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 「オレンジロード」だけに、このような車をここで

 1984年、富山県出身の漫画家・まつもと泉が世に送り込んだラブコメディ「きまぐれオレンジロード」。先代のラブコメ作品、サンデーの「うる星やつら」とマガジンの「かぼちゃワイン」は、大和撫子世話女房型の女の子と性格的にも難のあるダメ男の物語だった。だが、ジャンプ黄金期で唯一の名作ラブコメディ「KOR」は、不良性を秘めたヒロイン・鮎川まどかと当時の伝統的なかわいい女の子・ひかるの二人の間で揺れる男の子・春日恭介の微妙な三角関係という画期的な設定で、男子高校生のみならず大学生の共感を呼ぶにまで至ったといわれている。のちに、このコンセプトは、新世代格闘ラブコメディ「らんま12」に三角、四角、五角と遺憾なく引き継がれ、「KOR」は、コミック・アニメともに、多大な貢献を果たした作品といえよう。

 

 

きまぐれオレンジロード 主な登場人物

春日恭介             主人公、写真撮影が得意

鮎川まどか            恭介の初恋の少女、主な特技は音楽

檜山ひかる            恭介の公式の彼女

 

春日くるみ             恭介の二つ下の双子の妹、元気が最大のとりえ

春日まなみ            同じく恭介の二つ下の双子の妹、春日家の家事全般を取り仕切る

春日隆                  恭介たちの父、プロ・カメラマン

 

火野勇作              ひかるの幼なじみ、恭介の恋敵

小松整司              恭介の親友

八田一也              同じく恭介の親友

アバカブ・マスター   喫茶店ABCBの店長、まどかの相談相手

 

あかね                  恭介の同い年のいとこ

一弥                     恭介の十下のいとこ

広瀬さゆり             学園の人気女生徒、自称美少年ハンター

杉ひろみ               恭介の以前の学校での同級生、生徒たちに恭介の過去のエピソードを明かす

 

 

 

  共存競争に生きたもうひとつの物語

 ドイツ・ニュルブルクに存在する、世界最長で過酷なサーキット・ニュルブルクリンクは、ポルシェ、メルセデス、BMWといった有名自動車メーカーが、自らのマシンのテスト・コースとして利用しているスペシャル・コースである。そこでは、メーカーたちがクラスごとにしのぎを削る。ポルシェ・カレラGTが飛び出したかと思えば、メルセデスSLRマクラーレンが続く。メルセデスのAクラスが出れば、BMW 120iが追走する。共存しながらも、ライバルと激しく戦っているのだ。

 

 コミック・アニメの世界でも、そのようなことが過去にあった。1980年代から90年代中盤は、漫画家、出版社、アニメ・プロダクション、声優、その他作品にかかわるすべての人々が、己の総力を結集した、激しい人気争いを繰り広げていた。「キン肉マン」、「Dr.スランプ」で、FROM JUNPの独壇場かと思えば、小学館系のあだち・高橋両ラブコメ作家がヒット作を連発する。スタジオぴえろが「クリィミーマミ」と「ペルシャ」で少女アニメを独占すれば、「アンネット」「カトリ」で不本意な成績に終わった日本アニメーションが「セーラ」で視聴率挽回を誓う。声優陣も総力戦だ。特に島本須美は、「風の谷のナウシカ」と「小公女セーラ」に出演したあと、高橋留美子原作「炎トリッパー」、「ザ・超女」、そして「めぞん一刻」という全く異なる作品の収録をも天性の声でこなした。そして、8586年と、あのファーストに続くガンダム旋風が巻き起こり、「アニメディア」をはじめとする専門誌にて行われたアニメの人気番付は大激戦。まさにコミック・アニメ界の共存競争が行われていたのだった。

そんな最中、まつもと泉という若手作家も、ヒット作を狙うべく、執筆に没頭する。それこそ「きまぐれオレンジロード」という作品につながっていくわけだが、実は、このタイトルは、最初から決まっていたわけではなく、当初は「すぷりんぐワンダー」という作品が掲載される予定だった。「すぷりんぐワンダー」は、超能力を持った血のつながらない兄妹の物語で、超能力は、兄妹が手をつなぐなどしないと使えないなど、多少の設定上の違いがあった。後にこれは公開するには至らなかったが、この作品がなくては、「きまぐれオレンジロード」も存在しなかっただろうといわれている。      

1984年の登場。驚くべきことは、彼のデビューは、「KOR」の連載がスタートした僅か1年前ということである。1983年のデビュー作「ミルクレポート」は、とても彼が後に大ヒット恋愛物語を描くというような印象は見受けられなかった。まつもとは、美少女を描く才能を、デビュー2年目にして、連載作品として発揮することになったわけである。

その第1話は、当時の若者に強烈な印象を与えた。東京都のとある町、とある階段でのシーンから始まる。階段を上っていく一人の男の子、彼に向かって飛んできた真っ赤な麦藁帽子、頂上には女の子が… ハチャメチャなファーストシーンだった「うる星やつら」とは一線を画すボーイ・ミーツ・ガールのロマンあふれる光景。漫画家・まつもと泉の才能を思うがままにあらわしていた。

連載が始まって1年後、初めて映像作品が公開され、1987年、ついにテレビアニメ化が実現した。翌88年には、映画化の話が持ち上がったが、まつもと先生本人にとって、アニメとのふれあいは、悪い思い出のほうが多かったようだ。アニメ作品の完結編である劇場版のシナリオは、彼の知らぬ間に、彼以外の誰かによって描かれていたのである。アニメスタッフは、「きまぐれオレンジロード」を借り物にして自らの悲恋物語の実験台にすることにしか頭になく、先生は、自らの言葉で、当時の監督がハッピーエンドで終わった「めぞん一刻」とは全く逆のパターンの作品を作ろうとする下心が伺えたとその心を表している。「きまぐれオレンジロード」だけが、週刊少年ジャンプのヒット作の中で、あれほどまで、アニメスタッフの手によりその姿を汚されるとは、なんとも悲運なことであり、非情に思える。

そのころから、高橋留美子の新作「らんま12」が週間少年サンデーにて連載され始めた。新世代ラブコメディは、格闘の概念が取り入れられ、乱馬とあかねのカップルが先輩作のあとを引き継いでいた。「らんま」は、「KOR」に似たところが多く見受けられた。ひとつは、主人公の特異さと、優柔不断さである。恭介が超能力を使えるのに対して、乱馬は、水をかぶると女になるという変身体質を持っていた。そして何より、二人の共通点は、女の子の前でどぎまぎすること。恭介がまどかとひかるのことでよく悩んでいたのと同様に、乱馬の場合も、あかね、珊璞(シャンプー)、右京、小太刀との付き合いで頭を悩ませていて、この二人の姿はなんともほほえましかった。もうひとつは、主人公とヒロインいずれかの母親が不在であること。「KOR」の場合は主人公、「らんま」の場合はヒロイン側だったが、その亡き母親の後を受け継いだ天道かすみは、今見てみれば、年の差はあるにせよ、春日家の家事をまかなった春日まなみの面影が入っているように感じる。かつて恭介と勇作がひかるをめぐって対立したように、乱馬と良牙はあかねをめぐって、乱馬と沐絲(ムース)はシャンプーをめぐって対立していた。シャンプーが歓喜あまって乱馬に飛びつくのは、まさしくひかるそのものだった。後に、85年作品とテレビアニメ以降の作品で鮎川まどかを演じた島津冴子・鶴ひろみが、「らんま12」に九能小太刀・久遠寺右京として共演。このように、「KOR」のエスプリは、ラブコメ最盛期・最後の作品で受け継がれていたのである。

 

時は流れ、昨年(2004年)、「きまぐれオレンジロード」は、デビュー20周年を迎えた。その間、劇場版アニメ、COMIC ON版(パソコンを使ったコミック)、そして新シリーズとあらゆる人々が関与したいろいろな種類の「きまぐれオレンジロード」が登場した。

私が生まれた1987年という年は、「KOR」のテレビアニメがスタートした年である。乳児期を1年間のラブコメディとともに過ごした私にとって、学生の頃にようやく出会ったその作品が、あまり注目されていないのがなんとも寂しい限りだ。私は、今こういうことを考えている。私の生まれた1987年からおよそ5年間は、「KOR」と「らんま」が人気ランキングでしのぎを削り、そのうえでラブコメ最盛期は幕を閉じるべきではなかったのか。「KOR」と「らんま」の一番の違いは、年齢設定にある。「KOR」は、「めぞん一刻」に似た設定だったためか主要人物は年を重ねた。一方、「らんま」は、乱馬とあかねは、9年間の連載の中、16歳のままで完結した。もし、「KOR」の人物が年齢を固定するか、あるいはもっと遅らせたうえで、もう数年連載が続いていれば、両作品は、よきライバルとして競い合っていたかもしれない。「新KOR」は続編ではないとまつもと先生本人は断言しているが、いまだ事実上続編であるという声がまだまだ多く伺えるのはまこと惜しい。原作者であるまつもと泉先生には、当時の原作の「きまぐれオレンジロード」のイメージを残しておいてもらいたいし、テレビアニメ版の「きまぐれオレンジロード」と原作の「らんま12」とともに生まれ、時を経てこの2作をこよなく愛する運命にある私にとって、「KOR」がまた当時のままの姿で評価され、あだち充、高橋留美子両氏の作品と肩を並べるもうひとつの物語となることを、今か今かと待ち望む今日この頃である。

 

 

 

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