伊豆半島だより『はじめての伊豆』 page2 連載30から
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  連載第34回(久しぶりの再開)13/3/9

この連載が何年も、ストップしているのは、まわりから全く反応がなかったからだけど、昨年知り合いになり、今は親しい露木さんが、「あれ面白いですよ!!好きだよ〜」と言ってくれたので、続きを、そのうちに書いてみようと考えていたら今朝へんな夢を見た。
夢の中で、ぼくは大八さんと川を見下ろす土手の道をしていたら、今、瀬戸内の大島で、ぼくが青空水族館にしようとしている八寮と同じ格好の長家が見えた。
その長家は、かなりの高級な建築で、感心して見ていたら、「一番左の部屋がぼくの部屋だよ」大八さんが言うけど、大八さんの家は、豊島区にあって、ぼくは何度お邪魔したことがあるし、泊ったごともあるので、変だなと思ったが、仕事場として借りているのかなぁ。大八さんはスタスタと土手を降りて行くので、仕事場をぼくに見せてくれるのかと思って、ついて行った。
ところが、大八さんは、建物の右側、自分の部屋と反対の方へ、それも忍び寄るように、ひとつドアに向かって行き、途中で止まると腰をかがめて小石を拾い、そのドアに投げつけた。

 


連載第35回  13/3/11

かなり大きな音がしたのに、ドアからはなんの反応もない。
大八さんは、今度はもう少し大きな石をひろって投げた。
さすがにドアは開いて、長新太さんがニコニコわらいながら出てきた。
奥さまもいっしょで「ココアでいいですか?」とたずねるのだ。
「はい!」とぼくは答えて、大八さんとドアの中に入った。
中は板敷で広びろとしていてとても気持ちのよいアトリエだ。
でも、アトリエの奥の半分は川できれいな水が流れている。
流れに川茂が生えていて、長さんが「これは?」と聞くから「キンギョモ」と答えた。
「ではこれは?」「ホテイソウ」「チガうよ!」なんだテストしていたのか、とちょっといやな気持ちになった。
たしかにホテイソウではない、握りこぶしほどの丸い実がなっている。
大八さんと長さんがそれを手で割って、ぼくの頭に「ボウシ!ボウシ!」といってかぶせようとするが無理だよ。それは小さ過ぎだよ!
頭に気持ちが集中している隙に大八さんと長さんはぼくのズボンのボタン(これがなんとオシリの方についている)を、はずそうとしている。
もう、四つか五つボタンははずされて、ぼくのオシリの穴もあらわになってしまった。
「やめて!やめて!」となるべくおだやかな声で言うのだが二人は全くやめようとしない。
どうしよう!どうしよう!と思っていると目が覚めた。
連載第33回 08/4/11

PHPから「アンコール・長新太が好き」 というオシャレな小画集が送られて来た。今江祥智の編集と杉浦繁茂のデザインによって長さんと幸せな再会ができた。
特に、絵本原画のページが圧巻で、描きっぱなしの画面まわりが素晴らしい。
長さんは、莫大な量の作品を残したアーティストだった。だから、今江さんのようなめききで、しかも全部作品を丹念に見渡してきた人が小さくても、良質の作品集を編んでくれることで、長さんの目指したことの一部がはっきり見えるんだ。
大竹伸朗と江國香織が短い論を載せているのも良い。 こんなに凄い長さんとぼくは、壁際に机を並べてたんだなあ。 窓辺で、相変わらず鼻歌を歌いながら、楽しそうに絵筆を動かしていた大八さんが「そろそろ魚釣りに行こうか」とのんびりした声で言ったものだか、長さんまで、すっとんきょうな声で、「だって、せいぞう君はまだ準備中だよ」と言ってくれた。

     

『アンコール!おかしな絵本の世界 長新太が好き』PHPより

連載第31回  08/1/17

さて、話を蓮台寺の宿に戻そう。 夕べ あんなに冷え込んだのに、翌日は、朝からあったかな伊豆の気候なった。
ポカポカと日差しが道路側の窓から差し込んで、ぼく「たち」にとって、絶好の仕事であった。
朝食の膳が下げられると、三人は仕事をはじめた。
今井浜では、それぞれひと部屋が与えられ、みんな部屋に籠もって絵を描いていたのだが 今日からは、長さん、大八さんとテーブルを並べて仕事をする…いや 、しているのだ。
二十歳台新人のぼくが、あこがれの長さん、大八さんと同じ部屋で列んで絵を描いていたのに、ぼくはそんなに興奮してなかったことを思い出す。
ぼくは、これらのことを、当たり前に受け入れていたのだろうか?

連載第32回  08/3/31 

窓辺の席に大八さんが座って、もう絵筆を動かしている「大八さんは老人だから、あんなに日当たりのいい所にいたら、今にきっと居眠りを始めるよ。」
長さんがぼくに向かって小声で言っているけれども、大八さんには聞こえているのだ。
大八さんは白髪だけど、あの頃、まだ五十才台だったから老人というのはかわいそうだ。
長さんは、真っ白なケント紙の上に、薄く鉛筆で下書きをしている。大胆な長さんの絵からは想像もつかない慎重な制作態度に、ぼくは驚いて見ていた。
大八さんは楽しそうに鼻歌を唄いながら筆を動かしているけれども本当に描いてるの?
ぼくは女中さんに缶詰めの空き缶にいれたニカワをあっためてもらい、泥絵の具を解き始めた。
連載第30回    07/12/29

美人姉妹の店の話を、太田大八さんに聞くチャンスを逃してしまった。 ちひろ美術館で初山滋の展覧会のオープニングパーティーがあって、大八さんは初山さんと親しく御近所付き合いをしていたので、パーティーにはいらっしゃると、予想していた。予想は当たったのに、ぼくが 新潟の真田小学校に行かねばならない用事が出来て、パーティーには出る事が出来なかった。
大八さんに美人姉妹の話は、聞けなかったけれど、大八さんから昔、聞いた初山さんとのエピソードを思い出したのだった。
大八さんがいつも行く銀行に入っていったら、みすぼらしいなりをした老人が銀行から、摘み出されようとしていた。初山さんだった。
初山さんは、鴨を飼っていたから、いつも同じ身なりをしていなければならない、でないと鴨が怯えて暴れるという。それでボロボロの服を着てたらしい。「このひとは、世界的な大芸術家だ」と言って初山さんを助けたという。


大八さんは身だしなみが、いつも上品だし、大八さんなら銀行でも、警察でも信用される。
パーティーではあの話をしたのかなと思ったら、違う話だったらしい。その話は、初山さんの立派さが、際立つ話だったにちがいない。
大八さんなら、自分が話題にしようとしている人を、どのように語れば、その人が際立つか、常にこころがけているから、初山さんが惨めな目に合ってたところなんて、ネタにするわけがない。大八さんのそういう気配りが、大八さんといると、決して不愉快な目にあわす゛にすむという事実のタネであり、仕掛けなのだ。
そういう大八さんの何気ないこころ配りを、この伊豆旅行で、なんどか体験することになった。

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