子宮内容除去術と「薄い内膜」(1)


「子宮内容除去術」という手術

残念ながら流産になってしまった場合や人工妊娠中絶の場合などに「子宮内容除去術」という処置が行われることがあります。
通称アウス。ドイツ語の「Auskratzung(掻爬)」の頭3文字を取ってこう呼ばれています。

産婦人科医としては、基本中の基本とされる手術なのですが、僕が今まで産婦人科医として指導を受けてきた中で、おそらく最も「やり方」というか「考え方」が変化した術式でもありますのでちょっとご紹介してみたいと思います。

そもそも僕が田舎大学を卒業し、田舎大学の産婦人科医局に入局をして、最初に教え込まれた手術がアウスでした。
この手術の際に、子宮内容物を遺残させること(残してしまうこと)は「恥」だと教わりました。
実際の手術の際にも、「胎盤鉗子」という鉗子で子宮内容を完全に出した後、「キュレット」という器具で子宮内を「カリカリにする」ように、と教わりました。
ちなみに、キュレットで子宮内をカリカリにすると「Muskel Geräusch」と言って、独特のザラザラした感じ?サメ肌みたいな感じ?の感触を鉗子越しに感じるのですが、そこまでやらねばならない、と教わりました。
で、術後1~2週間後に再度ご来院いただいて、万一遺残があったら大変です。
「患者さんに頭を下げてこい!」と先輩に怒られました。

で、このやり方が正しいもんだ、と信じて疑わず、ずっとこのやり方でやっていました、し、これで特にトラブルになったこともありませんでした。

その後、転機を迎え、不妊治療専門医院で修行を始めたわけですが、その時、不妊屋のボスに言われたのが、
「子宮内容除去術は”遺残させる”位にナルくやれ。”Muskel Geräusch”なんて絶対やっちゃダメだ。」
「”遺残させる”位の方がいいんだ。そのほうが患者さんのためだ。」

という言葉でした。

いや、当時、正直混乱しましたね。
不妊治療専門医院で修行を始めた時は、確かに不妊屋としては素人でしたが、一般産婦人科医としては、そこそこ普通に過ごしてきたつもりで、まして、その時まで一切トラブルを起こしてこなかった、「正しい」と教わってきた手術操作を180度変えろ、と言われたわけです。
それも、今まで「恥」だと教え込まれ、怒られてきた”遺残”を、「むしろやれ」位の勢いで言われたわけです。
大混乱です。

でも、不妊屋になって、毎日毎日明けても暮れても不妊患者さんだけしか診ない状態になると、確かにいらっしゃることに気が付きます。
薄いんです。
明らかに子宮内膜が。
大きな卵胞があるにも関わらず。
時には排卵誘発かかって、エストラジオールが5000とかまで上がっても、全然内膜が厚くならない患者さんがいる。
で、確かに、そういう方々の多くが、過去に「子宮内容除去術」を受けていらっしゃる。

「流産後、生理の量がすごく減りました」なんて方もいらっしゃる。
で、これまた確かに内膜が薄い。何をやっても厚くならない。

・・・・なるほど、ボスが「アウス(子宮内容除去術)は"ナルく"やれ」というのももっともだ。
つまり、

というわけです。

「え~~~~!!!今まで誰もこんなこと教えてくれなかったよ~~~~!!!」

・・・・とまあ、不妊屋になって、こんな経験をしました。
今ではもう、最初から「遺残させる」位の気持ちでやるようにしています。

但し、これが科学的に本当に正しいのか?という検証が必要です。
アウス(子宮内容除去術)が子宮内膜を薄くする原因になりうる、というエビデンスは本当にあるのでしょうか?
答えを先に言ってしまうと、「エビデンス」としてはまだないと思います。
でも、ぽつりぽつりとそれを示唆する論文が出てきつつあるのも事実です。
本項では、そんな論文を紹介してみたいと思います。

です。
リンク先の右上の方の「free~」のアイコンをクリックすると、論文全文を見ることができます。
もちろん英語なんですが、お得意な方は御一緒にどうぞ。

「薄い内膜」はアウスによって起こるのか?

【Introduction】

【Methods and Results】

【Discussion】

管理人考察

それにしても悲惨な経過ですね・・・・。結局、出産まで漕ぎつけたのはたった1人ということですね。
そういわれてみると、確かに着床しても流産して、「またアウス!」になるパターンが多いような・・・・。

つい1-2年前も、僕の数年後輩の先生が研修医に指導するとき、
「『カリカリ』にして、rest(遺残)を残すな!」
と指導しているシーンに出くわしました。

最初に書いた通り、僕も正直、ARTクリニックに修行に出るまで知りませんでした。
「ああ、僕も昔はそうしていたなぁ」
と昔の自分を見ているようでした。

どれが本当に正解なのか?そんなわけで「エビデンス」と呼べるものはないと思います。
でも、子宮内膜に「愛護的に」接しておいて損はないかな?と思う今日この頃なわけです。

「子宮内容除去術」は、研修医の先生が最初に教わる手技だ、とも書きました。
でも僕は、自分が診させていただいている患者さんが残念ながら流産になってしまった場合、必ず自ら処置をさせていただきます。
他人にお願いすることは基本的にしていません。
この年になっても研修医の先生たちと同じ手術を自らやっているのは、そんなわけでこの辺に自己流の(?)こだわりがあるからなのです。