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判 決 要 旨
原告 赤川正三ら297名 被告 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 主 文 1.被告は、別紙認容金額一覧表の「氏名」欄記載の原告らに対し、同別紙の「認容金額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成2年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2.原告番号104高橋優、同229佐藤昭一、同230佐久間忠夫、同231寺内一夫、同245原田互の各請求、その余の原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3.訴訟費用は甲、乙、丙事件を通じこれを20分し、その1を被告の、その余を原告らの各負担とする。 4.この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由の要旨 第1 事案の概要 原告らはいずれも国鉄に勤務し、国鉄労働組合(以下「国労」という。)に所属していた者及びその相続人であり、被告は、国鉄、鉄建公団の権利義務を承継した法人である。原告らは、昭和62年4月1日、国鉄の分割・民営化の際、JRに採用されず、日本国有鉄道改革法(以下「改革法」という。)15条により国鉄から移行した日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)の職員となり、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就職促進法」という。)1条、日本国有鉄道清算事業団法1条2項に規定する「再就職を必要とする者」(以下「事業団職員」という。)に指定された。原告らは、平成2年3月31日までに、再就職しなかった。そこで、事業団は、平成2年4月1日、再就職促進法附則2条による同法の失効に伴い、日本国有鉄道清算事業団就業規則(以下「事業団就業規則」という。)22条4号所定の「業務量の減少その偽経営上やむを得ない事由が生じた場合」に当たるとして、原告らを同日付で解雇した(以下「本件解雇」という。)。 原告らは、主位的請求として、本件解雇は憲法27条、28条、29条3項に違反し無効であり、違法な解雇により損害を被ったなどと主張して、事業団を承継した被告に対し、(1)雇用関係存在確認、(2)雇用関係があることを前提に、平成2年5月以降定年までの賃金(総額約307億7000万円)の支払、(3)違法な解雇等により被った損害回復として、慰謝料各1000万円(相続人の場合は、各相続分)の支払、名誉回復のための謝罪文の交付及び掲示、JR北海道、JR東日本、JR九州に対する原告らの採用要請を求めた。 また、原告らは、前記主位的請求(1)(2)が認められなかった場合に備え、予備的請求として、不法行為に基づき、被告に対し、原告らがJRに採用され定年まで勤務した場合(既に死亡した者については、同人がJRに採用され、死亡時まで勤務した場合)に得られたであろう賃金相当額、退職金相当額、年金相当額(以下「賃金相当額等」という。)総額約375億6000万円の損害賠償請求をするとともに、慰謝料を前記(3)の1000万円から2000万円に増額請求(ただし、一部の原告を除く、総額57億2000万円)した。なお、原告らが、不法行為と主張する主な点は、原告らが事業団に配属された未、本件解雇をされるに至ったのは、国鉄が国労を嫌悪し、国労組合員であった原告らを差別してJR北海道、JR東日本、JR九州の各採用候補者名簿に記載しないという不利益取扱いをするという違法な不当労働行為をしたからであるという点である。
第2 本件の争点 1.本件解雇は有効か(争点1)。 2.国鉄ないし事業団は、原告らに対し、不法行為を行ったか(争点2)。 (1)国鉄が、原告らをJR北海道、JR東日本、JR九州の各採用候補者名簿に記載せず、前記JR各社に採用させず、事業団に振り分けた行行為(以下「本件不法行為@」という。) (2)国鉄の指示で、国鉄幹部ないし現場管理者が、昭和57年から同62年のJR不採用までの間にした行為(以下「本件不法行為A」という。) ア 原告らに対し、国労所属を理由として、些細な事象での処分、余剰人員扱い、人材活用センター(以下「人活センター」という。)に配属するなどした行為 イ 国労に所属していてはJRに採用されないと喧伝・脅迫し、事実上、組合脱退をJR採用の条件とした黄犬契約類似の行為 ウ 前記ア、イの不利益取扱い、脅迫等をもって、国労の弱体化・変質を図り、原告らに脱退を工作し、原告らの団結権を侵害した行為 (3)事業団の幹部ないし現場管理者が、原告らを劣悪な環境に押し込め、自学、自習しかさせず、 原告らの再就職を妨害した行為(以下「本件不法行為B」という。) (4)本件解雇(以下「本件不法行為C」という。) (5)事業団ないし被告が、原告らを地元JRに再就職させる法的義務を負っていながら、これを履しないという継続的不作為(以下「本件不法行為D」という。) 3.仮に被告に不法行為責任がある場合、不法行為と相当因果関係のある損害賠償の範囲及び相当 な損害回復方法(争点3) 4.仮に原告らの被告に対する損害賠償請求が認められる場合、同請求権は時効消滅したか。また、被告が時効を援用することは、権利濫用に当たり許されないか。(争点4)
第3 争点に対する判断 1.争点1(本件解雇の効力)、争点2(本件不法行為C、Dの成否) (1)原告ら(相続人を除く)は、国鉄によってJR各社等の承継法人の採用候補者に選定されず採用候補者名簿に記載されなかったところ、このような者は、段階的な措置として、とりあえず国鉄の職員の地位にとどまり、国鉄が事業団に移行するのに伴ってその職員となり、国鉄との従前の雇用契約関係が存続することとなったが、この措置は、事業団の職員となった者について再就職促進法により移行日から3年以内に再就職を図るものとして、その間に再就職の準備をさせることとしたものであり、雇用契約関係終了に向けての準備期間を置くことを目的としたものと解するのが相当である。この点、確かに、再就職促進法には、同法が失効した後の事業団職員の地位に関する明確な規定は存在しないが、国鉄改革の経緯や国鉄改革関連8法の立法経緯に照らしてみれば、再就職促進法発効後についても、事業団と事業団職員との間の雇用契約関係の継続を予定していたと解することはできず、むしろ同法失効時には、事業団の再就職促進業務ひいては事業団と事業団職員との間の雇用関係も当然に終了することが予定されていたというべきである。そうだとすると、再就職促進法の失効が、「業務量の減少その他経営上やむを得ない事由が生じた場合」(事業団就業規則22条4号)に当たるとして事業団が原告らに対して行った本件解雇は、合理的な理由があり、有効であると解するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
(2)原告らは、国鉄ないし事業団は、JR各社とともに採用差別を行ったのであるから、これらの不当労働行為が先行行為となって、原告らを地元JRに採用させる義務を負っていたのであり、これを怠ったまました本件解雇は無効であると主張する。しかしながら、JR各社は、経済活動の一環として雇用契約締結の自由を有しており、自己の営業のために労働者を雇用するに当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるというべきである。再就職促進法20条が、承継法人は、労働者を雇い入れる場合には、事業団職員を優先的に雇い入れるようにしなければならないと規定してはいるものの、格別事業団職員を地元JRに採用させるべきことまでは義務づけていない。JR各社に地元の事業団職員を採用すべき義務がない以上、その反面、事業団も、国鉄ないし事業団が、JR各社等の採用において組合差別を行ったか否かにかかわらず、原告らに対し、地元JRに採用させる義務を負っていたと解することはできない。したがって、事業団の原告らを地元JRに採用させる義務を前提に本件解雇が無効であるとする原告らの主張も採用することができない。
(3)以上によれば、本件解雇は、再就職促進法の失効に伴い、事業団就業規則22条4号に基づき行われたものであって、憲法、労働組合法、改革法、再就職促進法等に違反する点もなく有効である。そうだとすると、原告らの主位的請求のうち、原告ら(相続人を除く)と被告との間の雇用契約の存在確認を求める請求部分及び原告らと被告との間に雇用契約が存在することを前提とする平成2年5月以降の賃金支払請求部分はいずれもその余の点を判断するまでもなく理由がない。また、原告らの主任的請求ないし予備的請求のうち、本件解雇を違法とすることを前提とする本件不法行為C及び、被告において原告らを地元JRに採用させる義務があることを前提とする本件不法行為Dに基づく各損害賠償請求等も理由がない。
2.争点2ないし4(本件不法行為@及びその時効消滅の成否) (1)本件不法行為@の成否 ア 改革法23条の規定の趣旨に照らすと、国鉄は、JR各社の設立委員が提示した採用基準に反しない限り、その職員のうち採用候補者名簿に記載する者の選定について一定の裁量が認められていたといえる。もっとも、使用者は、労働者が労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたことなどを理由にその労働者に対して不利益な取扱いをすることは許されない(労働組合法7条1項)から、裁量行為に籍口して、主として、原告らが国労組合員であったこと、国労の指示に従い正当な組合活動をしたことを嫌悪し、同不記載を行ったとすれば、同行為は不利益取扱い禁止に反する違法な行為であり、不法行為に当たるというべきである。 この点、まず、JR各社の設立委員が国鉄に提示した本件採用基準自体は、@昭和61年度において 年齢満55歳未満であること(本件採用基準@)、A国鉄在職中の勤務の状況からみて、JR各社の業務にふさわしい者であること、なお、勤務の状況については、職務に関する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること(本件採用基準B)を含め、組合差別を目的としたもの又は、これを容認したものであるとは認められず、国鉄改革に至る経緯に照らして、いずれも合理的なものであったと認められる。 ところで、国鉄は、本件採用基準Bについて、国鉄在職中の勤務の状況からみて、JR各社の業務にふ さわしい者との基準を具体化し、昭和58年4月以降、非違行為により停職6か月以上の処分又は、2回 以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者名簿に記載し ないこととしたところ、その基準自体は明確なものであり、同基準を適正かつ公平に適用する限りではな お合理性を有すると解するのが相当である。そうだとすると、国鉄において、JR各社の設立委員の示し た本件採用基準に従い、昭和61年度未において年齢満55歳以上の者及び昭和58年4月以降、非違行為 により停職6か月以上の処分又は2回以上の停職処分を受けた者を採用候補者名簿に記載しないことは、 前記停職処分が取り消された等の特段の事情がない限り、適法なものというべきところ、本件においては 特段の事情の存在を認めるにたりる証拠が存在しない。 以上によれば、本件採用基準@又はBに該当せず、しかも特段の事情の存在しない原告番号104高橋 優、同229佐藤昭一、同230佐久間忠夫、同231寺内一夫、同245原田亘(以下「原告佐藤昭一 ら5名」という。)に関する本件不絵行為@の請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。
イ 原告番号佐藤昭一ら5名を除く原告らは、いずれも昭和61年12月時点では年齢は55歳未満であり、 昭和58年4月以降、非違行為により停職6か月以上の処分又は、2回以上の停職処分を受けていないと ころ、これらの原告らをJR北海道、JR九州の各採用候補者名簿に記載しなかった国鉄の行為は適法で あったか、それとも違法であったかが問題となる。 この点、国労組合員と国鉄の分割・民営化に賛成した組合の組合員との間の採用率に顕著な差があるこ と、国鉄と国鉄の分割・民営化に一貫して反対し、国鉄改革の諸施策について非協力的態度をとった国労との対立関係が激化し、国労組合員は処分を受けたり、人活センターに配置されたりする一方、国鉄は分割・民営化に賛成する組合とは友好関係を保っていたこと、国鉄の幹部ないし管理職が国労に所属していては不利益取扱いを受ける旨公言していたこと、国労の元役員で処分歴があっても、国鉄の分割・民営化に賛成の鉄産労に加入すれば採用される場合があったことが認められる本件にあっては、国鉄が、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らをJR北海道、JR九州の各採用候補者名簿に記載しなかったのは主として、これら原告らが、国労に所属していることないし、国労の指示に従って組合活動を行っていることを嫌悪して、国労組合員に対する能力、勤労意欲、勤務態度等の評価を恣意的に低く行い、不利益に取り扱ったことによるものであると強く推認することができる。 これに対し、被告は、国労組合員は、改革を進めようとする国鉄の諸施策に対し、反対運動、非協力、 上司に対する反抗、就業規則違反等の非違行為等正当な組合活動とは程遠い行為を繰り返し、さらには公 労法で禁止されていたストライキを行うなどしていたのであって、このような勤務の実態が反映された勤 務成績に基づいて作成されたJRの採用候補者名簿において、原告ら国労組合員が相対的に勤務成績が劣 位と判断され結果的にJR北海道、JR九州の各採用候補者名簿に記載されない者の比率が高くなったと しても、それは組合差別によるものではないと主張する。 しかしながら、一般的に言って正当な組合活動を逸脱する行為をした者が評定上不利益を受けることが 相当なことだとしても、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らそれぞれについて、かかる事情を個別具体的に 認めるに足りる証拠がないというべきであり、仮にそれが認められるとしても、それがどのように評価さ れたかが明らかでない以上、国鉄が本件採用基準の適用において、国鉄の分割・民営化に反対していた原 告佐藤昭一ら5名を除く原告ら国労の組合員に対し、国労に所属していることないし、国労の指示に従っ た組合活動を嫌悪して、勤務評定を恣意的に低く行い、不利益に取り扱ったとの上記推認を覆すだけの事 情はないというべきであって、この点の上記被告の主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らについては、国鉄がJR北海道、JR九州の各採用候 補者名簿に記載しなかったのは、同原告らが、主として、国労に所属していることないし、国労の指示に 従って組合活動を行っていることを理由として、採用基準を恣意的に適用し、勤務成績を低位に位置付け たこと(以下「本件加害行為」という。)によるものと認められ、不法行為と評価するのが相当であり、 当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
(2)本件不法行為@に関する時効消滅の成否 被告は、本件不採用は昭和62年4月1日に行われたところ、本件訴えは、原告らが加害者及び、損害 を知った時から既に3年以上を経過して提起されたものであることは明らかであるとして、原告佐藤昭一 ら5名を除く原告らのJR北海道、JR九州の各採用候補者名簿への不記載にかかる不法行為に基づく 損害賠償請求(本件不法行為@)は被告の時効援用により既に時効消滅していると主張する。 時効の起算点については、民法724条が「損害及び加害者を知った時」から進行する旨、規定してい るが、その意義については、被害者において、加害者に対する損害賠償請求が事実上、可能な状況の下に、その可能な程度に、これを知った時を意味するものと解するのが相当であり(最二小判昭和48年11月16日民集27巻10号1374頁参照)、同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最三小平成14年1月29日民集56巻1号218頁参照)。 これを本件についてみると、前記のとおり、国労は、原告らを含む国労組合員が、国労に所属している ことないし国労の指示に従って組合活動を行ったことを理由としてJRの採用候補者名簿に記載されず、 JRに採用されなかったことが不当労働行為に当たると主張して、採用候補者名簿に記載されなかった者 をJRに採用されたものと扱えとの救済命令申立てをし、全国各地の各地労委において救済が命じられ、 中労委においても、選考のやり直しと、その結果に基づく採用取扱い等が命じられた。その後、JR各社 による救済命令取消訴訟において、JR各社が労働組合法7条の「使用者」に当たらないとの理由で同救 済命令が取り消され、控訴審及び上告審(最高裁平成13年間第94号、同第96号、各平成15年12 月22日第一小法廷判決、以下両判決を併せて「本件最判」という。)において同様の判断がされ、JR 各社の採用候補者名簿に記載されなかった者は、それが不当労働行為に当たるか否かにかかわらず、JR 各社への採用を求めることができないことが確定するに至ったのである。この点、JR各社が労働組合法 7条の「使用者」に当たるか否かについては、本件最判においても意見が分かれ、承継法人の職員の採用 については、国鉄にJR各社の設立委員の補助的なものとして権限を付与したものと解し、JR各社の設 立委員ひいては承継法人が労働組合法7条の使用者としての責任を負うとの少数意見が付されている。こ れらの状況に照らしてみると、本件最判に至るまでは、JRの採用候補者名簿に記載されなかった国労組 合員について、JRに採用したものと扱えなどとする救済命令が是認される可能性が多分にあったもので あり、これが是認された際には、昭和62年4月1日以降、JRにおける労働者としての地位が確認され、 同日以降の賃金請求権が発生することになったのであるから、かかる訴訟が係属する間は、原告らが、国 鉄のJRの採用候補者名簿への不記載により、JRに採用される余地がなくなったということを現実に知 ることはできず、それに伴う損害の発生を知ることもできなかったといわざるを得ず、したがって、また、 かかる損害について、被告を相手方として賠償を求める余地もなかったと言わざるを得ない。そうだとす ると、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らは、本件最判により、被告を相手方として、JR北海道、JR九 州の各採用候補者名簿への不記載により前記JR各社に採用される余地がなくなったことに伴う損害につ いての賠償を請求することが可能なことを現実に知ったと解するのが相当であり、本件不法行為@に基づ く損害賠償請求権については、本件最判時(平成1)5年12月22日)が時効消滅の起算点であるとい うべきである。 以上によれば、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らの被告に対するJR北海道、JR九州の各採用候補者 名簿への不記載についての損害賠償請求権(本件不法行為@)は、時効を援用することが権利濫用に当る か否かを判断するまでもなく、時効が成立していないと解するのが相当である。よって、被告の本件不法 行為@に基づく損害賠償請求権に対する時効の主張は採用することができない。
3.争点2ないし4(本件不法行為AB及びその時効消滅の成否) 原告らは、本件不法行為Aとして、国鉄が、原告らに対し、国労所属を理由に些細な事象で処分を行っ たこと、余剰人員扱い、人活センタ−へ配属したことなどが不法行為に当たると主張し、また、本件不法行為Bとして、事業団が原告らの再就職を妨害したことが不法行為に当たると主張して損害賠償請求をしている。 仮に、国鉄ないし事業団が、原告らに対し、上記不法行為を行ったのだとしても、かかる不法行為は、 論の全趣旨によれば、本件不法行為@とは異なり、これが行われた時点で、損害及び、加害者が国鉄ないし事業団であることは明らかであり、国鉄ないし事業団に対し、直ちに請求することが可能であったものと認められ、これを妨げるような事情は認められない。そうだとすると、本件不法行為ABについては、原告らが「損害及び加害者」を知った時から3年が経過していることは明らかである。 この点に関し、原告らは、本件不法行為ABも本件不採用と一体をなすものとして、労働委員会に対す る救済申立てにおいて主張しており、同申立事件継続中は時効が中断していたと主張する。しかしながら、 国労の労働委員会に対する救済申立ては、JRの採用候補者名簿に記載されなかった者についてJRへの 採用命令を求めるものであって、上記国鉄ないし事業団の不当労働行為を救済対象とするものではないこ と、そもそも、不当労働行為救済制度は、労働委員会による行政的救済であって、これを民法147条1 項所定の「請求」と同視することはできないことに照らすと、労働委員会に対する救済申立てをもって時 効が中断したと解することはできない。よって、この点の原告らの主張は理由がなく、採用することがで きない。さらに、本件不法行為ABについてみれば、本件全証拠を検討するも、原告らの被告に対する損 害賠償請求権の行使又は、時効中断措置を講ずることが不可能、若しくは、著しく困難にさせる客観的事 情は認められず、被告の消滅時効の援用が信義則に反し、権利の濫用に当たると解することはできない。 以上によれば、原告らの被告に対する本件不法行為ABに基づく損害賠償請求権は、その存否について 判断するまでもなく、被告の時効援用の意思表示により時効消滅したというべきであり、原告らの請求は 理由がない。
4.争点3(本件不法行為@と相当因果関係のある損害賠償の範囲、損害回復方法)について (1)賃金相当額等の請求について 原告佐藤昭一ら5名を除く原告らは、国鉄から組合差別を受けることなくJR北海道、JR九州の各採 用候補者名簿に記載されていれば、前記JR各社に採用されていたはずであるとして、原告らが前記JR 各社に採用されていたら得られたであろう定年まで働いた場合の賃金相当額等の支払を請求する。 しかし、仮に、原告佐藤昭一ら5名を除く原告ら全員について、勤務評定を恣意的に低く行い不利益に 取り扱うという不当労働行為(本件加害行為)が行われなかったと仮定しても、同原告ら全員が希望する 地元JRであるJR北海道、JR九州に採用されたはずであるとの証明はいまだされていないというべき である。そうだとすると、結局、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らは、本件不法行為@によって、JR北 海道、JR九州に採用された場合の地位そのものを喪失したとの損害を被ったと解することはできない。 原告佐藤昭一ら5名を除く原告らが本件加害行為によって被った損害は、国鉄がJRの採用候補者名簿作 成に当たって、国鉄ひいてはJR各社の設立委員から正当な評価を受ける機会を喪失したために被った損 害の範囲で、それぞれ理由があるにとどまるといわざるを得ない。 よって、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らがJR北海道、JR九州に採用されたであろうことを前提とする賃金相当額等の請求は、いずれも理由がない。
(2)慰謝料請求等について 証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らは、国鉄がJR北海道、JR九州の 各採用候補者名簿を作成するに際し、国鉄から違法に不利益取扱いを受けたことで、正当な評価を受ける という期待権(正当な評価の結果、前記JR各社の採用候補者名簿に記載される可能性があったとの期待、 更には前記JR各社に採用される可能性があったとの期待も含む。)を、それぞれ侵害されたこと、また、 国労に加入していることによりかかる差別を受け、精神的損害を被ったことが認められる。これらの損害 額は、本件違法行為の態様、被害の重大性等を総合考慮すれば1人当たり500万円(相続人については 500万円の各相続分、総額14億1500万円)と認定するのが相当であり、当該判断を覆すに足りる 証拠は存在しない。 なお、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らは、本件不法行為@について、損害賠償を求めるほか、これに より名誉を侵害ないし毀損されたとして、謝罪文の交付・掲示等を求めるが、これら原告らの名誉の回復 は、上記金銭による損害賠償を命ずることにより図られるものと認めるのが相当であり、金銭賠償に加え、 謝罪文の交付・掲示等まで命じなければ同原告らの損害が回復できないとの証明はいまだされていない。よって、この点に関する同原告らの主張は理由がない。
第4 結論 以上によれば、原告佐藤昭一ら5名の各請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、原告佐藤昭一ら5名を除く原告らの各請求は、主文第1項の限度で理由があるので、その限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却する。 (東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官難波孝一、裁判官増永謙一郎、裁判官知野明) |