Starship Trooper
第伍話 Don't Tell Me You Love Me
by しムす
初版:2005/05/13
改訂:-

Don't Tell Me You Love Me

これはいつものやりかたじゃない
あなたが私を扱うやりかたじゃない
・・・愛してるなんて言わないで

初陣でさんざんに痛めつけられ、ようやくの思いで、月軌道をまわる補給基地、ルナツーに戻ったシンジ達は、強襲揚陸艦、ロジャー・ヤングを母艦とする「ラスチャック愚連隊」に転属になった。

「碇シンジ二等兵、喜べ、お前たちは艦隊随一の中隊に配属されるのだ!」
ラスチャック愚連隊の先任軍曹であるジェラル軍曹は、僕たちを迎えるなりそう言ったが、それは本当だった。
昨日までおどおどした新兵に過ぎなかった僕たちは、実戦降下を経た、一人前の補充兵として迎えられたので、僕らは中隊にすぐに打ち解け、1週間後に再び作戦降下を行う頃には、お互いに冗談を言い合ったり、下らない問題について、真剣に議論することができるようになっていた。

僕らは、指揮官であるラスチャック少尉殿に従って、幾多の戦闘降下をこなした。
ラスチャック少尉殿は、僕たちファミリーを厳しく、かつ温かくまとめる、正に核心だった。
少尉殿自身が僕たちに直接怒声を浴びせることは滅多に無かった。大抵の命令は、中隊の先任軍曹であるジェラル軍曹の口を通して語られた。そして、軍曹が、自身の言葉として命令を伝える際には、まだ修正の余地があり得るという意味だったが、少尉殿の言葉として命令を伝えるときには、それは絶対に成し遂げなければならないものであり、そこに疑念の入り込む余地は無かった。このときの軍曹は正に神の言葉を伝える預言者であり、僕たちはそれに喜んで従った。

軍曹は、僕たちを甘やかすことはしなかった。それでも愚連隊での生活は、堅苦しさというものとは無縁だった。非番の時には、僕たちは階級に関係なく、ファーストネームで呼び合った。ジェラル軍曹のことを、ジェリーと呼んですら、全く問題はなかったのだ。もちろん、ラスチャック少尉殿だけは別格で、いついかなる場合であっても少尉殿であったけれど、それは僕たちと少尉殿の間に、障壁があったというわけではない。それは自然に発生する尊敬の念、というものだっただろうと思う。

戦闘降下の最中、どんな状況にあっても、少尉殿の声が聞こえれば、僕らは心の底から安堵を覚えた。
例えば、混戦中に、その班長が部下をまとめきれないうちから、既に少尉殿は状況を把握しており、指揮官用の回線から少尉殿の言葉が轟く。
「第6班、突出しすぎだ、スミティ、気をつけろ!」
どうやって6マイル四方に散らばった中隊全体を狭いレーダー画面だけで把握できるのか、僕たちには判らなかったが、少尉殿には出来るんだ!

細かい不満やアクシデントは一杯会ったけれど、こうして、愚連隊の栄誉ある、激しく、かつ平和な日常は、続いていた。

「シンジ、お前に照会があったぞ」
ルナツーに寄港したロジャー・ヤングの娯楽室でたむろしていたシンジ達のところに、ジェラル軍曹がやって来て声をかけた。

母艦の寄港中は、交替制の立哨勤務を除けば機動歩兵には、ほとんどやることがない。上陸許可をもらってルナツーの街で過ごすのが普通だったが、ラスチャック愚連隊の精鋭達は、ルナツーの誇る最新最強の殺戮兵器、カジノ・イブニングスターの前にそろいも揃って討ち死にしたため、ほとんどの隊員はこの娯楽室で雁首を並べて暇を潰していた。

「は?何でありますか?」
「なんでも、試験航海中の新造強襲揚陸艦のパイロットからだそうだ。名前は・・・ソウリュウ少尉だ」
「ア、アスカ!?」
「何だ、シンジの彼女か?」
それを横で聞いていたジョニーが先に反応した。
「ぐ、軍曹殿、それで・・・」
「丁度向こうも明日、ここに接岸するらしいが、その時に乗艦して面会したいんだと」
「はい・・・」
「お前も明日は非番だろ、別にいつでもいいと答えておいたぞ」
「あ、ありがとうございます」
シンジの慌てたような反応に不思議そうな軍曹だったが、必要なことだけを言い終えると、そのまま自分の居室に去っていった。

「なんだ、うらやましいじゃねえか!」
「明日はお前の奢りな!」
戦友どもはてんでに祝福するものの、シンジの様子がおかしい。
「どうしたんだよ、嬉しくないのか?俺ならああして、こうして・・・」
「いや、違うんだ、違うんだよ!」
「何が?」
「実は・・・彼女ってのは、嘘なんだ。つい、見栄で・・・」
「はあ?」
「じゃ、なんでその少尉殿がわざわざお前に会いに来るんだ?」
「いや、その、色々と・・・」
「その色々ってのが判らないと、困ったことになるなあ」
まごつくシンジを見て、この中で一番の年かさのエース伍長がにやにやしている。

「一緒に住んでた、ってのは本当なんだ。嘘じゃないよ。だけど、何っていうか、その」
「?」
「実は・・・まだ彼女とはまともに手を握ったこともないし、彼女の気持ちを確かめたこともないんだ!」
真っ赤になってシンジが告白する。
「ふうむ」
やはり年長の、カールがもったいぶって腕を組む。
「つまり、その、健全なお友達関係とか、そういう清い関係なわけか」
「お前、素面で言ってて恥ずかしくないか?」
「でも、いいじゃねえか、この際、その気持ちって奴を確かめたら。なあに、点呼の時はうまくごまかしてやるから、船倉でもベッドでも、どこでもシケ込んでいいぞ」
「いやいや、結構問題があるぞ」
分別臭く、エースが一人で肯く。
「何しろ、相手は少尉殿・・・将校様だ。で、こっちはしがない機動歩兵のモンキー野郎で、肩には星章もつかない消耗品扱いの二等兵、これより下はないってわけだ。現実は厳しくて、淡い恋心、なんて通じんかも知れんわな」
心配の核心を突かれて、シンジはがくんがくんと何度も肯いた。

「しかも、シンジ二等兵ときたら、極めつけのオクテと来てる」
「ふんふん」
もはやエースの一人舞台になった。こういう時には、やはり経験がモノを言う。シンジはじっとエースを見詰め、次の言葉を待っている。

「つまりだな、ここで、シンジが、一挙に失点を挽回しなきゃ、それまで、ってことだ」
ごくんとシンジがつばを飲み込む。
「じゃ、僕はどうすれば・・・」
「そうだなあ」
エースはシンジの頭の先から爪先までをじっくり眺める。
「まず、女心ってもんを理解しないとなあ」
「はあ?」
シンジは、今までの過酷な訓練で、それなりに鍛え上げられた肉体になってはいるのだが、筋肉の付きにくい体質なのか、むしろ細く締まってしまい、服の上からだと、華奢に見えるくらいだ。

「モンキーである俺たちには、地位も金も、知性もない。そんな状態で将校様に太刀打ちできるわけ、ないよな」
年若いシンジの同期生達は、何故だか、全員一斉に肯いた。
「・・・そこでだ、機動歩兵としての唯一の強みを生かすってわけだ」
「そんなものがあるのかなあ」
エースの話を聞いていて、何かを思いついたらしいカールが手を打った。
「お前は何も心配しなくてもいい。俺に任せておきな」
彼は武器担当で、強化服整備の1種免許を持っている。機動歩兵には色々な経歴の持ち主が居るが、彼は娑婆では、映画なんかに使う特殊効果の技師だったらしく、極めて手先が器用だった。
「何だか、嫌な予感がするんだけど・・・」

「で、これなのか?」
エースもジョニーも、腹を抱えて笑い転げている。
徹夜でカールが作ったものは、強化服の人工筋肉を利用して作ったらしい、シンジにすっぽり被せた、丸々とした筋肉の着ぐるみだった。
「・・・揉まれて鍛え上げた肉体美、これこそが、俺たちにしかないものだよな。これをアピールしてだな、こってり脂っこく男らしさを見せ付ければ、将校様だろうが将軍様だろうが関係ない。女なんざ、イチコロ、ってなもんよ」
「いいねえ、これ、絶対イケてるよ」
目の端に涙を滲ませながら、エースが手を打った。
「凄いな、これ、本物と見分けがつかないよ」
「当たり前じゃないか、これでも特殊効果は本職なんだ」
カールが胸を張る。
「でも、これじゃ動きが取れないんだけど」
上半身が倍くらいに膨れ上がり、極端な逆三角形のシルエットになったシンジが心細げに呟く。
「・・・ああ、本物の人工筋肉を使ってるからな。人間のパワーじゃ、太刀打ちできないよ。このコントローラーで動かすんだ」
カールが小さなコントローラーを取り出した。
「時間があれば、強化服と同じように神経電位を取り出して、随意運動できるようにすりゃ良かったんだけど、そこまでは無理だったよ」
強化服のパワーの源は、エヴァの副産物と言える人工筋肉で、そのスペアパーツは大量に在庫していた。カールはそれを使ったのだ。
「いくつか、基本的な動きはプリセットしておいたから、それをボタン一つで呼び出せるようになってる」
「・・・基本的な動き?」
「そうさな、やってみるかい?」

ぽちっとな、と、カールがコントローラーのボタンを押した。

シンジの意志とはまるっきり関わりなく、もこもこと筋肉の山が動き出して、シンジはボディビルダーがやるような、胸の筋肉を強調するポーズを取った。ひくひくと人工筋肉が律動する。
「・・・まずはサイドチェストってポーズだ」

エースは笑いすぎて、椅子から落ちたが、それでも笑いが止まらず、床をひたすら殴っている。
ジョニーは文字通り腹を抱えて転げまわった。
「最高!最高!最高!」

惣流・アスカ・ラングレー少尉は、副操縦士として新造の強襲揚陸艦タケジ・エノシタを操艦して、ルナツーに着岸した。指導教官を兼ねる正操縦士、ザンダー中尉の監視をうけつつも、アスカは文句のつけようの無い着岸をやってみせたところだった。
「凄いな、アスカ、ここまでできれば大したもんだ」
ザンダー中尉が、隣の席で口笛を吹いた。
彼は、宇宙軍海軍のパイロットとしては、やや異色の経歴の持ち主と言えるだろう。元はNASAのテストパイロットで、宇宙艦に転じた今も、艦隊で1、2を争う操艦技術の持ち主として知られていた。そして、その華麗な経歴から想像できるように、プレイボーイとしての腕の方も、やはり相当なものと自他共に認める人物だった。

アスカは、艦を停泊させるための細々とした手続きをてきぱきとこなしながら、心が浮き立つのが抑えきれない。

パイロット候補生の訓練は厳しかった。しかも、アスカには意地があったから、全てに1番を目指した。文字通り、寝食を忘れて訓練に打ち込んだ。
シンジとの手紙のやりとりは、やろうと思えばできたのだろうが、アスカの側から書くには抵抗があった。
それでも、何度か、どうしても手紙を書きたくなったこともあった。しかし、書いては破り捨て、書いては破り捨て、丸々一晩、悩みぬいて、結局書き上げることはできなかった。睡眠不足で望んだ翌日の訓練の出来は散々なもので、それ以降、シンジに対する思いは封印することにした。
血の滲むような苦労の甲斐あって、アスカは候補生過程を主席で卒業し、宇宙軍海軍士官として、副操縦士とは言え、艦を任される身となった。

アスカは、暇さえあれば、いつも宇宙軍機動歩兵部隊の異動通知に、隅から隅まで目を通している。
シンジが実戦部隊に配属になっていることも知っていた。そして、それを知って以降、戦死通知を、恐々と覗く事が日課になった。通知はデータベースになっているので、検索をかければ望む結果は瞬時に得られるのだが、隅から隅まで目を通して、それらしい名前が無いことに安心してから検索をかけるという、理屈に合わない行動が癖になっていた。
最近ではパイロットの戦死も増えているとは言え、機動歩兵の損耗率はどの兵科より抜きん出て高い数字だった。シンジの最初の出撃の時には、あまりにも損害が多かったので、画面をスクロールする指が震え、眩暈がした。結果として、自分がシンジをこんな地獄に巻き込んだことが、更にアスカの胸を締め付ける。
「大丈夫かしら・・・」
一般的な意味での神を信じないアスカではあったけれど、祈りの気分というものが、ようやく実感として判った。

だが、今回、シンジの部隊、ラスチャック愚連隊が、休暇でルナツーに寄港にしていることを、正にルナツーに向かう艦上で知り、この偶然に狂喜した。

シンジに会える!

ザンダー中尉は、自分の教え子となった、この若くて美しいパイロットをモノにする機会をうかがっていた。さすがに彼も軍人だったから、公私の別は弁えてはいたが、幸い今回の航海ではルナツーで休暇が取れる。
そして、彼は、アスカの様子がおかしいことを完全に誤解していた。初めての操縦で、ハイになっているんだろう。チャンスだ。ここで連れ出して、優しい言葉の一つもかけてやれば、落ちる!
一通り作業が完了したところで、すっかり寛いだ状況を演出しながら、彼は、努めてさりげなく切り出した。
「どうだ、ルナツーは初めてだろう、飯を食いに行こう。いい店を知ってるんだ、教えてやるよ」

だが、アスカの返事は彼のプライドを傷つける、意外なものだった。
「すいません、中尉。先約があるんです」

爆笑の渦中にあった強襲揚陸艦、ロジャー・ヤングの娯楽室のドアが突然、開いた。

娯楽室の機動歩兵の面々はピタリと、凍りついたように固まった。
そこに立っていたのは、金モールのついた宇宙軍士官の正装に身を固めた、美しい金髪の女性だった。
「敬礼は?」
本来、娯楽室は兵士の聖域であり、ここでは階級は関係がないことになっていたのだが、皆はその凛とした声に気圧され、一斉に椅子を蹴飛ばして立ち上がった。
「申し訳ありません!少尉殿!」
最敬礼を送った。

しかし・・・ただ一人、シンジだけは、みーん、という人工筋肉の低い動作音を響かせながら、拳を腹筋に添えるラットスプレッド・フロントのポーズから、両腕の上腕二頭筋をもりもり震わせ、ダブルバイセップスのポーズに移行中だった。

「あ、アスカ!・・・」
首だけで、その士官を見たシンジが、なんとも情けない声を吐いた。

「し、シンジ?」

やっとシンジに気付いたアスカだったが、その青い目は、限界近くまで見開かれていた。
見詰め合う目と目。
しかし、ああ、しかし。
シンジの肉体は、意志とは関係なく、今度は腹筋を強調すべく、腕を後ろに折りたたみ、悩ましげに上体を反らす、アドミナブル・アンド・サイのポーズをとっていた。
ぐりん、ぐりん、と束になった腹筋が、生物のように蠢いた。

「ひっ、ひい・・い、いやあああああああああああああああああ!」

金切り声、というに相応しい、アスカの悲鳴がサイレンのように響き渡る。
ああ、しかし、シンジの動きは止まらない。今度はくるりと背を向けて、背筋をぴくぴく動かして見せた。

再び、娯楽室は爆笑の渦に叩き込まれた。
「カ、カール、なんとかしてよ!」
「すまん、シンジ。一通り終わるまでは止まらないんだ」
「そ、そんな!」

再び、ドアが開いた。
飛び込んできたのは、正パイロット徽章と中尉の階級章をつけた略服に身を包んだ、スマートな海軍士官だった。彼はこの状況を目の当たりにして、面食らったようだったが、すぐに立ち直り、血相を変えて怒鳴った。
「何をしとるか!豚ども!」
「・・・・」
何と答えてよいのか、さっぱりわからず、再び直立不動の姿勢を取る機動歩兵たち。

その士官は硬直しているアスカに駆け寄った。
「アスカ、大丈夫か、何か変なことされなかったか!」
「ザンダー中尉・・・」
アスカが上の空で呟く。
シンジは相変わらず、状況から一人取り残されたまま、アスカの目の前でひざまづき、ポージングを続けていた。ぐりん、と、肩の筋肉が動く。

アスカの悲鳴の原因がこれと気付き、ザンダーは、シンジにつかつかと近寄ると、無防備に晒された顔面を思い切り殴りつけた。
「アスカに何をする!貴様ぁあ!」
がらがらがしゃん!
人工筋肉の重みがプラスされている上に、動きの取れないシンジは、盛大に倒れた。起き上がることもままならない。それでも、寝そべった状態のまま、ギギギ・・・とばかり、壊れたおもちゃのようにポージングを続ける。
頭に血が上ったザンダーは、今度は顔面に蹴りを入れようと、一歩踏み込んだ。
「このエテ公があ!士官を愚弄するかあ!兵隊のくせに!」

あわてて、ジョニーとカールがザンダーを制止しようとした。

ザンダーはジョニー達に向き直った。彼らを止められないと判断した彼は、素早く拳銃を抜いた。流れるような動作で、天井に向けて、一発、威嚇射撃をした。自分でも惚れ惚れとするくらいの、申し分のないアクション。彼は、アスカを振り返って、彼女がこれを見ていたかどうかを確かめようとしたが・・・

そのアクションは最悪の結果をもたらしていた。

鍛え上げられた兵士たちは、銃声に反応して、瞬時にマッチョな殺人マシーンに戻った。パブロフの犬のごとく躾られた条件反射。ザンダーにとっての不幸は、彼らは犬ころではなく、凶悪なモンキー野郎達だったということだ。使途もどきの相手すら生身で引き受ける彼らにとって、拳銃など、怖れるには足りない。
左右に居た兵士は、姿勢を低くしながらすばやく位置を横にずらし、ぎりぎりの間合いを保ちつつ、ザンダーを包み込むように動いた。ジョニーは正面で停止しているが、彼がちょっとでも目をそらせば、飛び込める距離を保っている。カールはじりじりとザンダーの右手に移動をはじめていた。
緊張と殺気に包まれる娯楽室。
ザンダーは、正面のジョニーにぴたりと狙いを定めたまま、微動だにしない。
動けない。
先に動いたほうが、負ける。サンダーの額に、じっとりと汗が滲む。

そんな緊迫した状況の中、シンジは一人、壁際で、ういんういんと怪しい動きを繰り返していた。びくんびくんと上腕二頭筋が無駄に躍動するが、もう誰も一顧だにしない。彼は異様に人口密度の高いこの部屋に居ながらにして、マリアナ海溝よりも深い孤独と絶望を感じていた。

「何をしとるか!」
緊張は、ジェラル軍曹の一喝で破られた。
「機動歩兵!整列!」
まるで魔法が解けたように、シンジ以外の兵士たちは爆発寸前だった殺意を霧散させ、がたがたと椅子を動かしながら、整列した。
軍曹は、それでも拳銃を構え続けているザンダーの、その銃口の前につかつかと進み出た。
「お遊びが過ぎるようですが。中尉殿」
ようやく我に返ったザンダーは、気まずそうに、拳銃を仕舞う。
「ああ、すまん、軍曹」

そして、照れ隠しのように、相変わらず目を見開いたままのアスカを振り返った。
「さあ、行こう。こんなところは、君の来るべき場所じゃない」
彼女の肩を親しげに抱いて、憎々しげに付け加えた。
「こんな、狂った兵隊どもの、掃き溜めみたいな所にな!」

「・・・確かにそうですな、中尉殿」
軍曹は表情を変えずに言った。
「ここは、我々、頭の足りない、死すべき運命の、下種なモンキー野郎どものささやかな憩いの場です。どうか速やかにお引取り願いたい。これは当艦の衛兵副司令としての助言でもあります」
機動歩兵は、平時には艦の治安維持に当たることになっている。衛兵司令は当然、攻撃部隊の指揮官であるラスチャック少尉殿で、ジェラル軍曹はその副官ということになるのだ。
「わかったよ、軍曹」
アスカを連れて出て行くその後ろ姿を、機動歩兵たちは敬礼で見送った。

だが、一人、シンジだけは、大泣きに泣き濡れながらも相変わらず、異様な運動を繰り返していた。
「なんでこうなっちゃうんだよ!」

「なあ、シンジ、機嫌直せよ」
「今度、俺の奢りでいいところに連れて行ってやるからさ」
「あれもいい女だったけどな、知ってるか?人類の半分は女なんだぞ」
「女だけが人生じゃないって」
殴られた跡だけに留まらず、人工筋肉の運動に逆らったおかげで体中を痣だらけにしたシンジに湿布しながら、戦友たちは口々に慰めのつもりらしい言葉をかけるが、シンジの怒りは収まらない。
「なんでそうなるんだよ!もう駄目だっていうのか!」
「そりゃあ、なあ・・・」
口篭もりながらも、ジョニーは肯定する。
「・・・うん、まあ、な」

側でそのやりとりを聞いていたジェラル軍曹がずけずけと言い放つ。制服のネクタイは緩め、娯楽室の作法に従って寛いでいる。
「見たろ、彼女をエスコートして行った士官。向こうはハンサムなエリートパイロット、こっちは、しがない機動歩兵。判ってるのか?ラスチャック少尉殿ですら、敬語を使わなきゃならん相手だからな。どう見たって結果は明らかだわな」
シンジは、救いを求めるかのように傍らの戦友たちをかわるがわる見る。
「・・・やっぱりそう思う?」
その場に居た兵士たちは、見事にシンクロして、力強く肯いた。
「あきらめろ、な」
エースの駄目押しに、シンジは力なくうなだれるしかなかった。

ああ、僕はアスカにふさわしい男にはなれなかったみたいだ・・・

つづく・・・かな?