Kenny Wheeler
1930年カナダ生まれのトランペット奏者です。トロントで和声とトランペットを学び、1952年にイギリスに渡ります。そこでトランペッター、作曲家、編曲家として本格的な音楽活動を始めますが、60年代になると一転フリーインプロに傾倒しJohn StevensやTony Oxleyなどと共演するようになります。70年代に入っても即興演奏の追求は続き、Globe UnityやAnthony Braxtonセクステットなどに参加しますが、その一方で70年代半ばになるとECMから随分と趣の異なる(笑)リーダー作を発表するようになります。しっかりとした音楽教育を受けただけあって楽器の演奏技術、作曲、編曲すべてに秀でており、高水準の音楽を安定提供してくれるのでファンは安心してその作品を買うことができます。またWheelerという人は基本的にロマンティシズム漂う音楽が好きなんだと思いますが、昔とった杵柄で、熱くなるべき時はきっちり熱くなってくれます。こういうバランスのとれた音楽的指向性を持っているところも彼の魅力の一つでしょう。
★作品について
*リーダー作品*
■Gnu High (ECM)(ioi)

Keith Jarrett、Dave Holland、Jack DeJohnetteという最強のメンバーをバックに1975年に吹き込まれた作品です。この面子でしょーもない作品が生まれようはずもなく、ECM作品の中でも屈指の傑作に仕上がっています。Keithも音楽的絶頂期を迎えており、別格の演奏を聴かせてくれます。もちろんリーダーのWheelerのペット(フリューゲルホルン)の響きも最高で、柔らかく美しい音とメロディがKeithのリリシズムと恐ろしくマッチしています。他のメンバーの演奏も文句のつけようがなく、迷わずこの作品には最高点をつけてしまいました。
■Deer Wan (ECM)(ioi)

こちらは1978年作品で、メンバーはWheelerに加え、Jan Garbarek、John Abercrombie、Dave Holland、Jack DeJohnette、Ralph Townerとこれまた超強力。1曲目Peace for Fiveを聴いただけでリスナーは至福感で満たされること請け合いです。Hollandのシャレにならないベースソロの後に出てくるめちゃくちゃカッコいいセクションもさることながら、その後Abercrombieのソロを挟んで登場するGarbarekのソロはまさに鳥肌モノ。こんなにブリブリとドライブする彼のサックスはめったに聴けるものではありません。2曲目3/4 in the AfternoonはRalph Townerの12弦ギターがフィーチャーされた美しいバラード。Wheelerの伸びやかで艶やかなフリューゲルホルンの音色が心に染み渡ります。続く3曲目Sumother SongもWheelerの卓越した作曲、編曲の才能を思い知らされるトラックで、ゆっくりとした3拍子のテーマ(←このアンサンブルがめっちゃ美しい)からGarbarekのソロを経て突然4拍子のアップテンポでWheelerが熱いソロをぶちかます緩→急→緩→急の展開が見事です。そして4曲目のタイトル曲ではいきなりGarbarekの気迫のこもったソプラノソロが炸裂しテンションが一気に高まり、その熱さは次のWheelerのソロへと引き継がれていきます。・・・という具合に、聴き始めたと思ったらあれよあれよという間に最後の曲が終わっている、そういうアルバムです。
■Around 6 (ECM)(^_^)

Wheelerの多様な音楽性が一枚のアルバムに凝縮されているとても中身の濃い作品です。まずは1曲目mai we go around。不思議な雰囲気を持ったモードの曲でWheeler、Eje Thelin、Evan Parkerらフロント陣の吹くテーマが美しいです。 Wheelerのソロが終わると突然アップテンポになりEvan Parkerが乱入してくるのですが、それから先、曲調はがらりと変わり硬派なヨーロッパ・フリーの世界へとなだれ込みます。このあたりの一連の流れが最高に刺激的で、聴いていてゾクゾクしっぱなしです。次に3曲目のmay ride。こちらはメインストリーム寄りの3拍子の曲で、van der Geld、Wheeler、Eje Thelinのいかにもジャズっぽいソロが楽しめます。またこういう「まとも」な曲になるとEvan Parkerには一切ソロが回っていかないあたり、リーダーの適材適所の考えがしっかりしている証拠でしょう(^^;;。続いては4曲目のfollow down。昔Globe Unityがやっていたような上昇スケールと下降スケールが繰り返される怪しげなテーマから、こちらの期待通りParkerのグシャグシャなソロへと引き継がれていきます。それに続くWheelerのソロも恐ろしく熱がこもっており、それまでの演奏とは別人のようです。きっと前衛にどっぷりと浸かっていた若かりし頃はこういうのばっかりやっていたんでしょう。そして5曲目riverrun。やたらと凝った編曲がなされたテーマがこれまた格好いいのですが、リズムも拍子もどうなっているのかよくわかりません。しかしその気持ち悪さも聴いているうちにどんどん快感に変っていきますからご安心を。
■Double, Double You (ECM)(^_^)

Michael Breckerが参加しているせいか、かなりストレートなジャズをやっています。このアルバムは発売された当初に友達に聴かせてもらったのですが、その時はあまり感銘を受けなかったものの、今になって聴き返してみるとかなり良いです。Breckerに負けじとWheelerもすごく気合いが入ってます。ここまで力強くブリブリと吹きまくるWheelerの演奏はECMの他の作品ではなかなか聴けず、その意味でこの作品は貴重です。
■Music For Large & Small Ensemble (ECM)(^o^)

1990年にレコーディングされた作品で、タイトル通りビッグバンド編成による演奏と、デュオないしはトリオによる小編成の演奏から成っています。ここでもWheelerの作編曲の腕は絶好調で、長尺の組曲The Sweet Time Suiteのオープニングの柔らかで美しいメロディー&アンサンブルを聴いただけで溜息が出ます。それをきっかけに伝統的なビッグバンド・ジャズに思いっきりWheeler色と「ECM臭さ」をまぶしたユニークなジャズが繰り広げられるのですが、それぞれのソロイストのプレイがこれまた良く、特にPart IVで普通にスイングしているEvan Parkerには思わず目が点になりました。(ただしPart VI, VIIでのWinstoneのヴォーカルはちょっとうざいかな・・・。)またWinstoneのSomewhere Called Homeでも取り上げていたSee Ladyは美しいやら切ないやらで素直に泣けます。一方、小編成の演奏はかなりテンションの高い切った張ったの演奏で、調子の良い時に聴かないと少々疲れるかも。メンバーはKenny Wheeler(fluegelhorn, tp), John Abercrombie(g), John Taylor(p), Dave Holland(b), Peter Erskine(ds), Norma Winstone(vo), Derek Watkins(tp), Henry Lowther(tp), Alan Downey(tp), Ian Hamer(tp), Dave Horler(tb), Chris Pyne(tb), Paul Rutherford(tb), Hugh Fraser(tb), Ray Warleigh(sax), Duncan Lamont(sax), Evan Parker(sax), Julian Arguelles(sax), Stan Sulzmann(ts, flute)。
■A Long Time Ago (ECM)(^o^)

1999年の作品で、Music for Brass Ensemble and Soloistsという副題からも分かるように、中規模の金管アンサンブルの上で、Wheelerのフリューゲルホルン、John Talorのピアノ、John Parricelliのギターがソロをとります。とはいってもそんじょそこらに転がっている当たり前のビッグバンドジャズとは全く別物で、ECM独特の美意識に貫かれ、一種クラシックに通ずるような高貴ささえ漂わせています。とりわけ30分以上にもわたる大作The Long Time Ago Suiteで展開される複雑で深みのあるアンサンブルには驚かずにはいられません。またGnu Highに収められていたあの名曲Gnu Suiteが再演されているのもポイント高いです。
■Angel Song (ECM)(^_^)

1996年にKenny Wheeler、Lee Konitz、Dave Holland、Bill Frisellのカルテットで吹き込まれたかなりメインストリーム・ジャズに寄った作品です。曲はすべてWheelerによって提供されており、ドラムレスという楽器編成のせいもあって華やかさや派手さは全くありませんが、大変味わい深い作品に仕上がっています。管が美しくハモるタイトル曲のテーマや、6曲目Onmoでの抑制が利いていながら歌いまくっているギターソロ、Paul Motian On Broadway Vol.3を彷彿とさせる4曲目Untiや8曲目Past PresentでのKonitzのあまりに渋いソロなどなど、これなら普通のジャズファンも大満足でしょう。ただし同じような調子の曲が延々70分に渡って演奏されるのと、そのサウンドがあまりに心地よすぎるため、聴いていると途中で必ず寝てしまうのが玉に傷。ちょっと欲張りすぎてしまいましたね・・・。
*ゲスト作品*
■At Moers Festival (Ring)(^o^)

Anthony Braxtonカルテット(A. Braxton(reeds)、K. Wheeler(tp)、Dave Holland(b)、Barry Altschul(ds,perc))による1974年のライブ録音です。評価は御覧の通りで、Braxtonならではのいかがわしくて尚且つ熱い極上のジャズが堪能できます。一糸乱れぬアンサンブルで提示される変態テーマから一気に凄まじい高速4ビートへとなだれ込む1曲目の6--77AR--36K...なんとかかんとか、を聴いただけで気分はハッピー。この演奏を生で聴いた聴衆に嫉妬さえ覚えます。Wheelerの演奏に関しては、ECM作品からは想像もつかない非常に先鋭的なソロをとっています(例えば2曲目489M 70--2--(THB)...なんとかかんとか) 。ここに更にLester Bowieのような華やかさやユーモアが加わればもう最高なんですけどね。
■Five Pieces 1975 (Arista)(^_^)

上のAt Moers Festivalと同じカルテットによる1975年作品。詳しくはAnthony Braxtonを参照してください。
■Creative Orchestra Music 1976 (Arista)(^_^)

こちらもAnthony Braxtonの作品。エリントンにインスパイアされて作ったと言う5曲目でWheelerの力強いソロが聴けます。
■Old Friends, New Friends (ECM)(^_^)

1979年のRalph Townerのリーダー作品。少なくともWheelerに関する限り、すべての曲において申し分のないソロを聴かせてくれます。(ただしBeneath An Evening Dayは除く。)特に1曲目のNew Moonでの艶やかで伸びやかなペットはたまんない魅力があります。ソロの最後でグッとテンションを引き上げるあたりも絶妙。4曲目Special Deliveryのようなアップテンポな曲でも、洗練されていながらジャズの熱さがしっかりと伝わってくるいいソロをとっています。
■Divine Love (ECM)(^_^)

Wadada Leo Smithの1979年のリーダー作。Wheelerは1曲しか参加していませんが、それがLeo Smith、Lester Bowieのトリオによる演奏だったりするところが興味深かったりして・・・。
■Lifelines (ECM)(・。・)

Arild Andersenの1981年作品です。詳しくはArild Andersenを参照して下さい。
■Rambler (ECM)(^o^)

Bill Frisellの1985年のリーダー作。1曲目のToneからなかなか飛ばした演奏を聴かせてくれます。詳しくはBill Frisellを参照して下さい。
■Open Land (ECM)(・。・)

John Abercrombieの1999年作品です。この時代のAbercrombieってどうしてこうも面白くないのでしょう。聴いていてひたすら退屈です。詳しくはJohn Abercrombieを参照して下さい。
■The Touchstone (ECM)(^_^)

1978年リリースのAzimuth (John Taylor(p), Kenny Wheeler(tp,flh), Norma Winstone(vo)) 作品。John Taylor独特のの美意識に貫かれた作品で、恐ろしく繊細な音楽が繰り広げられています。TaylorのオルガンとWheelerのペットが奏でる1曲目Eulogyのイントロ&エンディングなど、かなりヤバイ美しさです。また2曲目Silverと3曲目Maydayのピアノの音色にも心が洗われますね。一方、4曲目Jero、5曲目Prelude、6曲目Seeあたりになると、今度はちょっとヒネリが効き過ぎて私にはついていけません。まぁ、ある意味聴きやすいと言えば聴きやすいのですが・・・。
■Azimuth '85 (ECM)(^o^)

タイトル通りAzimuthの1985年の作品。静謐でほんのりと哀愁が漂い繊細で透明感溢れる音楽・・・と、ECM作品に対するあまりにありふれた褒め言葉しか出てこないのですが、こういう音楽を聴きたきゃECMを捜さないと見つからないのも確かです。1曲目Adios IonyでReichのPiano PhaseっぽいピアノとWinstoneのヴォイスがユニゾるあたり大変面白いです。また8曲目Potion 2でのTaylorのピアノソロの美しさもハンパじゃないですね。一方、Wheelerも絶好調で、6曲目February Dazeや7曲目Til Bakeblikkでのソロは説得力あります・・・てか、力強いソロでありながらサウンドはひたすらきめ細かく滑らかで、なおかつそれを包む音楽そのものは淡く儚く、といった全体的な雰囲気がたまんないです。
■"How it was then ... never again" (ECM)(・。・)

こちらはAzimuthの1995年の作品です。ジャケット写真はECMの中でも1、2を争う美しさなのに、中身はあまりいただけません。みょーに間延びした、盛り上がりに欠けるECMの悪いところが目立った作品だと思います。とはいっても、意表をついたロックブルースHow It was Thenや、Wheelerが多重録音によって見事なアンサブルを聞かせてくれる有名なジャズスタンダードHow Deep Is The Oceanなど、それなりに面白い曲もちゃんと収められています。また、このアルバムの(個人的な)ベストトラック3曲目Whirlpoolで繰り広げられる不思議な美しさはこのバンドの目指している方向性がよく現れており、名演と呼んで差し支えないでしょう。ただ問題はつまらない曲の含有率の高さで、こればかりはなんとかしてもらいたいものです。
■Compositions (JAPO/ECM)(^o^)

Enrico Rava(tp), Kenny Wheeler(tp,fh), Manfred Schoof (tp,fh), Albert Mangelsdorff(tb), Gunther Christmann(tb), Paul Rutherford(tb,euphonium), Steve Lacy(ss), Evan Parker(ts,ss), Gerd Dudek(ts,ss,fl), Michel Pilz(bcl), Alexander von Schlippenbach(p), Bob Stewart(tuba), Buschi Niebergall(b), Paul lovens(ds,perc,etc)というメンバーによる1979年のGlobe Unityの作品です。Wheelerは1曲目のNodagooをいう曲を提供しています。チューバによるテーマの提示の後に、重層的で複雑なホーンアンサンブルがかぶさってきて、テナーソロ(たぶんG. Dudek)へと引き継がれていきます。その辺のデタラメなフリージャズとは次元を異にする非常に芸術性の高い前衛ビッグバンドジャズです。
■Berlin Contemporary Jazz Orchestra (ECM)(^o^)

1990年リリースのAlexander von Schlippenbachの比較的ポップなビッグバンドジャズです。詳しくはAlexander von Schlippenbachを参照して下さい。
■Actions (intuition)(^_^)

こちらは2002年リリースのDon Cherryの作品。これも詳細はDon Cherryを参照して下さい。
■Globe Unity 67 & 70 (SWR)(^o^)

2001年にリリースされたアルバムで、Globe Unityの1967年と1970年の演奏が収められています。両者でメンバーが若干異なりますが、70年の方は Evan Parker(ts,ss), Gerd Dudek(ts,ss,fl), Michel Pilz(ss,bcl,fl), Heinz Sauer(bs,ts,as), Peter Broetzmann(ts,bs), Kenny Wheeler(tp,fh), Manfred Schoof (tp,fh), Tomasz Stanko(tp), Bernard Vitet(tp), Albert Mangelsdorff(tb), Malcolm Griffiths(tb), Paul Rutherford(tb,euphonium), Buschi Niebergall(b,btb), Peter Kowald(b,tuba), Arjen Gorter(b,el-b), Alexander von Schlippenbach(p), Derek Bailey(g), Han Bennink(ds,shelhorn,dhung,gachi), Paul lovens(ds,perc,etc)という顔ぶれになっています。妥協を許さなぬとても厳しいヨーロッパフリージャズで、まったく容赦なく不協和音の塊とフリーキーなサウンドが襲いかかってきます。その狂騒のに埋もれてしまいWheelerもどこでなにをやっているのかよくわかりません(^^;;。
■Pearls (FMP)(^_^)

■Improvisations (JAPO)(^_^)

■Intergalactic Blow (JAPO)(・。・)

こちらもGlobe Unity作品。詳しくはAlexander von Schlippenbachを参照して下さい。
■That's for Sure (Challenge)(ioi)

Marc Copland(p)、John Abercrombie(g)、Kenny Wheeler(tp,fh)のトリオによる2001年作品。派手さはないものの聴き込むほどに良くなっていく素晴らしいジャズです。長もちするアルバムとはこういうもののことをいうのでしょう。7曲目のHow Deep Is The Oceanを除いて3人のオリジナル曲ばかりですが、どれも曲自体がよくできており、テーマを聴いているだけで心が和みます(特に1曲目When We Met、3曲目Kind Folkなど絶品)。Wheelerもこの作品ではいつになくジャズっぽい演奏をしており、Abercrombieの刻むフォービートに乗せてスイングするペット(フリューゲルホルン)にはびっくり。彼の幅広い才能には、ホント、恐れ入ってしまいます。
■Brand New (Challenge)(^_^)

こちらは同じくCopland - Abercrombie - Wheelerトリオによる2004年作品。前作同様恐ろしく渋い演奏ですが、寛いだ雰囲気の中にも三者三様に強い個性が振りまかれており、なかなか油断のならぬ作品です。8曲目のWatching Simonaを一曲聴けば直ちにこのおっさんたちの凄さが理解できるでしょう。とりわけ4曲目Reach For That Other PlacesでのWheelerのソロ、5曲目Take FourでのAbercrombieのソロはたまらんですね。夜のひと時、耳に心地良いBGMとしてさらりと聞き流すも良し、フレーズひとつひとつに耳を傾けながら職人芸を堪能するのも良し、上質なジャズだけあって用途は多様です。
■Study II, Stringer (Intakt)(^_^)

Barry Guy率いるLJCOの1980年と1991年の2つのセッションを収めたアルバムです。WheelerはStringer (Four Pieces For Orchestra)のPart IIでECM作品ではなかなか聴けないフリーキーな演奏をぶちかましています。