眠れぬ夜は…
「魔族だっ!!」
買い物途中のフィリアは、その言葉に思わず獣神官の姿を想像した。
悲鳴を上げて逃げ惑う人々の流れに逆らい、彼女は騒ぎの源を目指す。そこには街に侵入した下級魔族の姿があった。
今、まさにその魔の手が街の人に襲い掛からんとしたその刹那。
フィリアが放った閃光の吐息は見事魔族に命中した。
どうっ、と音を立てて、下級魔族の身体が倒れこむ。
「す、すごいよっ!フィリアさんっ!」
「こういう所を見るとやっぱり竜なんだね」
フィリアの信奉者たちが、彼女を取り囲み持てはやす。
「全くお恥ずかしい所をお見せしました…」
――人前で竜族の力を使うなんて。
フィリアはこの街に住むようになってから、なるべく力を使わないようにしていた。
竜に変身するのはもちろんのこと、呪文や閃光の吐息、瞬間移動など、人を驚かす行動は避けていた。
脅威となる力は人との間に垣根を作りかねない。
だから街の人たちは自分が竜であることは知っていても、それが実際どのようなものなのかは知らなかった。
「恥ずかしくなんてないよっ!誇りを持っていいってっ!フィリアさんのおかげで今、街が救われたんだよ?」
初めて目にした力に対して、街の人たちが向けるのは憧憬の眼差し。
異物を排除しようとする心は彼らには無い。
フィリアは微笑んだ。
――いい人たちだわ
その夜。
フィリアは何度も夜具の上で寝返りを打っていた。
眠れない。
身体の芯に火がつけられたように熱い。じわじわと沸き起こってくる疼き。眠ろうとしても火照る身体が邪魔をする。
獣に戻れと身体が叫んでいる。満たされていない、と悲鳴をあげている。
自分ではどうしようもないくらいの欲求がフィリアを動かそうとする。その誘惑にとても耐えられそうにない。
――鎮めなくては
今ならジラスもグラボスも寝ている。
「あーーーーやっぱいいですねー空は」
解放感がフィリアを包み込んだ。眼下にはまばらに街の明かりが見える。頭上には月がかかり星が瞬く。
翼が風を切る感触が心地よい。
「たまにはこうして竜に戻らないと、本来の姿すら忘れてしまいそうですもんねー」
昼に使った力が逆に、フィリアを元の姿へ戻そうとする欲求を上げていたらしい。
急降下、急上昇、宙返り。
まさしく思う存分羽根を伸ばした後、フィリアは街の広場に降り、人型をとろうとした。
しかし。
「…変身できない…?」
フィリアがどれだけ力をこめようと、その身体は竜の姿のままであった。
――どうして!?どうして!?
フィリアの焦りなど知らん顔で空が白白と明けてくる。このままでは街の人を驚かしてしまうし、皆の前で変身するのは恥ずかしい。
近くの民家で朝の早い人が扉を開けた音に、フィリアは慌てて手近の森に空間を飛んだ。
誰も居ない真っ暗森で、泣きながら何度も変身を試みる。
それは完全に日が昇っても続けられた。
泣き疲れてそのまま少し眠った後、再び挑戦する。夢であることを願って。
けれど結果は同じであった。
立ち直ってフィリアがまず呼んだのはゼロスだった。
「一体誰に魔力を封じられたんですか」
「そんなのわかりません…」
呼んで見たものの、ゼロスもため息をつくばかりだ。
彼なら何とかしてくれるかもしれない、と思ったのに。
『もしかしたら彼の仕掛けた悪戯なのかも』ということも同時にフィリアの頭を過ぎっていたのだが、どうやら彼の様子を見る限りそれはなさそうだ。
「どうするつもりです。そんな図体じゃ街には帰れませんよ」
「やっぱり皆さん驚きますよね…。でも、このまま森に居てもどうしようもありませんし…ジラスさんたちに知らせたいですし……。一応、街の人は皆、私が竜だと知っているわけですから、驚かさないように行けば大丈夫じゃないでしょうか…?」
「…どうなっても知りませんよ?」
先日街を襲った下級魔族を閃光の吐息で倒した。その時でも賞賛の声はあれ、恐怖する者はいなかったのだから、竜の姿も受け入れてくれるだろう。
そう信じて、フィリアは地響きを立てて山を降りていった。
道行き、知人と顔を会わせる度に、挨拶をし事情を説明する。あまりにもそれが頻繁で、竜の姿に人はますます集まってくるばかり。
フィリアは噴水のある広場で皆に事情を説明することにした。フィリアのことを知っている人も知らない人も、彼女を取り巻いている。
「フィ、フィリアさん…?このどでかい竜が…?」
彼女が竜だと知っていた上で想いを捧げていたのだが、現実を目の当たりにして、青年たちは躊躇せずにいられない。
「そうですけど?」
愛らしく首を傾げた…はずなのだが、その動きにみんな怯えて後ずさる。
「きゅ、急に動かないでね…?」
フィリアはぐるりと周囲を見渡した。
同情してくれてはいるものの、その巨大さに皆『踏まれやしないか』とか『家を壊されるんじゃないか』、という心配をしているのは一目瞭然だった。
「それじゃ、家に入れない。どうする、姐さん?大きな家、借りる?」
駆けつけていたジラスが困ったように見上げる。
「いえ…。山に行きます…」
これ以上街に留まっても迷惑をかけるだけだし、自分も居たたまれない。
「じゃ、俺たちも行きますよ。山ってあの山っすね?」
「俺たち準備して行くから、姐さんは先に行って待ってる。」
ジラスとグラボスが、にっこり笑って踵を返した。
「ジラスさん、グラボスさん…」
彼らだけがいつもと変わらない扱いをしてくれる。
自分の姿はそれ程衝撃的なのだろうか。中身は同じなのに。
「貴方も変わらないんですね…」
山の中で肩を落とすフィリアの傍らにはゼロスがいる。
「僕にとっては肉体などただの器にすぎません。重要なのは精神体なんです」
そういうと、ゼロスはフィリアの鼻先に触れた。
「もっとも、こういうふうにこちらでの距離が縮まるということは、表裏一体の精神世界でも少々干渉が起きるので、肉体と全くの無関係とは言えないんですけど。その肉体がどんな形だろうと大して変わらないんです」
「でも、貴方だって人間の姿をわざわざとるじゃないですか。それは見た目を気にしているってことでしょう?」
「それはまあ。人間界に潜伏する以上、便利ですから」
「ほら、やっぱり人間界にいるには人の姿が必要じゃないですかー」
「人里にこだわらなくてもいいじゃないですか。火竜王の神殿なんていうあーんな辺鄙なとこに暮らしてたんだから、この山で暮らしたって大して変わらないでしょうよ」
「神殿には仲間がいっぱいいましたー」
ぐずぐずと大きな竜が泣き出したものだから、地面に水溜りができている。
「ジラスさんもグラボスさんもついてきてくれますよ。僕も行きますし」
「ゼロス…」
けして彼が親切で言っているわけではないことはわかっている。仕事の関係だからということが。
それでもフィリアはその申し出が嬉しくてたまらない。
ついゼロスに抱きついた。
「ほんとにほんとに来てくださいよ?毎日来て下さいよ?」
「…そ、それはちょっと…」
抱き潰されそうな勢いにゼロスが思いっきり眉を顰める。
「ま、それは最悪の場合ということで…元に戻る方法を探しましょうか」
「まずは貴女に何が起きたのかを知らないと…」
フィリアの鼻先まで浮かび上がると、ゼロスが目を閉じる。
「そのままでいてくださいね」
「ゼロス…?」
呼びかけても返事はない。魂が抜けたように何の感情も浮かべない彼に不安になる。
やがて、不意にゼロスが瞳を開いた。
「力の流れが歪められたんですね」
「流れ…?」
「貴女方は力を使う時には、精神世界に置いてある力を自分の器に呼び込んで使ってます。その呼び込む時の器の方にある目印には変化ないようですし、単純に力が届かないように、途中で邪魔するものがあるということですね」
「…え?力がって、…でも瞬間移動とか出来ましたよ…?」
「幸い、届かないのは一部の力だけみたいです。
精神体ごと流れを断ち切る、といったことのできる魔導器があるといった噂も聞いたことがありますし……それでなくてよかったですねー♪」
「今でも十分よくないですーーーっ!」
自分の置かれた状況に再び涙が滲んできた。
「さて、何でこんなことになったんでしょうねぇ」
ゼロスが空中で頬杖をついた。
どんな状況かわかったが、何故そうなったのか分からない。
複雑な編物を解くのと同じだ。一本の毛糸からなると知っていても、ただ闇雲に引っ張ったのではほどけない。
力を使うのに妨げがあるのはわかるが、その妨害している力がどのような構造をしているのかがわからなくては解けそうにもなかった。
このような精神世界への関与は明らかに同族の仕業の匂いがする。
「フィリアさん、昨晩の行動を思い出してください」
「…途中からでいいですか?」
「何言ってるんですか、どこに答えがあるともわからないのに。最初からですよ」
「でも…」
「いいから、早くっ!最初はどこに行ったんですっ!?」
有無を言わさぬ口調に気圧されて、フィリアは口をつぐむと、ゼロスと共に昨晩の行動を追った。
「ええっと、こちらの屋根で翼を休めた後、また飛んで…」
竜となったフィリアの行動範囲は広い。
―――夜くらい大人しくしていてくださいよ…
自分の目の届かないところで事件を引き起こすフィリアに、ゼロスがため息をついていた。
「この湖で泳いで…」
森の中の湖の岸に二人が降り立った。
『泳ぐ』という単語にゼロスが片眉を上げた。散々引き回されて、少し皮肉を言いたい気分になっている。
「レイクドラゴンと間違われそうですね。食べられちゃいますよ♪」
ゼロスの頭には、少し前の仕事の最中によったドラゴン料理を出す店がよぎっていた。
「人間姿で泳いだんです」
「……………はあ?」
ゼロスが呆れ声をあげる。
「……フィリアさん。この時点で人間に変身できたんですか…?」
それならば今までの行動はとんだ無駄足である。
「だから、途中からでいいか、って聞いたんですっ!なのに貴方は聞いてくれなくて…」
ゼロスに恨みがましい目で見られて、フィリアが居心地悪そうに反論した。
「大体、いつも貴方は勝手に話を進めて…っ!振り回される私の身にも…」
ゼロスの瞳が一瞬冷たく煌いた。
「はいはい、わかりました」
宥めるようにフィリアの首の辺りを撫でると、ゼロスは杖を振る。その動き通りにフィリアの身体が浮き上がり、湖の中へと落とされ水飛沫が上がった。
「何するんですかーーーーーーっ!!!」
「昨日の通り、泳いでくださーい♪」
岸辺からゼロスが手を振っている。
―――絶対、わかってないわ
怒りと悔しさとで滲む涙を隠そうとフィリアは水面に顔をつけた。
岸から遠く、自由気ままに泳ぐ竜の姿を眩しそうにゼロスは見ていた。視線を外さずに虚空に語りかける。
「…今なら竜はいません。出ていらっしゃったらどうです?」
反応したかのように波紋が広がる。
湖の中に人の姿がゆらりと浮かび上がった。水面に映る鏡像ではない。その姿は水の中だけに映し出されていた。
長髪でゆったりとした衣を纏った青年の姿が。
「貴方でしたか。ロットバルドさん、でしたっけ。完全に滅んだわけではなかったんですね」
「こちらに実体を結ぶほど力が回復しているわけではないんでね。このままで失礼する」
はるか昔の戦いで傷つき、その後、姿を見せなかったので滅んだと思っていた魔族だった。
これだけ時が経ってもまだ回復しないとは余程力を失ったのだろう。
「でもこちらに手を出すくらいの力が?」
「手を出したのはそちら側ではなくこちら側だからね」
「あの竜に手をだした意味は?」
「何分、暇なものでね。
今の力では、私の属性の水を介さなくてはよくよく物質世界も覗けやしない。ある程度の大きさの水辺の周りともなると限られて、そこにやって来る者も少ない。
酷く暇なのだよ。
だが、ここではこの上も無く面白いものを見つけさせてもらったよ」
彼が笑うとさざなみが水面に立った。
「何だい、あの竜は。すっかり人間気分じゃないか」
「ええ、おかしな竜でしょう?」
「純粋であるだけに傷つきやすく、その負の感情がなかなか美味だ。ま、あの程度ではあまり私の力とはなってくれないがね」
広場での落胆ぶりは見物だった、とロットバルドがくつくつと喉を鳴らして笑う。
「それだけに嬲りがいがあるというものだよ」
彼はすっかりフィリアを自分の玩具として決めているらしい。
それがゼロスにどんな影響をもたらすとも知らずに彼は笑っていた。
冷たい怒りがじわじわと湧き起こり、ゼロスを満たしていく。しかし、ゼロスはそれを全く表情には出さなかった。
代わりに感嘆の表情を浮かべる。
「なかなか見事な術ですね。どうやったんです?」
「ふふ、『それは秘密』だよ」
ロットバルドは目の前の男のお株を奪って返した。
同じ眷属でもその力の種明かしなどは行わないのが普通である。問う方が稀なのだ。
ゼロスも人差し指を己の唇に当てた。
「ああ、そうですか」
そして不意に杖を湖に突き立てた。
精神世界面のゼロスがロットバルドを貫く。
「うぎゃあぁああぁっ」
「それでは勝手に探らせてもらいますね」
無理矢理、彼の力の束を手繰り寄せ、読み解く。
ロットバルドの苦鳴を心地よく感じながら、ゼロスは必要な情報を取り出していた。
「ああ、なるほど。こういうふうに力を縒ったわけですか。これで戻せますね」
「な、何故…っ!?あれはお前の獲物だったのか!?」
湖面の像が激しく乱れている。
こちらにまともな像を結ぶ余裕すら失われているらしい。
「お前が目をつけていたとしても私と共に楽しめばいいではないか」
言葉を紡ぎながら、ロットバルドは逃げ出す隙を窺っていた。
しかし、目の前の黒衣の男にそれは欠片も見出せない。
「おすそわけする気はありません」
必要な物は頂いた。もうこの魔族に用は無い。
ゼロスが腕をロットバルドに差し出す。
「おいおい、私は十分傷ついているのにさらに追い討ちをかける気かい」
「滅ぼしはしませんよ」
精神世界面のゼロスが攻撃をしかけた。
ロットバルドの精神体を少しずつ削ぎ落としていく。
「うぎゃあああぁぁあぁあぁぁぁっ!」
力を、己を少しずつ無くしていく痛みを受けながらも、ロットバルドは必死で逃げようとした。
それをゼロスが許すはずもない。
ロットバルドの苦悶を映したかのように湖の水面が激しい渦を巻いていたが、やがてそれもおさまった。
「もう1000年、死んでてください♪」
そう言うとゼロスは笑顔で肩を竦めた。
今しがたの戦いの気配はなく、水面は暖かな日差しに照らされて穏やかに煌いている。
「ゼロス…?」
フィリアの位置からでは水面のロットバルドの姿は見えない。傍から見ると、ゼロスが一人で何かやっているのが不思議だった。
――杖を突き立てて…この湖が怪しいってことかしら
ゼロスが身体を空に浮かせて、こちらへと飛んでくる。
「解き方がわかりましたよ、フィリアさん♪」
「本当ですかっ!?」
「僕は嘘はいいません」
では本当なのだ。
フィリアはきらきらと期待に目を輝かせてゼロスを見つめて待っていたが、しかし一向に彼は動く気配はない。
フィリアは焦れて急かした。
「――――で、ゼロスっ?♪」
「ですから、分かりました、と」
「だったら、早く戻してくださいよっ♪」
「タダで、ですか?」
「はあっ!?」
あんぐりと口を開けるフィリアにゼロスがしれっと言い放つ。
「別に僕はどんな姿だって構わないですからねぇ。僕が戻さなくてはいけない義理はありませんし…」
この期に及んで何を言い出すのかフィリアにはわからなかった。戻すために力を貸してくれていたのではなかったのだろうか。
語気を強くして昨晩の行動をなぞるよう急かされた時は、少しは彼も心配してくれているのかと思ったのに。
今のこの笑みの余裕ぶりは何なんだろう。
「そうですね…」
何かを企んでいる瞳を向けられて、フィリアは身構えた。
「それではフィリアさんの方からキスしてください♪」
「はああぁっ!?」
何を言い出すのかと思ったら。出された物はフィリアの想像を超えていた。
ゼロスが人差し指を己の唇に当てる。
「安いものでしょう♪」
「そ、そそんなことできるわけないでしょうっ!何で魔族なんかにっ!」
魔族の彼にその行為に意味があるわけがない。単純な嫌がらせだろう。慌てふためく自分の姿を楽しんでいるのだ。
けれど相手に意味はなくても自分は。
ゼロスが首を傾げた。
「戻りたくないんですか?」
戻りたいに決まってる。けれどその代償が。
自然と彼の指先に目がいってしまう。
前に触れた時は優しく感じられたそれに。
思い出して意識しだすと身体中が真っ赤に染まる。
「戻りたくないならそれはそれで構わないですよ?」
言葉を紡ぐ彼の唇から目が離せない。彼の不意打ちの行為にでさえあんなにも羞恥を巻き起こすというのに、ましてや自分からなんて。
しかも恋人でもなんでもない、むしろ敵であるはずの男になんて。
ジレンマに陥っていたフィリアに一つの考えが閃いた。
「……今、でもいいですね?」
竜の姿ならそれ程意識しなくて済む。今の自分には唇なんてものは存在しないのだから。
「別に構いませんよ」
「…ほんとに貴方は私がどんな姿でもいいんですね」
却下されなかったことにフィリアはほっと胸を撫で下ろした。
―――こんな姿でもいいなんて言うのは彼くらいのものだわ
意を決して、そろそろと顔を近づける。
傍目にはキスというより、竜が食いつこうとしているように見えるかもしれないが、それでもフィリアの心は高鳴る乙女の物だった。
そっと目を閉じ、微かに触れた瞬間。
「―――っ!?」
違和感に包まれてフィリアが目を見開いた。先程より目に映るゼロスの姿が近い。見下ろす位置から見上げる位置へと変わっている。
ゼロスの手がしっかりと腰に廻されて、フィリアの姿態を引き寄せていた。
自分の唇に触れている柔らかさに気付いて、反射的に彼を突き放す。
「きゃあっ」
その途端、フィリアは水の中に没した。
竜の姿で足が着いていたそこは、今のフィリアでは届かない。
慌ててもがくが、生地のたっぷりした服が絡みつく。
「……『フィリアさんから』と言ったので、どう終らせようと貴女の好きにしていいんですけどね。こういう終わり方はしないでください。
こちらは構えてないんですから」
ゼロスは水の中からフィリアを引き上げると、腕に抱いた。
「だって、急に姿がっ!!」
――こんなの反則です
竜の姿だったから、その恥ずかしさにも耐えられたのに。
本来の姿より仮初めの姿の方が羞恥心を巻き起こすというのは変な話だが、事実なのだから仕方がない。それだけ人間の姿が馴染んでしまったということだろうか。
「どんな姿でも構わないですけど、こちらの方がいいです♪僕の腕が廻るので」
言葉通りに、ゼロスがフィリアを抱きしめて空に浮かんでいる。
彼と目が合うと笑顔で返されてしまった。
慌てて視線をそらす。
「も、もう離してください…」
「また湖に落ちる気ですか?」
だったら早く岸に戻って欲しいのに、ゼロスは湖の上に浮かんだままだ。
こうしている間も鼓動は速く鳴り続けている。しばらく彼の顔をまともに見れそうにない。
「濡れますよ…」
「こんなの一瞬で乾かせます」
くすくすとゼロスは笑い続けている。
フィリアは彼が解放してくれるのをただ待っているしかなかった。
どうでもいい後書き&おまけへ
自作文の間に戻る
TOPへ戻る
|