Semi-Charmed Life
by しムす
初版:2004/10/26
改訂:2004/10/30

Semi-Charmed Life

何かが欲しかったんだ
この、半分魅入られた生活から
僕を連れ出してくれる何かが

休日の朝。

朝食を作らなきゃ、と台所に立って、気が付いた。

そうだ、アスカもミサトさんもいないんだった。

アスカとミサトさんは、ペンペンを預けていた洞木さんの実家に、お礼を兼ねて遊びに行っていた。

なんだか、肩の力が抜けた。

今日は一日、僕は自由なんだ。

やりたいように、やっていいんだ。

とりあえず朝食を済ませよう。

凝ったことをする必要はないから、簡単に、ハムエッグとトーストだけ。

スライスハムをフライパンに置いて、卵を割る。

火の加減に注意して、水をちょいと注いで蓋をする。

フライパンがクツクツ言うのを聞く。

5分経ったところでパンをトースターに入れたら、もう準備は完了してしまった。

何枚も洗うのは面倒なので、皿は1枚。

トーストの上にハムエッグを載せた。

行儀は悪いけれど、新鮮な気分だ。

1人で食べる朝食は久しぶりだ。

TVを見ながら、今日一日、どう過ごそうか考える。

外は生憎雨模様なので、洗濯は明日にしよう。

久しぶりの休日なんだから。

何から手をつけよう。

やりたいことは一杯あった気がする。

ちょっとうきうきした気分だ。

歯を磨く。

アスカの歯ブラシが置いてある。

いつも見ているはずなのに、今気付いた。

赤い歯ブラシ。

こんなものまで、イメージカラーのままなんだな。

窓際にテーブルを持っていった。

大粒の雨が街を覆っている。

チャイコフスキーをBGMに、紅茶を飲む。

ヘッドフォンなしに聞くのは久しぶりな気がする。

紅茶にミサトさんのところから拝借したブランデーをちょびっと加える。

うん、えらく贅沢な気分だな。

僕だけ雨に濡れない場所で、雨に閉ざされた世界を見ている。

随分前に買った本を読み始めた。

アスカがいると、いつも邪魔をされて、内容が頭に入らないけれど、

今日は思う存分のめり込める。

20ページも読んだだろうか。

こんなに詰まらない本だったっけ。

貴重な時間なんだ。こんな本で潰すのは勿体無い。

時計が進むのが妙に遅い。

TVもつまらないし、なんだか退屈だ。

午前中って、こんなに長かったっけ。

音楽を切ると、雨の音が僕の周りを充たす。

雨が地面を叩く音。どこかからか滴る音。配管を流れていく音。

それでもどうやらお昼を食べてもおかしくない時間になり。

やることが出来た僕は、なんとなくほっとする。

1人分の料理は、あっという間に完成した。

食べるとなると更にあっという間だった。

食器を片付けたら、もうやることがなくなってしまった。

朝読んだ新聞をもう一度読んだ。

新しい発見は何もない。

ポップスを聞く。

どうということはない。

何か、やらなきゃ。

晩御飯の用意をしておこうか。

いや。それじゃあ、いつもと変わらない。

こんな時じゃなきゃ出来ない、やりたいことは一杯あった気がするのに。

雨は静かに降り続いている。

わけもなく、いらいらする。

なぜだろう。僕はこんなにも自由なのに。

なんとなく、掃除を始めた。

アスカの雑誌だ。

また、こんなところに置きっぱなしにして。

頬が緩むのが判る。

部屋のいたるところに散らばった、アスカの痕跡。

ピンで留めた走り書きのメモ。

アスカが飾ったきれいなガラスの瓶。

アスカが怒って叩いた壁の跡。

アスカが選んだマグカップ。

目が、それらに吸い寄せられて、なかなか離れない。

3時だ。

こんなにも自由なのに、僕ときたら、結局家事だけで一日が終わってしまいそうだ。

アスカ達は明日帰ってくる。

僕のささやかな休暇はもうすぐ終わる。

そうだな。明日は手の込んだ煮込み料理を出してやろう。

色々注文をつけながら、それでも僕の作った料理を平らげるアスカを想像した。

雨が上がったら、買い物に行こう。

なぜか、わくわくしている自分に気付く。

よし。

また忙しくなりそうだ。

おしまい