「俺もそう思ってたんだけど今年十三回忌だし。いい加減しないと彼だって可哀想かなって思うんだ」


 Music By  
 

 セレーネ連合の組織の1つ、ワオン。和楽器奏者と戦士を育てるこの集落では和楽器の音色に溢れていた。町並みも和風で落ち着いており、穏やかな時間が過ぎていた。

「久しぶりだな、ユウギリ」

あるワオンの家の和室に座っていた勝気そうな少女・・・・・・ナツキは部屋に入ってきた黒髪の少女・・・・・・ユウギリに向かってそう言った。

「久しぶりってほどでもないんじゃない? この間も会ったよね?」

「まあ・・・・・・な。でもワオンでこうやって会うのは久しぶりじゃないか?」

ユウギリはそうだねと言うと、ナツキの横に座った。

「っておまえさ、その格好はないんじゃない?」

ナツキはユウギリの格好、オレンジ色の和服に緑色の袴のようなスカートという服装を眺めてそう言った。別にコーディネートに問題があるわけではない。ユウギリによく似合う格好ではあるが・・・・・・。

「喪服は?」

「持ってきたよ・・・・・・そういうナツキだって随分ラフな格好じゃないか」

そう、ナツキやユウギリがワオンに来たのは彼女たちの伯父の13回忌なのだ。ユウギリはそう言われたもののナツキの白のポロシャツにズボンというややラフな格好を指した。

「まあ、その前に着替えるさ。俺喪服とか似合わねえし」

「まだ全然時間あるしね」

ユウギリがそう言うと、ナツキは立ち上がり、物置のような襖を開けた。

「じゃあ暇だし箏弾くか? エルフでもやろうぜ! おまえ爪持ってる?」

「うん、癖でいつも持ってるよ」

ナツキの意見に同意しユウギリも物置に行き13絃の箏と柱箱、琴台を持っていった。ナツキの方も17絃の箏とその一式を持っていった。2人は調絃をとるとエルフという曲を合わせた。

「あのさ、今回の催しってナツキが主催したの?」

キリのいいところまで弾くとユウギリは箏から視線を外して、ナツキの方を見やってそう言った。

「ああ、そうだな」

「そう、伯父さんの葬式もまともにやらなかったのにね・・・・・・あまり人望も無かったみたいだし・・・・・・こういうのやらないと思ってたよ」

「そうだな・・・・・・俺もそう思ってたんだけ・・・・・・今年十三回忌だし。 いい加減しないと・・・・・・彼だって可哀想かなって思うんだ・・・・・・」

ユウギリとナツキの伯父、コウは若いころから無茶なことばかりして、他人にも迷惑をかけるような問題人物だった。ユウギリの母のアサヒも、ナツキの母のヨウコも兄には手を焼かされるとよく言っていた。ナツキが思ったことを口にするとまた合奏を始めた。

「あ、トチッた」

しばらく弾くとナツキがそう言って演奏を止めた。苦手な部分だったということもあったが集中力が切れたようだった。

「なあユウギリ・・・・・・おっさんはさ、けっこう駄目人間だったけどさ、最期にはワオンを立派に守ったんだぜ? やっぱり葬式とかもっとちゃんとやってやったら良かったなって思うんだ・・・・・・」

「・・・・・・そう」

「なんで最期だけちゃんとしてたか知ってる?」

「・・・・・・いや」

「・・・・・・天国に逝きたかったんだってさ」

ナツキは見えるわけでもないが天井を仰いだ。

「自分が天国に逝ける人間じゃないっていうのは自覚あったみたいでさ。 でも最期くらいみんなのためになったら逝けるんじゃないかって・・・・・・怪我の治療受けながら言ってた。まだ俺子供だったけど・・・・・・それはよく覚えてるんだ」

「そうなんだ・・・・・・」

「だから死ぬ時は役に立てるようにしたかったんだって・・・・・・死ぬときのこと考えてたなんてさ、あれでもやっぱりワオンの戦士なんだなって思ったよ」

ナツキはそのまま頭の後ろで手を組んで寝転んだ。

「俺は死ぬときどうするんだろうな・・・・・・やっぱり俺ヘリオスの騎士だし、死ぬ時はヘリオスのために死んでいくのかな」

「僕はさ・・・・・・ヘリオス人だけど・・・・・・ヘリオス人なのかな?」

ユウギリはそう言うと足を崩して楽な体勢になった。

「おまえ言ってること意味不明」

「う・・・・・・ん、母さんはここの人だし、父さんのことは何も知らないんだ。 誰も何も知らないからヘリオスの人じゃないと思うんだよね・・・・・・ナツキは父親がヘリオス人だからさ・・・・・・僕はどこの人になるんだろうって・・・・・・僕の故郷はどこになるんだろう・・・・・・ワオンの人でもないし・・・・・・」

「自分で思ったとおりでいいんじゃねえの?」

ナツキはそう言うと起き上がりあぐらをかいて座った。

「大切な人がいるとか、育った場所だとか、思い出がいっぱいある場所とか・・・・・・そういうのが故郷なんじゃねえの?」

「そう・・・・・・かな」

「ああ、だから俺の故郷はヘリオス。だから騎士にもなった。死ぬ時はヘリオスのため、なんだな、だから」

「僕は嫌だな」

「はあ? 天照神官長が何言ってるんだよ?」

「僕は国のためには死なないよ。僕が死ぬのに原因があるんだったら・・・・・・レイとアスカとリンと・・・・・・あいつのためだけだよきっと」

ユウギリはそう言いながら障子を開けて外を眺めた。

「死ぬときのことなんて考えたくないね。僕は天国に逝こうが地獄に逝こうがごめんだよ。生きていたいから」

ナツキがユウギリの言葉を聞きながら頭を掻いた。

「誰かのために死ぬのもいいかもしれないけどさ・・・・・・僕が死ぬと悲しむっていうやついるから・・・・・・死んだらいけないんだよ、きっと」

「そっか・・・・・・」

「僕は幸せ者だね。誰かのために生きれるんだから・・・・・・」

「だったら生きてることだな。俺はそういうの、無いし」

「じゃあ僕のために生きてよ」

ナツキの方を振り返り、ユウギリが言った。ナツキはやや面食らったような表情になった。

「だってナツキは僕の従姉妹でしょ? 僕親戚少ないから・・・・・・死なれるの嫌だし」

ユウギリはさも当たり前のように言ったがナツキには照れくさい気がした。

「たぶんさ、ナツキの仲良しって騎士だからそういうこと言いにくいのかもしれないけど、生きててほしいってみんな思ってると思うんだよね・・・・・・戦士たるもの死ぬ覚悟は決めとかないといけないけどさ・・・・・・」

「ああ、でもさ・・・・・・」

ナツキがユウギリのとなりに立ち、蒼い空を遠い目でみつめる。

「おっさんがちょっと羨ましかったんだ・・・・・・怪我で死んだんだから痛いはずだったのに・・・・・・嬉しそうだった・・・・・・人のために死ねるっていう満足感だったのかもしれない」

ナツキはあまり顔もはっきり覚えていない伯父に思いを馳せた。

「悔いなく死ねたらいいよな」

「そうだね・・・・・・でも、悔いなく生きれるようにしない?」

「・・・・・・そうだな、生きること考えようか、俺たちは」

「うん」

2人は目を見合わせて笑った。べつに可笑しいわけではないが、何かおかしかった。生きるだの死ぬだの本当はよくわかっていないのかもしれない。いや、わかるはずないのかもしれない。答えなどおそらくどこにも存在しないのだから・・・・・・伯父の死も1つの形なのかもしれない。その人にとっての生死があるのだと思った・・・・・・。

「そろそろ準備しようぜ! おっさんの13回忌だ!」

「わかった!」

 


 2人は箏を片付けて着替えて会場へと向かった。会場にはワオンの人々がたくさん集った。昔は厄介者だったが、今となっては最期の、ワオンの誇り高き戦士として記憶されていたようだった。

「よかったな、おっさん。こんなに感謝されてんぞ。天国に逝けなかったとしても満足だろ?」

ナツキは故人に祈りを捧げながら誰にも聞き取れない小さな声でそう言った。

「俺は・・・・・・俺たちは人のために生きるってことにするけどな」

ナツキの言葉に反応するように木々がそよそよと揺れていた・・・・・・。


〜あとがき〜
秋月さまへのお礼作品でした。ユウギリとナツキの過去のエピソードです。文中で出てきたエルフっていう曲は本当にあります。定期演奏会でやりました♪しかも私も箏で参加しましたしなっちゃんをいっしょにつくった友人も17絃で参加しました。文中では二箏はいないということになってますが(かなりマニアックな設定・・・)「蒼い世界のなかで」は戦争がけっこう土台にもなっている話なので生死は重要なテーマです。キャラによっていろんな考え方をしてますが、ユウギリとなっちゃんはこういう感じです。ユウギリは巫女ですが基本は戦士なので死ぬ覚悟は決めてますが生きようという考え方を持ってます。なっちゃんは満足できる一生を終えたいと考えてます。この2人は比較的ポジティブな印象ですしね。ユウギリが死ぬ原因であるとしたら・・・の“あいつ”はもちろんあの人です(笑)

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