糸結びの部屋

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 糸結びは外科系の研修医がまず習得しなければならない基本的なテクニックの一つです。一つの結紮ミスが,まさに患者さんの生命を奪う場合があると言っても過言ではなく,糸結びを正確に素早く安全にそして確実に行なうことは,質の高い手術に絶対不可欠です。しかし,このように重要なテクニックでありながら,その伝承は,身近な指導医によって,教室伝統の方法を新人に理屈抜きに頭ごなしに覚えこませる場合がほとんどだと思います。それというのも,糸結びは“学問”ではないので「たかが糸結び」として外科の教科書にも簡単に載っているだけで,しっかりと理論的に,系統的に学べる材料が無いからだと思います。そこで,このサイトで筆者は糸結びを「なぜ,こうするのか」をこれまで独自に考察してきたものを公開し,誰でもが理解しながら身に付けることができるような材料を提供することを目指しました。
 さて「個体発生は系統発生を繰り返す」という有名な言葉がありますが,それはこうした技術習得にも当てはまります。個々の外科医は新人のうちに,一度は自分の体験として先人達のテクニックの歴史を繰り返す必要があるのです。歴史と言ってもそんな大げさなものではなく,外科手術における糸結びの歴史は,せいぜい100年でしょう。その意味では「たかが糸結び」かもしれません。
ligation/ 糸結び・男結び ligation/ 糸結び・女結び
 いわゆる男結びでコマを積み重ねて20コマ作ると左の写真のようになります。右は女結びで積み重ねた写真です。通常は1回の結紮に3コマですが,3コマでは違いが分からないものも,こうして積み重ねてみると,その差は歴然です。男結びは全体に結晶として安定している印象ですが,女結びはどこかに無理がある感じです。男結びでは糸の部分部分が均一な角度で屈曲しているのに対して,女結びでは急角度に曲がっている部分と直線に近い部分が混在しているからでしょう。このことは糸の部分部分にエネルギーが均一に貯まっているか濃淡があるかということです。偏在している部分では糸がまっすぐに戻ろうとする力が強いので解けやすいということです。また,男結びでは20コマ作るのに要した紐(糸)の長さは72.5cmで,女結びは20コマで79.5cmです。これは単位長さあたりのコマ数は男結びが多く,女結びは少ないということです。男結びの方が糸同士が高密度で接触し合っているので摩擦が大きく緩む危険が少ないということが理解できるのではないでしょうか。
 それにしても外科医は一生の間にいったい何回糸結びを行なうのでしょう。おそらくそれは途方もない数で,想像もつきませんが,常にきれいな結晶状のコマを丹念に積み重ねていくように心がけたいものです。
菊名形成外科・皮フ科クリニック院長  林 雅之
筆者の関連サイト 菊名形成外科・皮フ科クリニック 眼瞼下垂症の手術のために

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