Starship Trooper
第七話 Painkiller
by しムす
初版:2005/08/20
改訂:-

Painkiller

鋼の獣にうちまたがり
その息は煙と炎をまとう
復讐の叫びとともに
蒼天高くより来れり

ルナツーの一件以来、シンジの意気は上がらなかったが、愚連隊を巡る戦闘は激しさを増していた。

「いいか、お前らの、ネコの脳味噌以下の出来の悪い頭でも理解できるように、もう一度繰り返してやる」
軍曹の罵倒が続く。
「降下したら、直ちに所定の位置につけ。2分だ。2分で配置を完了しろ。それから、掃討に移る。遅れたら置いていくからな!」
掃討されるのはどっちなんだろうか。ふとそんな考えがシンジの頭の隅をよぎる。
いや、駄目だ。駄目だ。僕はもう無敵のスーパーシンジなんだ。そんな消極的な思考は捨てるんだ。それに、今回は衛星軌道からの支援もあるらしい。テストを兼ねて、ということだから、どの程度アテにできるかは判らないけれど。

ヘルメットを被り、最後の点検を受ける。
見慣れてしまったバイザーの、点灯していない戦術画面に目が行く。塗装が剥がれてできた模様をじっと見詰める。

・・・僕にはもう失うものなんてない。
そうだ、もう僕は、今までのシンジじゃない。
僕は・・・じゃない、「俺」はアスカに振られて・・・でもない。
ええい、女のことなんか関係ない。とにかく、俺は生まれ変わったんだ!
もうひよわなシンジ君とは言わせない。
そう、俺は、銃と鋼鉄と暴力が支配する、ブレイキング・ロウな世紀末・・・じゃない、今は21世紀だったっけ。
そうそう、末世の世、末法の世に・・・って、これじゃ仏教だよな。カバラやら死海文書なんて言ってるのに、曼荼羅や大日如来なんてのも、ちょっとミスマッチだな。でも、密教の修験者なんて設定ならちょっと格好いいかも・・・ええい、違うって!
・・・どうでもいいや、とにかく、僕はこの戦いの荒野を疾駆する死神、ニヒルでちょいと陰のある、冷酷なスーパーシンジなんだ!
そうしたら、アスカだってきっと僕のことを・・・
いや、違う、違うんだ!

そんな独白を延々脳内で繰り返すうちに、軍曹の号令がかかった。
「ラスチャック愚連隊!降下用意!」

・・・ジョニーはカプセルに詰め込まれて、射出されるまでの間が一番嫌いだと言っていたが、僕にはそうでもない。完全な暗闇は、僕を安心させる。学のあるカールは、そりゃ母胎回帰願望だろう、って言っていたが、何かマザコンみたいで、スーパーシンジにはふさわしくない。暗闇ををこよなく愛する、なんて言っておいた方が格好いいんじゃないだろうか。

そんな愚にもつかないことを考えているうちに、シンジは、ごとん、とばかりに射出された。

・・・本当に怖いのはここからだ。
ふらふらとした揺れが収まると同時に、温度が上昇していくのをチリチリと皮膚で感じる。カプセルの最外殻がきしむ。そうして、突然、ガツン、というショックと共に、カプセルの殻が剥離していく。
ちゃんと順番に剥離しているのだろうか。内殻に亀裂なんて入ってないだろうな・・・心配すればきりがないのに、それを確かめる手段すらない。

最後のショックの後、例によって唐突に視界が開けた。

頭の下に広がる赤い大地。
もう冗談では済まない、本当の闘争が始まる。

・・・復讐の叫びを上げろ、不名誉に充ちたこの世界に

もう雑念も恐怖もない。

バイザーに投影されたレーダーの描く図形と目に見える景色を見比べつつ、出来る限り、地面の状況の把握に努める。降下ポイントのビーコン位置をレーダーで確認しながら、頭の中にその位置関係を刻み込む。
・・・下手に谷底なんかに下りてしまったら、集合位置まで戻るだけでも一仕事だ。

その間にも、降下プロセスは着々と進行している。
自動開傘にセットしたパラシュートのインジケーターが、黄色く点滅している。あと2秒。
ぼん、という音とともに、補助パラシュートが開き、主傘を引きずり出していく。背中をワイヤーが滑っていく感触。
そして、衝撃と共に主傘が開き、急減速する。
充分に減速したところでパラシュートを切り離し、最後のアプローチに入る。再び自由落下の体制を取り、目指す着陸ポイントの上で、補助ブースターを作動させるのだ。

蜘蛛型が迎撃に這い出してきているのを2時方向に認めた。
どうする?
蜘蛛の真っ只中に降りるのは危険すぎる。かと言って、距離を取りすぎると、どこかに潜んでいる砲台型の餌食になる。小隊の射出には時間差があるので、下手に降下中に位置を変えると、えらいことになる。多少危険でも、設定された降下ポイントへの降着が最優先だ。ならば・・・シンジの指は無意識のうちに持っている火器の安全装置の解除を確認する。

蜘蛛どもの真上で、シンジは最終アプローチに入った。腰につけた新型グレネードを蜘蛛どもの上に放り投げる。最大出力で補助ブースターに点火した。口の中で、ゆっくり、「Dirty!, Rotten!, Filthy!, Stinky!」と唱える。
どんぴしゃのタイミングで爆発。背中から炎を吹きだした蜘蛛が狂ったように跳ね回る。
シンジは、爆発のためぽっかり開いた空間に着地し、その瞬間に自動小銃をフルオートで掃射する。一瞬、混乱した蜘蛛どもが怯む。シンジは奴らが反撃に出る直前に、再びグレネードを放り投げて跳躍した。すかさず、銃の弾倉を入れ替える。

「シンジ!10時方向に離脱しろ!」
分隊長は、敵の位置をすばやく計算して、分隊を蜘蛛どもに向けて、最大の効率で展開できるように並べ替えつつあるところだった。
背後で爆発が起こる。さっきのグレネードだ。
「基準点を修正・・・シェラ6、エコー3、横隊に集合!」
その間も、シンジは忙しかった。あまり高く跳躍してはならない。砲台型が出てきた場合、いい的になってしまう。かといって、再集合すべき地点は、彼が一番遠い。ぐずぐずはしていられない。
着地するたびに、後ろに向けて発砲する。蜘蛛どもにダメージを与えるというより、今は時間を稼ぐので精一杯だ。

「よし、奇数番号、弾幕射撃!」
いつの間にか、分隊はいい位置に集合しつつあった。分隊が形成する戦線の一角に滑り込みながら、シンジは後ろを振り返る。奇数番号が、追いかけてきた蜘蛛どもの先頭に向かって、集中砲火を浴びせる。

一瞬後退が遅れたマシューが、蜘蛛の前脚に引っ掛けられて、空高く跳ね飛ばされた。次の瞬間、光が水平に走ったと思うと、もうそこにマシューの姿はなかった。

砲台型だ。
「敵から離れすぎるな、ぎりぎりまで引き付けろ!」
シンジらは、突進してくる蜘蛛どもを鼻先まで引きつけてから、さっと後退し、距離を置いてから、集中射撃を繰り返す。
こうしておけば、蜘蛛どもが邪魔になって、砲台型からは逃れられる。幾多の血と交換に得た教訓。

次第に銃身が灼熱してくるのが判る。

・・・ヴァイオレンスとフォース。暴虐と、力

アドレナリンが体中を駆け巡り、高揚感に酔う。
「さあ、来い、弾はいくらでもあるぞ!」
目の前で、蜘蛛の必殺の武器である、前脚が、横殴りに飛ぶ。
シンジはそれを、ぎりぎりのタイミングまで我慢して、彼らの眼らしい、装甲に覆われていない部分に射撃を集中する。なにか嫌らしい液体が飛び散る。
「ブレイク!ナウ!」
補助ブースターに点火。蜘蛛の前足は空を切る。
再び集中射撃。
シンジ達に巧みに鼻面を引き回されて、蜘蛛どもが一箇所に固まりつつあった。

「チョッパー、チョッパー、こちら愚連隊!」
少尉殿が聞き慣れないコールサインを連呼している。
「こちらチョッパー、捕捉した。モンキー野郎ども、下がれ!」
「よし、各分隊、離脱準備!・・・3、2、1、ブレイク!」
シンジ達は、わけも判らず、指示通り、陣形を維持したまま、ブースターを最大出力で吹かせて飛び下がった。

その刹那、天空から光の柱が降ってきて、一塊になっていた蜘蛛どもをまとめて蒸発させた。
「凄え・・・」
隣にいたエースが呟くのが聞こえた。

「愚連隊00、次は砲台型を頼む。ウィスキー・プラス23、ノベンバー・プラス14!」
落ち着いた少尉殿の声。
「チョッパー了解。効力射撃」
後は圧倒的だった。さすがの使徒もどき共も、静止軌道上からの重ポジトロン砲の砲撃の前には、為す術もないようだった。
蜘蛛どもは散開して逃れようとしている。
立場が逆転した。これならば、やれるかも知れない。
シンジは、今、機動歩兵として、そんなことを考えていた。

「テストは成功です。まだ、データ解析が完了していない部分もありますが、宇宙艦に積載した重ポジトロン砲は威力、精度ともに、充分実用レベルと判定されました」
葛城三佐が、碇総司令の前で、手元のPDAのデータを見ながら報告している。
「シナリオ通りだな。砲の配備を急がせろ。作戦計画は予定通りだ」
「しかし、その、司令」
「何だ」
「重ポジトロン砲の配備については、厳しい面もありますが、なんとか達成できるでしょう。要員の練成も、ぎりぎりとは言え、間に合いそうです。しかし、なぜですか。なぜそんなに急ぐのですか」
「時間との勝負なのだ。遅延は許されない」
「しかし作戦計画は、宇宙軍のほぼ全力をつぎ込む大規模なものです。失敗すれば後がありません。もう少し準備に時間を割いたほうがよろしいのでは」
「駄目だ。もう手の内を見せてしまった。奴に対応する時間を与えるにしても、短ければ短いほど良い」
「奴、とは? 司令は、敵をまるで・・・」
顎の下で、手袋をはめた手を組んだゲンドウがぎろりとミサトを睨んだ。

シンジ達のラスチャック愚連隊は、機動歩兵214連隊を離れて、第2師団直属の独立重装突撃大隊に組み込まれることになった。この聞き慣れない部隊は、機動歩兵2個中隊と戦闘工兵1個中隊を組み合わせた特別編成の部隊で、シンジ達一般兵士には詳しいことは教えられなかったけれど、どうやら、いよいよ火星上の使徒もどきどもの領分、地下への進攻のための部隊だろうとは見当がついた。
なにしろ、同僚となる戦闘工兵達の装備ときたら、炭鉱でも掘るのか、というくらいの勢いの重装備だったから。
そんな重装備を操りながらも、彼らは彼らの象徴である、腰に差したスコップを捨てていなかった。いざとなったら手掘りするつもりらしいが、初期に海軍がどかどか落としていたN2爆雷でも影響のないほど深く潜んだ連中を手で掘り出すには、多分20年くらいはかかるんじゃないだろうか。
ちなみに彼らの部隊章に、金のスコップと共に刻み込まれた彼らのモットーは「Watch Out、Trust No One、 Keep your hand on the return botton!」なのだそうだ。

大攻勢が準備されつつあるのだ。

愚連隊も新型装備の支給を受けた。従来の武器に比べて、格段に威力はアップしているものの、射程はむしろ短くなっている。近接戦闘を念頭に置いていることは明白だった。
「いよいよだな」
ジョニー・リコが感極まったように呟いた。

アスカがいよいよ実戦部隊のパイロットとして乗り組むことになったのは、巡洋艦ツールだった。パイロットを従来の8名から4名まで減らすことに成功した比較的新しい船ということだったけれど、配置上の問題から、そのままザンダー中尉とのペアでの転出となった。
ザンダー中尉と共にフォボスの基地で初めて乗艦と対面したアスカだったが、乗艦は改装中で、その全容を見ることはできなかった。
「新兵器だよ。重ポジトロン砲を積んでいるんだ」
ザンダーが、クレーンやアームが林立した、艦の中腹辺りを指差した。
「この間、初めて実戦配備になったらしいけど。あれで地上を直接支援するんだ」
「つまり機動歩兵の戦闘に介入できるって事?」
「ちょっと間違えると、機動歩兵のローストができちゃいそうだけどな」
「そんなへま、しないわよ!」
「いや、結構大変だぞ」
ザンダーは考え込む。
「真に安定な静止軌道ってのはないし。リアルタイムで支援するには、赤道面のかなり狭い範囲に船を並べることになるだろうから、船が密集しちゃうことになりそうだ」
「きちんと管制されていれば、問題ないんじゃないの」
「いや、間断なく支援するためには、リチャージする船を一度軌道から離脱させて交替させたり、技術的には、色々大変だろうと思うな」

ガンルームに集まった士官達の前で、葛城三佐が、ブリーフィングを行っている。
「我々は今まで、ずっと、耐え忍んで来ました。幾多の血を流し、そして、得るものはいつも少なかった」
士官たちが、控えめに頷く。
「しかし、それも今日までのこと。忍耐は報われたのです!」
背景が火星の地図に切り替わった。その表面には、3D映像で、火星表面に網の目のように張り巡らされたトンネルの表示が加わっている。
「我々は、今までの機動歩兵によるヒット・エンド・ラン攻撃による敵の応答パターンや、出現までのタイムラグを解析して来ました。その結果、敵の持つであろうトンネル網について、ほぼ確信が持てるレベルまでこれを把握することに成功しました」
おお、と出席者がどよめく。

「彼らは地中から、自由自在に出現してきます。しかし、我々は、かなり早い段階から、敵の形態から見て、彼ら自身が地中を掘り進んでいるのではなく、地下に、予め、大トンネル網を築いているのではないかという疑いを持っていました。そこで、過去のデータを解析すると同時に、データの空白を埋める形で、機動歩兵の攻撃を行い、データの蓄積、補完を行ってきました。そして、これはその成果です」

「見てお分かりいただけると思いますが、この解析の結果、敵を封じ込めるためには、1箇所に対する攻撃では効果が挙げられません。敵は、このトンネルを使って、自由自在に戦力を再配置することができるのです」
「そのために、このトンネルの主要部分に、同時攻撃をかけ、一気に粉砕するしかありません」
「ポイントは、この5箇所。主要なトンネルがクロスする、この地点です。我々は、艦隊の全力を挙げて、これを叩きます」
ここで、ミサトは一呼吸置いた。

「以後、本作戦を、オーヴァーロード作戦と呼称します」
出席者が沸き返る。ミサトは、説明を続けるために、たっぷり1分、待った。

つづく