あなたの健康情報誌

からだ情報すこぶる

2006年第77号

ドクターレポート

補完・代替医療の最前線からVol.36

 


 

変形性ひざ関節症によるひざの痛みの軽減のために


不安を解消し、自信をもつて活動的な毎日を送ることがひざの痛みの軽減に役立つことをこ存知でしょうか?

ひざ軟骨の変性と痛みについて

変形性ひざ関節症は、痛み、O脚変形、関節の動きの制限が症状ですが、痛みが最も大きな問題です。それにしても、この病名は、何とかならないものかと常々思っています。「変形性」と言われると、いかにも痛そうで、元に戻らない印象を受けてしまうからです。

変形性ひざ関節症を簡単に言うと「加齢や生活習慣の積み重ねによって、ひざの軟骨が摩耗し、ひざに痛みが生じる病気」というところでしょう。しかし実は意外でしょうが、軟骨の老化と痛みの関係はよく分かっていません。レントゲンであまり変化がみられなくても、痛みが強い場合もありますし、逆にかなり軟骨の変性がみられても痛みがないこともあります。

「数年前に左ひざが痛くて先生に治してもらったのですが、今度は右ひざが痛くなりました」と、患者さんから言われるようなことがよくあります。左ひざは自然に治ったわけですが、そう言っていただけるのは医者としてうれしいものです。もちろん軟骨が若返ったわけではないのですが、痛みは消失してしまったのです。では、ひざの痛みは、何が原因なのでしょう。

ひざの周囲が痛みに対して敏感に

関節が痛いといっても、軟骨や骨には知覚神経がありませんから、そこが痛みの発信地となることはありません。ほとんどは、ひざの周囲の筋、腱(けん)、靱帯(じんたい)などが痛みの発信地となります。たとえて言えば「ひざ凝り」とでもいいましょうか。ひざ関節を支える、これらの部分が「凝る」というわけです。

その他、関節粘膜が痛みの発信地となっていることもあります。この場合においては、粘膜の炎症が起きているので、炎症性の浸出液(関節の水)がたまることがあります。炎症の起きるメカニズムもよくわかっていませんが、私の臨床経験からは、そのきっかけはストレスが影響しているように思っています。

軟骨の変性と痛みの関係が明確でない一方、最近では不安や抑うつと大きな関係があるといわれるようになりました。最初に痛みの起きたきっかけも物理的なことよりも、心理・社会的なことが多いものです。ストレスが大きいと、せき髄後角(注1)にある痛みを抑制する仕組みが働かなくなり、普通では脳まで届かない程度の痛み信号でも脳に届き、痛みを感じるようになります。外出を控えるようになり、また夜間にトイレヘ行くことの不安などでますますストレスが大きくなっていきます。ひざを動かさないようにするのでひざの周囲の筋肉はこわばり、正座や伸展ができなくなってしまいます。このようにして痛みの悪循環に陥ってしまうのです。

(注1せき髄後角:せき髄の内側には神経細胞体からなる「灰白質」があるが、このうち背側にある灰白質を「後角」という。末梢からの痛覚情報は、このせき髄後角に伝えられ、ここがら脳へと送られる。)

ひざ痛のときによくみられる圧痛点と、痛みの悪循環

左図の●で示した点が、ひざが痛むときに、よくみられる圧痛点。血漿から放出された発痛物質が、痛覚神経の先端の痛覚受容器を刺激しています。つまり、ここから痛みが生じているのです。トリガーポイントブロックという療法では、この圧痛点に局所麻酔を注射します。

ストレスと、痛みの悪循環

最近の欧米の文献では、痛みとうつに関係するものが多くみられます。たどえば「ひざ痛を有する患者の大半は他の部位にも疼痛(とうつう)があること、身体機能に制限があり、うつや不安にも悩まされていることが明らかになった」「現在、高齢者の57%は人生後半のある時期で何らかの形の慢性うつ病に悩んでいると推定される」「一般家庭医に関節痛を訴えて来院した人の34%はうつと診断できる」などです。

ストレス→交感神経緊張→血管収縮→酸欠→発痛物質の産生遊離→痛覚神経を刺激というふうにして、痛み信号が発生します。また、ストレスによって痛みの閾値(最小値)が低下するため、わずかな痛み刺激も脳に届いてしまうわけです。このような状態が長く続くと、神経回路の可塑的変化が生じて慢性痛となってしまうのです。大切なことは、早く痛みを止めて、よく動かすようにすることです。それには消炎鎮痛剤(アセトアミノフェン等)や、注射、鍼などが効果的でしょう。そして、不安を解消し、ひざに自信をもち、悲観的な意見には耳を貸さないことです。慢性化してしまった場合、消炎鎮痛剤はあまり効果がなく、認知行動療法や抗うつ薬が効果があることがあります。

加茂整形外科医院