超音波検査     (エコー)

(No.1)


超音波検査法は、被験者(検査を受ける動物)にストレスをかけずに豊富な情報を入手できる大変有用な検査です。
エコーの詳細は、「超音波検査 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)」をご参照下さい。
簡単に言うと、人間の耳に聞こえない周波数の音(超音波(ultrasound)を対象物に発射し、反響パターンで物質を識別する方法です。
エコーは、やまびこ(反響)の意味で、超音波検査法の別名です。(以下、エコーと呼びます。)

標準的治療を行っている獣医師さんであれば、誰でも普通に実施できる検査法です。
しかし、まだエコー検査の有用性を十分に活用していない獣医師さんもいるようです。

読者の方から、「獣医師さんがエコー画像を見せながら、ここが黒いとか白い、だからこの病気です、と説明されても全然理解できない。」との意見が寄せられました。
その時、ある獣医師と医師先生から、「エコー検査を紹介してみてはどうですか」、との意見と情報をいただき、本ページを作りました。
飼い主、ならびに、獣医師の皆様の、エコー画像を理解する上でご参考になれば幸いです。

以下、実際のエコー画像を示します。エコー装置は、ページ下段に紹介。

エコーの利点と欠点 特徴
利点 ・装置があればいつでもどこでも施行できる。
・侵襲がない
・実質臓器と液体の描出に最も有用(肝臓、腎臓、心臓、各種液体、等)。
・リアルタイムで観察できる。心臓壁や房室弁の動きの観察には最適です。
欠点 ・固い臓器(骨、軟骨)の存在は明確に診断できるが、その深部の情報検索は不可能。
(音波が骨表面ですべて跳ね返されるため。その奥は、全く見えなくなる=音響学的陰影(acoustic shadow))

・空気、ガスは見えない。つまり、肺や腸管などガスの多い箇所は判断困難。
色の特徴
(おおよそ)
液体=黒
(音波が最も通過しやすい)
骨、結石=白
(音波はすべて反射される)
肝臓、腎臓、各種実質臓器
=黒と白の中間
脂肪=
キラキラする白
空気=
テレビの嵐模様
エコー画像の
表現法
・液体(体液、血液、浸出液、等)組成で黒く映る状態を低エコー(low echo)、骨、石灰、異物などで白く映る状態を高エコー(high echo)といいます。
・その領域をarea、または、lesion、また塊をtumor 、またはmassと言います。 
例としてlow echoic area,  high echoic tumor など。

尿路(A膀胱。 B腎臓、尿管。 C腹部、その他、尿路周囲臓器) 

 (腎臓、尿管を上部尿路、膀胱,、尿道を下部尿路、と言います。)

以下、特に、難治性尿路感染症の原因に重点を置いて記載します。
                           (A膀胱)

画像の上方向は体表皮膚面。左方向は頭側、右方向は尾側。(以下同様)
            (A-0)   正常膀胱
膀胱は、エコーの描出が良好で、容易に豊富な情報が得られる臓器の一つです。

 膀胱内腔の尿は黒く映り(低エコー)、内部の異物や腫瘍は容易に描出されます。

膀胱壁は、粘膜、筋肉層、外膜で構成され、内腔に尿が溜まります。
膀胱の位置は、骨盤内の後腹膜(腹膜外)で、恥骨から1〜3cm頭側です。
臨床的事項 尿量が少ない、あるいは出ない時の診断は、エコーが一目瞭然です。膀胱内の尿の有無で診断が決定できます。
血清Cr測定値は、あくまでも腎機能評価の一手段に過ぎません。

1.尿が溜まっていない=無尿。
腎機能の低下、腎不全が疑われます。水腎症がなく腎萎縮が認められると腎性腎不全と確定できます。

2.尿が普通に溜まっているが1日量が少ない=乏尿
体循環量が少ない。心臓機能や腎機能低下が疑われます。腎臓形態が正常であれば、循環動態安定が優先です。

3.膀胱が充満している=尿閉か高度排尿困難。水腎症があれば腎後性腎不全が疑われます。
(A−1)   膀胱内異物(カテーテル)
  図では、膀胱の底部に白色の線状の像(高エコー)が鮮明に映されています。
膀胱内に誤ってカテーテルが入り込んでしまった症例です。

なお、1本のカテーテルが2本構造に見える理由は、
カテーテル表面の反射エコーと、カテーテル裏面の内腔表面の反射エコーのためです。

左の画像で2箇所にカテーテルが見えることから、カテーテルは膀胱内で屈曲し、必要以上の長さが入っています。

 体位:仰臥位(背臥位、あおむけ)、下腹部。
同一例 別の機会のエコー像。

上記と同一カテーテルの断端面(縦断面)を観察。

膀胱内に高エコーがあり、その後面は音響学的陰影を伴っています。

結石は重力に従って底部粘膜上にあるため、左図は異物と判断できます。
エコーはリアルタイムでプローブ(述)の方向を変えると容易にカテーテルと理解できます。
膀胱内に認められる線状構造物は、左図の多用途チューブ(栄養チューブ6Fr(直径2mm)長さ60cm)です。
材質は塩化ビニルで、単純レントゲンに映りません。

本来、本カテーテルの栄養注入部はピンク色の蓋付きでカテーテルより径が太いので膀胱内に落ち込む可能性はありません。
しかし、途中で切れるとすべて同一径となり入り込んでしまいます。

注) 本カテーテルは、動物の膀胱導尿用に認可されていません。
臨床的事項:
導尿用カテーテルを一時的導尿時または留置中に紛失した場合、膀胱内に存在する可能性を最初に考慮すべきです。
部屋内の探索はその後ゆっくりできます。
被験者が歯や爪で切ったり、医療者がチューブをあえて短く切って使用する事例は日常的です。
直ちにエコーで確認しましょう。

 ・万一、カテーテルが膀胱内に入ると、数日以内に膀胱炎となり、重篤な尿路感染症(腎盂腎炎、敗血症)を併発します。異物が除去されないかぎり感染症は治りません。
 
緊急の摘出手術と適切な抗生剤投与が必須です。
長さが長すぎる膀胱カテーテル挿入時の膀胱造影レントゲン
(黒色は空気、白色は造影剤の、二重造影)

この写真は、最上部図の膀胱内カテーテルの挿入状態です。
屈曲領域が多いと、
1.流体力学的に抵抗が増加し、導尿効率の低下や、薬剤注入抵抗が増します。屈曲が鋭角(90度以下)になると管が折れて内腔はつぶれます。

2.最も深刻な危険性は、膀胱内で絡まり、こぶ結びができて抜けなくなることです。

カテーテルには必ず1cm(あるいは5cm)ごとにマーカーがあります。
導尿を繰り返す症例は、カルテに必ずカテーテル長さ(cm)を記載しておきます。

側面レントゲン像。上方向が背骨。右が尿道でカテーテルが入っています。


(A-2)   膀胱結石
1.単発膀胱結石

膀胱内底部(膀胱の肛門側)に大きさ 2.8cm の結石が存在します。
典型的な高エコー像です。

結石の裏は、音響学的陰影のため見えません。
2.多発性膀胱結石

それぞれの結石の大きさは1cm以下で、膀胱底部に広範囲に存在します。

高エコーと音響学的陰影を有することから、膀胱内に貯留するカス(debris)(沈殿物)とは異なります。
臨床的事項 ・結石の存在は、慢性膀胱炎の原因としては最も高頻度です。排石または除去しない限り、尿路感染症は完治しません。抗生剤の効果はあくまでも一時的です。
長期的な抗生剤投与(種類を変えても)は、耐性菌の発生を悪化させるだけです。

・結石の原因は尿内物質の結晶化が多いが、毛やカテーテルの一部などの異物が核となって成長することもあります。

「膀胱結石摘出術」についての補足は、ここをクリックしてください。

(A-3) 膀胱  尿閉 (または高度の排尿障害)
膀胱に尿が充満しています。

尿閉は自分で排尿できない状態です。
症状は、下腹部膨満、頻尿、等です。
視診、触診でも診断が可能ですが、状態把握と原因検索にエコーは必須です。

努力排尿でも尿が出ない、または、タラタラしかでないときは、膀胱炎以外にも排尿障害の可能性も同時に鑑別すべきです。

停滞尿は、細菌にとって条件の良い培地(水分、温度、栄養)となります。
尿閉は数日以内に必ず膀胱炎を併発します。
臨床的事項 尿閉の原因は、機能的と物理的の2つに大別されます。
1.機能的膀胱収縮不全
(1−a)神経因性:
膀胱を収縮させる膀胱神経、および、それより上位のすべての中枢神経障害(仙髄、腰随、胸髄、脳のダメージ) 
 例;脊髄損傷、脳内出血、子宮などの膀胱周囲臓器の手術による骨盤神経損傷 など
(1−b)膀胱筋肉(排尿筋または利尿筋)の機能低下:
 例;膀胱炎繰り返しによる膀胱筋萎縮。排尿筋過伸展による膀胱収縮麻痺(長時間の過度の排尿我慢や麻酔中の排尿不可能時、 利尿剤過剰投与 等)
(1−c) 薬剤性:
膀胱収縮抑制剤(麻酔剤、β遮断剤(心筋抑制剤)、抗コリン剤(ブスコパン等)
2.物理的排尿障害
結石の尿道嵌頓、尿道狭窄(外傷、炎症またはカテーテルによる損傷)、
前立腺肥大症、癌(♂)、膀胱尿道周囲の広範囲の外傷、炎症、癌腫等による収縮抑制、等。
禁忌
処置
膀胱壁はもともと薄い筋肉構造です。尿閉で過伸展時はかなり薄い膜です。

・膀胱部圧迫は、膀胱破裂の危険性が極めて高く、禁忌です。

・慢性尿閉で圧迫刺激で排尿可能な症例は、神経学的に、仙髄排尿中枢、骨盤神経、陰部神経が機能し、膀胱圧迫時に外尿道括約筋が弛緩する例だけです。(膀胱尿道括約筋協調機能温存例)。
協調機能不全例(DSD、detrusor sphincter dys-synergia)では、膀胱圧迫によって膀胱内圧が上昇するだけで排尿はせいぜいわずかです。むしろ膀胱損傷(破裂)または膀胱尿管逆流症(VUR:vesico-ureterral-reflux)を発生させます。
陰部神経反射の有無は、肛門に指を入れた時の肛門括約筋収縮の有無で判断できます。

(A-4) 膀胱 腹水卵巣膿腫
腹水 肝硬変(ウイルス性)による腹水(ascites)
肝臓の辺縁(edge)は鈍で、内部エコーはキラキラし、組織が堅い印象です。

腹水周辺は腹水に漂う小腸です。
背臥位(仰向け)

腹水は膀胱周辺に最も多く貯留します。
膀胱は充満時は腹水との鑑別は、膀胱壁の存在で容易です。

しかし、もし、膀胱に尿が溜まってないと、腹水を膀胱と見誤り、誤診のおそれがあります。
尿量が少ない場合は、利尿剤投与や補液で1時間ほど後で再度エコー検査をすると診断精度が上がります。
卵巣膿腫 膀胱の頭側に、膀胱同様の低エコー領域があります。尿と同等の液体粘度です。
これは、膀胱と接する卵巣膿腫(ovarian cyst)です。膀胱とは一層の膜で境されています。

左記はCTで確認されていますが、もし尿が溜まっていないと、以下の誤診の可能性があります。

1.膀胱を見逃し、嚢胞を膀胱と見誤る。結果的に卵巣嚢胞の存在は否定されてしまいます。
鑑別手段:→別のタイミングでエコーを再検します。プローブの方向を変えながら全体を見ます。
2.卵巣膿腫以外に、巨大な膀胱憩室の可能性も考えられます。その場合は、排尿直後に再検して、前回(本画像)と比較するとわかりやすくなります。
膀胱憩室では、卵巣膿腫様に見える液は膀胱内に移動し、膿腫様体積は減少し、膀胱が空になりません。
医学的事項 膀胱は、周囲の膿胞性疾患(卵巣膿腫)や液体貯留、直腸部癌腫との鑑別が紛らわしい場合があります。膀胱は尿量によって大きさが変わるので、時間をおいてから再検すると鑑別しやすくなります。


(A-5)  慢性膀胱炎(重症)
尿が充満した膀胱の底面に不規則な低エコー像を認めます。
これほど液体に近い物質では、膀胱内発生腫瘍とは考えられません。
底面の膀胱壁にも特に異常所見がありません。

訴えは、一ヶ月以上持続する 血尿、膿尿、発熱です。
同一症例でエコー部位を少しずらしたときの膀胱像。
(膀胱は完全な球体ではないので、ふくらみ方も方向によって異なります。)

物質内部はキラキラする高エコーで、濃淡があります。
リアルタイム像では内部の細かな粒子がユラユラ動き、体位変換で粒子も動きます。(供覧できず)

物質表面は水平面(または鏡面)で、内容は液体であることを意味します。

以上から、膀胱内に沈殿する泥状物質(debiris)と診断できます。泥状物質の内容は、細菌、膀胱粘膜細胞、炎症細胞などが溜まったものです。

恥骨上針穿刺による尿培養から、耐性緑膿菌、腸球菌、大腸菌、セラチア、の混合菌が検出されました。
医学的事項 膀胱に沈殿物が蓄積する原因は、残尿が多く、慢性膀胱炎が続いているためです。
感染菌への抗生剤投与と同時に、残尿が多い原因特定と対処が必要です。
膀胱炎が慢性化する時は、単純に細菌の種類や抗生剤の効き目の問題だけではなく、背景にある尿路疾患の存在を鑑別診断しなければなりません。

(A−6)  膀胱腫瘍
1.膀胱後壁に発生した腫瘍

大きさ2cm

腫瘍は球形、腫瘍基部(腫瘍の根元)は広く、膀胱壁には浸潤していません。
2.治療による腫瘍減少

膀胱内への抗癌剤投与により腫瘍は若干縮小しています。

膀胱内抗癌剤注入療法は、副作用の少ない選択肢の一つです。
臨床的事項 膀胱腫瘍の臨床症状は、肉眼的血尿が代表的です。
しかし、尿路系腫瘍も難治性感染症の原因となることがあります。

理由は、
1.腫瘍表面には脱落や剥離した膀胱粘膜細胞の膜や細かな石灰化が付着し、細菌叢(バイオフィルム(bio-film)の原因となります。
2.膀胱腫瘍発生部位と大きさによっては、排尿障害と残尿発生の原因となります。


B腎臓、尿管。
腎臓構造はwikipediaを参照下さい。

B 正常腎臓
左腎臓の割面。
エコー画像と比較するため、腎上部(上極)は図左、腎下部(下極)と尿管は図右。

腎臓で産生された尿は、腎中心部(腎盂)から尿管、膀胱へと流れていきます。

腎臓細胞(腎実質)は、皮質と髄質に分けられます。

髄質(上図の赤色領域)は、ネフロンの集合体です。血管が豊富なため低エコーです。
皮質はネフロンの構造物の糸球体の集合体で原尿を生成します。

中心部は、腎盂や腎杯の粘膜上皮などの結合組織が主で、組織は密な繊維構造のため高エコーです。

体位:腹臥位(うつぶせ)または4足立位。側腹部より。
正常腎のカラードップラーエコー像
(ドップラーについてはwikipedia参照下さい)

腎臓には、体の循環血液の約20%が供給されます。
赤〜青色は、血液の流れを示しています。

B−1 水腎症(hydronephrosis) 
@ 両側水腎症  急性   (向かって左が右腎)
(正常腎エコーの中心部(腎盂)の尿の体積は数mlで、エコーでは見えないか、または見えても低エコーの薄い層程度です。)

本例の原因は両側尿管結石症による急性水腎症です。

両側尿管も拡張しています。(腎盂に連続する低エコー、右側が尿管方向)
A 両側水腎症  亜急性

本例の原因は、亜急性尿閉(5日目)です。
腎盂は尿で充満し拡張しています。

しかし、腎実質は比較的厚さが保たれており、腎機能改善が期待できます。

本例は血液検査でCr10mg/dlでしたが、導尿3日後に1.8まで低下しました。
B 両側水腎症 慢性 萎縮腎

本例の原因は、悪性リンパ腫による両側尿管浸潤、狭窄です。
腎実質は薄くなり、内部エコーは不鮮明となっています。
また、腎表面は凹凸があり、構造的に萎縮しています。(renal atrophy)
Crは、5mg/dlです。


本例の腹部エコー(下図)(参考)

悪性リンパ腫の腹膜転移により、腹腔内に大量の体液(腹水)が溜まっています。

深部臓器は肝臓です。肝臓内転移はなく、正常像です。

水腎症の臨床的事項 水腎症が両側に発生する場合は、両側尿管の通過障害、または尿閉が疑われます。
尿閉(あるいは、残尿の多い重症排尿困難)では、膀胱内圧の上昇が両側尿管と両側腎盂圧上昇を引き起こし、腎からの尿流出抵抗が上昇し、腎盂が拡張します。

両側水腎症は、原因にかかわらず、数日で腎後性腎不全となります。
もし、左右腎臓のどちらかまたは両側の腎盂腎炎を併発すると、敗血症等の極めて重篤な病態を引き起こします。
C 左腎結石(多発)

腎中心部に広範囲の高エコーと音響学的陰影を認めます。
腎結石の臨床的事項 腎結石は、結石の移動がなければ痛みを起こさず、また、細菌感染がなければ緊急処置は不要です。
しかし、一旦腎盂腎炎を併発すると、細菌は結石に強固に付着繁殖し、抗生剤への反応も不良です。

腎結石によって尿路感染症が持続し、腎機能の低下および全身状態悪化が継続する場合は、腎切石術あるいは腎摘出術を要することがあります。

ただし、成分によっては、経口剤で溶解できる結石もあります。

B-2     尿管
エコーで観察できる尿管は、腎臓に近い領域と膀胱付近までで、その間の中部尿管はほぼ不可能です。

腎、尿管、膀胱は、後腹膜臓器であり、体の背中側に位置します。

特に尿管は細く、背側には厚い筋肉組織と背骨があり、また、腹側は腸管ガスのため、エコーでは確認できません。
D 左尿管結石(腎盂尿管移行部)および左水腎症
(PUJ結石:Left pelvic ureter junction stone)

拡張した腎盂と、その右方向の高エコーが認められます。
高エコーは腎盂移行部に嵌頓した結石で、1ヶ月間経過時です。
腎盂腎炎を繰り返すため摘出。
右写真は摘出結石です。(大きさ8mm)
レントゲンに映り(カルシウムが豊富)、結石分析で蓚酸カルシウム結石です。
E 尿管結石(下部尿管結石)

膀胱底部に高エコーの結石像を認めます。一見膀胱結石のように見えますが、よく見ると、結石の上側表面を被う膜があります。

この膜は、膀胱粘膜です。結石が尿管最下部の膀胱筋肉内まで落下し、膀胱粘膜に直下にとどまっています。

まもなく自然排石します。
尿管結石の医学的事項 尿管結石は、背部、側腹部の激痛、嘔吐などの症状を呈します。
疼痛の主な理由は、腎盂内圧の急激な上昇による内臓痛で疝痛(繰り返す絞られるような痛み)です。
結石が小さい場合は自然排石が期待されますが、結石移動に伴い不定期な痛みが出現します。血尿も高頻度に見られます。

腎盂の尿停滞のため、一旦感染すると、炎症の進行が早く重症化します。
また、長期間(3〜6ヶ月)水腎症を放置すると、腎機能は低下し、それ以降に結石を除去しても腎機能は元に戻りません。

B-3 腎臓内病変
@ 腎嚢胞
(単嚢胞)
(single renal cyst)
右腎上極に球形の低エコーあり、内容は体液と同一組成の液体です。

腎臓の嚢胞は比較的多く見られる所見です。嚢胞壁は平滑で、明らかに良性と診断できます。

一般に球形で、3方向(a,b,c)の距離測定で体積を算出します。
体積=4/3πr≒ πxaxbxc/6 =34ml (左図数字)
A 腎嚢胞
(多胞性
)(multiple cysts)

腎実質構造はほとんど観察されず、薄い隔壁を有する多数の嚢胞が見られます。

嚢包によって腎臓組織が圧迫されてくると、徐々に腎臓機能が低下します。
AのCT像(左腎)

一見すると、腎腹側の大きな一個の嚢胞に見えますが、よく見ると内部には複数の隔壁があり、多胞性です。
嚢胞には血流がないので、造影CTでは白く染まりません。

中心の造影CTでは、腎外側にも、黒い(造影剤が入らない)嚢胞が認められます。
腎臓嚢胞の医学的事項 単嚢胞:
・腎嚢胞はほとんどが先天性で、特に処置を要しません。
尿路との交通もなく、感染は希です。
・後天的には、外傷や腎臓処置に伴う血腫、その吸収後などがあり、感染症の危険性は高まります。一般に抗生剤で対処します。
多発性腎嚢胞
ほとんどが先天的です。嚢胞の体積が大きく実質を圧迫するタイプは年齢と共に腎機能が低下します。ただし、反対側の腎が正常であれば腎機能は保たれます。
両側に腎嚢胞が多発する時は、先天性または後天性嚢胞腎という疾患で、腎機能は低下します。
腎嚢胞の壁は薄く、強い衝撃で破裂する危険性があります。
大きな腎嚢胞が存在する場合は、打撲や怪我に注意してください。
B 腎腫瘍(癌)

右腎上極(頭側)に、腎の上半分を占める低エコー腫瘤があります。

典型的な腎臓癌の所見です。

腫瘍の左(頭)側は肝臓です。
腫瘍の辺縁は不整(平滑ではなく)、周囲への浸潤が疑われます。
B 腎腫瘍(癌) ドップラー画像

腫瘍辺縁に細かな血管(血流)が多数存在します。これらを栄養血管と言います。(feeding vessels)。

腫瘍は、周囲組織から自らへの血管新生を促し栄養を吸収しながら増大します。

腎腫瘍の医学的事項 腎臓腫瘍のほとんどは、全く無症状のまま進行します。
時に腫瘍が腎臓内方に発育し尿路に浸潤して血尿となります。
眠れる腫瘍」とも呼ばれ、早期発見には、エコーあるいはCTしか診断方法がありません。小腫瘍は、触診でも検尿でもレントゲンでも判りません。

B-3  腎臓内病変 その他(腎動脈瘤、希な疾患) 
@  腎動脈瘤
 
右腎下極側に低エコー像が見られます。
一見、嚢胞とも思えますが、壁辺縁の厚さが一定せず、壁のコントラストも強く、単なる嚢胞壁とは断定できません。
@  腎動脈瘤  ドップラー

エコーで液体や腫瘍を発見して鑑別に悩む場合は、カラードップラーを使用するといっそう明確に判断できます。
上記の低エコー領域の内容は、乱流を伴う血流で満たされていることが判ります。
 腎臓本来の豊富な血流分布の存在に加え、腫瘤部が血液に満たされていることから、病変は「動脈瘤」と確定診断できます。
@ 腎動脈瘤  CT画像
(単純、造影(造影剤イオパミロン))。
 図左:単純CT 矢印に腎実質と同一濃度(density)の円形腫瘤があります。嚢胞とは容易に区別できません。
 図中央:造影早期。
腫瘤と腎実質は同等に染まり、血流が豊富な腫瘤と判ります。
 図右:造影後半。腫瘤は腎実質よりも造影剤が早く抜けています。血流豊富とまでは言えますが、腫瘤の確定診断はできません。
医学的事項:

不明な腫瘤の鑑別について
・造影CT:
造影剤を血管に注射すると全身の臓器に分布し、臓器内の造影剤濃度が濃いほど白く染まります。
必ず単純CTと比較して読影します。
本例は、ドップラーエコーで腎動脈瘤と確定診断されました。

 CTスキャンは、必ずしもエコー診断能力を上回るわけではありません。
 各画像検査法の特性を利用した鑑別診断能力が必要です。

C その他 尿路周囲臓器

C−1  前立腺  (♂の生殖器)

体の

体の
前立腺は膀胱の下方(肛門側)にある実質臓器です。

左図は、下腹部にプローブを体の水平方向に当てたエコー像です。
膀胱の下に楕円形の臓器を認めます。内部は均一で比較的低エコーです。
尿道は、膀胱の出口(頸部)から前立腺の中心部を通って陰茎尿道へと移行します。前立腺部の尿道は前立腺部尿道と言います。

一般にエコーでは尿道断面は細すぎて観察できません。

水平点線は前立腺の幅(cm)を示します。


肛門
(尾)

左図は、プローブを体の縦方向にあてた像です。

尿道は前立腺中心を肛門側に走行します。
前立腺の尾側(陰茎尿道側)は黒くて観察でkませんが、この原因は、前立腺が恥骨の深部の位置するため、骨による音響学的陰影があるためです。

前立腺の縦軸点線は前立腺の長さを、縦軸点線は高さ(厚さ)を示しています。

両図とも、前立腺が膀胱内にやや突出しており、前立腺肥大症(過形性)があります。
医学的事項: 前立腺は雄の生殖器官ですが、尿道を取り囲むように存在するため、尿道通過(尿流)に大きな影響を与えます。

前立腺の腫大(肥大、過形性、癌腫)や、炎症(急性前立腺炎、前立腺膿瘍)などで尿道が狭められると、尿の出が悪くなります。すなわち、排尿困難の症状(尿線狭小、いきみ、頻尿、尿滴下等)となります。


エコー機器 紹介
エコー本体 エコー本体の脇にあるプローブ。(探触子)
比較的広い面積をカバーするタイプ。
より範囲の狭い場所を見るためのプローブ。 プローブと、専用ゼリー。
画面にリアルタイムで画像が映ります。電源は普通の100V。キャスター付きで移動が簡単です。電源を入れて30秒後には使用できます。
画像は瞬時に印刷(白黒、カラー)可能、さらにHDDに大量に記憶できます。
心臓エコー、心音図、ドップラーエコなど用途は多様です。
腹部や側腹部など広範囲を確認できます。周波数3.5MHz。

肝臓、心臓を見る時に肋間の狭い範囲からみることができます。
または体表面や精巣などの小臓器を観察します。
周波数3.5Mhz
ゼリーの目的は、プローブと体表との空気の隙間を埋め、できるだけ密着させることで画像を鮮明に撮ることです。
冬場はゼリーが冷たいと被験者に緊張を与えるため、専用のゼリーウオーマーで保温しておきます。
医学的事項:
エコーは単に像を観察するだけの装置ではありません。

・エコーガイド下に生検針を穿刺し、体内の必要な液体又は腫瘤組織を確実に採取する。
・血腫、腹水、膿、尿を対外へ出す(ドレナージする)
・手術中に滅菌プローブを用いて腹腔内臓器の中の腫瘍の局在や穿刺で病理診断をつけます。  

補足(1)
安易に施行すべきでない、極めて危険な結石摘出方法 
(熟練者以外は施行禁止)
バスケットカテーテルによる、【透視下の】経尿道的膀胱結石摘出術』
解説:

一部の成書には、上図のように、尿道からバスケット鉗子を挿入し、レントゲン透視を見ながら膀胱結石をつかみ、引っ張ってくるという、原始的な方法が紹介されています。
本法を、
透視下による「経尿道的膀胱結石摘出術」といいます。

しかし、重大な合併症が多数発生します。
危険ですから素人医療者は絶対に真似しないでください。合併症の熟知と対処を知らなければ、施行してはいけません。
上図:

バスケット鉗子(全景)。

異物(結石や誤入した医療用部品、等)をつかむ専用鉗子です。
バスケットの開き具合は手元のレバーで操作します。バスケットは畳むと真っ直ぐになり外筒内に収まります。
バスケットを最大径まで任意に開くことができます。

上図は、長さ60cm、直径3Fr(1mm)で、膀胱または尿管用に使用します。
非常にしなやかで屈曲にも耐えます。
バスケット部分(鉗子先端)
「バスケット」とは、かご(籠)のことで、包み込む意味です。

上図は、4本のニチノール性ワイア形状で、バスケットを最大に開いた状態です。
バスケット内部には約1cm径までの結石を把持できます。

バスケット鉗子の種類は、バスケットサイズ、形状、長さに応じて多種類用意されています。
医学的事項:透視下操作の危険性と合併症
膀胱結石が尿道から排石しない理由は、単純に物理的問題です。すなわち、結石が尿道径よりも大きい、または、表面がトゲトゲしていて尿道粘膜との摩擦が大きい、かです。

これをメクラ状態でつかんで尿道粘膜内を引きずってくるのが本法です。原始的で、安全性は全くありません。

初期合併症1。:
尿道粘膜損傷は必発です。粘膜から出血します。尿道粘膜は血流が豊富であり、また圧迫等の止血は不可能であり、ダラダラと長時間出血します。血餅による尿道閉塞も起こります。

初期合併症2。:
バスケットで結石をうまく掴んだところまではいいが、予想より大きくて摘出を断念した時、バスケットにはまりこんだ結石が外れなくなった。その場合、膀胱切開術しか選択の余地がありません。

初期合併症3.:
結石をはさんで尿道の途中まで引っ張ってきたが、きつくて動かせなくなった。無理に引っ張れば尿道は裂けます。一方、膀胱に押し戻そうとしても、バスケットカテーテルは押す力が働きません。押すも引くも地獄です。内視鏡操作、または尿道切開術しかありません。

晩期合併症1:
膀胱内を観察しないため、小腫瘍の存在や膀胱の疾患、膀胱壁の変化は把握できません。その情報がないと、膀胱結石再発原因や他疾患の存在を否定できず、後々判断に困ります。

晩期合併症2:
最も深刻なのは、術後の尿道狭窄又は閉塞です。尿道は、前立腺部を除き、尿道内腔全周の2/3以上の粘膜損傷を受けると、治癒瘢痕過程で必ず狭くなります。狭窄までの発生期間は、数日から1ヶ月程度です。
そうなると尿道拡張術(尿道切開または尿道バルーン拡張術)が必要です。

透視下による経尿道的膀胱結石摘出術を施行する医療者は、全員必ず上記合併症のいずれかを経験します。
その失敗を伝えないで成功例だけ宣伝するのは、誇大広告と見栄にすぎません。
内視鏡操作の勧め
獣医学において、消化器内視鏡の発達の割には、膀胱内視鏡の発達はかなり遅れています。
それはこの領域の経験やノウハウの蓄積がなかったからです。
最近は獣医腎泌尿器科学会 が設立されています。
↑ 軟性膀胱鏡

(ファイバー部40cm、ファイバー部径3mm、操作孔1個、 直径1mm(3Fr)の操作用鉗子が使用可能。
先端は180度まで反転します。

別途、光源、膀胱灌流用蒸留水が必要です。 
↑ 硬性膀胱鏡  上図は直径16Fr(5と1/3mm) 操作チャンネル2箇所

上から各部名前
1.直視鏡  正面を見ます  黒い部分はレンズでそこを覗く。出っ張りは光源用アダプター
2.側視鏡(120度) 側面を見ます
3.膀胱鏡内筒(挿入用) 外筒と組み合わせ、先端に丸みをつけて尿道に挿入します。
4.膀胱鏡外筒 この太さが本体の直径です。灌流液の注入口と排液口があります。
5.操作用内筒  膀胱に入ってから挿入用内筒をはずし、操作用に替えます。

初めから外筒と直視鏡を組み合わせて、観察しながら挿入することも可能です。 
外径、全長などは他種類あり、被験者の体格にあわせて選択します。
↓ 硬性膀胱鏡先端から出るバスケット鉗子
操作用板(ヘガール)を用いて鉗子の方向を曲げている。

側視鏡を組み合わせた硬性膀胱鏡全体像とバスケット鉗子
医学的事項:
膀胱鏡は、胃内視鏡と異なり滅菌操作ですが、使用方法と操作に大きな違いはありません。

結石の破砕(採石用カテーテル、レーザー)、異物除去(異物鉗子)、組織生検(生検鉗子)、止血(電気メス凝固鉗子)、など
複雑な操作が可能です。

あらゆる外科操作は、「目で見ること」が必須です。目で見えない操作は、必ず合併症が起こることを銘記しておいてください。


参考文献

1.猫用に開発した尿道留置カテーテルの使用法 マレコー型カテーテル

2.腎臓 - Wikipedia




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超音波検査 エコー
膀胱結石摘出術

No.1

2009/03/02 作成



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