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異説・BUSIN 0 DUHAN WAR
〜Wizardry Alternative Neo〜

部下A「2番と4番、それに5番脚が損傷。走行不能です」
ラムテシール「残りの脚で魔神を戻せるか」
部下A「やってみます」
ラムテシール「ゴングゼロより各機。後方に地雷原。その場で停止せよ」
部下B「ゴングワンより指揮機。前方に目標多数、接近中」
部下A「目標小隊規模、なお増加中」
部下B「警戒、右方向に熱源反応」
部下C「方位040、移動目標」
部下B「距離、1200、移動目標多数。火竜機らしき熱源反応。火竜子砲の射程に入ります」
ラムテシール「ゴングより本部。当該勢力の脅威、更に増大中。発砲の許可を要請する」
上官「交戦は許可できない。現在、ヒノモト隊がそちらへ急行中。繰り返す。交戦は許可できない。全力で回避せよ」
ラムテシール「回避不能。本部聞こえるか」
部下B「前方より火竜子砲らしき熱源」
部下C「イジェクト不能」
部下B「前方よりさらに熱源。なおも増加中」
部下A「脱出できません」
部下B「隊長ー!」

「Boot OK」
「system normal type LOS standby」
ルイ「システム、起動終了」
カザ「よし。視覚操作モードに入れ」
ルイ「了解。視覚調整よし。下方視界よし。背面視界よし」
カザ「こら、遊びじゃないぞルイ」
ルイ「オートバランサー正常作動。下方視界良好。前方、障害物なし」
カザ「よし、上出来だルイ。リセットしてもう一度はじめからいくぞ」
ルイ「了解」

カザ「冒険者ギルドから出向して3ヵ月か。大分慣れたみたいじゃないか」
ルイ「全然。カザも操ってみればいいんだよあの自動人形」
カザ「試したさ」
ルイ「それで」
カザ「背中や腹の下に目が付いてるみたいで気持ち悪い」
ルイ「でしょ。どうして自分の手で罠を解除しちゃいけない訳」
カザ「ダンジョンで罠を解除するにはあれが理想なんだ。地底、水中、異空間。人間の体じゃ入れない場所もあるんだよ」
ルイ「何それ」
カザ「人間の限界だよ。限界。それにな。この乗馬だって、昔は教習所があったんだぞ。乗馬が貴族だけのもんじゃなくなって何年経つ。人間何にだって慣れちまうもんさ」
ルイ「でもね」
カザ「分かった分かった。じゃあ気分なおしに例のとこ行こう。な」

カザ「お邪魔します」
警備員「おう。また来たの」
ルイ「こんにちは。つい1年前なんだよね。冒険者ギルドにいたの」
カザ「ああ。実際あっという間だったな。今となってはここも観光名所の1つだもんな。なあ、入ってみるか?」
ルイ「まさか」
カザ「どうして」
ルイ「うまく言えないけど、もういいの。さあ、行こう。急がないと食堂また混んじゃうよ」
カザ「おおっと、そうだった。飯々っと。どうも。お邪魔しました」
警備員「おう」

ウォルフ「スカ! どこを狙って撃ってんだこのボケ! グランド5周!
 コラ! ギースにラディック、ダレてんじゃねえ! 直線は全力疾走せんか!
 ダッシュ! ダッシュ! ダッシュ! 何をヘラヘラしとるかロレンツォ! 貴様だけ5周追加だ!
 よおし次行け!」
見習い戦士A「はい!」
ウォルフ「コラ、リカルド! グランドに汚ねえ反吐をぶちまけるな! 貴様も5周追加だ!」
見習い戦士B「教官、質問」
ウォルフ「何だ」
見習い戦士B「あの、何故魔法強化せずに戦闘を。ヤイバを使用して強化すれば30%の命中率アップと聞いておりますが」
ウォルフ「そのヤイバが、使えなかったらどうする」
見習い戦士B「はあ? でもダンジョンの探索活動は6人パーティが原則ですし」
ウォルフ「その6人に、魔術師がいなかったら」
見習い戦士B「いやしかし、そんなケースは万に一つの」
ウォルフ「その万に一つに備えるのが俺達の仕事だろうが、このボケ! グランド20周、行け!」
ガルシア「まあ面倒見はいいし真剣だし、よくやってるとは思うがな」
ウォルフ「気合を入れてけ、射撃用意!」
ガルシア「アリーナに行く訳じゃねえんだからよ」
ウォルフ「標的出せえい」
ガルシア「気合いだの根性だの喚いてみたって、今日々の若え奴が付いてきやしねえぜ」
ウォルフ「このヘタクソ! どけ、俺がやってやる!」
ガルシア「ついでと言っちゃなんだが、折角こんなとこまで足運んでくれたんだ。王宮の騎士団長として、あんたからも言ってやってくれや」
ウォルフ「いいか。射撃は瞬発力と集中力の勝負だ。根性を入れて撃てば必ず当る。標的出せ! 喰らえ!
 まだまだ!
 見たか! 初弾が当ったからって気抜くんじゃねえ! 止めを忘れるな止めを!」
オルフェ「何やってるんですかウォルフさん! 苦しい予算の中から調達した備品を、何だと思ってるんです! ただちに退きなさい!」

ジャバ「隊長。すいません、うちの隊長見かけませんでした」
装備班員「班長。クルガンさん見かけなかったかって
スカルダ「ああ? クルガンさんがどうしたって?」
装備班員「クルガンさん捜してるんだって」
スカルダ「さっき裏の方へ行くのを見たぞ」
ジャバ「どうも。グレッグ先輩、隊長見かけませんでした?」
グレッグ「ああ、倉庫から竿を持ち出してたから、多分岸壁ですよ」
ジャバ「隊長。隊長」
クルガン「どうした?」
ジャバ「クイーンガード長代理から連絡が入りまして、帰隊時刻が多少遅れるそうです」
クルガン「会議押しちゃったのかな、それとも渋滞」
ジャバ「さあ、そこまでは」
クルガン「あ、そう。……どうしたの?」
ジャバ「あの、定刻を過ぎましたので、第1小隊に待機を引き継いで帰宅しても」
クルガン「そりゃいいけど、ソフィアさんがまだ戻らんしな」
ジャバ「やっぱ、まずいですよね?」
クルガン「でも、ま、いいか」
ジャバ「いいですかね?」
クルガン「いいんじゃないの。俺も残ってることだしさ」
ジャバ「あはははははっ」
クルガン「あはははははっ」
ジャバ「第2小隊、待機任務終了。明1200より、準待機に入ります」
クルガン「はい、ご苦労さん」
ジャバ「じゃ、失礼します」
クルガン「まったねー。……いい訳ないじゃないの」

ソフィア「これは昨年終了した湾岸開発計画、バビロンプロジェクトの工程と、魔神の稼働状況を表示したものですが、本計画の中枢をなしていたハーム、ローナス間の大突堤の完成から、その稼働数は減少の傾向にあります。
 その一方、ルメロリア空港第2次拡張計画など、地方都市での工事計画の開始ともあいまって、魔神の拡散の傾向がみられ、魔神によるトラブルや犯罪も、各地で増加しつつあります。
 これに対処すべく、ルメロリア、ローナスは、昨年デビルバスター隊を新設。
 さらにゼナ、トルカ、ラーダのデビルバスター隊についても現在設置を検討中であります。
 次に……」

フォーン「ソフィアさん」
ソフィア「誰か来てるとは思ってたけど、それにしても久しぶりね」
フォーン「そりゃないだろ。何度誘っても、王宮に篭もって出て来やしないくせに。クイーンガード昇進に次いで、長代理だって?」
ソフィア「何を聞いてたの。王宮騎士団そのものが本年度中にも改編される、それまでのつなぎよ」
フォーン「昇進は昇進さ。遅すぎた位だよ。ところでどうかな、今夜ラムテシール学校の卒業生が集って一席設けるんだけど。技本の、ランディーやバンクスも来るんだ」
ポール「今度こそ引っ張って来いって、厳命でね」
ソフィア「悪いけど今日は遠慮させて頂くわ」
ポール「そんな。ラムテシールさんとのことならもういいじゃないか」
フォーン「おい」
ソフィア「どの位になるのかしらね」
ポール「PKOから戻ったラムテシールさんが行方不明になってから3年か。ねえ、ラムテシールさん、君にも何にも言わずに」
フォーン「おい、いい加減にしろ」
ソフィア「一度だけ、帰国した直後に手紙を貰ったわ。
 本当に御免なさい。今夜からうちの小隊が待機任務なのよ。皆によろしく伝えて」
フォーン「お前が無神経すぎるんだよ」
ポール「王宮騎士団きっての才媛と言われた彼女の、ただ一つの傷か」

スカルダ「はい王宮騎士団」
ソフィア「スカルダさん? ソフィアよ。ようやく終わったわ。そちらの状況は?」
スカルダ「出動要請もなし。静かなもんです」
ソフィア「クルガンさんいるかしら」
スカルダ「呼びます? ちょっと時間かかるけど」
ソフィア「あの人も遠話の水晶の必要な人ね。いいわ。今街道に乗った所だから渋滞がなければ15分程で……。
 早速捕まったわ」
スカルダ「ご愁傷様。まあ留守は任せて、ゆっくり戻って下さい。それじゃ」
ザザ「こちら、ローナス交通騎士団(ロードランナー)です。騎馬隊が通過します。危険ですので馬車から降りたり、ドアの開閉は行なわないで下さい。
 こちら、ローナス交通騎士団です」
ソフィア「移動中のロードランナーへ。こちら、ドゥーハン王宮騎士団のソフィア。応答願います」
ザザ「こちらは交騎201。ソフィア隊長ですね。訓練所でお世話になったザザです。どうぞ」
ソフィア「任務中失礼します。橋の両岸で通行規制の様ですが状況を説明願えますか」
ザザ「ベイブリッジに違法駐車している馬車に爆弾を仕掛けたと通報がありまして、橋の通過を全面規制。現在処理に向かうところです」
ソフィア「了解。交信終わり。どうもありがとう」

紅い光弾がベイブリッジを直撃。
橋の中央、大爆発と共に黒煙を上げる。


「今日午後5時20分頃、街道湾岸線のアルマールとヴァンクールを結ぶベイブリッジで、大規模な爆発がありました。死傷者の数など、詳しい情報はまだ入っておりません」
「街道湾岸線はベイブリッジ爆発直後から全面通行止めになっています」
「爆破予告の占いにより、ベイブリッジは事故当時交通規制が布かれていました。騎士団では予言の犯人の割り出しを急ぐ一方、一連のテロ事件との関連を調べています」
「爆発の状況とその規模から、大掛りなテロとの見方が強まっています」
「午後10時を回った現在も、首都街道ダリア線の……」
「大掛りなテロとの見方が強まる一方、事故発生時にベイブリッジ周辺でワイバーンの鳴き声を聞いたという複数の情報も寄せられており、騎士団当局はその裏付けを急いでおります」

「SSNが入手した映像を専門家が分析した結果、この騎体はリルガミン製のD16の騎体をベースに独自の改良を加え、1998年に実戦配備された王宮竜騎士団の支援戦闘騎、D16Jであるとの見方が有力となってきました。
 同騎はガイネスの第3竜騎士団の2個飛行隊をはじめ全国で130騎が配備されており、王宮竜騎士団では事故当時の各機の所在の確認を……」
「ベイブリッジ爆破事件と竜騎士団の関連について国防省は、王宮竜騎士団内には該当する騎体は存在しないとの声明を発表しました。
 ベイブリッジ爆破事件で様々な憶測が飛びかうなか、竜騎士団の関与があったかどうかに論議が集中しています。
 国防省はいわゆるベイブリッジ爆撃事件で、竜騎士団の関与を繰り返し強く否定しています。
 ベイブリッジ爆撃事件に関して政府は特別調査委員会を設置し、真相の解明に全力を尽くすとの見解を示しました。
 この時間は番組を変更して報道特別番組をお送りしております」

ルイ「なんか、大変なことになってるね」
カザ「ベイブリッジか?……まあ、これだけの騒ぎだからな。
 本当に竜騎士団が関与してたなんてことになれば、国防省大臣の首が吹っ飛ぶぐらいじゃ済まされないだろうな。……BLTサンドくれ」
ルイ「いま食べちゃったよ」
カザ「何で? 一人一つずつ確保したはずだぞ」
ルイ「ごめん、あんまり美味しかったから。あたし好きなんだ」
カザ「俺だって好きだ!」
ルイ「サーモンサンドでいいよね、剥いてあげるから。
 ね、カザ」
カザ「何だ」
ルイ「こんな時に、こんなことしていいのかな」
カザ「そんなこととはサンドイッチのことか」
ルイ「そうじゃなくて……なんだか最近食べてばっかりいるって、そう思わない?」
カザ「お前な、ひとのBLTサンド喰っといてよくそんなこと言えるな!」
ルイ「あたしたち、まだ冒険者なんだよね?」
カザ「俺たちがテストを重ねたシステムが、明日の自動人形(オートマトン)に搭載されることになるんだ。重大な仕事だしストレスも多い。大飯喰らってどこが悪い。
 この間まで現場にいた身とすりゃ寂しい気がするのは確かだけどな……。でもどっちにせよ今回の事件は規模がデカすぎる。政治がらみだし、先行きはともかく今の状況じゃ隊長たちだって動きようがないさ」
ルイ「あたし、なんだか時々判らなくなるんだ」
カザ「判らないって、何が?」
ルイ「今時分がしてる仕事は何なのか、とか。自分は何をしたいのか……冒険者だった頃はそんなこと考える暇もなかったけど。
カザ「次々いろんなことがあって、それどころじゃなかったからな」
ルイ「でもさ、あの頃は今自分がやらなきゃいけないことが何なのか、考えなくても判ってたって、そんな気がしない?」
カザ「ルイ、サプライズクォーツの音量を上げろ!」
ルイ「なんなんだってば!」
カザ「いいからやれ! それが済んだらデッキのディスクを回してくれ、急げ!」
?(……デルタ……ユニフォーム……ホテル……アルファ……)
ルイ「なんなのこれ?」
カザ「3日前から毎晩この時間になると流れるようになった不正規呪波さ。開発部の連中の間で話題になって、どうせ暇だから解析してやろうと思って狙ってたんだけど出力が弱いらしくてさ、街中じゃ捕まらないんだ。この辺りでオープンスペースと言っても、そうはないからね」
ルイ「それで今日の夜食がサンドイッチだったんだ。
 で、……食券何枚賭けたわけ?」
カザ「使用無制限のゴールドカード」
ルイ「ほんと?」
カザ「そんなもんあると思うか?」
?(……501……202……302……538……)
カザ「こりゃ駄目だな」
ルイ「駄目なの?」
カザ「まあ継続して録音し続ければ、比較することで多少は判ることもあるかもしれないが、解読なんてものにゃ程遠いな」
ルイ「サンドイッチ無駄だったね」
カザ「無駄だった」
ルイ「でもさ……不正規呪波なんて珍しくもないのに、なんで皆この呪波にだけ興味があったわけ?」
カザ「知りたいか?
 頭に流れてた単語、覚えてるか?」
ルイ「ううん」
カザ「あれは呪波通信なんかで誤認防止に使っている符丁(フォネティックコード)だ。それぞれが一つの文字を表してる」
ルイ「イロハのイ?」
カザ「そういうこと……デルタはD、ユニフォームはU……ホテル……アルファ……ノベンバー……ウィスキー……アルファ……ロメオ……オーヴァ!!
 判るか?」
ルイ「ド、ドゥ、ハ……何コレ?」
カザ「これでどうだ」

DUHAN WAR

ルイ「カザ」
カザ「何だ」
ルイ「この呪波が流れたのって、確か3日前からだって言ってたよね」
カザ「ああ、それが何か……まさか、……そんな」
?(……321……803……902……501……320……)

アオバ「で、目撃者の一人が機材に書かれたそちらの名前をおぼえていましてね」
アスワン「おかしいな」
アオバ「は?」
アスワン「いや確かにあの時うちのスタッフが撮影してましたよベイブリッジ。でもそのディスクはもう証拠品として提出済みですけどね。あんた、本当に騎士団の人? 昨日の2時頃だったかな。しかし妙な話だね」
アオバ「どこの署の者か、名乗りませんでしたか」
アスワン「いや。あんたと同じ位本物に見えたけどね」
アオバ「ディスクを押収する際に、何か書類は」
アスワン「そういうやりとりは発注元とやったらしくて、あたしが見たのはクライアントからの指示書だけでね。ま、何だって言うなりだからねうちは下請けだから」
アオバ「コピーとか」
アスワン「オリジナルすら満足に保存できないのに? マスターを納品したら素材は全て潰してしまうのが現状だから」
アオバ「ところでテレビで放映した例のD16の映像、あなたも見ました?」
アスワン「嫌んなるほど見たけど、それが何か?」
アオバ「押収されたディスク、あれよりは鮮明なんでしょうな」
アスワン「そりゃサプライズクォーツだからね。安物水晶とは違うよ」
アオバ「何か映ってましたか? 爆破の瞬間はあったわけでしょう」
アスワン「瞬間というか、ま、直後のもんだね」
アオバ「あんた見たんじゃないの、その目で」
アスワン「そりゃ見たさ何度も何度も私が編集したんだから。でも納期も迫ってたし、使える絵を探しただけで、何か映ってないかと思って見てた訳じゃないからね。映ってると知ってりゃ見えただろうけどさ。
 もしかしたら、何か映ってたのかもしれないな」

クルガン「なるほど。そりゃあ確かに気になるわな。うん。頼むわ。面倒かけちゃって悪いんだけど。
 え? またまた。精神的にお返ししますって。ほんじゃあ、また」
ソフィア「アオバさんね」
クルガン「うん。ソフィアさんによろしくってさ」
ソフィア「クルガンさん」
クルガン「はい?」
ソフィア「またアオバさんと組んで何を始めたか知らないけど、動く時は一言言って頂戴。裏でこっそりってのはなしにして」
クルガン「それってクイーンガード長代理としての命令?」
ソフィア「命令なんてしたくないわ同僚としてのお願い」
クルガン「お願いじゃあ聞かない訳にはいかないか」
グレッグ「失礼します」
クルガン「おう」
グレッグ「あの、隊長にお客さんなんですが」
クルガン「隊長二人いるけど、どっちの?」
グレッグ「さあ」
クルガン「誰なの?」
グレッグ「さあ」

クルガン「陸幕調査部別室、のユージンさんね。階級も称号もないんですね」
ユージン「まあ色々不都合がありまして」
クルガン「で、ご用件は?」
ユージン「本題に入る前にちょっと見て頂きたいものがありましてね。これなんですが。お願いできますか」
ソフィア「このディスクでいいんですか?」
ユージン「いいんです。これで」
クルガン「この曲、俺歌えるわ」
ユージン「まあこの辺はどうでもいいんですが。歌いますか」
クルガン「マイク、ないんだよね」
ユージン「じゃ、とばします。この辺です」
クルガン「惚れて惚れて、泣いて泣いて?」
ユージン「いえ、その後です。ああ、雨に濡れながら。ここです」
ソフィア「どこ!?」
ユージン「ほら、右上の。この雲の切れ目のとこ」
クルガン「ん? んん? ん?」
ソフィア「どこ? あたしには見えないけど」
ユージン「ここですよここ! この黒い鳥みたいな影! クルガンさんはもうお分りの筈だ」
クルガン「このすぐ後に、ベイブリッジが吹っ飛んだんだ」
ユージン「これを踏まえた上で、もう1枚のディスクを見て頂きたい。
 改竄の余地のないよう作業の過程を全て収録してあります。魔法技術の驚異って奴ですな。分かりますか?」
クルガン「あんまり詳しくないんですが、放映された例のディスクの奴とは形が違うような」
ソフィア「そういえば」
ユージン「これでどうです。左が今見たディスクのもの。そして右がテレビで放映されたもの。よくご覧なさい。左が最新型のステルス翼。そしてこれも、ごく最近開発された竜騎殻。
 そしてここからが本題ですが、王宮竜騎士団はこのタイプのD16を、装備していない」
ソフィア「ちょっと待った。その前に、どうしてうちにその話を?」
ユージン「無論真相究明に協力して頂きたいからですよ。それに最悪の事態に備えて、現場レベルでのパイプを騎士団との間に確保しておきたい。もちろんその為には我々の入手した情報は全て提供します」
ソフィア「最悪の事態とは、どういうことかしら?」
ユージン「どうです。ドライブでもしませんか。近場をぐるっと」

ユージン「走る馬車の中にいると落ち着く性分でね。考えがよくまとまるんですよ。走ることで自らは限りなく静止に近付き、世界が動き始める」
クルガン「それに移動する馬車内なら話が外に漏れる心配もないか。そろそろ仕事の話、しません?」
ユージン「ベイブリッジが爆破された夜、ガザル=ボダでの夜間編隊訓練中に失踪したリルガミン騎がありましてね」
クルガン「それがさっきのディスクの騎体だと?」
ユージン「リルガミン軍自身がそれを認めて報告してきたんですよ。勿論非公式なものですがね。
 我々には独自のルートがありまして。軍は軍同士って訳です。意外に思えるかも知れませんが、事実を隠して我が国の防衛体制を徒に混乱させるのは、彼らにとっても得策ではないのでね」
クルガン「でも何故、リルガミン軍がベイブリッジを?」
ユージン「無論彼らに攻撃の意志があった訳じゃない。今回の事件に関して言えば、リルガミン軍も、そしておそらくはファイアーボールを発射した騎士も、被害者に過ぎない」
クルガン「説明、してくれるよね」
ユージン「我々は1年程前からあるグループの内偵を進めていましてね。国防族と言われる政治家や幕僚OB、それにリルガミンの軍需産業。リルガミン軍内の一部勢力。まあそういった連中の寄り合い所帯です。
 冷戦終結後、拡大の一途を辿るエセルナートの軍拡競争の流れの中で、一向に軍備の増強を図ろうとしないドゥーハンに対して、彼等は根強い危機感を持っていた。
 そして、平和惚けのドゥーハンの政治状況を一挙に覆すべく、彼等は軍事的茶番劇を思いついた。
 憶えてますかね? 26年前、ドゥーハンの防空体制と国防意識を揺さぶったドラゴンライダーの亡命騒ぎ。あれの再来ですよ。低空で首都の玄関先に侵攻し、その真白なドアにロックオンのサインを刻んで帰ってくる。
 そして作戦は見事に成功した。ただ一つ、本物のファイアーボールが発射されたことを除けばね」
ソフィア「事故?」
ユージン「かもしれないが、それが証明されない限り何者かの意志が介在したと考える方が自然だ。
 現にその場を離脱したD16は、現在に至も帰還していない」
クルガン「その危ない連中の茶番が、どこかの誰かに利用されたとして、その目的は?」
ソフィア「ちょっと待って。その前に、そこまで分かってるなら公表して竜騎士団への疑惑を晴らそうとしないの。国防省はそのことを」
ユージン「勿論知ってるさ。幕僚達は公表を迫っているが、政府はまだ迷っている。第3者の犯罪の可能性といっても、状況から推測しているだけで確たる証拠は何もなし。事故の線で公表したにしても、収拾のつかないスキャンダルに発展することは避けられない。例によって、取り敢えず真相の究明に全力を挙げつつ、事態の進展を見守ろうと、まあそんなとこさ。馬鹿な連中さ。それこそ奴の思う壷だ。現場を無視したこんなやり方が続けば、いずれは」
クルガン「薮を突いて蛇を出しかねない、か」
ユージン「そうなる前になんとしても犯人を押さえたい。協力して貰えるでしょうな」
クルガン「ユージンさん、だったっけ? 面白いお話だったけど、それこそ状況証拠と推測だけで、確たるものは何もない。
 さっきのディスクにしたって、ディスクそのものに証拠能力のないことは、あんた自身が証明してみせた訳だし……。
 やっぱこの話、乗れんわな?」
ユージン「クルガンさん。あんたはやっぱり噂通りの人だ。私の人選は間違っちゃいなかったよ。
 ……だが、二本のディスクが二本とも虚構だったとして、吹っ飛んだベイブリッジだけは紛れもない現実だ。
 違うかね。座席の背にあるファイル。
 ラムテシール。例のグループの創立以来のメンバーで、現在所在不明。我々が全力を挙げて捜している、第一級の容疑者だ。王宮騎士団に関わる者なら、その名前位は知ってると思うが。
 仕事柄、我々はこの手の人捜しが苦手で。……事が事だけに騎士団に持ち込むわけにもいかなくてね」
クルガン「一応俺達も騎士団なんだけど」
ユージン「クルガン隊長はあちこちに強力なパイプをお持ちだそうですな。それに、クイーンガードの超法規的活動、いや活躍と言った方がいいのかな、噂は常々」
クルガン「大変な誤解ですな。おたくと同じ、ただの"公務員"ですよ」
ユージン「失礼。私だ。何?」
クルガン「おい! 仮にも現役のクイーンガード2名を乗せてるんだからさ!」
ユージン「奴の動きの方が速かったよ。爆装したD16Jが3騎、ガイネスを発進して南下中だ。
 約20分後に、ドゥーハン上空に到達する」

オペレーターA「SIF照合。当該騎、北部航空方面隊3空8竜騎士隊所属、D16J3機。コールサイン"ワイバーン"。応答なし」
オペレーターB「エリアH2K1(ホテルツーキロワン)、方位190(ヘディングワンナインゼロ)、高度12000、速度720ノット……なお南下中。間もなく第27警戒群(SS)の警戒空域に入ります」
ドゥガン「ガイネスはどうだ、つながったか」
オペレーターA「北部作戦指揮所(SOC)をはじめ、各竜騎士隊とも応答ありません」
バペット「直通回線(ダイレクトライン)で砦の司令を呼び出せ。出るまで続けろ」
ドゥガン「まさか、ガイネスが」
バペット「バカ、そんなことがある訳ないだろ」
オペレーターA「要撃騎、上がりました!」
オペレーターB「アカチ204より"ウィザード"03(ゼロスリー)、04(ゼロフォー)、レノック303より"プリースト"21(ツーワン)、22(ツーツー)。会敵予想時刻、"ウィザード"2204(ネクストゼロフォー)、"プリースト"2210(ネクストワンゼロ)」
竜騎士A「"トレボー"、こちらウィザード03。現在高度12000
    (This is Wizard 03. Now maintain angel 12)」
オペレーターB「ウィザード03、こちらトレボー。誘導を開始します。同高度にて040へ
       (Wizard 03, this is Trebor. You are under my control. Stay 040, maintain same angel.)」
竜騎士A「了解
    (Roger.)」
オペレーターA「ワイバーン、なお南下中。以前応答無し」
オペレーターB「追尾、SS37よりSS27へハンドオーヴァー」
オペレーターA「"ウィザード"会敵予想時刻修正、2205(ネクストゼロファイブ)
オペレーターB「ウィザード03、目標方位030、距離90ノーチカルマイル、高度12000
       (Wizard 03, target position 030, range 90, altitude 12)」
バペット「部長、会敵してなお応答のない場合は」
オペレーターB「北空SOC、繋がりました!」
ドゥガン「こちら中空SOC、どういうことなんだ。南下している、支援戦闘騎(KS)を、すぐに引き返させろ!
 なに、上がっていない!?」
オペレーターC「ガイネス管制隊は発進を確認していません。8竜騎士隊に保有騎の所在を確認中ですが、回線が不通。
 ダイレクトラインも輻輳を起こしています」
ドゥガン「北空の竜騎士隊を、全部確認しろ! 最優先だ!」
オペレーターC「了解」
バペット「部長」
ドゥガン「SIFコードは確実に変更されているし、外部の偽装は不可能だ。システムエラー?」
バペット「自己診断プログラムが常時走ってるんです。エラーのまま進行することはありえません」
ドゥガン「"ウィザード"、コンタクトはまだか」
オペレーターA「目標正面。距離25ノーチカルマイル。ウィザード、レーダー探知はどうか?
       (Target dead ahead 25. Wizard 03, how about contact?)」
竜騎士A「コンタクトできない……目標高度の確認を乞う
    (Negative contact. Request target altitude.)」
ドゥガン「目標は、あとどれ位で首都圏に入る」
バペット「約十分後です」
ドゥガン「アプマートの第一高射群に発令。ただちに迎撃態勢に入れ。それと……大臣に緊急連絡だ」
竜騎士A「"トレボー"、こちらウィザード03。レーダーに反応無し。再度目標の確認を乞う
    (Trebor. Wizard 03. Negative contact. Bogy dope.)」
オペレーターA「目標正面。……距離15ノーチカルマイル。方位190。高度12000、速度マッハ1.3……ウィザード03減速せよ
       (Target deadahead 15, heading 190, altitude 12, mach 1.2. Reduce speed.)」
竜騎士A「補足できない! レーダーに反応無し! ……繰り返す、補足できない! 目標はどこだ!
    (No joy. Negative contact. I say again, no joy. Request target position.)」
バペット「危険です。一度退避させて、再度」
ドゥガン「時間がない。奴が進路を変えれば、"プリースト"のアプローチは手遅れになるかもしれん」
オペレーターA「警戒! 同位置! 高度差なし!
       (Caution. Almost same position. Same altitude. Please caution)」
竜騎士A「補足できない! 目標はどこだ!
    (No joy. Request target position.)」
オペレーターA「警戒せよ! ウィザード、警戒せよ!
       (Caution. Wizard. Caution.)
 ウィザード! 退避せよ、ウィザード!!
 (Wizard. Break. Wizard.)」
ドゥガン「ベイルアウト……撃墜された?」
バペット「まさか」
オペレーターB「目標、変針します。方位210、降下しつつ増速中!」
オペレーターA「"プリースト"接近、距離20マイル!」

管制官A「なんだこれは?」
管制官B「どうなんだ?」
管制官C「こっちにくるぞ」
管制官A「ニアティルブから連絡のあった奴か。無茶しやがる」
管制官C「まさか、ベイブリッジの続きじゃ」
管制官B「冗談じゃねえ」
管制官A「アプローチに入った便を除いて、着陸待ちは全て上空待機だ。高度に注意しろ」
管制官C「国内線はルメロリアにまわせ。急げ!」
アナウンス「ただいま上空の天候が不安定なため、全ての到着便ならびに出発便の変更を行っております。
 いましばらくお待ち下さい」

オペレーターB「アラム上空を通過。高度4000まで降下、方位250……なお西進中!」
オペレーターA「"プリースト"、レーダーコンタクト! "ワイバーン"を捕捉しました!」
オペレーターB「高度3500、約60秒後に首都圏に到達!」
ドゥガン「武器の使用を許可する」
バペット「しかし」
ドゥガン「人口密集地に入る前に落とせ!」
オペレーターA「プリースト21、こちらトレボー。武器の使用を許可する。ワイバーンを撃墜せよ
       (Priest 21, this is Trebor. Clear fire. Kill Wyvern.)」
竜騎士B「トレボー、もう一度言ってくれ
    (Trebor. Say again.)」
オペレーターA「繰り返す、ワイバーンを撃墜せよ
       (I say again. Kill Wyvern.)」
オペレーターB「……首都圏到達まで、あと30秒!」
ドゥガン「"プリースト"どうしたッ!」
オペレーターB「残り25秒!」
ドゥガン「プリースト21! 奴は本気だ、ベイブリッジを繰り返させるな!」
竜騎士B「……了解。"ワイバーン"を撃墜する
    (Roger. Kill Wyvern.)」
竜騎士A「……ちらウィザード03……指示をお願いします……こちらウィザード03
    (03 Request order. This is Wizard 03.)」
オペレーターB「"ウィザード"から送信です!」
ドゥガン「プリースト21待て!」
オペレーターB「ウィザード! ……ウィザード03、こちらトレボー。無事か?
       (Wizard, Wizard 03, this is Trebor. Are you normal ?)」
竜騎士A「トレボー、こちらウィザード03。強力な通信妨害にあった模様。現在位置を見失った。
    (Trebor, this is Wizard. Ah, we have heavy jamming, and now lost position.)
 指示を乞う。……繰り返す、指示を乞う。
 (Request further instraction. I say again, request order.)」
オペレーターA「SIF照合。アカチ"ウィザード"03、04。確認。周辺空域に不明機(アンノン)なし」
ドゥガン「プリースト、攻撃を中止せよ」
オペレーターB「攻撃中止!」
ドゥガン「"ワイバーン"が、消えた」
オペレーターB「要撃騎(KI)が指示を求めています」
ドゥガン「警報解除。プリースト帰投せよ。ウィザードも帰投させろ」
竜騎士A「こちら"ウィザード"……現在位置不明……指示を乞う。……こちら"ウィザード"
    (This is Wizard 03……Lost position……Request order. ……This is Wizard 03)」

ユージン「もともと竜騎士団のバッジシステムはその性格上閉鎖システムとして設計されていたんだが、政治的判断やら、安全保障体制への建前やら、色々あってね。
 結局在ドゥーハン・リルガミン軍砦ともリンクしているのが現状だ。あんた聞いてんのか?」
クルガン「その代償が例のスクランブル騒ぎってことだろ」
ユージン「犯人はホウライにある情報サービス会社のゲイトウェイから、リルガミンの大学のネットを経由して在ドゥーハン・リルガミン軍砦のシステムに潜り込み、ニアティルブCOCのメインフレームを通して、幻の爆撃を演出してみせた。そういう仕掛けさ……。
 奴らが中継していたクリスタルから吸い出したデータに、その痕跡が発見されたよ」
クルガン「原理的には可能でも、実際問題としてできるのそんなこと?」
ユージン「防空司令所の連中が賢明に追尾した3騎のワイバーンSOCのスクリーンには表示されていたが、アラムやドゥーハンコントロールのレーダーに映っていたのは4騎の要撃騎だけだった。
 首都を目指していて飛んでいた攻撃騎がただの幻だった。それが何よりの証拠さ。
 現行のバッジは1991年に旧システムを一新したものだが、処理速度の向上を図って去年ソフトを書き替えたばかりでね。
 その計画に関わった技術者の中に、奴等のシンパがいたのかもしれん」
クルガン「今回も真相は公表されずじまい、か」
ユージン「政府も国防省もバッジにハッキングされたなんてことは公にしたくないしな。
 調査委員会の報告が提出されるまでの間の暫定的措置として、ガイネスの各竜騎士隊に飛行禁止命令が出たのは知ってるだろ」
クルガン「確かに飛ばない限り偽装しようがないが、一般の目には疑惑を肯定したとした映らんだろうな」
ユージン「理不尽な話さ、またしても泥を被るのは現場だ。それに真相を解明する前に次の状況に移るとしたら……」
クルガン「事実そうなったしな。ラムテシールについて他には」
ユージン「ラムテシール学校のことは」
クルガン「概略位はね。……戦術的召喚術機械運用研究準備会、だったかな。
 魔神の軍事的価値に逸早く注目し、様々なシュミレーションモデルによってその有効性を実証。
 騎士団技術研究本部と商人との連携に多大な成果を挙げた。会の中心人物の名前から通称、ラムテシール学校。
 PKOへ魔神の派遣が決まった時、彼が志願したのは自分の理論を実践してみたかったからなのかもしれんな」
ユージン「魔神の運用に最も向かない高温多湿の熱帯雨林で、十分なバックアップもなしに単独で投入され魔導師部隊がどうなるか、彼が一番よく知っていたさ」
クルガン「それでも彼は行った。何故だ?」
ユージン「その前に。王宮騎士団クイーンガード創設直前、レクチャーを受けるために教会から一人の僧侶がラムテシール学校に派遣された」
クルガン「ソフィア、か」
ユージン「彼女はラムテシール学校の優秀な生徒であり、そしてラムテシール本人の最高のパートナーだった」
クルガン「まあ、ちょっとした不祥事があって、記録には残ってないけどね。
 立場がどうあれ男と女だもの、……そういうこともあるさ。
 彼に妻子がなければそれで済んだかもしれんがね」
ユージン「調べたのか」
クルガン「当時騎士団にいた者なら、誰でも知ってるさ。俺みたいな男でもね、同僚の過去を調べるなんざ、願い下げだ」
ユージン「同僚ね。まあそういうことにしておこうか」
クルガン「騎士団ってとこはそういうのに煩いからね。
 本来ならキャリア組として王宮騎士団のエリートコースを歩む筈だった彼女が、城塞の端に島流し……。
 ラムテシールがズダイ・ツァに行ったのはそれが理由なのかな?」
ユージン「さあな……そんなロマンチックな動機だとしたら、とんだお笑いだ」

ジャバ「隊長ー!」
ユージン「しかし派手だな、あんたたちの装備は」
クルガン「忍者には酷な装備さ。私服のあんたが羨ましいよ」
ユージン「なに。これはこれで苦労があるのさ、地味ならいいってもんでもなくってね。
 敵とは異なっていながら、しかも目につきにくい服装ってのは難しいもんさ。
 俺の仕事では、それが特に重要でね」
クルガン「なるほど。んじゃ。
 ねえ。奴の最終的な目的って何なのかな。奴さん一人で戦争でもおっ始めようってのか」
ユージン「戦争だって!? そんなものはとっくに始まってるさ。問題なのはいかにケリをつけるか……それだけだ」

ユージン「な、クルガンさん、騎士団として冒険者として、俺たちが守ろうとしているものってのはいった何なんだろうな。
 前の戦争から半世紀、俺もあんたも生まれてこのかた戦争なんてものは経験せずに生きてきた。
 ……平和、俺たちが守るべき平和。だが、この国の、この街の平和とはいったい何だ?
 かつての総力戦とその敗北、リルガミン軍の占領政策、ついこの間まで続いていた核撃抑止による冷戦とその代理戦争。
 そして今も世界の大半で繰り返されている内戦、民族衝突、武力紛争……。
 そういった無数の戦争によって合成され支えられてきた血まみれの経済的繁栄。
 それが俺たちの平和の中身だ。戦争への恐怖にもとづくなりふりかまわぬ平和。
 その対価をよその国の戦争で支払い、そのことから目をそらし続ける不正義の平和……」
クルガン「そんなキナ臭い平和でも、それを守るのが俺たちの仕事さ。不正義の平和だろうと、正義の戦争よりはよほどマシだ」
ユージン「あんたが正義の戦争を嫌うのは良く判るよ。かつてそれを口にした連中にロクな奴はいなかったし、その口車に乗って酷い目にあった人間のリストで歴史の図書館は一杯だからな。……あんたは知っている筈だ。正義の戦争と不正義の平和の差は、そう明瞭なものじゃない。平和という言葉が嘘つきたちの正義になってから、俺たちは俺たちの平和を信じられずにいるんだ。
 戦争が平和を生むように、平和もまた戦争を生む……。
 単に戦争でないというだけの消極的な平和は、いずれ実体の戦争によって埋め合わされる……そう思ったことはないか?
 その成果だけはしっかり受け取っていながらモニターの向こうに戦争を押し込め、ここが戦線の後方であることを忘れる、いや忘れた振りをし続ける……。
 そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下される、と」
クルガン「罰? 誰が下すんだ、神様か」
ユージン「この街では誰もが神様みたいなもんさ。いながらにして、その目で見その手で触れることのできぬあらゆる現実を知る……なにひとつしない神様だ。
 神がやらなきゃ人がやる……。いずれ分かるさ。俺達が奴に追い付けなければな」

ソフィア「それは十分分かっております。はい。ですからそういうことでは……しかし騎士団長!」
タイロッサム「だからこそ我々としても万一に備えて可能な限りの対応をせねばならんのだ。
 これは大臣の命令でもある。改めて命令する。明朝7時よりクイーンガードはその総力を挙げ、所轄の騎士団及び第4重装騎士隊と共にアインシュタット駐屯地の警備に当たりたまえ。以上だ」
クルガン「出動するつもり? ソフィアさん?」
ソフィア「ガイネスの各竜騎士隊に飛行禁止命令が出たのは知ってるわね。
 今から30分前、抗議のため馬車でドゥーハンに向かおうとしたガイネス砦の司令をカーラ騎士団が事情聴取のために連行したそうよ。しかも砦ゲート前でね」
クルガン「あそこの騎士団長は王宮勤務時代からレドゥアの腰巾着と言われてた男だったな。
 それにしても無茶しやがる。自分の家の玄関でそんな真似をされて、黙ってるかどうか」
ソフィア「ガイネス砦は現在外部との交信を途絶して実質的な篭城に入ったそうよ。
 こんな時にあなたは一体どこをうろついてたの!
 準待機とはいえ無断外出で持ち場を離れ、高速艇の迎えまで出させるなんてどういうつもりなの。
 裏でこそこそ動かないと言った私との約束なんかどうでもいいってことなのね」
クルガン「ゴメン! ……この通り!
 でもさ、あのユージンに会いに行くと言ったら許可してくれた?」
ソフィア「する訳がないでしょう。あんな男! それによりにもよってこんな情勢下に、騎士団のそれも情報関係の人間とクイーンガードの人間が密会するなんて」
クルガン「こんな情勢だから会う必要があるんだけどな」
ソフィア「何ですって!」
クルガン「ねえ、落ち着いて考えてご覧よ。今俺達が何をすべきなのか。
 それぞれの持ち場で何かしなくちゃ、何かしよう、その結果が状況をここまで悪化させた。そうは思わないか?」
ソフィア「でも万一の事態に対応できるようにやれるだけのことはやっておく必要が」
クルガン「万一の事態って、一体何だい?
 誰もがまさかと思い、同時にもしやと疑いを否定できない。あのベイブリッジ以来ね。
 この間のスクランブル騒ぎがいい例さ。ニアティルブの防空司令は撃墜命令まで出しちゃったって言うじゃない。
 あの狸親父この機会に点数を稼いでクイーンガードの権限を拡大しようって腹だろうが、こんな情勢下に王宮騎士団がその矛先を竜騎士団に向けたらどうなるか。
 ラムテシールって男、もし今回の事件の首謀者だとしたら大した戦略家だ。
 僅か一発のファイアーボールでこれだけの状況を作り出し、しかもなお事態は進行中だ。
 やっぱり明日の出動やめようよ」
ソフィア「私だって行きたくないわ。でも騎士団長の正式な出動命令なのよ」
クルガン「うちの小隊、動かないよ」
ソフィア「クイーンガード長代理として命令することもできるのよ」
クルガン「してみれば、命令」
ソフィア「結構。では第1小隊もこれより独自に行動します。
 私もたった今からクイーンガード長室の方へ移りますから」
クルガン「いや、あのしかし、ソフィアさん?」
ソフィア「私物は後で取りに参ります。失礼」
クルガン「そんな……ちょっと……ねぇ。んなことしたって、オレ絶対に行かないんだからね!
 …………あ、ソフィアさん? ……オレだけど。……ウン、気、変わった。いま変わった」

「……こちらアインシュタットにある王宮竜騎士団第1師団の駐屯地です。
実質的な籠城に入ったガイネス砦に呼応し、各地の竜騎士団駐屯地でこれに同調する動きが見られるなか、首都に駐屯するここ第1師団でも同様の動きがあるとの情報にもとづき、今朝王宮騎士団第4重装騎士隊およびクイーンガードが警戒出動。
 これに反発する砦守備隊との間に無言の睨み合いが続く異常事態となっております。
 このような事態はここだけでなく……」
「……今回の警備出動の法的根拠をめぐって政府内にも批判が出る一方、国防省は抗議行動中の部隊に対する説得を続けていますが、竜騎士団内の不満には根強いものがあり、静観を守る王宮海軍を除いて、こうした行動は王宮竜騎士団各砦から他の騎士団へと急速に広がっており、このまま事態が長期化すればシヴィリアンコントロールの崩壊に繋がる恐れもあるとの見方も……」

タイガ「おい。君の小隊の忍者は配置に付いていないそうだがどういう訳だ」
クルガン「は?」
タイガ「忍者だ。何故姿を見せたままなんだ。訳を言いたまえ」
クルガン「ああ、これですか。故障であります
タイガ「何、故障? クイーンガードの忍者は故障するのか。嘘をつくな」
クルガン「本当です」
タイガ「よし。だったら立っているだけでもいい。配置に付かせたまえ」
クルガン「お言葉ですが……。なにせ故障中ですので万一倒れるようなことがありますとテレビを通じて全国に王宮騎士団の恥を晒すことになりますが、それでもやります?」
タイガ「これは現場指揮に対する明白なサボタージュだ。騎士団長に報告する。覚悟しておけ」

クルガン「……はいクルガン」
ユージン「俺だ。テレビで拝見してるよ。宮仕えは辛いってとこか」
クルガン「子分の勇み足で引っ込みがつかなくなって、頭に血が上ったのさ。馬鹿な親分の下にいると苦労するよ」
ユージン「こちらも同じさ。悪い軍隊なんてものはない。あるのは悪い指揮官だけだってね。
 各地の篭城の責任を取るってことで、竜騎士団の幕僚長が一斉に辞任したよ」
クルガン「本当か?」
ユージン「30分程前だ。じきに報道されるさ。連中これで天下晴れてベイブリッジの一件をばらすつもりだが、遅すぎたよ。ここまでこじれた後じゃな。リルガミン軍が掌返せばそれまでだ。
 真相を公表するタイミングを逸しただけでなく、事態を収拾するチャンネルも消えちまった。
 また一つタガが外れたのさ。おい。聞いてるのか」
クルガン「ああ。聞きたくなくなってきたがな」
ユージン「聞いて貰うさ。ここからが本題なんだ。
 政府は自分達のことは棚に上げて、ここまで事態を悪化させ騎士団を逆恨みしている。頼るに値せず、ってな。
 で、シナリオは変えずに主役を交替することにしたって訳だ」
クルガン「おい。まさか……」
ユージン「そのまさかだ。
 舞台はミスキャストで一杯。誰もその役を望んじゃいないのにな。素敵な話じゃないか。これが俺達のシビリアンコントロールってやつさ。
 ラムテシールは3年前自分の部下を死なせたのと同じルールで今度は俺達がどんな戦争をするのか、それを見たがっているのかもしれんな」

竜騎士団治安出動。

竜騎士偵察隊「ヤタガラスよりタカマ。"カムヤマト"の通過を確認。送れ」

アナウンサー「ドゥーハンおよび近辺の視聴者の皆さんに、これから緊急放送をお送りします。テレビの近くにいる方はできるだけ多くの方に声をかけ、放送をご覧になるようご協力をお願いします。
 先程ノエル内閣官房長官は緊急記者会見を行い、首都圏の治安を維持し予測される最悪の事態に備えるため、王宮騎士団内の信頼の置ける部隊に出動を要請したと発表しました。」

アナウンサー「今回の要請についてノエル長官は次のような政府の公式見解を表明しました。一連の騎士団関連事件について十分な検討を行なった結果、最早現在の警察力のみでは予測される最悪の事態に対応できないという判断に基づくものであり」

アナウンサー「その活動も現行法の範囲に限定され、出版や放送の検閲・予防検束などの実施はあり得ないと繰り返し言明しており、従ってこれはいわゆる治安出動にはあたらないとの見解を示しております」
アナウンサー「この決定を受けて現在配備が進んでいる部隊は、王宮騎士団東部方面隊」
ガルシア「座ってろ」
ウォルフ「しかし主任」
ガルシア「いいから、座ってろ」

アナウンサー「第1師団第1歩兵連隊、同第31歩兵連隊、同32歩兵連隊、同第1魔導連隊、同第1戦車大隊、同魔導教導隊、同戦車教導隊、同歩兵教導隊、同東部方面第1飛行隊、第106通信運用大隊、第1機甲教育隊、およびガイネス教導団魔導教導隊、同戦車教導隊……」 装備班員「はいこちら買い出し部隊」
スカルダ「俺だ。いいかよく聞け。たった今からお前らは買い占め部隊だ。その店の食い物をありったけ買ってこい。今増援部隊を送った」
装備班員「了解! 直ちに買い占め、突入します!」
スカルダ「かかれ!」
店員「いらっしゃいませ」
装備班員「ああ、グスタフ先輩」
グスタフ「馬鹿野郎! こんなとこで何じたばたやってやがる! ピクニックに行くんじゃねえんだ。ちっとは保存ってことを考えんか。倉庫だ。倉庫行ってラーメンを箱で買え箱で!
 おい姉ちゃん。この店の食い物はたった今クイーンガード装備班が買い切った!」

スカルダ「鏡面装甲のチェックだ! 予備のロングソードも全部魔法付与にかかれ! クイーンガード装備班はこれより24時間の臨戦体制に突入する! 長期戦に備えよ! 今日からはトイレットペーパーも一人一回15センチまでだ!」
クルガン「スカルダさん。……スカルダさんてば」
装備班員A「来たぞォ〜〜ッ!」
装備班員B「90式に、コマツの2式もいるぞ!」
装備班員C「そうかァ、あれが93式キャリアかァ!」

ソフィア「どうなるの、これから?」
クルガン「家主もし盗人いずれのとき来たるかを知らば、その家を穿たすまじ。汝らも備えおれ。人の子は思わぬ時に来たればなり……馬鹿な決定をしたもんさ。都内に入る部隊にラムテシールの息のかかった部隊が紛れ込んでいたとしたら、門を開けて盗人を招き入れるようなもんだ。同じ装備に同じ服、敵味方の区別なんて誰にも判りゃしないよ。
 いや……もしかしたら彼等自身にも」

「ヤタガラスより移動。オオトリ1および2タカマ到着確認。送れ」
「移動。オオセグロ208集合。セグロ4、および5、220、10。送れ」

クルガン「はい、王宮騎士団」
アオバ「クルガンさん?」
クルガン「ああアオバさん。元気?」
アオバ「元気じゃないが、まあ取り敢えず息災ってとこかな。そっちの様子はどうだい」
クルガン「今んところ平静だけどさ、都内に入った部隊の中に柘植が息のかかった部隊が紛れ込んでるとすりゃ、何時何が起こってもおかしくない状況さ。今どこ?」
アオバ「ドゥーハンの郊外。ウィザーズ・エンパイア・エアラインって飛空挺会社を張ってるとこさ」
クルガン「飛空挺? 何だいそりゃ」
アオバ「ユージンの資料にあった連中の公然組織、東亜安全保障って会社を洗ってたら浮かび上がってね。ダミーを介してだけど、1年前に倒産寸前だった会社を買収して経営者も送り込んでる。半年前にリルガミン製の飛行船を3機購入。こないだから都内を飛び回ってるだろ。ちょいと気になっててね」
クルガン「あれか。しかしよく調べたね」
アオバ「犯罪の陰に女と金。女は専門外なんで、金の流れを追いかけたのさ。お偉いさん達はラムテシールの暴走に恐れを為して店畳んじまったが、銀行や税務署の記録は消せないからね」
クルガン「んなもの、どうやって見たの」
アオバ「営業上の秘密て奴さ。ま、軍人さんには無理だけどな……と。いたいた……どう見てもカタギにゃ見えないのが、やばそうなのぶら下げてるぜ」
クルガン「剥き身で? 大胆だねどうも」
アオバ「それと、例のベイブリッジ爆撃の一週間程前だが、この会社相当大きな買物してるぜ。何だか分からんが同じものを三つ。凄え金額をリルガミンに送金してるよ」
クルガン「また三つか。戦略級魔導器でも買い付けたかな」
アオバ「さあね。ここはミルダールからも近いし。リルガミン軍経由なら税関もノーチェックだからね」
クルガン「直接、調べるしかないね」
アオバ「まさか、潜り込めってんじゃないだろうね」
クルガン「アオバさん……都内に入った部隊は数日と持たないよ。政治家はご存じないだろうが、軍隊ってのは確たる目的を持たなきゃ自分でボロボロになっちまうもんなんだ。何の為に何を守るのか……いま雪の中に立っているひとりひとりがその事を考えているはずさ。ラムテシールはその疑問につけ込もうとしているんだ。事を起こすとすれば、明日か明後日。オレたちには時間がないんだ」
アオバ「ユージンがそう言ったのかい」
クルガン「え?……やだなアオバさん、どうして知ってんの」
アオバ「な、クルガンさんよ。たまには自分でやってみちゃどうだい」
クルガン「だって、オレここを動けないもん」
アオバ「俺だってフリーで侍やってる訳じゃねぇんだぜ。今ここに、こうしていること自体、バレりゃ懲罰もんなんだ。ここで殺されたって殉職扱いにもならんのだぜ!
 ここで俺がホトケになったら、残された女房の面倒、あんたが見てくれんだろうな!」
クルガン「んな大袈裟な」
アオバ「言ったろ、それっぽいのがロングソードをぶら下げて……」
クルガン「護身用に小刀くらいもってんでしょ」
アオバ「あんた持ってるかい」
クルガン「オレ、持たない主義だから」
アオバ「奇遇だな。俺もだ」
クルガン「……大変なことになるんだよ。今度は間違いなく、ベイブリッジどころじゃないことが起こるんだ。冒険者として、そんなこと許せるの?」
アオバ「ユージンに言って、兵隊動員して包囲でもなんでもしたらいいじゃねぇか」
クルガン「そんな派手な真似やらかして、奴らがヤケ起こして戦闘でも始まっちゃったら、それこそ藪蛇じゃない。ここは、冒険者の手で、……俺たちの手でやるしかないんだ!」
アオバ「俺の手だろ」
クルガン「だからさ……」
アオバ「やりゃいいんだろ、やりゃ」
クルガン「じゃ、頑張ってね。この借りはいずれ精神的に」
アオバ「いらねえよ。……それより、クルガンさん」
クルガン「はい?」
アオバ「恨むぞ。
 ……器物破損。住居不法侵入。多分窃盗。もしかしたら暴行障害。冒険者のやることじゃねえなあこりゃあ」

「動きが素人だな。こそ泥か」
「いや、どっかで見たような」
「そうか。例の王宮騎士団のクルガンって隊長とつるんでるドゥーハンの冒険者だ」
「消すか」
「無用な殺生は可能な限り避けろとのお達しだ。眠らせて放り込んどけ。どうせもう何をする時間もないさ」
「やれ」

ソフィア「私に?」
ミシェル「どうしても今夜の内に連絡を取りたいとかで、王宮の方に遠話したらこちらに向かった後だったからって」
ソフィア「分かったわ。有難う」
ミシェル「お食事は」
ソフィア「書類と着替えを取りに来ただけで、すぐ戻るから。
 もしもし。ソフィアと申しますが」
?「元気そうだな
 13号埋立地の埠頭に船を待たせてある……一人で来てくれ」

夜、船頭とソフィアを乗せた船が川を遡る。
周りに人気は全くない。
川上から一艘の船が向かってくる。
男が船首に立っている。

ソフィア「止まりなさい!」
ユージン「止せ。この暗さでは無駄だ。上の班に連絡して、地上から追わせろ。ライトを消せ。
 やはり女か」
ソフィア「どうしてここを」
ユージン「人は敵意でなく善意ゆえに通報者になる。子供のためなら何でもするのが親だ」
ソフィア「あの人が、あなたに」
ユージン「あいにく俺はあの手のご婦人が苦手でね。意外な人間に人望があるものさ」
クルガン「……」

「どした」
(野犬でも見つけたか? ヴァルチャー……にしちゃ様子が違うが)
「うるせぇぞ、ガブ!」
とある埋立地の中央、巨大なキャリアーから三匹のワイバーンが飛び立つ。

暴漢に襲われ柱に括り付けられていたが、柱ごとブチ折って脱出。

アオバ「電話はどこだ!」
「前方を飛行中の編隊へ。ワイバーンの出動要請は出ていない。所属、官姓名を名乗れ」
「ゴングゼロより各騎。時間だ……状況を開始せよ」
「了解。状況を開始する」
「おい、今のは何だ? ……状況って何だ!」

タイガ「早朝にも拘わらず全騎士団幹部を緊急召集したのは他でもない。現今の情勢下に騎士団としてその任務を全うするにあたっていかなる方針で臨むべきか。それを討議する為である。状況が状況であるので今日は特にレドゥア騎士団長の列席をお願いした。が、その前に、今朝未明ローナス交通騎士団騎兵隊に対しクイーンガード長代理名をもって出動要請がなされた。ソフィア。これは一体どういうことか」
ソフィア「……その前に、ここにお集まりの方々に申し上げたい」
タイガ「君の意見等を求めてはおらん!
 騎士団長である私の承諾も得ず、これは全くの越権行為だ。君の行なったことは騎士団内部の秩序を乱し、しいては社会に無用の混乱を招く軽率な行動だったとは思わんのか」
ソフィア「では確たる根拠も具体的な要請もなしに行なわれた王宮竜騎士団駐屯地への警備出動や基地司令に対する予防検束に等しい不当な拘束は、軽率ではなかったのか。今回の非常事態を招いたそもそもの原因は、一連の事件によって醸成された社会不安に乗じ上層部内の一勢力がその思惑を性急に追求したことにあることは、ここにいる全員が承知の筈です」
タイガ「貴様」
レドゥア「ソフィア君。騎士団内部に一種の政治的策謀があったとする君の発言は聞き捨てならんが……上層部内の一勢力とは一体誰のことかね?」
ソフィア「ご自分の胸に聞かれてはいかがですか」
クルガン「ちょっと失礼します」
タイガ「あっ、こら」
レドゥア「放っておきたまえ」

ユージン「クルガンさん? ああ、やられちまったよ。それより15分程前だが、所属不明のワイバーンが三騎、爆装してドゥーハンの上空を飛んでる」
クルガン「本物なのか」
ユージン「スカウトドラゴンのライダーが肉眼で確認してる。今度はやる気だ」
クルガン「目標は? 一体どこを狙うつもりなんだ?」
ユージン「きまってるだろ……ドゥーハンさ。
 短いつきあいだったが、それなりに楽しかったよ。じゃあな」
クルガン「ちょっと待った。頼みがある」
ユージン「聞く義理はないと思うが。あの時彼女が撃っていりゃ……」
クルガン「あんた、そのことで彼女を売ったろ。帳消しにしてやるよ」
ユージン「何の話か判らんが、聞くだけは聞いてやる。言ってみろ」

王宮騎士団クイーンガード基地。 ワイバーンのファイアーボールと空対地魔導兵器マーベリックの攻撃を受け壊滅。
ソフィア「首都圏の治安を楯に要らざる警備出動を繰り返して徒に彼等の危機感を煽り、事態をここまで悪化させた責任を誰がどのように取るのか。部内の秩序を論じるならまずそのことを明らかにして頂きたい」
タイガ「国防省内部には騎士団OBも多数いることを知らん訳ではあるまい。事は既に政治の舞台に移されている。今は彼等を刺激することなく、その行動において協調を図り撤収の早期実現を模索すべき時だ」
ソフィア「その為にも騎士団上層部がその責任を明確にし自らの非を世間に正されてはいかがです」
タイガ「この地上にはわが国だけが存在する訳ではない。この状況が長引くと万に一つとはいえ内戦擬いの状況が出現することにもなる。リルガミン軍の介入すらあり得る。
 治安を預かる騎士団が自らの失態を認めるがごとき行動は徒に社会の不安を増長させることにもなる」
ソフィア「この期に及んでもまだそのような妄言を。あなた方はそれでも騎士か!」
レドゥア「クイーンガードをここまで育て上げた功労者の一人と思えばこそ大目に見てきたが、その暴言は最早許せん。ソフィア騎士団長。クイーンガード長代理および第1小隊隊長の任を解き別命あるまでその身柄を拘束する」
ソフィア「私に手を触れるな!」
レドゥア「クルガン君。君はどう思うかね」
クルガン「……戦線から遠退くと楽観主義が現実にとってかわる。そして最高意志決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない……戦争に負けている時は特にそうだ」
レドゥア「何の話だ。少なくともまだ戦争など起きてはおらん」
クルガン「始まってますよ、とっくに……気づくのが遅過ぎた。ラムテシールがこの国へ帰って来る前、いやその遥か以前から戦争は始まっていたんだ。
 突然ですがあなた方には愛想が尽き果てました。自分もソフィアと行動を共に致します」
レドゥア「クルガン君。君はもう少し利口な男だと思っていたがな」
タイガ「二人とも連れて行け」
「たった今ワイバーンの爆撃により、ドゥーハン湾横断橋が」
クルガン「だから! 遅すぎたと言ってるんだ!」

オペレーターA「主任! コミュニケーションクォーツが各所で不通になっています!」
オペレーターB「都内のコミュニケーションクォーツに異常が発生しています。ムンクハラマ、オルコグレ、ゴーン、ファンハウス、ラツキン。各ブロック不通!」
主任「国際通信は全てバックアップクリスタルに切り替えてアクパイルに廻すんだ。自己診断モードはどうなっているんだ!」
オペレーターA「モードはノーマルですが、切り替わっていません! また消えた!」
オペレーターC「主任、これはクリスタルの暴走ではありません。もしかしたら、物理的にクォーツを消去されているんじゃ」
主任「物理的に消去するって、いったいどうやってだ?
 マンホールに潜り込んで、ハンマー片手に壊して回るような訳にはいかんのだぞ!」
オペレーターC「でも……ドゥーハンじゃ戦争をやっているんでしょ?」
主任「わざわざ共同溝で斬り合いなんかするか、普通。
 とりあえずセンターの中には繋がっている訳だ」
オペレーターA「主任」
主任「どうした?」
オペレーターA「ドゥーハンの警衛団から連絡で……共同溝が次々と爆破されているそうです。今も爆破が続いていて、危険なので共同溝内部の調査はとてもできないと」
主任「戦争だって通信が……情報が欲しいだろうに」
オペレーターB「でも、連中には遠話の水晶がありますから」

ワイバーンが騎士団本部を爆撃。
ソフィアとクルガンは、左右に控える騎士を殴り倒して本部を脱出する。

クルガン「公務執行妨害、騎士団員に対する暴行傷害……これで晴れてお尋ね者、か。
 ソフィアさん、辞めるつもりだったでしょ。
 今は辞めちゃ駄目だ。奴を止めることはできなかったけど、俺達の勝負は終わっちゃいない。」
ソフィア「でもどうやって。もうクイーンガード基地にも戻れないし」
クルガン「クイーンガード基地は壊滅したよ。多分。だが戦力はある。戦力は、まだあるさ」

グレッグ「土をほじれば虫もいるし、寒さはビニールハウスで凌げますよね」
スカルダ「ああ。きっと大丈夫さ。クイーンガード育ちは逞しさが身上だからね」
ジャバ「スカルダさん。装備班の人たちキャリアにあんなもの積んで、一体どこ行こうっていうんです」
スカルダ「あ? 万が一の場合にはと、クルガンさんと手筈を決めておいたのさ。黙ってて悪かったな。
 じゃ、出前の付けとか燃料屋の支払いとか色々あるけど、後始末よろしくな」

「……各所で通信施設が破壊され情報が混乱していますが、現在地上波は勿論……による放送も何者かによる呪波障害で受信が困難になっており……その他幹線道路で橋梁の破壊がさらに続いているのと……今回の事件について政府は騎士団内の一部勢力による反乱、クーデターであるとの見解を示しておりますが、その実行部隊の規模など不明な点が多く……」
ミフネ「切っちまってくれ。んなもの聞いてもどうにもならねえ」
クルガン「頑張ってるとこがまだあるんですね、全滅かと思った」
ミフネ「ありゃ呪波妨害って奴だ。時々聞こえる所がやりきれねえ。無駄と分かっちゃいてもつい耳を澄ましちまう。で? どうなんだい」
クルガン「そりゃまあ不平や不満はあるでしょうけど、今この国で反乱を起こさなきゃならんような理由が、例え一部であれ騎士団の中にあると思いますか。しかもこれだけの行動を起こしておきながら中枢の占拠も政治的要求もなし。そんなクーデターがあるもんですか。
 政治的要求が出ないのは、そんなものが元々存在しないからであり、情報の独占ではなく中断し混乱を選んだのは、それが手段ではなく、目的だったんからですよ。これはクーデターを偽装したテロに過ぎない。それもある種の思想を実現するための確信犯の犯行だ。戦争状況を作り出すこと。いや……首都を舞台に戦争という時間を演出すること。犯人の狙いはこの一点にある。犯人を捜し出して逮捕する以外に、この状況を終わらせる方法はない」
ミフネ「しかし分からねえな、一体何のために橋ばかり壊すんだ?」
クルガン「想像はできますが捕まえて聞くのが一番でしょうね。じゃ、出かけますんで、後はよろしく」
ミフネ「あ、そっちは勝手口だぜ」
クルガン「これでもお尋ね者なんで、親父さん、念のために言っときますがくれぐれも……」
ミフネ「若ぇ連中に、命令も強制もするなだろ。判ってるよ」
クルガン「それじゃ」
ミフネ「ソフィアさんよ。できなかったこと悔やんでも始まらねえ。これからどうするか。そのことを考えようや」
スカルダ「おやっさん!」
ミフネ「野郎御出でなすったか」
スカルダ「おやっさん!」
ミフネ「手前ぇら! やることは分かってんな」
「「「へい!」」」
ミフネ「クイーンガードは壊滅したそうだが、俺達はまだ目え瞑っちゃいねえ。落とし前はこの手できっちりつけてやる! 有りったけの兵隊掻き集めてミルダールに連れて来い! ゴタゴタ抜かす野郎は首ぃ縄つけても引っ張って来るんだ! 行け!」

ヒナ「オルフェ! 行ったらおしまいなのよ! 折角騎士団長になったのに、どうしてあなたが行かなきゃならないのぉ!
オルフェ「後免ね。でも行かなきゃ、仕事より大事なものを失う。それじゃあ、皆が待ってるから。
 さあ、いつものように笑って送り出して。……でないと、何だかもうここに帰って来れないような気がするの」
ヒナ「二人目がいるの」
オルフェ「えっ?」
ヒナ「お腹に……二人目の赤ちゃんが」
スカルダ「ちょっと! いつまでやってんの! 時間がないんだよ時間が!!
 じゃあ"お姉さま"お借りしていきますから。どうも」
ヒナ「鬼! 悪魔! 誘拐魔! お姉さま死なないでえ」

ガルシア「助かるよ。よく引き取りに来てくれたな。あの野郎生徒達を扇動して都内に進撃やらかそうとしやがって、往生したぜ」
グスタフ「で、何人集まったんです?」
ガルシア「今日日の若ぇ奴等が、あんな熱血馬鹿のアジに乗せられると思うか? ウォルフ。お迎えだぞ」
グスタフ「ドーモドーモ」
装備班員A「ウォルフちゃん。元気してた」
ウォルフ「遅いっ!」

ルイ「どうしたの?」
カザ「な、ここから引き返してもいいんだぞ。正規の任務じゃない。行けばシーフの資格は勿論、冒険者ギルドの除籍ってこともあり得る。それでもいいのか?」
ルイ「あたしよりカザの方が迷ってるみたい」
カザ「迷うだろ、普通」
ルイ「あたし、いつまでも冒険が好きなだけの女の子でいたくない。冒険が好きな自分に甘えていたくないの。
 お願い……馬を出して」

警衛官A「やはり無人だ。自動操縦で周回飛行しているだけだ」
警衛官B「竜騎士が上がる前に俺達の手で片付けるぞ。外すなよ」
警衛官A「あんなデカい的、外しようがあるかよ」
警衛官B「おいまだか、早くしろ」
警衛官A「鳥が邪魔だな」
警衛官B「鳥ぐらいなんだ。一緒に落としちまえ」

警衛官の光弾魔法が、飛行船のポッド中央部に五発命中。

警衛官B「どんどん下がってくぞ。オイ、どこ撃ったんだ!」
警衛官A「冗談じゃねえ。ポッド中央部に左から等間隔で五発。それ以外、傷ひとつ付けちゃいないぞ」

市街地に墜落する飛行船。
同時に着色ガスがあたり一面に勢いよく噴き出す。

騎士A「逃げろ!」
騎士B「状況、ガス!」
騎士C「上だ! 建物の上層へ上がれ!」
騎士B「屋上へは上がるな! 道路も危険だ!……馬車は可能な限り団員を乗せて後退させろ!」
騎士D「おい、何ぼさっとしてるんだ。マスクを装備している者は住民の避難の誘導を……」

逃げる騎士たちを尻目に全然平気な顔をしている騎馬と犬。


クルガン「ただの、ガス?」
ユージン「虫も死なん程度のほぼ完全に無害な着色ガスだそうだが、効果は絶大だ。あれが本物だったとしたら」
クルガン「ブラフじゃないの?」
ユージン「船内からは本物のボンベも発見された。実際に使う気があるかどうかは分からんが、少なくとも上の連中にそれを試す度胸はないさ。
 戦争においては常に存在を秘匿されたものこそ威力を持つ。……忘れたか、奴らはこの街と戦争をしているんだぞ」
クルガン「なんの知恵もなくあんなデカいものを浮かべとく訳はないと思ってたけど、10万単位で人質をとるのと一石二鳥とはね。考えたもんだ。膠着状態だな」
ユージン「それがそうもしてられんのさ……これを見て貰おうか」
クルガン「埋立地の……航空写真か」
ユージン「18号のな。2枚目がその拡大だ。
 転がってるのは薬殺処理されたワイバーンの残骸。そしてそのパラボラは専門家の分析によると野戦用の強力な通信装置だそうだ。敵の本部といった所だな」
クルガン「こいつであの飛行船を?」
ユージン「それ以外の何に使う? これだけの広域を完全にジャミングできる訳がない。現在も一部の通信が可能なのがその証拠さ。恐らく任意に選択された周波数を使って暗号化されたコードを圧縮して送信すれば、あの強力なECMを解除できる筈だ。スタンドアローンで制御不能な兵器などナンセンスだからな」
クルガン「で、その周波数とコードは?」
ユージン「ラムテシール本人に聞くさ。間違いなくそこにいる」
クルガン「教えてくれると思うか」
ユージン「教えてもらうんじゃない、聞き出すんだ」
クルガン「ここに戦略級魔法を撃ち込むってのはなし?」
ユージン「今も通信が続いていて、それが中断することが飛行船のプログラムの発動条件だったとしたらどうする。俺ならそうする。その写真、誰が撮影したと思う」
クルガン「……リルガミン軍か」
ユージン「今回の事態はその当初からリルガミン軍の厳重な監視下にあったのさ。……1時間程前に大使館経由で通告があった。明朝7時以降状況が打開の方向に向かわなければ、リルガミン軍が直接介入する。現在第7艦隊が全力で西進中。各地のリルガミン軍基地も出動準備に入った」
クルガン「そんな無茶を……」
ユージン「やるさ。国家に真の友人はいない。連中にとっては願ってもないチャンスだ。そうだろう。
 ……この国はもう一度、戦後からやり直すことになるのさ」

ミフネ「合成素材のチェックの終わった魔法石から魔力を転送だ! 装甲を着けたらやり直しはきかねえぞ!
 流石に手慣れたもんだな」
スカルダ「この装備で一人前になった連中ばっかりですからね。このペースでいけば、なんとか」
ミフネ「それにしてもよく協力する気になったもんだな、ボルタックは」
スカルダ「騎士団への装備納入をめぐって、ここはレドゥア王宮騎士団長とは何かと噂の絶えない武器商店でしたからね。
 今度の騒ぎで王宮騎士団長とその一派の失脚は確実。そう読んで早めに俺たちに鞍替えして、あわよくば恩を売っておこうと……ま、これはここの御曹司の言い分ですけどね。
 おかげさんで魔法素材はおろか、ここで開発した武器防具まで使い放題の大サービスって訳です」
ミフネ「あれがそうか?」
スカルダ「ガーブオブローズって奴ですよ。
 鎧の上から着る法衣みたいなものですが、鏡面装甲(ミラーコーティング)の応用で繊維そのものに魔法処理してあるんです。法衣でありながらダイヤモンドと同程度の強度と20%のレジストマジックを持ち、その上装備者の治癒能力を飛躍的アップさせます。
 本来ならロードしか装備できないのですが、非常時だけに融通を利かせてもらってます」

ソフィア「敵の野戦本部のある18号埋立地へは奇襲という作戦の性格上、空や海からは攻め込む訳にはいきません。そこでバビロンプロジェクト2期工事の際、作業用魔神を搬入するために使用された地下道を使います。次のステップへ」
オルフェ「はい。訓練場から中継の人工島を経て、目的地まで全長約1200メートル。問題なのはこの最終の行程です。
 ケーソン工法で作られた典型的な海底トンネルで、全長250メートル。人工島側から傾斜エレベーターで海面から50メートルの深さまで降下、続いて高さ約9メートル、全長約200メートルの一本道を抜け、そして最後に埋立地側のエレベーターで上昇」
ウォルフ「待ち伏せには絶好の場所だな」
オルフェ「敵もこのトンネルの存在について知っていると考えるべきでしょうね」
カザ「質問。この地下ルートまではどうやって? 都内は敵味方不明の部隊が入り乱れてるんだろう」
オルフェ「それは現在クルガン隊長が手配中です」
カザ「クルガン隊長が?」

装備班員A「凄え」
装備班員B「凄えや」
装備班員「凄えや。本物のハースニールだぜ」

ウォルフ「だから! 村正とかオーディンソードとか、そういう凄いもんはないかと言ってるんだ!」
グスタフ「ファウストハルバードだって対魔神処理を施しているから、レッサーデーモン程度なら結構いけるんだぜ。要は当てることよ。片目瞑ってよく狙う、これよ。じゃ俺忙しいから」
ウォルフ「グレーターデーモンが出て来たらどうすんだ! グレーターデーモンが!」
グスタフ「そん時ゃもう片方も瞑るさ」

オルフェ「やっぱり圧縮用のツールだと思いますけどね」
カザ「だろうね。
 問題なのは、何を圧縮に使ったのか。その対象なんだけどね」
オルフェ「使われていた背景から考えれば暗号文とか、その類でしょうけど」
カザ「暗号、ね……」
オルフェ「あの中にそれらしいものはないし」
ソフィア「あなた達ここで何してるの?」
オルフェ「アオバさんが手に入れたディスク、何かのコード表じゃないかと思いまして」
ソフィア「コード表?」
オルフェ「アーカイブプログラムらしきものが出てきたんですが、その先がどうも……」
ソフィア「一息入れたら。どうせ今夜は長い夜になるんだから」
カザ「これを……ソフィア隊長が?」
ソフィア「グレッグよ。私はこういうことに気が回らなくて」
カザ「戴きまーす。俺もルイもここのBLTサンドが好きでさ。いつも確保するのに苦労を……BLT……サーモン……」
オルフェ「カザさん、サーモンサンドにしました?」
カザ「これだ! 暗号だよ……ベイブリッジが爆撃された日から流れ始めた不正規呪波」
オルフェ「そんなものあったんですか」
カザ「呪波の多い都心じゃ拾えないからね。俺も一度だけ拾ってセーブしたんだけど、そのまま忘れてた」
ソフィア「乱数表を使った暗号文に見えるけど」
カザ「これを解凍すると……」
オルフェ「二進数の数列ですかね」
カザ「二進数……二進符号か!」
オルフェ「モールス信号ですか? それじゃこれは何かのテキストなんですかね」
カザ「変換してみればわかるさ……と」
オルフェ「英文ですね」

Do you suppose that Icome to bling pease to the world?
No,not pease but division.
From now on a family of five will be divided,
three against two against three.
Fathers will be against their sons, ond sons against their fathers;
mothers will bi against their daughters,and daughters against their mothers;
mothers-in-law will be against their daughters-in-law,
and daughters-in-law against their mothers-in-low.
                                        Luke 12-51〜53

カザ「これは、福音書かな?」
ソフィア「我地に平和を与えんために来たると思うなかれ……。
 我汝らに告ぐ、しからず、かえって分争なり。今よりのち、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれて争わん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……。
 ルカによる福音書、第十二章五十一節。
 アオバさんの言っていた飛行船のECM解除のための停止コードよ。1251メガヘルツ」
オルフェ「でも、そんなものをなぜ決起前から?」
ソフィア「そのデータをアオバさんに渡しておくように。一時間後に出発します」
カザ「なんなの、一体?」
オルフェ「さあ……」

ユージン「こんな所がドゥーハンの地下にあったとはな」
クルガン「ダンジョンエクスプローラー華やかなりし頃の夢の跡さ。聖歴1933年に閉鎖されて以来、半世紀以上も眠っていたワードナの迷宮と、湾岸の訓練場を結ぶ新旧の結節点。結局、使われることはなかったがね。
 この街には、きっとこういう場所がいくつもあるんだろうな」
ユージン「誰に知られることもなく、か」
クルガン「来たか」
ソフィア「全員降車、整列!」
クルガン「よく来てくれたな。カザ……ルイ……オルフェ、ウォルフ、それにグレッグ。
 お前達の使命は、ソフィア隊長と共に18号埋立地に潜伏する今回の事件の首謀者を逮捕することだ。これ以降は全てソフィア隊長の指示に従え。あらゆる妨害は実力でこれを排除しろ!
 王宮騎士団クイーンガード第2小隊最後の出撃だ。存分にやれ!」
ソフィア「直ちに出発する。全員乗車!」
クルガン「ソフィアさん……差し違えてもなんてのは御免だよ。彼を逮捕して必ず戻るんだ。
 ……俺、待ってるからさ」
ソフィア「出発」
ユージン「何故だ? どうしてあんたが行かない」
クルガン「俺にはやらなきゃならんことが色々あってね……。
 さんざっぱら世話になっといてなんだけど、あんた逮捕するよ」
アオバ「全員そこを動くな。ユージン卿! 破壊活動防止法、その他の容疑で貴様を逮捕する!
 この場は武装警衛官が十重二十重に包囲した。観念しろ」
ユージン「説明はあるんだろうな」
クルガン「今回の一連の事件に関して、あんたの情報は恐ろしく正確で素早かったよ。そりゃそうだ。あんた自身、内偵を進めていたっていう例の組織の一員だったんだから。あんたラムテシールの同志だった。そして奴に裏切られたんだ……。政治的デモンストレーションに過ぎなかった計画を変更し、本気で戦争を始めるために奴が姿を消したことで、あんた窮地に立たされた。事の性格上、おおやけに捜査することもできんしな。そこでクイーンガードに目をつけた。ソフィアの監視も兼ねて一石二鳥だからな」
ユージン「全部あんたの推測じゃないか」
クルガン「決起の前夜、あんたはラムテシールを見逃した。海上警備隊に通報してあの場を包囲しておくことも出来たはず。狭い水路だ。奴を逮捕できる可能性は高かったのに、あんたはそうしなかった。何故だ?
 あんたはどうしても自分の手で奴を押さえる必要があったからさ。ラムテシールの計画は阻止しなければならないが、奴の口から組織の全容が公表されてしまっては元も子もない。この期に及んでも正規の部隊を動かさず、独立愚連隊同然の俺たちに頼らなければならなかったのが決定打さ。まともな貴族のすることじゃない」
ユージン「それはお互い様じゃないのか」
クルガン「まともでない貴族には2種類の人間しかいないんだ。悪党か正義の味方だ。
 ユージンさん。あんたの話面白かったよ。欺瞞に満ちた平和と真実としての戦争。だがあんたの言う通り、この街の平和が偽物だとするなら、奴が作り出した戦争もまた偽物に過ぎない。……この街はね、リアルな戦争には狭すぎるんだよ」
ユージン「リアルだって?
 戦争はいつだって非現実的なもんさ。戦争が現実的であったことなど、ただの一度もありゃしないよ」
クルガン「なあ、俺がここにいるのは俺が王宮騎士だからだが……あんたは何故ラムテシールの隣にいないんだ!?」

カザ「やっぱりいやがったか。あれは確か……リルガミン軍が召喚に成功した魔神で、グレーターデーモンって奴だ。
 こいつは90%のレジストマジックと5レベルのメイジスペルを使いますが、この状況だと厄介ですね。
 俺が前衛にザイバを唱えて、オルフェ、ウォルフ、グレッグでゲイルスラッシュ。ソフィア隊長とルイがマジックキャンセルを行う。これを基本に後は出たとこ勝負ってことで、どうです」
ソフィア「それしかなさそうね」
カザ「ウォルフ、オルフェ、前衛に出ろ。ルイはソフィア隊長を守って続け。グレッグも前衛へ。目くらましを上げたら、行くぞ」
ウォルフ「どうしたどした、このデカブツがぁぁ!」

グレーターデーモンが、隊列を無視して突っ込むウォルフを捉え四連撃。
全打撃が命中。
豪快に吹っ飛ぶウォルフ。

カザ「ウォルフ! 馬鹿かお前は!」
ウォルフ「うるせえ!」
ルイ「何やってんのウォルフさん!」
ウォルフ「グスタフの野郎いい加減なこと抜かしやがって。
 なんだあれは! 俺が一発狙う間に四発殴ってくるじゃねえか!」
カザ「当たり前だっ! アレイドを使わないで勝てる相手か!
 グレッグ! 援護はどうした!」
グレッグ「それが、目の前が真っ白になっちゃって」
ルイ「あたしも眩しくて転びそうだよ」
カザ「どっちにしろこの手はもう駄目だ。あいつ自体の頭はウォルフ並みでも、後で操作してるのは召喚師だからな」
ウォルフ「何だと!」
カザ「どうします?」
ウォルフ「ゴタゴタ言ってても始まるか! 突撃あるのみだ!」
カザ「あっ待て馬鹿!」
オルフェ「私も出ます!」
ソフィア「オルフェ!」
カザ「しょうがない。グレッグ、手裏剣投げまくれ!」
ルイ「ウォルフさん!」
ウォルフ「喰らえ! んがぁぁぁあ!」

また隊列を一人離れたウォルフだけが、グレーターデーモンの広域冷気魔法ザクルドを喰らう。
追い打ちに尻尾の一撃。

カザ「ウォルフゥゥ!
 ウォルフ!……ウォルフ!
 生きているかウォルフ! 返事をしろ!」
ウォルフ「……凄く綺麗な花畑が、真っ白な花が一杯の……綺麗なところだった」
ルイ「カザァ!」
カザ「どうしたルイ?」
ルイ「……あいつが、動き始めた」
カザ「隊長!……ソフィア隊長!」
ソフィア「なに?」
カザ「コンエアルをスタンバイして下さい」
ソフィア「カザ、今どこにいるの?」
カザ「煙突の中……みたいなところです。
 奴の後ろに回って制御の魔石を切ります。コントロールを離れると抑圧された意識が表面化し、本能の赴くままに無条件で攻撃するようになります。ディプスを唱えますから、コンエアルも唱えて一気に叩いて下さい。
 ウォルフ。もう目は覚めたか」
ウォルフ「お……おう」
カザ「お前の大好きな接近戦だ、準備しろ。グレッグはアレイドの準備。手裏剣残しとけよ」
ソフィア「これから、最大広域帯でコンエアルをかける。開始後はオルフェとグレッグでフェイクアタックをし、ルイはウォルフにマジックソードのアレイドを行いなさい」
カザ「行くぞ!」
ウォルフ「喰らえ、この化け物が! これでどうだ!」

オルフェとグレッグのフェイクアタックが成功し、グレーターデーモンの頸部に埋め込まれた魔石を砕く。
ルイとウォルフのマジックソードも成功。
ファウストハルバードに魔法無効化能力を付与した一撃が、グレーターデーモンの胴を横一文字し切り裂く。
呪文詠唱中のグレーターデーモンは、魔法を暴発させ天井を直撃。
亀裂の入った天井から徐々に漏水が始まり、突如大瀑布に海水が落ちてくる。

オルフェ「浸水だ!」
ルイ「隊長、行って下さい!」
ソフィア「でも……」
ルイ「あたしたちは大丈夫。だから、早くっ!」

スクロールオブロミロワで周囲を照らした通路を走り抜けるソフィア。
突き当たりの昇降機に辿り着きボタンを押す。
轟音と共に昇降機が降りてくる。
微かに見えるシャッターの奥に黒い影。
左右に開くシャッター。
ソフィアの前に現れたのは、北欧の巨人アースジャイアント。

ソフィア「どけぇぇぇぇ!!」


ワイヤーを軋ませ、せり上がる昇降機。
奥の壁際に背を預けるように倒れているアースジャイアント。
ソフィアは、炎のメイスに寄りかかって、今にも倒れそうなのを気力で立っている。
俯いた顔を上げ、目線の先にはパシュミナのローブを着たラムテシール。
ラムテシールは、双眼鏡で対岸の街を見ている。

ラムテシール「ここからだと、あの街が蜃気楼の様に見える。そう思わないか?」
ソフィア「例え幻であろうと、あの街ではそれを現実として生きる人々がいる……それともあなたにはその人達も幻に見えるの?」
ラムテシール「3年前、この街に戻ってから俺もその幻の中で生きてきた。そしてそれが幻であることを知らせようとしたが、結局最初の砲声が轟くまで誰も気付きはしなかった。……いや、もしかしたら今も」
ソフィア「今、こうしてあなたの前に立っている私は幻ではないわ!」

信号弾を打ち上げるソフィア。
アオバ「お願いします」
魔導師「送信開始。出力最大」

ソフィア「我地に平和を与えんために来たると思うなかれ……。
 我汝らに告ぐ、しからず、かえって分争なり。今よりのち、一家に五人あらば三人は二人に、二人は三人に分かれて争わん。父は子に、子は父に、母は娘に、娘は母に……」
ラムテシール「あれを憶えていてくれたのか」
ソフィア「帰国したあなたが最後にくれた手紙は、それだけしか書かれていなかった。あの時は、それが向こうでの体験を伝えるものだとばかり」
ラムテシール「気づいた時にはいつも遅すぎるのさ。……だがその罪は罰せられるべきだ。違うか?」
ソフィア「ラムテシール。あなたを逮捕します」

クルガン(カザ……聞こえるか、……カザ、ルイ。全員無事か?)
カザ「こちらカザ……隊長!」
ルイ「地上で隊長の声が聞こえるってことは」
カザ「妨害呪波が消えたんだ!」
ルイ「やったぁ!!」
カザ「隊長ぉぉぉ!」
クルガン(結局俺には連中だけ……か)

アオバ「先程連絡が入ったが、ボートで脱出したお前の部下達は、全員治安部隊に投降したそうだ。
 死傷者不明。被害総額はどれ位になるか見当もつかん。
 一つ教えてくれんか。これだけの事件を起こしながら、何故自決しなかった?」
ラムテシール「もう少し……見ていたかったのかもしれんな」
アオバ「見たいって、何を?」
ラムテシール「この街の、未来を……」

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