Q13:AIHってなんでそんなに妊娠率が低いのですか?

Doku's Answer:
AIHの妊娠率は「真にAIHの適応かどうか」によるわけです。
適応が無い人にやっても、もちろん妊娠率はあがらない。
「AIHの適応」と「クロミッド-AIHの適応」は別物です。
「AIHの適応」の人に即クロミッドは多胎のリスク
「クロミッド-AIHの適応」の人に「AIHのみ」は本当に妊娠率上がってる?

【解説】(注:もともと若いDrに解説した時の資料なので、難解な言葉ですいません。雰囲気だけ感じとってもらえればOKです)  

CQ2で少しAIHに触れましたが、もう少し掘り下げてみましょう。

AIHの歴史
ちょっとオタク的知識ですが、不妊の世界では比較的誰が最初にやったのかがよく話しになりますので、豆知識として。
1799年イギリスのJohn Hunterという人だそうです。尿道下裂による射精障害例にIVIを行って生児を得たそうです。

と記載するとおわかりのように、厳密には
× AIH=IUI
○ AIH=IVI+IUI
です。但し、事実上、AIH=IUIとして扱われています。
論文等にする時は、AIHとIUIは一応分けた方がいいと思います。
AIH=artificial insemination with host
IVI=intra vaginal insemination
IUI=intra uterine insemination

AIHの施行回数からの限界
次にDickey RP et.al., Fertil Steril 78: 1088-1095, 2002のデータをお示しします。
(「生殖医療ガイドライン2007」がこのデーターを使っています。)



とりあえず、「調整後の総運動精子数>500万」の方だけ見てみましょう。
累積妊娠率は2回で1/4、3回で1/3、5回で1/2になり、6回やっても妊娠しない人は少数派に入ったと考えられます。
また、当然ですが、妊娠しやすい人は早めに妊娠してしまうので、 6回やっても妊娠しない群は、AIHで妊娠できない人がかなりの割合を占めていると考えられます。なので7回目、8回目での上積みが無い訳ではないのですが、やはり稀です。
この辺の数字から「6回」という数字がよく出てきます。

一方、一回毎の妊娠率はどうなるでしょうか?
1回目:12%
2回目:11%
3回目:12%
ですが、
4回目:7%
5回目:8%
6回目:6%
ですね。
妊娠しやすい人は早めに妊娠してしまう。すなわち最初の3回が最も妊娠率が高いわけです。
一方、 「調整後の総運動精子数<500万」に目を移しますと、もちろん妊娠率は低下するのですが、それでも、最初の3回は累積妊娠率が上がります。それ以降はほとんど上積みがありません。
この辺の数字から「3回」という数字が出てきます。
ちなみに「AIHで結果妊娠した群」の平均AIH施行は1.7回という論文を読んだ記憶があります。
なので、急いでいる人3回、ゆっくりでいい人6回です。
で、この数字、何もAIHに限った数字ではなく、TIでも、ARTでも、はたまた何かの術後で状態変化した場合でも(例えばmyomectomy)、内分泌療法始めた人でも何にでも転用してOK。
急いでいる人3回、ゆっくりでいい人6回です。

精子数からみたAIHの限界
「生殖医療ガイドライン2007」p306の記載です。
自然妊娠が得られる最低の精子濃度は500万/ml、AIH妊娠が得られる最低の精子濃度は460万/mlとの報告がある。
運動率では自然妊娠には8.5%が最低必要で、AIHでは7%と言われている。
(引用文献は「産婦の実際 51: 205-213, 2002」)
総運動精子で、1000万以上を適応とするべきとの意見もあります。
(Fertil Steril 75: 661-668, 2001など)

一方、現実には射出精子を調整(濃度勾配遠心法)してからIUIに供するわけで、結局調整後のデーターで論じるべきということで、調整後のデーターでの論争も盛んです。
前出のグラフでは、調整後の総運動精子数(postwash total motile sperm count:TMC)を500万で分けています。
精子が入れば入るほど妊娠率が上がり、もうこれ以上いくら入れても妊娠率は上がらない(プラトーに達する)TMCは?
これまたいろんなデーターがあります。
まあ、100万〜1000万位というデーターが多い様です。
一応、僕らは、 「生殖医療ガイドライン2007」に従い、500万を覚えておきましょう。
じゃあ、最低何匹入らなければ妊娠率が0%か?これまた30万、80万いろいろデーターがあります。僕は実はTMC20万の奇跡の妊娠を見た事があります。

「AIHの適応」の検証
CQ2でやった通り、 「生殖医療ガイドライン2007」には、AIHの適応として、以下の4つが挙げられています。
(1)男性因子(oligozoospermia、asthenozoospermiaなど)
(2)性交障害、射精障害
(3)内分泌療法に抵抗する頸管粘液分泌不全例、フーナー陰性例
(4)原因不明不妊
では、いままでの知識を利用して各々を検証してみましょう。

(1)男性因子(oligozoospermia、asthenozoospermiaなど)
ということで、現在では、WHO2010に従い、精子濃度1500万/ml以下、運度率40%以下が適応になります。
が、 CQ2で行った通り、フーナーgood例は、あまりいい適応ではありませんでした。精子が薄かろうが、動きが悪かろうが、フーナーgoodならAIHは基本的には無効です。なので、
「男性因子かつ、フーナーpoor」
がいい適応です。
しかし、 「男性因子かつフーナーpoor」になるcaseで、かつpostwash TMCが500万超えるって結構しんどいんですわ。
結局postwash TMCが500万以下の場合、IUIでの妊娠率がそもそも低く、基本的にはARTの適応となる訳です。

以上より、正確には、男性因子の適応は
男性因子かつフーナーpoorかつpostwash TMC 500万以上
です。男性因子のAIHの適応って、結構狭いんです。
前出のグラフの青の如く
「男性因子かつフーナーpoorかつpostwash TMC 500万以下」
でも3回程度は試みる価値はありますが、最終的に妊娠率は11%程度ですね。
この辺から、AIHを試みるかどうかは、奥様の年齢因子などのbackground次第ということになります。

(2)性交障害、射精障害
これは基本的に適応ということでよろしいかと思います。
ただ、本来は、 CQ2でちょっと触れた通り「IVIでPCT goodになるなら、IVIが第一選択」です。
ちなみに、この「性交障害、射精障害」で(IVIでもIUIでもいいのですが)AIHを導入するときの注意点として、導入したあと、かなり高率でsexlessになります。
なので、このパターンでAIHをお勧めするのは、ちゃんと社会的backgroundを掴んでからにした方がいいです。年齢因子、現在の御夫婦の性交渉の現状etc。
できれば、御主人と奥さんと別々に話を聞いた方がいい。
話をよくよく聞くと、奥さんは、
「挙児は二の次で、まず、御主人さんと、あの日のように性交渉できる様になりたかった。その上で、タイミングで妊娠したかったのに、病院きたらAIH勧められた。」
なんてことよくあります。

なので、基本は「バイアグラ」だの「ゼリー」だの、そっちで解決できるんだったら、そっち系が本当は第一選択です。

(3)内分泌療法に抵抗する頸管粘液分泌不全例、フーナー陰性例
ということで、これが(これのみが)真のAIHの適応です。
PCOなど、クロミッドを使用せざるを得ない人も適応と考えます。

(4)原因不明不妊
これは、近々項を別にして詳しく勉強しましょう。
原因不明というわけで、フーナーgood例です。
原因不明不妊に単にstep upとしてAIH導入しても無効なことは今までも説明してきました。
但し、このパターンは
クロミッド導入し、過排卵誘発とする

頚管粘液がpoorとなる

AIHを導入する

すなわち
クロミッド(による過排卵誘発)-hCG-AIH
は有効になる可能性があるということです。


クロミッドによる過排卵誘発を併用すべきかどうか?
そういうわけで、(男性因子で精子が足りていないとかは当然ですが除いて)どんな理由にせよ、IUIをするなら過排卵誘発をした方が妊娠率は上がる。但し、多胎率も上がる。
「いかに妊娠にするか」だけでなく、我々産婦人科医は当たり前ですが、「いかに単胎妊娠にするか」に知恵をしぼるべきだと思います。

「原因不明不妊」に初回AIHからいきなりクロミッドによる排卵誘発をする
これはいいと思います。(というか、基本的にすべきです。さらには、場合によっては禁じ手「hMG-hCG-AIH(or TI)」もありかもしれません。←自分で責任持って周産期管理するのが条件です。これを人に任せるから、不妊屋は他の産婦人科医に嫌われるのです。)

「フーナーpoor」に初回AIHからいきなりクロミッドによる過排卵誘発する
「性交障害」に初回AIHからいきなりクロミッドによる過排卵誘発する
これはちょっとどうかなと。
AIHの真の適応(不妊状態がAIHで解決されてしまう)の場合、クロミッドによる過排卵誘発は多胎率を上げるのみになってしまう可能性があると思います。

この場合、僕がよくやる手が
「最初の3回natural(or セキソ)-hCG-AIH、4〜6回目でCC-hCG-AIH」
です。
前出のデーターの如く、最初の3回はAIHで妊娠率が高い訳ですから単卵胞で、以降はクロミッドによる過排卵誘発にしても、最初の3回でダメな人がそう簡単には双子にはならないだろう、という発想です。
(正しい考えかどうかは知りません)

AIHを売りにしている病院で、「妊娠率20%!」なんて見ることがあります。
一見、「嘘つけ!」と言いたくなりますが、実は満更嘘でもない。
きちんとAIHの適応を守れば可能なのです。
逆にAIHの妊娠率が低いということは、AIHでは無理な患者さんにAIHをやっちゃっているということです。
ただし、それが即悪いという訳ではありません。僕は、
「AIHを『やっぱりAIHでは妊娠できない』ことを証明する検査として使う
使い方もあると思っています。
例えばpick up障害は検査で証明できない。
でも、クロミッド-AIHを6回やってみる。
やっぱり妊娠しない。
これはもう、かなりpick up障害がクサい!
と、間接的な検査としての使い方をすることがあります。
患者さんにとってAIHとART(IVF)の間のハードルは(金銭的にも精神的にも)非常に高いので、このハードルを越えてもらうための材料として、(合意の上で)「無理っぽいAIH」をやってみるのも選択肢だと思います。
こう考えると、「何を目的にするか」によってAIHって非常に使えるのです。

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