「それなら俺はどうしたらいい?」

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 燃え上がるラリファでハヤト、ユウギリ、シオン、キリンと共にヘイナはヘリオス騎士と戦い、民の逃げ道を開いていた。

「お、おまえ・・・・・・ヘイナか!?」

名を呼ばれ、ヘイナがそちらを向く。その驚きの声をあげたのはヘイナと同期だったヘリオス騎士団員だった。

「・・・・・・そうだ」

「何で・・・・・・おまえそっちにいるんだよ!?」

「俺は騎士団員ではない。今はキリン様の部下だ」

「ちっ・・・・・・海賊なんかに成り下がりやがって・・・・・・いいとこの坊っちゃんは亡きお父様の顔に泥を塗っていい道楽ですねえ」

同期の騎士団員の隣の2つ上の先輩騎士であった青年が嫌味ったらしく言い、ヘイナは顔をしかめた。

「言っていろ。 おまえにはどうせわからない」

ヘイナはそう静かに言うと、相手に剣を振り下ろす。避けたと少し安心している隙に風の魔法で2人の剣を吹き飛ばす。

「道楽なんかじゃない・・・・・・自分の意志だ」

ヘイナは2人のみぞおちに剣の柄で打撃を与え、気を失わせた。

 


「ヘイナ?」

船に戻るとハヤトが心配そうに顔を覗き込んできた。ヘイナは突然目の前に現れた親友の顔に驚いて後ろに下がってしまった。

「何か・・・・・・大丈夫か? 暗いぜ?」

「いや・・・・・・ラリファがあんなことになるとは・・・・・・思わなかったから・・・・・・」

ハヤトが視線を下げた。ヘイナは何だろうと思いハヤトの視線を追い、しまったと思った。左手首を見られている・・・・・・隠し事をしようとするとそこを強く握ってしまうのがヘイナの幼少からの癖だった。今も・・・・・・握っている。

「な〜んだ? それだけじゃないってか? まあ、詮索はしねえけど無理すんなよ?」

「なっ!? こ! 子ども扱いするな!!」

ハヤトにがしがしと頭を撫でられ、ヘイナは顔を赤くして手を振り解いた。子供っぽいと評されているハヤトだが実はヘイナからすればお兄さん的存在である。ヘイナはハヤトと比べいつも見劣りすると思っていた。自分よりずっと男らしい見た目をしているし性格もウジウジ悩まないさっぱりとした男らしい性格で力もあり剣術にも長けている。温かい人柄で他人を安心させる包容力もあるし・・・・・・ヘイナはハヤトが羨ましかった。

「ちょっと風にあたってくる」

「ああ、考え事がしたきゃそれがいいな。じゃあな、何かあったら言えよ」

 

 
 ヘイナは甲板に出て風を受けていた。銀の髪がややうっとうしくなびき短く切ってしまおうかなとも考えたが何故か周りに反対される。勿体無いと。俺は女じゃないんだから・・・・・・と考えるがやはり皆がそう思うならと切らないのがまたヘイナだった。

「俺は父の顔に泥を塗っているのだろうか・・・・・・」

ヘイナの脳裏に昔の出来事が蘇った・・・・・・。

 


「お父様―!」

ヘリオス聖都への道。一面の緑の草原に道が敷かれたその歩道を肩あたりまでのばした銀のサラサラした髪をなびかせながら幼い少年が黒髪の威厳を漂わせ、立派な黒い毛並みの馬に跨ったヘリオス騎士の男性に駆け寄る。騎士の男性もその姿を見、優しそうに表情を一変させた。

「ヘイナ、ここまで迎えにきてくれたのか?」

「はい! だってお父様が帰ってくるの嬉しいんだもん!」

少年・・・・・・ヘイナはにっこりとしながらそう言う。その様子に周りにいた騎士達も顔を綻ばせた。

「あいかわらずだな、ヘイナは。それにカズナ様にあまり似ないで可愛らしいことで」

「トワ、それはどういう意味だ?」

黒髪のまだ少年という年頃の白馬に跨った騎士をジロリと睨み、ヘイナの父であるカズナがそう言うと、騎士達からドッと笑い声が漏れた。

「いいえ、では解散にしますか? せっかくの家族団らんでしょう?」

「そうだな。ではまた」

カズナが頷くと一同その場で解散となった。カズナは自分の前にヘイナを乗せ、家へと向かった。ヘイナの髪をそっと撫でてやりヘイナも気持ち良さそうに目を細めた。

「ハルミに似たな」

「お母様? そうなの? お母様ってすっごい美人なんでしょう? 家に飾られている絵もすっごく綺麗だし・・・・・・」

「そうだぞ、母さんはヘリオス一の美人だ。病弱・・・・・・だったがな。だが本当におまえはよく似ているぞ。将来は美人になるなあ」

「僕は男です!!」

ヘイナが頬を膨らませてそう言うと、カズナは声をあげて笑った。妻亡き後、カズナの一番の楽しみは一人息子ヘイナの成長だった。同時にヘイナが可愛くて仕方が無かった。

「そういえば父さんが留守の間、剣の稽古はしたか?」

「はい! 将来お父様みたいな立派な騎士になれるよう頑張ってます!」

「そうか、ではひとつ家に着いたら成果を見てやろう」

 

 ヘイナは練習用の剣を持ってカズナと対峙した。幼く小さい体のヘイナだが構えはしっかりとしたものだった。ヘイナがカズナへと斬りかかる動作をする。動きは悪くないがやや剣先が不安定だった。カズナはそれをよけるとバランスを崩したヘイナの剣をはらった。

「あ〜あ・・・・・・」

「筋は悪くない。構えもしっかりとしている。だが・・・・・・力がないせいか剣を振り下ろすので精一杯のようだな・・・・・・精進しろよ」

「はい!」

「ヘイナはどうして騎士になりたいと思ったんだ?」

聖都でも比較的大き目の洋館の庭からリビングへと入り、カズナはヘイナにそう尋ねた。

「お父様みたいになりたいから」

「私か?」

「はい、民を守って自分を盾にするヘリオス騎士団長・・・・・・すごくかっこいいなあって」

ヘイナが恍惚とした表情で戦場を翔ける父の姿を思い浮かべた。

「そうか・・・・・・ではヘイナ、騎士・・・・・・いや、戦いに身を置く者、戦士としての心構えを教えてやろう」

「はい」

「いいか、戦士は自らの命を懸けて戦う。大体相手もそうだからな。その覚悟がなければ戦うことなどできん。ヘイナは、覚悟はもうできているか?」

「え? いいえ・・・・・・まだ・・・・・・」

「はは、まだよい。おまえは6歳なのだからな。しかし、いつか覚悟を決める時がくるだろう。 私は母さんの笑顔を守るためにも騎士になった。16のころだな。そして28のころ騎士団長に任命され、30のころおまえが生まれた。母さんは天国に逝ってしまったが私にはおまえの育つ場所を守らねばならないというもう1つの使命ができた、だからこうして騎士のつとめを果たしている」

「じゃあ・・・・・・お父様はその使命がなければ騎士をやってはいないんですか?」

「そうかもしれないな。いいか、ヘイナ、おまえは騎士団長の息子というレッテルをはられるだろう・・・・・・だが、そのために騎士にならなければならないと思うことは無い。 おまえが戦う理由が無いと感じれば戦う必要は無い。商人でもいい、学者でもいい、世界を旅するのもいい。おまえが自分で決めることだ。もちろん守りたいものができて騎士になるのならそれもいい。どんな道に進もうとも私はおまえを応援する。おまえが決めたのなら」

カズナはそう言いながら一生懸命話を聞いているヘイナの頭を優しく撫でた。

「自分で考え自分で決めろ。守りたいものを守ってやれ。自分の信念を貫くのだぞ。どんな時も他の者について行くだけの人間にはなるな。自分の頭で考え行動するんだ」

「はい! お父様!!」

 


 その5年後カズナはセレーネとの戦役で戦死した。名誉ある死だったとヘリオスの聖都では騎士団総動員で葬儀が行われた。ヘイナはカズナの遺言でトワの後見を受けることになった。

「ヘイナ、おまえは騎士になるのか?」

「はい、自分で決めました。父はこの国を、母と過ごしたこの国を愛していたと思います。だから、この国がいつまでも素晴らしい国であるように・・・・・・守りたいんです」

「わかった。では私が騎士としての面倒も見ることにしよう」

ヘイナは11歳、トワは22歳になっていた。トワは騎士団員でも随一の剣術を誇る騎士で、いずれ騎士団長の役目を担うであろうと皆に言われていた。カズナを尊敬していたトワは彼の大事な忘れ形見であるヘイナを立派な騎士にしようと稽古に忙しい中付き合い、剣術を指導した。やはり体つきが病弱だった母親譲りで力が弱いためトワはヘイナに見合う細身の剣を渡してやった。そしてヘイナの潜在的な魔術の能力を見出しとくに詠唱スピードの早い風の魔法を教え込んだ。魔術に関してはトワよりも上回るような成果をヘイナは見せた。ヘイナは同期の騎士団員の中でもトップの成績を残す優秀な騎士となった。そうして5年の月日が流れヘイナは16歳、トワは27歳になり、言われていたとおりトワは騎士団長となった。順風満帆、そうもいかなかった・・・・・・ヘリオス神聖国の政治体制が乱れてきたのだった。政治家は世襲だけ。有力な商人との汚職事件が平気で黙認されている。


「これがお父様の愛した国でないとしたら・・・・・・それなら俺はどうしたらいい?」


 ヘイナはトワの付き添いでヘリオス城に来ており、城の廊下でぼそりと言った。父が愛した国はもとの国とは別物だった。この国に従うのが自分の決めた父が愛した国を守ることになるのだろうか・・・・・・疑問に思っていた。

「悩みごと?」

ヘイナはびっくりして声の方を見た。そこには4人・・・・・・栗色の長い髪を結った少年、銀の髪を靡かせた少年、巫女姿の黒髪の少女、黒髪の背の高い笑顔の少年がいた。たしか栗色の髪の少年は皇太子アスカ、巫女姿のは天照神官長のユウギリだったなとヘイナはぼんやりと思った。

「え・・・・・・ああ」

「若いのに悩み事とはよくありませんねえ」

「シオン、おっさんくさいよ」

「ひどいですね、俺はまだ18ですよ?」

「12の僕からすればおっさんだね」

「もしかして恋わずらいか?」

皇太子のアスカがニヤニヤしながらそう言った。見た目と随分ちがって気さくな感じだなとヘイナは思った。

「アスカは全部それだな。カオルとの結婚が認められて恋愛至上主義になってるだろ?」

「しょうがないだろ? リン、頭ん中それでいっぱい。俺が18になったらカオルと結婚して俺が王になるんだ」

アスカは幸せそうにそう言った。カオルといえばワオンの村・・・・・・セレーネ出身の少女だ。そのカオルと結婚をするということは、アスカはあまり外への偏見が無い少年だと見受けられた。ヘイナはこの少年が新しく王になるのであれば将来が明るいなと思った。

「いや、何でもないんだ。気にしないでください」

「そっか、じゃあな! 外行ってこいって親父がうるさいから行こうぜ!」

アスカはヘイナに手を振ると3人を連れて城の中庭へと向かった。

 


 ヘイナはトワが書類を片付けている部屋にお茶を運んでいった。部屋を空けているようだったのでお茶を机の上においておこうとした・・・・・・その時今日の会議のものであろう書類が目に入ってしまった・・・・・・反乱分子の削除命令・・・・・・殺害命令のリストだった。ヘイナは政治がガタガタになってしまってはいるが反逆者が見当たらないことから国自体は腐っていないと信じていた。それが秘密裏に消されているなどとは知らなかった。

「ヘイナ? ああ、茶か、すまんな」

「ト、トワ様・・・・・・? この書類は・・・・・・」

ヘイナが声を震わせて言うとトワは一瞬顔を歪ませた。

「反逆者の殺害リストだ。ヘイナ、おまえもそろそろ知っておかねばならないだろう。私たち騎士団には反乱分子の除去のために結成された部隊もある。納得いかんかもしれんが国を守るためには必要なのだ」

「それは、まだわかります・・・・・・なぜここにカオル殿の名前があるのですか!!」

「・・・・・・ヘリオスとセレーネの架け橋となってしまうような存在はあまり好ましくない。 セレーネの者がヘリオスで暮らすのには問題は無い。逆もそうだ。それが王家に嫁ぐとなれば話は別だ。これは神王陛下より出された命令だ」

ヘイナの白い顔に怒りの炎が燃えた。そんな政治上の問題だけで何も悪いことをしていないカオル、彼女との結婚を幸せそうに待ち望んでいるアスカのことを踏みにじってしまうのか・・・・・・。ヘイナはもう黙認してこの国に従う気にはなれなかった。

「トワ様・・・・・・私は、父の愛したこの国を守りたかった・・・・・・でも! でも!! こんなの父の愛した国なんかじゃない!! 私はこの国を出る!! いざとなれば反乱分子にでもなってやる!!」

「待て! ヘイナ!!」

トワはヘイナの腕を掴んだ。力では敵わないと判断したのかヘイナは抵抗せず下を向いた。

「落ち着いたか・・・・・・?」

トワはヘイナの様子に安心したがヘイナの回りの気配の変化を感じ取った。ヘイナは小さな声で詠唱を始めていた。

「風よ! 我が前の敵を吹き飛ばせ!! 『突風』!!」

トワは防御魔法を張ったが風の勢いも強く掴んでいた腕を放してしまった。その隙にヘイナは部屋を飛び出していた。

「ヘイナ!!」

トワは歯を食いしばって耐えるように立っていた。自分とて認めたくない部分はある。しかし理想だけでは国は動かせない。ヘイナはカズナに似ているなと頭の隅で思った。

 


「ヘイナ? 大丈夫か? そろそろ飯の時間だけど・・・・・・」

ハヤトがヘイナの顔を覗き込んだ。ハヤトはいつも自分のことを心配してくれるなとヘイナは思った。ヘイナはあれからヘリオス国内を彷徨った。そして反乱分子のリストにもあった何人かに話を聞いた。仲間の反逆者の中には海上戦士団のキリンの元に行った者がいるという情報を手に入れヘイナも早速彼女に会った。事情を話すとキリンはヘイナを迎え入れてくれた。ヘイナはアスカにカオルから目を離すなという手紙をキリンに託しておいた。キリンはレイという青年を通してアスカに渡しておいた。アスカに近しい者が皆カオルのことを見守るようにつとめているという連絡がレイから入った。ヘイナは安心していた・・・・・・が2年後、カオルが殺害されたという知らせが入った。特殊部隊がやったのか噂どおりセレーネの人間がやったのかはわからなかった。それでもヘイナは酷く自分を責めた。その後神王になったアスカは人が変わってしまったという噂も聞いた。自分が不甲斐無いばかりに・・・・・・。ハヤトがずっと泣いている自分の側にいてくれたことはよく覚えている。何かを言ってくれたわけでもない。ただいただけだったが、不思議と救われた気がしたのもよく覚えている。そしてそれから更に3年がたち、今になる。ユウギリの話を聞くだけでもヘリオスが更に腐っていった原因のひとつがカオルの死であると思った。アスカはいい王になる器だった。明るく偏見のない皇太子だったから・・・・・・。


『それなら俺はどうしたらいい?』


「俺はどうすればいい?」

少年の頃の自分が考え事をするとそう尋ねてきた。答えはいつもはっきりとしない。今の自分を見て父は嘆かないだろうか・・・・・・時々心配になる。ヘイナは思わず自問自答なのか、ハヤトに訊きたいからなのか、声に出した。

「おまえが決めたとおりにしろよ。俺ができることはしてやっからさ」

『どんな道に進もうとも私はおまえを応援する。おまえが決めたのなら・・・』


父の言葉が重なった気がした。

「はい、俺が決めました。ヘリオスを壊すつもりはありません・・・・・・でも、こうすることがヘリオスを元の、本当に美しい国に戻せると・・・・・・思うんです」

「随分改まって言うな・・・・・・まあ、それがおまえの決めたことならいいんじゃねえの?」

ハヤトが優しそうに笑った。ヘイナは何故か父が微笑んでくれたような感じがした。自分で決めたことだから・・・・・・誰に言われたことでもなく、自分で・・・・・・。

 

〜あとがき〜

翡翠さまリクエスト短文でした・・・ちょっと長くなってしまいました(汗)ヘイナの過去話です。時間差を出すためにもユウギリたちの子供時代も出てきました。この頃はまだカオルが生きていてアスカも元気で明るい少年だったんですよね。シオンが少年ってイメージが湧かないんですが(苦笑)カオルを殺したのが誰かははっきりわかっていません。ヘリオス内部説とセレーネ説の両方があるんですよね。アスカはセレーネ説を信じてます。ユウギリは両方で考えています。ヘイナは完全に内部説なんです。何気にハヤトが優しく書かれています。ヘイナはハヤトをすごく信頼してるんですよ。でもって同じ男として憧れている部分もあります。ヘイナ中心のかなりシリアスな話でした。翡翠さま、こんな感じでよろしいでしょうか?

−おまけ−
幼少時のヘイナを描いてみました→おまけ絵1
この小説のイメージ絵です    →おまけ絵2