今月の特集はバーテイルを検証します。バーテイルに惚れテイル男 GTFさんの執筆です。

<特集No.58 バーテイル徹底検証>

ジュニア/TVモデルの歴史や仕様については、書籍等に詳しく書かれていますのでここでは割愛させていただき、オリジナルのジュニア/TVモデルに一貫して使用されたバーテイル(バーブリッジ/テイルピース、ラップラウンド等の呼び方も有りますがここではバーテイルとさせていただきます)を中心に検証したいと思います。

前列左から54年製LP-Jr、54年製LP-Jr、57年製LP-Jr、
中列左から57年製LP-TV、59年製LP-TV、60年製LP-Jr、60年製LP-Jr
後列左から53年製EB、50年代EB



上段左から54年製、54年製、57年製
下段左から57年製TV、59年製TV、60年製
各モデルともスモールヘッドにゴールドのブランドロゴ、1プライのロッドカバー、鳩目タイプのブッシュという共通の仕様ですが、シルクスクリーンで入れられたモデル名が異なります。



上段左から54年製 4-38xx、54年製 4-45xx、57年製
下段左から57年製TV、59年製TV、60年製
ペグはカバー付きの3連タイプです。時期によってブランド刻印の有無、刻印の位置などが違います。
54年製の38xxは本来ノーラインのはずですが、後年のシングルラインに交換されています。 ペグをとめるネジはプラスネジのものとマイナスネジのものがありますが、60年代半ばのSGジュニアモデルにも見られるので、余っていたものを無作為に付けていた可能性があります。

シリアルスタンプは、シングルカッタウェイモデルの55年〜56年くらいまではブラックですが恐らく塗装色と重なり見えにくかったのでしょう、以降はイエローに変更になります。
しかし54年末にバリエーションとして追加されたTVモデル、および58年半ばに登場したダブルカッタウェイモデルにはブラックが使用されています。
画像の59年製TVは出荷時に色ムラ、傷があったのでしょうか?セカンドシリアル「2」の刻印があります。

デビューイヤー(54年)のシリアルについて
今までに確認できた、54年製スタンダードのシリアル(下4桁)は 0xxx〜3xxx でしたがジュニアは 3xxx〜5xxx と何故か若い番号がなく、ほとんどが4000番台でした。逆にスタンダードでは4000番台以上を確認できていません。サンプル数が少ないため、推測の域を出ませんが、もしかしたら新機種用に番号(3000番台後半?以降)が割り当てられていたのかもしれません。
また、今回は調査できていませんが、同年デビューのカスタムがどうなっているかも非常に興味深いところです。


左から54年製、54年製、57年製です。
56〜57年くらいにピックアップ位置がネック側に移動します。

初期のサンバーストはボディ外周部の塗装幅(濃い部分)がまばらなものをよく目にしますが 55〜56年以降はボディラインに沿ったバランスよいサンバーストのものが多いようです。新機種(ソリッドの小ぶりなボディ)の塗装に不慣れだったのでしょうか?
しかし、ESシリーズの3/4モデルやマンドリンなど従来から小ぶりなモデルは存在しています。50年代半ばと言えば、工場の拡張が行われていた時期と重なりますからもしかしたら、ソリッド用に雇い入れた新人さんだったのかもしれませんね。(笑)


左から57年製TV、59年製TV、60年製
ダブルカッタウェイモデルのジュニアは一転してチェリーレッドが標準フィニッシュとなります。この時期のものは退色しやすいようで、右側の個体(60年製)も赤味が抜けてブラウンっぽくなっていますね。
TVモデルのフィニッシュは、ライムドオーク、ライムドマホガニーなど色々な呼び方があるようですがここではモデル名にちなんでTVイエローとさせていただきます。このTVイエローも時期によって2種類あるようです。左側の57年製はその前期タイプ、中央の59年製は後期タイプのものです。後期タイプは前期に比べ明るめのカラーが特徴です。ポップなカラーが印象的ですね。
こうしてボディ部分のアップを並べてみると、シンプルなこのデザインにはこのブリッジがベストマッチだと思いませんか?







上から54年製、54年製、57年製、59年製、60年製、60年製
一説に初年度の物はネック仕込み角度が浅いと言われています。はたして本当なのでしょうか? せっかく各年代のモデルが集まったので、実際に検証してみることにしました。当然、個体差やネック起きなどの経年変化が考えられますので、今回比較した個体に限った結果ですが、シングルカッタウェイ/ダブルカッタウェイそれぞれモデルごとの比較では大きな差は見られませんでした。
しかし、シングルカッタウェイモデル(上3本)とダブルカッタウェイモデル(下3本)では明らかに違うのが画像からも分かります。


左:54年製、右:60年製
ジュニア/TVはスタンダードなどとは異なり、ネック幅そのままにボディにジョイントされています。 左のシングルカッタウェイモデルは指板エンドまでですが、右のダブルカッタウェイモデルは強度を稼ぐためボディのくびれ部まで達するロングテノンになっています。
ピックガードの下は元のカラーが残っており、退色具合が良く分かりますね。


左の画像はシングルカッタウェイモデル用のピックガード比較です。(上:57年製、下:54年製)
先に述べたように56〜57年あたりでピックアップの位置が上がりますが、これに合わせてピックガードの形状も変えられています。

右の画像はピックガード取り付けネジの比較です。(左から54年製、54年製、57年製、60年製)
54年製では木ネジが使用されていますが、57年製、60年製にはタッピングネジが使われています。


上は50年代初頭までの一体型のP-90、下は54年製のP-90です。
2005年8月の特集No.50トラピーズ特集でも触れた通り、P-90(ドッグイヤー)は55年あたりを境に大きさが変わったようです。
ジュニア/TVには変更後の大きいサイズのモノが使用されている・・・と思っていたらひ とつだけサイズが違うように見えます。試しにカバーを外して、比較してみることにしました。


左から54年製、54年製、57年製、60年製ですが、一番左のものが一番小さく見えます。実際にノギスで測定してみると、他のカバーの幅が40.0mmあるのに対して一番左のものは37.7mmしかありませんでした。
小さいカバーは他の年代のP-90にもすっぽり収まりますので、P-90自体のサイズに変わりはなく、カバーの大きさが違うだけのようです。


54年製の2つを比較してみました。
型番は同じUC-450-1ですが、よく見ると厚さが異なります。カバー下側の番号「2」の方がカバーの厚さが薄く華奢な感じでその為か少し湾曲しています。
同じタイプのピックアップを調べてみたところ、ES-225TDのフロントに「2」の刻印のカバーが使われていましたが厚さは「1」と同じでした。
54年製の「2」は個体差の範囲なのかもしれません。




左上:54年製4-38xx、右上:54年製 4-45xx、左下:59年製、右下:60年製
54年製の38xxの配線用ルーティングはキャビティカバーを留めるネジ穴のすぐ横にきています。他のものは通常の位置にあるので、ピックアップキャビティ側から穴を空ける際に目測を誤ったか、手が滑ってしまったのかもしれませんね。(笑)
キャパシターは54年製が通称"グレイタイガー"、59年製、60年製は通称"バンブルビー"です。


参考までに53年製EBのキャビティも覗いてみました。
キャビティの大きさはジュニアと同じで、カバーも色が違うだけで同じ大きさです。
キャパシターは"TINY CHIEF"というものが付けられています。


さて、続いてはバーテイル比較です。
バーテイルは53年1月に特許申請され55年8月に認可されています。従来のギブソンブリッジとは異なり、ソリッドボディを前提に設計された点が特徴でブリッジとテイルピースを兼ね備えた、部品点数の少ないシンプルな構造となっています。
パテント図にはレスポールモデルに使われたタイプ(左図)と、EBシリーズに使われたタイプ(右図)の2種類が載っています。
文献によればEBタイプが先行して発売されたようですが、開発はほぼ同時期に行われたと推測されます。


左画像:バーテイル後部、右画像:バーテイル前部
ご存知の通り、バーテイルにはスタッドとの噛み合わせ部が薄いタイプ(左側)と厚いタイプ(右側)があります。薄いバーテイルは54年末くらいまで使われ、55年あたりから厚いタイプに変更になっています。
支持部の薄いバーテイルとスタッドは約1年で厚いタイプに変更されたことになりますが、恐らくは強度を稼ぐ目的で噛み合わせ部の厚みを増し、これに合わせてスタッドボルトも作り直されたのではないかと推測されます。


バーテイルは弦をあまり緩めずにオクターブ調整やブリッジの高さ調整を行うと噛み合わせ部の接点(スタッドボルトとイモネジ)に力がかかり画像のようにネジ穴付近からポッキリと折れてしまいます。当時は太いゲージが一般的でしたので、欠損などのトラブルがより多く発生したのかもしれません。


左:54年頃のスタッドボルト/アンカー、右:57年頃のスタッドボルト/アンカ−
バーテイルに比較的多く見られるスタッドボルトの傾き(弦の張力でピックアップ側に傾く)ですが、原因のひとつに浅いスタッドアンカー(左 13.8mm)があると考えられます。
ひどいものになると、ブリッジとピックアップキャビティ間の木部にヒビが入ることもあるようです。 こちらも後年、より深くボディに埋め込めるよう、深いタイプのスタッドアンカー(右 25.4mm)に改良されたようです。
恐らく、このアンカー変更に合わせて、スタッドボルトも長いタイプになったと思われます。


左から53年製EB、54年製LP-Jr、57年製LP-Jrのスタッドボルト/ブリッジ
ブリッジは、レスポールモデル用の軽量素材に対し、EB用はいかにも丈夫そうな重量のある素材が使われています。EB用ブリッジの噛み合わせ部も、レスポール用同様に薄いタイプです。
合理的なアメリカ人のことですから、スタッドボルトはEBとレスポールで共通だろうと思い、53年製EBのブリッジが54年製LP-Jrのスタッドボルトに入るかどうか試してみました。一見まったく同じパーツに見えたのですが、実は噛み合わせ部のボルト径が異なり、ブリッジが装着できないということが分かりました。
つまり、53年当時、EB用、レスポール用それぞれ専用にスタッドボルトを作っていたということになります。

ネジ部の長さは以下の通りです。
53年製EB用 19.0mm、54年製LP-Jr用 19.0mm、57年製LP-Jr用 25.0mm



誰も興味無いことは承知の上で(笑)、参考までにEB用ブリッジも比較してみました。
左が53年製EB用、右が後期(60年代)EB用です。

今度はなんとブリッジの厚みの違いで、後期EB用ブリッジが53年製のスタッドボルトに入らないことが分かりました。(上右画像参照)
これが個体差でないとすれば、50〜60年代はモデルによって数種類のスタッドボルトが使い分けられていたと考えられます。
たかがスタッド、されどスタッド、当時のギブソンがどこまで考えていたか知る由もありませんが、奥が深いですね。

 
噛み合わせ部の長さ(a)
スタッドの直径(b)
スタッドボルトの長さ(c)
初期EB
4.6mm
6.3〜6.4mm
19.0mm
初期(54年)LP-Jr
5.5〜5.6mm
6.6〜6.7mm
19.0mm
55年以降のLP-Jr
7.3mm
6.6mm
25.0mm


オクターブチューニングの問題でスタンダードモデルではT.O.M.ブリッジ/ストップテイルピースに主流の座を譲ってしまうもののジュニア/TVモデルでは一貫して搭載されたバーテイル。
オクターブ調整を可能にしたバダス等のリプレイスメントパーツもありますが
「バーテイルを他のモノに変えるなんて、モナリザに髭を書くようなもんだ」という某スライドギタリストの潔い言葉に感動した覚えがあります。(笑)
オクターブの狂いなどものともしないスライダーらしいお言葉ですね。
確かに、たった一本の棒でブリッジとテイルピースを兼ねるバーテイルの潔い美しさに「侘び寂の心」さえ感じますが、検証してみると一見シンプル極まりないこのパーツにはモデルや年代によってそれぞれ微妙な違いがあることがわかりました。

現在では主流とは言えないまでもPRSなどの近年のギターにもバーテイル仕様がありますので、少数派ながらバーテイルファンは健在ということでしょうか?
かくいう私もその一人なのです。

だってレスポールの美しいトップが一番綺麗に見えるじゃないですか(呆)

えっ?ジュニアはフラットトップだろうって?
いいんです。セクシーな腰つきには余計なものは要らないんです。

(完)


【参考資料】 数値データ一覧表