進哉&桐野、2人ができる前のクリスマスの話です。



やどり木




 『ええ、わかりました。仕事ならしかたないですよ。ではまた』
渡辺は仕事で今日は無理だという電話だった。
せっかくのイブだというのに、取り残された気がした。
今日は一ノ瀬君も篠原君と三原君と3人で篠原君の家で飲み会だと言っていた。
多分そのまま篠原君の家に泊まるとも。
「すっぽかされたんですか」
加納が聞いてくる。
「ええ、あの人も忙しい人ですからしょうがないですよ」
クリスマスの喧騒の中を誰もいない部屋へ帰るのは少し空しい気がした。
今、渡辺の断りの電話を受けた携帯電話を見るともなしに見ていると、
なぜだかある番号を押してしまった。
電話はすぐにかかった。呼び出し音が鳴る。
いったい自分は何を話そうとしているのだ?
はっとして桐野は電話を切った。
彼に電話をして何を言うつもりだったのだろう?
一ノ瀬くんに家に帰るかと聞きたかったのだろうか?
聞いてどうするというのだ。
しかし、一ノ瀬君の携帯電話に自分の着信履歴が残ってしまったことがくやまれた。
律儀な彼のことだ。電話をかけなおすかもしれなかった。
ただ、自分が寂しいからとせっかく友達と飲んでいる彼に迷惑をかけたくなかった。
それから、すぐ携帯が鳴った。
やはり一ノ瀬君の携帯からだった。
「はい、桐野です」
「マスターですか?どうかしました?・・・・・・電話したでしょう」
「いえ、別にたいしてことじゃなかったんです。せっかく篠原君たちと飲んでいるのに邪魔してしまって申し訳なかったです。たいした用事じゃなかったので切ったのですが、かけなおしていただいてすいません、今日はやはり泊まられるのかと思っただけです」
彼と私はただ単に同居人だ。
律儀な一ノ瀬君はいつも家を空けるときは報告してくれるが、
彼が基本的に何をしようと私に口を出す権利なんかないのに、
なぜだか聞いてしまった。
「・・・・・・泊まろうかと思ったんですけど、・・・・帰ったほうがいいですか?」
「別にいいんですよ。楽しんでください」
「・・・・・・・寂しいんですか?」
ずばりと本音を言い当てられて一瞬言葉を失った。
一ノ瀬君は時々私の本音をズバリと見抜くことがあるのだ。
「俺、今から帰ります。マスターどこいるんですか?迎えに行きましょうか?」
「・・・・・・別にいいんですよ。そんなことしてくれなくても」
「いえ俺が行きたいんです。言ってください」
今いるバーの住所を言ってみる。
「篠原の家から近いから20分ほどで行けますけど、あの場所がよく分からないので分かる場所まで出てきてもらってもいいですか?あの大通りの喫茶店とか」
「本当にいいんですか?」
「・・・・・・俺が行きたいんです」
「それじゃ、そこで待ってますから」
10分ほどで加納の店を出て、待ち合わせの喫茶店に向かった。
コーヒーを頼んで待っていると、
一ノ瀬君が来るのが見えた。黒の皮のジャンバーにジーンズといういつもの彼だ。
毎日見ている彼なのに、すごくかっこよく見えてドキドキする自分がいた。
「マスター、・・・・待ちました?」
「いえ、今来たところですよ」
「どうします?すぐに帰ります?」
「ええ、帰りましょう」
私たちはすぐに店を出てタクシーを拾った。
篠原君の家で飲み会だったのでバイクは家に置いて朝から来たそうだ。
タクシーの中では二人とも言葉少なだった。
桐野はその沈黙にときめきを感じた。


マンションについた。
俺、風呂入れますから入ります?
「ええ、そうですね。君から入っていいですよ」
「でも、悪いです」
「あなたが入れてくれるのですから、どうぞ」
「それじゃそうします・・・・・・すいません」
「あやまることじゃないですよ、一ノ瀬君」
それから、互いに風呂に入った。
風呂からでると、一ノ瀬君がいた。
「コーヒーいれましょうか?マスター」
「ありがとう。嬉しいです。」
「もう夜の1時過ぎてるんですね」
「もう寝ます?」
「ええ、そうですね」
「それでは、失礼します。今日はわざわざありがとうございます。おやすみなさい」
「・・・・・おやすみなさい」
すると部屋をノックする音が聞こえた。
この家には僕と一ノ瀬君しかいないから当然ノックしたのは一ノ瀬君以外には考えられない。
「どうぞ」
「失礼します」
やはりパジャマに着替えた一ノ瀬君が立っていた。
「どうしたんですか?」
「・・・・・・・あの・・・・マスター・・・・・・・」
私は小首をかしげた。
何か言いにくいことを言おうとしているらしい。
僕は何も言わずに待つことにした。
「マスター・・・・・一緒に寝てもいいですか?」
僕は一瞬言葉につまった。
「マスターは今日は一人でいちゃ駄目です」
「・・・・一ノ瀬君・・・・・」
一ノ瀬君が近づいてきて抱きしめられた。
彼の高い体温につつまれて幸せな気分だった。
「・・・・寝ましょう・・・・」
彼が優しくつぶやく。
僕はおとなしくベッドに横たわった。
彼が横に入ってくる。
彼の手が頭をなぜてくれる。
とても気持ちがいい。
「あなたが寂しいときはいつも俺が近くにいますから、俺が必要なときはいつでもあなたの側にいます。」
「・・・一ノ瀬君・・・・・・」
僕は彼の暖かさと優しさにつつまれて深い眠りに落ちていった。



2007.12.24


 (あとがき)
 クリスマス突発ネタ。できてない進哉&桐野。でも、思いっきり甘いです。
できていてもいなくても、進哉くんには桐野さんをいつも一番に思っていて欲しいという願望の現われです。恋人同士の約束された甘い一夜もいいですが、突発的な優しさもぐっとくると思います。題はクリスマスらしく”やどり木”で。