾ (使用) ノイ(の)  ワブン  テマ゛(電信) アソ(暗号) ハイ(は) ホル(本年) イリ(一月) シニ(十) ロロ(六) ニニ(日) ガヌ(改正)  ノイ(の) トワ゛(特号) アソ(暗号) トト(とは) マモ(全く) ヘヤ゛(別物) ナワ゛(なるや) アマ(或は)  コヘ(是) ニイ(に) ヒス(引換) ノイ(のもの)≪ノイは「の」なので「モノ」が抜けている≫  ナワ゛(なるや) ヘミ(返電) マツ

次も同様.

チコ(地形) ハイ(は) タロ(大) コボ(工事) ヲイ(を) ヨヤ(要す) トニ(所) ヲメ(多し)  ホネ(砲台) ノイ(の) モノ(目的) ハイ(は) ユア(郵便) シロ゜(書面) ニイ(に) シエ゛(詳細) シメシアルヤ
1904年8月(C06040206100)

C06040206300,C03025643600等も同様.このバージョンはさらに日露戦争中の電文がかなり残っている(別稿参照).


1913年(大正2年)の陸軍電信符号表

レファレンスコード:(1)C10073126800(2)C10073126900(3)C10073127000(4)C10073127100(5)C10073127200(6)C10073127300(7)C10073127400

濁点・半濁点も用いたカナ2字コード.原語の頭字と符号の頭字が一致するようにしているが,語数の多い4字母は他の字母も借りている.たとえば「カ」の部は「ロ゛」「ロ゜」,「コ」の部は「ヌ゛」「ヌ゜」,「キ」の部は「ラ゛」「ラ゜」,「シ」の部は「ン」「ン゛」「ン゜」も頭字に使う.

濁点・半濁点がある場合のカナ配列の原則は:イイ,イイ゛,イイ゜,イ゛イ,イ゜イ,イ゛イ゛,イ゛イ゜,イ゜イ゛,イ゜イ゜となっている.

1918年(大正7年),1919年(大正8年)に大正2年版に対して小規模な追加がされている(レファレンスコード:C02030533300,C02030907100).

1922年(大正11年)の陸軍電信符号表

レファレンスコード:C02031135500

それまでのカナ2字コード(濁点・半濁点を含む)から濁音・半濁音を用いないカナ3字コードに移行した(他の案との比較検討もp.10以下に収録).上述したように,民間でも1920年以降は濁点なしのカナ3字コードが主流となり,陸軍でもその流れに乗ったというべきだろう.

収録語を見直し,外国地名は中国・シベリアの著名なもの以外は削除し,総語数は9600余から9700余となった.助詞(てにをは)は「符号を用いざることとして省く」とされた.

翌1923年に小改正あり(レファレンスコード:C02030554900,C02031135700).

1927年(昭和2年)の陸軍電信符号表改正

レファレンスコード:C01001009400

イロハ順からアイウエオ順に移行した.アイウエオ順は民間に先例がないわけではないが,民間で主流になるのは1930年代後半以降であり,陸軍での採用は早いほうだったといえるだろう.

一.現行電信符号表は大正十二年六月補修訂正をなせるもその後諸制度の改変等により用語の修正追加を要するもの多々あり.
ニ.現行電信符号表は符号の配列適当ならざるため電報翻訳に際しすこぶる暇取り殊に用語多き(例之,「シ」の部)部は常に索出の困難を感ずること切なり.

濁音・半濁音を用いないカナ3字コードという基本構成は変えずに,「従来のイロハ順を廃し一般索引用たるアイウエオ順に改む(提出意見中此の要求多し)」とともに,「符号の配列は従来の幣を除き翻訳に当たりて索出最も便なるよう配慮す」という.

1935年(昭和10年)の陸軍電信符号表改正

レファレンスコード:C01001412700 (この資料は改正へ向けた各部隊等からの意見を集めたものらしい.p.86で秘密通信にあらざることを強調すべきとの意見もある.)

一.現行電信符号表は昭和二年六月改編のものにしてその後編成の改正,新兵器被服の制定等諸制度の変革著しきにも拘らず用語の加除訂正なきため之が整理補修を要するもの少なからず
ニ.従来の符号表は電文組立に当たり捜字に不便なる為十分使用せられざる感あり.また翻訳に関しても多少改善の要ありしを以って本改正は左の諸点を顧慮して編纂せり

改正点として,原語の頭字・第二字をほぼ「五十音字順」に整理.

カナ3字コード(「アアア」「カイイ」のような同音が連続するものは含まず).符号中同じカナが連続するものは,従来は3連のもののみ不使用としたが,2連のものも不使用とした.

平文もコードも五十音順.ノ,ワ,ヰ,ヱ,ヲは3字コードには不使用で,てにをはの「の」「は」「に」「と」「を」を表わす1字コードとする.

原語の頭字とコード(「符号」)の頭字は同じになるようにしてあるが,原語が「の」「わ」で始まる場合はそれらの文字が不使用なので,直前の「ネ」「ロ」に配してある.

前回は1700部印刷して200を予備としたが,500部増刷せざるを得なくなり,それでも不足の状況だったことに鑑み,3000印刷して1000を官房保管とする.

1939年(昭和14年)の陸軍電信符号表

レファレンスコード:C01005098700

カナ3字コード(「アアア」「カイイ」のような同音が連続するものは含まず).平文もコードも五十音順.ノ,ワ,ヰ,ヱ,ヲは3字コードには不使用で,それぞれてにをはの「の」「は」「に」「と」「を」を表わす1字コードとする.

原語の頭字とコード(「符号」)の頭字は同じになるようにしてあるが,原語が「の」「わ」で始まる場合はそれらの文字が不使用なので,直前の「ネ」「ロ」に配してある.

「認可せらる」「認可せられず」が「ニオハ」「ニオヘ」のように似たコードになるので,否定の場合にはそのあとに濁点を付すものとされた.

重要な数字には( )内に注記するものとされた.注記は「ヒフミヨイムナヤコレ」をもって「一二三四五六七八九〇」の代わりとするもので,たとえば三七五という数字のあとにミナイを注記する.

第二次大戦前後(1938-1952)

1938年ごろから海外電信用に英字コードを付記したものが多くなる(それまでも工藤(1922)のような早期の例もあったが).

細田商店『電報暗号』(昭和13年)(1938)

近代デジタルライブラリー

明治37〜38年ごろ前社長が暗号書を作成し,正副二部作成して京都本店と東京店に常備したものを最初.破損はなはだしきところ大正2年ごろ複写してかろうじて使ってきたが,関東大震災で東京店のものが失われ,本店の一部のみとなってしまい,電報暗文が使えなくなり不便を忍んできたが,ここに再刊を期したという.

社の営業専用のもので,カナ2字のコード.イロハ順だが「ヲ」と「オ」が逆になっている.

各コード語に対して原語が四段記載されており,受信側は四つの中から文脈上適切なものを選び出さなければならない.巻頭でも注意を促している.

暗文作成に当たりこの点に留意を要します.なるべく誤解の生じない句を求むべきでありますが,間違いを防ぐためにはその暗文の上に一段なれば(一),二段なれば(ニ)を附することも一方法でありますが,かくてはいたずらに字数を増すこととなりますから,努めて読解しやすき暗文を選むべきであります.また,一応作成した暗文を四段の句に照らして誤解を生ぜざるや否やを篤と吟味せねばなりませぬ.

大日本麦酒株式会社『電信略語』(昭和13年)(1938)

近代デジタルライブラリー

横組み.アイウエオ順.(平文は,同じ先頭字母の場合はカナ→漢字(画数順).)

カナ3字コードで,コード語の第1字が平文の第1音に一致する(「シ」「ジ」の部分は「ン」で始まるものも使用).

地名・人名・品名・金額・数量・日付などの付録はこれに限らない.


「和文電報の通ぜざる地又は特に欧文を必要とするときは和字略語を欧文略語表〔ローマ字表〕によりて英字に翻訳,五字を一語として発信し,受信の際には逆に行うものとす.」とある.

中山久美『和欧商事電報暗号』(昭和13年)(1938)

国会図書館所蔵.英文名称Japanese Commercial Code for International Use.1942年の第4版もある(前書きは1938年のまま).

上記の『実用電報略号』(1930)が「各会社銀行に競って利用され,発行後数年にして頒布数一万数千を算するを得た」ものの「歳月の経過と急激なる社会情勢の進展変遷は同書をして往々現実に即せざるものを生ぜしめ,その改訂を希望し来られる向多く,一方では海外貿易旺盛の今日外電用邦文コードの必要が愈々緊迫を加えてきました」ことで,約三万の用語を増補し,内容も改新したという.

内容は,「四」「七」で始まる語句はその読みによらず「ヨ」「ナ」の部に配列する,各段に第1字・第2字が同じコード語を配列して検索の便を図るなど『実用』を踏襲した点もあるものの,全面的に刷新されている.

まず,カナ・数字の3字コードに加えて欧米で主流の英字5字コードを併記し,和文コードにアイウエオ順を採用することで根本的に異なる構成となっている.

普通語辞を収録した第一部に対し,第二部は特殊語辞として,「電信関係語」(「…日付弊電参照」など),「出状関係語」,「来状関係語」,「日時」,「着発」,「月日関係語」,「各月関係語」,「割合関係語」,「和洋度」,「分数」,「数量」,「数,数量」,「数と番号」,「数」,「小金額」,「円と弗」,「スターリング」,「ルーピース」,「色別及商標」,「事務管掌関係語」,「官庁及関係語」,「日満地名」,「支那地名」,「外国地名」,「姓」,「品名」,「アルファベット及同綴字」,「機械及関係装置」,「会社名」,「船名」に分けて収録している.

和文コードは二字差の概念は採用していないが,英字コードでは二字差を取り入れており,巻末に欧米のコードによく見られる検誤表(mutilation table)が収録されている.


北海道信用購買販売組合聯合会『北聯電信略号』(昭和15年)(1940)

国会図書館所蔵.

農業組合,北連(現ホクレン)によるカナ・数字の3字コード.平文は一般語を収録した第一部はイロハ順で,コード語(「略符号」「略号」)の第1字と平文の頭音を一致させるようにしている.第二部は「電信関係語」(「…日付弊電参照」など),「来状関係語」,「出状関係語」,「日時」,「着発」,「月日関係語」,「各月関係語」,「船名」,「品目」,「地名」,「分数」,「割分厘毛」,「小金額」,「数量」,「事務分掌並系統機関その他関係語」に分けて収録しており,「割分厘毛」に「一」で始まるコード語,「数量」に「四〜九」で始まるもの,「事務分掌並系統機関その他関係語」に「〇」で始まるものを割り当てるほかは第一部で余ったコード語を使っている.たとえば,第一部の「リの部」の最後のコード語が「リナン」なので,第ニ部の「電信関係語」は「リラロ」「リラハ」…で始まっている.

「緒言」で「電信料の嵩むこと」と「秘密を要する場合多分に支障があること」を「苦痛」として挙げる点や第二部の構成は,中山『和欧商事電報暗号』(1938)や中山『実用電報略号』(1930)を参照したふしがある.


市田昇三郎『商和電信暗号』(昭和15年8月)(1940)

国会図書館サーチ)英文名称Ichida's Japanese Trade Code.発売元は神戸のスコフィールド商会.Richard Schofield(リチャード・スコフィールド)は少なくとも1914年から1936年にかけて神戸で多数の英文コードブックを出版した人物である(別稿(英文)参照).以下の内容は翌年出版された『商和電信暗号 改訂版』(Ichida's Improved Japanese Trade Code)(1941)(国会図書館所蔵)に基づく.

大東亜共栄圏内における我が国の貿易は今後益々振興の機運あるのとき,貿易業者専用の使いやすく経済的なる和文暗号書の必要は愈々増加さるるに至れり.この必要に応じここに貿易界専用の暗号書を公刊せる次第なり.本書は第一般商和電信暗号の改訂版として暗号ならびに語句に大改新を加え特に語句に関しては複雑なる最近経済界に適応せる商取引用語を豊富に追加補充し内外電に併用し得るよう編纂せり.

カナ3字コード(アイウエオ順)と外電用の英字3字コードを併記.英字コードは当時5字コードが主流だったが,1930年代にはSchofieldも含め若干のコード編纂者により3字コードが採用されていた.平文の日本語はローマ字順.

末尾の「船名」「品名」の部は「氷川丸 bpl 20 ラテス」(20は後述の照査数)のように,英字のコード語が足りなくなって小文字で表記されている.もちろんモールス符号では大文字・小文字の別はないので,欧文暗号の場合のみ必ず「ZZH 次の1個の暗号は品名より読め」などの指示語を用いるものとしている.

各コード語(「暗号」)には「照査数」という1〜26の番号が割り当てられており,これを誤り検査に使えるようになっている.3つのコード語の照査数を合計した数字を表により文字に変換し(欧文なら英字,和文なら数字または「ク」「チ」「ツ」など所定のカナ),それを「照査(チェック)字」としてコード語に付けるのである.欧文の場合,3字コード語×3+照査字1でちょうどコード語の上限の10字になる.和文の場合は照査字の使用は任意で,またチェック対象のコード語も4つ以上でもよいとしている(その場合,照査数の合計の下2桁のみを用いる).また,和文の照査字として使う「ク」「チ」「ツ」などは普通の「暗号文字」としては使っていないので,区別できるようになっている.

伝送誤りが生じた際に使う「検誤表」が収録されている.「和文暗号検誤表」は,3字コード語のうち最初の二字と照査数を指定すると第3字が特定できるようになっている表で,これを応用すれば第1〜3字のそれぞれが間違っていると仮定した場合の正しいコード語をそれぞれ特定できるので,あとは文脈などから一つに絞り込めばよい.(なお,送信されるのは3つのコード語の照査数の和であるが,2つのコード語が正しく1つのコード語が誤っている場合,2つのコード語の照査数はわかるので,送られてきた和から引くことにより,誤っているコード語の照査数は特定できる.)

「欧文暗号検誤表」も上記と同様.中山久美『和欧商事電報暗号』(1938)が採用したような,5字コード用の検誤表とは構成が異なる.


『食肉配給統制に就て』(帝国畜産会)(昭和16年)(1941)

近代デジタルライブラリー

p.49-57に「食肉統制事務用電報略号」と題して「農林省 農政局長 ノノア」「同 食品局長 ノシア」「承諾せよ タセ」など若干の略語が掲載されている.

無線電信講習所(編)『無線通信業務用語集』(昭和18年)(1943)

近代デジタルライブラリー

電気通信大学の前身による「無線通信実践の教授上の参考書」であるが,略符号やその使用文例もいろいろ収録している.

日本窒素肥料株式会社『日本窒素電報暗号帳』(昭和16年)(1941)

近代デジタルライブラリー

チッソ株式会社の前身によるコード.社外秘とされており,冒頭で「本書保管の係は必ず本書扉所定欄に係名を記入,責任者はこれに捺印し,当該係は本書の保管に関しては絶対の責任を負わなければならない」と注意している.

横組みで,3字コード.まずカナのみのものを五十音順に配列し,次に「数字+カナ2字」「カナ+数字+カナ」,その次に「ワ+カナ+数字」(末尾の「当社商標」のみ)の形のものを配列している.最後に「ヰ」「ヲ」「ン」+「数字+カナ」または「カナ+数字」のコード語を掲載して追加用としているが,追加の場合には必ず庶務部に申し出てその指示に従うものとしている.「ニ」(カナ)と「二」(漢数字)などに注意を促しているが,使用を避けてはいない.

全体構成は次のとおり.

第一部 普通語
第二部 数字関係語(「1,000,000,000」までの数字(うち1000までは1刻み),小数なども含む)
第三部 固有名詞
第四部 当社関係(宛名や電報発信略号に使う「職制及事業所名」(p.479),「発信符号」(p.515)を含む.)
第五部 物品名(「当社商標」を含む)

巻末に「正誤検出表」がある.各原字に対して,「書体上誤り易き字」「電信符号上誤り易き字」を列記したものである.


日本電信略語書編纂委員会『日本電信略語書』(昭和18年)(1943)

近代デジタルライブラリー

国際電信用に英国のBentley's Second Phrase Code,米国のAcme Codeに匹敵するものが日本にないので,「遺憾ながら敵性英米略語書に依存するほかなき情勢」だったが,太平洋戦争勃発を期に本書の編纂が進められたという.

内容は第一章(一般用語・数・数量・金額等)が約70,000語,第二章(各種商品)が約24,000語,第三章(固有名詞)が約6,000語となっている.記号は5桁数字,5文字英字,カタカナ4文字の三種を併記している.送信ミスを発見しやすい二字差の概念を採用(「二字違い自検誤式」).さらに文字の換置による欠点やモールス符号により生じる欠点を除去するよう努めた.巻末には「検字表」を収録〔見当たらず〕.


林篤信『安全電信暗号』(丸善)(昭和19年)(1944)

国会図書館所蔵.

『電信イロハ暗号』の版元の丸善が1935年末ごろ編者に新暗号書の編纂を委嘱してから十年近い年月を経て刊行された本書は,編者が1906年の『イロハ』以来我が国のカナ暗号になんらの進歩もなかったと断言するだけあって,二字差を取り入れるなど一躍近代的なコードとなった.本書の「安全」というのはそのような通信エラーに対する安全性を強調したものである.(ただし,二字差・検誤表の採用や英字5文字コードの併記といった点は前年の『日本電信略語書』(1943)に先を越されている.)

本書の動機の一つは,従来はカナ電報は日本国内に限られていたが,「近年は満州国,中華民国との和文電報は頻繁となり,ことに現在はフィリッピン,ジャワをはじめ,ビルマに至るまで,広域な大東亜共栄圏の全部に広がりつつある」という事情があった.アジア諸国でも使わせるためや,カナタイプでの利便も考えて,平文を漢字仮名混じりではなくカタカナ表記している.(国語辞典のように括弧内に漢字表記を示している.)

内容は87,841の基本的な語句(アイウエオ順),約7000の固有名詞,補充用の5000項目で計10万.記号は5桁数字,5文字英字,カタカナ4文字の三種を併記しているが,数字・英字については各欄で共通する最初の2字はページの上部に太字で示して,各語句のところには下3字のみ記している.なお,カナは数字の「0」「1」「2」を含めて49字にしている.一方,カナタイプでの便宜を考えて「ヰ」と「ヱ」は使っていないので,必要ならば「1」を「ヰ」,「2」を「ヱ」としてもよいとしている(p.5).

送信ミスを発見しやすい二字差の概念を採用(「2文字違い」).さらに隣り合った文字または一つおきの文字の入れ換えによるエラーを防止する「転置防ぎ」も採用し,「ここにはじめてカナの暗号書が世界水準に達した」と豪語している.巻末にはカナ用とローマ字用両方の検誤表(「暗号分解表」)を収録.

二字差の概念はコード編纂者の間で「1文字を犠牲にする」という表現で知られていたように,4文字コードであればその1文字をエラーチェック用に供することに相当する.たとえば最初の3文字が決まれば4文字目は自由に選ぶことはできず一意に決まってしまい,コード語の数に貢献しない冗長な文字となるのである(4文字目に2通りあったとすると,それらのコード語は「二字差」にならない).このことを利用して,カナ・コードの字数を削減したければ3個の4字コード語の第4字をそれぞれ省き,省いた3つの第4字をコード語の最初の3字と見立てた場合の第4字を「カナ暗号分解表」によって求めてこれを付加することによって12字を10字に節約する「省略法」も紹介している(p.3).これはチェック文字を3つのコードで共用することに相当する.このように,4字コードの末字をチェック数字と捉えている点が興味深い.(3つの3字コードのチェック文字3つをコード語と見立ててチェック文字を求める点は,欧文コードのYamaguchi, Oriental Improved Code (1937)でも用いられている.)

さらに,カナ暗号分解表を使えば『電信イロハ暗号』などの既存の3字コードのコード語にチェック文字を付加して安全式にすることも提案している(p.10).


『人事院電報略号表. 昭和24年5月開始』(1949)

国会図書館所蔵.

『調達庁電報略語集』(1960)

国会図書館所蔵.

中山久美『日本通商暗号』(1950)

国会図書館所蔵.英文名称Japanese Trade Code for Universal Use.

『実用電報略号』(1930),『和欧商事電報暗号』(1938)に次ぐ著者三冊目のコードブックである.

[日本ではもともと外国に比べ暗号書が少なかったが]それすら戦禍に焼き尽くされ加うるに戦後相つぐ電報料金の高騰に対処する良途なきため,業界では暗号書の出版が待望せられておりますので,不才はからずもここに第三回の稿を草するに至った次第であります.

当用漢字・ひらがなの使用により,一見して現代風の版面になった.

普通語辞(章句・単語など),特殊語辞(第1表〜第11表)に分かれており,普通語辞はアイウエオ順(「五十音順」)だが,平文は仮名→漢字の順に配列している.符語と平文の頭音は同じにしている.

コード語(「符語」)はカナ3字からなる.「あ」〜「と」の部では第2字が「ト」から始まっているが,これは「第ニ符字の配置を偏在せしめないため」とのこと.

前作に続いて欧文符語も併記しているが,前回の5字コードから3字コードに切り換えた.「三字制欧符語は五字制に比し優に三割以上の信費が経済化される上,合理的な検誤も可能であります」と説明している.欧文3字コードの多くと同様,3つのコード語にチェック文字(「査字」)1字を加えて10文字にする.なお,欧文コードのみ,『和欧』のコードと併用できる.

チェック法としては,欧文符語には「査数」0〜25が付してあり,3つのコード語の査数の合計を表によってA-Zの文字に割り当てたものがチェック文字となる.上記の市田昇三郎『商和電信暗号 改訂版』(1941)と同様の,3字コード語のうち最初の二字と「査数」を指定すると第3字が特定できるようになっている欧文電報検誤表を掲載している.


中山久美『商事電報略号 : 自査式二字制』(1952)

国会図書館所蔵.

カナ・コードは3字式になって久しいが,本書ではあえて2字コードを採用している.往年のカナ2字コードと同様,第1字は濁音・半濁音(本来濁音が付かない文字にも付ける)も含む.2字では「語量に狭き制約」があることは認識しつつ,その理由を次のように説明している.

元来通信費の経済化という大生命線からいえば,二字制(清音)が絶対的に強力で,他のいかなる組織も追従を許しません,且つ取り扱いが簡便,検誤の手数も容易であります.

「前篇」はA〜Nの分野ごとに語句を収録し,「後篇」を「O, 一般用語」に当てている.

そしてタイトルにもあるように「照査式(self-checking)」を「案出」して採用している.巻末の「自査式二字制 商事電報略号検誤表」は2字コードの第1字,第2字をそれぞれ横軸,縦軸にとってあらゆる組み合わせを示した表で,各行に0〜46の「査数」(チェック数字)を割り当てている.コード本体では各コード語にその査数が付記されているのである.用法は3字コードの市田(1938)や中山(1950)と同様で,コード語3つごとに査数の和に応じた「検字」を送ることになっており,受信側では査数を手がかりに検誤表を使って誤りを訂正する.なお,検誤表のカナは清音のみだが,誤り検査に関してはコード語の濁点・半濁点は無視することになっている.


欧米式のコード

日本に電信が導入されてから比較的すぐに海外との電信も可能になった.1871年(明治4年)には長崎‐上海間,次いで長崎‐ウラジオストック間での海底ケーブル敷設により,インド洋経由およびシベリア経由で欧米との通信の道が開け,1873年(明治6年)に東京・長崎間の回線が開通すると東京から海外との交信が可能になった(Wikipedia, NTT東日本「黒船とともに"電信"は日本へとやってきた」, 海底ケーブル歴史紹介, 三上喜貴(2002)『文字符号の歴史 アジア編』p.93)

海外との平文通信

海外との通信にカナは使えず,英字を使う必要がある.日本語であればローマ字に直して送ることになるが,その際の規則は国際電信規則の「平文の1語は最大15字」,「コード(隠語)の1語は最大10字」,「サイファー(秘辞)は5字ごとに1語と数える」のうち平文の規定に従ったものになっている.ローマ字書きした平文の日本語は,15字を超えて連記してはならず,また一語の中間で分割することも許されなかった.なお,日本語の文法では助詞も「語」であるが,名称を示す語は付属する助字とともに字数の多少にかかわらず1個を一続きに記載できるとされた(一続きに書いてもいいというだけで,Nihonyusenkaishaのように15字を超えれば2語として計算される).(土屋『混用電信暗号』(1909)p.29,日本旅行協会『電報略号集』(1935)p.136-137)

欧米のコードの利用

上記で紹介した電信コードでは,欧米のコードにならったことをうたうものも含め,1938年ごろまではほとんどが国内用の和文コードである.海外との通信には,欧米で出版されたコードをそのまま使うことも多かった (中川静『信書精鑒』(1916)p.722, 『日本電信略語書』(1943),商工会議所, Merchants and manufacturers of Tokio & vicinity (1922) (Internet Archive)他)

1935年の時点で日本無線電信株式会社(Wikipedia)の本支店に備え付けられていたコードブックは次のとおりである (日本旅行協会『電報略号集』(1935)p.143).(個々のコードについては別稿(英文)参照.)

ABC (Fifth Edition Improved; Sixth Edition)

Acme Code

Bentley's Code (新旧)

Commercial Telegraph and Cable Code

Duo Code

Lieber's latest Code

Marconi International Code

Paramount Simple Check Three Letter Code

Rudolf Mosse Code (Supplementも)

Schofield's Eclectic Phrase Code

Schofield's Safe-Check 3-Letter Code

Universal Trade Code

Western Union Telegraph Code

Yamaguchi's Oriental Self-Checking Three-Letter Code [1st ed. 1930, 2nd ed. 1931, Kobe, Japan]

兼松の場合(1889- )

1889年(明治22年)に「豪州貿易兼松房治郎商店」として創業した貿易商社・兼松の電信・暗号利用について,藤村聡「兼松は語る 〜『兼松史料』で読み解く戦前期の歩み〜」(兼松資料叢書別巻, 2010)(PDF)p.200-206に記述されている(p.203によると兼松史料には数冊の暗号帳が含まれているという).

1890年4月には「Lenukach funooor」という2語の暗号電文で「照会の通買入,船便次第送るべし」という内容(牛脂注文の確認)を伝えた.この時点での欧米の電信コードの主流は「10文字以内の単語」を使うものであり,それに則った暗号だと思われる.

1890年7月にはシドニー支店から神戸本店に送られた「兼松商店電信暗音追加」は英字4字で船名・注文の手配状況・品物のサイズ・商品名に関する合計26語の暗号を収録していた.その26語のコードを見てみないと断定はできないが,この段階の英字4字コードは後述するようなカナ2字コードをローマ字で表記したものと思われる(カナ・コードをローマ字で書いたものを海外電信に使うことは土屋芳郎『混用電信暗号』(1909)などでも触れられている).

現存する最も古いコードブックは1900年に神戸本店で作成されたもので,その語数は約5000だった.その後継となる1912年版は語数が3万になり,特に主力商品の羊毛に関するコードは約400語から約7800語に増加したという.

上記との関連は不明だが,藤村(2010)の明治期に作成されたとされる写真40の暗号帳は「ケコ Keko ク」「ケゴ Kego 位」「ケエ Kee 苦」「ケテ 苦心」のようにイロハ順のカナ2字コード(濁音含む)とそのローマ字版に平文語句を割り当てたものである.イロハ45字(写真40からヱを含まないのは確からしく,よってオ(またはヲ),ヰも含まない可能性が高い)+濁音20字のみからなる2字の組み合わせをフルに使ったと仮定すると65×65=4225語程度の規模のはずである.

一方,明治後期から大正初年(1912年)に作成されたとされる写真41の暗号帳は「いろは暗号」はHO a,HO ba,HO be,HO bi,HO bu,HO bya,HO bye,HO byi,HO byo……のようなローマ字順になっているが,拗音(byiのようなカナに対応しないものも含めて)まで使う特異な構成になっている.さらにcha, che, ..., da, de, ..., dya, dye, ..., e, fa, fe, ..., ga, ge, ..., gua, gue, ..., gya, gye, ...と続く(以下,兼松資料画像目録の本店へ輸入商品付言暗号も参照した).これだとHOの下にある項目は150以上になったと思われる.それを二つ組み合わせると総語数22500以上となるが,おそらく英字コードが5字に収まる組み合わせのみを用いていたと思われる(41026 Gyoauのようなコードもあった).

さらに,これらには「数字暗号」として42626,41627,42628……といった5桁数字が割り当てられている.(ただし,1ページ25語で42626が106ページにあることから逆算すると1ページは40001からであり,この数字暗号の数字から単純に4万語以上あったと結論することはできない.37ページとされているMO geは20901であり,この系列は20001から始まっている.)

(神戸大学・経済経営研究所(2005)『兼松資料叢書(商店史料1)』(PDF)で翻刻されている戦前の社史のp.267-268では,肥料・蚕糸の取引先との連絡や本店・東京支店間,本店・オーストラリア支店間の連絡には丸善のイロハ暗号帳に多少の品名を増補して使っていたが,1899年から5位の数字暗号の編成に着手し1900年末に完成して神戸・オーストラリア間で使われたという.これが上記の「数字暗号」であろう.また,上海支店との間ではABC Codeが使われたという.)

表わす内容も「麦粉500袋(50lbs入)春日丸に積め(積んだ,積む)」「麦粉1000袋(50lbs入)春日丸に積め(積んだ,積む)」「麦粉1500袋(50lbs入)春日丸に積め(積んだ,積む)」などと細かい表現にコードが割り当てられている.

写真39の1935年の電文は5桁数字のコード語を使っており,明らかにカナをローマ字化したものではない(兼松資料画像目録には日豪間通信もある).これは1930年代に欧米で主流のコード構成に一致する.

和製の英字コード

上記のParamount, Schofield's, Yamaguchi'sのように,日本で出版された欧文コードもあった.

工藤隼人『日本電信暗号』(1922)のような早期の例もあるが,1938年ごろからようやく和文コードにも英字コードを付記したものが多くなってくる.中山久美『和欧商事電報暗号』(1938),『日本電信略語書』(1943),林篤信『安全電信暗号』(1944)は和文用コードに欧米式の英字5字のコード語を,市田昇三郎『商和電信暗号 改訂版』(1941),中山久美『日本通商暗号』(1950)は英字3字のコード語を併記している.こうしたコードブックを使えば,日本語のメッセージを英字コードとして海外の支店などに送信することができる.

そのような併記が一般化する前の試みとして,土屋芳郎『混用電信暗号』(1909),大日本麦酒株式会社『電信略語』(1938)はカナのコード語をローマ字表記して外国との通信に使うこともできることを記載している.土屋はコード語に付してある番号を使ってもよいことも述べている.中山久美『実用電報略号』(1930)はローマ字とは別の方式でカナを英字2字の音節に変換することを提案している.

もちろん,一般に刊行されたコードブック以外にも,特定の会社内・会社間で使う私用暗号はいろいろあった.たとえば後述のように,日本銀行は,1905年には独自の海外電信暗号を編纂してロンドン,ニューヨークの代理店に送付している.これは14万語あまりを収録した本格的なコードブックだったらしい.商社などが使う使用暗号は小規模だが効率的な数字暗号が多かったものと思われる(次節).

数字暗号

欧米式のコードといっても,単に平文の語句を英字コード語にするというだけではなく,上記の和文コードには見られなかった数字暗号(figure code)というジャンルのコードがある.これは単に語句を数字で表わすというものではなく,5〜13桁の数字の各桁がそれぞれ品名・出荷時期・価格などといった特定の情報を表わすようにしたもので,そうした数字を一つ送るだけで平文で多数の語を費やすような内容を送信できる.しかも,料金計算上,英字なら10文字までが一語として数えられるので,そのような数字を英字コードに変換する変換表もいろいろ考案されていた.大部のコードブックと違ってこのような数字暗号や変換表は日本人もいろいろ考案し,英文で発表している(別稿参照).

下記で紹介する書籍でも,そのような数字暗号や変換表を扱ったものが多い.

上田貢太郎『外国為替と電信暗号』(明治28年8月)(1895.8)

近代デジタルライブラリー

本書の「電信暗号」の節では,もっぱら英米で使われているAgerおよびWhitelawの暗号(国際電信規則に従って10字以内の単語をコード語として使う)(別稿(英文)参照)を使うとしてAgerのコードを表の転載までして詳しく紹介している.取り扱い品数が少ない場合はAgerのような複雑なコードを使うまでもなく,次のような簡単なコードでよいとも述べている.

HeadingEnding
Abfold 甲種品
Abfurm 乙種品
Abcald 丙種品
Affirm 丁種品
am 五十個買うべし
as 百個買うべし
ing 前問値にて五十個買うべし
ous 前問値にて百個買うべし

Headingのうちの任意のものとEndingのうちの任意のものを組み合わせて,たとえばAbfoldingとすれば「甲種品五十個買うべし」という内容を1語の料金で送信できるのである.

上記Agerのシステムはこれをもっと複雑にして,5桁数字の上2桁で商品種別を表わし,下3桁で数量,価格,船積み時期を表わす(行が数量と船積み時期の組み合わせを表わし,列が価格を表わすような表を使って3桁数字で表現する)ようにしたうえで,その5桁数字を数字−コード語を対照させた辞書を使ってコード語に直すというものである.わざわざコード語に置き換えるのは,数字だと1つの桁が違っただけで通信内容が全く違ったものになってしまうが,単語なら1字送信エラーがあっても受け取り側で訂正できる可能性があるからである.また,Whitelawのコードブックについての具体的な説明はないが,数字とコード語を対照させるものである.

また,「海外電信は名宛字に至るまで一々電信料を課す」ので「2字にて地名人名を代表する」方法を推奨している.すなわち,「自己専用の電信名宛を定め町名番地とともに電信局へ届け出,規則どおりの登記料を納むべし.」たとえばEldoradoで「何町何丁目何番地何某」として登録しておいて,宛先をEldorado Tokyoと記せば2語で済むのである.すでに他者が登録している宛先コードは電信局で受け付けられない.

また,コード語の数字を(繰り上がりなしで)加算したものを電文の末尾に付しておくチェックサムについても記載している.ただ「この方は従前盛んに行なわれしも近頃に至りまれにこれを用ゆるに至れり」と述べている.たしかに英米のコードブックでは,1870年代初頭にはチェック数字を推奨するものがあったが,その後,1字のみ違うコード語を使わずどの2つのコード語を取っても少なくとも2字は異なっているという「二字差」が誤り防止の主流となった(別稿(英文)参照).

小林啓之『日本電信暗号字引』(明治29年4月)(1896.4)

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著者がWhitelaw,Agerのコードブックを範として挙げていることからわかるように,このコードブックはさまざまな語句をコード語で置き換えるという意味での普通のコードブックではない.このコードブックは番号を付したコード語(カナ3字)を羅列しただけのもので(Whitelawと同様),平文を数字に変換する何らかの「訳語簿」を別途用意しておき,その数字をコード語に直すためにこのコードブックを使うことが想定されている.

むろん,この訳語簿の出来が肝要で,「巧みに編成せられたる訳語簿の効用はその拙なるものに比し遥かに優れること言を俟たず」としている.この訳語簿は通信相手によって変えることもできる.

だが,Whitelawは数字をあえてコード語に変換して送信するに際し,どの二つのコード語を取っても少なくとも2字は異なるよう配慮していた(「二字差」).そのため数字を直接伝送するよりコード語として送ったほうが誤りを少なくできるのである.だがこのコードブックはカナ3字のあらゆる組み合わせをコード語として使っており,どの1字が間違っても何らかの別のコード語になってしまう.英米に範を取ったコードでさえ,二字差の概念は取り入れていなかったのである.

具体的には,コード語は次のものからなる.

「正語」……カナ47文字(ヰはあるがヱはなく,ンがある)の3文字の組み合わせ(アイウエオ順)「103822 ンンン」で終わり.

「補助語」……一清音+一濁音/半濁音「103823 アア゛」「103824 アイ゛」「106032 アア゜」「108241 ア゛ア」

「第二補助語」……2濁音/2半濁音「110450 ア゛ア゛」「119999 タ゜ゲ」(この次の「タ゜ゴ」から「ン゜ン゜」まで数字なし)

正語が473=103,823語,補助語・第二補助語が合わせて17,672語あり,計121,495語となっている.このうち12万には番号が振られているが,余り1495語には番号がなく,ユーザーによる拡張用となっている.

凡例(概要)
本書発行の目的
・欧米諸国の「コンビネーション・コード」を我が国に普及せしめんとする目的で編纂.暗号編成の方法および番号付けの方法等いまだ必ずしも完全無欠とはいえないが,本書使用諸君の忠告を乞いて鋭意校正を施し将来に完璧としたい.
本書を編纂したる次第
最初編者は英国Whitelaw氏およびAger氏の両著書を翻訳する心算なりしが欧米諸国においては用語は違っていても字母はみなABCの26字なので英仏独伊等の諸国語などから無数の綴り字を作って暗号に使用できる.一方,我が国目下の事情によれば片仮名一字をもって一暗号となすかまたは二字以上を相連綴して一暗号となすのほかに暗号を作る方法なく,両氏のごとく多数の暗号を作ることはできない.だが熟考の上,両氏が採りたる方法に倣いて我が国に特色のものを作り出さんと欲し,ここに三字をもって一暗号を編成することに決せり.その理由は後段において述べるところにあるが,編者はいまだこの方法をもって満足せず.追って充分の考察を遂げ,一層善良なる字引を発行するの心底なり.
三字をもって暗号を作りたる理由
世間に行なわれている暗号はほとんど全体を通じて二字をもって一暗号となすもののごとし.三字をもって作りたる暗号を二字暗号と混用するものもあるが,これは二字暗号の語数の不足を補わんがためにほかならず,いまだかつて全部を通じて三字暗号を作りたるものを聞かざるなり.二字では十分な語数を作れない.
欧米のように10字の暗号も我が国では適当ではない.一音信10字で15銭,2音信以上は1音信増すごとに10銭が加算されるので10字では長すぎる.Whitelawは30万以上,Agerは20万であり,我が国でも10万以上は必要と思われるので3字暗号を採用するに至った.

著者はさらに本書の効用として次を挙げる.

(五)内国電信には一音信の代価をもって三語(すなわち三暗号)を発信し,なお一字の余裕あり.この一字は指定字あるいは数字をもって充塞し,もって暗号の用途を増加せしむることを得.
(六)朝鮮国釜山との間は七字をもって一音信となすがゆえに一音信の代価をもって二語を発信し,前記の如くなお一字の指定字または数字を[充塞]することを得.
(七)その他の諸国との間はローマ字をもって通信をなすに付き,本書の効用は遥かにホ,エ両氏の著書に優るべしと信ず.何となれば発受信者において一定のローマ字を制定して各単音濁音または半濁音(ローマ字にては濁音および半濁音の二字に算定せらるることなし)を代表せしめおけば実に一百万以上の暗号を使用し得るをもってなり.

この(七)の言わんとするところは不詳.(日本語の電信はたしかに「ガ」は2字として数えられ,英字ではkもgも同じ1字だが,英字26字で清音・濁音・半濁音を表わすことはできないし,英字2字の組み合わせでカナ1字を表わすとしたらカナ3字のコード約10万語またはカナ5字(英字10字の制限いっぱい)の約2億となって,どうしても100万という数字は出てこない.)

なお,当時の日本語の書き方からすると本書はいろいろ目新しい試みはしていた.横組みを使用し,「毎語は欧文の如く左より右へ読むものとす」と注記していたり,「各暗号に付したる番号をローマ数字[アラビア数字のこと]にて記載したるは,日本数字[漢数字のこと]に比し遥かに見出し易しと信じたるゆえなり」と述べたりしている.また,「本書はいろは順を用いずアイウエオの順をもって編纂せり」との点も当時としては目新しい.


Tomoziro Imai, Cypher Code (1908)
今井友次郎(講述)『電信暗号講義要領』(明治43年)(1910)

Cypher Codeは36ページの小冊子(国会図書館所蔵)で,さまざまな情報を数字の各桁で表わす数字コード(上記のAgerのものの類)と,その数字をコード語に変換する変換表を掲載している.『講義要領』(近代デジタルライブラリー)はCypher Codeの使用を解説したもの.著者が早稲田大学教授だから授業に使ったのだろう.

Five Figure Code (1)

カナダの製粉会社と日本の貿易商との間に使用された5桁数字コード.

TABLE Aは右端の商品(「"Export" f.o.b. Tacoma」(Export印の小麦粉Tacoma,甲板渡し))と下端の数量(「250 barrels」など(barrelは四袋))の組み合わせを012〜061の3桁の数字にするもので,これを5桁コードの上3桁とする.ただし表の第2〜3行は将来他の商品を追加するために使うもので,右端が空欄になっている.5桁コードの第4〜5桁で74とすればQuote usを表わし,日本からの価格の問い合わせに使う.

このようにして「電信暗語簿」により5桁数字にしたものを,「五桁隠語簿」によりコード語(「隠語」)に変換する.数字は1字でも送信エラーがあると意味が全く異なるものになってしまうため,単語の形に変換して送信するのである.

この五桁隠語簿は簡単な表(下記のLatin Combination Telegraph Code of 10,000 Cypher Words)で,上3桁をRoot(語幹)に変換し(たとえば012はAbjut),下2桁をTermination(語尾)に変換し(たとえば74はitam,46はemus)に変換し,語幹に語尾をつなげてabjutitamなどのコード語ができる.

このようにして,特定の小麦粉の価格の問い合わせを1語で送信できる.

TABLE Bは価格を5桁数字コードで通知するためのもの.上3桁はTABLE Aと同じで,下2桁で価格を表わす(たとえば2ドル35セントは38,2ドル55セントは46).

TABLE Cは日本からの注文,カナダからの発送通知に使う.この表により「"Export" per bbl. f.o.b. Tacoma」などを400〜462の数字で表わしてこれを上3桁とし,TABLE Bの価格と組み合わせる.

TABLE Dは市況その他の通知用.上3桁は上記と同様に商品の種類を表わし,下2桁で「02 代価騰貴の傾向アリ」「03 船ニ積込ミノ場所ヲ得ルコト能ハズ」「04 (―)ダケ積込ミノ余地アリ」など.この(―)の部分は数量がはいる変数で,A1 CodeやABC Codeのような欧米の既存のコードを使って数値をコード化したコード語を次に続けることを前提にしている.

Five Figure Code (2)

上記のほかに,「倫敦ヨリノ申込ミ及ビ日本ヨリノ買受ケ」に使う表についても解説している.第1桁で商品を表わし,第2桁は数量,第3〜4桁で価格を表わし,第5桁で積み出しを表わす.それ以上の商品を扱う必要があるならSwitch WordまたはSwitch Indicatorを使って第1桁コードの意味の切り換えを示す必要がある(p.21).このような5桁数字コードを上記と同様に五桁隠語簿によりコード語にして送信する.

Six Figure Code (1)

6桁数字を使うことにすれば上記のSwitch Wordがなくても上2桁で100通りの商品を表わすことができる.その場合,もちろん数字コードとコード語の間の変換に「五桁隠語簿」は使えなくなるが,代わりにOfficial Vocabularyを使えばよい.これは国際電信連合の事務局によって編纂された,20数万語のコード語の一覧にしたものである(別稿(英文)参照).各コード語に番号が付されているので,数字をコード語に変換するのに利用できるのである(ただし,この場合,上1桁は0または1でなければならない.上1桁が2だと,残り5桁が99999などの場合に表現できなくなる).

このほか,7桁数字をコード語に変換する「七桁隠語簿」もある(p.30).たとえば015640なら,0を補って0156400と7桁にした上で,0156をAvaceに変換し,400をergeに変換し,コード語Avaceergeを得る.

または,単純に0を追加するのではなく,6桁数字の各桁の和0+1+5+6+4+0=16の末位6をCheck Figureとして加えて01566406をコード語に変換してもよい(p.31).

Six Figure Code (2)

6桁数字コードの上3桁はTABLE No.1の「品名および組み合わせ」を表わし(p.36以下に詳細),第4桁はQUANTITY TABLEからの分量を表わし,第5〜6桁はシリング・ペンス(「志及片」)での価格を表わす.ただし,これをコード語に変換するために使うBerne Official Vocabularyは213949までしかないので,上3桁の品名は212までしか使用できない(213は下3桁で999などを表わせないので不可).このためTable No.1は000-199となっており,それ以上の品名を表わすにはSwitch Wordを使う必要がある.(p.46-47)

特に積み出しの時期を表わす場合にはABC Code(5版),A1 Code,Lieber's Codeを使って打電するとある.

6桁数字のたとえば002750はOfficial VocabularyによってACCOLAMMOとして送信される.

Six Figure Code (3)

Official Vocabularyによってコード語で表された6桁数字コード(ただし000000〜099999のみ使うので事実上5桁)4語を用いて市況を報告するコード(p.52).5桁×4語=20個の数字でさまざまな情報を表わす.

このコードによる市況報告の前にはSwitch Wordとして"Zewezerik"を付ける.

6桁コード語はOfficial Vocabularyによってコード語にしてもよいし,check figureを付けて七桁隠語簿により変換してもよい.

隠語表

電報注文に対し返事をするのに使う「隠語表」が定められている.「Zethes 月曜日の電報正に受け取る……」「Zeticula 火曜日の電報正に受け取る……」「Zeugites 水曜日の電報正に受け取る……」「Zevrina 木曜日の電報正に受け取る……」「Ziehen 金曜日の電報正に受け取る……」「Ziehtag 土曜日の電報正に受け取る……」.これらのコード語の次にはやはりOfficial Vocabularyを使って所定の情報を所定の順序で表わす情報を送る.

このような表がいろいろあるらしく,たとえばある表では金曜日の欄の第5行のAbnetが「金曜日の電文中の第5番の語の注文はこれを引き受く」を表わす.(p.88)

「前電の第何番と第何番との語は承知したり」を表わすには,別の表で第一の番号に対応する行と第二の番号に対応する列にある単語を使う.たとえば第5番と第6番なら第5行第6列のAbstracterを使う.

Ten Figure Code

上記からわかるように,数字をコード語に変換する「隠語簿」が扱える数字の桁数が多ければそれだけ多くの情報を1語に詰め込むことができ,十桁隠語簿を使えばSwitch Wordなしで多くの情報を詰め込むことができることも記載されている.たとえば,第1〜3桁で商品および組み合わせ,第4桁で数量,第5〜7桁で代価,第8〜10桁で積み出しその他を表わすのである(p.48).

10桁数字に対応した具体的なコードとして,「Wait氏十桁隠語簿」が紹介されている(p.93).

たとえば5042845025という10桁数字をコード語に変換する場合は次のような手順になる.

第1〜3桁(504)…PART Iでこの数字を有する最初の表を見るとSの行,ENの列に504があるのでSENとする.(別の例で,151はR行のAMの欄.)

第4桁(2)…第4桁の表により,第3桁に対応する文字がNだったので2→Dとなることがわかる.(別の例ではMのあとでは7→L)

第5〜6桁(84)…第5〜6桁用の表により,8の行,4の列を見てILを得る.

第7〜8桁(50)…第7〜8桁用の表により,5の行,0の列を見てCAを得る.

第9〜10桁(25)…第9〜10桁用の表により,25はGSとなる.

結局,SENDILCAGSとなる.

Latin Combination Telegraph Code

Cypher Codeには00000-99999の任意の5桁数字をラテン語の単語に変換する変換表を見開き2ページに収めたLatin Combination Telegraph Code of 10,000 Cypher Wordsが収録されている.最初の3桁の000-999には1000通りの語幹(Root)が対応し,下2桁の00-99には100通りの語尾(Termination)が対応し,これらの語幹+語尾を任意に組み合わせることによってラテン語の単語を作るのである.

さらに語数を200倍にしたLatin Combination Telegraph Code of 2,000,000 Cypher Wordsもわずか6ページの表に収められている.最初の4桁の0000-1999を語幹に,下3桁の000-999を語尾に対応させているのである.

なお,同様のタイトルのものとして,J. C. Siegfried, Latin Combination Telegraph Code of 2,000,000 Words (1894?, San Fracisco) のようなものもあるらしい.また,ラテン語の語幹と語尾を組み合わせるというのは欧米では定番の発想で,Whitelaw's 14,400 Wordsのような例がある(別稿(英文)参照).ただ,Whitelawなどはラテン語の第一変化動詞・第三変化動詞を利用して文法に則った語幹と語尾の組み合わせにしていたが,今井のものはラテン語風の人造語も含んでいるようだ.1903年の国際電信規則の改定により,本物の単語でなくても発音可能な語であれば1語として認められることになったので,これでも規則に則っていることになる.


中川静『現代商業文指鍼』(明治40年)(1907)

近代デジタルライブラリー

神戸高等商業学校教授の著書.第五章が「電報暗号編制及利用 附商品符牒」となっており,さまざまなカナ・コードや上記の商品価格符牒を紹介したあと,さらに欧米のコードブックで一般的な手法を紹介している.

原語を数字コードで表わし,その数字をN(0)O(1)W(2)B(3)E(4)S(5)H(6)A(7)R(8)P(9)など独自の変換表を使って英字に変換すれば,コードブックが公刊されていても秘密の通信ができる.(p.380-381)

また,そのような数字や文字のグループを順次つなげて新たな暗号を作成するものもあるが,複雑すぎて実用的ではないと述べている.この点は次の『信書精鑒』(1916)でfigure condenserとして肯定的に紹介される.

また,当時の日本の暗号書の状況について次のようにまとめている.(p.382)

従来本邦に行なわるる邦文の暗号書はその数はなはだ少なし.比較的普及せるは
丸善書店発行 新編電信イロハ暗号
なるべし.また, 各新聞通信社用 電報暗号書類 数種
には却って精巧なるものあるがごとしといえども,なぜか広く使用せられず.また,
各官庁用 電報暗号書類 数種
あれども,この類みな局部用のものにて語数僅少なり.しかも発売せられず.事情このごとくなれば,暗号書の使用はいまだ一般に利用せらるるの域に達せざるものと称して可なり.良好の暗号書出でざるがため暗号の利用盛ならざるか,利用盛んならざるがゆえに良好の暗号書出でざるか,そもまた内国の電報料廉価にして暗号書を要せざるによるか,あえて識者に質さんと欲す.

中川静『信書精鑒』(大正5年)(1916)

近代デジタルライブラリー)「精鑒」は上記『現代商業文指鍼』の著者でもある著者が「捻出」した語だが,翌年「若干の校訂」を加えて『書翰文精義』(1917)(近代デジタルライブラリー)と改題.その後「大改訂」

「第六篇 電報」(p.681)で和文電信,欧米との電信網,欧文電信などについて解説しているが,その中で欧米のfigure condenserにならった和文の十五字凝縮電報(p.737)を提案している(p.755「精鑑式の凝縮電報」と称する).和文電報は語数でなく字数によるが,最低料金が十五字以内20銭なので,和文15字にさまざまな情報を凝縮することにしたものである.

電報文の構成は次のとおり(これが第一表).

第1〜3字…商品名および品質(第二表はこれと001〜999の対応表)

第4〜6字…数量(第三表はこれと001〜999の対応表)

第7〜9字…単価(第四表はこれと001〜990の対応表)

第10〜11字…通信文章(第五表はこれと01〜99の対応表)

第12〜13字…電信局の電文記入錯誤の検定用(以上の各桁の数字の和の下2桁)

第14〜15字…社名暗号(カナ2字)

こうして数字13字+カナ2字とした暗号文を秘密にするためには第六表の「暗語変化表」(数字「一」〜「〇」をそれぞれツ(1)・ル(2)・カ(3)・メ(4)・セ(5)・ム(6)・マ(7)・ン(8)・サ(9)・イ(0)(鶴亀千万歳)で表わす「符牒」と同様の換字)を用いて数字をカナに変形することで,同じコードブックをもつ他の者に秘密にできる.(欧米では単純に数字を英字に置き換えたのでは,「発音可能な語」という要件を満たさないため,コード表を使って数字をコード語に変換したが,日本語ではあらゆるカナは発音可能なので,単純に文字ごとの換字で用が足りる.)

また,「至急」などの指定のために第14〜15字を割くことにし,「通信文章」「検定用」はそれぞれ1桁としてもよい.他のカテゴリーの桁数を減らしてもよく,そのために数字2字による100個で不足であれば,カナ2字で2000以上を表わすこともできるとしている.


欧米ではさまざまな情報を数字で表わし,それをさらにコード語で表わすこのような方式は一般的だったが,日本のコードでは本書のような方式を採用したものは管見の限り見当たらない(日本で作成された英文コードということならいろいろあるが).欧米では数字をコード語で表わす際には,コード語には「二字差」のような誤り防止策を講じることができたが,本書ではそのような配慮はされていない.

中村幹治『誤謬速断 和文電報暗号』(大正5年)(1916)

近代デジタルライブラリー

「我が国の取引においては,重宝な電信の活用を認めながら,更に一方を進め,一般に暗号を使用するに至らない」こと,「ニ三の暗号書も出版せられて居るが,ただ惜しむらくは,これらの暗号書が案外実際に使用せられていないこと」を遺憾としたのが本書編集の契機であった.そして出版されている暗号書が誤りを避けるための考慮を全くしていないことを指摘し,「誤謬の調査を閑却せる電信暗号は,却って有害無益」と断じている.

そこで,著者は電文を研究して五十音中,どの字とどの字が相互に誤りやすいかを調べ(「第壱表」「第弐表」「第参表」),その結果,「エ,オ,チ,ス,ナ,ネ,ノ,ホ,ム,モ,ン,一」の12字なら互いに誤ることがないとの結論に達し,この12字で4字または5字のコードを作成するのがよいと考えた(同様に,文字レベルでの誤り防止のために使用文字を制限するという発想は,de Viaris侯も発表している(別稿(英文)参照)).万一これら以外の文字が受信された場合,12字のうちのどれがその文字に誤りやすいかも表(「第四表 誤謬推断表」)にしてあり,これを使えば正しい文字を2〜3個に絞り込むことができる.

本書では具体的には,「一」は句読点として使うことにし,他の11字のうち2字の組み合わせで100通りのパターンができるから,それを二つ組み合わせて1万語のコードができると提案している.ただし,本書はコード語の組み立てをしたにすぎず,各使用者が商品名や用語を書き入れるものとしている.


白井健次『外国貿易事務研究 : 附・暗号電信作例及説明』(大正9年)(1920)

近代デジタルライブラリー

p.93-115で,上記今井のものよりさらに桁数の多い十二桁数字コードを掲載し,その解説を続けている.1桁目は「Sentences from/to Japan」(1: We offer you. /4: The next 10 figures indicating 2 sentences from A.B.C. Code 5th Edition. The 12th figure being check.など),2〜4桁目が品目,5桁目が量,6桁目が品質,7〜8桁目が価格,9〜10桁目が出荷時期,11桁目が「Sentences from/to Japan」(8: This is the best possible offer we can get for it.など)を表わす.1桁目と11桁目は日本発と日本宛の電信で別個の表が用意されている.

このようにして得られた12桁数字をVoller,Durand,SchofieldなどのCondenserによって英字10字のコード語に変換して送信する.

山口造酒・白井健次『英文商業通信寶鑑 附十三数字組立暗号電報』(1922)(国会図書館所蔵)の第XL章をなす別冊付録(A Complete Set of 13 Figure Code)は上記と同様の13桁数字暗号だが,13桁目はチェック数字とされている.また,使用法は白井健次『外国貿易事務研究』にさらなる詳細な説明があるとされているが,上記は12桁なので,別の版があるのかもしれない.

栗原一平『外国貿易実践』(大正9年)(1920)

近代デジタルライブラリー

第三章(p.54)が「外国電報(Cablegrams)」に割かれている.

電信網や英米のコードを解説し,一般的なコードブックとしてはBentleyを例に挙げている.

また,さまざまな情報を数字の「数字の巧妙なる組み合わせによりて僅かに一語又は二語にて」表わせる「数字暗号(Figure Code)」を紹介している.著者が現に使っているのは十三文字のものだというが,例に挙げられているのは「六字暗号」で,各数字が品名,数量,価格などを表わす.表により得られた6桁数字をそのまま送信するのは誤りの可能性があって危険なので,それをコード語に変換して送信する.変換のためには,The Official VocabularyやLatin Combination Telegraph Code(上記参照)が使えるが,ほかに簡単な表(00-99の数字を子音+母音のパターンに対応させる表)を使って6桁数字を2桁ずつ6字のコード語に変換する方法も紹介している.

そのほか電文の組み立てや頼信紙への記入法(p.93)なども具体的に解説している.

銀行の暗号

電信送金暗号と電信普通暗号

銀行研究社(編)『内国為替事務の特殊研究』(1937)(近代デジタルライブラリー)に,小畑美雄「電信暗号の保管整理」というセクションがある(p.101).

一般の電信暗号が電報料金節約を目指す点に重点を置いており,しばしばコードブックが刊行されているのに対し,銀行が送金に使う電信暗号はその秘匿性が枢要となる.そのような銀行の電信暗号についての概要を同書に基づいて紹介しておく.

電信送金暗号は普通,一葉の紙片であって,送金額を暗号化する暗号表が印刷されている.これは改訂するのもそれほどコストがかからないので,守秘の観点からしばしば更新される.このほか電信普通暗号があって,これは通例「総布もしくは総革装丁金文字入りの冊子」であり,印刷部数も限られているためコストがかかり,よほどのことがないかぎり改訂されない.

各銀行制定の電信暗号は千差万別.電信送金暗号は「小は十五糎〔センチ〕×二〇糎より,大は四〇糎×六〇糎に至るまで」あり,電信普通暗号は「三五判の小より,四六倍判の大」まであり,「右開き,左開き,折本式,縦長形,横長形,縦書,横書等々」とのこと.

筆者は,改訂周期の短い電信送金暗号は一度標準形状を定めておけば,改訂のたびに順次標準化されていくとしている.一方,大部の電信普通暗号の統一は困難ながら,金額などを表わす絶対秘密にすべきもの以外の語句を収録した電信暗号を統一化することを構想し,「現に欧米にあっては一般商工業者相互間においても,さかんにレディメイド的暗号を使用しつつあるは周知の事実」と述べている.一方,絶対秘密を要する部分は各銀行で独自に編纂する必要があるが,それでも原語やその配列は統一すべきとしている.

電信送金暗号(電信為替暗号)の詳細

伊藤由三郎『内国為替実務』(1926)(近代デジタルライブラリー)には,送金に関わる電信為替暗号についての注意事項を述べた節がある(p.72). 電信為替暗号を第三者が悪用すれば不正に金を送金させることもできるのである.電信為替により起こった被害として,大正12年に大阪のある銀行の東京支店で三万円を詐取された事件,大正14年に東京のある銀行の横浜支店で1万5千円を詐取された事件などがあるという.p.75,76,74の記述によると,下記の「回・号」を何らかの仕方で取得して,本物の為替電信を不正に再利用する「リプレイ攻撃」が行なわれたらしい.

このような不正な再利用を防止するため,電信為替暗号は「一」「二」「三」「四」…「千円」「万円」などをカナ1字で暗号化するものだが,一号から十号まで10通りの変換表が用意されていて切り換えながら使用するようになっている.ただし,多くの場合,パターンを多くするためにこうした番号のほかに「一回」「二回」…「五回」の区別をし,「第一回一号」…「第五回十号」のような50通りの「回号符号」を用いたという.これと同様に,現代暗号でもリプレイ攻撃を防ぐ最も基本的な手段として,シリアル番号を暗号化に含めている.

第一種の場合,たとえば「第三回第五号金二千円也何某」の第三回は「ミ」であり,それに対応する「第五号」は「ネ」であり,「ニ」が「ス」,「千円」が「ロ」となる.暗号部分は括弧に入れて平文と区別し,電文は「(ミネスロ)ナニガシ」となる.

もう少し進んだ第二種の暗号表では,上記に加えて「金額複記」を採用している.つまり,同じ金額に対して1, 2, 3, ..., 0, 00, 000, 0000に対する別の変換表が用意されていて,それを用いた暗号化を併記するのである.たとえば「第五回八号三千円受取人某」は「第五回」→「チ」,「八号」→「モ」,「三」→「ン」,「千円」→「ヘ」に加えて,「3」→「マ」,「0000」→「ア」を加えて,「(チモンヘマア)ナニガシ」とするのである.

この第二種は為替電信を偽造するためには二通りの暗号システムを破らなければならないことを意味するが,リプレイ攻撃(正当な為替電信を傍受してそれを不正に再利用すること)を防ぐにはやはり回・号の秘匿が重要になる.そこで,さらに進んだ第三種の暗号表では,上記に加えて「複記」の変換表を取り扱い月によって切り換えるものとなっている.


水野淳二「電信暗号考」(1954,『バンキング』78号,p.112-126)でも上記と同様の電信送金暗号が紹介されている.やはり不正防止のために「回号」の秘匿が力説されている.その回号符号だが,当初は上記の図でいうと「ユ,テ,タ,チ,モ」の部分は取引先ごとに異なるものを使用し,本支店といえども共通しないようにしていたが,大正中期になって取引が増加すると本支店共通,他店間共通といったものも出てきたという.その際に不正防止のために考えられたのが上図にもある「複記」(水野では「復記」)だという.

日本銀行の暗号

日本銀行『日本銀行沿革史. 第十巻』[1913](近代デジタルライブラリー)p.325以下の「電信略語及送金暗号」の節で日本銀行で使用したコードの概要が紹介されている.

日本銀行最初の暗号電信略語は創設(1881年(明治14年)(Wikipedia))後まもなく制定された.1883年(明治16年)10月1日に増補訂正(同15日施行),1885年(明治18年)9月24日に修正(10月1日施行),1888年(明治21年)7月10日に修正増補(8月1日施行)して782語+空白50語の規模になった.これだけ増補を繰り返しても,かなり控えめな規模であったといえる.

1890年(明治23年)11月,本支店と各地本支金庫などとのものは甲乙号に分け,甲号を「訳信用」とし,乙号を発信用とし,本支店間では丙号を併用.これにより語数が1800あまり増加し,発信用・訳信用ともにイロハ順に配列し,略語は各2字とするなど,大幅な変更をした.語数の上では,この時点でようやく上記「最初期の電信コード」の節で挙げたものに匹敵する規模になったといえる.

さらに1894年(明治27年)10月に電信略語を改正(11月1日施行).この際従前通りとされた「金庫事務取扱上に関する電報略語」を普通電信略語中に挿入するために12月に改正(翌1月1日施行).その後は多少の増削はありながらも,大きな変化はなく執筆時(1909年(明治42年))に至る.

本支店以外では,長崎の第十八銀行との間では電信符号を定めて利用していたが,一般取引先との間でも必要が感じられるようになり,1885年(明治18年)9月に各取引先との間の電信符号を定めて印刷の上,各取引先に送付した.

上述したように,電信為替にはこうした普通暗号とは別の特別な暗号が使われる.日銀は1883年(明治16年)1月20日に電信送金数字暗号を大阪支店に送付(2月1日より施行)した.他行については,1885年(明治18年)5月27日に送金暗号を定め,長崎の第十八銀行より始めて他の銀行にも及ぼし,暗号は甲乙両表とし,各取引店ごとに異なる符号を用いることにした.1886年(明治19年)末に第十八銀行以外とも電信為替の取引を開始することに決まり,電信暗号取り扱い手続きおよび電信符号を定めた.

だが,100を超える取引先ごとに異なる暗号を定めるのは困難なので,1887年(明治20年)3月22日に手続きを改め,「大阪支店間と本店間との区別は大略金円の文字を異にし,かつ発電の場合毎行の首尾に適宜特定の符号文字を添えざれば無効と定め,もって不慮の損害を防止せんことを期せり」という(p.328).

上記のほかに,金貨相場報告,営業毎日報告,営業毎週報告,兌換券及準備額報告その他の特殊なコードもあった.

日露戦争開始以来,海外代理店事務がにわかに重要になり,日本銀行専用の外国電信暗号が必要になったので,1905年(明治38年)4月に編纂に着手し,11月に完成してすぐロンドン,ニューヨークの代理店に送付した(翌年1月1日施行).その内容は,「為替相場,歩合,金額その他数字に関するものならびに要語,人名,銀行会社,公債株券等の字句に関するものを収集してその語数計十四万七百語の多きに及び,また各語には番号を付記してきわめて秘密を要する場合あるいは数字をもって発信するを便とする場合には暗号によらず右番号をもって通信し得る」ものという.その後追加・増補もされた.

なお,銀行の暗号を政府が利用することもあった.少なくとも1916年の時点で,在ロンドンの財務官森賢吾と本国(大蔵省)との間の電信は,駐英大使と外務大臣の名義で日本銀行の暗号や横浜正金銀行の暗号を使ってこれらの銀行が発信したようだ (アジア歴史資料センター,レファレンスコードB13080294300).この森賢吾財務官は,第一次大戦後のパリ講和会議(1918)の全権委員を務めたり (コトバンク),関東大震災(1923)後の復興資金調達に向けた外債発行のために欧米銀行段との交渉に当たったりした (Wikipedia) 人物である.

普通電信暗号

水野(1954)の記憶では,大正10年(1921年)ごろに十五銀行が相当分厚い,発信篇と受信篇からなる他に類のないほど完備した普通暗号を編纂し,以後大銀行がこれに倣ったという.3字コードを使う銀行もあったが,カナ2字コードが普通だった.

だが電話や模写電送といった通信手段が発達すると,普通暗号を使うのは代手(代金取立手形)の入金電告くらいのものになってしまい,「近来」(p.120)一字暗号まで出現した.数字や「本日取立済」などの若干の表現をカナまたは数字1字で表わす簡単なものだったという.典型的な入金電告を一字暗号・二字暗号で暗号化した場合の例を転載しておく.

     代手 六 八 九 号 下記日取立済. 八 日
一字暗号:   ア ル ヨ ウ   四     ル レ
二字暗号:  アカアクアケコイ   カウ    アクサイ

第一銀行の暗号

第一銀行 (Wikipedia) のコードに関する記述が藤井信幸『テレコムの経済史』p.224にある.それによれば,1884年には電信暗号改正の記録があるが,新暗号は「我銀行内」のみで用い,他店に送付するのは旧版のままとしている.

現存する最も古い版は1892〜1894年ごろに使われたと推定される160ページほどの『第一国立銀行電信用語』だという.銀行業務全般をカバーしていたという(「ニテ 荷為替荷物未着ニ付取調ノ上至急回報セヨ」「ヨツ 為替取引約定書」など).

上記以外の参考文献

電信条例(1874)テキスト)(これ以前についてはたとえば竹山恭二『報道電報検閲秘史』p.48に1869年の太政官の「電信機之布告」,1872年の廟議決定の引用がある.)

『明治七年 太政官布告書 太政官達書 九』〔手書き〕

『官民必携規則提要』

『現行大日本法律全書』(1879年の第17条削除を反映している)

電信取扱規則(1879)(日本が国際電信連合(現ITU)に加盟した年)

『本邦現行法令掲要. 下巻 甲』(1883)

電信条例および電信取扱規則(1885)

逓信省電務局『電信法規類纂』(1892)

1893.7訂正版

逓信省電務局『電信条例・電信取扱規則纂輯』(1893)

電信法(1900)

『改正郵便電信電話諸規則』

(引用中,用字・仮名遣い・句読点などは現代風に改めた場合がある.)



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First posted on 26 October 2013 as a preliminary version. Last modified on 13 September 2014.
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