IronMaiden 1st.Stage
Remember Tomorrow
AzusaYumi
初版:2005/07/07

IronMaiden 1st.Stage
Remember Tomorrow

Author: AzusaYumi

病室は閑散としていた。
心拍数の音を示す機械の音がただひたすら病室内に響いている。袋に入った薬液が、少女の体に一滴、一滴、入っていく。
諸々の計測器の配線に繋がれた少女は丸くなってひたすら眠り続けている。
その様子を立ったまま見守る少年…。
「アスカ…。」
彼は、横になってひたすら眠る少女の方を掴む。
「アスカ…。」
揺さぶる。
「ねぇ…起きてよ…。」
さらに揺さぶる。
「ねぇ、お願いだから目を覚ましてよ…。」
しかし、彼女は目を覚まさない。
「アスカ…。」
彼はそれ以上彼女を揺さぶるのを止めた。

使徒戦役は、多大なる犠牲と被害をもってして幕を閉じた。
使徒は、人類を滅ぼす敵であった。目的はネルフの地下にあるとされる第一使徒の"アダム"という説や、もう第二使徒と噂される"リリス"という説があったが、いずれにせよ、使徒は第3新東京市のみを目指して侵攻してきた。
巨大であったり、微生物のようであったり、また、ヒトの形をもしていた未知の物体、というよりも、"生物"だった使徒は全部で十七体。その全てを国連直下の組織、第3新東京市そのものを使徒迎撃要塞都市とし、その殲滅を目的としたネルフとその保有兵器であるエヴァによって殲滅された。
何故このような組織とヒト型の兵器を必要としたのか?使徒は人類の保有するいかなる兵器をもってしても傷つけることすら出来なかった。
その力は、絶対領域であり、心の光であり、そして人類…使徒からは"リリン"と称されたものたちも本来持っているものであるA.T.フィールドを打ち破ることが出来たのはネルフの保有する、使徒と同じくA.T.フィールドを発生させる事の出来るヒト型決戦兵器であるエヴァンゲリオンのみだった。
そして、表向きは"決戦兵器"と呼ばれたそのヒト型のモノは、全ての使徒の殲滅後、その利用目的を失ったはずだった。
しかし、このヒト型のモノは実際には別の目的の為に作られたものであり、ごく一部の限られた人間…ネルフの一部の関係者と最高幹部、及び、そのネルフの創設と運用資金の調達や国連そのものを裏から牛耳っていたゼーレのみが知っていた。

そのヒト型のもの…エヴァの中に搭乗して操縦していたのが14歳の少年少女たちだった。

一人は経歴抹消のアルビノのような容姿の少女、綾波レイ。
一人はネルフドイツ支部所属だった日本とドイツのクォーターである少女、惣流・アスカ・ラングレー。
そして、ネルフ総司令の実子である少年、碇シンジだった。
何故、彼らのような年端もいかない子供達があのような兵器に乗って戦っていたのか?正確な理由は極秘事項とされ、結局分からないままだった。
ただ、パイロットの一人であるシンジには、なんとなく分かっていた。あのエヴァの中には死んだ…いや、"消えた"と思っていた母がいる。彼が危機に直面した時はかならず、エントリープラグの中で母の気配や匂いを感じた。シンジは思った。母を通じてエヴァと繋がっていると。

そして、戦いの最中、エヴァに搭乗して実際に戦っていた子供達…"チルドレン"と呼ばれたものたちは大人たちに使役され、戦いの中で傷つき、倒れていった。

レイは零号機で使徒の侵食に遭い、同じく出撃していたシンジを護る為に零号機ごと自爆した。後に彼女は生きていたという知らせをシンジが聞いたときに、一目散にレイの元に駆けつけたが、彼女は以前よりも無表情な顔をして「多分、三人目だと思うから。」と、言った。彼女にはクローン体がいくつもある。そして、それの元となったのは、エヴァであり、シンジの母だった。
この事実をシンジが知ったのは、レイが死んでクローンと入れ替わってから、リツコに案内されて行った先の、セントラルドグマ内のレイのクローン体が製造されている工場の中の水槽を見てからだった。リツコはそれがなんなのか、遠まわしだが、淡々と答えた。
その時の、リツコの顔と含みのある物言いがシンジにとって忘れられない。何かレイに対して、いや、自分の父に対して彼には分からない感情が渦巻いていたからだ。シンジは直感的にリツコがその場で何か恐ろしい事をするのかと思ったが、リツコは結局何もせずに、シンジに言った。
「私はあなたが知るべきことを教えたまでよ。後は自分で考えなさい。」
そしてリツコはシンジをセントラルドグマから家まで送り届けた。

アスカは衛星軌道上に現れた使徒からの精神汚染によって心を壊した。
正確には彼女はその使徒戦の少し前より心理的に不安定な傾向が出てきており、それがエヴァとのシンクロ率低下という形で現れていた。元々自尊心の高いきらいのある彼女であったが、低下したシンクロ率はますます彼女の自尊心を傷つけ、元々あった彼女の中のトラウマを刺激し、結果的に使徒の精神汚染によってそれがあからさまに露顕した形となり、彼女は心を閉ざすこととなった。
他にも原因があったかもしれないが、ネルフや周りの人間はそのことについてはよく分からずにいた。何よりも彼女自身は強い個性があったが本当の意味で彼女に興味を沸かせる者は居らず、単純な思春期の情緒不安定の一つというふうに片付けられた。それに、誰もが彼女の不調を知ってはいても、エヴァに搭乗しても動かすことも困難なほどシンクロ率の低下した彼女は、ネルフという組織にとっては不要以外の何物でもなかった。
結局、彼女は病院の病棟に押し込まれ、特に何の処置もなくそのままにされていた。

そしてシンジは、アスカの精神に決定的な打撃を与えたアラエル、そしてレイの自爆という形で殲滅したアルミサエル、人の形をしたシンジが親友になれると信じていた使徒、タブリスとの戦い、そして無数の綾波レイのクローン。そられのものでかなりギリギリの精神状態であり、アスカと同じく何時他者と自分との関わりを絶つか分からない状態だった。
特にレイの正体が分かってから彼女とは口を利く勇気が持てず、そして最近不穏な動きを頻繁に見せながらシンジに対する会話や態度、行動がおざなりになり勝ちになり、時々きつい表情を見せて何気なく話せるような雰囲気ではなくなった保護者であるはずのミサトとの関係が上手くいかず、結局、不調で入院するまで共に戦っていたアスカの元に頻繁に来るようになった。
しかし、彼女はシンジが病室に来ている時は常に眠り続けており、彼にとって彼女は意思があるのか、生きているのかも、分からなかった。

「…アスカ。みんな、みんな、狂ってるんだ。
僕も、アスカも、綾波も、あれだけがんばったのに。使徒はもう現れないって、言ってたクセに。
なのに、みんな、僕らのことなんかこれっぽっちも気にしない。
分からない事を言って、分からない事をして、今だに僕らをエヴァに縛り付けてるんだ。」
シンジはアスカをじっと見つめる。
「アスカは…まだ、エヴァに乗りたいって思ってる?」
この質問に眠っているアスカは答えない。
「僕は…もう乗りたくない。」
シンジは答えないアスカに言った。
「あれだけ、苦しい思いをしたのに。アスカは才能を見せ付けるためって言ってたけど…。」
シンジはアスカのベッドのシーツを握り締めた。
「…みんな、アスカのことも、僕のことも、見てなんかないんだよ…。」
独白するシンジを前に、アスカは肩で息をしながら、ひたすら眠っている。
「アスカ…。僕は、こんな所、早く抜け出したい…。」
シンジはベッドのシーツを握り締めたまま俯いた。
「ねぇ、アスカ。まだ僕のこと、許せない?嫌い?」

シンジはアスカがじょじょに壊れていく時に、自分に対して叫んだ言葉を思い出した。
『みんなアンタが悪いのよ!!』
何が悪かったのか分からない。彼女と出会って最初の頃は冷たくあしらわれていた。
しかし、次第に打ち解けて、よく話をするようになった。遊び半分、勢い半分でキスもしたことがある。まるで付き合っているかのようにじゃれあったりもした。
しかし、いつの頃からか、彼女はシンジを避けるようになり、そして度々シンジを捲くし立てては、罵倒するようになった。
シンジにはそうなった理由が分からなかった。
もしかしたらシンクロ率で彼女を抜いたのが彼女のプライドを傷つけたのかもしれない。それとも、何か気の利かない言葉を言って傷つけたのかもしれない。
でも、どう考えもやはり、本当の理由はシンジには判らなかった。
ただなんとなく判るのは、壊れる寸前まで彼女はシンジに対して嫌悪をあらわにしていた事と、ほとんど自分が原因で彼女が壊れたたんではないか?ということだけだった。

シンジの言葉は続く。
「…もしも許してくれるなら、僕と一緒に何処かに行こうよ…。
 こんな場所じゃない、何処か別の所に…。」
そう言うシンジの言葉に、アスカは答えずただひたすら眠り続けていた。

アスカが入院している303号病室のドアが静かに開く。
アスカの病室でうつむいたまま、呆然と立ち尽くしているシンジがピクリとした。
「…シンジ君。ここにいたのね。」
女の人の声が聞こえる。シンジは振り向いた。そこにはよく知っている顔の女性、赤木リツコがいつも通りの白衣のままで立っていた。
「…リツコさん…。」
「ここの病棟はもうすぐ閉鎖なの。悪いけどシンジ君、移動の前にアスカの診察をしたいから今日のところは帰ってくれないかしら?」
「…はい…。」
シンジはリツコの顔を見ないように立ち去ろうと、ドアに手をかけた。その時、シンジの後からリツコが一言、声をかけた。
「あなた、まだ逃げてるのね。」
シンジはそんなリツコに振り向きもしないで黙ってドアを開けて、アスカの病室を出て行った。

リツコはシンジが去ってから病室の中のベッドの上で眠っているアスカをじっと見ていた。
彼女は天井に設置されている監視カメラの方を一瞥してから、ベッドの側まで行き、彼女に投薬され続けている薬液の袋から伸びている管の中間部分、管と管とのつなぎ目…ちょうど薬液の投薬速度を調整する部分のつまみを完全に絞った。
アスカにずっと注入され続けていた薬液の流れが止まる。
「…私のすべきことはしたわ。」
リツコはそう言い放つと、白衣のポケットに手を入れて303号病室を後にした。

シンジは漠然とした様子でいつも通りの家路についていた。
今、シンジが住んでいるマンション、ミサトと共に暮らしているところだが、シンジはその前まで来てふと立ち止まった。
爆音が遠くから鳴り響く。
そちらの方角にシンジが顔を向けると、ルノーが高速でこちらに向かってきていた。そしてマンションの前のシンジの側まで来て急ブレーキで突然立ち止まる。
中からサングラスをかけたミサトがウィンドウを開けた。
「…シンジ君、何処行ってたの?」
ウィンドウから顔を出したミサトがシンジに尋ねた。
「…アスカのお見舞いです。」
シンジは抑揚も無く、彼女に答えた。
「携帯にかけても繋がらなかったから、何処に居るのかわからなかったわ。」
「でも、病院だから、携帯、電源切ってたんです…。」
「そう。でも、悪いけど、非常時もあるから携帯には電源を入れておいて。」
ミサトはシンジの"お見舞い"という言葉は特に気にもかけないでそう言った。
と、そこに、ミサトの携帯電話が鳴る。ミサトは携帯電話を手にとってキーを押す。
「はい、私よ。…ええ。…そう。わかったわ。」
ミサトが携帯の"切り"ボタンを押す。
「悪いわね、シンジ君。今、呼び出しがあったからネルフに行くわ。
食事は私の分は要らないから、いつもの通り何か作るか、出張って。じゃあ。」
ミサトはルノーのギアを切り替え、急発進をしてそのまま走り去って行った。
シンジは走り去っていくルノーをしばらく呆然と眺めていたが、自分の事で手一杯になってあからさまに気を使わなくなったミサトに対し、眉をひそめた。

結局シンジはマンションに戻らずに、既に充電池が切れて止まって音が出てないSDATのインナーイヤーのヘッドホンを耳につけたまま、ふらふらと町の中を歩き回っていた。 特にすることはない。ただ、今は家に居たくないという気分というだけだった。もちろん、逃げ出せたら逃げ出していたかもしれないが、多分、こうやって彷徨っていても、諜報部の人はシンジのうかがい知らないうちに彼の後をついて回っているに違いない。
シンジは歩きながら色々な出来事を思い出したり、考えたりした。
自分の母のクローンであるレイ、その事実を教えてくれたリツコ、何かをするのに手一杯でシンジの事を気にも留めなくなったミサト、そして何も答えずただひたすら眠り続けているアスカ…。
シンジはすっかり暗くなった町の、その中心まで来て空を見上げた。
「どうすればいいのかわからないよ…。僕は…また、逃げてるのかな…?」
その問いに答えるものは誰もいなかった。

その夜。
アスカの入院している病棟でずっと眠っていた少女が目を覚ます。
彼女は半身を起き上がらせた。
長期入院と投薬で、だるかったはずのなに彼女の体は何故だか今日は軽い。
彼女は窓辺の方を見た。病室の窓のレールにかかったレースカーテンから月明かりが差し込んでいた。そして、自分の傍らに吊るしてある点滴の薬液の袋を見た。ほとんど減っていない。
彼女は自分の腕に巻いてあるサージカルテープを引き剥がした。腕には薬液を注入するのを止めた点滴の針が刺さっている。彼女はそれを抜いた。抜く際に、若干の痛みが走って彼女は少し呻いた。
そして彼女は病衣のまま、病室を後にした。

発令所のMAGIの管理モニターに警告文が表示され、発令所内に警報が鳴り響く。
「全ての外部端末よりMAGIへデータが侵入!」
「MAGIへのハッキングを目指してます!!」
オペレーターの日向と青葉の声が響く。
「侵入は松代のMAGI2号か?」
冬月が青葉に報告を促す。
「いえ、MAGIタイプ、5。ドイツと中国、アメリカからの侵入を確認してます。」
「ゼーレは総力を上げているな…。」
冬月が司令の席をちらりと見る。ゲンドウは相変わらず動じずにいつも通り、そこに座っていた。
そこに少し出遅れてミサトが発令所にやってくる。
「葛城三佐!!」
日向が叫ぶ。
「現在の状況は?」
ミサトは日向の呼び声に気にかける様子もなく、そう尋ねる。
「現在、ドイツより二機、松代、中国、アメリカの合計五機のMAGIタイプより本部のデータベース、及びMAGIシステムへのハッキングを受けてます。」
「分が悪いわね…。」
ミサトが眉間を寄せながら言った。

ネルフ施設内に響く警報や放送の中、アスカはケージ内の弐号機の前にある幅の広い梁の上に、病衣のままで無表情なまま立っていた。
「やっぱりここに居たのね。」
梁の端にある出入り口から女の声が響く。アスカが声のする方へとゆっくり振り向いた。そこには白衣の姿のリツコが立っていた。
「…MAGIがハッキング仕掛けられてるんだって。行かなくていいの?」
アスカが先ほどよりネルフ施設内の放送で延々流れていた事を口にした。
「いいわ。すでにプロテクト作業は終っているから。一定以上の侵入があれば、外部からの侵入の一切をカットするわ。」
リツコは淡々と答えた。
アスカは何の興味もないような顔つきをして視線をリツコから弐号機へ移した。
「…それで、あなたはどうするつもりなの?」
リツコが白衣のポケットに手を入れて尋ねる。
「別に…。どうもしない。」
「じゃあ、シンジ君を殺すのを止めたの?」
アスカが目を見開いてリツコの方を向いた。
「ドイツ支部所属、弐号機専属パイロット、セカンド・チルドレン。
 もしくは、委員会からのネルフ離反の際、弐号機でのネルフ本部鎮圧の執行人…。」
「加持一尉から聞いたの?」
加持に付きまとうようにしていた時に言っていた"加持さん"という呼び方とは打って変わった役職付きの冷淡な呼び方でアスカは言った。
「ある程度はね。」
「やっぱり。あの人、私の監視してたのね…。」
「そうね。あなたは委員会のもっとも息のかかったドイツ支部所属だったから。マークはされていたわね。」
アスカとリツコが互いの目を逸らさずに見つめあう。
ケージの中は館内放送が鳴り響き、切迫した状況を伝え続けている。
「零号機、初号機と違って弐号機以降のエヴァシリーズは補完計画を執り行って、その障害となるモノを排除する為に作られたわ。
 使徒はもちろん、委員会にとって、独自の補完計画を進めていたネルフ本部もその障害の一つと考えられていたわね、間違いなく。
あなたがドイツ支部の指導の下で受けた英才教育やエヴァを操縦する訓練も、戦闘技術の向上も、表向きの対使徒というよりも本部鎮圧が目的ね。」
「…別にそこまでってわけじゃなかったわよ。基本的に使徒殲滅の為よ。
それに、サードを殺す話は出てなかったわ。」
アスカが淡々と答えた。
「でしょうね。パイロットは何人も出来るわけじゃない。ましてやエヴァを作ってその魂を初号機に宿している碇博士の実子であるシンジ君は、委員会にとっても、簡単に消すわけにもいかなかったでしょう。でも、いざとなったら殺すつもりではいたわね。あなたも、そう言われていたんでしょう?
でも、あなた。ネルフが不穏な動きを見せ始めても、安易な行動を起こせないでいた。そうじゃないの?」
リツコを見るアスカの顔つきが険しくなる。
「何がいいたいのよ?」
リツコが冷め切った目付きになった。
「…いくら可愛がられた子供でも、やっぱりロジックじゃなくなるものね。男と女になると。
あなた、シンジ君に…」
「うるさい!!司令の女だったくせに、アンタに言われたかないわ!!」
アスカが叫ぶ。リツコの表情がやや険しくなる。
「アンタ、司令の計画を潰したくて私に適当なこと言って、弐号機に乗るようにけしかけてるんでしょ!?
捨てられた腹いせに、司令が思い描いてた計画を、私を使って潰したいんじゃないの?
ハッ!!冗談じゃないわ!!弐号機に乗れるかどうかも怪しいのに!!今更どうしろってぇのよ?バッカじゃないの?!」
アスカは捲くし立てた。しかし、リツコはそんなアスカに冷ややかな視線を送りながら言った。
「そうよ、司令の女だった事は認めるわ。でも、生憎だけど、司令との事はあなたなんて使わなくとも、私自身でケリをつけるわ。」
リツコは白衣のポケットに手を入れて淡々と答えた。
「…私はただ、あなたに全てを判断する余裕と、選択の余地を与えただけよ。
シンジ君にだってそう。
ただ、あなたが何もしないで、単なる一部の人間の、駒の一つのままでよかったのなら、薬漬けにされたままにしておいてあげてもよかったのだけど。」
そしてリツコは弐号機のエントリープラグを指差して言った。
「あの中に、あなたのプラグスーツとインターフェイス・ヘッドセットを用意しておいたわ。弐号機のコアの変更はしてない。あなたの会いたがっている人は、まだあの中にいるわ。後はあなたの好きにしなさい。」
リツコはそのまま、くるりとケージの出入り口方へ向かった。
「…アンタはどうすんのよ?」
険しい顔をしたまま、アスカはリツコに尋ねた。
「ケリを付けに行くのよ。私自身の為に。」
リツコは振り向きもしないで答えた。

午前の日が照り返す中、ネルフのレーダーサイトの様子を正確に捉えていた戦自の双眼鏡のレンズが予定時刻になると共に隊員の懐にしまわれる。草陰に隠れていたモノ達が蠢く。
第一陣は、ネルフの"目"となる観測所、及び、主要な監視カメラ、センサーなどを破壊した。その後、各ネルフの要所を爆破の後、ネルフ施設への直接占拠を行うべく、作戦行動を開始した。

「第三隔壁破壊、地下第二層まで侵入しました!!」
青葉が叫ぶ。
「地下第三層のFブロックに侵入!!Bブロックからもです!!」
オペレーターたちが叫ぶ。
「地下第三層までを破棄します。戦闘員は後退させて。非戦闘員も白兵での戦闘は避けて、可能な限り退避を。それが無理なら投降するように。」
ミサトが険しい顔をして言う。
「…あっちはプロよ。しかも、一個師団を投入してきてるわ。まともにやり合っても勝ち目はないわ。」
「葛城三佐!!」
日向がミサトに向かって叫んだ。
「どうしたの?」
「先ほどの外部との一方的な外部ネットワーク遮断前の、偵察衛星からのデータの解析結果がでました。
A−801が発動される直前に、各支部から無人の大型輸送機が出立したようです。多分、到着までにはそれほどの時間はかからないと考えられます。」
聞き返すミサトに日向が報告する。
「…こっちは戦自との攻防で手一杯なのに、まずいわね…。
…初号機とパイロットは?」
「初号機ケイジ内です!!すでにプラグ内にエントリーしています!!」
マヤがヘッドホンをつけたまま、ミサトの方に振り向き、叫ぶ。
「初号機をそのまま発進。ジオフロント内に配置して!!」
「了解!!」

シンジは初号機のエントリープラグの中で俯いたままでいた。
「…なんでまた、これに乗っているんだろう?どうせ、流されるままにされるだけなのに。」
『シンジ君、聞こえる?』
通信回線からミサトの声が響いた。
「…はい。」
『今から発進よ。ジオフロント内に配置するから。準備して。』
「…使徒はもういないのに。何と戦うんですか?」
『敵よ。』
シンジはミサトのこの言葉を聞いて目を細めた。
「…さっきからネルフに攻めて来ている人たちですか?」
シンジはなるべく抑揚のないようにミサトに聞いた。
『近いわね。でも違うわ。』
「…じゃあ何なんですか?」
『…エヴァ量産機、エヴァシリーズよ。』
これを聞いてシンジは一瞬驚いた表情をして、それから怒りすら篭った声で叫んだ
「…なんでエヴァと戦わなきゃいけないんですか?!
…ヒト、ヒトが乗っていたら…!!」
『…それは無いと思うわ。人間のパイロットの選出はフィフスで終わりよ。
多分、量産機はダミーで動くはずだわ。』
ダミーと聞いてシンジは顔をしかめた。フォース・チルドレン、エヴァ参号機のパイロットに選出されたシンジの親友に再起不能の大怪我を負わせたのは他でもないダミー・プラグで動いた初号機だったからだ。
野獣のようにただ目の前にいる敵を叩き潰すだけのモノ。
シンジはどうしようもない嫌悪感に襲われた。
「それと…戦うんですか?」
『…そうよ。』
「…イヤだ、って言ったらミサトさん、どうしますか?」
『…悪いけど拒否権は無いわ。どの道、そのままでいても遅かれ早かれ、みんな殺されるだけでしょうから。』
シンジはミサトの言葉に、眉間に深い縦皺を作って顔をしかめた。

『ミサト!!そのバカに何言っても無駄よ!!』
突然、通信回線に割り込むように、甲高い少女の声が響いた。ミサトもシンジも、その声にあっけに捕らわれたような顔をした。
『アスカ!!』
『うるさい!!黙れ!!』
回線越しに声をかけるシンジを、アスカは一蹴した。
『エヴァシリーズは私が倒すわ!そこのバカは、優しいママの中で大人しくさせときゃいいのよ!!
ミサト!!弐号機に外部電源回して!!』
「…判ったわ。
弐号機、発進準備。』
ミサトはアスカの言葉に即答で返事をする。そこに、マヤが椅子ごとミサトに体を向けて抗議する。
「葛城三佐!!パイロットと弐号機とのシンクロはまだ…」
『...Fuliung. Anfang der Bewegurg...』
マヤがミサトに言い終える前にアスカは起動を開始する。
『...Sinkio-Start.』
弐号機との神経接続が開始された。
マヤの前のモニターに映る神経接続の状態が克明に表示される。
デジタルの表示と、波と線の図で描かれたグラフが変化し始める。
「…シンクロ率上昇!!7%…12%…21%…32%…!!起動指数クリア!!…38%…42%…54%…」
アスカのシンクロ率はどんどん上昇する。
「…シンクロ率79%!!安定数値に入りました!!弐号機、行けます!!」
マヤが通信と発令所内に向かって叫ぶ。
「…弐号機、発進させて。」
ミサトはマヤに向かって静かに指示した。弐号機が射出口まで運ばれる。

『ミサトさん!!僕も出ます!!』
モニターと音声通信越しに様子を見ていたシンジが叫ぶ。
「…わかったわ。」
ミサトは静かに言った。

発令所の上部の、司令塔の最上部で、事の成り行きを見守っていたゲンドウが立ち上がった。
「…冬月先生、後は頼みます。」
冬月に一言、そう言うと、昇降機のある場所へ歩みだした。
去っていこうとするゲンドウに向かって、冬月が以前から申し合わせていたかのように言った。
「…ユイ君に、よろしくな。」
ゲンドウは、そのまま昇降機の手すりに掴まり、発令所を後にした。

Next Stage??

管理人から

"人類補完記録 - シンジとエヴァのゲーム- Instrumentality of Mind -The Geme of Shinji & EVA"の主宰者であらせられます、AzusaYumi(あずさゆみ)様からの頂きモノです。
つか、これ、本当にウチみたいないい加減なところに貰っちゃっていいんですか?

うう、この緊張感、このりりしいアスカ。これだけで私なんかもう、ご飯3杯はイケます。続編が楽しみです。

タイトルは、ブリティッシュ・ヘヴィメタルの雄、IRON MAIDENのファーストアルバム、IRON MAIDEN(鋼鉄の処女)からですね!これまた、熱い!

(2005/07/07)