今月の特集は59〜62年製のジャズマスター4本のご紹介です。

<特集No.51 ジャズマスター>

コンパクトで安価なJazzギターというコンセプトのもと、58年後半に発売されたFender Jazzmasterは、Fender初のローズウッド指板の採用、"off-set waist"ボディ、画期的な"pre-set tone/volume"や新開発の"floating tremolo"および"trem-lock"等、アイデア満載のギターです。
今月の特集では59〜62年製のJazzmaster4本をご紹介させて頂きます。

左から、59年製、61年製、61年製、62年製
左端の59年製はアノダイズドピックガード期のもの、右端は62年製でスラブ指板(slab-board)からラウンド指板(Veneer-board)に変更された後のものです。



サンバースト塗装の色合いはそれぞれのギターで異なります。左から2番目のギターは59年後期から60年製のボディに多い、赤が退色するハニー・サンバーストと呼ばれるものです。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製 559xx、(下右)62年製 871xx
ボディのアップです。座って演奏する際にヘッドを少し上に傾けた時の事を考え、ボディのウエスト部分をオフセットさせたこのデザインは、レオ・フェンダー氏が58年1月にパテント申請したものだそうです。発売当初は上左のギターのように表面に金色のアルマイト加工が施されたアルミニウム製(通称ゴールド・アノダイズド)ピックガードが装着されていましたが、59年後半にはセルロイド製4プライの(通称タートイズシェル)ピックガードに変更されました。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製 559xx、(下右)62年製 871xx
ヘッドのアップです。豪華さをアピールするためにストラトよりも若干大き目のヘッドになり、Gibsonのフルアコのヘッドに施された豪華なインレイをモチーフにしたのか、ロゴの前後に装飾が付加されています。60年の終わりごろまでは上左のようにPAT.ナンバー無しですが、60年の終わり頃から上右・下左のようにPAT.ナンバー3個(+デザインPAT.)が付加されます。下右の62年製ではさらにPAT.ナンバーが追加され4個(+デザインPAT.)になります。
ブラジリアン・ローズウッド製の指板は他のFenderギターと同様、62年の前半まではスラブ指板(slab-board)ですが、62年の7月頃から下右のギターのようにラウンド指板(Veneer-board)に変更されます。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製 559xx、(下右)62年製 871xx
Neck Dateです。59年製は59年1月、61年製の2本はそれぞれ1月と2月。 62年製は62年9月です。JazzmasterとStratocasterのネックの違いはヘッド形状だけでその他は全く同じです。slab指板のストラトが高騰し始めた1990年代には、まだ安価だったslabのJazzmasterのネックのヘッドを整形し、リフィニッシュしてストラトに組み込まれて販売されるという今となっては考えられないようなことが行われていたようです。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製 559xx、(下右)62年製 871xx
以前60年製ストラトキャスター特集で記述したように60年頃のネックには12フレットのポジションマークの間隔が狭い個体が多いようです。上右の61年1月のNeckDateでは未だ60年仕様で作られていたらしく4.5mmと狭いのですが、下左の61年2月NeckDateになると約10mmとなっています。上左の59年製も下右の62年製も約10mmです。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製 559xx、(下右)62年製 871xx
59年製のBody Dateは58年11月です。Jazzmasterの発売は58年の8月ですが、工場での生産スケジュールが遅れたため本格的に生産が始まったのは58年の終わり(10月頃?)だそうです。このギターは28000番台というシリアルと58年11月というBody Dateからかなり初期の個体であるということが判ります。通常リア・ピックアップキャビティに書かれている事が多いBody Dateですが、上右の61年製の556xxにはどこにもBody Dateの記述がありませんでした。しかしサンバーストの赤色が退色していることから60年製のボディであると推測できます。 下左の61年製のBody Dateは61年3月で、既に赤が退色し難い塗料に変わっています。62年製は62年11月で、ピックガード下の色を見るとかなり塗装が焼けているのが判ります。


(左)61年製 556xxのキャビティ、(右)バスタブ型のシールドプレートを引き出した所
Jazzmasterで最も特徴的なのがこの大きく空けられたキャビティです。ジャック、2個のPOT、スイッチだけの為にこれだけの大きさのキャビティを空ける必要はなかったはずです。実際、ほぼ同じボディ形状のジャガーには必要最小限の大きさしか空けられていません。

では、Jazzmasterでは何故これだけの大きさのキャビティにする必要があったのでしょうか?
そもそも、Jazzmasterは高価な上に大きく厚いボディのSuper400,L-5,ES-350等のフルアコにとって代わる、コンパクトで安価なJazz用Guitarというコンセプトで開発されたそうです。そこで薄いソリッドボディでアコースティカルな音を出すためボディ両脇を大きくルーティングしたセミホロー構造を採用したのではなかろうかと推測できます。
1957年にはGibsonからハムバッキングピックアップが発売されていることからノイズ対策を重視し、敢えて生産の困難なバスタブ構造のシールドプレートを採用していることからも、レオ・フェンダー氏が当時Gibson一辺倒だったハイエンドギター市場に本気で進出しようとしていたことがうかがい知れます。(Gibsonの出荷記録を見ても、各モデルとも年間数十本しか出荷されていないという市場ではありますが・・・)

サブコントロールキャビティと2つのピックアップキャビティの下にもシールドプレートが装着され、隣接するシールドプレート同士をハンダ付けした上に各シールドプレートにはアース線がハンダ付けされているので、アッセンブリーの組み込みにはかなり複雑な配線作業が必要となったはずです。そのため、約$350と当時のフェンダーのラインナップ中では最も高価なギターとなったものの、コンセプト通りGibsonのSuper400(約$750)と比較すると半分以下に収まっています。



(上)59年製 288xx、(下)61年製 556xx
上はアノダイズド・ピックガード期のキャビティです。ピックガードのネジ穴が9本と少ないため、直線的なルーティングになっています。
下はセルロイド製タートイズシェル・ピックガードに変わってからのルーティングでネジ穴の数が13本に増えたため内側に凹凸が追加されています。バスタブ型のブラス製シールドプレートはこの複雑なキャビティ形状と全く同じ形に成型されています。



(上左)59年製 288xx、(上右)61年製 556xx
(下左)61年製アップ1、(下右)61年製アップ2
59年製(上左)のアノダイズド期はサブコントロールのキャビティもバスタブ型のシールドプレートだったのですが、59年後期からは(上右)のように1枚のブラスプレートに変更されます。しかも共振対策のためか下左・下右のようにカッターナイフの刃のようなものをボディに打ち込んで固定し、更にハンダ付けするという念の入れようです。


(左)59年製のキャビティ、(右)Jazzmasterのピックアップ
Jazzmasterのボディ厚はストラトキャスターよりも2mmほど薄く42.5〜43.0mm程度です。各キャビティの深さはサブコントロール部が26.5mm、メインコントロール部が36.2mmなので、メインコントロール部裏側のボディ材の厚みは6mm程度しかありません。
(サブコントロール部分の裏側にはバックコンターがある為、メインコントロール部のようには深く出来なかったと思われます)

それに対してピックアップキャビティの深さは10.7mmしかありません。
これはあくまでも推測の域を出ませんが、両サイドを大きくルーティングしたセミホローボディ構造において、強度とサスティンを確保するためにはセンター部分のピックアップキャビティは可能な限り浅くする必要があると考えたのではないでしょうか。
当然、浅いキャビティに対応する為には搭載するピックアップは薄くないといけませんが、Jazzmaster開発中の1957年にはペダルスチールFender1000/400が発売されており、8弦用ではありますが、既にJazzmaster用とほぼ同じ形状の薄型ピックアップが搭載されていました。そこでレオ・フェンダー氏はこのペダルスチール用ピックアップをModifyしてプロトタイプに搭載し、実験を重ねたのではないかと思われます。(マルチポールピース化の実験を兼ねてフロントのみ7ポールピースのピックアップを搭載していた写真も残っています。)
またノイズ対策として前後のピックアップでポールピースの極性を変え、センターポジション時にハムキャンセル効果が得られるような仕組みが採用されています。(マルチポールピースや極性を変えてハムキャンセルする仕組みは1957年にマイナーチェンジされたPrecisionBassや1960年に発表されたJazzBassにも採用されていますね)

JazzmasterのピックアップはGibsonのP-90を意識して開発されたものであるとの説もあります。しかしJazzmasterに関する洋書を見てもそのような記述は見当たりませんし、そもそもP-90とJazzmasterのピックアップでは基本的な構造が異なります。共通点を挙げるとすれば’型で外観が似ている、直流抵抗値が約7.5〜8.5kΩである の2つ以外にはありません。
実際には『浅いピックアップキャビティに対応させるために薄型のピックアップが必要となり、既存のペダルスチール用の薄型ピックアップを6弦用に焼きなおして搭載したところ、たまたま外観がP-90に似た。』というのが真相ではないでしょうか?


まだまだ続きます!各パーツの詳細【参考】スペック一覧表