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絵双紙・絵草紙・絵草子とは  
 







 
 絵双紙(絵草紙・絵草子)とは草紙、草双紙の中で特に絵を主とした読み物の総称です。広義には、江戸時代の絵本・絵入本・錦絵をも指します。

 ここで中世から近世にかけて草紙、草双紙類の変遷と、江戸時代の出版事情を簡単にまとめてみます。
室町時代から江戸時代初期にかけて流布した絵入りの短編読み物のことを総称して「草子」(双紙・草紙・冊子)と称していました。御伽草子、仮名草子の類です。
 そして江戸初期(天和2年(1682)から天明3年(1783)までの間に上方を中心に出版された小説を「浮世草子」といいます。井原西鶴の「好色一代男」に代表される町人文学です。
 次ぎに江戸時代中期から明治の中頃にかけて江戸の地で出版された絵入通俗小説の一種を「くさぞうし」(草双紙)と呼称していました。草双紙は5丁を1冊として、美濃判半截を二つ折した袋綴(通称中本)の体裁をとっていて、各丁は挿絵を主体に空間に短い詞書きが書かれています。挿絵と詞書きが一体となった独特の絵本で、初期は婦女童幼子向きのものという観念から、常に草紙自身が最も低級な戯作のように卑下した立場を保持しました。近代以前の小説中最も大衆的な娯楽読物として最大の出版部数を示しました。*2

 さて 草双紙は表紙の色と内容、時代の推移から、赤本・青本・黒本・黄表紙・合巻の類に分けられます。

赤本(あかほん・錆朱色の表紙)
赤色の表紙を用いて桃太郎・猿蟹(さるかに)合戦・ぶんぶく茶釜・などのお伽噺(とぎばなし)を題材とし、絵を主とした子供向きの草紙のことです。初期のものにはやや小型で「赤小本」といわれるものがあり、また、ままごと遊びやひな祭用のためにこれをさらに小さくした「ひいな本」もありました。遅くとも宝永(1704〜1711)には存在し、享保(1716〜1736)頃に盛んになりました。形は半紙半截(はんせつ)、一冊五丁。


黒本(くろほん・墨色の表紙)
黒い表紙のついた小冊子で、赤本についで延享(1744〜1747)・寛延(1748〜1751)の頃江戸で大いに流行りました。内容は前後してはやった青本とほぼ同様で黒表紙ともいいます。

青本(あおほん・藁色の表紙)
葱(もえぎ)色の表紙を用いて浄瑠璃や歌舞伎の物語、敵討ち物を内容とするもので、江戸中期頃流行しました。五丁を一冊、数冊を部とする中本形のものです。赤本と黄表紙との中間に介在して、黒本と前後して流行しました。

黄表紙(きびょうし・藁色の表紙)

表紙が黄色で、赤本・黒本・青本に次いで安永(1772〜1781)頃から文化(1804〜1818)初年にわたって出版された。粗悪な半紙半截(はんせつ)の紙五丁を一巻とし、二巻から三巻を一部とする草紙で、表紙の題簽(だいせん)も、色刷の絵にも工夫をこらし、内容は洒落と諷刺を織り交ぜたもので、従来の子ども向けの草双紙が大人向きの読物となりました。恋川春町の「金々先生栄花夢」が先駆で、作者としては朋誠堂喜三二・山東京伝らが有名です。

合巻(ごうかん)
江戸後期、文化(1804〜1818)以後に流行した草双紙です。従来五丁を一巻とした草双紙の数巻を合せて一冊としたもので、それを一部一編として、長いものは数十編に及ぶものもあるそうです。絵を主とした読物で、素材・表現ともに実録・読本(よみほん)・浄瑠璃・歌舞伎などの影響を受け、庶民層に広く読まれました。


 また草紙の内容から仮名草子、好色本,読本、浮世草子、談義本、滑稽本、戯作本、洒落本、遊里本、人情本、狂歌、狂言、俳諧、歌舞伎、歌謡、咄本、等々に分類されます。

仮名草子(かなぞうし)
室町時代の物語・草子の後をうけて、元禄以後の浮世草子の先駆をなす江戸時代初期の短編小説の一体で、擬古文体の平易な仮名文で書かれた、啓蒙・娯楽・教訓の物語・小説です。「恨の介」「伽婢子(おとぎぼうこ)」の類。

好色本(こうしょくぼん)・好色物
色欲生活を題材として書いた本で元禄(1688〜1704)時代を中心に行われた浮世草子の一種です。作者には井原西鶴・西沢一風・江島其磧らがあり、西鶴の「好色一代男」「好色一代女」などはその代表作です。

読本(よみほん)(よみぼん)
江戸中期〜後期の小説の一種で体裁は、大部分は半紙本、ほかに大本・中本のものもあり五〜六巻を一編とし、各巻に口絵および数葉の挿絵があります。空想的な構成、複雑な筋を興味の中心としたものが多く、仏教的因果応報・道徳的教訓などを内容とします。寛延(1748〜1751)・宝暦(1751〜1764)の頃から行われ、上田秋成・山東京伝・滝沢馬琴らが代表的な作者です。「南総里見八犬伝」の類。

浮世草子(うきよぞうし)・浮世本
江戸時代の小説の一種。井原西鶴の「好色一代男」(天和二年、1682)によって仮名草子と一線を画して以来、宝暦(1751〜1764)・明和(1764〜1772)頃まで約八○年間上方(かみがた)を中心に行われた町人文学です。
遊里・劇場を中心とし、町人の情意生活を写した好色物・町人物・三味線物・気質物(かたぎもの)などのほか、武家物・怪談物・裁判物など多くの種類があります。西鶴の諸作や八文字屋本が有名です。

談義本(だんぎぼん)
宝暦(1751〜1764)〜安永(1772〜1781)頃に多く刊行された滑稽読物の一種です。「当世下手談義(いまようへただんぎ)」に始まります。談義僧・講談師などの口調をまね、おかしみと教訓を交ぜて社会の諸般を諷喩したものです。

洒落本(しゃれぼん)・通書(つうしよ)・蒟蒻本(こんにやくぼん)
明和(1764〜1772)〜天明(1781〜1789)の頃を中心に、主として江戸で発達した小説の一様式です。遊里文学で、対話を骨子とし、遊びの穿(うが)ちを主とする読物です。作者には大田南畝・山東京伝その他匿名の当時の知識人が多く、代表作は「遊子方言」「辰巳之園」「通言総籬(つうげんそうまがき)」などです。書物の体裁が小本型を中心にしていたので小本とも呼ばれ、その表紙の色が茶色の物が多かったことから蒟蒻本の異称もある。

狂歌(きょうか)・えびすうた・ざれごとうた・ひなぶり・へなぶり 
諧謔・滑稽を詠んだ卑俗な短歌。万葉集の戯笑(ぎしよう)歌、古今集の誹諧歌の系統で、平安・鎌倉・室町時代にも行われ、特に江戸初期および中期の天明頃に流行しました。諧作家としては四方赤良(よものあから)(蜀山人)・宿屋飯盛(やどやのめしもり)などが著名。戯歌。

狂言本(きょうげんぼん)
歌舞伎狂言の筋を書いた本で多く絵を入れています。絵入狂言本。

戯作本(げさくぼん)
江戸中期以降、主に江戸に発達した俗文学、特に小説類。読本(よみほん)・黄表紙(きびようし)・合巻(ごうかん)・洒落本(しやれぼん)・談義本・滑稽本・人情本などを戯作本と総称しました。

滑稽本(こっけいぼん)・中本(ちゆうぼん)
滑稽な話を記した本で江戸後期の小説の一種です。浮世草子の気質物(かたぎもの)や談義本(だんぎぼん)の系統を引き、一方、洒落本(しやれぼん)の影響の下に、多くは卑近低俗な都会人の日常生活における滑稽ぶりを断片的に書いたものです。十返舎一九の「東海道中膝栗毛」や式亭三馬の「浮世風呂」の類。

咄本・噺本(はなしぼん)
軽口・落語などを記した本。

人情本(にんじょうぼん)・泣本(なきほん)・粋書中本(ちゆうぼん)
文政(1818〜1830)初年頃から明治初年まで行われた小説の一種です。洒落本の後をうけて発生しましたが、洒落本との違いは遊里にとらわれないところにあり、市井の青年男女を主人公として、おもにその恋愛の成り行きをつづっています。江戸における当代流行の風俗を描くことに加え、いきいきとした会話文を用いるところに特色があります。 書型は中本(ちゆうほん)。為永春水が大成。*6

 江戸時代になると木版印刷が盛んになり写本時代と変わって木版印刷による大量頒布が可能になり、文学作品が商品として流通するようになりました。当時書物の形態は本の大きさから大本(おおほん)・半紙本・中本(ちゅうほん)・小本(こほん)・横本・巻子本どという形態上の区分があり、それがジャンルの別・内容の別に対応していました。大本は儒学・仏教書や古典などのやや堅い内容のものが多く、半紙本は半紙二つ折りの大きさの本で一般的な書型で小説では読本がこの大きさです。中本は草双紙・滑稽本・人情本などのくだけた小説、小本は通ぶった洒落本、横本は実用書的なものと、外形から大体の内容を判断することが出来ました。*6

 一方書物を扱う店を示唆する呼称も多く、書林・書肆・書房・書鋪・物の本屋・書籍所・書物屋・浄瑠璃本屋・謡本屋・草紙屋・絵双紙屋・草紙問屋・地本問屋などという具合に、板元と流通業者とが明確に区別されずに使われていました。このほか本屋に関連する業種としては、板木屋・表紙屋・糶本屋・古本屋・せどり・行商本屋・貸本屋などもありました。*4

 これら書物と本屋とをめぐる物の呼称が著しく多いのは、区別して認識する必要があるほど、本を取り巻く文化的環境が多様化し成熟していたことを示すものと思われます。*4

 江戸初期出版業は、京都資本が公家・知識人を対象として営業を独占していました。元禄期には米穀流通の中心である大坂の出版資本によって京独占が打破され、寛文期(1661〜1673)以降に江戸在地資本が成長し、関西文化圏から独立した独自の「江戸地本」と呼ばれる草双紙が流通しました。
寛政期(1789〜1801)には出版中枢は江戸に移り、文化文政期(1804〜1830)に貸本屋が全盛期を迎え、都市部中間層以下の底辺庶民層を対象とする全国的な書籍流通市場が形成されました。*5

 しかしながら幕府は、業者の仲間組織に特権を付与して保護し、時に厳しく出版統制を行いました。江戸期には爆発的な出版点数の上昇はなく、出版産業として飛躍していくのは、明治時代の近代化を待たねばなりませんでした。*5

 このサイトでは絵双紙を絵入り本と広義にとらえ、上方(京都・大阪)および江戸の地で出版された草子、草双紙類のなかで特に絵が美しくインターネット上でも分かりやすい絵本を紹介します。

引用・参考文献
*1広辞苑 岩波書店第四版
*2日本文学全集黄表紙洒落本 岩波書店
*
3日本古典文学全集黄表紙川柳狂歌 小学館
*4
『江戸読本の研究−十九世紀小説様式攷−』 高木 元(著)
*5
デジタル情報ネットワーク戦略と産業構造の変容 荒木國臣(著) 
*6「近世文学資料展」(東京大学図書館ホームページ)

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