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平成14年4月19日判決言渡・同日判決原本領収 裁判所書記官
平成13年(ワ)第1679号 慰謝料請求事件
口頭弁論最終結日 平成14年2月27日

判 決

大阪市生野区新今里7丁目12番17号 松浦清方
原          告     吉川真二こと
                  文 京大

同 訴訟代理人弁護士    柳川博昭
大阪市浪速区日本橋4丁目7番20号
被          告    永和信用金庫
同 代表者代表理事     岡田全弘
同 訴訟代理人弁護士    中村泰雄
同                堀    清


主 文

1       原告の請求を棄却する。

2       訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成13年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要 

1 本件は、被告の担当職員の違法・不法な事務処理によって損害
を被ったとして法的責任の追及をしたが、民亊訴訟等で敗訴した原告が、その後の調査の結果を踏まえて被告の責任追及のため被告本店を何度か訪れたが、被告に面会を拒否されるようになり、ついには建造物侵入罪で告訴され、その結果、同罪で起訴され有罪判決を受けたことにつき、被告が民亊の話合いの手段を不当に拒絶し、原告の交渉手段を奪ったばかりか、建造物侵入罪で告訴して、原告を刑事被告人の地位に置いたことは原告に対する不法行為に当たるとして主張して、慰謝料1000万円及び不法行為の日以降の日(訴状送達の日の翌日)である平成13年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める事案である。
2 争いのない事実等
 (1)        原告と被告との取引
   ア 被告は、信用金庫法に基づき設立された法人である。
   イ 原告は、被告金庫巽支店(以下「被告支店」という。)との間で、昭和48年2月27日から預金や手形貸付、手形割引、手形取立てなどの取引を開始した。
    ウ 取引開始直後の昭和48年3月7日、被告支店が原告から受け取った約束手形5通を手形割引扱いとして、その割引金合計130万円を原告の開設した原告名義の普通預金口座に振り込み入金し、同日、上記130万円の払戻がされた。
 (2)        原告による前訴等
   ア 原告は、上記(1)ウ記載の件を初めとして、昭和49年末までの間に、被告の担当職員により10件に及ぶ原告に無断の不正な事務処理がされ、これにより1054万9265円の損害を被ったとして被告に取引関係の資料を要求をしたが、被告の対応に満足せず、被告との取引を昭和50年4月14日に終了した。
   イ 原告は原告を被告に紹介して被告との金庫取引の開始のきっかけを作った杉山常好(以下「杉山」という。)と被告担当職員が結託して上記10件の一連の不法行為(具体的内容は,後記3の争点(1)ア(ア)記載のとおり)を行ったと主張して,谷口光雄弁護士(以下「谷口弁護士」という。)に依頼し、被告職員に対する刑事告訴及び被告に対する民亊訴訟を提起した。
   ウ 昭和51年から昭和53年にかけて谷口弁護士が行った刑事告訴は、いずれも不起訴処分で終了した。
   エ 原告は谷口弁護士を代理人として、昭和56年11月に大阪地方裁判所に被告に対する預金債権請求訴訟(前記10件について損害賠償を求めるもの。大阪地方裁判所昭和56年(ワ)第8286号。以下「前訴」という。)を提起したが昭和61年8月に谷口弁護士が辞任し、藤原猛爾弁護士(以下「藤原弁護士」という。)が後任の代理人となった。平成3年11月13日、同裁判所は原告の請求を棄却する旨の判決をし、原告は控訴した(大阪高等裁判所平成3年(ネ)第2698号)が、平成4年9月29日控訴棄却の判決の判決が言い渡され、さらに、原告の上告(最高裁判所平成5年(オ)第16号)に対しても平成5年10月五日上告棄却の判決がされ、第一審判決が確定した。
 (3)       
原告の被告本店への訪問等
   ア 原告は前訴に対する上記上告棄却判決後、被告に新たに定期預金をし、金庫取引を再開し、融資を受けて事業を始めようとして、被告に融資を申し込んだが、被告は原告からの融資申込みを拒絶した。

   イ 被告は平成11年1月27日から数度にわたり被告本店を訪れた。
   ウ 被告は原告に対し平成11年8月6日、被告代理人弁護士名義の内容証明郵便をもって、原告の来所を拒絶するとともに、これに反して来所した場合には、住居侵入罪で告訴する旨通告した。
   エ 原告は,同月9日、被告本店を訪れ、被告業務部副部長である金澤繁彦(以下「金澤」という。)に面談を求めて「確定判決を覆すために来ているのではない。違法な事務処理の社会的道義的責任を問うためにきているのだ」と述べたが、金澤は「帰ってくれ」の一点張りであったため、原告は翌日も来ると言い残してその日は帰宅し、翌10日、再度被告本店を訪れたところ、被告が警察官の出動を要請し,原告は警察に任意同行された。
 (4)       
被告の告訴と原告の刑事裁判
   ア 被告は、同年10月15日ころ、原告を建造物侵入時罪で告訴した。
  イ 原告は、同年12月28日、同罪で在宅起訴され、刑事被告人の立場に置かされた。
   ウ 原告は、平成12年3月17日、被告本店を、再度訪問し、被告理事である清水一男(以下「清水」という。)に傷害を負わせたため、建造物侵入及び傷害罪で逮捕拘留され、身柄拘束されたまま追起 訴された。
   エ 原告は,同年12月12日、懲役1年6月、執行猶予4年の有罪判決を受け、同日釈放された。
   オ 同判決に対する控訴審は、平成13年5月10日控訴棄却の判決をし(甲28)、これに対する上告についても、平成14年2月15日付けで上告が棄却され(甲33)、前記判決が確定した。
3 争点
 (1)        被告の不正事務処理の責任の有無
   ア 原告の主張
    (ア)   被告の担当職員は、昭和48年3月7日、原告が取立委任のために被告支店に持ちこんだ約束手形5通を、原告に無断で手形割引扱いにし、その割引金合計130万円を原告の開設した原告名義の普通預金口座に入金した上、原告名義の普通預金払戻請求書を無断で作成して何者かに上記130万円を支払い、原告に同額の損害を被らせた。
  昭和49年末までの間に、上記と同様の事件や、割引依頼をして被告に交付した手形について買戻金を支払ったのに手形が返還されない、預金の無断払戻しがされているなどの事件が、上記事件を含めて、以下のとおり10件起こり、被告担当職員の違法・不正な事務処理によって原告は合計1054万9265円の損害を被った。
    a 昭和48年3月7日付の130万円払戻金請求(上記事件)
    b 昭和48年3月22日付の80万円払戻金請求
    c 昭和48年7月6日付の100万円払戻金請求
    d 大山哲平振出の50万円、満期日昭和48年9月27日の約束手形の返還請求
    e 水原正子振出の100万円、振出日昭和48年10月1日の約束手形の返還請求
    f 昭和49年4月11日付の120万円の払戻金請求
    g 昭和49年6月24日付の320万円の払戻金請求
    h 昭和49年7月 2日付の150万円の払戻金請求
    i 昭和49年8月26日付の3万4260円の払戻金請求
    j 昭和49年11月16日付の1万5005円の払戻金請求
  (イ)            原告の前訴判決確定後の調査により以下の不合理な事実が判明し,前訴確定判決が誤った事実を前提に下された誤った判決であることが確証された。
    a 被告職員勝原史郎(以下「勝原」という。)の偽証
    b 印鑑鑑定書において、古い期日の印影に欠落部分があり、新しい期日のものにはそれがない。 
    c 普通口座元帳において、改印届けの日より前にその印が押捺されている。
    d 被告職員が作成し原告に交付した資料が内容を改ざんされたものであった。 
    e 原告が、谷口弁護士及び村上博志(以下「村上」という。)に対し、両者が被告と結託(裏取引)して、訴訟を遅らせたり、故意に敗訴するようにしむけた責任を追及していたところ、谷口弁護士及び村上から和解の提示があり,裁判上の和解をして、和解金を各300万円ずつ受領した。
    f 被告業務部副部長金澤が、被告の事務処理のミスを認める発言をした。
 イ 被告の主張
  (ア)      被告担当職員による不正な事務処理ないし被告の不法行為は、否認する。既に前訴確定判決において否定されているところである。 
 (2)        被告による訪問拒絶及び告訴の違法性の有無
  ア原告の主張
   (ア)           原告の被告に対する法的責任の追求は、前訴における敗訴の確定と刑事告訴の不奏功によって終了したが、被告が公的な金融機関であることにかんがみ、被告は原告に対し上記加害行為の社会的道義的責任を負う。原告に対する加害者でありかつ社会的道義的責任を負う被告は、原告が、被告の社会的道義的責任の任意の履行を促すため、話合いによる和解(示談)を求めようとして被告本店を訪れた場合、任意の履行のための話し合いに応ずるべき作為義務(少なくとも社会的道義的責任)がある。
   (イ)        それにもかかわらず、被告は、かかる作為義務に違反し、原告の訪問拒否の通告を行い、さらに、原告を住居侵入罪で告訴した。
   (ウ)      原告の被告本店の訪問の目的は正当で、態様も平穏なものであるのに、被告は、通告及び告訴により、積極的に建造物侵入の構成要件を作出し、現実に原告を刑事被告人の地位に置いたものであって、これらの行為は原告に対する不法行為を構成する。
  イ 被告の主張
    (ア) 被告に道義的責任はなく、被告がこれを認めたこともない
    (イ)  原告の主張によれば、原告と被告との交渉は平静11年1月から9月までの間に40回にも及んでおり、平均すると週に1回を超えている。しかも。訪問した際には、その応対に何時間も費やされるものである。このような原告の行動は、実質的には恐喝に近いものっであり、道義的責任を追及するためのものとは到底考えられない。
    (ウ)   被告としては、原告の要求に応じていては業務の妨げとなるし、急用で留守にしては怒るし、面会を断わっても断念しないので、内容証明郵便で警告を発し、それにもかかわらず何回も来訪したら告訴することとしたものであって、原告が、その内容証明郵便を読みながら、何回も来訪したので、やむを得ず自衛上告訴に及んだのである。
  被告としては、40回も面談等に応じたのであって、これ以上業務の妨げを甘受してまで面会に応じる義務はないし、告訴も、原告が犯罪を犯したからこれに応じてしたまでのことであり、正当な行為であって、被告にこのような告訴をしてはならない義務はない。なお建造物侵入罪は親告罪ではないから、告訴は訴訟条件ではなく単なる捜査の端緒にすぎず、被告による告訴と原告に対する刑事判決との間に法的因果関係はない。
 (3)        原告の損害の有無・額
  ア 原告の主張
   原告は被告の不法行為により、刑事被告人とされ、生まれて始めて身柄拘束され、執行猶予付とはいえ懲役刑を受け、「犯罪者」、「前科者」との烙印を押されてしまった。これにより、原告は精神的苦痛を受けており、それを慰謝する額は、当初被告が、原告に与えた損害金である1054万9265円を下らない。
  イ 被告の主張
   損害額については不知。被告の行為が不法行為であること及び被告の行為と損害との因果関係に付いては争う。
第3 争点に関する判断
 1 争点(1)について
   (1)     前記争いのない事実等(2)エ、甲2の1ないし3によれば、前訴第一審判決(及び控訴審判決)では、争点(1)ア(ア)a ないしj 記載の各事件につき、以下のとおり認定判断し、被告担当職員の事務処理につき何ら不法はなく、不法行為を理由とする損害賠償請求は理由がないとして、原告の請求が棄却され(控訴審では、選択的に追加された預金支払請求も理由がないとして棄却された。)、この判決が確定したことが認められる。
  ア 同aについては、手形割引であり、払戻請求書等を被告担当職員が本人に頼まれて署名を代筆することもあったこと、通帳の提示もされたものと推認されること等から、払戻請求書は原告の意思に基づき作成されたものと認められる。
  イ 同bについては、手形割引及び手形貸付であり、払戻請求書は原告の意思に基づいて作成されたものと認められる。
  ウ 同cについては、手形貸付であり、領収書は原告の意思に基づいて作成されたものと認められる
  エ 同d及びeについては、消滅時効が完成している(第一審)、又は、買戻しの際これらの手形を原告に返還したものと推認されるし、仮に返還していなかったとしても、被告担当職員の不法行為が成立するものと認めることはできない(控訴審)。

  オ 同f ないし j については、払戻請求書は原告の意思に基づいて作成されたものと認められる(仮にそうでないとしても、被告担当職員に故意過失はない。(控訴審)。
   (2)        そうすると、上記の前訴確定判決により、原告が本訴において主張する被告担当職員の違法・不正な事務処理等の不法行為を理由とする被告に対する損害賠償請求権は存在しないものとする判断につき既判力が及ぶので、原告主張の不法行為を理由とする被告の責任は認められない。また、前訴において、原告側の主張立証も十分検討した上で、前記判決がされていることからすると、原告主張の被告担当職員の違法・不正な事務処理を認めることは困難である。なお、原告は、前訴判決確定後、原告の調査によって不合理な事実が判明し、確定判決が誤った事実を前提に下された誤った判決であることが確証されたとするが、かかる事実が判明したとしても、それらが再審事由に当たり、原告において再審の訴えをもつて前訴確定判決の既判力を覆す手続がとられていない以上、前訴確定判決の効力を否定することができないことはいうまでもない。
   (3)      同ア(イ)a ないし e の事実について
  ア 同a の事実について
   (ア)             証拠(甲2の1・2、甲14、甲27)によれば、@ 前訴において、勝原は、払戻請求書その他の書類の本人の署名すべき部分を代筆するということもあった旨、争点(1)ア(ア)aに関する原告名義の昭和48年3月7日付130万円の払戻請求書の原告氏名の筆跡は、勝原の字かも知れない、同人の字によく似ている旨の供述をしたこと、A 平成7年12月4日、勝原は 、原告と勝原との会話時に示された書類の原告の氏名は勝原の筆跡ではないと発言したことは認めることができる。
   (イ)              しかし、勝原は、平成7年12月4日に原告から示めされた
   書類に書かれた原告名義の氏名は自らの筆跡ではないと供述したのみで、その時に示された書類が甲15の払戻請求書であると認めるに足りる証拠はなく、また、勝原は前訴においても甲15の払戻請求書の原告の氏名の筆跡が自分のものとよく似ていると供述していたにとどまり、勝原が故意に偽証したとまで認めるに足りる証拠はない(なお、仮に甲15の氏名が勝原の筆跡によるものでないとしても、被告担当職員が原告の意思に基づいて関係書類に代筆することがあったとする点までが否定されるものと評価することはできない)。したがって、同aの事実は認められない。
  イ 同b の事実について
   (ア)  証拠 (甲16,17)によれば、同b の事実が認められる。
   (イ)    しかし、古い日付の印影に欠落部分があっても、欠落部分の有無は印章の押捺方法、朱肉の付き具合、押捺の加減、紙面の起伏、付着物の有無等によることも考えられ、直ちに当該印章自体に欠落部分があったとまで認めるには足りず、また、印章の周囲輪郭の一部に摩耗ないし浅い欠損が発生したにとどまる状態であれば、押捺の仕方によって印影に欠落が生じたり、生じなかったりすることもあるから、上記事実のみから、古い日付の書類を後から作成したものと認定することもできない。さらに、原告の刑事事件における金澤の証言(甲5)によれば、仮に周囲が一部欠けた印影のある書類 よりも新しい日付の書類に欠落のない印影があったとしても、被告において出金伝票に顧客の印を押しておいて持っていた可能性もあり得るというのである。そうすると、上記認定事実からは、直ちに証拠の改ざん等の事実を認めるに足りず、前訴確定判決が誤った事実を前提に下された、誤った判決であると断定することはできない。
  ウ 同c の事実について
    同cの事実を認定するに足りる証拠はない。
  エ 同d の事実について
   (ア)      証拠(甲22、23、乙8、証人五十棲、原告)によれば、以下の事実が認められる。
    a 被告に資料提供を求めていた原告は、昭和50年2月27日に被告職員である五十棲及び森田から手形貸付一覧表及び割引手形一覧表を受け取った。
    b 五十棲及森田は担当常務から依頼された期間につき、原告から求められていた手形の流れを中心に伝票等を基に手書きで上記一覧表を作成した。
    c 手形貸付一覧表(甲22)及び割引手形一覧表(甲23)の昭和49年分及び昭和50年1月分(甲22の4枚目ないし7枚目、甲23の3枚目及び4枚目)は五十棲と森田が作成したものであるが、その余の部分(昭和48年分等)については、同人らが作成、したものではなく、誰が何時作成したものであるか現時点では判然としない。
   (イ)       しかしながら、上記の事実から、直ちに、原告主張の違法・不正な事務処理があったことが推認されるものでないことはもちろんであるし、また、上記一覧表の昭和48年分について原告に不利な改ざん等が行われたものであると推認することもできない。他にこのような改ざんの事実を認めるに足りる証拠はない。
  オ 同e の事実について
    (ア)          証拠(甲7、甲11ないし13、証人村上、原告)及び弁論の全趣旨よれば、次のような事実が認められる(甲7のうちこの認定に反する部分は採用することができない。)。
    a 村上は、谷口弁護士の依頼により、被告巽支店に赴き、原告の預金台帳の写しや原告の手形、現金払戻請求書等の写しを受け取るなどした。また、村上は、原告の前訴の傍聴に一度行ったことがあるが、被告代理人が裁判所に意見を言い、裁判所が原告代理人である谷口弁護士に何か言った結果、谷口弁護士から退廷するように言われて退廷したことがあった。
    b 原告は、平成5年ころから、月に2回ほど村上の自宅マンションにやって来ては、原告が前訴で敗訴した理由として、村上と被告が結託したと主張し、村上を非難した。原告は、村上が言いがかりだと述べるにもかかわらず、月2回程度来訪し、10日に1回程度架電して同様の言動をし、村上が転居した後も同様の行動を続けた。
    c 原告は、平成8年ころ、谷口弁護士に対し、同弁護士は被告と裏取引をして金員を受領したため前訴において訴訟活動等も十分にせず辞任したものであると主張して、支払った着手金の返還等を求めた。そこで、谷口弁護士は、同年8月に原告を被告として債務不存在確認請求訴訟を提起したところ、平成9年12月12日に谷口弁護士の請求を認容する判決が言い渡され、控訴もなかったため同判決が確定した。
    d ところが、上記判決確定後、原告は、村上が被告から裏金を受領し、書類を偽造していたことが判明したとし、村上は谷口弁護士の事務員又は代理人であるから谷口弁護士にも損害賠償責任があると強く主張してくるようになり、平成10年4月末日ころまでの間に約30数回にわたり谷口弁護士の事務所に赴き、前記の主張をし、村上が被告から受領した裏金を被告に返すか、原告に渡せなどと要求するなどした。そこで、谷口弁護士は、原告を被告として、債務不存在確認及び慰謝料を請求する訴訟を提起した。
    e また、村上も、原告の多年に及ぶ上記のような行動により精神的に疲弊し、平成10年、谷口弁護士の提起した上記訴訟に先だって、原告に対し債務不存在確認請求を提起した。
    f 原告と村上は、平成10年11月30日、裁判上の和解をした。和解の条項の趣旨は、村上が、原告に対し金300万円の解決金を支払い、原告が村上に対し面接、架電するなどの方法で連絡をする行為を一切しないというものであった。
    g 谷口弁護士と原告も、同日、裁判上の和解をした。和解の条項の趣旨は、谷口弁護士が原告に対し300万円の解決金を支払い、原告が谷口弁護士に対し一切の連絡及び訪問をしないというものであった。
    h 原告の代理人として上記各和解に関与した藤原弁護士は、原告の刑事事件において、谷口弁護士等の主たる目的は、同人を原告代理人として裁判上の和解をすることにより、面会を要求しないという保証を取り付けたいということにあり、前訴において谷口弁護士らに何らかの違法行為があったであろうということは断定しかねる旨証言している。
    (イ)         上記認定事実からすると、確かに、谷口弁護士と村上は、原告に対し、300万円という少なからぬ金員を支払う和解をしており、両人において原告に対し何らかの後ろめたい事実があったのではないかという推測も不可能ではない。しかし、前記各和解条項には原告の訪問や連絡を禁じる条項が入っていること等の前記認定事実に甲7、13をも勘案すると、谷口弁護士と村上は原告の執拗な訪問・連絡行為を避けることを目的としてこのような金員を支払う和解をしたものと認められる。一方、原告の主張する谷口弁護士及び村上と被告との間の裏取引を認定するに足りる証拠はないので、争点(1)ア(イ)eの事実は認められない。
  なお、原告は、村上が前訴の傍聴に来た際に被告代理人によって退廷させられたことから、村上と被告代理人とは既に面識があり、原告の知らないところで金銭的解決(裏取引)が終わっていた疑いがあると主張するが、前記のとおり、その退廷の理由は明らかでなく、また、被告職員ではなく、被告代理人自身において村上と面識があったのかどうかも明らかではない上、さらに、被告代理人が村上を知っていたからだといって、被告と村上との間に裏取引が存在していたと推認することは到底困難である(裏取引があったとすれば、むしろ、被告代理人において村上の退廷を求める必要もない。)
  又、谷口弁護士が被告から示談の申入れがあったと述べたということから、裏取引の存在を推認することも到底できない。
   カ  同f の事実について
    (ア)   証拠(甲5、証人金澤)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる
      a 原告が問題としている昭和48年3月7日から昭和49年末までの間、金澤は、原告と被告との取引にかかわっていない。
      b 原告が、平成11年1月28日以降,被告を訪ねたとき、金澤は被告業務部副部長であり,また,苦情処理係にも就いており,原告の苦情に対応していた。
    C 金澤は、原告の持参した書類を見て,自らが客観的におかしいと思ったことから推測し。原告名義払戻請求書の原告の署名が被告の筆跡と異なる点や,払戻請求書の日付の時系列順に並べ,欠けた印影の後に欠けてない印影があるという点につき、おかしいと発言し,被告の当時の事務処理につき、ズサンであった旨の発言をした。

    (イ)       上記認定事実のとおり,金澤は資料上被告担当職員当時の事務処理上のずさんさについて認 める発言をしてるが、それは被告職員において代筆や一括押印をしていた可能性があるという趣旨であり(甲5)、それが原告の承諾なくされていたことや被告自体が不正なことをした事実を認める趣旨ではなく,事務処理上にズサンな点があったことを認めるものにすぎない。また、こうした事務処理上の問題点は前訴における勝原の証言等からもうかがわれた事情であり、前訴判決は、このような点についても勘案した上で判断をしたものであるので,確定判決が誤った事実を前提に下された誤った判決であることが確証されたとは到底いえない。
       争点(2)について
    (1)         以上を前提に争点(2)のアの原告の主張について判断する,被告は原告に対し、原告の主張するような社会的道義的責任を負うものと認めることはできない。そうすると、被告において原告との話合いに応ずべき作為義務があるということもできない。したがって被告のした原告の訪問拒否の通告及び建造物侵入罪での告訴は、何ら違法性を有するものではなく、原告の権利を不法に侵害するものではなく、不法行為を構成するものではない。
    (2)         また,仮に被告に原告との話合いに応じるべき社会的道義的責任があったとしても、かかる責任は何ら法的義務を構成するものではなく、このような社会的道義的な義務に違反したとしても正に道義的責任を問われることは格別、不法行為を構成するものではない。ましてや、被告が法的責任を負わないことは確定している以上、被告に原告との間で和解・示談をする義務はないのであって、話合いによる和解を求める目的であったとしても、執拗に被告を訪問し、義務のないことを求める原告に対して、来訪を拒絶するとともに、これに反して来訪した場合には住居侵入罪で告訴する旨通告することは何ら不当なことではない。証拠(乙6、原告、証人金澤)及び弁論の全趣旨によれば,原告の被告本店への訪問・架電等による交渉は約40回に及び(訪問拒否の通告までも,訪問10回、架電4回)、各回ともにその対応に少なからずの時間を要するものであったところ、被告は、このような原告の執拗な訪問への対応に苦慮し、被告代理人弁護士名義の書面で原告の訪問を拒否したものであり、それにもかかわらず原告の再度の被告本社への訪問・立ち入りがあったため、やむなく告訴に及んだものであることが認められ、仮に被告に社会的道義的責任があると仮定した場合であっても、原告のこうした行動に対応して採られた被告の上記行為は何ら違法性を帯びるものではない(他方、明確に訪問を拒否されながら、なおも被告を訪問して立入り・面談を求める原告の行動が違法であることは明らかである。)。
  なお、仮に原告主張のような被告の清水理事の言動(「帰れ,帰れ」「阿呆と話合いすることはない」など)があったとしても、上記のような執拗な来訪・面談要求の後の警告を無視した来訪という事態の中での対応であり、直ちに違法な挑発的言動であるということはできない。
    (3)        よって、被告には,不法行為に基づき原告の被った損害を賠償する責任はない。
 3 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第18民亊部      裁 判 官   川  神