無理な相談

 

 




秋の夜、闇にはためく白いカーテン

「少し…寒いですか?…閉めますね。」
窓が誰にも触れられていないのに、ゆっくりと閉じる。

白いベッドの上にはピンク色のリボン付のバスケットが、時折、柔らかな振動に揺らされる。

少し視界をずらせば、シーツがごそごそと動いている。
「ぁっ……んっ…」
微かな吐息。

しばらくして、シーツがゆっくりと落ち、ゼロスが現れる。
その腕には目映い金糸がこぼれ落ちていた。

「おや、眠ってしまいましたねぇ…」
ゼロスは、裸のまま少し身体を起こした。
そして、ベッドの端の籠に目を細める。
「はい、今日も異常なし…。」

ベッドの背にもたれると、傍らですやすや眠っているフィリアに視線をおとし、頬を撫でる。
「仕事が楽なのはいいですが、ここまで楽というのも考えものですねぇ。毎日、フィリアさんと遊んでいるだけじゃないですか?あんまり退屈でしたので、こんなことになってしまいましたね…なかなか可愛いですから、いいですけれど。」

それに、獣王様は、卵の監視というのは名目で、ダークスターの件で失った力の回復しておけとおっしゃっているのでしょう。
「楽しいおもちゃ付休暇と思えば贅沢ですか…?」

フィリアは、無意識にゼロスの腕に手を絡めてくる。
ゼロスは微笑して、再びフィリアを抱き寄せ横になる。
「しかし、世間知らずなフィリアさんったら、ちょっと優しくしたら、信じきって、しかも、不安な女性は恋に墜ちやすいですからね。強引にことを進めてしまえば、こんな『お嬢さん』をたぶらかすくらいは雑作なかったですね。休暇をかけて、いろいろ開発して差し上げます。」

 

後日、珍しく、獣王に呼ばれ、簡単な報告をする。
フィリアの家に戻ると、もう、真夜中だったので、そのままベッドに潜り込もうと、寝室に直行した。

と、フィリアはまだ起きていた。
薄明かりのもと、窓の外を見上げている。
「…。」
ゼロスは思わずその姿を見いる。
「…どうしたんです?」
フィリアははっとして、振り返った。
「もしかして、僕を待っていたんですか?」
「…そんなんじゃありません。」
フィリアは、少し赤くなった。
ゼロスは敢えてそれ以上追究せず、ふっと、ベッドに移動すると、フィリアを抱きしめた。
そして、ゆっくりと、顔を近づけるが、急にフィリアがせき込む。
「…大丈夫ですか?」
「…はい、ご免なさい。」
ゼロスは、フィリアの背中をさすりながら、様子をうかがった。
「今日は、大人しくお休みになられた方が良いようですね?」
ゼロスは、再び身を翻す。
が、マントがつれる。
「?」
気が付けば、フィリアがマントの裾を掴んでいた。
「…どうしたんです?」
「別に平気です。ちょっと咳しただけです。」
「…そうですか?」
「はい。」
フィリアはすこし、むくれていた。
「それに、ああいうことできないとわかるとすぐ帰るなんて…」
「人聞きが悪いですね…あなたの身体を気づかったんですよ。お一人の方がよく眠れると思ったんです。」
「…それは…」
フィリアはうなだれて俯く。
「でも、フィリアさんがその気なら、お付き合いしますよ。」
「その気ってっ!」
フィリアが真っ赤になって、顔を上げると、途端に、唇をふさがれる。
「ん……。」

しかし、3時をまわったころ、フィリアは急にはげしくせき込む。
「…どうしたんです?」
「ちょっと、寒いです。」
「やっぱり、風邪をひかれていたんじゃないんですか?」
ケホケホと胸元でせき込んでいるフィリアを抱き寄せ、ゼロスは毛布を引き上げた。
フィリアはうっすらと冷汗をかいていて、朝方まで震えていた。

ようやく、眠りについた時、朝日が薄いカーテンから差込み、フィリアの顔を照らしていた。
「…真っ青ですね。魔族ほどでないにしろ、竜だって、そうヤワではないはずですが…どうしたんでしょう?」
ゼロスは額に手をあてたり、アストラルサイドから気の具合を確認したりする。

でも、昼頃になると、フィリアはすっかり回復していた。
「きっと、急に冷えたから、風邪でもひいたんです。」
フィリアは温かいお茶をゼロスにいれてもらいながら、頬笑んだ。
そして、ベッドから起きあがろうとするフィリアをゼロスは抑える。
「今日一日くらい、お休みになっていた方がいいですよ。もう、あなたの同胞はいないのですから、病気になられても治す術はわかりませんから。」
「でも、全然平気ですよ♪」
「顔色は良くなりましたけれどねぇ…」
ゼロスは無表情でフィリアを見つめた。

 

 

ところが、数日後、ゼロスはとんでもないことを告げられる。

「え??あの、よく聞こえなかったんですけれど…」
「だから、赤ちゃんできたみたいなんです。」
「はぁ?赤ちゃんって誰のですか?」
ふいに、モーニングスターが飛んでくる。
「あなたに決まっているじゃないですかっ!!」
「フィリアさんと僕の赤ちゃんってことですか?」
「そうですっ!!」
「嘘でしょう?」

ガツン、グシャッ

モーニングスターが傍らのテーブルを破壊する。
「ちょっと、待って下さい。だって、僕、魔族ですよ。子供なんて出来るわけないじゃないですか?」
「でも、出来たんですっ!」
「何を根拠におっしゃっているんです?」
「来ないんです。」
「来ないって、何がですか?」
「何がって?」
フィリアは泣きそうな顔で、ゼロスに耳打ちする。
「フィリアさん竜のくせに、そんなのあったんですか?」
ゼロスは目を丸くする。
「そんな言い方って…」

カララン

フィリアはモーニングスターを取り落とす。
「だって、そうでしょう?竜は生殖行為をしない生物でしょう?「精神上の結婚」、原理的には細胞融合で繁殖する完全体外受精なはずです。」
「そうなんですか?」
「…そうですっ…何で知らないんです?」
「だって、私その教育うける年齢ではないし。それに、とにかく、ここ一年間は、人間の形態をとっていたら、月一度きていたんですよ。」
「それは、そのくらいの機能は竜族が人間形態をとる際に、コピーできていたからでしょう。僕があなたを抱けるのだって、そういうことですから。しかし、いくらなんでも、それ以上の細かい効用までコピーしませんよ。しかも、フィリアさん程度の力で。」
「でも、急に、来なくなっちゃいましたっ!」
ゼロスは、フィリアの剣幕にたじろぐ。
「きっと、赤ちゃんできたんですっ!それなのに、すごく無責任…ひどすぎます。」
フィリアの大きな目が潤んでくる。
「…いや、フィリアさん、別に無責任ってわけじゃ…とにかく、絶対勘違いです。この千年間、僕は子供を作るなんて芸当やってのけてないんですから、急に、そんなことありえません。」
「この千年?」
「そうです。千年間中だしし続けて、一度もですよ。本物の人間だって、ああ、竜だって、けっこう寝てますが、そんなことは…だから、安心してくだ…」
ゼロスははっとして、フィリアを見る。
大粒の涙がぽろぽろ…
「あ、だって、その、まあ、ほら…千年も生きていれば、いろいろあって当たり前でしょう?ない方が気持ち悪いじゃないですか?」
ゼロスは苦笑しつつ、フィリアを宥めようとするが、
「帰って下さい。赤ちゃんは一人で育てます。」
フィリアは、そう言い残すと、階段をかけ上がっていく
「フィリアさん…あの、そんな怒らないで下さいよ…そもそも赤ちゃんなんて…」
が、途中で、フィリアの身体が崩れる。
ゼロスは抱きとめて、顔をしかめた。
フィリアは真っ青で、小刻みに震えていた。
昨日と同じ症状。

「やれやれ、一体どうしたというのです?」
ゼロスはフィリアをベッドに寝かせつつ、額の髪をよけてやる。
フィリアは苦しそうな顔で、眠っている。
「妊娠なんて、馬鹿げてますよ。しかし、彼女の身体、ちょっと弱りすぎですね。」
ゼロスは、綺麗に涙の跡を指で拭いつつ…溜息をつく。
「調べますか…。」
ゼロスは、フィリアを毛布ごと抱き上げ、ふっと消える。

 

 

「うーん、【竜族の生体】、【竜族の婦人病】、【竜族ホームドクター】……大量にありますね。まさか、こっちなわけないですが【魔族の性行為】……【竜のハーフ論】」
ゼロスは書物を小テーブルに積み上げ、傍らの木製のソファーに腰をおろす。すぐ前の藍色の蚊帳で囲まれたベッドでは、フィリアが眠っている。足下には、ヴァル入れバスケットが放置されている。ゼロスは呑気にページをめくっていたが、ふいに、手を止める。

魔族との性交は生命を奪う。

まさか…竜の娘なんて、ゆうに両手は寝てますよ。それに抵抗力の弱い人間でも大丈夫なんですから。ゼロスは、瞳を鋭くする。

実例、大量のマイナスの気を蓄積した人間は身体組織を破壊する…

大量のマイナスの気…
「…僕が原因だったみたいですね。」
ゼロスは、静かに息をつく。確かに、ここまで習慣的に、一人をおもちゃにしたことなかったかもしれませんね。フィリアさんの体内に大量の魔族の気が残って。一回くらいならともかく、あまり蓄積すると、清い巫女のフィリアさんの身体を蝕んじゃうってわけですかぁ、おそらく子宮がぼろぼろになって、月経も来なくなってしまったんですね。
「…赤ちゃんなんてとんでもない話です。」
ゼロスは一人ごちる。
「理由がわかりましたから、行為後は、こまめに気を消し去るようにします。で、回復治療と浄化で治りますね。」

「ゼロス、何をしているの?久しぶりに戻っていると思ったら…」
急に、ドアの前に、紫髪の女性…露出度の高い黒いドレスに羽のショールをあしらい、悠然と歩いてくる。
「久しぶりって、獣王さま〜。数日前にご報告しましたよ。」
しかし、獣王は聞いていない。
「あ、最後の黄金竜…剥製にでもするの?」
「違いますっ。」
「じゃあなんで…?」

たら〜

ゼロスは言葉につまる。
「いえ、ちょっと…その、後始末を…」
「後始末…」
獣王は、書物をゼロスに突き出す。
【知られざる魔族の性交】
「いや、ですから、ちょっと…」
「新しいおもちゃ?」
「…まあ、早い話はそうです。」
「可愛いじゃない…鼻につくくらい、邪気のないオーラだこと…妊娠でもしたの?」
【竜のハーフ論】、【異種間生殖】
獣王は二冊を交互に見比べる。
「獣王様までやめてください。ちょっと、不注意だっただけです。」
「あんたも馬鹿よね。あれだけ、頻繁にやれば、気が蓄積するか、わからないの?」
「じっ、獣王様…?」
「暇だったから…」
「趣味悪すぎますよっ、覗き見なんて!!」
「本当に、わかってなかったのね?私はてっきり、実験しているか、殺すつもりなのかと思ってたわ。」
「僕はおもちゃは大事にする主義です。」
ゼロスは溜息まじりに、答える。
「それなのに、赤ちゃんができたなんて、無邪気に喜んでいて可愛い娘ね。」
「どこまで、見ていたんですか!!」
「だって、面白かったから。」
ゼロスは、反論を諦める。
「赤ん坊ができるなんて、ゼロスが最大限に力を集中させて、人間の生殖機能を全てコピーして、効用まで操作しえたにしても、相手のお嬢さんがこの能力じゃ…コピーするのは、せいぜい月経機能くらいね。どちらにしろ、魔族と神族の生命体なんて絶対不可能。」
「そうでしょうね。」
「それにしても、ゼロスの慌て様、面白かった。暇つぶしになったから、浄化くらい、手伝うわよ。」
「はぁ…どうも…でも妙なことしないで下さいよ。一応、大事なおもちゃですので。」
「でしょうね。わざわざ、宮まで連れて、介抱したんだから。」
ゼロスは無表情で答えない。

その時、フィリアがゆっくりと瞳を開く。
「…ゼロス。」
「フィリアさん、お目覚めですか?」
「ここ、どこですか?」
弱々しく、せき込みつつ、ゼロスを見上げる。
フィリアの目に、美しい女性の姿が映る。
「どなたですか?」
が、フィリアは急に、苦しげに呻いた。
「フィリアさん?」
ゼロスが、少し、表情を固くして、近づくと、ひどい冷汗。
「お腹が、すごく痛んで…苦し…」
毛布を剥がすと、フィリアは下腹を抑えたまま苦しげに息を吐く。、
「早いとこしないと、おもちゃ、まずいことになっているわよ…」
「直に、子宮を浄化した方がいいですね。」
「ゼロス…何?」
フィリアは、苦しげにゼロスを見上げる。
「今、楽になります。」
ゼロスはフィリアに言いつつ、下腹に手をおく。
そこには、黒い気が渦巻いている。
「何をするの?ゼロス…恐っ…やっ…」
獣王が珍しく、白い気を放出させ、手許めがけて打つ。

いゃぁ────

 

 

フィリアが気が付いたとき、いつもの寝室に眠っていた。
「大丈夫ですか?」
「夢…?」
ゼロスは、傍らに腰をおろし、何時も通り頬笑む。
「お腹痛い…」
「え?もう、治っていませんか?」
フィリアは、ふいに、シーツについた、血痕に気が付いた。
「夢じゃなかったんですね。」
「え?」
「あなたが、あなたと同じ香水の女性と、私のお腹に光をぶつけました…。」
「…憶えていますかぁ…すみませんね。あれはやっぱり僕のせいでした。だから、始末はつけましたし、今度からは気をつけて、もっと大事に…。」
「そんなに、私にあなたの赤ちゃんができたら、いやですか?」
「えっ?」
「だって、そうでしょう?殺すことないでしょう?」
「えぇ?」
「…それに、私、あなたのおもちゃなんかじゃありません。」
「フィリアさん、誤解ですよ。」
「魔族は子供を生み出すなんていやかもしれないけれど、でも、私だって神族だから赤ちゃんほしいわけじゃないです。あなたの赤ちゃんだから…ほしいって思ってたのに…その上「おもちゃ」なんて、意味が分かりません。もう、こんなの嫌です。こんな…こんな思いするの嫌です。二度と、私に触れないで下さい。」
が、ゼロスの表情は急に冷たくなる。
「冗談じゃありませんよ。あなたの言葉など、僕が聞くと思っているんですか?あなたは僕のおもちゃです。あなたの意志なんてこれっぽっちも関係ないんですよ。僕が触れたいと思えば、いつでも触れるんです。」
ゼロスは、フィリアを乱暴に覆い被さる。
そして、強引に口づけ、首筋に舌を這わす。
「やっ!いやぁ---!」
フィリアは絞れるだけの声で悲鳴を上げ、激しく抵抗するが、ゼロスは全く意に返すことなく思いを遂げた。


いつのまにか気を失い、だらりとしたフィリアの身体を抱き起こし、ゼロスは、”後始末”をする。そして、手首を握ったときに、つけてしまった傷を、そっと舐め…つぶやく。

「何でもしてあげますから…赤ちゃんは勘弁して下さい。それだけは、無理な相談です。…もし、子供欲しさに他の竜に抱かれたりしたら、許しませんよ。体外受精でも駄目です。あなたに触れるのは、この僕だけです。あなたは永遠に僕専用のおもちゃです…」

 

終わり

 


 totoさんのHPで、9999を踏んでのリク、

「ながされるフィリアさん」に応えてくれた小説です♪

踏めて、らっきーっ

ありがとうございますvvv