精索静脈瘤の手術療法のとらえ方(2)

「精索静脈瘤の手術の結果、どの位の効果が得られるのか?」という議論が盛んに行われています。
で、この議論をする上での「効果」を何にするかで色々な考えが出てくるわけです。

「精液検査の検査所見の改善」なんてのも一見いいパラメーターに見えますが、冷静に考えると、

では

と、結局は何も変わらない、いや、痛い思い(実際の疼痛+経済的損失)しないだけ「手術しないほうがいい」なんてことにもなりかねないわけです。

「何のために手術をするのか?」という考えは常に大事なわけです。
そんなわけで、エビデンスとして求められるのは、まずは、「術後妊娠率」になるわけです。
この「術後妊娠率」に関するデーターの推移が、近年以下のような感じになっています。

コクラン記載の年次変化

で、コクランでは、「Surgery or embolisation for varicocele in subfertile men.」と題して、定期的に精索静脈瘤手術の「エビデンス」がアップデートされています。
コクランの効果判定は、もちろん

術後妊娠率です。
以下が年次推移です。

こんな感じです。
そうなんですね。
実は、2012年になって、ようやく「手術すると妊娠率が上がるかも?????」まで来ました、というところなのです。

この論争の推移

コクランの2001年の先生の名前が「Evers先生とCollins先生」になっていますね。
この時点では、まだ「Insufficient evidence」だったわけです。
ところがこの「Evers先生とCollins先生」が2003年にLancet(ランセット)という超有名雑誌に書いた論文が物議を醸します。
(これまた不妊の世界では知らない人はいないというほど超有名な論文になりました。)
えっと、こちら。

で、精索静脈瘤の手術が「No evidence」と発表された瞬間でした。
この発表により、「精索静脈瘤の手術は無効だ!」と大騒ぎになったのですね。

で、これ以降、コクランはず~~~~っと「No evidence」を貫いて来ていました。

但し、推進派も黙っていません。
これまた有名な2006年のEur Urolで、こちら。

です。
内容は「反対論文」ですね。
要するに「コクランふざけるな!」とほぼ喧嘩売ってます。
どういうことかというと、

なので、ここから、「subclinical varicocele(カラードップラーで初めてわかるような精索静脈瘤)」を除いて検討しよう、という流れになります

2007年のこちら

は、「触知可能な静脈瘤かつ精液検査で一個以上異常値がある」という条件で検討された結果が「有意差あり」です。

直近では、2011年のこちら。

は、「良さそうな傾向はあるんだけど、有意差は出なかった」といった感じです。

こんな感じなんで、今の所まだコンセンサスの形成までは到達していないのですね。

そんなわけで、コクランが2012年にようやく「may」まで来た、というのが現状です。

精索静脈瘤の手術適応

以上のような歴史的背景を考えていただければお分かりの通り、「精索静脈瘤イコール全て手術適応」とはならないのは明白ですね。
但し、一定の基準があるのか?というと、これも所詮「may」レベルの話であり、精索静脈瘤治療のガイドラインは今の所無いんです。

手術適応は、いろんな人がいろんなことを言っている、というのが現状ですが、比較的よく目にする条件として、以下のようなものが挙げられているようです。(Urol Clin North Am 41(1) 129-144, 2014

  1. The varicocele is palpable on physical examination of the scrotum.
  2. The couple has known infertility.
  3. The female partner has normal fertility or a potentially treatable cause of infertility.
  4. The male partner has abnormal semen quality or abnormal results from sperm function tests.

つまり、「触知可能+精液検査異常」があり「不妊であることが確定+妻の女性因子が無いか治療可能」の4条件を満たして初めて手術を考えてもいいよ、ということです。

精索静脈瘤の診察法

精索静脈瘤は、教科書的にはグレード分類がなされています(DubinとAmelarの分類)。

ただし、そんなわけで、サブクリニカル精索静脈瘤の手術療法のエビデンスは無いわけです。
すると、「不妊診療上、サブクリニカル精索静脈瘤を見つけ出す意義はあまりない」ということが言えてしまうのかもしれませんね。

僕の経験上、このことを思い知らされるエピソードがあったのでご紹介しておきたいと思います。

僕は、最初に教わった方法がそうだった、ということもあるのですが、陰嚢を拝見するときは、バルサルバ法(腹圧負荷)をしてもらいつつ、超音波カラードップラー法で診察していたんですね。

そうしたら、ある日、師匠である泌尿器の先生に

と言われました。
いや、この時は「はっ」としましたね。
確かにそうです。

手術適応のある精索静脈瘤というのは、「触知可能かつ精液検査異常」というのが条件と考えられているわけです。
なので、バルサルバ法、まして超音波カラードップラー法で初めてわかるグレードの精索静脈瘤は「診断」しても「治療対象とはならない」、なので、それを診断して何かいいことあるの?という理屈なわけです。
賢い!

それ以降、男性を拝見するとき、バルサルバ法+超音波カラードップラー法やめました(普通の超音波はやります)。

にもまさに同じようなことが書かれています。
このファイルの4ページ目(297ページ)です。
左上の方、太字で「Scrotal Ultrasonography」と書かれているところですかね。
2文目です。

そんなわけで、

一本取られた一言でした。